岐阜大学教育学部附属学校

第44回特別研究指定校

研究課題

プログラミング学習による「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」の育成を目指した小中連携カリキュラムの作成

2019年度01-03月期(最新活動報告)

最新活動報告
次期学習指導要領では,「数量や図形についての感覚を豊かにしたり......

アドバイザーコメント

高橋純先生
2年にわたる研究の最後の3ヶ月の活動として,5年算数「正多角形と円」に......

岐阜大学教育学部附属学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 岐阜県 岐阜大学教育学部附属学校
アドバイザー 高橋 純 東京学芸大学 准教授
研究テーマ プログラミング学習による「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」の育成を目指した小中連携カリキュラムの作成
目的 「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」と捉えた。本研究では,これらの資質・能力を,プログラミング学習を通して育てること
現状と課題
  • 文部科学省指定「これからの時代に求められる資質・能力を育むためのカリキュラム・マネジメントのあり方に関する調査研究」に取り組んでいる。
  • プログラミング教育の実践に必要な教材については不十分(ICT機器は十分)で,実践ができていないため,カリキュラムづくりが急務である。
学校情報化の現状 iPad,PC(Mac)等のICT機器が子ども1人につき1台利用するのに十分な数が揃っている。
取り組み内容
  • 【活動内容1】プログラミング学習による小中連携カリキュラムを作成する
  • 【活動内容2】小中連携カリキュラムによる授業実践をする
  • 【活動内容3】成果を公表する
  • 2018年11月文部科学省指定調査研究の公表会(中間報告)
  • 2019年度1月106回教科研究協議会(成果公表)
成果目標
  • 子どもの発話記録や各学年のユニットの終末に位置付けた評価問題によって評価をする
  • 教育委員会や他校とのネットワークの活用
助成金の使途 プログラミング機材、研究図書、講師旅費、先進校視察
研究代表者 伊藤 泰介
研究指定期間 平成30年度~31年度
学校HP https://www.fuzoku.gifu-u.ac.jp/sho/
公開研究会の予定
  • 11月10日(土)にカリキュラム・マネジメントに係る調査研究(文部科学省指定)公表会を開催

本期間(4月~7月)の取り組み内容

○研究計画の修正

 1年間を3期に分け,各学年1学級ずつ時期を変えて授業を実施することにした。「研究実施計画」においては,①中学校(6月)②第6学年(9月)③第5学年(11月)の順で実施する計画としていたが,実践したことを評価し,改善につなげるために変更した。

研究計画の修正

○指導計画(案)の作成

 小学校においては,第4学年から第6学年で実施することにし,指導計画(案)を作成した。第4・5学年においては「順次処理」,第6学年において「分岐処理」「くり返し処理」を位置付け,段階的に学習できるようにした。

指導計画(案)の作成
指導計画(案)の作成

○職員研修の実施

職員研修の実施

 実践を始めるにあたって,職員研修を実施した。授業実践を行う第4学年から第6学年の学級担任を中心として,使用するロボットの組立,基本的な操作の仕方を研修した。

○授業実践1

第4学年における実践

【第4学年における実践】

第 1 時
 身近な生活でコンピュータが活用されていることに気付くとともに,プログラム及びプログラミングの意味を知る。

第2〜4時
 ある場所まで進むためのプログラムを,「進む」「止まる」の動きを組み合わせてつくる。

第6学年における実践

【第6学年における実践】

第 1 時
 自動車に備わっている自動制御の機能を例に,処理の流れを考え,「分岐」や「反復」の処理が必要であることに気付く。

第2〜4時
 ある場所まで進むためのプログラムを,「障害物があったら止まる」「ラインに沿って進む」動きを組み合わせてつくる。

アドバイザーの助言と助言への対応

○(助言)プログラミング学習を通して,どのような児童生徒の姿を実現するのか(児童生徒にどのような資質・能力を身につけるのか)に焦点を当てた取り組みにすること

  • ・(対応)プログラミング学習を通して身に付けたい資質・能力の評価規準にかかる先行研究から,本研究において育てたい3つの力を児童生徒の姿で具体化する。
  • ・作成した指導計画に基づいて授業実践し,その振り返りをする中で,学習活動,評価規準を修正している。

○カリキュラム作成にあたっては,プログラミング学習を,全ての児童が学習する教科(算数や理科等),今回の取り組みで実施を計画している総合的な学習の時間に留めず,クラブ活動や学校外での学習へと広がっていくものにすること

  • ・総合的な学習の時間(各学年4時間分)の指導計画を作成し,各学年で1学級ずつの授業実践を行った。
  • ・今後,教科における実践を踏まえてプログラミング学習にかかるカリキュラムを作成していきたい。

○教材については,1種類に限定せず,様々なものを試してみること

  • ・小学校児童の大半が附属中学校に進学する現状から,児童生徒が同じ教材を用いて学習することを意図したが,発達に応じた教材を選択していく必要がある。

本期間の裏話

本期間の裏話

 小学校においては,第4学年から第6学年までの指導計画を作成したが,特別支援学級の担任が興味をもち,国語の学習での活用を考えた。授業者は,ロボットを動かすプログラムを「説明書」として児童に示し,児童はそれを読み取って,プログラムを作成する。
 読み取ったことが正しかったかどうかが,ロボットの動きとして現れるため,児童は興味をもって学習に取り組んだ。

本期間の裏話

 プログラムを基にした「説明書」は,順序が明確であり,二語または三語の短文で構成されているため,助詞や文のつながりを意識して読むことに課題のある児童に対して適切な学習内容となっていた。
 作成したプログラムを実行する際には,子ども同士で,できばえをほめ合う姿も多く見られた。

本期間の成果

○研究計画の修正

  • ・実践時期を学級ごとにずらした実施計画に修正することは,実践をしてみてはじめて,設定した学習課題が児童にとって適切なものであったかどうかがわかり,評価・改善を積み重ねていく上で有効であった。

