芝浦工業大学附属中学高等学校

第46回特別研究指定校

研究課題

生徒の学びの質の向上「STEAM×PBL×デザイン思考」
~探究活動とSDGs,海外教育旅行プログラムとの連動~

2021年度04-07月期(最新活動報告)

最新活動報告
本校は,この4月から中学共学化と新カリキュラムが始動した.特別研究指定校......

アドバイザーコメント

稲垣 忠 先生
4月から芝浦工業大学附属中学高等学校ではじまった新たなカリキュラム......

芝浦工業大学附属中学高等学校の研究課題に関する内容

※コロナ禍のため、時期をずらしてスタート。活動期間を2022年度までとする。

都道府県 学校 東京都 芝浦工業大学附属中学高等学校
アドバイザー 稲垣 忠 東北学院大学 教授
研究テーマ 生徒の学びの質の向上「STEAM×PBL×デザイン思考」
~探究活動とSDGs,海外教育旅行プログラムとの連動~
目的 探究活動とSDGs,海外教育旅行プログラムとの連動を図り,探究のカリキュラムを構築する
現状と課題
  • PBLやデザイン思考に対する教員の知識やスキル不足
    ≪教員サイドの課題≫
    • ・「新しい教育観」に基づく授業力
    • ・探究活動そのものへの共通認識
    • ・探究型授業Global Communicationのプログラム開発
    • ・STEAM×デザイン思考×PBL の共通理解
    • ・従来の教育観から脱却した評価方法の確立
  • 海外教育旅行(全中学3年生2週間のアメリカホームステイ)の再検討と探究型授業GCの立ち上げ(2021年)
  • ものづくりの将来像を描ける多様性を身につけたグローバルエンジニア育成の急務
学校情報化の現状 systems engineerが二人常駐.あらゆるPCとICT環境整備や問題にすぐ対応できる体制が整っている.
取り組み内容
  • 探究活動のプロトタイプ作成(1年目)
    • ・これまで本校が行ってきた活動や成果物で,生徒の学びの質に着目し,改善点の洗い出し
    • ・生徒の思考が深まるための手立ての検討
  • PBLやデザイン思考,SDGs,評価方法についての教員間の共通理解と知識・スキルの獲得
  • 海外教育旅行の目標と内容の再検討
    • ・探究を生かした上での目標設定
    • ・教育旅行の内容の再検討
  • GCの円滑な導入と実施(2年目)
  • ICTを探究の道具として活用
成果目標
  • 生徒が,オーナーシップをもって創造的に探究活動に取り組む
  • 生徒が,自主的に学校生活の様々な場面や活動で,社会活動においても,探究学習の手法を応用して社会課題に挑む
  • 全教員が,探究だけでなく教科指導において,PBL×デザイン思考の知見を生かした授業を行う
  • 学校全体が,生徒の学習活動や学びの成長を適切に評価する
助成金の使途 iPad、Apple Pencil、旅費、講師謝金他
研究代表者 金森 千春
研究指定期間 2020年度~2021年度
学校HP http://www.ijh.shibaura-it.ac.jp/
公開研究会の予定
  • 1年目 3月公開研究会
  • 2年目 2月公開研究会

本期間(8月~12月)の取り組み内容

 新型コロナウィルス感染症拡大予防の臨時休業によって,東京にある本校は2020年度当初からその対応に追われて,教員も在宅勤務を余儀なくされた.4月は課題指示,5月は同期遠隔授業,6月は週1回の分散登校と,全校が登校できるようになったのは7月中旬になってからである.そのため,特別研究指定校としての役目を果たせる状況になく,事務局や担当アドバイザー稲垣教授と相談し,ご高配の上で活動期間を変更することになった.

1.プロジェクトチームの立ち上げ(4月)

 2018年からカリキュラム検討委員会が2021年度から始まる新カリキュラム※1を検討していたが,本研究のためのコアメンバーをそこから選出し,研究の遂行に向けてより迅速に活動できるように組織を整えた.在宅勤務中でもZoomを活用したオンライン会議を複数回実施した.

※1 http://www.ijh.shibaura-it.ac.jp/junior/2021start/

2.特研校第1回会議(4月)と贈呈式・スタートアップセミナー(5月)

 特研校第1回会議を4月17日にオンラインで実施した.参加者は,本校教員5名(プロジェクトチーム構成員),担当アドバイザー稲垣教授,Panasonic教育財団事務局である.本校の概要,本校の現状,研究課題の概要,研究課題の取組みなどについて報告とアドバイスを戴いた.事務局から,全校体制・全教員で継続的に取り組むことと本研究の成果・プロセスを広く公開することが確認され,決意を新たにした.この時点では学校は臨時休業中であったため,学校の再開状況を見つつ,海外教育旅行(アメリカ4コース)の3月順延を念頭に置きながら研究計画を立て直すことを確認した.

 5月29日にオンラインで実施された贈呈式とスタートアップセミナーでは,日本女子大学吉崎名誉教授,大阪教育大学寺嶋准教授,横浜国立大学脇本准教授からアドバイザーとして意見を戴いた.PBLのサイクルを何回も回すことで,生徒が自分たちでできるようになるため,中学1年,2年,3年と学年を超えて発展させることに必要性の指摘と,生徒自ら問いを立てていく難しさを踏まえての助言を得た.

3.「探究チーム」のメンバーによる情報収集とプログラム策定(6月〜)

 プロジェクトチームとは別に,成果目標である「生徒が,オーナーシップをもって創造的に探究活動に取り組む」「生徒が,自主的に学校生活の様々な場面や活動で,社会活動においても,探究学習の手法を応用して社会課題に挑む」ために,「探究チーム」を組織した.2021年度の中学1年生から実施する探究はIT(Information Technology)とGC(Global Communication)の2本立てという点で全国的にも珍しく,本校の特色溢れる授業にしたいと考えている.そのため,ITには情報科の教員だけでなく,数学,理科,英語の4名,GCには国語,数学,社会,英語の4名をコアメンバーとして選出し,年代に拘らず,教員がもつ多様な価値観が反映される組織をつくることができた.

