大阪教育大学附属平野小学校

第42回特別研究指定校

研究課題

子どもが主役になる次世代の学び
~BYOD社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用~

2017年度1-3月期(最新活動報告)

プログラミングや反転的な学習、研究会の参会者のBYOD利用など、多様なICT機器の活用を提案することができた。

大阪教育大学附属平野小学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校名 大阪府 大阪教育大学附属平野小学校
アドバイザー 豊田充崇 和歌山大学教授
研究テーマ 子どもが主役になる次世代の学び
~BYOD(Bring Your Own Device)社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用~
目的
  • スマートディバイスを活用した教材開発と実践事例の創造
  • 主体性・協働性・創造性を育む場面を示した実践事例集の作成
  • 研究実践の共有化と活性化を図るために,学期に1回実践例報告会の開催
現状と課題
  • ①今年度より文部科学省研究開発指定校に認定され,「未来そうぞう科」を核とする教育課題に関する研究を行う。
    ⇒教科領域でどのような授業を行うのか,どのようなカリキュラムで行うのか,定まっていない。⇒どこで効果的なICT活用をするのか。
  • ②教員の情報共有は概ねできている。
    ⇒授業では,子どもの調べ学習やMessage機能を使っての情報共有やAppleTVを使って画面を映す程度に留まっている。
  • ③グループ(4人)に1台のiPadがある。
    ⇒一人ひとりが操作する情報端末がない。
  • 各教科領域において,ICT活用の実践事例がないため,その実践が個人のものに留まっている。
学校情報化の現状 iPadが140台ほど導入され3年生以上の各クラスにiPadが10台ある。教員は,iPad-miniを持ち,メッセージ機能で情報共有している。
取り組み内容
  • 「未来そうぞう科」における効果的なICT活用の実践授業を行っていく。その実践を集め,年間のカリキュラム作成を行っていく。
  • 一人ひとりが自由に触れる情報端末を増やし,近未来のBYOD社会の到来を予想した,仮想BYOD空間を構築して授業を行う。
  • 「主体性(主体的実践力)」「創造性(創造的実践力)」「協働性(協働的実践力)」という資質や能力を育成する授業を実践を行い,実践をまとめていく。
  • 各教科領域で,授業実践に取り組み年度末に事例集としてまとめる。また,学期に1回の実践事例報告会を行い,教員同士のICT活用の交流を行う。
成果目標
  • 各学年において「未来そうぞう科」の暫定のカリキュラムを作成する。その中に,効果的なICT利用を盛り込む。
  • 教材開発や実践事例の創造をすることで,アクティブ・ラーニングや探究的な学習などを踏まえた新たな教育方法を取り入れた学習スタイルを確立することができるため,BYOD社会に対するスマートディバイスの教育的な利用方法を提案できる。
  • 教科・領域にいて,児童によるICT活用を校内で共有できるため,継続的・発展的に研究を推進することができる。
  • 児童の新たなICT活用を学校全体で共有することが可能になるため,研究教科やその他の教科指導にも生かすことが可能になり,授業の活性化に繋がる。
助成金の使途
  • iPod touch6
  • 交通費
  • 講師謝金
  • 印刷費
研究代表者 松浦 智史
研究指定期間 平成28年度~29年度
学校HP http://www.hirano-e.oku.ed.jp/
公開研究会の予定
  • 8月30日OpenCafe(若手教員向け講習会)
  • 11月30日 (未来そうぞう科×ICT)
  • 2月10日(金)・11日(土)授業研究発表会

研究課題と成果目標

研究課題 子どもが主役になる次世代の学び
~BYOD(Bring Your Own Device)社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用~
成果目標

1.校内研修・研究発表・先行研究

  • 複数のスマートディバイスを活用した実践事例を創造することで,高学年では児童一人ひとり探究的な学びを深め、低学年では学級やグループでの協働的な学びを深めることが可能になるため、子どもが主役になる次世代の学びを提案することができる。
  • 教材開発や実践事例の創造をすることで、アクティブ・ラーニングや探究的な学習などを踏まえた新たな教育方法を取り入れた学習スタイルを確立することができるため、BYOD社会に対するスマートディバイスの教育的な利用方法を提案できる。

2.主体性・協働性・創造性を育む場面を示した実践事例集の作成

  • 様々な教科・領域にいて、児童によるスマートディバイス活用を校内で共有できるため、継続的・発展的に研究を推進することができる。
  • 本校の責務である地域貢献活動の一環として配布することが可能であるため、参加教員とその学校における児童のスマートディバイス活用に寄与することができる。

3.研究実践の共有化と活性化を図るために、学期に1回実践例報告会の開催

  • 児童の新たなスマートディバイス活用を学校全体で共有することが可能になるため、研究教科やその他の教科指導にも生かすことが可能になり,授業の活性化に繋がる。
  • 実践報告会を開催し、講師を招聘することで、先進的な実践や理論を学ぶことができ、更なる発展的な教材開発や実践事例を創造することができる。

本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応

[本期間(4~7月)の取り組み内容]

【4月】
4月13日(水)【研究全体会】

研究全体会で、本研究の取り組みについて説明を行う。また各学年で新教科「未来そうぞう科」におけるICT活用の実践を行い、7月の研修会で報告することを確認する。文部科学省研究開発学校の指定を受けたことで、実践報告の回数・時期の一部修正を行った。申請書では、各教科領域で1年間3実践を計画していた。しかし教科により人数の偏りがあるため、難しい部分も出てきた。教員22人で2実践とし、加えて各学年の未来そうぞう科の実践として1実践を行うことに修正した。(22人×2実践+6学年=48実践)
また、11月30日(水)に新教科「未来そうぞう科」×「ICT活用」として5クラスの公開授業を実施することを確認した。

4月18日(月)【事前訪問指導】

3年生3クラスの授業参観をしていただいた。①1人1台のiPadを活用しているクラス(社会科)と②グループで活用しているクラス(国語科)、③教員のiPadを全体に映して授業しているクラス(外国語科)の3つの種類の授業を参観していただいた。

【5月】

iPod Touch6を50台購入した。購入後、すぐに設定を行った。本校の管理下に置くために、Macのconfiguratorを使って基本設定を行った。その際、大阪教育大学の仲矢史雄先生及び学生さんのご協力を得て半日かけて設定を行った。
本校既存のWi-FiとそのAP(アクセスポイント)の動作性を確認する授業を行った。既存のAPでは、クラス人数分のアクセスを処理しきれないため、別途ポータブルAPを増設した。


※氏名等見えないように小さくしています

(4年生算数科)「一億をこえる大きな数」

この学習で、iPod Touch6とiPad2を使って、仮想BYODクラスを想定して、1クラスで授業を行う。児童が190755799という数字を漢数字に直して、アプリを使って教員のiPadに転送する授業を行った。

【6月】
(4年生社会科)「ごみのゆくえ」

この学習でiPodTouch6とiPad2を使って調べ学習を行った。調べた事柄に児童自らが書き込み、教員のiPadに転送できるようになってきた。

(1年生生活科)

育てている花の写真を撮るために活用した。また、児童が撮ってきた写真をAirPlayで電子黒板に映して、以前と違うところや成長してきたところの観察を具体的に行った。低学年にとっては、比較的小さなiPod Touchは、手軽に写真を撮れて、その後の授業に使いやすいと考えられる。
他の学年に実践してもらえるように、貸出を開始する。保管場所を職員室として、それぞれの学年や専科の授業で使えるようにする。また、貸出用にスケジュール表を作成し、記入してもらえるように掲示した。

(クラブ活動)

卓球クラブで「上手な子どもの動画を撮って見たい。」と児童からの声が上がった。そこで、人数分のiPod Touchを用意した。児童一人ひとりが上手な児童の動画を撮って、自分の打ち方との違いを比べて練習をしていた。

【7月】

貸出用にスケジュール表を作成したことにより、専科の授業にも取り入れられるようになってきた。高学年の音楽科や中学年の図工科などでも少しずつ取り入れて実践が行われている。

(4年生算数科)「式と計算の順序」

教員から児童に課題を配付して、その課題に直接記入させ回収したものを全体に映して交流する授業が行われた。また、授業用のノートを写真で撮ったものを教員に転送するというような学習も行われている。

