岐阜県立郡上特別支援学校

第42回特別研究指定校

研究課題

卒業後の自立まで見据えたキャリア発達を促すICTツール
~作業学習におけるタブレットPCを用いた支援アプリの開発と授業実践による効用の検証~

2016年度8-12月期(最新活動報告)

事前学習では、他の作業班も参加することで、普段、気づけなかった自分に気がつくことができた

岐阜県立郡上特別支援学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校名 岐阜県立郡上特別支援学校
アドバイザー 金子健 明治学院大学名誉教授
研究テーマ 卒業後の自立まで見据えたキャリア発達を促すICTツール
~作業学習におけるタブレットPCを用いた支援アプリの開発と授業実践による効用の検証~
目的
  • ICTツールにより作業学習を支援することで、生徒が自分の役割に自信を持ち、主体性の連鎖を育むように導く。
  • ICT利活用の有用性を地域に啓発し、卒業後の生徒が自立して生活していける環境の普及を目指す。
現状と課題
  • 本年度、高等部全生徒が喫茶サービスを学習するにあたり、生徒個々の実態に合わせた支援が必要であるが、現状ではその支援内容について、ICTを利用するかどうかを含め、明確にしていない。
  • ICTを活用することによって、具体的にキャリア発達の視点からどのような効果が得られたのか十分に評価できていない。
  • 現状の接客支援アプリは、オーダーを取った後の業務手順について、補えていない。
  • 生徒の卒業後の実態に合わせた指定障害福祉サービス事業所で支援アプリ(接客支援アプリ、レジアプリ)が利用できるような環境ができていない。
  • 本取組で利用中のシステムの一部であるレジアプリは、他の作業班での作業販売でも活用できそうではあるが、現状は、喫茶以外での利用を想定していない。
学校情報化の現状 校務文書に関する業務、教職員間の情報共有、服務管理上の事務、施設管理等を補っている校務支援システムとしてdesknet‘s NEOを活用している。
取り組み内容
  • 調理班、縫製班、木工班では、どんなことができて、喫茶サービスで活躍するにはどのような役割で、どのような支援が有効かを明確にする。
  • ICTを活用した喫茶サービスで学習した卒業生をインタビューし、その経験がどのように卒業後の生活と職場で結びついているのか調査する。
  • すべての生徒に対応するため、記憶・知的認知処理の障がいに対する支援を目的に、オーダーを取った後の業務手順を、同じ接客支援アプリ内で一貫した表示内容にしたり操作性の改良を行う。
  • 指定障害福祉サービス事業所が支援アプリ・システムを導入できるような環境をつくる。また、他校でも応用できるよう本校の実践を紹介していく。
  • レジアプリの機能のみ作業販売でも利用できるように、操作方法の改良や構成情報機器(ノートパソコン、無線ルーター、レシートプリンタ、タブレットPC等)の簡素化など、システムの改善行う。
成果目標
  • ICTの利活用を前提に、すべての生徒が喫茶サービスで活躍できるようにする支援方法を取りまとめ、次年度にも利用できるようにする。
  • ICTを活用した喫茶サービスで学習した生徒や関係者に対し、本取組が生徒一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要となる能力や態度を育てているのかを検証する。
  • 本校喫茶サービスの接客業務が接客支援アプリ、レジアプリを使用することで、すべて補うことができ、コミュニケーションスキルの育成に寄与することが期待される。
  • 地域の指定障害福祉サービス事業所や他校に向けた成果情報の発信を行い、ICT導入の活動が広がることを目指す。
  • すべての作業班でレジアプリを活用する環境を整える。特に、現状android版のレジアプリをiPadでも動作可能にする。
助成金の使途
  • パソコン
  • タブレット
  • プロジェクター
  • レシートプリンタ
研究代表者 伊藤 史
研究指定期間 平成28年度~29年度
学校HP http://school.gifu-net.ed.jp/gujyou-sns/
公開研究会の予定
  • 12月のATACカンファレンスでのポスター発表。