 これまで社会課題やSDGsを探究活動として積極的に取り入れてこなかった本校にとってプログラム策定のための情報収集が必要不可欠であったため,探究GCコアメンバーで成果目標を達成するようなプログラムにするためにどのようなアプローチが考えられるかをまさに探究した.具体的には,miroというアプリを使用してのプログラムの練り上げ,担当アドバイザーの稲垣教授からご紹介いただいた書籍の購入,2030SDGsカードゲーム体験会参加(7月),9月からは週2時間の会議時間を時間割に確保,JICA地球広場見学(9月),東京メトロスポットツアー問い合わせ(10月),スカイダック試乗(10月),日本科学未来館SDGsワークショップ体験(11月),金沢工業大学SDGs推進センター開発教材の体験(11月),2030SDGsゲームファシリテーター養成講座受講(12月),スモールワールドでの多様性を学ぶワークショップ体験会の実施(12月)から,SDGsや探究の研修会へ参加して他校事例を学んだり精力的に活動した.その結果,探究GCプログラムの3年間の大枠が完成し,中学1年生のプログラムの詳細をほぼ確定させることができた.

miroを活用したプログラム策定

スカイダックから見る東京湾の歴史

4.職員会議を活用して教員の意識変容の取り組み(6月〜)

 申請時に掲げた本校の課題の一つに,「PBLやデザイン思考に対する教員の知識やスキル不足」がある.具体的には,「新しい教育観」に基づく授業力,探究活動そのものへの共通認識,探究型授業GCのプログラム開発,STEAM×デザイン思考×PBLの共通理解,従来の教育観から脱却した評価方法の確立である.この課題解決のために,毎週の職員会議で15分ほどの短時間のプレゼンを地道に行った.9月までは校長による探究活動の意義など,10月からは徐々に策定された探究GCプログラムの提案や意見交換などである.その結果,教員間で「新しい教育観」に関する話題が話されたり,「こういうテーマやアプローチはどうだろう」と提案が寄せられたりするようになった.私たちが予測したよりもスムーズな意識変容が起こり始め,感動している.

5.特研校第2回会議(6月)

 6月29日(月)にオンラインで第2回会議・アドバイス面談を実施した.参加者は,本校教員5名(プロジェクトチーム構成員),担当アドバイザー稲垣教授,Panasonic教育財団事務局である.ここでは,正式に研究を2022年度まで延長すること,当初計画していた2020年度中学3年生の海外教育旅行(アメリカ4コース)が中止になったことによる計画変更,2022年度までの長期研究計画,2020年度の中期研究計画,2020年8月までの短期研究計画について相談し,アドバイスを戴いた.相談した内容は主に,全教員研修の内容の妥当性と,コアメンバー研修の不足点,PBL関連の推薦図書についてである.

6.探究,PBLに関する図書の購入と貸し出し

 稲垣教授からご紹介いただいた図書や教員の参考になりそうな図書を選定して30冊程度購入し,職員室に常設した.教員が多く読みそうな図書は複数冊購入し,貸し出しはGoogleスプレッドシートで管理した.

7.教員研修会の実施(8月29日)

Most Likely to Succeed上映

 映画「Most likely to Succeed」を観て,グループディスカッションを行い,担当アドバイザー稲垣教授とZoomで繋いで「HIGH TECH HIGHの実践に学ぶインストラクショナルデザイン」という題目で講演を戴いた.「Most Likely to Succeed」は2018年に本校では購入していたが,これまで観る機会も準備も整っておらず,ようやく全教員で観る準備が整ったことが非常に感慨深い.映画自体が長いため,前半は1学期の職員会議で観て,後半を当日に視聴した.ディスカッションは,50代以上,40代,30代,20代と年齢別に5人程度の小グループに分かれ,「探究活動を通してどのような教育をしたいか」をテーマとして,3つのキーワード「どのような生徒を育てたいか」「どのような教員でありたいか」「どのような学校になりたいか」を提示して25分のブレストを行なった.ブレスト自体がはじめての教員も多く,全体のファシリテーターを務めた探究GCコアメンバーが議論にならずにブレストをするよう促す場面もあったが,25分間で収まらずブレストの時間を延長するなど大いに盛り上がった.それぞれのグループがブレストした模造紙は写真を撮って,全体で共有した.

年代別のブレスト

意見発表と全体共有

8.有志教員による体験会(10月,11月)

 探究GCプログラムの一環で,学校のある豊洲地区を知るためにスポットツアーを活用できないかと模索し,東京メトロに問い合わせをしたところ,制作者を紹介して戴いた.制作者が本校教員向けにツアー作成の意図や実際のツアーをガイドすることになり,10月27日に教員8名で体験した.また,日本科学未来館のSDGsワークショップを体験し,11月10日に教員10名で体験した. 9月から時間割に組み込んでいる会議時間(週2時間)に合わせて体験会を実施し,授業が空いている教員に参加してもらう状況である.しかし,探究GCコアメンバーが外部で獲得してきたアプローチを生徒に実施するかどうかを判断する際に,実際に教員で体験してみて,長所や短所,改善点を探っていく方法は,教員の探究活動への理解や意識の変容につながるし,みんなで探究をつくりあげている空気が醸成され,非常に良かったと感じている.

スポットツアー体験

ワークショップ体験

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ●プログラム策定のポイント
    • ・教育目標とそれを実現する教育手法の再確認をする.
    • ・プロジェクトチームで内容を作りこみすぎない
    • ・新たな担当者が引き継ぎながらやっていくと固定化されてしまう
    • ・コンピテンシーベースの評価を作成する
    • ・「教科を教える」→「人を育てる」への転換
  • ●ルーブリック作成のポイント
    • ・学習成果の質的な違いをヒントに作成する
    • ・すでにある生徒の作品をもとにルーブリックをつくるワークを実施するなど実態に即した形で実施する

 プログラム策定する際に,不慣れな担当者や探究に消極的な担当者が授業することを考え,マニュアルさえあれば誰でもできるように組み立てようと考えていたが,それは間違いであることがわかった.プロジェクトチームで大枠を策定し,学年のカラーでアレンジできる部分を確保しておくことにした.

 評価においては,ルーブリックを作成することからはじめての試みのため,教育目標に沿ってどのような人を育てたいのかという視点に立ち,これまでの成果物なども吟味しながら新たな評価の作成に着手することにした.

本期間の裏話

 本期間はとにかくコロナ対応で学校全体が決めなければならないことが山積で時間がない中で,どのようにプロジェクトチームの会議をもつか,どのように教員研修会を実施するか非常に苦心した.また,本研究の中心に据えている中学3年生のアメリカ4コースへの海外教育旅行も中止となり,研究計画の変更を余儀なくされた.

 一方で,本研究に対して,プロジェクトチームが当初想定した以上に,全教員が興味関心を持って取り組んでくれていることを感じる.コロナ禍の業務負担は増えているが,その中でも本研究の成果目標を達成するような学校のあり方や授業のあり方,教師のあり方を模索する空気が生まれ始めている.これまで教師の経験則に基づいて授業改善活動などをしてきたが,学校全体がより学術的な裏付けでダイナミックに変容し始めている.これも特別研究指定校に選出されたことによる効果だと考えている.2022年度までにどのように変容していくか非常に楽しみである.

本期間の成果

  1. 探究GCプログラムの大枠を確定できた.
  2. 2021年4月の中学1年生のGCプログラムの詳細を決定できた.
  3. 全教員研修会を1回実施できた.
  4. 教員の意識変容が予想よりスムーズに進んだ.