アドバイザーの助言と助言への対応

4月の事前訪問指導の際にご指導いただいたこと。
「BYODでは、私的なディバイスを使った実践になる。しかし、各個人でディバイスを購入してもらうには、まだハードルが高い。そこで、各家庭に眠っているディバイスを使うと良いのではないだろうか。」というアドバイスをいただいた。
スマートフォンを使うようになった家庭で、買い替えなどで家庭に眠っているディバイスがあるだろう。それを使ってみるのは、1つの方法だろうと考えている。実際にあるクラスの保護者に「契約切れで電話はできないが、写真が撮れWi-Fiがあれば繋がるスマートフォンがあり、かつ学校で子どもに使っても良い」と答えていただいたのが1/5ほどあった。今後、買い替えなどで生まれてくるスマートフォンなどのディバイスを活用していきたいと考えている。

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

個人ディバイスを使った実践を行うにあたって、ある保護者にご協力いただき、家庭でも使えるかどうか試してもらった。本校では、基本ディバイスがiOSであるが、あえてAndroid端末を使って実験を行った。子どもに今日の授業や明日の予定を、アプリを使って転送した。しばらくしてから、子どもから「無事見れたよ。」ということを同じアプリを使って転送されてきた。
この実験をもとにすれば、家庭に子どもの学習の様子を手に取るように伝えることができる。また反転学習で学校の端末を持って帰るというような場面もあったが、それも不必要になり、家庭のスマートフォンなどで手軽にできるようになることが分かってきた。
児童にとって、iPod Touchは、iPhoneに見えるようで、iPadよりも人気がある。手軽感と軽さが好評のようである。文字をタイピングする場合は、iPod TouchもiPad大きな差は無いようである。しかし手書きになるとiPod Touchは小さくて書きにくいようで、「iPadの方が書きやすいかなぁ。」と感想を漏らしていた。
子どもは、iPadなどの機器操作にすぐに慣れてくる。その良い一例を紹介する。ある授業で、教員のiPad画面をApple TVを経てプロジェクターに映すと、(下左図1)のような画面になった。教員がキーボードを打とうとすると、「あ~、キーボードの位置が重なって文字が見えないから、打ちにくいなぁ。」と言うと、ある子が「先生、それ直せるで! 私も困ってんけど、直したで!」と得意気に話をしてきた。その後、プロジェクターに映っている状況下で、見事教員のキーボードの位置を変えたのである。(下右図2)クラスの子どもたちから、「お~、すご~い。」と大絶賛と拍手喝采。子どものたちのICT機器への対応能力の高さに驚いた。


(図1)

(図2)

成果

比較的早い時期にiPod Touch6を50台導入することができたため、1学期の中頃から授業の実践を行うことができた。iPod Touchの貸出用スケジュール表を掲示することで、他学年や専科の授業で積極的に活用できるようになった。

今後の課題

BYODとして実践を行う上で、まだまだ解決していかなければならない課題が山積している。

  • ①校内のWi-Fi環境の整備および増設
    各普通教室および特別教室にWi-Fi環境とAPが設置されているが、1人1台を想定されたものでないため、クラス全員が端末を利用してAPにアクセスすると、動作性が落ちてしまったり、停止してしまったりする。
    ⇒ポータブルAPを増設して対応したい。
  • ②BYODを見越して、フリーWi-Fi環境にしたい。
    様々な私的ディバイスが持ち込まれた場合、フリーWi-Fiで対応したいと考える。校内Wi-Fiと切り離すことで、校内セキュリティを考慮していきたいと考えている。
    ⇒大学との関係があるため、難しい。
  • ③各学年の情報モラルやスキルのカリキュラムの改定
    本校にある情報モラルやスキルのカリキュラムを修正していきたい。1人1台のディバイスを使うようになった場合のスキルやモラルは、大幅に変わってくるだろうと考えている。
    ⇒情報推進委員会で検討していきたい。
  • ④私的ディバイスを持ち込むことによるガイドラインの作成
    様々なディバイスを持ち込むことによる、校内利用のガイドライン設定と保護者への周知が必要になってくる。
    ⇒Wi-Fi環境下でないと繋がらないディバイス、どこでも繋がるディバイスなど、場合分けをしながら設定していきたい。
  • ⑤アプリと個人IDの取得、その費用
    アプリの中には、個人IDを購入して利用できるものがある。その費用をどのようにするか検討する必要がある。児童全員に必要なのか、ある学年以上すべてにするのか、など検討が必要。
    ⇒学校費用とするか、個人費用とするか。

今後の計画

  • ①今後は、上記の課題をできるだけ解決できるように進めていきたい。インフラ環境においては、小学校だけでできるものではないため、大学の情報処理センターとの話し合いを行い、解決していきたい。
  • ②1学期は、iPod Touchの貸出用スケジュール表を掲示して対応してきた。しかし、この方法では、「早い者勝ち」「記入したクラスだけが使える」ことになってしまう。そこで、2学期以降は、時間割を作成して、優先的に使える時間を設定して授業実践に取り組める環境を整える。1to1導入のステップをドキュメントにまとめる
  • ③11月30日(水)、一般に広く公開授業を行う。そのための案内や準備を進めて行く。授業を行う教科の指導助言の先生方や研究協力員の先生方に協力を仰ぐ。

公開授業等の予定

(7月29日(金)1学期の実践報告会14:00~)

1学期に実践したものを報告する。どのように活用したのかを意見交流したいと考えている。

(8月30日(火)Open Cafe 14:00~)

若手教員(概ね新任3年目以内、大学生)向けの授業講習会を行う。ICT活用の授業が3本予定されている。

(11月30日(水)子どもが主役になる次世代の学び14:00~)

国語・社会・理科・体育・未来(新教科)での授業を行う。一般に公開を行い、各授業で討議会を行う。最後に豊田先生の講演会を予定している。

(2月10日(金)・11日(土)授業研究発表会)

全教科で公開授業を行う。

アドバイザーコメント
和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生

文部科学省によって「ICT活用教育アドバイザリーボード」が昨年度に設置され、既にその報告書が公開されていることは記憶に新しいと思います。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1370125.htm

 

この報告書内では、地方自治体が抱える教育の情報化に関する7つの課題が示されていますが、その中でも「ビジョンや目的が明確でない」「活用推進の仕組みができていない」などの項目が気がかりです。つまり、「タブレット端末」という流行を追うことが中心で、何のためにそれが必要で、それをどのように広めていくのか、そもそも教育現場からの要請やニーズはどうなのかといったことが不明確のまま導入に踏み切るというケースが多いということなのだと思います。

 

そんな中、大教大附属平野小学校への訪問となりました。まず、結論的にいうと、タブレット端末活用の素地は既にできており、学習効果の向上に寄与した事例の蓄積を捉えることができました。各教室に大型提示装置(+電子黒板機能、+実物投影機)、無線LAN等の設備は整っており、それに加えて40台を超えるタブレット端末の導入もなされているため、「授業中での1人1台体制」は可能です。また、教師による教材提示場面であっても、児童が学習アプリを活用する場面や児童が情報を集め・まとめ・発信する場面においても、ソツのない実践場面が繰り広げられていました。

 

よって、単なるタブレット端末活用研究ではなくて、今回の特別研究指定では、既存のICT環境に加えて、スマホサイズのモバイル端末(iPodTouch)を追加導入するといった点が注目される点で、これによって「仮想的なBYODにおける授業研究」を目指すところに新規性があるといえます。仮想的なBYODというのは、自宅に持ち帰る端末やフィールドワークに持ち出す端末も含めて学校が準備して貸し出すという形態です。

 

ある情報化先進地域のタブレット利用統計を見てみると、「情報検索」(とその結果の印刷やまとめ)、「カメラ機能の活用」「映像の視聴」「学習アプリの活用」といった使い方が上位を占めます。さすがにスマホサイズのモバイル端末(iPodTouch)で文章作成やプレゼンをというのは酷ですが、現状のタブレット利用統計の大部分の使い方にはスマホサイズのモバイル端末でも対応可能なのです(フリック入力のほうがキーボードよりも速いという児童も多数いることは確かです)。むしろ、写真・映像の記録、自宅での映像コンテンツの視聴、学習アプリの活用などは、モバイル性の高さから、このスマホサイズの端末のほうが利便性が高いともいえます。教室机上でのノートや教科書との併用もスペース的に容易で、フィールドワークに持ち出す場合も、首からぶら下げるなど落下破損の心配なども軽減され、むしろ活用の効果が高まる事も考えられます。新たに、「コンパクさ」を生かした使い方の提案が可能になり、これが浸透してくると、「自宅にある契約切れのスマートフォン」を無線LANに接続して再利用するということにもつながる可能性もあり得ます。

 