○指導計画の作成

  • ・総合的な学習の時間における各学年4時間分の学習活動を考え,指導計画(案)として示すことができた。

○授業実践

  • ・単元の導入において,身の回りでコンピュータ(プログラム)が活用されていることに気付かせたり,授業の導入で,本時の学習でどのような動きをロボットにさせたいのかを示したりすることによって,どう改善していけばよいのかを振り返ることができる姿が見られた。
  • ・児童の学習活動として,①どのような動きをロボットにさせるかを知る ②その動きをアクティビティ図に整理する ③アクティビティ図をもとにプログラムを考える ④実際の動きからプログラムを修正する ⑤より簡潔なプログラムを完成する という流れができつつある。

○職員研修

  • ・教材についての基本的な操作の仕方を職員が知ることができた。

今後の課題

●研究計画の修正

  • ・今後,継続的にプログラミング学習に取り組むことを考えると,同学年の児童に対しては同時期に授業を実施することが望ましい。指導計画の修正を行うためには,複数の職員が授業をし,その振り返りを交流することが必要である。実施時期や振り返りの交流をする場について検討する。

●指導計画の作成

  • ・小中連携カリキュラムの作成に向けて,総合的な学習の時間(各学年4時間分)の指導計画を,修正しながら実践していくとともに,プログラミング学習を,教科指導やクラブ活動として実施することなどや,夏休みの自由研究など校外で行うことを視野に入れて検討していく。
  • ・総合的な学習の時間における学習活動を考えたが,評価規準が曖昧である。実践を振り返り,具体的な児童生徒の姿から「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」の育ちを評価する計画について検討していく。

今後の計画

【 9月】アドバイザー来校①

  •  ・9/13(木)第5学年授業公開

【10月】第2期授業実践

  •  ・各学年2組

【11月】カリキュラム・マネジメントに係る調査研究公表会

  •  ・11/10(土)第5学年授業公開
     アドバイザー来校②
  •  ・11/14(水)第6学年授業公開

気付き・学び

・iPad でプログラミングをし,ロボットとBluetoothで接続するが,なかなか接続できなかったり,突然接続が切れてしまったりすることがある。こうした不安定な状況が日々の授業実践においては,授業者の不安につながる。

成果目標

○研究計画の立案

 1年間の取り組みとして「計画〜実践〜評価〜改善案」のサイクルができるよう年間の研究計画を立案する。

○指導計画案の作成

 プログラミング学習において,児童生徒に身に付けたい3つの力(「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」)が発揮される学習活動を,学年発達に応じたて位置付けた指導計画案を作成する。

○児童生徒の実態把握と評価計画の作成

 第1期の授業実践を行い,児童生徒の実態把握をする。また,設定した学習活動が児童生徒にとって適切なものかどうか,身に付けたい力が発揮されるものになっているかどうかを振り返り,評価計画を作成する。

アドバイザーコメント
高橋 純 先生
東京学芸大学 教育学部 准教授 高橋 純 先生

 コンピュータプログラムは,スマートフォンなど見た目にもすぐにわかるものから,洗濯機やエレベーターなど,世の中のあらゆる機器等に組み込まれており,生活に欠かせないものとなっています.今や専門家でなくとも,プログラミングの基本的なことを理解する必要があるといえます.このような社会の変化に合わせて,新学習指導要領では,新たに小学校でもプログラミングを学ぶこととなり,さらに中学校,高等学校での学習が一層充実することになりました。
 これまでも一部の小学校ではプログラミング教育が行われていたとはいえ,今後は全ての小学校で行われることになります.初めてのことですので,不明な点が多くあります.例えば,どのような内容のプログラミングを学べばよいのか,それはどの学年で行うべきなのか,そもそも何の資質・能力を育むためなのかといった,発達段階に応じた育むべき資質・能力やそれらに対応した学習内容を明らかにしていく必要があります.その一方で,仮にそれらが決められたとしても,それだけではプログラミング教育からの理想を述べたに過ぎません.具体に実施となれば,各教科等や校種間との接続を考えていく必要もあります.小学校の新学習指導要領では,プログラミングに関する教科が新設されたわけではなく,各教科等の中で行うことがベースとなっていますので,なおのこと難しい課題といえます。
 岐阜大学教育学部附属学校では,このような背景を踏まえて,「プログラミング学習による『論理的に考える力』『読み解く力』『言語能力』の育成を目指した小中連携カリキュラムの作成」を研究テーマに設定し,小学校のみならず中学校との共同研究で取り組むことにしました.我が国の多くの学校がもつ課題や疑問に正対した研究課題と考えられます.加えて,本校は,文部科学省より「これからの時代に求められる資質・能力を育むためのカリキュラム・マネジメントのあり方に関する調査研究」の指定を受け,2017~2018年度の2年間にわたって研究も行っています.この研究成果を発展させていけば,プログラミング教育のみからの発想に留まらず,カリキュラム・マネジメントの視点から,「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」を育むために,小学校の教育課程にどのようにプログラミング教育を位置づけ,中学校につないでいくか,総合的で体系的な研究成果が期待できます.私自身も大変に楽しみにしていますし,微力を尽くしていきたいと考えています。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

○指導計画の修正

(1)学習過程

 授業実践1の取組を振り返り,学習過程を次のように整理した。

  1. ①場面設定は,各学年の生活場面に合わせた具体的なものにすること
  2. ②プログラムを作成する前に,アクティビティ図によって見通しをもつこと
  3. ③より簡潔なプログラムに修正すること
  4. ④振り返りの場面では,作成したプログラムとアクティビティ図を比較すること
(2)学習活動