今後の課題

  1. 探究GCプログラムの評価方法の策定
  2. 2021年度海外教育旅行に向けたプロトタイプの作成と実施
  3. 全教員への基本的なPBL手法の研修の実施
  4. 次年度探究GCプログラムを担当する教員での授業づくりとファシリテーター研修

今後の計画

  1. 探究GCプログラムの評価方法の策定(1〜3月)
    • (ア) 稲垣先生の「学習活動カード」についての理解を深め,探究GCプログラムに反映させていく.
    • (イ) 探究GCプログラム担当者のファシリテーター力を研鑽し,具体的な教材を作成していく.
  2. 中学2年生対象に2021年度海外教育旅行に向けたプロトタイプの作成と実施(1〜9月)
    • (ア) 2021年度海外教育旅行に向けたプロトタイプを探究GCコアメンバーと学年で協働して作成し,実施する.
    • (イ) 2021年度にコロナ禍で海外教育旅行が実施できなくなる可能性も視野に作成する.
  3. 全教員への基本的なPBL手法の研修の実施(1月)
    • (ア) 基本的なPBLの考え方や手法を研修を通して獲得していく.
    • (イ) 現在実施している教育プログラムをブラッシュアップするとともに,新たに教科の授業内でPBLを意識した取り組みを実施する.

気付き・学び

 東京メトロやスカイダックなど学校外の団体と交渉するのはこれまで敷居が高い印象があったが,教育文脈で活用を検討していることに企業や団体が良好な受け止め方をしてくれていることを体感した.これまで学校内で完結させていた物事を,良いものを適切に選択して社会のリソースを活用して探究GCプログラムを組み上げていきたいと思った.

成果目標

  1. ・生徒が,オーナーシップをもって創造的に探究活動に取り組む
  2. ・生徒が,自主的に学校生活の様々な場面や活動で,社会活動においても,探究学習の手法を応用して社会課題に挑む
  3. ・全教員が,探究だけでなく教科指導において,PBL×デザイン思考の知見を生かした授業を行う
  4. ・学校全体が,生徒の学習活動や学びの成長を適切に評価する
アドバイザーコメント
稲垣 忠 先生
東北学院大学
教授 稲垣 忠 先生

「予測困難な時代」、2020年はこの字義通りの一年だった。新型コロナウィルス感染症は社会を大きく変え、学校現場にも多くの変化をもたらした。筆者の勤務する大学でも春のオンライン授業への全面移行、秋からの対面授業と組み合わせたハイブリッド形式の導入など、試行錯誤の日々が続いている。パナソニック教育財団の特別研究指定校である芝浦工業大学附属中学高等学校では、春の休校期間にもさまざまなオンライン授業が展開された。その様子は学校のWebサイト(下記URL)だけでなく、秋に開催された日本教育メディア学会の第27回年次大会(こちらもオンラインで開催された)のシンポジウムにて報告され、注目を集めることとなった。2021年、新型コロナウィルスの第三波により、再びオンライン授業へ移行すると聞いている。

http://www.ijh.shibaura-it.ac.jp/times/3997/

「自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していく」ための資質・能力を育成するのが高等学校の総合的な探究の時間の目標である。特別研究指定校のアドバイザとして関わらせていただいた1年目の様子は、この姿がそのまま当てはまる。つまり、生徒に探究させようとする前に、教師自身がさまざまな教育方法や実社会の課題を探究し、自身の授業観と向かい合い、2021年度から始まる新たなカリキュラムとして形にしていったのである。筆者は残念ながら、その経過をつぶさに観察できた訳ではない。それどころか、未だ学校への訪問も果たしていない(本学ではコロナ禍により東北地域以外への出張は大幅に制限された状況が続いている)。プロジェクトチームの先生方とのオンラインでの対話と校内ツアー、8月の職員研修での関わり、メールを通したやりとりと限られた接点でコメントできることは多くはない。それでも、プロジェクトチームだけでなく学校全体で熱を持って取り組まれている様子を垣間見ることができた。

 探究のプロセスは「課題の設定-情報の収集-整理・分析-まとめ・表現」のサイクルの繰り返しとして学習指導要領では表現されている。プロジェクトチームは、「生徒が,オーナーシップをもって創造的に探究活動に取り組む」「生徒が,自主的に学校生活の様々な場面や活動で,社会活動においても,探究学習の手法を応用して社会課題に挑む」ようになるためのカリキュラムの開発を課題として設定した。そのための情報収集として、筆者にアドバイスを求めるだけでなく、多くの図書資料の収集、SDGs等の教材体験ワークショップへの参加、フィールド候補となる東京メトロへの問い合わせ、主体的に情報を収集していた。さらに、その成果を毎週の職員会議でプレゼンをしたり、PBLに取り組む生徒の姿を描いた米国の教育ドキュメンタリー映画「MostLikely to Succeed」の上映会を開催する等、学校全体で共有する取り組みを続けている。

 2021年度4月から附属中学校は共学化され、探究を核とした新しいカリキュラムがはじまる。この1年で得た多くの情報を整理・分析してつくられたカリキュラムの実際を拝見できることが楽しみである。新カリキュラムが目指す「自ら問題を発見し解決する力」を育てる上で2つの論点を示しておきたい。

  • ・問題を発見する上で、SDGsは非常によく整理された枠組みである。しかしながら、整理されすぎている分、17のテーマへの当てはめに陥りやすい面もある。生徒たちが現実社会の問題に正面からぶつかる中で、17のテーマ相互の関連に気付いたり、新たな発想やテクノロジーの必要性を意識したりする姿を期待したい。
  • ・問題を解決していく際、新学習指導要領において「学習の基盤となる資質・能力」の1つとされた情報活用能力は、情報収集の技法、複数・複雑な情報の読み取り、情報やデータを整理・分析する手法、相手を意識したデザインの工夫など、多岐にわたる。「IT」「GC」の2つの探究学習の質を高める上で、既存の教科でこうした力を普段から横断的に指導するカリキュラムマネジメントの実現が重要となる。

本期間(1月~3月)の取り組み内容

 今学期に入り,校内でも新型コロナウィルス感染症の濃厚接触者に該当する生徒が増えたため予定より前倒して,1月16日から2月10日まで全校オンライン授業となった.オンライン授業が明けてからもグループワークを実施することは難しく,当初計画していた他学年の生徒でのカリキュラムやプログラムのデザインのプロトタイプを実施することはできなかった.そのため,4月から始まるカリキュラムの組み上げや評価方法の策定,教員の知識の獲得とファシリテータ能力を育成するためのオンライン研修への参加,1月初旬に計画していた研修会を3月に振り替えて実施するなど,教員の知識やスキルの向上に努めた期間であった.

1.次年度担当教員の確定(1月)とより本質的なプログラムにするための情報収集の継続

 2021年度探究の授業を担当する教員が確定したことにより,これまで中心的に研究を行っていたプロジェクトチームや探究GCコアメンバーという括りではなく,具体的に2021年度の授業プログラムを想定して準備をすることができた.自分たちが受けたことのない教育をデザインするのは非常に難しく,様々な知見を集めてよいと思えるものをやってみる勇気が必要である.これまでは授業プログラムの大枠を考えていたが,より本質的なプログラムにするという視点での情報収集が進み,たくさんの収穫を得た.担当教員間で,対話を通じて視線合わせや価値観の共有,GCでどのような活動を取り入れていきたいかなど,Zoomを活用したオンライン会議を複数回実施した.