そのような話をしつつ、2回目の訪問の際に参観した授業では、早くもモバイル端末のニーズが明確になってきました。この授業は、事前に撮影しておいた何種類かのインタビュービデオを各グループでそれぞれ視聴して考えをまとめるというもので、先生方の授業設計や妥協のない教材開発、学習環境の整備などの意気込みが感じられる授業でした。しかしながら、やはり話し合いや全体共有での時間不足が明らかで、だからこそ、スマホサイズのモバイル端末への期待がかかっていることが証明できた事例であったといえます。自宅にモバイル端末を持ち帰って事前視聴(もしくは学級内で個人の意志の選択による個別視聴)へ移行すれば、そういった課題も解消できることは確かです。

 

2回の訪問によって、「仮想的なBYODで実現可能な反転授業の研究」は、単に流行を追う研究ではなくて、これまでの取り組みの上で、より高いニーズとして生まれてきた研究課題であることを実感した次第です。新しい形態のBYODとしてオンリーワン的な研究が進捗するのではないかとの期待がかかります。

 

今後の大教大附属平野小学校の展開の中では、モバイル性の高さを発揮したフィールドワーク型の授業実践をはじめ、「図書室の本を借りて持って帰る」のと同様にライトな感覚を持った「自宅持ち帰り型」の授業実践なども考えられるかと思います。また、タブレット端末とスマホサイズのモバイル端末との用途の使い分け、安価・軽量さゆえの小回りの効く運用方法、自宅で眠る契約切れスマホの再利用の可能性など、研究の副産物も生まれてくることでしょう。 2学期以降の本格実施に向けての期待がかかります。

 

研究課題と成果目標

研究課題 子どもが主役になる次世代の学び
-BYOD社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用-
成果目標

①スマートディバイスを活用した教材開発と実践事例の創造

  • 7月の終わりに,1学期の実践報告をまとめた。全部で15実践が集まり,複数のスマートディバイスを活用した実践事例を創造することができた。2学期のまとめも順調に進み,現在も予定通りの実践が集まってきている。この実践を12月の終わりにまとめ,2月の授業研究発表会等でお知らせしていきたい。
  • 教材開発や実践事例の創造においては,様々なスマートディバイスの活用が見られた。アプリ活用はもちろんのこと,物理的な面白い活用も見られた。以下の「取り組み」でお知らせする。

②主体性・協働性・創造性を育む場面を示した実践事例集の作成

  • 「未来そうぞう」に向けて,スマートディバイスの活用が一端を担ってきている。その事例集として2学期末にまとめをする。
  • 8月の終わりに実施した若手教員対象の授業研修会で,1学期にまとめた実践集を配付した。

③研究実践の共有化と活性化を図るために,学期に1回実践例報告会の開催

  • 12月に実践例報告会を行う。2学期中に行った実践を各教科・領域で意見交流を行い,スマートディバイス活用を学校全体で共有する予定である。また,自分の研究教科やその他の教科指導にも生かすことができるようにしていく。
  • 実践報告会を開催し,講師を招聘することで,先進的な実践や理論を学ぶことができ,更なる発展的な教材開発や実践事例を創造することができる。

本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応

[本期間(8月~12月)の取り組み内容]

【7月】
7月29日(金)


1学期の実践報告を行った。1学期中に全部で13実践が集まり,一人ひとりの実践報告を行った。実践報告の中で使われたアプリの説明・使い方など実技的な講習も簡単に行った。その後,プログラミングについての講習会も行い,実技研修も行った。
この研修会では,和歌山大学の豊田先生にもお越し頂き,1学期の実践事例に関してのご指導をいただいた。

【8月】
8月30日(火)【Open Café】


本校の責務である地域貢献活動の一環として,新任・若手教員・教員を目指す大学生に向けての公開授業および研修会(本校でOpen Caféと言う)を行っている。
http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~hirasho/img/opencafe7-20160620.pdf このOpen Caféでは,各学年で1授業を公開したが,その中で3つのクラスでICT活用を行った。 また,このOpen Caféにおける参加者のアンケート結果を載せておく。

参加した授業(学年)複数回答あり

参加した授業(学年)複数回答あり

参加した講習会場

    参加した講習会場

参加による学び

    参加による学び

(3年生国語科)「附小の夏を俳句で表そう」

俳句を作る活動で,子どもが一人ひとりのスマートディバイス(iPod Touch)を持ち,教室の外に出て行った。俳句を作ったその場の様子を写真で写し,教室に持って帰ってきた。俳句だけでは分からなかったその場の雰囲気も写真があればとてもよくわかるのである。また,iPod Touchなので,持ち運びは手軽である。

(4年生算数科)「式の読み方」


4×4+3×3の式の意味を考える活動を行う。最初の4×4は,おはじき4個のまとまりが4つあるという意味を考えさせる。続いて3×3の意味を考えさせる。意味が分かった段階で,おはじきの図にまとまりをかかせる。これは1つだけの方法ではなく,いろいろな考え方がある。これをiPadで交流し数学的なものの見方・考え方を学ばせる。

【9月】

情報推進委員会を中心に,iPod Touchの貸出用スケジュールを再設定した。1学期末にも設定したが,貸出予定が相次いだため再設定を行った。50台のうち35台を学年配当とし,曜日と時間を割り振った。また,残りの15台をフリーにし,専科の先生が使えるように割り振った。

【10月】

本学,情報処理センターの佐藤隆士先生・尾崎拓郎先生のご尽力とBUFFALOさんのご協力を得て,校内のWi-Fi環境を整備できる見通しになった。本校では,Wi-Fi環境をどのように整備していくのかが最大の課題であった。これまでは,各教室にアクセスポイント(AP)が設置されているが,最大で20台前後までしか接続できないものだった。従って1クラス35人の学級で一人1台のスマートディバイスを活用することは不可能だった。(ただ,ポータブルAPが2台あったため,2クラスのみにおいて一人1台のスマートディバイスを活用するのは可能だった。)

10月26日(水)
(2年生図画工作科)「ようこそ!ひかりのレストラン」

透明カップやフードパックなどの光が透過する材料に色をつけ,ライトで照らしながら,光がつくりだす形や色,動きやその変化などからよさや美しさを感じ取る活動である。本時では,懐中電灯の代わりにiPod touchの明かりを使って実施していた。2年生の子どもにとっては,小さくてしかも明るいiPod touchの光は,使いやすかったように思う。また,iPod touchを重ねたり,下から照らしたりと使い方は大人を驚かすようなものだった。

【11月】

個人対応のアプリを3年生以上の全ての子どもに配付した。今までグループでの利用だったため,個人の名前が出ることがなかったが,これよりは,自分のIDとパスワードでログインすると自分の名前が出るようになった。
10月以降,Wi-Fi設置を進める中で,本学,情報処理センターの佐藤隆士先生・尾崎拓郎先生,及び東北大学サイバーサイエンスセンター後藤英昭先生のご協力を得て,eduroamの設定を行った。http://eduroam.jp/

全国の附属小学校に先駆けて,初めてeduroam利用が可能になった。(全国の大学関係者の方は,eduroamによって本校でもWi-Fiがつながります。)

11月30日(水)

「子どもが主役になる次世代の学び」としてICT教育研究発表会を実施した。公開された授業は,3年社会・国語,4年未来・体育,5年理科の5本である。

(3年生国語科)「物語の世界へとびこもう」

短文教材では,「挿絵」にある「あしあと」から想像を膨らませて「そこで,何があったのか」という問いについて考えていく。「出来事」や「場面の様子」を読むことに焦点化し,そこで身につけた「読みの力」を瞬発的に発揮する力=「読みの瞬発力」育む学習構成を設定した。ICTを活用して,壁面に「あしあと」の仮想空間を造り,実際に歩いてみたり,大きさを体感したりできるようにしていた。

(3年生社会科)「店ではたらく人びと」

未来をそうぞうする社会科として,パン屋の新商品を開発する活動を通して,店側と消費者側のニーズを考えながら,自分なりに商品を考える活動を行った。児童全員に店長のアドバイスの動画のデータを入れて配布し,全員が動画を閲覧した状態で,新商品のパンを考え合う展開である。

(4年生未来そうぞう科)「絶滅危惧種を救え! 次世代につなげよう」

準絶滅危惧種である「トノサマガエル」や「アカハライモリ」について考えてきた。生き物のミニ生態情報を調べ,その生き物にとってどのような環境が良いのかなど様々な観点からアプローチしてきた。そのことを踏まえて,3年生へ伝えるための活動の準備を行う。その際に,iPadを使って,まとめる活動を行った。