 第4・5学年に,「順次処理」を位置付けたが,学年による発達や処理の手際のよさを味わわせるために,第5学年では,カラーセンサーによる制御を位置付けることにした。

(3)他教科との関連

 指導計画上に,「他教科との関連」を位置付けた。

(例)算数「割合」との関連

  1. ・進んだマス目の数と,プログラム上の数値を比べてプログラムを修正する。

○授業実践

【第4学年】

場面:動物飼育に取り組んでいる第4学年においては,動物にエサや水を届ける場面を設定した。

学習課題:えさと水を途中で乗せ,げんき(※飼育しているにわとりの名前)のところまで早く届けに行こう。

動き:順次処理により(「直線的な動き→止まる」と「曲線的な動き→止まる」組み合わせて)目的地までロボットを進める。

【第5学年】

場面:健康に関する委員会活動に取り組んでいる第5学年においては,けが人を救助し,送り届ける場面を設定した。

動き:第4学年同様の動きとカラーセンサーを用いて目的地までロボットを進める。

アドバイザーの助言と助言への対応

アドバイザーの助言と助言への対応

○(助言)総合的な学習の時間(プログラミング学習)と教科(特に,算数・理科)との関連を明確にすること

  • ・(対応)プログラミング学習と他教科との関連を整理して,指導計画上に位置付けることにした。(※本期間の取組内容(指導計画の修正(3))参照)

○プログラムをどのように修正していくのかを明確にすること

  • ・プログラムの「簡潔さ」を観点として吟味する場面を位置付けた。振り返りの場面において,作成したプログラムをアクティビティ図に改めて表現してみることにした。

○学年発達に応じて場面設定を工夫すること

  • ・児童のもつ限られた技能の中で,学習課題が適度な抵抗となるよう,環境(ロボットを動かすコースの長さや幅,広さ,目標の位置等)を工夫した。(※本期間の取組内容(授業実践)参照)

○学習課題に応じたプログラムの修正をすること

  • ・プログラムとしての簡潔さと現実的な実現可能性(自動車型のロボットが,プログラムが簡潔になるからといって,長い距離を後進することは現実的ではない)をどのように整理するかを考える中で,プログラム作成の観点の修正が必要であることがわかった。

本期間の裏話

本期間の裏話

 本研究では,小学校第4学年から第6学年までの指導計画を作成することを目的としているが,学校全体にプログラミング学習が広がりつつあることを実感している。

 前回は,特別支援学級の例を紹介したが,小学校低学年においても実践できる環境が整うとすぐに実践が始まった。

 保護者にも関心が高いことを踏まえ,授業参観において実践した学級もあった。

本期間の成果

○指導計画の修正

本期間の成果
  • ・学習過程を,アクティビティ図による見通し→プログラミング→アクティビティ図による振り返りとしたことは,児童自身がプログラミング学習を振り返る際に,その成果を実感する手立てとして有効であった。
  • ・第5学年の学習活動に,カラーセンサーを用いることで,ロボットを動かす時間とロボットが移動する速さから,実験的に修正をしていたことをより簡潔に処理できることを理解させることができ,その有用さを実感することができていた。また,発達段階から見ても十分に可能であることがわかった。
  • ・他教科との関連を指導計画上に位置付けることができた。

○授業実践

  • ・各学年2回目(2学級目)の授業実践であったが,1回目(1学級目)の反省点を踏まえて,学習過程を修正することができた。授業者も指導の手立てを事前に明確にして授業に臨むことができていた。
  • ・学習課題が吟味され,身近なテーマを扱うことによって,子ども同士で試行錯誤ができるようになった。また,「簡潔さ」を「命令の数」ととらえ,子どもにその数を減らすよう促すことで試行錯誤が増えてきた。

○その他

  • ・低学年においてもプログラミング学習の試みが行われるようになってきた。

今後の課題

●指導計画の修正

①振り返りの手立てとしてのアクティビティ図の活用の在り方を明確にすること

  • ・学習を子ども自身が振り返るためにアクティビティ図が有効であろうと考えている。しかし,プログラミングの中でアクティビティ図に戻って思考をする児童の姿は少なく,常に,教師からの働きかけが必要である。子どもにとって,本当に必要であるかどうかを吟味したい。

②学習活動・学習課題の在り方を明確にすること

  • ・カラーセンサーは,第5学年の児童に対しても活用可能であろうと考えている。しかし,カラーセンサーを使うことが命令の数を増やすような場合もある。使用している教材の特性を踏まえ,各学年における学習活動を吟味したい。
  • ・児童の身近なテーマを扱うことで,より現実的な視点から試行錯誤ができるようになり,その観点がより豊富になっていくであろうと考えている。子ども同士に試行錯誤を促すような学習課題を考えていきたい。

●プログラミング学習により育てる資質・能力

  • ・総合的な学習の時間におけるプログラミング学習の評価規準を明らかにし,具体的な児童生徒の姿から「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」の育ちを評価する計画について検討していく。

今後の計画

【1月】アドバイザー来校③

  •  ・1/17(木)第6学年授業公開
     ※県内の教員研修(岐阜県教育委員会主催)のための授業公開・交流会を兼ねて実施

【2月】1年次実践のまとめ

  •  ・第4学年〜第6学年総合的な学習の時間(4時間分)の指導計画及び学習プリント(学習活動・学習課題)の作成
  •  先進校視察
    ・全国でプログラミング教育に取り組んでいる学校(・地域)を視察する。

【3月】2年次研究の計画

  •  ・1年次の成果と課題を踏まえ,2年次の研究計画を立案する。

気付き・学び

・プログラミング学習において,学習課題と必要な教材を提供することで子ども同士の試行錯誤が活発に見られるようになってきた。他の教科においても,こうした試行錯誤が活発に行われるような授業を実現していきたい。

成果目標

○研究計画の立案

 1年間の取組として「計画〜実践〜評価〜改善案」のサイクルができるよう年間の研究計画を立案する。

○指導計画案の作成

 プログラミング学習において,児童生徒に身に付けたい3つの力(「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」)が発揮される学習活動を,学年発達に応じたて位置付けた指導計画案を作成する。

○児童生徒の実態把握と評価計画の作成

 第1期の授業実践を行い,児童生徒の実態把握をする。また,設定した学習活動が児童生徒にとって適切なものかどうか,身に付けたい力が発揮されるものになっているかどうかを振り返り,評価計画を作成する。

アドバイザーコメント
高橋 純 先生
東京学芸大学 教育学部 准教授 高橋 純 先生

 今回は本研究の推進に関してコメントをしたいと思います.