2.2030SDGsゲームを使ったワークショップデザインのプロトタイプ実施(1月中旬予定・実施できず)

 ファシリテータ研修や小中高生向けの研修を経て,2021年度実施の前に本校の生徒が実際にゲーム体験後のワークショップを通じてどのような効果があるかを知るために高校3年生にプロトタイプを実施しようとしたが,オンライン授業になったため実施できなかった.3月下旬の緊急事態宣言が明けた後に実施予定.

3.教員研修会「探究する学びをデザインする!」(1月中旬実施予定・延期→3月実施)

4.探究GCの評価方針の決定(1月)

 プロジェクトチームにおいて,探究における評価は,「生徒が自己成長できるような形成的評価(ルーブリック評価)」を成果物に対して実施することに決定した.探究GCにおいては,生徒自身が感じたことや考えたことを他者に伝え,協働することが肝要であるため,毎回自分の気づきを言語化して書き留めておくようなフォームを作成する.生徒たちが個人端末を所持できるのは5月以降であるため,4月はペーパーで,5月以降はGoogleフォームなどで行い,授業改善に役立てることはもちろんのこと,その蓄積が中学3年時の総合探究につながると考えている.

5.『探究スキル表』の策定(2月)

 2021年度探究で使用する教科書『学びの技』※1のスキルと,稲垣先生の『情報活用能力体系表』のレベル3(中学校)を参考に,本校独自の『探究スキル表』を策定した.本校で以前から実施するSTEAM教育,言語技術(ランゲージアワー)のほか,各教科で獲得するスキルがあり,授業を担当する教員はもちろんのこと,生徒にとってもこの授業を通して何を獲得したか,ということが明確になると良いと考えた.直接的に関わらない教科であっても,様々な教育プログラムの中でどのスキルを獲得しているかが一目瞭然の方が,教科で教えることの負担も減少し,教科連携をより一層進めることができる.

*1 後藤芳文,伊藤史織,登本洋子(2014)学びの技 14歳からの探究・論文・プレゼンテーション.玉川大学出版部

6.2021年度1学期の授業づくり・単元デザインシートを利用して(2月)

 担当教員が1月に選定されたことにより,4月から始まる実際のプログラムの授業設計に着手した.ただ見学して楽しかった,経験して楽しかったというような活動として楽しかったけれど,学びが深まったか,学びの質が向上したかという視点を大切に,「活動の質を高め」,「思考の質を高め」られるように,単元デザインシートを利用して1学期の授業設計を行なった.単元デザインシートで見える化したことにより,学習者(生徒)の立場で探究を物語り,教師の役割をより明確にすることができた.

7.2021年度1学期のルーブリック評価の策定

 稲垣先生の「思考×表現ルーブリック」や『学習評価ハンドブック アクティブラーニングを促す50の技』*2を参考に,「態度×思考×表現ルーブリック」を策定した.態度_貢献,思考_内容,表現_作品,表現_発表の4項目で,S,A,B,Cで自己評価・相互評価できるように作成した.導入する中学1年生を想定したとき,思考と表現だけでなく,主体的に学び探究しようとする態度や班活動に貢献する態度をルーブリックに組み込むことで,協働性を育成できると考えた.このルーブリックは7月に実施し,その効果を次回の活動報告書で報告したい.

*2 Barkley,E.F.,Major,C.H.(2016)Learning Assesment Techniques:A Handbook for College Faculty.Jossey-Bass(エリザベス・F・バークレイ,クレア・ハウエル・メジャー,東京大学教養教育高度化機構アクティブラーニング部門・吉田塁(監訳)(2020)学習評価ハンドブック アクティブラーニングを促す50の技法.東京大学出版会)

8.教員研修会「探究する学びをデザインする!」実施(3月)

 1月に計画していた稲垣先生を講師に迎えての情報活用型プロジェクト学習の研修会を実施した.探究GCだけではなく,教科でも授業設計に利用するための目的があった.情報活用型プロジェクト学習についての講義,単元デザインシート作成ワークの説明を稲垣先生からいただいた後,各教科3-4名の小グループに分かれて,高校1年生の同一単元のデザインシートを作成した.オンラインでご助言いただく稲垣先生に向けて,ペーパーとGoogleスライドと2つ同じものを作成し,発表や講評しやすい形にした.また,本校はこれまで研修会の感想を公式に共有する文化がなかったが,感想や質問などをGoogleフォームで集約し,それに基づいてまとめを行うことができた.単元デザインシートはこれまでの教師の経験と「生徒にとって良いだろう」という勘に基づいて授業設計するところから発展し,確かな根拠をもとに授業を設計する魅力があった.

 限られた時間ではあったが,なぜPBL学習が必要なのか,そしてそれはどのような観点で設計をしていけば良いかを基本からご説明いただき,実際にワークをしたことで,自らの授業設計に使ってみたいと考える教員も出てきた.

9.2021年度海外教育旅行に向けたプロトタイプ作成の着手(3月)

 本研究の研究課題において,「海外教育旅行の連動」としているが,この社会状況下では海外教育旅行の実施が相変わらず不透明な状況である.2020年度は中止,2021年度は仮に海外で教育旅行が実施できなかったとしても同様のグローバルな探究や学びが国内でできるのかを考え,プロトタイプ作成に着手した.当初の計画よりも遅れているが,4月以降実施したい.

教員研修会「情報活用型PBL学習」講義

教員研修会「単元デザインシート」作成ワーク

アドバイザーの助言と助言への対応

新カリキュラムが目指す「自ら問題を発見し解決する力」を育てる上で2つの論点

  1. 生徒たちが現実社会の問題に正面からぶつかる中で,SDGs17のテーマ相互の関連に気付いたり,新たな発想やテクノロジーの必要性を意識したりする姿を期待したい.
    (問題を発見する上でSDGsは非常によく整理された枠組みであるが,整理されすぎているために17のテーマへの当てはめに陥りやすい面もある.)
    →SDGsはあくまで導入として使用し,社会課題の発見や,課題解決のための新たな発想について担保するような授業プログラムにする.PBLを何回か実施し,自分たちで回せるようになるまでは,ある程度の型の中で実施するが,プログラムが進行するにつれ,生徒の自由度が拡大するようにする.
  2. 問題を解決していく際,新学習指導要領において「学習の基盤となる資質・能力」の1つとされた情報活用能力は,情報収集の技法,複数・複雑な情報の読み取り,情報やデータを整理・分析する手法,相手を意識したデザインの工夫など,多岐にわたる。「IT」「GC」の2つの探究学習の質を高める上で,既存の教科でこうした力を普段から横断的に指導するカリキュラムマネジメントの実現が重要となる.
    →全教員での「情報活用型プロジェクト学習」研修会を実施したことにより,情報活用能力を育成するための授業設計という考え方が存在することやその基礎を学ぶことができた.単元デザイン作成を繰り返し行うことによって,教員にも授業設計する力がつくと考えている.また,既存の教科でこのような力を育成することを,教員,生徒,保護者が自覚できるように『探究スキル表』を作成した.