(4年生体育科)「タグラグビー」

ゲームの映像を固定のカメラで撮影し,自分たちの動きを確認する。また練習の方法や作戦の種類をまとめた資料映像を各チームのiPadに入れておき,いつでも確認できる環境をつくった。授業の最後に学習カードを撮影し,まとめたものを保存しておき,チーム内で学習カードの内容を共有できるようにしておいた。

(5年生理科)「昔にタイムスリップⅡ~淀川のつけかえに挑戦~」

急なカーブや川幅の狭さに着目させ,洪水が起こりそうなところに目印の旗を立て,水を流す。その旗が洪水で倒れる様子を,ipadを用いて,動画撮影を行う(アップ)。そして,流水モデルの川全体も動画撮影を行う(ルーズ)。このようにICTを活用しながら自分たちが予想した洪水した場所や川の全体を何度も見直すことで,事実を正しく把握する活動である。

【12月】
12月20日(火)ICT研修(2学期実践報告会)

1学期に続いて,2学期の実践報告会を行った。今回は,全部で17実践が出された。そこで,グループごとに分かれて,その中で発表者が報告する形式で行った。さらにその中からよりBYODの実践に近いものを協議して1つを決め,全体発表の場でみんなに報告する形で研修会を実施した。今回は,校内の研修を担当しOpen Caféを企画運営した田中先生,滝沢先生にご協力いただき実施した。

アドバイザーの助言と助言への対応

教師がiPod touchに動画を入れて置き,それを子どもが持ち帰ってその動画を見る。見た後,その動画をどう感じたのかをワークシートに記入させて学校に持ってくる。いわゆる反転学習的な活用も進めて良いのではないかというアドバイスをいただいた。iPod touchの手軽さであれば,iPadよりも持ち帰りやすいのではないか。
今のところ,まだ反転学習的な使い方は行っていないが,今後,そのような活用方法も探ってみても良いと考えている。

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

本校では,毎年,教育実習がある。その際,教育実習生が積極的にICT機器を使う姿がたくさん見受けられた。これは,『2020 年代に向けた教育の情報化に関する懇談会』における「教育の情報化が進んでいる中で,これから教員を目指す学生が,養成段階において, ICTを活用した指導法を実践的に学ぶことは,「教員となる際に必要な最低限の基礎的・基盤的な学修」として不可欠である。 このため,教職課程を置く大学においては,例えば,「各教科の指導法」の学修や教育実習の準備等の際に,ICTを活用した模擬授業等を実施・体験することができる教室を整備する。」ということに対して,大いに貢献していると考えている。実習の先生がiPadを片手にクラス全体の子どもたちの学習状況を確認しながら,机間指導を行っている。
今年度、50台購入したiPod touchの利用状況を10月、11月でチェックした。ほぼ毎日のように貸出が続いて、多くの学級で活用してもらっていたことがわかる。これは嬉しい限りである。(写真は11月)

成果

  • ①校内のWi-Fi環境の整備および増設⇒OK
    当初 ⇒ ポータブルAPを増設して対応したい。
    本学,情報処理センターの佐藤隆士先生・尾崎拓郎先生のご尽力とBUFFALOさんのご協力を得て,同時100台接続が可能なAPを設置できることになった。
  • ②BYODを見越して,フリーWi-Fi環境にしたい。⇒OK
    同時100台接続が可能なAPを設置することにより,フリーWi-Fiを取りやめた。加えて,校内のセキュリティーも考慮した設定に切り替えた。しかし,様々な私的ディバイスが持ち込まれた場合に関しては,1台1台設定するしか方法がないと思われる。
  • ③各学年の情報モラルやスキルのカリキュラムの改定⇒△
    当初 ⇒ 情報推進委員会で検討していきたい。
    2学期のスタートに時に,情報モラルやスキルのカリキュラムを提示し,各学年・クラスで実施してもらうことになった。年度末にクラスごとに実施した項目にチェックをしてもらい,次年度に申し送り事項として伝えることになった。
  • ④私的ディバイスを持ち込むことによるガイドラインの作成⇒△
    当初⇒Wi-Fi環境下でないと繋がらないディバイス,どこでも繋がるディバイスなど,場合分けをしながら設定していきたい。
    概ねのガイドラインは作成した。しかし,私的ディバイスの持ち込みに関しては,Wi-Fi環境下で使えるディバイスを中心に校内で進めて行こうと考えている。そのための最終調整をしていきたい。
  • ⑤アプリと個人IDの取得,その費用⇒OK
    当初 ⇒ 学校費用とするか,個人費用とするか,
    今年は,年間の支払いではなく,月ごとの支払いにして費用を抑え,学校費用として個人IDを購入した。次年度は,今後の活用状況を踏まえて,個人費用とするか,学校費用とするか再検討する。

今後の課題

  • ①情報機器端末利用のガイドラインが概ねできているが,まだ修正を加えなければならない。その修正を加えつつ,今年度末までに完成させてたい。
  • ②iPod touchなどの機器を持ち帰っての学習の実践を計画したい。

今後の計画

アドバイザーコメント
和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生

 教員向けの夏期講習会に参加させていただきましたが、ここでは実践発表という時間を設定して、教員の皆様が1学期に取り組んだ授業を自主的に発表しました。自分の実践を知って欲しい、そしてそれを評価してもらうことで、今後の方向性を定めていきたいといった思いが感じられました。また、自信を持って、こういう使い方が効果的だったから、ぜひ取り組んで欲しいという「成果の共有」という意図もあったといえます。
 さて、今回の研究課題には「子どもが主役になる次世代の学び」であり、「BYOD社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育利用」というサブタイトルがついています。当分野ではBYODという言葉がささやかれて久しいのですが、実はこれまでのパナソニック教育財団の研究助成関係でこのキーワードを用いたのははじめてのことです。その分、期待がかかるとともに、フロンティアであることの困難さも予想されます。
こういった状況の元、11月30日開催された「ICT教育研究発表会」では、3年の社会科・国語科,4年の「未来そうぞう科」と体育,5年生の理科の5つの授業が公開されました。ざっと、ICT活用場面を取り上げると、「①投影機器としてのICT活用」「②オンデマンドでの動画閲覧のため」「③情報のまとめ(デジタルノート)」「④映像確認・記録ツールとして」「⑤観察記録の手段として」など、様々なバリエーションがありました。いずれもICTを各教科の目標達成のための効果的なツールとして活用しており、児童らが主体的にICTを使いこなし、児童らの調べる・まとめるツール、個別の確認・記録ツールとしても定着していたといえます。これは、研究タイトルにもあった「子どもが主役」という視点が意識されていたと思います。
 しかしながら、当研究はそこから先を行くBYOD体制での成果が見込まれています。今回の研究会における公開授業では、②の動画閲覧、⑤映像の記録・観察ツールについては、スマホサイズのタブレットで対応可能な場面であったといえます。通常の授業でもスマホサイズのモバイル端末の利便性は教員に認識されはじめているとお聞きしましたので、モバイル性を発揮して、自宅学習において児童ひとりで学習可能な場面をどこに設定するかなどの検討が今後本格的に必要になってくるかとおもいます。
 本件の研究的な要素として「ツールの使い分けによる有効活用場面の見極め」というポイントが非常に重要な点であることに改めて気付かされました。デジタルノート系はやはり実際のノートサイズよりも大きなタブレット(つまり10インチ以上のサイズ)でなければ、視認性や操作性が悪く、学習ツールとしての利便性が損なわれるため、スマホサイズのタブレットでのノート的な活用は向いていないのは当然です。また、今回の研究会でも、児童らがiPadの画面を3〜4人で見つめながら学習している場面が多々ありましたが、スマホサイズの画面を複数人が囲んで見つめるということは現実的ではありません。ですが、一方では、小型軽量であるからこそ有効的な場面も多数存在することは確かです。その点でも、通常のタブレットとの組み合わせやデータ共有がスムーズにおこなわれる場面の検証にも期待がかかります。
 最後に、児童らのタブレットの手慣れた操作を見ていると、驚愕することが多々あります。ツールの使い方は最初にきっかけさえ与えれば自然に学び、教え合うということ確かでしょう。しかしながら、そこでの情報モラルや発展的可能性(創造性、思考の深化等)はやはり指導者側のストラテジーが必要になるかと思いますし、個人でスマートフォンを所有しはじめる中・高校以前に、ネットワークコミュニケーション上での情報モラルの必要性やモバイル端末での学び方を学ぶという点は、次世代の子供たちにとっては必須事項ともいえます。
 大教大附属平野小学校は、「未来そうぞう科」という新しい科目の研究開発をおこなっている学校です。まだ研究開始から半年足らずですが、未来をそうぞう(想像・創造)するためにも、従来の枠にとらわれず、新しいツールと新しい授業体制(反転授業、モバイル端末持ち帰り型学習等)とのマッチングを目指しての研究に期待が持てるかとおもいます。