 まず,報告にもあるように,研究推進のサイクルである「計画〜実践〜評価〜改善案」が安定してきています.その上で授業研究が行われていますが,授業における学習過程自体も,種々の実践を通して,下記のように固定され始めています.

  1. 生活場面等の実際の場面に即した学習課題の設定
  2. アクティビティ図による学習課題の精緻化やプログラミングの計画
  3. プログラミング
  4. より課題に即したプログラムへの修正
  5. 当初のアクティビティ図と作成したプログラムとの比較によるふり返り

 もちろん,以上は,あくまでも基本のサイクルであり,このように固定しなくてはならないという意味ではありません.しかし,こうしたサイクルが決まっていくことで,例えば,学習課題をどのように設定すれば良いか,アクティビティ図による課題の精緻化とはどのように指導すれば良いかなど,教員間で授業研究をする際の議論が焦点化しやすくなります.各教科との対応を検討する際も,どのステップで教科と関連づけるかなど検討がしやすくなることでしょう.研究を順調に進めるための秘訣といえます.

 一方の児童も,基本の授業サイクルが固定化されることで,課題解決に向けた見通し,特に学習手順に関する見通しが持ちやすくなっています.つまり,学習手順がパターン化されているからこそ,学習課題を深く考えやすくなります.特にペアやグループ活動であればあるほど,学習手順がある程度定まっていないと,どのように進めるかの手順から話し合うことになり,学習課題になかなかたどり着かないケースがあります.こうしたサイクルを定めることは,発想の自由を奪うとさえいわれる場合もありますが,プログラミングのように教員にも児童にも経験が不足している中では,重要な方法であると思います.プログラミングには自由に取り組む,しかし,その周辺の学習手順はある程度,固定化しておく,これも研究や実践を順調に進めるための秘訣でしょう.

 こうした手順で,何度も実践が行われていることから,訪問する度に実践の精度の高まりや深まりが感じられます.プログラミングの実践によく見られるような児童が学習の本質ではない部分にこだわってしまうといったことがなく,プログラミングの学習に集中し始めていることがよく分かります.決して場当たり的に進んでいるわけではないのだと実感できます.さすが,これまでの数々の研究を行ってきた本校であり,今後の成果にさらなる期待が膨らみます.

本期間(1月~3月)の取り組み内容

○指導計画の修正

(1)学習過程

 12月までに授業実践の取組から,学習過程を以下の①〜④のように整理した。しかし,第6学年については,課題の内容から単位時間ごとで区切ることが難しいことが分かった。そこで第4学年,第5学年についてはそれぞれの単位時間で以下の①〜④の過程を行うこととし,第6学年では4時間を通して,①〜④の過程を行うことした。

  1. ①各学年の生活場面に合わせた具体的な場面から課題を把握すること
  2. ②プログラムを作成する前に,アクティビティ図によって見通しをもつこと
  3. ③プログラムを作成し,さらにより簡潔なプログラムに修正すること
  4. ④作成したプログラムをもう一度アクティビティ図に表わし,学びを自覚すること

 ただし,第6学年においても単位時間における学びを自覚してくことは必要である。よって,第6学年では,本時,自分が取り組んだことを言葉で残し,単元末にレポートを書くこととした。

 第4学年から第6学年において,「場面の条件に合う動きを考える」「より簡潔なプログラムを考える」という課題に対して取り組み,単位時間や単元末において自分がしたことを振り返り,学びを自覚するという学習過程を実現することができた。

(2)学習活動

 第4学年に,「順次処理」,第5学年に「条件処理」,第6学年に「繰り返し処理」「分岐処理」を位置付けていた。しかし,第6学年において「繰り返し処理」と「分岐処理」 を同時に指導すると,児童によっては1つ1つの処理のよさやその方法の理解が十分にで きていない様子が見られた。そこで,第5学年に「繰り返し処理」を位置付けることとし た。

(3)課題を設定するときの条件の整理

 授業実践から,課題を設定するときの条件を以下のように整理した。

  1. ・児童がイメージしやすい生活場面に合わせた具体的なものとなっているか
    (児童はプログラムの簡潔さを求めながら,動きの現実的実現性を求めるため)
  2. ・5分程度の時間でどんな動きをしたらよいかを見通せるものとなっているか
    (見通しをもつことよりも試行錯誤し,学んだことを自覚する時間を確保したいため)
  3. ・アクティビティ図に表したときに動作の数は適当か
    (第4学年では10,第5学年では15,第6学年では20くらいが適当である)
  4. ・条件処理を用いる箇所や繰り返し処理を行う箇所が独立しているか
    (複数のセンサーを同時に働かせる,繰り返し処理をしながら条件処理をすることは難しいため)
  5. ・レゴ・マインドストームの誤差を考慮した道幅となっているか
    (直進や方向転換で誤差が生じるため)
【第5学年】

場面:学校の近く巡回するバスをイメージし,自動的に巡回できるバスを考える場面を設定した。

動き:「まっすぐ進む」→「駅を見付けて止まる(カラーセンサー)」→「方向を変える」という動きを繰り返し処理を用いてロボットを進める。

【第6学年】

場面:単元を貫く課題として,「お掃除ロボットをつくろう」という場面を設定した。

動き:第1時において,「お掃除ロボット」に必要な動きについて考え,最低限必要な動き(すべてのマスの上を通る,ゴミを見付けたら3秒止まる)を決め出した。そこから自分が「こんな機能があったらいいな」と思う機能を考え,その機能を付け足していくこととした。

アドバイザーの助言と助言への対応

○(助言)状況設定や課題設定の際に考慮すべき条件を整理すること

  • ・(対応)各学年で身に付けたいプログラミングの処理や,各学年の児童にとってイメージしやすい場面について見直し,整理した。
    (※本期間の取組内容(指導計画の修正(3))参照)