本期間の裏話

 年が明けて3学期もここまでコロナに振り回されるとは想像していなかった.先述したように,1月は予定を前倒して1ヶ月のオンライン授業となった.1回目のオンライン授業の時よりも授業時間を延ばしたり,すべての教科を時間割通りに実施したり変化したこともあり,教員の負担感も大きかった.その中でも4月にスタートする探究の授業に向けて,できることを少しずつ進めることができた.

 一方で,本研究の主題である海外教育旅行の実施が危ぶまれる事態は好転せず,不測の事態を予測して対応をしなければならないことが非常に大変であった.

 なんとか時間を捻出して実施に漕ぎ着けた3月の教員研修会では,子どもたちの視点に立った情報活用型PBLをデザイン思考で作成することができた.教科ごとグループでどのような探究活動ができるか,単元をデザインしたり,研修会の感想や質問をGoogleフォームで回収してフィードバックしたりするなど本校にはない研修文化が育ってきている.教員たちが年代を超えて,色々な意見を出し合い,話し合いながら,楽しく盛り上がって研修に参加する様子は,見ていて清々しく嬉しい気持ちであった.

本期間の成果

  1. 次年度探究GCプログラムを担当する教員での授業づくりができた.
  2. 2021年4月のGCプログラムの詳細な授業設計と評価を策定できた.
  3. 「情報活用型プロジェクト学習」の全教員研修会を実施できた.
  4. より本質的なプログラムになるよう情報収集を継続して,収穫を得た.

今後の課題

  1. 2021年度海外教育旅行に向けたプロトタイプの実施
  2. 全教員への基本的なPBL手法の研修の実施
  3. 始動する探究GCプログラムやルーブリック評価の検証と2,3学期分の授業設計
  4. 中学2年生以降の授業プログラムの策定

今後の計画

  1. 中学3年生対象に2021年度海外教育旅行に向けたプロトタイプの実施(4〜9月)
    • (ア) 2021年度海外教育旅行に向けたプロトタイプを探究GCコアメンバーと学年で協働して完成させ,実施する.
    • (イ) 2021年度にコロナ禍で海外教育旅行が実施不可の可能性も視野に国内で実施できるグローバルな教育を模索する.
  2. 始動する探究GCプログラムやルーブリック評価の検証と2,3学期分の授業設計(4-12月)
    • (ア) 2021年度1学期GCプログラムやルーブリック評価の検証
    • (イ) 2021年度2,3学期GCプログラムの授業づくり
  3. 中学2年生以降の授業プログラムの策定(7-3月)
    • (ア) 2022年度中学2年生の授業プログラムの策定
  4. 全教員への基本的なPBL手法の研修の実施(5月)
    • (ア) 基本的なPBLの考え方や手法を研修を通して獲得していく.
    • (イ) 現在実施している教育プログラムをブラッシュアップするとともに,新たに教科の授業内でPBLを意識した取り組みを実施する.
  5. 探究DAY(公開研究会)の実施(7月)
    • (ア) 2021年度1学期GCプログラムの成果発表会として7月中旬に探究DAYを設ける.
    • (イ) 探究DAYには1学期のプログラムに関わった方をお招きし,ステークホルダーとして探究GCに関わってもらう.
    • (ウ) 探究DAYを公開研究会とし,これまでの研究成果を広く公開する.

1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い

 どの学校も同じ状況ではあるが,東京にある本校はコロナに振り回された一年だった.財団,アドバイザーの稲垣先生のご高配により,活動期間を延長していただけたので,来年度は公開研究会を実施したい.制限された状況の中でできることを考えてやっていくことは,私たちにとってもまさに「探究する学び」であった.

 また,私立学校の特性からメディアの取材を受けることも多く,自らの言葉で本研究や4月から始まる探究への想いを言語化することによって,教員も研究の目的や生徒の学びの質をどう向上されるかを改めて認識することができた.

 次年度も社会状況が好転するとは思えないが,生徒にとって良いプログラムになるように,また,本研究の経緯や成果を広く公開していけるよう努力したい.

成果目標

  1. ・生徒が,オーナーシップをもって創造的に探究活動に取り組む
  2. ・生徒が,自主的に学校生活の様々な場面や活動で,社会活動においても,探究学習の手法を応用して社会課題に挑む
  3. ・全教員が,探究だけでなく教科指導において,PBL×デザイン思考の知見を生かした授業を行う
  4. ・学校全体が,生徒の学習活動や学びの成長を適切に評価する
アドバイザーコメント
稲垣 忠 先生
東北学院大学
教授 稲垣 忠 先生

オンライン授業と対面授業との間を行き来しながらの2021年がはじまった。本期間においても、芝浦工業大学附属中学高等学校(以下、芝工附属)では1月中旬から1ヶ月近くオンライン授業が実施された。当初予定していた1月の研修会も3月に振り替えての実施となった。筆者の勤務する大学においても、少人数の科目以外はオンライン授業が続き、緊急事態宣言下の地域への出張は原則、自粛することが求められている(2020年2月を最後に上京していない)。ついぞ芝浦を訪問することなく、生で授業を見ることもなく、2020年度を終えることとなった。

したがって、アドバイザの立場で助言できることは、担当の金森先生とのやりとり、3月の研修を実施しての感触、この活動報告から読み取れることに限られる。1〜3月のこの期間は、活動報告にある通り、2021年度からはじまる新カリキュラムへの準備に充てられた。

成果の1つが「探究スキル表」である。目標設定・課題設定から情報収集、整理、論文・発表など7つのカテゴリで70以上の技が網羅されている。また、これらの技は色分けされ、主にどの教科で習得するのかが示されている。つまり、総合的な探究の時間における探究と、各教科での技の習得が一体として示されており、総合と教科をスキル面で橋渡しする地図として活用されることが期待される。

さらに、単元デザインシート(探究をベースにした教科単元の設計を支援するシート)を用いた授業設計、ルーブリックの策定が進んでいる。授業設計(インストラクショナルデザイン)では、目標と指導と評価の一貫性が重視されるが、探究学習に関してこれらのパーツが出揃ってきたと言えるだろう。

3月に実施した研修では、情報活用型プロジェクト学習のデザインをオンラインで実施した。生徒の探究の道のりを具体的に構想するところからはじめ、その遂行に必要なスキルと学習成果の質を見極める評価指標(ルーブリック)を明らかにし、最後に主体的・対話的で深い学びにつながる指導方法を取り入れた単元計画に落とし込む。研修では最初の段階である探究の物語をつくる段階にとどまったが、この段階で構想したアイデアが教員にとっても生徒たちにとっても魅力があると納得感があれば、今後の実践にもつながっていくはずだ。

以上のように精力的に教育課程の開発に向けて進められている芝工附属の取り組みについて、2つの点からコメントしておきたい。

・PBLと資質・能力の体系化:2020年度は特にプロジェクト型学習(PBL)の理論や設計手法について関わらせていただいた。PBLは授業設計の方法の1つではあるが、万能ではない。教育課程全体の中でPBLをどう位置付けるのかは、学校の教育目標、育成する資質・能力に照らし、PBLが得意とするところはどの部分であり、PBLでは育成が難しい部分はどう指導するのか整理することで、芝工附属の研究の位置付けがより明確になると思われる。

