大阪市立新巽中学校

第45回特別研究指定校

研究課題

アダプティブ・ラーニングを地盤とした21世紀スキルとESD教育の推進
~全生徒を全教員で見守り、自己実現を可能にするICTとAIの効果的な活用~

2019年度04-07月期(最新活動報告)

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この期間で実施した主な取り組みは大きく5つある。以下、それぞれの項目で......

アドバイザーコメント

寺嶋浩介先生
「取り組むことが多すぎる」というのが,本校の研究計画についての率直な印象である。......

大阪市立新巽中学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 大阪府 大阪市立新巽中学校
アドバイザー 寺嶋 浩介 大阪教育大学 准教授
研究テーマ アダプティブ・ラーニングを地盤とした21世紀スキルとESD教育の推進
~全生徒を全教員で見守り、自己実現を可能にするICTとAIの効果的な活用~
目的 不登校生徒や特別支援学級など、環境が異なる全ての生徒たちに対して「個」に適した学力向上の手立ての仕組みを提案する。
定期テストを廃止し、単元テストと実力テストにすることで、個のできる、できないをより明確に見える化を図る。
PBL型学習を実践し、本校で定めたコンピテンシーを深め、生徒・教師双方向の“目指す生徒像”を確立する。
現状と課題
  • タテ持ち型編成、複数担任制を導入し、「すべての生徒を全教員で見守る」仕組みはある。
  • 普通教室のホワイトボード化、プロジェクタ据え付け、書画カメラの常設、WiFiといった基本的な整備は整っている。
  • 一斉画一的な学習指導から個に応じた支援や、学び方についての視点の共通認識が低いまま進んでいる。
  • できる、できないを明らかにした後の生徒への支援の手立てが整っていない。
  • 保護者が定期テストの在り方が変わることに対して不安な面を持っている。
  • 学力調査において低学力層の生徒が多い。
  • 全国平均や府平均から5ポイント以上下回っている教科がある。
  • 大阪市全体でも学力に関しては下位に位置している。
学校情報化の現状 機器等の使用に生徒・教師共に、慣れてきている。手段としてのICT活用に向けて実践例を共有・深化することが必要。
取り組み内容 1年目
  • 単元テスト実施を円滑に進め、生徒・教師・保護者にとってよりよい取り組みとして評価できる仕組みをつくる。
  • 個に応じた学習環境づくりとして、「みんなの学習クラブ」を導入する。
  • 学び方に重点をおき、学習方法のフレームワークを共有する。
  • PBL型の学習チームを編成し、学年の枠を越えて推進する。また、企業と連携して本校の特色にあった探究プログラムの仕組みを構築する。
2年目
  • 個に応じた学習支援を進め、Qubena(数学)といった学習教材の環境をつくる。
  • 別室や家庭と教室を通信機器でつなぐ。
  • 映像教材を学校で作成、共有し、学び直し等の手立てとして活用する。
成果目標
  • 単元テストによって、生徒は学び直しの機会やできないところにより焦点をあてて学習をすることができる。
  • 単元テストによって教師は教科の評価方法を改善する仕組みとなる。
  • 生徒は自らの課題に応じて必要な学習の手立てを考え、選択するようになる。教師も課題を明らかにし、コーチングの視点の向上につながる。
  • PBL型学習の推進に伴い、生徒はもちろん、教師も探究的なストーリーを描きながら授業をつくる力が深まる。これにより、学校経営においても同様に、課題解決の視点をもった教員集団が形成される。
  • 生徒が望めば自主的に学ぶ仕組みを整えることで、与えられたことをこなす学習の習慣から、自己責任で学習する習慣へ変容する。
助成金の使途 iPad 9.7インチ、iPad Smart Cover、プリンター、紙・インク・トナー代、旅費、講師謝金他
研究代表者 山本 昌平
研究指定期間 2019年度~2020年度
学校HP http://swa.city-osaka.ed.jp/swas/index.php?id=j672488
公開研究会の予定 令和2年2月22日(金)