○小中連携カリキュラムについて具体化すること

  • ・岐阜大学教育学部附属中学校においてもレゴ・マイントストームを用いた授業実践を行なっている。中学校では,技術の時間に行なっており,その担当教員と実践を交流した。
     例えば,技術・家庭科の題材「計測と制御」では,計測・制御システムが生活の中でどのように役立っているかを学んだり,センサーやアクチュエータを使って,身の回りにある問題を解決する力や,目的や条件にあった最適なプログラムの手順や考え方を学んだりする。そこで,さらに理解を深めるためにも,プログラムで動くロボットを活用し,学習したことが実感できるような教材を考えることにした。今年度は題材の終末課題として,目的や条件に合わせて車を走らせるためのプログラムを作成した。
     今後,このような中学校での指導内容と小学校での指導内容とのつながりを整理していくことが必要である。

本期間の裏話

 中学校ではレゴ・マインドストームを車型だけではく,二足歩行型に変形させている。その変形する作業も生徒が行なっている。その中で,パーツが無くなることがあった。中学生といえど,あれだけ細かく多くのパーツを管理することは難しいようである。児童や生徒の自由な発想を大切にし,どんどん自分たちで発展できるようにしていきたいが,一方で高価な物であるがゆえパーツが無くなると困るという心配もある・・・

本期間の成果

○指導計画の修正

本期間の成果
  • ・第5学年では,分岐処理に加え,繰り返し処理を行うこととした。「自動的に巡回する」という課題から,同じコースを何度も進む動きを考え,繰り返し処理が必要であることに気付くことができた。条件処理と繰り返し処理をどのように使うかで悩みながら,実験的に修正を行い,意図する活動を実現することができた。第5学年の児童の発達の段階を考えてもこの内容は十分に可能だということが分かった。
  • ・第6学年では,「お掃除ロボットをつくろう」という単元をつらぬく課題で行なった。しかし,課題に対する自由度が大きすぎて議論がまとまらない結果となった。しかし,児童はそれぞれの時間で目標をもち,活動し,それを振り返りながら学ぶことができていた。よって,4時間を通して追求していくという指導計画については,児童の発達の段階を考えてもこの内容は十分に可能だということが分かり,小学校におけるプログラミング学習の出口としてふさわしいと考えている。

○授業実践

  • ・各学年3回目(3学級目)の授業実践であったが,2回目(2学級目)の反省点を踏まえて,学習過程を修正することができた。授業者も指導の手立てを事前に明確にして授業に臨むことができていた。
  • ・授業実践を重ねるごとに,プログラミング学習における単位時間の流れについて周知でき,指導する教師も理解ができていた。「場面の条件に合う動きを考える」「より簡潔なプログラムを考える」という課題に対して取り組み,単位時間や単元末において自分がしたことを振り返り,学びを自覚するという流れを今後も基本としていく。

○その他

  • ・低学年においてもプログラミング学習の試みが行われた結果,今年度2月に開催したタイピング大会では低学年からも多数の参加があった。コンピュータに情報技術,操作について興味や関心が高まった。

今後の課題

●指導計画の修正

①第6学年の学習課題を工夫すること

  • ・今年度の実践では「お掃除ロボットをつくろう」という課題で取り組んだが,自由度が大きすぎて議論が曖昧なまま終わってしまう結果となった。単元を貫く課題として相応しく,かつこれまでの学年で意識してきた「場面の条件に合う動きを考える」「より簡潔なプログラムを考える」ということを満たしている学習課題を考えたい。

②中学校との連携を明らかにすること

  • ・小学校と中学校である程度の段階を設け,実践を行なってきた。しかし,資質・能力をどのようにして育んでいくかという点で整理しきれていない部分がある。これまでに作成した指導計画をもとに,小中連携したカリキュラムを作成していきたい

●プログラミング学習により育てる資質・能力

  • ・総合的な学習の時間におけるプログラミング学習の評価規準を明らかにし,具体的な児童生徒の姿から「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」の育ちを評価する計画について検討していく。

今後の計画

【3月】小学校,中学校の実践のまとめ

  •  ・今年度の実践より来年度第4学年〜第6学年総合的な学習の時間(4時間分)の指導計画及び学習プリント(学習活動・学習課題)の作成
  •  ・今年度の実践より中学校における指導計画及び学習プリント(学習活動・学習課題)の作成

2年次研究の計画

  •  ・1年次の成果と課題を踏まえ,2年次の研究計画を立案する

【4月】職員研修

  •  ・本校のプログラミング教育の共通理解
  •  ・情報機器の操作,管理の確認

【5月】授業実践

  •  ・第5学年における授業を実践・研究する

1年間を振り返って,成果・感想・次年度への思い

 他の教科や領域においても試行錯誤を繰り返して追求をする姿が見られるようになってきた。また,アクティビティ図を用いてきたことで,図や表などの表現に慣れ親しんできたように感じる。これまでの学習を発表するときには,多くの児童が図や表を用いて発表することができていた。

 来年度は,小中連携のカリキュラムを整理することと,他校への広めていくために我々の課題設定や状況設定の仕方や指導のポイントなどをより分かりやすく整理していきたい。

成果目標

○研究計画の立案

 1年間の取組として「計画〜実践〜評価〜改善案」のサイクルができるよう年間の研究計画を立案する。

○指導計画案の作成

 プログラミング学習において,児童生徒に身に付けたい3つの力(「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」)が発揮される学習活動を,学年発達に応じた手立てを位置付けた指導計画案を作成する。

○児童生徒の実態把握と評価計画の作成

 第1期の授業実践を行い,児童生徒の実態把握をする。また,設定した学習活動が児童生徒にとって適切なものかどうか,身に付けたい力が発揮されるものになっているかどうかを振り返り,評価計画を作成する。

アドバイザーコメント
高橋 純 先生
東京学芸大学 教育学部 准教授 高橋 純 先生

 前回同様に,研究計画を「計画〜実践〜評価〜改善案」の流れに定めること,子供の基本の学習過程を定めていることなど,研究の手順も,授業の手順も規格し型にしています.こうした型に基づいて,実践を行い,実践を振り返り,型も少しずつ修正していく.だから研究が深まるのだと改めて思います.
 今回,学習過程が再整理されました.例えば,「アクティビティ図によって見通しを持つこと」「さらにより簡潔なプログラムに修正すること」「もう一度アクティビティ図に表わし,学びを自覚すること」といった報告からも,子供がプログラムを作成することだけで精一杯ではなく,「より簡潔な」といった,いかに精度が高く深まりのあるプログラムを作成できるようになるかを目指していることが分かります.同様の学習過程で,すべての学年で学ぶからこそ,学年進行で深まっていくのでしょう.
 プログラミングの学習のカリキュラム化のための重要な知見も得られています.例えば,次の報告です.