・探究スキルを生徒が自覚する仕組みの開発:探究スキル表は、生徒たちが主体的に探究を進める上で重要な技を網羅しており、教科横断的な育成が期待される。一方で生徒の側からみれば、自分には何が身についていて、どこが課題なのか、得意な部分はどこなのかといった自らの学び方を自覚する地図にもなる。主体的に学ぶ姿勢を育んでいく上で、探究スキル表を生徒たちが活用する手法の開発に期待する。

4月からの新たなカリキュラムの成果の一端は、7月に実施される「探究DAY」(公開研究会)で明らかになる。何も立派な「完成形」である必要はない。この1年、先生方がコロナ禍と対峙しながら、新たなカリキュラムの開発に向けて探究し続けたエネルギーが、生徒たちが試行錯誤する姿の中にどう立ち現れているのかを確かめてみたいと思う。

本期間(4月~7月)の取り組み内容

 本校は,この4月から中学共学化と新カリキュラムが始動した.特別研究指定校としての活動も2年目に入ったが,本期間においても緊急事態宣言の発出(4/25-6/20,7/12-8/22)によって,準備していた活動が変更や制限を余儀なくされた.しかしながら,全教員によるバックアップ体制や積極的な参画,近隣の企業の協力によって,生徒たちがコロナ禍であっても豊かな経験を積み,本校の探究活動をスタートすることができた.

1.探究活動への全教員バックアップ体制の構築

図1 生徒と一緒にアイスブレイクを行うオブザーバー

 中学1年次のカリキュラムにおいて,SHIBAURA探究は週2単位(隔週でITとGCを実施)設置されている.ITとGCそれぞれ2名の授業担当教員を配置し,さらに,オブザーバーとして2名程度を配置した.それにより,SHIBAURA探究を検討してきたコアメンバーだけでなく,オブザーバーに生徒と一緒にプログラムを経験してフィードバッグをもらったり(図1),多くの教員に探究の目標や実施されているプログラムなどを広く知らせることができた.それが波及効果を生み,全教員のバックアップ体制を構築することができた.

2.全教員への基本的なPBL手法の研修の実施(2021/5/18)

図2 「あらためてPBLを考える」研修会

 担当アドバイザー稲垣教授をオンラインで招き,「あらためてPBLを考える」というテーマで講演を依頼した(図2).本研修の目的は,PBLを理論的に学び,その意義と効果を理解し,多くの教員が自らの教科・科目の授業設計に活用したり,PBLのアプローチを取り入れることにつなげることにある.前回の研修では単元デザインシート作成ワークを実施したので,理論を改めて学ぶことによって,PBLの探究活動および各教科の学習活動での活用場面を想定し,学びの質を言語化する意味,PBLを評価するためにルーブリック評価が有効であることを学んだ.

3.探究GCにおけるルーブリック評価の微修正と実施

図3 相互評価,自己評価ルーブリック

 2020年度1-3月期の活動報告書において,ルーブリック評価の策定を報告したが,本期間において微修正を行った.実際に入学してきた中学1年生や生徒たちの活動の様子を観察する中で,生徒が相互評価や自己評価をよりスムーズに実施し,自らの1学期の探究活動のゴールを確実に見据えるために,中学1年生にとって理解が難しい表現やわかりにくい表現を修正し,より的確に評価が実施できるようにした(図3).

 また,公開発表会 探究DAY(7/17)に実施した相互評価ルーブリックと自己評価ルーブリックの精緻な分析は次回報告するが,相互評価ルーブリックにおいては,生徒による評価と教員による評価の差異は少なく,適切に機能していると言える.

4.ICTを積極的に活用し,SHIBAURA探究スキルと連動させたプログラムの実施

 本校の生徒はSurfaceGoをひとり一台所持している.入学当初はタイピングに不慣れな生徒が多く,探究GCで毎授業行った振り返りは紙を配布して,鉛筆で記入し,オブザーバーが入力する方法をとった.5月以降になると,技術科の授業でタイピングの練習をしたり,他教科においてもICTを使用する場面が増えたため,生徒のICTスキルも向上し,探究GCでもICTを利活用することができた.湾岸企業訪問における企業への質問などをGoogleフォームで回収したり,1学期の発表をGoogleスライドにしたことで加速度的にICTを活用することができた(図4).探究DAYにおける相互評価ルーブリックをGoogleフォームで実施したことで,各クラス上位2班の選出を短時間で行うことができ,速やかに全体発表会に繋ぐことができた(図5).また,Googleスライドを作成する際の要点をまとめた動画を技術科の教員が作成したり,教科横断の連携があった.

 さらに,コロナ禍において中学受験塾などでオンライン授業を受講した経験がある生徒も多く,Googleスライドを班で協働して作成したり,探究DAYの司会の打ち合わせなどを行ったりする際に,生徒が自然発生的にZoomを活用してオンラインミーティングを行っていたことは非常に驚きだった.

図4 Googleスライドの共同編集

図5 相互評価もすべてICTを活用

5.探究DAY(公開研究会)の設計・運営(2021/7/17)

 緊急事態宣言発出下のため,TOYOASOBI(1学期のGCプログラム名)のステークホルダーと学内公開という形式で,本校初の学年全生徒によるハイブリッドの発表会は開催された.これまで優れた代表作品を発表する形式の発表会を実施したことはあったが,全生徒が発表すること,ステークホルダーを招き,保護者にはオンラインで公開するハイブリッド形式で実施することは予想以上にタスクが多く,直前まで慌ただしく運営準備をした.

 公開発表会を実施したことによって,特に以下の4点に気づくことができた.

  • 教室でマスクを着用してのオンライン発表では音声が画面越しに届きにくい.次回は各教室にマイクを設置する必要がある.教室の様子を投影するカメラは効果的だった(図6).
  • 余裕を持ったスケジュールを組む必要がある.「豊洲を伝えよう」というテーマで作成した豊洲解剖図鑑の発表だったため,熱中した生徒たちは伝えたい想いが強く,時間を超過する班が頻出した.
  • はじめての試みだったので,運営する教員も慣れておらず,運営と発表のルーブリック評価の両立は難しかった.参観にきたステークホルダーや教員からのコメントシートはその場で手書きで書いて渡すことによって,生徒への即時フィードバックが実現した.また,教員と異なる立場の異なる視点を持つステークホルダーから講評をいただけたことは生徒にとっても有益だった(図7)
  • 当日の司会進行は各クラスから1名生徒を募り,4名の生徒に任せた.中学1年生には難しいのではないか,という懸念もあったが,生徒たちは司会台本を作成し,ZoomやGoogleMeetを活用して自発的に打ち合わせを行ない,立派に務めを果たした(図8).上手くできなかったとしても機会を与えることの大切さを目の当たりにした.同時に,それは他の生徒にとっても同じであると強く感じた.

図6 プロジェクタに映すデバイスでスライドを画面共有し,もう一台でクラスの様子を配信

図7 ステークホルダーの方からの講評

図8 司会を立派に務めた生徒たち

6.探究GCの2学期分の授業設計

 2学期のプログラムにおいて江戸の伝統的工芸品を扱うことは2020年度から決定していたが,TOYOASOBIの実施と並行しながら詳細な授業設計を進めた.