研究課題と成果目標

研究課題
  • 本年度、高等部全生徒が喫茶サービスを学習するにあたり、生徒個々の実態に合わせた支援が必要であるが、現状ではその支援内容について、ICTを利用するかどうかを含め、明確にできていない。
  • ICTを活用することによって、具体的にキャリア発達の視点からどのような効果が得られたのか十分に評価できていない。
  • 現状の接客支援アプリは、オーダーを取った後の業務手順について、補えていない。
  • 生徒の卒業後の実態に合わせた指定障害福祉サービス事業所で支援アプリ(接客支援アプリ、レジアプリ)が利用できるような環境ができていない。
  • 本取組で利用中のシステムの一部であるレジアプリは、他の作業班での作業販売でも活用できそうではあるが、現状は、喫茶以外での利用を想定していない。
成果目標
  • 成果目標1:『すべての生徒が活躍でき』『キャリア発達を促す』喫茶サービスの授業モデル構築
    • 以下、3つの構成要素の機軸により、キャリア発達を促す喫茶サービスの授業モデルを構築する。この授業モデルを実践することで、障がいの状況に関わらず、すべての生徒が活躍し、キャリア発達を促す(生徒が役割を理解し主体的に行動し、成長や課題に気づき、なりたい自分の将来のイメージをもち改善しようとし、自分の役割に自信をもつ)ことができる。
    • ①構成要素1:個々の実態に合わせた「役割」と「支援」の明確化
      特に「強み」に着目したアセスメントに基づき、個々の実態に合わせた「役割」と「役割を果たすために必要な支援(ICTの利活用を前提とする)」と「効果的な支援の時機・瞬間」を明確にする。
    • ②構成要素2:主体的な役割遂行を実現するためのタブレットPCによるデジタル化された支援ツールの整備・管理(支援環境の整備)
      喫茶サービスを行うにあたりデジタル化された必要な支援ツール(教材)を整備し、どのタブレットPCでも閲覧できるように累積・管理する。支援ツールの一つとして、オーダーを取った後の業務手順についても補い、すべての接客手順をナビゲーションできる「接客支援アプリ」を開発する。役割遂行に必要な支援ツールが整備されていることで、生徒が、必要な時機・瞬間に、必要な支援ツールだけを選択し活用する中、主体的に役割を果たし、個々のキャリア発達を促すことができる。
    • ③構成要素3:課題解決的な学習と個々のタスク管理
      「喫茶サービス実施中の動画による即時評価」「終礼時の当日の映像視聴とミーティング(気づきの交流)」「Webカメラ等で録画した映像を活用した事前・事後学習」など、ICTを利活用した課題解決的な学習を行う。特に、本研究では、事前学習→喫茶営業→事後学習の一連の課題解決的な学習の流れを、授業モデルの中核として確立する。また、個々のタスク(役割・課題)管理を行い、自分の役割や目標(マイク録音)、それに対する評価(動画等も含む)と改善点、次への課題などを時系列で記録し、累積する。累積したタスクを、生徒と教師の対話の中で適宜活用し、生徒が自身を客観的に捉え、主体的に自らの成長や課題に気づき、改善していこうとする中で、キャリア発達を促すことができる。
  • 成果目標2:レジアプリの機能をより汎用性の高いアプリへと開発
    • レジアプリの機能について、本研究で利用中のシステムの一部であるレジアプリを、すべての作業班で活用できる環境を整えることで、これまでレジを担当できなかった生徒ができるようになる。また、現状android版のアプリをiPadでも動作可能にすることで、他校や事業所での導入が検討しやすくなる。そこで、社会福祉法人郡上市社会福祉協議会のみずほ園にて試験導入することによって、利用者の効率、効果、充足するようなGUIやそれを補う情報機器によって、ユニバーサルデザインされた完成度の高いレジアプリになると考える。

本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応

本期間(8月~12月)の取り組み内容

スケジュール表

【事前学習】

すべての生徒が活躍できる役割を明確にするため、事前学習で、接客、レジ、洗い物、ドリンク、デザートセット等を接客支援アプリ、レジアプリ、デジタル化された支援ツールを使用した。

模擬喫茶の様子

ドリンクの提供確認

レジアプリの活用

レジアプリの追加機能

食器の洗い方・拭き方動画

接客支援アプリのナビゲーション化

【事後学習】

事後学習は、Webカメラで録画したホールの様子をポータブル超短焦点プロジェクターより、ホワイトボードに映し、生徒の動きやポイントとなる箇所にマルや矢印をつけ注目してほしいところに印をつけた

アドバイザーの助言と助言への対応

    ■アドバイザーの助言

  • 支援者が外部におり、バックアップ体制がしっかりしている。学校間で完結することがなく、進められている。
  • 長期的な見通しの中で、今何をするのか、スタートとゴールを工夫できると良い。めあてと見通しを持った生き方を学べると良い。
  • 試行錯誤して自己肯定感を身につけ、卒業後自信を持って社会へ出ていくことについて、ICTを活用してより実感できる形で、コミュニケーション力やいろいろな力が身についている。
  • 評価の方法について、計画のままで良いか、検討していただきたい。アセスメントを行うのか、事例として一人をモニタリングしていくのも良い。客の評価も参考になると思う。
  • 会議について、目的は何なのかはっきりしない。提出された書類に基づいて、今の課題や目的を明確にして、進行すべきである。
  • ■助言への対応