第4学年に「順次処理」,第5学年に「条件処理」,第6学年に「繰り返し処理」「分岐処理」を位置付けていた。しかし,第6学年において「繰り返し処理」と「分岐処理」を同時に指導すると,児童によっては1つ1つの処理のよさやその方法の理解が十分にできていない様子が見られた。そこで,第5学年に「繰り返し処理」を位置付けることとした

 つまり,第4学年で「順次処理」,第5学年で「条件処理」と「繰り返し処理」,第6学年で「分岐処理」を学ぶようにしたとのこと.さらに,「課題を設定するときの条件の整理」における報告では,

・アクティビティ図に表したときに動作の数は適当か (第4学年では10,第5学年では15,第6学年では20くらいが適当である) ・条件処理を用いる箇所や繰り返し処理を行う箇所が独立しているか (複数のセンサーを同時に働かせる,繰り返し処理をしながら条件処理をすることは難しいため)

 と,学習課題の効果的な難易度をアクティビティ図における動作数で明らかにし,さらに第5学年で「条件処理」と「繰り返し処理」の2つを学ぶとしても,独立した課題にすることをあげています.他校も大いに参考になると思います.
 この「課題を設定するときの条件の整理」では,他にも重要な点が報告されています.プログラミング教育において大事な点は,やはり学習課題です.児童が興味関心を持つ学習課題だからこそ,さまざまな追求を行うことができます

・ 5分程度の時間でどんな動きをしたらよいかを見通せるものとなっているか (見通しをもつことよりも試行錯誤し,学んだことを自覚する時間を確保したいため)

 5分程度で見通せるという具体的な条件が,本校の深まる実践の成功にもつながっているように思います.一方で,このように小学校プログラミング教育であれば,どんなときにでも役立つ汎用的な条件が示されるだけではなく,本校のようにロボット等を動作させる実践の際の重要な条件も示されています.

・レゴ・マインドストームの誤差を考慮した道幅となっているか (直進や方向転換で誤差が生じるため)

 これだけではわかりにくいかもしれませんが,直線に沿ってロボット等を動かすのではなく,適切な「道幅」を作って動かす課題を設定すべきであることを示しています.他校で見られますが直線に沿って動かす課題にすると,直線から少しでもズレがないことを課題にしてしまう子供がいます.これはレゴ・マインドストームに限りません.ある程度の道幅を設定することで,本来の動作のプログラミングに集中できます.ここにも本校の実践成功のミソがあると感じています.
 このように「課題を設定するときの条件の整理」が行われました.おそらく,来年もこうした条件に基づいて実践が行われ,それらが見直され,さらにレベルアップしていくことと思います.汎用的にまとめつつ,具体的な基準も示す,役立つ条件がさらに役立っていく.これが本校の取り組みで評価できる大きな点だと思っています.

本期間(4月~7月)の取り組み内容

○小中連携した指導計画案の検討・改善

(1)学習課程

 昨年度までに授業実践の取組から,学習過程を以下の①〜④のように整理し直した。

  1. ①各学年の生活場面に合わせた具体的な場面から課題を把握すること
  2. ②プログラムを作成する前に,アクティビティ図によって見通しをもつこと
  3. ③プログラムを作成し,さらにより簡潔で汎用性のあるプログラムに修正すること
  4. ④作成したプログラムをもう一度アクティビティ図に表わし,学びを自覚すること

 しかし,第6学年については,課題の内容から単位時間ごとで区切ることに難しさがある。そこで第4学年,第5学年についてはそれぞれの単位時間で①〜④の過程を行うこととし,第6学年では4時間を通して,①〜④の過程を行うこととした。

 ただし,第6学年においても単位時間における学びを自覚してくことは必要である。よって,第6学年では,4時間分の計画表を用いて,単位時間ごとに自分が取り組んだことを言葉で残していくことした。そして,単元後に4時間の学習を振り返り,レポートを書くこととした。

(2)学習内容・学習活動

 昨年度の実践から,第4学年に,「順次処理」,第5学年に「条件処理」「繰り返し処理」,第6学年に「分岐処理」を位置付けることとしている。今年度は,児童がそれぞれの処理のよさに気付くことができるようにしていきたい。そこで,以下のように学習活動を整理した。

(第4学年)

  1. ・意図する活動を実現できる「できるだけ数が少ないプログラム」を考える活動

(第5学年)

  1. ・似た場面において,同じプログラムで意図する活動が実現できる「いつでも使えるプログラム」であり,その中でも「できるだけ数が少ないプログラム」を考える活動

(第6学年)

  1. ・具体的な場面において,意図する動きを実現する「いつでも使えるプログラム」かつ「できるだけ数が少ないプログラム」を考え,さらに「こういうときに,こんなことができる」といった付加価値を考え,そのプログラムを考える活動
(3)課題を設定するときの条件の整理

 授業実践から,課題を設定するときの条件を以下のように整理した。

  1. ・児童がイメージしやすい生活場面に合わせた具体的なものとなっているか
    (児童はプログラムの簡潔さを求めながら,動きの現実的実現性を求めるため)
  2. ・5分程度の時間でどんな動きをしたらよいかを見通せるものとなっているか
    (見通しをもつことよりも試行錯誤し,学んだことを自覚する時間を確保したいため)
  3. ・アクティビティ図に表したときに動作の数は適当か
    (第4学年では10,第5学年では15,第6学年では20くらいが適当である)
  4. ・条件処理を用いる箇所や繰り返し処理を行う箇所が独立しているか
    (複数のセンサーを同時に働かせる,繰り返し処理をしながら条件処理をすることは難しいため)
  5. ・レゴ・マインドストームの誤差を考慮した道幅となっているか
    (直進や方向転換で誤差が生じるが,児童がそこに執着しないようにするため)
【授業実践第5学年】

