京都府立南陽高等学校附属中学校

第45回特別研究指定校

研究課題

「学びのアトリエ」と「つなぐ展示」によるSTEAM教育の充実化と国際展開
~学びの表現活動と多様な他者との相互鑑賞による触発の連環に向けて~

2019年度01-03月期(最新活動報告)

最新活動報告
本校は、開校当初から、日本国内での実践例が少ないSTEAM教育を柱とし......

アドバイザーコメント

小柳和喜雄先生
2月21日に、1年目の研究成果の発表が行われた。その際、日本全国から......

京都府立南陽高等学校附属中学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 京都府 京都府立南陽高等学校附属中学校
アドバイザー 小柳 和喜雄 関西大学 教授
研究テーマ 「学びのアトリエ」と「つなぐ展示」によるSTEAM教育の充実化と国際展開
~学びの表現活動と多様な他者との相互鑑賞による触発の連環に向けて~
目的 展示品への閲覧・コメント可能なWebサイトの構築と海外とのオンライン交流による、STEAM教育の充実化と国際展開を図る。
Web上に作品を企画・展示し、鑑賞及び省察することによる教科の知識の定着と応用力の涵養を図る。
現状と課題
  • 本校にはCALL教室はないが、一人1台のタブレット端末や電子黒板を導入し、Wi-Fi環境を活用して、実践研究を推進している。
  • 一人1台のタブレット端末の貸与により、協働学習、個別学習の両方を推進している。
  • ICTを活用した授業を提案するため、校内に複数教科の教員で構成するプロジェクトが立ち上がった。(2018年度から継続)
  • 2018年に比べ、タブレット端末を活用した授業を展開している教員が増えてきた。
  • 実践研究を附属中学校での取組に留めず、高校での実践に広げる方策が未定である。
学校情報化の現状 教科指導におけるICT活用は、現時点では数値は低いが、推進体制が整いつつあるので、今後充実すると思われる。
取り組み内容
  • 学校設定科目『ダ・ヴィンチ』と各教科の連携授業(昨年度の取組と今年度の実践)
  • 国語:ビブリオバトル開催(言語能力育成)
  • 数学:水道料金の算出(一次関数の応用)
  • 家庭:刺し子を施した風呂敷製作(文化の継承)
  • 音楽:グループ作曲(協働学習、相互評価)
上記の内容を、Skype授業でフィリピンにある英会話学校の講師にプレゼンテーションを行った。2019年度は、各教科で学んだ成果を“作品”と捉え、ウェブサイト上に“展示”し、国内外を問わず公開する。多様な他者との相互鑑賞により、表現力の向上と相手意識の芽生えを促す「対話型鑑賞教育」の実践に取り組む。
成果目標
  • 2019年度の実践計画の柱であるオンライン上の生徒発表に対する国内外のサーバー閲覧者(以下、コメンテーター)とのやり取り を、より実践的なものにする。
  • コメンテーターの所属範囲が広がることで、同質性の視点に異質な観点が加わることを実現する。
  • 上記のやり取りを、多角的な能力開発と学びに対する新たな興味・関心・意欲の喚起をもたらすことにつなげる。
  • 本校でのプロジェクトを社会の変容に対応した教育実践にするため、学校間連携、他校種間連携を実現し、STEAM教育推進のモデル校を目指す。
助成金の使途 iPad 9.7インチ、Apple TV、Apple Pencil、3Dプリンター、3D Scanner for iPad、旅費、製本及び発送費他
研究代表者 杉本 喜孝
研究指定期間 2019年度~2020年度
学校HP http://www.kyoto-be.ne.jp/nannyou-hs/mt/
公開研究会の予定
  • 4月20日 次世代大学教育研究会にて発表
  • 6月21日  The First Ocean Park International STEAM Education Conference 2019 (香港) にて発表

本期間(4月~7月)の取り組み内容

  • ・The First Ocean Park STEAM Education International Conference 2019で実践発表を行った。(6月21日)
  • ・香港の私立小中学校であるGood Hope School(望徳学校)を訪問し、学校間連携の枠組みの確立について話し合った。(6月24日)
  • ・第1回Skypeセッションを実施した(1年)。(7月12日)
  • ・アドバイザーの講演会を実施した。(7月12日)
  • ・数学、社会、英語のコラボ授業(1)を実施した。(7月12日)
  • ・国語と英語のコラボ授業(2)を実施した。(7月18日)

授業報告

授業者:杉本喜孝・前原陽一

 7月18日(木)に、国語と英語のコラボレーション授業を行った。京都工芸繊維大学の坪田康准教授にご助言とタブレットの貸与を受けたことで授業の実施をすることができた。

 今回の授業の目的は「日本語と英語の音声について科学的に分析しよう」というものである。日本語は基本的に子音と母音の組み合わせで発音を行っているが、日常生活においてその点が意識されることはない。また英語は発音記号も明示されているため、日本語に比べれば発音を意識する機会は多いと言えるが、発音に気を取られているためか英語独特の強弱アクセントへの意識はやや弱いということができるのではないだろうか。

 今回は音声レベルで日本語と英語に触れながら科学的に分析することを目標とするが、引いては発音やイントネーション、アクセントといったものについて自覚的になることも狙いとしたい。

 ツールとしてはタブレットの逆再生アプリを使用する。逆再生アプリを使用すれば、音声(子音と母音の組み合わせ)について理解を深めることが可能である。例えば「まえはら」と機器に音声入力し、それを逆再生すると「らはえま」とは聞こえない。一度ローマ字として処理(maehara)し、それを逆再生した音声になる(araheam)のである。よって、アプリには「アラヘアム」と入力すれば、逆再生をした際に「まえはら」と聞こえる音声を獲得できる。

 しかし、いくつかの例外がある。それを以下に列挙していく。

  1. 1.「にゃ(nya)」「にゅ(nyu)」「にょ(nyo)」などの拗音を含む文節の場合、子音の連続のため通常は発音できないが、半母音である「y」を「い」と発音することで逆再生が可能になる。「y」が半母音であることが良くわかる現象であり、同様の現象は「w」にもみられる。
  2. 2.助詞の「は」は、表記通りの「ha」という音声ではなく、「wa」というかたちで録音しなければならない。これはハ行転呼と言われる現象で、平安時代ごろから日本語にあった現象である。
  3. 3.「sokuhou(速報)」を逆再生した場合に「そくふぉう」と聞こえてしまう。これは逆録音する際に「uohukos」と入れるつもりが、中央の「h」を「f」として発音してしまうために起こっている。これを防ぐためには意識的に「f」ではなく「h」の発音をする必要がある。
  4. 4.「shi」の音声のうち「h」の音声は逆再生をした場合に拾い上げることができないため、「h」を含まない「すぃ」のような音になってしまう。この現象は「tsu」にもみられる。この3と4の現象は、ヘボン式のローマ字がいかに発音に忠実かを示す現象であるといえる。