研究課題と成果目標

研究課題 子どもが主役になる次世代の学び
-BYOD社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用-
成果目標

①スマートディバイスを活用した教材開発と実践事例の創造

  • 3学期もスマートディバイスを活用した実践を行った。学年および教科から、様々な実践を行ってきた。
  • スマートディバイスを活用した実践では、動画や音声を利用したものから、ソフト(ロイロノートなど)を利用したものまで、実践されてきた。
  • 一部のクラスで、児童の帰宅後、家庭にあるスマートディバイス等を使って、ソフト(ロイロノート)にコメントを記入する活動を行ってきた。記入されたものを次の日の授業で導入や全体交流で活用した。
  • 子ども自身が自分の活動したことを写真に撮りだめていった。これらの写真をフォトムービーにして発表会に使ったり、振り返りに使ったりしていた。

②主体性・協働性・創造性を育む場面を示した実践事例集の作成

  • 未来そうぞう科と連動して、主体性(主体的実践力)・協働性(協働的実践力)・創造性(創造的実践力)を育む授業づくりを目指してきた。それぞれの授業において、目指す力を示した上で、ICT活用の実践を行い事例集にまとめてきた。

③研究実践の共有化と活性化を図るために,学期に1回実践例報告会の開催

  • 3学期は、実践事例を集めるだけになってしまった。4月の始めに新転任者に向けての報告会をしようと考えている。

本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応

[本期間(1月~3月)の取り組み内容]

【2月】
2月10日(金)・11日(土)

授業研究発表会
 授業研究発表会を行い、初日は6授業、2日目は21授業を公開した。

(6年生未来そうぞう科)「もしも未来が見えたなら~ありがとう附属平野小学校~」


 子どもたちが、グループ毎に1年生から5年生までの教室に行き、小学校6年間で「自分の成長」「小学校生活で学んだ」ことをもとに「未来そうぞう科」のカリキュラム及び学習内容を作り実際に授業を行う。授業に関しては、その学年が学んでいる内容に近いものをグループで考え行う。その中で、6年生の児童たちはiPadのkeynoteやiMovieを使いながら、授業を行った。

(5年生未来そうぞう科)「近未来へのとびら〜動き出せぼくらの近未来〜」

 2学期よりプログラミングソフト「Scratch jr」を用いて活動してきた。この活動の中で、子どもたちが論理的思考力を身に付けられるように、フローチャート図を用いて、活動してきた。さらに論理的思考力の基礎を身につけ、子どもたち自身が主体的に取り組めるように、iPadでのプログラミングによる動作が可能な「mbot」を活用して、実際に動かす活動を行った。「めざせ!便利なおそうじロボット」というテーマのもと、フローチャート図をもとにプログラミングをしたり、課題となる動きと同じ動きをしたりするプログラミングをおこなった。

(4年生未来そうぞう科)「レッツ・チャレンジ 好きなこと」


 自分の将来の夢と今の自分が好きなことをミックスして、チャレンジしてきた。授業のふりかえりでロイロノートに記録して全体交流を行う。また、授業時間内で書ききれなかった場合は、家庭で書いて投稿してもらう。(黄色い部分が家庭で投稿された部分)また、毎回の未来そうぞう科の授業で記録写真を残して、発表会でメイキングビデオにした。

(3年生未来そうぞう科)「「平野EXPO」–平野の町の未来予想図-」


 今年度4月より「わたしたちの地域の未来をそうぞうしよう」という大きなテーマのもと地域学習を進めてきた。「平野EXPO」とは,本校が位置する「平野区」という地域のよさや今抱えている問題を調査し,これからの平野の町の未来についてそうぞう(想像・創造)したことを外部の人へ発信する催しである。平野の地域の方のメッセージをビデオで聞き、その後、FaceTimeで地域の方とテレビ中継を行い、「平野EXPO」について質疑応答の時間の場をもった。

アドバイザーの助言と助言への対応


 アラン・ケイ氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校准教授)の話を頂いた。45年近く前に未来の子どもたちが使うだろうと予測したものだそうである。
 まさに今の子どもたちが使っているiPadに近いものだと感じた。本校では、未来そうぞう科を中心に研究を進めているため、今後10年・20年先を見据えたICT活用を考えていかなければならないと強く感じた。
 一方で、授業中Scratch Jrでプログラミングをしている児童がいた。ものづくりとしてのプログラミングだけでなく、自己表現をするためのプログラミング(アニメーション化)もツールとして良いのではないかとご指摘いただいた。
 最後に、未来そうぞう科という新教科から、「未来そうぞうのコンセプトを児童に常時、どのように意識させていくか?」「自分たちならどういった未来を描くか?そういった社会の実現を目指すためには、今から何をすればいいのか?」などICT活用を含めて考えていく必要があるだろうとご指導いただいた。

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 学期末、クラスの子どもたちが、自分たちの力だけで短い動画やフォトムービー、Keynoteを作って教師に感謝の気持ちを伝えてくれるプレゼントをしてくれた。この1年間で、活用したソフトを使って、子どもたち自身が自由自在にディバイスを使えるようになったことは、とてもうれしいことである。
 また、今までに子どもたちが作った動画やフォトムービー、Keynoteなどのデジタルデータを、ロイロノートを使って保護者にダウンロードしてもらうことで、子どもの学びを見てもらえてよかったと思っている。

成果

  • ①BYODを見越して,Wi-Fi環境の整備⇒OK
     校内にあるiPadやiPod touchのWi-Fiアクセスはストレスなく接続できるようになった。また、研究発表会でのゲスト用Wi-Fiを整備することができた。
  • ②未来そうぞう科とICT活用
     本年度は、未来そうぞう科とICT活用の両輪で研究を進めてきた。2月の研究発表会でその成果を公開することができた。未来そうぞう科における主体的実践力・協働的実践力・創造的実践力の育成にICT活用も大いに寄与することが共有できた。
  • ③実践事例の編集
     1・2学期と同様に、3学期も各学年・教科・領域で実践事例を集めた。

今後の課題

  • ●私的ディバイスを持ち込んだ場合のWi-Fiアクセスに関して
     児童用と教員用のユーザーの割り振りが必要である。現在は、同じWi-Fiを利用しているため、セキュリティー面に不安がある。これを改善しておきたい。
  • ●実践事例の編集を行い、1学期から3学期をまとめて一冊の本にまとめていきたい。

今後の計画

  • ●子どもの私的ディバイスを持ち込むとき課題を再度整理して、実施可能な形にしていきたい。
  • ●1年間の成果を、次年度の第43回全日本教育工学研究協議会全国大会(和歌山大会)で発表していきたいと考えている。

1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い

 年度当初は、3年生以上の各クラスに10台ほどのiPadしかなかった。しかもiPadの第2世代からAirまで混在している中、どのようにしたらICT活用が進むのか。またWi-Fiの環境の面でもアクセスポントが20台までしか接続できず、1人1台の環境にほど遠く、難しい課題がいくつかあった。
 しかし、このような中でも比較的安価なiPod touchを50台導入して、仮想1人1台の環境にして実践を行ってきた。初めは、Wi-Fi環境が整っていなかったが、そのiPod touchに備わっている音声や映像などを使った実践を行い、しだいにアプリを使った実践に繋がっていった。共通するアプリを使うことで、iPadやiPod touchが混在した中でも実践することができるようになった。そして2学期になり情報処理センターの佐藤先生・尾崎先生のご協力とBUFFALOさんのご協力を得て、各クラスのアクセスポイントを交換して100台接続が可能になった。以下に本校のICT環境のイメージ図を掲載しておく。

 また、クラウド対応のアプリを使うことで、各家庭にあるスマートディバイス(スマートフォン・タブレット端末)を利用することが可能になった。2月の授業研究発表会では、一部のクラスで家庭にあるスマートディバイスを使って書き込みを行ったり、学校で書き込んだものを家庭で利用したりするような使い方がなされていた。
 これらのことは、1年前には考えられなかったことであり、想定すらできなかったことである。この1年間の大きな成果であると言ってよいと考える。本校の教員の様々な実践と各方面の先生方、企業の方のご協力を得て、この1年を進めることができた。この1年に大きくICT化が進み、未来そうぞう科の研究にも大いに貢献できた。