本期間(4月~7月)の取り組み内容

この期間で実施した主な取り組みは大きく5つある。以下、それぞれの項目で報告する。

1)研究の方向性の共有とチーム編成

  • ・学校長をはじめ、教職員の入れ替わりが行われたこともあり、研究概要と取り組みの方向性を再確認し、今後の本校の目指す環境整備を明らかにした。<表1>はこれまでの取り組みの経緯をまとめたものである。また、<表2>は今後の整備によって創っていきたい本校の学習環境をまとめたものである。
  • <教員のグループワークの様子>

    ・4月3日に行った新年度会議では研究担当より、研究の概要の説明と、学校の課題を改善するグループワークを実施した。ICT活用、授業改善、設備面、情報共有のインフラなど多様な課題が明らかになり、まなボードを用いてまとめ、研究を通じて解消を図る内容を確認した。
  • ・4月中旬に本研究を推進するにあたって3つのチームを編成した。
    1. チーム学び方改善:すべての個に応じて(生徒も教師も)誰も取り残さない学習の仕組みをつくる
    2. チームPBL:探究的な学習を企業や社会と「継続的」に実施し、持続可能な探究的学習の仕組みをつくる
    3. チームインフラ:本校のすべての実践が、テクノロジーを土台として、その上に教育環境を再構築する仕組みとなるような環境整備をする

<表1> 〜学校改善の取り組み〜

<表2> 〜形にしたい学習環境〜

2)学び方や評価方法改善の手段として定期テストを廃止 → 単元テストへの移行

  • ・4月から本校は慣例化された定期テストを廃止し、単元テストへ移行した。個人の意識や手法に偏ることなく、全教員が当事者意識を強く持ちながら協働し、学び方や評価方法を改善する仕組みを整えるためである。教育効果を向上させる目的としては以下の3点が挙げられる。また、定着度や相対的な力を図ることを目的として到達度確認テスト(実力テスト)も学期に1回程度実施することとした。
    1. ①生徒、教師双方向にとって生徒のつまづきや指導の必要な重点を早期発見し、学び方の改善と、授業改善に努めるため
    2. ②相対評価の考え方から絶対評価の考え方に基づいた評価を充実させるため
    3. ③多様性ある生徒に対して、スモールステップで学習を積み重ねる環境を整え、再チャレンジ(学び直し)が可能な仕組みを整えるため

<単元テスト実施の様子>

<到達度確認テスト作成研修>

3)タブレット型学習教材の導入と、ICT活用研修

  • ・大阪市教育委員会から7月よりタブレットドリル(東京書籍)が導入された。すでに生徒への講習会は終わり、ネット環境が整っていれば、学校以外でも使用することができる。使用目的を以下の3点に焦点をあて、効果的な活用事例をつくる。
    1. ①放課後学習会や家庭学習での自学自習を推進するための手段として
    2. ②授業における個別最適化された学びを推進するための手段として
    3. ③単元テスト作成機能とし、自動採点化のシステムを構築するための手段として
  • ・googleフォームなども活用しながらアンケートやテスト作成の効率化を図る。

<タブレットドリルを使った数学の授業の様子>

4)全学年でのPBL型の学習プログラムの実践

  • ・社会とのつながりを持って継続的に探究的な学習者を育成するために、全学年でPBL型の学習実践を始めた。
    3年生:「しんたつ、つなぐプロジェクト」
    2年生:「Future Actions」
    1年生:「しんたつ、Jr.highつく〜るプロジェクト」
    と題し、非認知スキルや情報活用能力の育成を目的としている。2年生は『キャリア教育×グローバル教育』を主幹にすえ、マレーシアで学ぶ学生とのスカイプ交流やビデオレター、メッセージカードでの交流を行った。

<マレーシアとスカイプ交流の様子>

5)先進校視察等の充実

  • ・この期間で自主研修を含め、述べ15名の教員が視察等に行くことができた。
    1. ①株式会社COMPASSのQubena活用セミナー *5月25日 1名
    2. ②大妻中学高等学校視察 *5月31日 2名
    3. ③福井大学教育学部附属義務教育学校視察(音・保体・技)*6月7、21日 3名
    4. ④New education EXPO 2019 *6月15日 2名
    5. ⑤G Suite活用セミナー *6月22、23日 1名
    6. ⑥国際協力連続セミナー in JICA関西 *6月24日 3名
    7. ⑦千代田区立麹町中学校との交流 *6月28日 1名
  • ・大阪大学「学校づくり研究会」での発表 2名
    大阪大学の志水幸宏教授が主催する研究会で本校の取り組み実践を報告することができた。