 これらの日本語の特徴を踏まえたうえで、授業の後半では英語の音声を録音し、英語科教員に質問をすることにした。まずは英語でも同じことが可能かという問いかけをし、生徒に考えさせる時間を取った。およそ三分の一の生徒が「できると思う」と答え、三分の二の生徒が「できないと思う」と回答した。それぞれの根拠は、「英語にも発音記号があるし、それ通りに逆の音声を録音したらできるはずだから」「確かに発音記号はあるが、日本語よりも発音が複雑で録音できないと思うから」と説得力のあるものであった。活動を行い、実際に英語科教諭に質問をしたところ、8つの班のうち5つで質問と応答が成り立ち、3つの班では失敗した。応答が成り立った班の質問も「Who are you?」のような単純なものが多く、質問が長くなれば理解しにくいという状態であった。

 その結果を踏まえ、日本語と英語の音声的な違いについて言及した。それが以下の表である。

日本語 英語
音節 基本は開音節(母音で終わる)
ウォーク(woːku)
基本は閉音節(子音で終わる)
walk (wɔːk)
母音の数 約26
子音 子音1+母音1が多い 子音の連続も多い
アクセント 高低 強弱

授業後のアンケート結果も、生徒の学びの深まりや興味関心の高まりを示すものであった。以下アンケートからの抜粋である。尚、( )内は前原による補足である。

  • ・イントネーションやスピードだけで全然違ってくることが分かった。
  • ・子音だけになったときにどう発音するか悩んだ。
  • ・人が音を感じ取って発する仕組みのすごさがわかった。
  • ・日本語の時に子音が変化すること。(h→f、h→w)
  • ・「r」の音や「n」を逆再生したときはどうなるのか知りたい。
  • ・発音記号をもっとうまく使う方法は何か。
  • ・他の言語でも可能なのか。
  • ・強弱の調整や音の高低の調整が難しい。
  • ・英語の方が難しかった。
  • ・発音記号をそのまま読んでもいまいち。(忠実に発音できない)
  • ・聞いた音声のまねをする方がうまくいった。
  • ・「wa」ではなく「ha」を使ったらどうなっていたのか。
  • ・英語で回文はつくることができるのか。(音声レベルで)
  • ・「国宝」の発音が分からなかった。(破裂音kを含むため)

 日本語と英語の違いについて、知識的なものだけではなく音声レベルで実感することができたため、貴重な時間になった。以下は指導案と、実際の活動の場面の写真である。

  1. 1 対象 2年A組40名
  2. 2 日時 令和元年度7月18日(木)
  3. 3 場所 121、122教室
  4. 4 単元名 「国語と英語を科学する!? 逆再生による分析」
  5. 5 単元についての詳細
     ○冒頭で確認したため説明を省く。
  6. 6 目標
     ○日本語の発音が子音と母音の組み合わせであることを確認し、日本語と英語の音声的な違いを理解する。
  7. 7 評価規準
     ○積極的に話し合いを行い、学習活動に取り組めたか。(観察)
     ○日本語の発音、英語の発音について理解を深められたか。(アンケート)
  8. 8 本時の展開
過程 指導内容 学習活動 指導上の留意点 評価規準
【第一時】
導入
10分
・日本語の音声について ・教員のデモンストレーションを聞き、授業の見通しを持つ。 ・日本語が子音と母音の組み合わせであることを確認する。
・教員自身が逆再生アプリを使用して確認していく。
・観察
展開1
25分
・逆再生の音声を用いることで日本語の音声的な理解を深める。 ・逆再生を行いながら、文章の違和感に気付く。 ・お題を提示する。
1.ありがとうございます。
2.醍醐寺は国宝だ。(hとf、ハ行転呼)
3.ニュースをお伝えします。(拗音、shi)
展開2
10分
・逆生成をするとおかしくなってしまう部分をどのように解決したかを発表させ、共有する。 ・お題の文章についておかしくなってしまう部分を修正し、その方法を発表する。 2つめのお題ではhとf、ハ行転呼について、3つめのお題では拗音、shiについて触れる。
・できるだけ生徒から発音の工夫を引き出させる。
・観察
【第二時】
過程 指導内容 学習活動 指導上の留意点 評価規準
導入
5分
・考えた内容を発表させる。 ・英語でも同じことが可能かどうか、発音記号のプリントを参考にしながら考える。 ・質問で使用するであろう単語の発音記号集(プリント)を配布し、英語でも逆再生でコミュニケーションを行うことができるか考えさせる。
・両方の立場からの意見を吸い上げるようにする。
・観察
展開
25分
・第一時と同じく逆再生の活動に取り組ませる。 ・英語の逆再生質問の作成に取り組む。
・完成した質問は保存しておく。
・言語はコミュニケーションツールであることを踏まえ、「人に文章として意味が伝わるかどうか」を判断基準とすることを必ず伝える。 ・観察
まとめ
10分
・日本語の発音が子音と母音の組み合わせであることを確認し、日本語と英語の音声的な違いを理解する。 ・教員の話を聞く。
・振り返りのアンケートを記入する。
・クラス全体の場で、記録した音声を英語教員に聞いてもらう。
・日本語が開音節(母音で終わる言語)であることや、英語が閉音節(子音で終わる言語)であることを説明する。
・アンケート

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・7月12日に実施した講演会で、特別研究指定校の意義を話していただき、以下の点を研究組織の教員で共有した。
  1. ①目標の明確化
  2. ②実践スケジュールの確認
  3. ③現状を見つめる機会の設定
  4. ④評価計画の設定
  5. ⑤取り組みの成果を見つめるために
    1)成果に関する行動変容に関する評価(成果の直接評価)
    2)成果に関する意識の変容に関する評価(成果の間接評価)
    3)取組に関する評価