アドバイザーコメント
和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生

改めて研究テーマを再考
 本年度最後の報告となりますので、改めて大教大附属平野小学校の研究の特色を振り返ります。まず、1つ目はiPod touchつまりスマホタイプのモバイル端末を導入し、自宅への持ち帰りや取材ツールとしての校舎外への持ち出しを想定しているところにあります。一見特殊なアプローチだと捉えがちですが、この研究成果や活用事例は、家庭内で眠っている可能性の高い契約の切れた旧タイプのスマートフォンの再利用や数千円で購入できるような安価なミニタブレットの有効性が立証されることにもつながるため、むしろ汎用性のある取り組みとも考えられます。
 スマホタイプのモバイル端末は、首から掛けて使える・ポケットへ入れて持ち運べるという利便性が非常に高く、簡単なスマホ用の三脚や固定具も多く発売されているため、実験や観察での記録用途にも向いています。また、「音声を聞く」という場合は、デバイスは小さいほうが使い勝手がいいし、詩の朗読や英文スピーチを録音してくる、英語のネイティブボイスを再生して練習してくるといった場面でも有効です。「デバイスの使い分け」を検証できるという点でも特色があるといえますが、もちろん最も理想的な状況は、『児童自身が目的に応じてデバイスの選定を判断できるようになり、データの蓄積・共有を自らおこなえるようになる』ことです。身近に溢れるデバイスを学習の目的に応じて主体的に活用できるようになるのが最終的なアプローチなるかとおもいます。
 BYOD(Bring your own device)体制というと、やはり「反転授業の実施」というイメージが強く、説明の映像を事前に自宅で視聴してきて、授業中は議論したり、応用問題にチャレンジするといったタイプがスタンダードだと思われますが、もっと多様なパターンを見出したいと思います。例えば、“時間のかかる作業”を「宿題(自宅学習)」として、ひとりで集中して取り組むという場面設定も現実味を帯びてきました。フリックや音声認識による文字入力によって基本的な文章を各自自宅で入力しておいて、学校のタブレットやパソコンで集約して、文書レイアウトしたりプレゼンテーションスライドにグループで検討しながら作り上げていくということも考えられます。時間のかかる、いわゆる「調べ活動」の部分を自宅でおこない、その検索結果のデータを校内に持ち寄って、情報の再編集・構成等をおこなうということも考えられますが、大教大附属平野小学校では、そのようなタイプの授業を既に試行しつつあります。

 

「宿題」の概念を変える
 モバイル端末とクラウドサービスの活用を考える授業を考える際には、やはり、自宅学習と学級での活動を切り分けて、相互に補完し合うような授業設計が理想といえます。「個人思考」は自宅でもできますし、ひとりでの調べもの、文章入力等時間のかかる作業を自宅学習へシフトし、授業中は協働的な場面を多く設定するといった、自宅へ持ち帰れるモバイル端末があるからこそ可能になる新たな授業の立案が、課せられた課題の1つであるといえます。
 例えば、プログラミングのような、操作時間を要するものを家庭学習との連携でどのように充実させるかなどは大きなポイントとなってくるはずです。Scratchなどは自宅にあるPCでもブラウザからアクセスできます。スマホサイズの画面でも、短いプログラミングなら充分可能であり、その画面サイズに適用して開発されたアプリも多数存在しています。
 さて、期待される大教大附属平野小学校のオリジナリティある研究が現実のものとして、更にこの3学期から動き出すことになりました。クラウドタイプの共有ノートアプリのアカウントを、全校児童が契約することとなったのです。現に、参観日では保護者のスマートフォンから児童の作品にアクセスするといった取り組みが実現しています。
 例えば、子どもらが授業中に映像コンテンツをつくるとします。これは、それほど複雑なものではなくて、算数の問題の解き方、理科の実験のまとめ、社会科での調べ学習の成果等々決められた時間で収まるような映像クリップに近いものといえます。これを共有ノート化しておくことで、自宅のPCやスマホなどでも視聴可能になります。そして、保護者からコメントを貰うといった取り組みです。
 つまり、“オンライン参観日”の実現に近いと思います。クラウドに保存したコンテンツを自宅からアクセスすることで、このような状況を作り出すことが可能になり、既に実用段階にあります。これまで「ドリル学習(既存問題の解答)・本読み・書写」が中心であった「宿題」を高度に展開できる可能性が浮上してきたといえます。つまり、「宿題」という言葉から、「自宅“学修”」という用語に置き換え、一人でじっくりと取り組める「想像や創造の時間」という意味合いに変えていける可能性を見出せることとなりました。

 

最後に
 「次世代」の授業は、モバイル端末とクラウドサービスによって、家庭学習の高度化を念頭に置くという点に期待が持てました。家庭学習を、「一人で問題を解く時間」と捉えず、授業で学んだ技能を発揮する場、対面授業充実への準備時間、保護者や地域との連携を図る機会、多様な外部評価を得る場など、「授業を補完する機会」と捉え直さなければなりません。従来の「反転授業」という言葉からは、「講義・説明時間を短縮するための、事前に映像視聴をしてくる」という趣旨が語られ、どちらかというと効率性が問われた印象を受けましたが、その定義を発展的に捉え、じっくりと自宅で落ち着いて想像力を働かせて、創造性を発揮する機会を保証すると捉え直すことで、次世代の授業として大きな変革の一歩を踏み出したといえます。

 

研究課題と成果目標

研究課題 子どもが主役になる次世代の学び
-BYOD社会に対応するスマートディバイスの効果的な教育的利用-
成果目標

①スマートディバイスを活用した教材開発と実践事例の創造

 学校にある端末を持って帰るだけでなく、私的なディバイスを活用した反転学習を実施し、その成果を実践報告する。クラウド対応のソフトを利用することで、学校の端末を持ち帰らなくても、家庭で使っている私的端末(学校には持ってこれない端末も含めて)を使って、実践が可能になる。

②ガイドラインの作成

 校内のディバイスや私的なディバイスを使うためのガイドラインを作成する。職員やPTAの方とも連携を図りながら共通理解する。→情報モラルの育成につながる

③実践事例集と報告会

 それぞれの教科・領域で実践をしてきた授業に関して、報告会を行い、実践事例集を作成する。本年度は製本にしていきたい。

本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応

[本期間(4月~7月)の取り組み内容]

(3年生 国語科)「俳句をつくろう」


国語で俳句をつくる学習をしました。一人1台のiPadを持ち、俳句の内容と合うような写真を探して撮影してきます。最後に、撮影した写真と俳句の文字を重ねて、全員の前で発表しました。

(6年生 外国語活動)「世界のPR動画を作ろう」

 6年生では、Green Screenを使って、世界のPR動画を作りました。ただ行ってみたい国をみんなの前で紹介するだけではなく、実際にその国にいるような合成映像をBIG PADに映しながら作ることで、そのリアルな体験から、子ども達の英語の表現の幅が大きく広がりました。


(4年生算数科)「身の回りの垂直・平行をさがそう」


 算数で身の回りの垂直・平行をさがす学習をしました。4人グループで1台のiPadを持ち、学校中をさがしまわります。「これは垂直だね。」「こう見たら、平行だといえるよ。」など、4人で相談しながら写真におさめ、その画像に直線をかき加えていきます。さらに、それぞれのグループがロイロノートで提出し、みんなで共有し、垂直・平行の見方・考え方を育みます。

(6年生書写)


 書写の授業で「筆順」をテーマに、導入時に活用しました。
教科書での「牧場」に加え、4年生時の「左右」、5年生時の「成長」も合わせて確認した後、児童各々が筆順に気をつける漢字を考え発表し合いました。「凸」などの文字が登場しました。

(5年生社会科)「沖縄ってどんなところ」



 現地(沖縄)の人たちとの対話を通して、沖縄の気候・くらし・農業(食べ物)・観光業・歴史・文化について理解を深めるために行いました。対話を通して、過去・現在の諸地域の様子について考える力を付けさせたいと考えました。Wi-Fi環境が充実しているならば、FaceTimeなどのTV電話の機能を使って、離れた地域にいる人たちとリアルタイムに「対話」をすることができます。これにより、子どもたち自身と離れた地域の社会的事象について、より深く理解することが可能となります。また、「その土地に行ってみたい」といったように、興味関心が高められる子どもが多く見られました。