アドバイザーの助言と助言への対応

テスト範囲、実施時間、一日のテスト量、精神的な落ち着き感、採点業務の増加など、方法的な改善策を講じる必要があることをご指摘いただいた。目的から手段を再整理し、運用可能な仕組みを整えるために以下の視点で整理いただき、その視点に基づき、2学期からの運用方法を共有し、改善計画をつくることができた。改善策は以下>>で示す。

  • ①単元テストを実施する目的を再定義すること
    >>「学び方の改善と授業改善」、「絶対評価の方法の充実」、「再チャレンジの機会の提供」の3点で再定義した。
  • ②単元テスト実施における問題点の整理と持続可能な取り組みにするための視点
    >>再定義した目的に沿ってテストルールの緩和案を作成した。
  • ③形成的評価と総括的評価のバランスの調和
    >>ペーパーテストで評価できること、ペーパーテストでなくても評価できること、そもそも教科を通じて身につけたい力とは何か?を全教員が当事者意識を持って見つめ直し、教科単位で改善策を講じた。

本期間の裏話

  • ・生徒たちも教師も新しいことや大きな変化を強いられることは文字通り、「大変」である。そんな中、与えられた環境の中で、いかによりよく学ぶか、よりよい仕組みを構築するか、この視点で双方ともに課題解決をしてくれた。アンケートを実施したが、「家庭学習の量が増えた」、「成績が上がった」と実感し、懇談時に肯定的な意見が寄せられたことに何よりも安堵した。というのも、「本当に意味があるのか?」、「目的を達成する仕組みとして機能してるのか?」と不安になるときも多く、前進しているのかどうか行き先不透明な時期があったからだ。もちろん改善すべき点も多く出たが、生みの苦しみを生徒と教師で共有し、改善することができたことは素敵なことあり、非常に喜ばしいことと感じた。
  • ・テクノロジーを基盤とした学校づくりの推進には、やはり情報セキュリティの視点というジレンマがあること。大阪市はイントラネットでネットワークを構築しているため、教育委員会とも方向性を共有し、「いつでもどこでも」学習の手立てが取れる環境整備を進めることができるかが課題である。

本期間の成果

  • ・単元テストをただ「定期テストの細切れテスト」のような認識で進めると非常に多くの課題が出ることがわかったこと。
  • ・生徒にとってはテストが続き、休みなく不安定な状況をつくり、教師にとっては採点作業やテスト作成が多くのしかかるということがわかったこと。
  • ・スモールステップを踏み、必要な教科の力を身につけるための手段としてテストを活用するためには、テストの質(内容や問いの精選、問題の種類など)に着目し、テストで測りたい力を明確に示し、目的に沿った問題作成を行うことが大切であるとわかったこと。
  • ・様々な問題点と向き合いながら進めたが、今後に向けた解決案について合意形成を図ることができたこと。
  • ・単元テストと到達度確認テスト(実力テスト)の両輪で生徒の学力を理解度と定着度の2つの視点で区分けし、総合的に評価する仕組み<表3>をつくることができたこと。
  • ・教員の協働力やチームで推進する力が高まったこと。
  • ・75分授業(6限+25分のモジュールタイム)の実技教科の前向きな活用事例(家・保体)ができたこと。
  • ・教師が学校の慣例に縛られることなく、自由な発想で本校の今の課題解決に向け、イノベーションを起こすことができるようになったこと。

<表3>

到達度テストと評定の関係(3年英語)