本期間の裏話

  • ・実践開始以降、研究スタッフと外部専門家とのつながりが増えてきたこと。
  • ・研究スタッフから実践に対する自発的な提案が生まれてきたこと。
  • ・組織的取組により、教員の専門性が今まで以上に生かされる実践が生まれてきたこと。

本期間の成果

  • ・1学期に、昨年度とは異なる内容の2つのコラボ授業が実施できた。

今後の課題

  • ・本来の授業計画に支障のない範囲で、教科間のコラボ授業を実践すること。
  • ・PDCAサイクルのうち、研究計画とその実施に対するCheck体制を疎かにせず、改善が積み重なるようにすること。

今後の計画

  • ・11月22日(金)1,2年のSkypeセッション及びアドバイザーの第2回訪問アドバイス。
  • ・同日に外部講師を招いて、外国語によるコミュニケーションの効果的な進め方についての講演を依頼している。その直後に行われるSkypeセッションを参観してもらい、今後の活動でさらに表現力が増すようにしたい。

気付き・学び

さまざまな取組内容を校内に周知(本校ではチームコミュニケーションツールのSlackを利用)することで、新たな枠組みが生まれてきた。このことが、アドバイザーの助言にもあった、スタッフ同士の互恵的な関係構築を進めることに繋がると期待している。

成果目標

  1. ・他教科との連携を一層促進し、全校体制の充実を図る。
  2. ・11月のSkypeセッションに向けて、ダ・ヴィンチでの2年生の個人研究を充実させる。
  3. ・個人研究の発表をビデオ撮影し、Web上の仮想ミュージアムに順次アップロードする。
アドバイザーコメント
小柳和喜雄先生
関西大学 総合情報学部・大学院総合情報学研究科 教授
教授 小柳 和喜雄 先生

1.研究テーマ・取り組みについて


 「京都府立南陽高等学校附属中学校」は、京都府立南陽高等学校の敷地に併設された緑豊かな市街地にある中学校である。2018年4月に開校され、京都府内5校目の公立高校附属の中学校であり、各学年1クラス、現在1,2年生80名が学んでいる新しい学校である。

 生徒の探究的な学びを大切にしている姿が印象的であり、現在在籍している隣通しの教室関係にある1,2年生が非常に快活で、意欲と自信を持って何事にも取り組んでいる様子が初回の出会いから感じられた。教室の後ろに掲示されている「行動規範」(右図)は、自立的自主的な姿を物語っていた。生徒たち自らが投票を通じて明確にしたもので、選ばれている表現もユーモアがあり、具体的な姿をイメージできる説得性を持つものであった。1)時間(とき)を待とう、2)授業は、つくるー騒は喪、静は生ー、3)360°―  =0°―美しさとは―、4)心にも制服をー一人一人が南陽ブランドー、5)行動に責任をーグレーは白ではないー、6)みんなのhappy!! 大切に。

 ICTに関しては、STEAM教育の充実とその国際展開と関わって、その活用を位置づけている。STEAM教育の基盤となる教科横断型授業を、教職員チーム、学外関係者とともに実践研究を進め、その推進のコアとなる時間を設定し、学習の成果の発表と交流(展示、コメント可能なWWWの構築、それらの展示品をトピックとした国際交流)を通して、生徒および参加者の対話的・主体的な学びを豊かなものにしようとしている姿が見られた。

 本校の話によれば、これから2年の研究期間に、積極的に様々な場で成果の発表を行うとともに、教科横断のコラボ授業の推進し(STEAM教育と関わって)、「対話的・主体的な学びに対する学習目標の変容と新しい評価方法を確立」していきたいとのことであった。

 さらに、次の3つの点に、取り組むことも目標していると言うことであった。

 1)Web上の展示と、国内外からの鑑賞による生徒の理解の活性化
 2)Visual Thinking Strategy(対話型鑑賞)の導入により言語化による理解の深化
 3)教員のファシリテーション技術と授業デザイン技術の向上

2.本期間の取り組み・成果の評価

 4月に最初に訪問をした後、7月に訪問を行い、今後の取り組みに関する打ち合わせを行った。その際、skypeを活用した遠隔支援による英語コミュニケーションの授業を見る機会に遭遇した。

 そこでは、先に述べた、Web上に展示された作品や研究成果と関わって国内外からの鑑賞に応えていくVisual Thinking Strategy(対話型鑑賞)と関わる取り組みの姿が見られた。

 右の写真にあるように、skypeを用いて、順番に一人一人が話す機会を作り、グループでそれを支え、またその姿をモニターし互いに活かしていこうとしている姿が見られた。

 この授業参観後、本時の授業から共通に学べた点の整理、今後の学びの方針についての確認に関わって、意見交換が行われた。

 Skypeを用いた英語コミュニケーションの姿から、これまで試みてきた実践の蓄積が感じられ、学校全体の取り組みとして、研究計画に即して、取り組みを振り返り、その改善につなげていく意気込みが感じられた。

3.今後の期待

 京都府立南陽高等学校附属中学校の取り組みは、他の学校にはなかなかまだ見られないSTEAMへの挑戦とそれに至るための理論的裏付け、具体的な手続きを進めてきた歩みがある。学校創設2年目の取り組みであるが、作り出していく雰囲気が感じられる。これを継続的に進め、それらを学校全体の財産としていくためには、今後、実践の成果をエビデンスに基づきながら、保護者、他校、地域に語っていく取り組みが求められる。それらを語る取り組みを積み重ねることにより、学校自体でも取り組みをより整理できると思われるからである。実践の成果の評価に基づきながらも、その成果を導いた各取り組みの評価を生徒、教員間、学外関係者と丁寧に見つめ、より目指している姿に近づいていって欲しい。

(奈良教育大学 小柳和喜雄)

本期間(8月~12月)の取り組み内容

  • ・国語、体育のコラボ授業の実施*1(10月15日) *1:報告書の最後に指導案他を掲載▼
  • ・暗号作成と豆電球によるメッセージ送信競技大会の実施(ダ・ヴィンチ)(11月12日)
  • ・学会(国際・国内)、研究会での実践発表(国語、理科、地歴科、数学科、英語科教員)
  • ・第2回Skypeセッションを実施した(11月22日)
  • ・アドバイザーの講演会を実施した(11月22日)
  • ・iPadを活用したプレゼンテーションの実施(理科)(12月13日)
  • ・数学・英語のコラボ授業の実施(12月19日)