(4年生道徳)「声なきメッセージ(NHK 時々迷々)」

 番組を視聴した後、登場人物のだれが一番気になるのかを投票してもらいます。投票の際には、ロイロノートで送り全体で共有します。その理由をみんなで考えました。その後、考えたことを再びロイロノートに書いて全体共有します。今回は、参観日だったので、保護者のディバイス(スマートフォン)も一部利用させてもらって行いました。


アドバイザーの助言と助言への対応

 夏季研修として、ICT活用の実践事例集を基にした発表会を行った。その後、豊田先生から他校のICT活用の実践事例や本校のBYODに近い反転学習とその展望に関してご講演いただいた。反転学習としての問題点から、今後の方向性として先進的な松坂市の取り組みを教えていただいた。しかしながら、まだまだ決定的な反転学習やBYODになっていないということだった。


 本校としては、校内のディバイスを持って帰ることは行っていないが、クラウド対応しているソフトを利用することで、家庭でも活用できるようにしている。そこで、創作的活動での反転学習を目指していきたいと考えている。また、学校では、創作してきた作品に関して、対話的な活動を取り入れることで、「主体的で対話的な深い学び」にもつながっていくことと考える。

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 昨年度に購入したiPod touchが職員室からひっきりなしに貸出されていた。クラスにiPadが10台あるが、その数では足らないので、iPod touchを使ったり、隣のクラスからiPadの貸し借りをしていたりした。ICT活用の広がりを感じる一方で、それぞれのクラスで苦労されていることが良く解った。4年前に購入したiPadが古く、なかなか使い勝手が悪くなってきた。動きが悪かったり、アップデートに時間がかかったりして、苦労するようになってきた。

成果

 ロイロノートを使うにあたり、3年生以上に1人1アカウントずつ割り振りし、IDとパスワードを個々に配付した。忘れてしまう子どもがいるため、IDとパスワードを検索できるシステムをエクセルで作成して、それぞれの先生に利用してもらえるようにした。「年・組・出席番号」を入力するだけで、「名前・ID・パスワード」が検索できる。

今後の課題

 ロイロノートは、クラウド対応なので、個人のIDやパスワードを入力することで、家庭でのディバイスで利用することができる。これは、学校の端末を持って帰らなくても、学校と同じ状況を作り出すことが可能である。この利点を活用して、反転学習てきな利用方法を考えてきたい。また、使われなくなったディバイスの学校利用も考えてきたい。Wi-Fi環境の整備も引き続き行っていきたいと考える。

今後の計画

  • 7月21日(金)14:00~ Open Cafe(若手教員のための公開授業・講習会)
  • 11月29日(水)14:00~ ICT教育研究発表会
  • 2月9日(金)・10日(土) 授業研究発表会
アドバイザーコメント
和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生

本期間(8月~12月)の取り組み内容

【9月】教育実習期間

 教育実習期間では,教育実習の学生にICTを活用した授業にも取り組んでもらった。これは,教育実習生が教員になったとき,自らICTを活用した授業に取り組めるように実施しているものである。タブレット端末から黒板に大きく映すことを基本に行っている。しかし中には,様々なソフトを活用した授業に取り組む実習生もいた。

【10月】
10月30日(月)
(4年生外国語活動) 「台湾の小学校との交流準備・練習」

 11月2日に台湾の小学校と交流学習を行った。そのための準備を行う。第一多目的室と第二多目的室にiPadを用意し,2台をfacetimeでつないで交流の準備を行った。

【11月】
11月2日(木)
(4年生外国語活動)

 本校の東口貴彰教諭の台湾出張に伴い,現地の小学校との交流授業を行う。英語を通して,それぞれの国の文化を伝え合う学習を行った。本校の子どもたちは,日本で伝統的な遊びや祭りについて伝えた。FacetimeをWi-Fiでつなぐことで,かなり手軽に外国との交流を行うことができた。また時差も1時間なので,問題なく実施することができた。

11月11日(土) 「近畿ICT教育研究会」


 園田女子大学の堀田博史先生を中心にした第4回近畿ICT教育研究会を本校で開催した。50人ほどの参加者があり,ICT機器を使った模擬授業を行った。
 算数の授業で,ロイロノートを使って,共有する場面を参加者で模擬体験をしてもらった。

11月29日「ICT教育研究発表会」
(1年生国語科) 「おとうとうねずみ チロ」 (東京書籍1年下)


 本教材は,主人公チロが,遠いおばあちゃんに想いを伝えようと,チロなりの方法で一生懸命行動する姿が描かれている。このチロの行動から想像を広げ,同化する児童も多い。また,本教材には文章を読むだけでは捉えにくい,登場人物同士の距離が表れている。この距離を想像できるかどうかが,物語の世界を広げて同化する上で重要となる。場面の様子に着目することによって,より一層チロの必死な想いにせまることができるように,本教材は描かれている。そこで,児童が想像を広げやすいように,効果的にICTを活用して,想像力の支えとした。

(1年生算数科) 「たし算,ひき算のお話作り」


 教室から外へ出て,校舎外で算数のお話になりそうな場面を探す活動を行ってきた。見つけた場所をiPod touchで写真を撮り,撮った写真を見せながらお話と式を紹介してきた。本時では,友だちの撮った写真をもとに,お話と式を考える活動に取り組む。
1年生の発達段階を考えると,具体物をもとにしながら思考を進めるのが適切であると考える。ICTの活用は,教室の外にある日常の場面を切り取って,時間・空間にとらわれずに事象を持ち歩くことができる良さがある。そのため,生活と式を結びつける活動を低学年から素地づけるためにとても有効である。

(3年生社会科) 「市の人びとの仕事とわたしたちのくらし」


 子どもたちは,お店ではたらく人の努力や工夫を学んできた。この単元の後半では,地域のパン屋をとりあげ,店主の協力を仰ぎながら,パン屋の新商品を開発する時間を設ける。これは,新商品を考えることの工夫や努力を知識だけで得るのではなく,実際に体験をすることで,より店で働く人の思いに迫れると考えた。また商品を考える上で店側と客側の思いを取り入れることで,より商品を考える活動に深みを増すことができる。そこで,店長の助言を動画撮影していつでも繰り返し視聴できるようにしたり,SNSを活用して,さまざまな立場の人の考えを集約したりすることで,商品開発についてより深く学ぶことができると考えた。

(4年生体育科) 「美しい側方倒立回転をしよう」


 側方倒立回転の技能を身につけていく過程で,ICT機器を活用しグループで側方倒立回転の技能ポイントを見つける。また,撮影した自分や友だちの動きを見合うことで教え合いが活性化し高め合い,できた瞬間の喜びをグループで共有させていきたいと考える。各グループにiPadやiPod touchなどを配り,友だちの試技を撮って,動きを巻き戻しやスローモーションで再生し,じっくり見る機会をつくる。側方倒立回転の見本となる動画をクラウド対応したロイロノートに入れて,家庭でもクラウドにアクセスすることで見本となる動きを見られる環境を整えた。

(4年生外国語活動) 「This is my HERO!」


 6年生で行う”What do you want to be?”の単元につながるように,”Key Word”にスポーツ選手や職業名に関連する語彙を扱う。しかし,4年生の今までの語彙や表現力から,”I want to be a〜.”や3人称を使うのではなく,ICTを活用して自分にとっての憧れの人(以下『Hero/Heroine』)になりきり, アプリケーション”Photo Speak”に読み込んで,自己紹介動画を作成する。そして今までに学習した表現を活用しながら自分ごととして紹介する活動にした。また,BYODの実践として,調べ学習は家庭学習として行うので,外国語活動の時間には言語活動を中心として行う。

(4年生未来そうぞう科) 「ヒアリ問題を考えよう~ヒアリミニフォーラム~」


 近年,ヒアリなどの特定外来生物の発見により,各地で人々の生活が脅かされつつある。そこで,この特定外来生物から未来の環境を考える子どもたちを育てたいと考え,新しいカリキュラムを開発してきた。BYODの視点からロイロノートを活用していく。ロイロノートでは,クラウド対応しているため,個人のIDでログインすれば学校で編集した内容を家庭でも再編集することが可能である。そこで,グループで共有しながら,グループプレゼンを作成して発表した。

【その他】


11月14日(火)大阪府立高校校長会 ICT教育の視察
11月24日(金)高石市教育委員会 ICT教育の視察
11月25日(土)全日本教育工学研究協議会 和歌山大会で発表