今後の課題

  • ・各教科の単元テストの質の変容
  • ・75分授業(6限+25分のモジュールタイム)のより良い活用方法の模索
  • ・タブレットドリルやgoogleフォームを活用した自動採点化システムの構築
  • ・個別最適化された学びを充実させるための授業改善
  • ・持続可能な運用による、自学自習を推進する環境づくり
  • ・デジタル教材を用いたテスト実施におけるルール作成とトラブル対応マニュアルの作成
  • ・テスト結果の通知方法や自己の課題を分析をしやすい資料の改善

今後の計画

  • ・7月22日〜26日 校内ICTスキルアップ研修会
  • ・9月3日 大阪市5B研究会(音楽)PBL型の学習実践
  • ・11月22日 公開授業
  • ・2月21日 校内研究発表会

気付き・学び

単元テストに移行することで「ペーパーテストで問うことができる力とは何か?」や「何のためにテストをするのか?」について考える機会となった。実際ほぼすべての学校がテストの点数によって評価を行い、評価材料としている。もちろん本校も然りである。しかし、そもそもテストの目的は何かと考えた時に、「評価をするためにテストをするのか」、それとも「教科を通じて身につけたい力を育むためにテストをするのか」どちらが優先されるべき目的なのであろうか。学校の目的が「社会に出て必要な力を身につけること」であるのであれば、テストも生徒を育てるための手段でしかない。実際に社会に出て中学校のテストの成績が何点だったかで評価されることはない。それよりもどんな知識を活用して問題解決するかであったり、0から1を生み出し、創造し、イノベーションを起こすことができる人材が評価され、求められる時代となっている。それならば、テストが生徒を育てるための仕組みとしてより充実したものとなるように変容させたいというのが単元テストへの移行の一番の思いであることに気づくことができた。
どのようにして生徒たちに力を身につけさせるか、単元テストへの移行も本校では学び方の手段でしかない。そんな風に思える実践としていきたい。

成果目標

  1. ・単元テストによって、生徒は学び直しの機会やできないところにより焦点をあてて学習をすることができる。
  2. ・単元テストによって教師は教科の評価方法を改善する仕組みとなる。
  3. ・生徒は自らの課題に応じて必要な学習の手立てを考え、選択するようになる。教師も課題を明らかにし、コーチングの視点の向上につながる。
  4. ・PBL型学習の推進に伴い、生徒はもちろん、教師も探究的なストーリーを描きながら授業をつくる力が深まる。これにより、学校経営においても同様に、課題解決の視点をもった教員集団が形成される。
  5. ・生徒が望めば自主的に学ぶ仕組みを整えることで、与えられたことをこなす学習の習慣から、自ら考え、選択し、行動することができる自律した学習者へと変容する。
  6. ・取り組みによってどんな生徒を育成したいのかを明確にする。また評価の視点をつくり、学校全体で同様の方向性をもって学校運営を推進する。
アドバイザーコメント
寺嶋 浩介 先生
大阪教育大学
准教授 寺嶋 浩介 先生

 「取り組むことが多すぎる」というのが,本校の研究計画についての率直な印象である。実はこれは多くの学校が抱える課題である。4月の助成式においては,他の特別研究指定校やそのアドバイザーの方々もそうおっしゃっていたと記憶している。今でも私の印象については,変わらないところもある。

 ただ,本校での議論を目にしていると,本校が掲げる課題の数々は,これからの時代に求められる「資質・能力」をどのように育成していくかに繋がるのではないかと言う点では共通しているように考えるようにはなった。単元テストを通して確かな評価を行い,学力を向上させる。ICTを活用したアダプティブな学習の場を提供し,基本的な学力を保証する。総合的な学習の時間を中心としたSDGsをテーマとした取り組みにより,思考力・判断力・表現力の育成や,学びに向かう力・人間性等の育成につなげる。

 前回訪問時においては,すでに導入し始めた単元テストを中心に,その意義について議論をしていた。報告書に書かれているような効果があったかどうかについて,本当に教科を越えて多くの先生方が実感されているかどうかは,今後の訪問時に確認をしたい。これらのテーマに取り組まれていく中で,外部に還元できそうな研究成果(とそうではないが,学校の知見としての成果にはなりうるもの)が精査されることを期待したい。それにはまだまだ学校ぐるみでの探究が必要である。