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・目標の明確化
    ⇒ コラボ授業計画の段階で指導案を作成し、授業目標を明確にした。
  • ・教員同士の互恵的な関係の構築
    ⇒ 同一教科のみならず、他教科の授業を参観することで、教授法のヒントを得ることができ、同僚性の向上につながっている。
  • ・教員の専門性に灯をともす
    ⇒ 外部研究会に参加することにより、実践発表の機会が得られ、授業のデザイン力向上につながっている。
  • ・目標の明確化
    ⇒ 多重知能の伸長に向けて、学校設定科目ダ・ヴィンチにおいて、生徒が自主的に研究テーマを設定するための助言を多くの教員が共有し、多角的な側面からの支援ができた。
  • ・取り組みの成果を見つめる
    ⇒ 成果発表のプレゼンテーションでは、教員が生徒評価を行い(成果の直接評価)、今後の研究内容の充実化につながるよう、生徒には振り返りシートにより自己評価(成果の間接評価)をさせることができた。

本期間の裏話

  • ・研究組織の複数の教員が校外の研究会に参加し、本校のSTEAM教育の取り組み内容を伝える役割を果たしたこと。

本期間の成果

  • ・1学期とは異なる教科間のコラボ授業を実施することできた。
  • ・2年生がさまざまな研究テーマを設定し、外国語を使用してコミュニケーションを図ろうとする今まで以上に積極的な姿勢を示したことは、1年生にとって良い刺激になった。

今後の課題

  • ・研究大会実施に向けた構想の仕上げと準備

今後の計画

  • ・2020年2月21日(金)に本校を会場として、STEAM教育実践研究大会を実施する。
  • ・生徒の学習活動をWeb上にアップし、国内外の視聴者とのやり取りを実現する。

成果目標

  1. ・2月のSkypeセッションに向けて、生徒(2年生)の自主研究のサポートを充実させる。
  2. ・研究成果のWeb上(Dropbox等)へのアップロード実現に向けて、校内の体制を及びアドバイザーとの打ち合わせを進捗させる。
  3. ・国内外の研究・教育機関との連携事業(Web上でのやり取り等)を計画する。

体育科・国語科 教科横断型授業 指導案

京都府立南陽高校附属中学校
教諭 小谷 栄二(体育科)
長谷川 孝(体育科)
前原 陽一(国語科)

1 対象  附属中学校1年A組(40名)

2 日時  令和元年度10月15日(火)4限目

3 場所  格技場

4 単元名 「身体表現と言語表現の関わりに関する試み」

5 単元について

 人間は情報を処理する際に、これまでの自分の経験を基にしたスキーマ(枠組み)を用いている。例えば何も知らずに次のような文章に目を通してみてほしい。新聞の方が雑誌よりいい。街中より海岸の方が場所としていい。最初は歩くより走る方がいい。何度もトライしなくてはならないだろう。ちょっとしたコツがいるが、つかむのは易しい。小さな子どもでも楽しめる。一度成功すると面倒は少ない。鳥が近づきすぎることはめったにない。ただ、雨はすぐしみ込む。多すぎる人がこれをいっせいにやると面倒がおきうる。ひとつについてかなりのスペースがいる。面倒がなければ、のどかなものである。石はアンカーがわりに使える。ゆるんでものがとれたりすると、それで終わりである。

(西林克彦(2006)「わかったつもり:読解力がつかない本当の原因」光文社新書)

 一見すると意味の分からない文章だが、これは「凧あげ」について書かれた文章である。それを知った状態で再び文章を読んでみると、非常に理解度が上がるだろう。

 日々人間はこのスキーマを用いて情報処理を行っているわけであるが、その中でも特に顕著なのが身体運動である。分かり切っているはずのラジオ体操の冒頭を引用してみたい。

 腕を前から上にあげてのびのびと背伸びの運動から

はい! 1、2、3、4、5、6、7
手足の運動
1、2、3、4、5、6、7、8
1、2、3、4、5、6、7、8
腕を回します
外回し 内回し 5、6、7、8 1、2、3、4、5、6
胸の運動
脚を開いて横ふり
斜め上
5、6、7、8
1、2、3、4、5、6
体を横に曲げる運動…(大久保三郎&柳川英麿Ver.)

 この歌詞も、言ってしまえば大変いい加減である。「腕を前から上にあげてのびのびと背伸びの運動から」という指示はともかく、続く「手足の運動」では何が何やら分からない。手足をどのように動かしたら良いか全く指示が含まれていないからである。余談ではあるが、さすがにこれでは不親切だという話になったのか、2018年3月30日、YOUTUBEにNHK公式チャンネルから追加された「ラジオ体操第1」では「腕を振ってあしをまげのばす運動」という呼称がなされている。

 このラジオ体操の例のみならず、身体運動を伴う表現、例えば絵描き歌でさえも、完成した形を知らなければ忠実に身体運動を再現することは困難である。

 しかし、身体運動を説明するために言語表現は不可欠である。写真や図といった視覚的な表現のサポートとして働くだけでなく、小説では登場人物の行動を精緻に描写する手段として用いられていることからも明らかであろう。

 今回の授業では身体運動と言語表現の結びつきを考えるために、導入として三浦しをん『風が強く吹いている』(2006年 新潮社)の一部を引用する。その一部を引用することで、「身体運動」と「言語表現」が強く結びついていることを確認する。続いて言語表現のみで身体運動を伝達することを通してその不完全さを感じていく。授業の最後には生徒に新たな視点を提供することで、「身体運動」における「言語表現」の可能性について考えさせたい。

6 目標

  1. ・身体運動と言語表現の結びつきについて考えを深める。

7 評価規準

  1. ・身体表現と言語表現の結びつきについて考えを深められたか。(感想記入)