本期間の成果


 11月29日のICT教育研究発表会では、一人1台の環境ではないため、公開される授業が限られたものの、多くの先生方にお越しいただき、授業について議論していただいた。また、職員室に予備として保管しているiPadやiPod Touchの利用頻度がかなり高くなってきている。毎月の貸出表には、ほぼ毎日、どこかのクラスに貸出されている状況になってきた。急に端末を使いたいという場合もなかなか使えないような状況である。それだけ、端末利用が日常化されてきたと言える。一方で、充電に関する故障が多く、修理の台数も増えてきている。(落下による故障・修理は、数台である。)
 また、これらの成果は、日本教育新聞(2017.11.18)の記事に掲載された。

今後の課題

 BYOD的な利用を進めていきたい。持ち帰りなども含めて、クラウド対応による家庭での利用を進めていきたい。低学年では、iPod Touchなどの持ち帰りを、中高学年では、クラウド対応の家庭利用を進めたい。

今後の計画

2月9日(金)・10日(土) 授業研究発表会

授業研究発表会urコード
授業研究発表会

成果目標

①スマートディバイスを活用した教材開発と実践事例の創造
 学校にある端末を持って帰るだけでなく,私的なディバイスを活用した反転学習を実施し,その成果を実践報告する。クラウド対応のソフトを利用することで,学校の端末を持ち帰らなくても,家庭で使っている私的端末(学校には持ってこれない端末も含めて)を使って,実践が可能になる。

②ガイドラインの作成
 校内のディバイスや私的なディバイスを使うためのガイドラインを作成する。職員やPTAの方とも連携を図りながら共通理解する。→情報モラルの育成につながる

③実践事例集と報告会
 それぞれの教科・領域で実践をしてきた授業に関して,報告会を行い,実践事例集を作成する。本年度は製本にしていきたい。

アドバイザーコメント
和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生

本期間(1月~3月)の取り組み内容

【2月】 教育研究発表会
2月9日(金)
(6年生 新教科「未来そうぞう科」)「宇宙船 未来号 118」

 6年生では、宇宙をテーマに学習を進めた。活動は子どもたちから出てきた意見や考えをもとに、「宇宙×ロケット」、「宇宙×ロボット」、「宇宙×表現」の3つのグループに分かれて授業を進めた。その中で「宇宙×ロボット」では、昨年から取り組んでいるプログラミングの発展としてMbotを活用した授業を行った。

(4年生 新教科「未来そうぞう科」)「平野環境フォーラム」

 ヒアリの問題を探究しながら、グループで考えたことをプレゼンで発表する活動を行った。プレゼンでは、ロイロノートを利用してグループ共有しながら進めた。グループによっては、家庭に帰ってからグループ共有して編集作業をしているグループもあった。ふりかえりでは、家庭に帰ってからワークシートに記入したものを写真にして送る活動を取り入れ、反転学習的な取り組みも行った。


(3年生 新教科「未来そうぞう科」)「平野EXPO」

 「平野について昔・今・未来を楽しく学ぼう!」というテーマで大きく2つの準備を行ってきた。1つは「展示物の作成」、2つ目は「プレゼンの作成」である。プレゼンの作成にあたっては、地域の方やApple Storeの方からの外部評価をいただき、プレゼンの作り方を学んできた。また、社会科との連携をしながら地域のパン屋さんとコラボして新しいパン作りを行った。作ったパンの反応を購入した方からSNSに投稿してもらいパン作りに活かしてきた。


(図画工作科 討議会)


 研究授業の後の討議会で、参会者の方から様々な意見をもらうために、参会者自身のスマートフォンを利用して、Googleフォームに記入してもらう取り組みを行った。Googleフォームを登録した画面を全面に映し出すことで、参会者全員で共有することができ、様々なご意見から授業の検討を行うことができた。
 子どもたちでのBYODではないが、教師のBYODとして先進的な取り組みになったものと考えている。

アドバイザーの助言と助言への対応

 パナソニック教育財団の研究指定が終わるが、今後もICT活用を進めていただきたいとのお話がありました。ICTを【使用】→【利用】→【活用】として取り組めている。今後も活用としての実践事例を多く生み出し、今後に活かしてほしい。

本期間の裏話

 4年生では、ロイロノートを使ってプレゼン発表を行ってきている。ロイロノートでは、クラウド対応しているため、家庭での利用も可能である。グループで共有しておくだけで、それぞれが編集を加えて、次の授業に活かすことができた。また、ロイロノートでのスライド編集は、keynoteのようなレイアウト編集ができない。そこで、子どもたちは一度keynoteでレイアウト編集をした後、スクリーンショットを行い、それをロイロノートのスライドに張り付けるという合わせ技を生み出してきた。
 Keynoteとロイロノートの良さを上手く取り入れた活用に驚きだった。

本期間の成果

 プログラミングや反転的な学習、研究会の参会者のBYOD利用など、多様なICT機器の活用を提案することができた。一つの活用だけに留まらず、子どもの学びに応じて機器の活用を変えることができたことも大きな成果と考える。本校においてICT機器活用がもはやツールになっていることは間違いないと考える。これは2年間の研究の成果であると考えられる。

2年間の成果


 昨年度の1年間と,本年度の3学期途中までに,75実践事例を集めることができた。これは本校の全教員が,児童1人に1台のディバイスを持たすことを意識して授業実践に取り組んだ結果である。しかし様々な環境下に置いて1人1台が難しい場面や目的やねらいに応じてグループで使う場面もあった。以下,75実践を「活用のディバイス」,「ディバイスの活用の仕方」,「共有の仕方」,「活用した機能」を低学年・中学年・高学年で分析してみると以下のような結果になった。

➀活用ディバイス
 活用ディバイスでは,低学年では手軽に使えるiPod touchの活用が多いが,中高学年になると,ディバイスからの書き込みや編集などの活用が増えるため,画面が大きなiPadの利用が多くなっている。また,ディバイスが混在していても授業内で活用することが可能である。

➁活用の仕方
 活用の仕方では,低学年では,初めて使うディバイスのため児童自身が「使ってみたい。」という思いがあり個人の利用が多く,中学年では個人でのディバイス利用に慣れ,様々な活動で自由に使えるようになってきたと考える。一方で,高学年では個人での活用から協働的な活用にシフトチェンジしてきたものと考える。また全体での活用としては,Face timeを活用した沖縄との交流・台湾の小学校との交流授業などダイナミックな広がりがあった。

台湾とFaceTimeを使っての交流

➂共有の仕方
 共有の仕方では,ロイロノートがない低学年では,クラスでの全体共有が多いが,中学年になると個人のIDを持つロイロノートの利用が多くなってきている。しかし,高学年になると,協働的な活用からグループ共有も多くなってきている。

➃活用した機能
 児童が利用した機能で最も多かったのが,写真機能である。持ち運んで手軽に撮影できる機能は,低学年からも利用が可能である。また,動画を利用した授業も多くみられた。

➄BYOD的な実践
 BYOD的な実践事例の数は少ないが,実践に載らない活用は,いくつか見受けられる。それぞれの授業の後のふりかえりを家庭で記録しておくことや,植物の成長していく様子を家庭で記録していたり,1分間スピーチのネタを家庭のディバイスで写真に撮っていたりして,徐々にその活用の裾野は広がりつつある。

今後の課題(計画)

①BYOD的な実践事例の開発
 考察で述べたように,少しずつBYOD的な活用が進みつつある。しかし,授業実践としては,まだまだである。今後は,実践事例としてまとめられるように取り組んでいきたいと考える。

②家庭と連携したディバイス利用のガイドライン作成
 BYODとしての取り組みは,まだ試行的な段階であり,家庭のディバイスを持ち込んだり,家庭学習で利用したりするために教員全員で共通理解をしていく必要がある。また,学校だけでなく,PTAとの連携も必要であると考える。そこで,本校としての情報機器端末の利用ガイドをまとめていきたいと考える。

③家庭のディバイスを持ち込んだときの校内におけるWi-Fi利用
 校内のWi-Fiに接続するためには,その登録や認証が必要になる。各端末で教員がその作業をすることは難しい。簡単さと安全さをどのように両立するのか,今後の検討課題である。

2年間を振り返って

 小学校においては、BYODのハードルがあるが、今後はこのハードルが低くなっていくものと考えている。中学校や高校では、もはや可能な状況にもなってきていると考える。また、クラウドを利用し、家庭のディバイスを活用することで、そのハードルも格段に下がると考える。一方で、クラウドの安全性、子どもたちの情報モラルの指導を両輪で進めていく必要があると考える。

アドバイザーコメント
和歌山大学 教職大学院 教授 豊田 充崇 先生