 江戸の伝統的工芸品の体験希望をもとに組んだ班ごとに,体験に行ってから2学期のプログラムに入っていく形式を設計した.アポイントを取るのも,撮影やインタビューの許可を取るのも,生徒が行うことになる.1学期は教員が与えた環境や機会を使って「セカイを発見し」たため,2学期のGCでは新たに獲得すべきSHIBAURA探究スキルを掲げて,プログラムにおける生徒の裁量を広げていきたい.このような社会状況であるため,体験させてもらえるかは不安であるが,生徒が高校生になったとき,その先を見据えると断られても代案を考えて対応する経験も大切であると判断し,実施に至る.

7.国内教育旅行に向けたプロトタイプの実施

 残念ながら2020年度に引き続き,2021年度も海外教育旅行の実施は断念し,国内教育旅行への振替となった.海外教育旅行はシアトル,ソルトレイクシティ,セント・ジョージ,デンバーの4コースであったが,国内教育旅行は仙台,福岡,長崎,広島&京都である.本研究は,海外教育旅行において先行学年にプロトタイプを実施し,それをもとに生徒の学びの質を向上させる探究活動の策定にあるが,このような状況では海外でのプロトタイプ実施は叶わない.国内教育旅行の事前学習において,様々なプログラムを実施してもらい,それぞれのプログラムの実施の難易や生徒への効果を共有することで,プロトタイプとして探究の授業設計に生かすことができた.

アドバイザーの助言と助言への対応

・PBLと資質・能力の体系化:2020年度は特にプロジェクト型学習(PBL)の理論や設計手法について関わらせていただいた。PBLは授業設計の方法の1つではあるが、万能ではない。教育課程全体の中でPBLをどう位置付けるのかは、学校の教育目標、育成する資質・能力に照らし、PBLが得意とするところはどの部分であり、PBLでは育成が難しい部分はどう指導するのか整理することで、芝工附属の研究の位置付けがより明確になると思われる。
→本校はこれまでICTを活用した授業の研修を積み,教員はICTを教材提示から双方向型,グループワークでの有効なツールとして使用できるようになった.新校舎でICTを活用する環境が整った.そのタイミングでコロナ禍となり,オンライン授業やICTを活用した授業方法についての情報共有が進んだ.新しい学力観に基づく授業スタイルを,教員がいろいろな場所で模索し始めている.加えて,新カリキュラムでは生徒の学習習慣から探究する生徒を育てる授業設計までの改革を行った.本校では,教員が新しい学びに敏感になっている.PBLは教員の何人かがすでに実践を始めていた手法であり,本校の生徒に合うと漠然と考えていたところ,特別研究指定校に認定され,全教員に質の高い研修の機会をいただき,教科などでの意見交換が進んだ.はじめに探究チームが引っ張り,次に教科の探究化が始まる過程で,生徒のモチベーションと学びの飛躍が期待できるPBLについて学んだことは有効であった.アドバイスをいただいた通り,生徒の成長にどうフィットするのかを探究チームや教科で研究していきたい.

・探究スキルを生徒が自覚する仕組みの開発:探究スキル表は、生徒たちが主体的に探究を進める上で重要な技を網羅しており、教科横断的な育成が期待される。一方で生徒の側からみれば、自分には何が身についていて、どこが課題なのか、得意な部分はどこなのかといった自らの学び方を自覚する地図にもなる。主体的に学ぶ姿勢を育んでいく上で、探究スキル表を生徒たちが活用する手法の開発に期待する。

  • 探究DAYのしおりに,1学期TOYOASOBIで獲得する探究スキルと使用教材『学びの技』の該当ページを掲載することで,生徒に獲得するスキルへの意識を促した.
  • 探究スキルには大きく該当授業を位置づけているため,探究の授業だけでなく他教科においても獲得するスキルがあることへの理解を促した.
  • TOYOASOBIのプログラムにおいて,積極的に他教科の力を借りることで,生徒が他教科の授業で獲得したスキルを探究でも生かせることを体感させた.(例 技術科によるわかりやすいスライドの作り方,ランゲージアワーによる論理的な文章の書き方)

本期間の裏話

 3回目の活動報告書でもコロナによる影響について言及してしまうほど,コロナ禍の教育活動の難しさを感じた期間であった.

実際に探究GCのプログラムが始動すると,コロナによる影響は甚大だった.稲垣先生は,コロナ禍にあるにも関わらず生徒たちが豊かな経験ができていると講評をしてくださったが,コアメンバーとしては変更による変更に振り回された. 限られた授業時間で豊かな体験をし,深く学ぶために設計していたプログラムも,「緊急事態宣言中は受け入れできません」と断られることも多く,オンラインに振り替えられるものは振り替えたり,不測の事態が次々と起こり,その対応に終始していたように感じる.その中でも,動画コンテンツや企業ホームページにあるバーチャルツアーなどが非常に役に立った.このような状況下でもご尽力くださったステークホルダーの皆さまに心から感謝する.

 探究DAY(公開研究会)も対面での実施を最後まで検討していたが,学内公開のハイブリッド開催となってしまい,残念な気持ちも大きかった.

図9 整備されたSHIBAURA探究室

 前報告書でも触れたが,学校全体がより学術的な裏付けでダイナミックに変容している.これも特別研究指定校に選出されたことによる効果だと強く感じている.探究的な学びが浸透するように,校内では「SHIBAURA探究ポイントカード」というシステムが始動したり,夏期休暇中の課題が内容反復型や演習型の分量を減らし,生徒本人が興味をもったことを深堀りする探究型課題に変化したりした.加えて,成果に記載したが,60名程度入る講義形式の長机が置かれていた演習室をSHIBAURA探究室として整備した.稼働式の机椅子60組,電子黒板と大型プロジェクタにスピーカー(図9),生徒が各班で活用できるようプロジェクタ8台を設置し,常に探究ができる場所として用意したことは,生徒にとっても教員にとっても追い風となった.コロナ禍に振り回されはしたが,この1年がどのように変容するか非常に楽しみになるような1学期であった.