8 本時の展開

過程 指導内容 学習活動 指導上の留意点 評価規準
導入
10分
  • ・身体表現と言語表現の結びつきについて説明する。
  • ・ホワイトボートにあらかじめ書いておき、時間のロスをなくす。
  • ・複数の意見を聞く。
  • ・生徒にプリントを配布し、一つずつ丁寧に読み上げ確実に行う。
展開1
25分
  • ・次に行うジェスチャーゲームのルール説明をする。
  • ・4つの班に分け、格技場の外で先頭の生徒に動きを伝える。
  • ・他のメンバーを四隅へ移動させる。
  • ・先頭の生徒は動きを覚える
  • ・他の生徒は格技場の四隅へ移動し待機する。
  • ・動きを覚えたら格技場内へ。教員の合図を待ち、情報伝達を行う。
  • ・ジェスチャーゲームの間は各班を巡回、動作によって情報伝達をしていないか確認する。
  • ・卓球台で四隅を囲むように配置し、他の班の動きが視覚情報として伝わらないようにする。
展開2
10分
  • ・前に出るように指示する。
  • ・最後の生徒はグループを代表して全員の前で動きを見せる。
  • ・ストップウォッチを用いて時間計測を行う。
  • ・卓球台の仕切りを4つ立て、生徒を4人、中央に見本の動きをする教員が入れるスペースを作る。
    生徒 | 生徒 | 教員 | 生徒 | 生徒
まとめ
5分
  • ・身体運動と言語表現について話をする。
  • ・最も効果的に動きを伝える方法は何か考えさせる。
  • ・身体表現に限らず、言語化できない予測不可能な未来の広がりについて言及しても良い。
  • ・最も効果的に動きを伝える方法を考える。
  • ・教員のまとめを聞き、考えたことをアンケートに記入する。
  • ・「視覚的なサポートが望ましいが、視覚に障害があればどうか」など、生徒を揺さぶる発問を行う。
  • ・また、視覚に問題がなくても技術の向上に伴って見本の動きが見られない可能性もある。

○ホワイトボードに書く内容

藤岡(ライバル校の主将)は強い。走りのスピードも並ではないが、それを支える精神力がすごい。俺がただがむしゃらに走っているときに、きっと藤岡はめまぐるしく脳内で自分を分析し、もっと深く高い次元で走りを追求していたのだろう。走はうちひしがれると同時に奮い立つという、奇妙な興奮を味わった。

俺にかけていたのは、□だ。もやもやを、もやもやしたまま放っておくばかりだった。でもこれからはそれじゃあだめだ。

三浦しをん『風が強く吹いている』P255(新潮社 2006年)

発問1「□の中にはどのような言葉が入ると思うか」(正解は“言葉”)

○ジェスチャーの内容

一つ目の動き 大の字→左手の先を右のつま先へ→大の字→左右逆転して同様の動き

二つ目の動き 大の字→手を地面と平行にしたまま右ひざを曲げ、伸脚のような姿勢→手を胸の前で合わせる(「いただきます」のようなポーズ)→上半身を左へひねり、後ろを向く→前を向き、手を地面と平行に戻し、大の字へ復帰→左右逆転して同様の動き

○ジェスチャー伝言ゲームのルール

  1. ・10人一組で行う。より正確にジェスチャー(身体運動)を伝えられたグループを勝利とする。
  2. ・ジェスチャーを伝えるのは言葉だけである。実際に動きをするのは禁止する。
  3. ・制限時間は一人2分とし、その制限時間以内に動きを言語で伝達する。

○具体的な流れ

  • 10人グループのうち先頭の生徒は長谷川先生と共に格技場の外へ移動し、動きを伝えてもらいます。
  • 残りの9人は格技場の四隅へ移動します。
  • 先頭の生徒が戻れば、教員の合図でスタートです。ジェスチャーを伝える人は隅に立ち、体育館中央を向きます。伝えられる人は隅に立っている生徒から2メートルほど離れ、隅に立っている人を見ます。これは、他のグループの動きを見ないためです。待機している人たちは目隠しをし、どのような動きを伝えているか見ないようにしてください。
  • ジェスチャーを伝える人は口だけで情報を伝えます。体を動かして動きを伝えるのは失格です。
  • ジェスチャーを伝えてもらう人は体を動かして構いません。ジェスチャーを伝える人はその動きを確認しながら情報の修正を行ってください。
  • 2分の制限時間が過ぎれば、教えてもらった人は隅に移動します。そして、次の人が教えてもらう位置に移動します。これを全員分繰り返します。
  • 最後は再び集合してください。ジェスチャーを最後に伝えてもらった人が全体の前でその動きをします。

【授業報告】

 国語と体育の教科横断型授業は、本校として、また、授業者としても初めての試みであった。しかし、生徒の反応は良好で、「楽しみながら身体運動と言語表現の関わりについて」考えるきっかけになった。 感想用紙の1.「ジェスチャー伝言ゲームは難しかったですか」という項目に対して、「難しい」と回答した生徒が30名、「簡単だった」と答えた生徒が9名、無回答1名という結果であった。代表的な感想を示す。

〈難しかったと答えた生徒〉

A:自分でこれなら伝わると思って考えて出した言葉でも、なかなか伝わらなかった。

B:自分の考えていることと相手が想像するものが違うこと。

C:個人個人の言葉の意味の違いが少しずつあって難しかった。

〈簡単だったと答えた生徒〉

D:言ったことをしっかりやってくれたから簡単だった。

E:イメージをして行動に表すのは簡単だった。

F:普通の生活の中でつかうことを例にすればよい。

〈どうすれば伝わりやすくなるか〉

H:細かいことをしっかりと教えてあげる。

I:擬音語をできるだけ使わないようにする。

J:語彙力を増やす。

〈自由記述〉

K:無意識に言葉+ジェスチャーを使って話していることがこのジェスチャー伝言ゲームで思いました。だから、言葉だけで伝えるためには“語彙力”が大切だと思います。

L:自分が通じた言葉も人にとって通じなかったので、人それぞれなんだなあと思いました。

M:はじめから目の見えない人はどうやって言葉を覚えたのか不思議に思った。

 〈難しかった〉と答えた生徒の回答は類似したもので、A~Cまたは、〈自由記述〉のLは、自分が言語化する動きと相手の受け取り方との差異について言及したものであるが、ここには「認識のずれ」に関する視点が含まれている。この点については、哲学・心理・自我といった方向に波及させるだけでなく、言語の恣意性、外国語母語話者との関わりと言った視点からも深めていくことが可能と考える。実際、この授業を見学していた英語科教諭の杉本は、「英語のコミュニケーションにとっても本質的な部分を含み、生徒に話したくなることが多い」として、授業のまとめの時間に、英語表現の側面から生徒に教示を行った。例えば、言い換え(paraphrase)の大切さに気付くことで外国語のコミュニケーション力が磨かれること、外国での不安の低減、異文化への理解である。