場面:学校の近く巡回するバスをイメージし,自動的に巡回できるバスを考える場面を設定した。

動き:「まっすぐ進む」→「駅を見付けて止まる(カラーセンサー)」→「方向を変える」という動きを繰り返し処理を用いてロボットを進める。

アドバイザーの助言と助言への対応

○(助言)状況設定や課題設定の際に考慮すべき条件を整理すること

  • ・(対応)各学年で身に付けたいプログラミングの処理や,各学年の児童にとってイメージしやすい場面について見直し,整理した。また,学習内容・学習活動についても汎用性のある指導計画の作成を目指し,整理した。

○小中連携カリキュラムについて具体化すること

  • ・岐阜大学教育学部附属中学校においてもレゴ・マイントストームを用いた授業実践を行なっている。中学校では,技術の時間に行なっており,その担当教員と実践を交流した。
     例えば,技術・家庭科の題材「計測と制御」では,計測・制御システムが生活の中でどのように役立っているかを学んだり,センサーやアクチュエータを使って,身の回りにある問題を解決する力や,目的や条件にあった最適なプログラムの手順や考え方を学んだりする。そこで,さらに理解を深めるためにも,プログラムで動くロボットを活用し,学習したことが実感できるような教材を考えることにした。昨年度は題材の終末課題として,目的や条件に合わせて車を走らせるためのプログラムを作成した。
     今後,このような中学校での指導内容と小学校での指導内容とのつながりを整理していくことが必要である。

本期間の裏話

 6月15日(土)に本校は中間研究会を行った。その際に,第5学年がプログラミング学習を公開した。参観された方のアンケートにうれしい記述があった。

トライアンドエラーを繰り返しやすく,子どもたちが問い直しやすい学習活動であったと感じた。あの姿を他の教科・領域の学習の中でも求めていくために研究を続けていきたいと思いました。子どもたちには,もともと自分なりの学ぶ意欲も学び方も身についており,それを引き出していけるかどうかはこちらのデザインやマネジメント次第なのだと感じました。

 今後もさらに学習活動のデザインやマネジメントを工夫していきたい。

本期間の成果

○小中連携した指導計画案の検討・改善

  • ・第5学年では,分岐処理に加え,繰り返し処理を行うこととした。「自動的に巡回する」という課題から,同じコースを何度も進む動きを考え,繰り返し処理が必要であることに気付くことができた。条件処理と繰り返し処理をどのように使うかで悩みながら,実験的に修正を行い,意図する活動を実現することができた。第5学年の児童の発達の段階を考えてもこの内容は十分に可能だということが分かった。
  • ・児童がそれぞれの処理のよさに気付くことができるように学習活動を整理した。「どんなプログラムを目指して,児童がどんな思考をできるようになればよいのか」ことが明らかになってきたことによって,今年度転入した職員でも実践を行うことができている。

今後の課題

●指導計画の修正

①第6学年の学習課題を工夫すること

  • ・今年度の実践では「お掃除ロボットをつくろう」という課題で取り組んだが,自由度が大きすぎて議論が曖昧なまま終わってしまう結果となった。単元を貫く課題として相応しく,かつこれまでの学年で意識してきた「場面の条件に合う動きを考える」「より簡潔なプログラムを考える」ということを満たしている学習課題を考えたい。

②中学校との連携を明らかにすること

  • ・小学校と中学校である程度の段階を設け,実践を行なってきた。しかし,資質・能力をどのようにして育んでいくかという点で整理しきれていない部分がある。これまでに作成した指導計画をもとに,小中連携したカリキュラムを作成していきたい。

●プログラミング学習により育てる資質・能力

  • ・総合的な学習の時間におけるプログラミング学習の評価規準を明らかにし,具体的な児童生徒の姿から「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」の育ちを評価する計画について検討していく。

今後の計画

【7,8月】小学校,中学校の実践のまとめ

  •  ・今年度の実践より来年度第4学年〜第6学年総合的な学習の時間(4時間分)の指導計画及び学習プリント(学習活動・学習課題)の作成
  •  ・今年度の実践より中学校における指導計画及び学習プリント(学習活動・学習課題)の作成

【8月】職員研修

  •  ・本校のプログラミング教育の共通理解
  •  ・情報機器の操作,管理の確認

【9月】授業実践

  •  ・第4学年における授業を実践・研究する

成果目標

○小中連携した指導計画案の検討・改善

 1年次では,プログラミング学習において,児童生徒に身に付けさせたい3つの力(「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」)が発揮される学習活動を,学年発達に応じた手立てを位置付けた指導計画案を作成した。2年次では,実践を行いながら,3つの力をより効果的・効率的に児童生徒が身に付けられるように検討・改善をする。その際,本校で総合的な学習の時間で行っている内容と,教科の時間で行っている内容の関わりを明らかにする。

○児童生徒の実態把握と評価計画の作成

 2年次の授業実践を行い,児童生徒の実態把握をする。また,設定した学習活動が児童生徒にとって適切なものかどうか,身に付けたい力が発揮されるものになっているかどうかを振り返り,評価計画を作成する。

○他校での活用可能性を検討

 本校で作成した指導計画,学習プリント等が他校でも活用可能かどうかを検討する。他校の先生と意見交流する場をもち,レゴ・マインドストームに頼らなくても指導が行えるような汎用性のある指導計画等を作成する。

アドバイザーコメント
高橋 純 先生
東京学芸大学 教育学部 准教授 高橋 純 先生

 2年目の1学期の取り組みです.