  • 再度、学校として今回の研究を受け止め、全校体制として行えるよう、共通理解を図っていく。
  • 汎用性の高い研究を目指しているが、波及効果や2年後の資源となるベース作りをもっとシンプルに、どうこの研究を進めていくのか、もういちど検討したい。次回、研究のスケジュールを提示して、アドバイスをいただきたい。

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

研究協議会の中で、いろいろなことを盛り込まず、「シンプルでいいよ」との助言を頂き、スルーラインが明確になりました。

成果

  • 事前学習では、他の作業班も参加することで、普段、気づけなかった自分に気がつくことができた。
  • 接客の完全ナビゲーション化によって、内面的な課題意識に取り組むことができた。したがって、接客の所作や表情、客とのコミュニケーションなど、もてなすことへの意欲・関心を高めることができた。
  • 喫茶サービスでは、事前学習で取り組んだ内容に、戸惑いながらも主体的に行動したり、仲間と相談したりする姿がみられた。
  • 事後学習では、ポータブル超短焦点プロジェクターとホワイトボードの組み合わせで、注目すべきことをマーカーに書き示すことができることで、動画視聴により興味がわき、自分自身の新たな視点や仲間の様子に興味関心がわくようになった。

今後の課題

  • 支援ツールのタブレットPCを用いた累積方法の確定、および生徒が自分で活用できるように整備・管理。
  • 福祉サービス事業所へのICT研修会におけるレジアプリの説明と普及活動。

今後の計画

  • デジタル化された支援ツールの開発。
  • タスク管理を行うための支援ツールの検討。
  • 普及に向けて、社会福祉法人郡上市社会福祉協議会にてICTを活用した講習会。

気づき・学び

 社会環境の変化に対応し教育の現代的な役割を担うキャリア教育に関連し、中央教育審議会の報告において、「ⅰ)何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」、「ⅱ)知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」、「ⅲ)どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」として整理している。

 この研究において、ⅰ)及びⅱ)をタスク管理し、生徒の必要とする時機・瞬間に提示する。ⅲ)は、個別の支援・指導をする際、生徒が課題に対して、動画を視聴しながら言語促進し、生徒自ら気付くヒントを与えたり、待ったりすることで、主体的に気付き、誰かと関わり気付く経験を積むことが重要になると思われる。また、生徒同士で、課題に対してのお互いの内容を知ることで、目的は個別だが喫茶サービスという共通の活動によって、進化・発展する知の総合開発・総合創出を実現することに繋がる。

 3つの柱(ⅰ)ⅱ)及び)ⅲ))をICT利活用によって、適切な文脈と時機・瞬間に合わせて、「今」という協同するフィールドがキャリア教育の重要な視点だと考えられる。

アドバイザーコメント
明治学院大学 名誉教授 金子 健 先生

本校の研究テーマ、取り組みの意義

知的障害特別支援学校高等部では、卒業後の自立的な社会参加を目指した教育が重要な意義を持っている。 作業学習を中心とした教育課程において、より実践的・具体的な活動を用意することで生徒にとって目当てを自覚的に理解し課題解決に向けての見通しを持ちやすくなる。知的障害児の教育では、長い歴史の中で経験的にその意義を確認してきている。まさにアクティブラーニングである。

 

知的障害のある生徒の卒業後の進路として、かつては製造業が主であったが近年は第三次産業とりわけ接客などのサービス業への就職も多くなっている。その背景には社会の産業構造の変化があり、就労機会の拡大は喜ばしいことではあるが、知的障害の特性として対人コミュニケーションや臨機応変の対応が苦手であり、その改善・克服が教育の課題となっている。

 

このような状況の中で、ICTの活用は大きな教育効果をもたらすものとして期待されている。

 

本期間の取り組み・成果の評価

高等部の作業学習の一環として、喫茶サービスを取り入れている。その活動において支援アプリを導入することで、スムーズな接客とレジでの確実な金銭授受を体験することを導入した。活動を映像記録し、活動後に生徒自身もそれを視聴することで、フィードバックが可能である。経験的にその効果は実感できるが、成果の客観的な評価については今後の課題である。

 

今後の課題・期待

体験的な学習によって、どのような能力がどの程度獲得されるのか、認知発達の各側面と照らして何がどう発達するのか、客観的な評価が今後の課題である。

 

高等部の期間のみの学習ではなく、小学部からの積み上げとして、キャリア発達の各側面と照らして評価することによって、全人格的発達を長期的視点に立って支援する教育課程の中に位置づけることを期待したい。