 また、感覚的な言葉だから個人の解釈が含まれているということを示唆している点で、〈どうすれば伝わりやすくなるか〉のIの回答も興味深い。今後、国語や英語の教科指導において、一考の余地があるかもしれない。この他にも、普段のコミュニケーションの中で身体表現が多く使われていることに気づいた生徒や、「語彙力」について「ことばが(で)伝える」という意味に限定して語彙力という言葉を使用している生徒もいた。こうした生徒には、身振り手振りに留まらない非言語的コミュニケーション(表情、声のトーンや調子)がコミュニケーションに占める割合は一定程度あることを指導したい。それにより、異文化理解教育につながることが期待できる。また、生徒アンケートを通して、今回の試みがさまざまな教科や分野に広がる可能性がみられたことは、教科横断型授業の特長を示していると考えられるのではないだろうか。今後は、他のコラボ授業も含め、ICT機器で録画した動画にコメントを載せてWebに掲載し、校内外及び国内外の閲覧者とのやり取りが実現できるよう、実践研究2年目にかけて計画を進めたい。

【当日の様子】

【三浦しをん『風が強く吹いている』の指導】

【体育教員によるルールの説明】

【代表生徒へのジェスチャー伝達】

【伝達された動作をジェスチャーで表現する様子】

【体育教員と最後の生徒が全員の前で答え合わせ】

【ホワイトボードに書かれたルール】

アドバイザーコメント
小柳和喜雄先生
関西大学 総合情報学部・大学院総合情報学研究科 教授
教授 小柳 和喜雄 先生

1.研究テーマ・取り組みについて

 7月の訪問時に、昨年1年を通した取組を通じて、生徒の姿などから本取り組みの手応えは感じているが、以下の 3つが検討課題として明らかになったことが確認されていた。

1)色々なアイディアを試す意図から実践を構想するが、それぞれの取組の関係づけが容易でないこと

2)学習課題設定及と対になるパフォーマンス評価の検討に悩んでいること

3)単元レベル、各単元を貫く継続的な見通しを持った、学習課題の系列の吟味が意識化されにくいこと

 11月の訪問時において、上記1)に関わって、STEAM 教育の基盤となる教科横断型授業の内容と探究の時間として設定している推進のコアとなる時間(ダ・ビンチ)の中で取り 扱う学習活動の関係が一覧できる表が作成されていた。これを通じて、各学年で年間どのような活動が互いに行われているかを、それぞれの取組の関係づけを省察できる道具が整ってきている姿が見られた。

 そして教科横断型授業の内容も参加教科が増え、さらに豊かにになってきており、取組のパフォーマンス評価に関しても授業研究を通じて検討していく姿が形作られてきていた。

2.本期間の取り組み・成果の評価

 この間、多くの取組が行われていたが、訪問時に参観できたSkypeを用いた英語コミュニケーションの成果を考えてみる。

 左の写真にあるように、7月に初めてskypeを用いた英語コミュニケーションに臨んだ1年生は、順番に一人一人が話す機会を作り、グループでそれを支え、またその姿をモニターし互いに活かしていこうとしている姿が見られた。

 この授業参観後、本時の授業から共通に学べた点の整理、今後の学びの方針についての確認に関わって、生徒間で意見交換が行われていた。

 11月の訪問時には、左下図にあるように、伝えたい内容をどのようにしたら相手にわかりやすく伝えることができるかについて、検討してきた姿が見られた。例えば、テレビ会議の機能を生かし、話の内容をより説得的に相手に伝えるために媒介物(話の内容とともにそれを通じて相互に質疑応答や深堀できるように)を用いてコミュニケーションを楽しんでいる姿が散見された。

 また先輩の姿を見る、アドバイスを得る取り組みも組み込んでおり、1年生と昨年から経験している2年生が、一緒に取り組む時間を設定している工夫も見られた。

 このような異学年による共通ツールを活用した学習活動は、一歩先の姿や自身の経験をしたの学年に語るメタ認知の学びを推進する効果も見られ、パフォーマンス評価や取り組みの評価をしていくうえでも意味ある取り組みと感じられた。

3.今後の期待

 前回も述べたが、京都府立南陽高等学校附属中学校の取り組みは、他の学校にはなかなかまだ見られないSTEAMへの挑戦とそれに至るための理論的裏付け、具体的な手続きを進めてきた歩みがある。学校創設2年目の取り組みであるが、生徒と教員が一緒に作り出していく雰囲気が感じられる。これを継続的に進め、それらを学校全体の文化,財産としていくために、実践の成果の視覚化し、その成果を導いた各取り組みの評価を生徒、教員間、学外関係者とひとつずつ見つめ、積み上げ,より目指している姿に近づいていって欲しい。

(奈良教育大学 小柳和喜雄)

本期間(1月~3月)の取り組み内容

  • ・1年生第3回のSkypeセッションの実施(2月19日)
  • ・全国研究発表大会の実施(2月21日)
  • ・数学教育ソフト(geogebra)を活用した数学の授業の実施(2月21日)
  • ・国語、理科のコラボ授業の実施(2月21日)
  • ・2年生第2回のSkypeセッションの実施(2月21日)
  • ・ダ・ヴィンチ代表生徒による成果発表の実施(2月21日)

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・STEAM教育の枠組みの中に、学校設定科目や教科間連携授業がどのように位置づけられているかを視覚化すること。
    ⇒今後、実践発表の機会を通じて外部の人が理解しやすいように工夫に務める。
  • ・ダ・ヴィンチの研究では、実験結果の発表に加え、結果に対する生徒自身の考えや感想を、そこに至る思考プロセスと共にストーリー化すること。
    ⇒研究課題を立てたきっかけや実験経過の報告をまじえて、より聞き手に伝わりやすい工夫をするような指導を心がける。

本期間の裏話

  • ・2年生のダ・ヴィンチでの成果発表を公開したところ、多くの教育関係者から高い評価を得ることができた。

本期間の成果

  • ・ダ・ヴィンチにおける研究に個性的な視点、新規性が見られるようになってきたことで、下級生に好影響を及ぼしている。
  • ・『学びのアトリエ』の時間を活用し、個別的に研究に取り組む生徒が増えてきた。