本期間の成果

  1. 全教員への基本的なPBL手法の研修の実施
  2. SHIBAURA探究GCにおけるルーブリック評価の完成と全校生徒への告知
  3. GCにおいてSHIBAURA探究スキルに結びつけたプログラムの構築・実施
  4. 探究DAYの設計・運営
  5. GCの2学期分の授業設計
  6. 国内教育旅行に向けたプロトタイプの実施
  7. SHIBAURA探究室の整備

今後の課題

  1. 探究GCプログラムやルーブリック評価の検証
  2. 全教員へのルーブリック評価策定ワークショップの実施
  3. 中学2年生以降の授業プログラムの策定
  4. 探究DAYを踏まえて,本校における公開研究会のあり方を検討

今後の計画

  1. 探究GCプログラムやルーブリック評価の検証
    • a. 探究DAYの生徒の評価や教員による評価を踏まえて,ルーブリックが機能していたかを検証する(2021/8)
    • b. 2学期のプログラムの評価を策定する(2021/9-10)
  2. 全教員へのルーブリック評価策定ワークショップの実施(2021/8)
  3. 中学2年生以降のGCプログラムの策定(2021/9-12)
  4. 探究DAYを踏まえて,本校における公開研究会のあり方を検討(2021/9-12)
  5. 長期計画(2020年策定,3ヵ年計画)

気づき・学び

 TOYOASOBIのステークホルダーの方を招いてのプログラムの実施や探究DAYの実施を経て,学内のリソースだけで授業を設計するのではなく,外部のリソースを適宜取り入れて設計することの魅力と面白さとワクワク感を感じている.個性は豊かであっても私たちは教員というカテゴリーで物事を捉えていることもあり,そこに地域の方や企業の方の視点が加わることは生徒にも非常に有益であった.

 また,稲垣先生に以前より勧めていただいていたNHK for Schoolの「プロのプロセス」シリーズを有効に活用することができた.勧めていただいた当初は正直ピンと来ないところもあったが,実際に探究GCのプログラムが始動してみると,「プロのプロセス」が示している価値を教員が理解することができ,それらの動画を適宜組み入れることによって,生徒の理解が進み,緩急のついたプログラムになった.

成果目標

  1. 生徒が,オーナーシップをもって創造的に探究活動に取り組む
  2. 生徒が,自主的に学校生活の様々な場面や活動で,社会活動においても,探究学習の手法を応用して社会課題に挑む
  3. 全教員が,探究だけでなく教科指導において,PBL×デザイン思考の知見を生かした授業を行う
  4. 学校全体が,生徒の学習活動や学びの成長を適切に評価する
アドバイザーコメント
稲垣 忠 先生
東北学院大学
教授 稲垣 忠 先生

4月から芝浦工業大学附属中学高等学校ではじまった新たなカリキュラムのもとで公開研究会「探究DAY」が7月に開催された。GC(GlobalCommunication)とIT(Information

Technology)の2本立ての探究プログラムのうち、GCの成果を発表する機会だった。オンラインでの視聴となったが、生徒たちが探究を通して何を学び、どのような成長があったのかを拝見することができた。その詳細は活動報告書の方をご覧いただきたいが、アドバイザーの視点から印象に残った点は以下の通りである。

まず、成果としてコロナ禍で多様な体験活動に制約がかかる中、学校周辺の豊洲の街歩き、水陸両用バスのスカイダックで海から街を理解するといった豊かな体験の機会を用意し、生徒たちの問いを引き出すことに成功していた点が挙げられる。さらに、問いの追究の機会として、重工業メーカーのIHI、マルハニチロ、住友ゴム工業など、多様な工業が集積している豊洲の立地をいかしたオンラインによる講義と企業訪問を実施した。これらの活動は、昨年度に担当教員チームが自ら探究し、教材としての価値を十分に理解していたことに裏打ちされている。街歩きでも、街の特徴、歴史や背景を理解できるよう、現在と過去を対比しながら見ることができるオリジナルの探Qマップを開発するなど、生徒の興味を引き出す工夫が随所にみられた。生徒たちにとって、これまで通学・生活の「風景」でしかなかった豊洲の街の見え方がガラリと変わる経験になったことが生徒たちが立てた問いからも伺い知ることができた。

生徒たちのプレゼンテーションはオンラインでの発表ではあったが、何に関心をもち、どのような体験を重ね、自分たちで追究した結果、何がわかったのかを伝える構成だった。クラスごとの発表の後、クラウドを使って即座に集計した結果をもとに実施された選抜チームによる全体発表会では、オンラインであっても特に聞き手に対するアピールが明確なチームの活躍が目立った。探究を通して発見した事実、追究の面白さを参観した保護者、ゲストとして参観したお世話になった各企業の担当者に意欲的に伝えようとしていた。

課題点の1つはプレゼンテーションの内容のしぼりこみである。豊かな体験をしているからこそ、伝えたいことは多岐にわたる。一方でプレゼンテーションには、きっかけになった体験、見つけた問い、追究したこと、その結果わかったことといったストーリーの一貫性が求められる。つまり、情報の受け手を想定した情報の取捨選択と、相手に伝達するための論理の構成が鍵になる。ストーリーの合間に直接追究に関わらない活動報告が入ってしまうと受け手はストーリーを見失ってしまう。共通の体験は発表会のオープニングで紹介するなどして、体験報告の機会と追究成果の報告の機会を整理するとよいだろう。

もう1つは、追究課題と生徒のグルーピングの関係である。GCでは学期中、生徒たちは一貫して同じグループで活動する。共通体験を通して相互の関係づくりを深める、互いを理解し、役割分担やチームワークを考えるなど、同じグループで継続的に活動することのメリットは多い。一方で、問いを立てる場面でメンバーの関心が拡散してしまうと、お互いが深め合いきれずに総花的な成果物になるリスクがある。立てた問いを精選するか、相互に関連づけて一段深めた問いを見出すなど、そのグループで追究するテーマを整理するか、問いの共通性をもとにグルーピングを再編成するか、いずれかの対応となる。共通体験の期間をしぼりこみ、後半の企業訪問はテーマごとに分かれて実施するなど、長期に渡る探究活動の中で共通体験と個々の関心の追究のバランスをとっていくことが重要になる。

探究DAYと別に、この期間中のアドバイザーとして関わらせていただいたのが、全教員向けにPBLの研修を実施したことである。オンラインでの研修実施となったが、参加された先生方からは多様なプロジェクトのアイデアが飛び出し、今後のカリキュラムの充実への期待がいっそう高まる機会となった。生徒からみると、カリキュラムは一部の特別なプログラムだけで成り立っているものではない。日々の教科の学習とGCやITのつながりが感じられたときに、カリキュラムの総合力として生徒たちの力を伸ばしていくことになる。生徒にとって意味のある課題(ミッション)の解決を目指して探究するPBLは、どの教科、どの単元でも、手軽に実施できるものではない。複数教科でPBLが並行すると、生徒にとって過大な負担になるリスクもある。それでも、教科における理解を中心とした授業と、探究における実社会とつながる学びを仲立ちするのが、教科においてPBLに取り組む価値である。各教科の見方・考え方が実社会の課題解決とどうつながるのかを生徒たちは幅広く体験・気づく機会になる。また、SHIBAURA探究スキルのように幅広く学ぶ力の伸長を目指すものであればこそ、多様なスキルを獲得する機会と発揮する機会を全教育課程を通じてバランスよく配していくことが求められる。

9月以降、江戸時代のさまざまな伝統工芸を題材とした新たな探究に取り組むと聞いている。文化・歴史的な面、技術的な面、後継者の育成や伝統を守ることと新たな取り組みのバランス、観光や町に与える影響など、さまざまな側面から追究できる魅力的なテーマである。探究スキルの伸長とともに、多様な切り口で探究することの面白さを味わうことが、一人ひとりの学びの個性の基盤づくりになっていくだろう。