今後の課題

  • ・研究助成最終年度を迎え、これまでに取り組んできた研究の成果と課題に向き合い、新たな教科間連携授業の開拓や、STEAM教育を実践する他校との連携を模索する。

今後の計画

  • ・2020年後半から2021年初頭にかけて、最終報告会(全国大会)を実施する。
  • ・助成期間終了後の研究体制の継続的に刷新する。

1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い

 本校は、開校当初から、日本国内での実践例が少ないSTEAM教育を柱とし、「新しい価値を創造する人材育成に取り組む学校」として、中学校関係者に留まらず、高等教育機関の専門家からも注目されてきた。一例として、2019年6月に、香港で開催されたアジア初のSTEAM教育の国際学会に招かれ、数学科と英語科教員が協力して実践発表を行う機会を得ることができた。(香港国内の暴動が先鋭化する直前だったことは幸いであった)

 このことは、参加した教員だけでなく、教職員、生徒、保護者にとって本校の教育の方向性を明確なものとする点において、重要な位置づけとなった。

 それと前後する形で、奈良県、京都府、福井県、石川県、愛媛県、長崎県の各地で開催された研究会や学会で、国語科、地歴・公民科、数学科、理科、保健体育科、英語科教員が実践発表を行った。また、本府教育委員会や地元中学校、府外の教育関係者に授業を公開し、多くのフィードバックを得ることができた。

成果・感想

 ICT環境が先進化するにつれて学校教育の枠組みが変化し、生徒に対する学習機会の提供方法が個別最適化を迎える時代である。グローバル、サイエンス、フィロソフィーの3つを柱とした、「新しい価値観を創造する人材育成」という本校が掲げる教育理念は、そうした時代を先取りするものと言える。その3本柱を包含するのがSTEAM教育という位置づけで教育活動を展開し、開校から2年目を終えようとしている。生徒の知的好奇心の高さに触れることで、附属中学校の教育に携わる教職員間に、高校の授業を再構築しようとする機運が生まれ始めていることは、附属中学校が併設された相乗効果と考える。

次年度への思い

 2018年度の一般の部における研究助成から通算して、来年度は3年間の集大成の年となる。私たちは研究の裾野を広げるため、1年目から研究組織の増員と刷新を行ってきた。

 2020年度は附属中学校の完成年度となるが、1期生が高校課程に進学する2021年度からは、中高一貫教育の6年間を見通したSTEAM教育を、高校から入学する生徒に対して、3年間という時間の中でどのように位置づけていくかが問われる。中高一貫教育を理念先行、総論賛成という形に終わらせないためには、全教職員の理解と協力が必要不可欠である。今後は教職員の同僚性をいかに高めるかが課題である。

 また、世界情勢の変革スピードが加速する時代においては、教職員集団が高い教育理念を持ち、時代の変化を的確に捉え、学力の再定義が議論できる環境整備が必要となる。その議論の足がかりとなるよう、附属中学校での教育実践をまとめたい。そして、高校さらには大学卒業後の人生設計に資するよう、STEAM教育実践が、科学リテラシーや哲学を学ぶ機会の提供と、多民族・多言語社会における共生と共感を生み出す推進力の役割を担う活動となることを目指す。

〔2020年2月21日(金)に実施した研究発表大会から〕

国語・理科連携授業【生物を「仲間」で分けるグループ活動(左)、抽象化の説明(右)】

 この日の授業は、抽象化が個々人の生活体験や文化の違いによって変化することを理解し、自分自身の言語生活を振り返るとともに、「やばい」という言葉について考えを深めることを目標に行った。当日は、いくつかの語を「やばい」に置き換えたスイミーの冒頭を読むことで、「やばい」の便利さと曖昧さを実感させた。具体や抽象といったことばの理解ができたことや自分自身の言語生活について振り返りができた点は評価できる。その一方で、参加者のアンケートにも見られるように、理科の要素が薄まってしまったという印象は拭えない。2時間連続であれば、具体化・抽象化ということばをもう一度理科に戻って確認することもできたと考える。今回の反省を踏まえ、次回の実践を計画したい。

スイミー冒頭

広い海のどこかに、小さな魚のきょうだいたちが、たのしくくらしていた。みんな赤いのに、一ぴきだけは、からす貝よりもまっくろ。およぐのは、だれよりもやばかった(はやかった)。名前は、スイミー。ある日、やばい(おそろしい)まぐろが、おなかをすかせて、やばい(すごい)はやさでミサイルみたいにつっこんできた。一口で、まぐろは、小さな赤い魚たちを、一ぴきのこらずのみこんだ。にげたのはスイミーだけ。

『スイミー小さなかしこいさかなのはなし』(レオ・レオニ昨 谷川俊太郎 訳、好学社)

ICTを活用した数学の授業【電子黒板で空間図形を確認している様子】

 この日の授業は、空間図形,特に立体の切断の問題は、そのイメージのしづらさから苦手とする生徒が多いため、ICTを活用することで視覚的に問題を捉えさせることである。また、切断を考えるポイントを理解することで、ICTを使わずに立体の切断を考えられることを目標として行った。

ダ・ヴィンチ【2年生代表生徒による発表(左)、1年生数学班の作品(右)】

 自由研究に取り組んだ2年生の中から、4組の代表が発表を行った。

 それぞれのテーマは、『2092年のオリンピック100m走のタイムを予想する』、『指紋について』、『聴覚障害の方に音楽を楽しんでもらう方法』、『プラスティックから海を守る』というものであった。ダ・ヴィンチではそれぞれの探究活動に対し、発表・評価をさせることで、発信力を身につけさせ、学習内容の深化と思考の整理をさせている。また、意見交流を活性化させることで、批判的思考力(critical thinking)の育成を目指している。今回の発表会でも、生徒の間で活発な質疑応答が行われた。

Skypeセッション【各自が研究テーマを発表している様子】

 「自分の英語(My English)で話すこと」―附属中学校の英語教育が目指しているのは、文法と語彙を獲得しながら、自分の考えや意見を「工夫した」表現で相手に伝えることである。この日の授業でも、各自がテーマを設定し、1人5分間でフィリピンの英会話講師とやり取りを行った。昨年実施した3回のセッションの後、外国語不安に関するアンケートを行った。第2回目で数値が上昇した項目もあるものの、第3回目では、概ねどの項目でも数値が改善(=数値が下降)した。このことから、Skypeセッションを体験することで、「伝えたい内容」に「伝わる工夫」をプラスすれば、コミュニケーションを図れることを実感した生徒が多いのではないかと言える。また、日本語メモをもとにその場で英語を考えながら発表している生徒や、写真を見せながら話す生徒が増えてきたことは、少しずつではあるが、英語を使ったやり取りの力がついてきたものと考える。

〔ダ・ヴィンチ最終講義『先人に学ぶ』より〕

【校長による講義の様子(左)、AETは毎時間参加している(右)】

【最も人気が高かった作品】

 1年間のダ・ヴィンチの最終講義では、校長が登壇。今回は、スティーブジョブズを取り上げて、文字フォントが人に与える印象の違いについて講義を行った。ジョブズがなぜコンピュータで使用されるフォントに興味を持ったかを紹介し、マトリックスを使って、さまざまな企業の社名やロゴに使われているフォントが与える印象の違いを分類した。講義の後、学んだことをもとに、生徒はグループ別に『上を向いて歩こう』のCDジャケットを作成した。フォントの組み合わせや文字の配置を工夫して、個性的なジャケットが仕上がった。

アドバイザーコメント
小柳和喜雄先生
関西大学 総合情報学部・大学院総合情報学研究科 教授
教授 小柳 和喜雄 先生

1.研究テーマ・取り組みについて

 2月21日に、1年目の研究成果の発表が行われた。その際、日本全国からSTEAM教育やICT活用の探究的な学習に関心を持つ人々が参加し、その発表から学び合う姿が見られ た。そこでは、STEAM教育に取り組む背景、それをどのように進めているかの詳細な説明 が学校からなされていた。STEAM教育の基盤となる教科横断型授業の内容と探究の時間 のコアとなる時間(ダ・ビンチ)の中で取り扱う学習活動が整ってきている姿が見られた。

2.本期間の取り組み・成果の評価

 この間も、多くの取組が行われ ていた。まず教科学習における ICTを活用した探究的な学習が、様々な場面で工夫されていることが公開授業を通じて示されていた。右の写真に見られるように、たとえば数学では、立体の断面の形状を考える授業の中で、立体を2次元で表現した図でまず考えさせる。そして各自、各グループの予想を、ICTを用いた3次元表現の図の中で確認する。その理由や見方を学んだ(見当を付けた)後、あらためて、2次元で表現された別の立体について考えるといった思考の往復活動が行われていた。そこでのICTの活用は「思考を深める」使い方であり、本校が目指しているSTEAM教育にもつながる、生徒が探究する時間の確保(テクノロジを活かして考える経験の積み重ね)が授業の中で保証されていた。

 次に探究の時間のコアとなる時間(ダ・ビンチ)の実践と関わって、これまでの取組について、展示コーナーが用意されていた。生徒が問いを持ち、それを探究していくプロセスの支援の様子がよくわかる内容であった(右図)。

 公開されたダ・ビンチの実践では、現今の環境問題に切り込むテーマに挑むグループや、中学生の柔軟な発想によって選ばれた興味深いテーマに基づく研究成果発表がICT を用いながらわかりやすく行われていた。興味深いのは質疑応答の活発さであり、とくに生徒による質問の質の高さには目を引くものがあった。生徒に探究の基盤となる、問いや探究プロセスが論理的に文脈的に妥当であるのかを見つめる目が育ってきているのが感じられた。

 また、STEAM 教育の実践も授業公開されていた。具体的な物事の共通性をとらえていくために分類を行うが、その際、カテゴリー化、命名、抽象化が行われる。しかしそれは個々人の生活体験や文化の違いによって変化する。そのことの実感を伴う理解に迫るために、自分自身の言語生活を振り返ることを経験させる実践であった。当日は、「やばい」という言葉に着目し、その多義性を、誰もが 小学校で出会ってきたスイミーの冒頭にあてはめ、この「やばい」という言葉の便利さと、一方で曖昧さを実感させる取り組みであった。生物と国語の学びをつなげ考えるSTEAM教育の実践の興味深いアイディアが出されていた。またこの授業 を通じて、STEAM教育の実践研究をどのような視点でとらえていくかのヒントも与えてくれていた。

 最後に、7月と11月の訪問時に参観できたSkypeを用いた英語コミュニケーションの取組もさらに充実、洗練化されていることが感じられた。

写真にあるように、各自の英語コミュニケーションの様子を、タブレットを用いて映像で撮影し、それをグループで振りかえる時間が授業の中に組み込まれていた。そして、この授業参観後、本時の授業から共通に学べた点の整理、今後の学びの方針についての確認に関わって、生徒間で意見交換が行われていた。

このようにICTを学習活動におけるコミュニケーションツールとして活用することに加えて、省察のツールとして、自身の姿を見て互いにそれを振り返り、一歩先の姿を語り合うメタ認知の学びを推進する取組も見られた。パフォーマンス評価や取り組みの評価をしていくうえでも意味ある取り組みと感じられた。

3.今後の期待

 前回も述べたが、京都府立南陽高等学校附属中学校の取り組みは、他の学校にはなかなか

 まだ見られない STEAM 教育への挑戦とそれに至るための理論的裏付け、具体的な手続きを進めてきた歩みがある。学校創設2年目の取り組みであるが、生徒と教員が一緒に作り出していく文化づくりの雰囲気が感じられる。STEAM教育の基盤となる教科横断型授業の内容と探究の時間のコアとなる時間(ダ・ビンチ)の中で取り扱う学習活動の関係がリスト化された表は2019年11月時点ですでに作成されていた。これを通じて、各学年で年間どのような活動が互いに行われているかを、それぞれの取組の関係づけを省察できる道具が整ってきている姿が見られた。

 しかしその後、本研究発表で見られたが、教科横断型授業の内容も参加教科が増え、さらに豊かにになってきており、また学校裁量の時間を用いた、探究的な学習のコアとなる時間(ダ・ビンチ)とそれと関連する取組の関係が、より明確になってくるに従って、各取組の関係が一目でわかる取組の概念図の作成などが必要ではないかという声きも出てきていた。次年度の取組に、それが反映されてくることが期待される。

(奈良教育大学 小柳和喜雄)