 新年度であれば,まず,これまで取り組んできたプログラミングに関するカリキュラムや指導法が,転任者に確実に伝わっており,実施できているかが課題になります.転任者に伝えることができていれば,汎用的なカリキュラムに近づいている証でしょう.「今年度転入した職員でも実践を行うことができている」と成果が報告されています.年度がかわっても,他校にも,通用するカリキュラムになりつつあるといえます.

 もう一つの本校の大きなテーマは,小中連携です.文部科学省「小学校プログラミング教育の手引」によれば,アルゴリズム(問題を解決する手順を表したもの)などの本格的なプログラミング教育は「中学校や高等学校の各教科等で学習しますので、小学校段階では、こうしたことへの『気付き』が重要と考えられます」としています.中学校の技術・家庭(技術分野)では,プログラミングに関する学習が従来の倍増となり,高等学校の情報科では共通必履修科目が新設され,全ての高校生がプログラミングによって問題を発見・解決する学習を行うこととなっています.このような中で,小学校での学習をどのように中学校に発展させていくか,それらが高等学校での学習の基盤となっているかがポイントになると思われます.

 この1学期にも本校のプログラミングの授業を参観させていただきました.私自身,多くの学校でプログラミングの授業を拝見していますが,本校のように楽しく,身につく,授業づくりがいかに難しいかを感じています.児童にとって楽しいことが,さらに難しい課題に挑戦したり,繰り返し挑戦したりする原動力になるのだと改めて感じた参観でした.

本期間(8月~12月)の取り組み内容

○指導計画の修正

(1)第6学年の学習活動

 これまでの実践の成果から,第4学年に,「順次処理」,第5学年に「条件処理」,「繰り返し処理」,第6学年に「分岐処理」を位置付けている。第4学年,第5学年の学習活動のテーマが決まっていく中,第6学年の学習活動が見出せずにいた。そこで,「全員(ペア)が同じ課題に向かって探究する」という活動の大枠を見直し,「ペアで作戦を考え,他のペアと対戦する」という活動を仕組むこととした。

 本校のプログラミング学習では,「場面に合ったプログラム」を考えることを大切にしている。場面の条件に合う動きを考えながら,「より簡潔で汎用性のあるプログラムを考える」ことをプログラミングの方針として取り組んできた。よって,児童が把握しやすい場面を生活経験の中から選んでくることはとても重要である。そこで,第4学年では飼育活動を想定した具体的な場面,第5学年では町の中にある具体的な場面,第6学年では社会の中にある具体的な場面と徐々に場面を拡張していくこととした。そうすることで,身の回りや社会の中にある様々な情報技術についてより広く知ることができる。ただし,「場面に合ったプログラム」を考えることができるように単元の導入の段階で,具体物や動画等を利用し,イメージを共有し,児童が場面を把握できるようにする。

 さらに,これまでの授業実践から得た,以下の「課題を設定するときの条件」を考慮して第6学年の学習活動のテーマを「セキュリティロボット」とした。

  1. ・児童がイメージしやすい生活場面に合わせた具体的なものとなっているか
    (児童はプログラムの簡潔さを求めながら,動きの現実的実現性を求めるため)
  2. ・5分程度の時間でどんな動きをしたらよいかを見通せるものとなっているか
    (見通しをもつことよりも試行錯誤し,学んだことを自覚する時間を確保したいため)
  3. ・アクティビティ図に表したときに動作の数は適当か
    (第4学年では10,第5学年では15,第6学年では20くらいが適当である)
  4. ・条件処理を用いる箇所や繰り返し処理を行う箇所が独立しているか
    (複数のセンサーを同時に働かせる,繰り返し処理をしながら条件処理をすることは難しいため)
  5. ・レゴ・マインドストームの誤差を考慮した道幅となっているか
    (直進や方向転換で誤差が生じるため)
(2)中学校の学習活動

 岐阜大学教育学部附属中学校では,主に第2学年「D情報の技術 計測と制御」の学習でプログラミング学習を行なっている。小学校のときに,プログラミング学習を行なっていないという実態を踏まえて,今年度は「計測と制御」の学習で使われる「スクラッチ」の基礎から学習することとした。

 ラズベリーパイ(ハードウェア)とスクラッチ(ソフトウェア)を用いたプログラミングを通して,センサやアクチュエータの基本的な動作や,制御の仕組みを身に付けさせ,普段利用しているものには計測・制御システムが利用されていることを学習した。

 題材後半では,現在実用化されている自動車の自動ブレーキや防犯ライトなどのシステムについて考える活動を通して,様々なセンサやアクチュエータを組み合わせてプログラミングすることで実現できることに気付かせていく。また,より生活を便利にしていけないかアイデアを考え,実現していく活動を行う中で,明確な根拠をもって,試行錯誤をしながら改善をし,さらによりものを目指していこうとする姿を育成したい。

 来年度から完全実施される学習指導要領においては,小学校におけるプログラミング教育の成果を生かし発展させるという視点から,従前からの計測・制御に加えて,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングについても取り上げることとなっている。そこで,岐阜大学教育学部技術教育講座の福岡研究室と連携を図り,「ネットワークアプリ制作」の学習を予定している。ネットワークデータを使い誰かのためのアプリを作ることを通して,情報の技術の見方・考え方を働かせて,問題を見いだして課題を設定し解決する力を育成するとともに,情報通信ネットワークの構成と,情報を利用するための基本的な仕組みを理解させ,安全・適切なプログラムの制作,動作の確認及びデバッグ等ができるようにしていきたいと考える。

(3)プログラミング学習において育みたい資質・能力

プログラミング学習においては,プログラミング的思考「自分が意図する一連の活動を実現するために,どのような動きの組合せが必要であり,一つ一つの動きに対応した記号を,どのように組み合わせたらいいのか,記号の組合せをどのように改善していけば,より意図した活動に近づくのか,といったことを論理的に考えていく力」を育んでいくことが重要となる。本校では,児童の実態と情報活用能力という視点からプログラミング的思考を「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」の3つの力を軸に捉え直した。

論理的に考える力 読み解く力 言語能力
目的や条件に合わせ,根拠を明確にし,順序よく考える力 場面に含まれる条件や記号とその組み合わせが表している意味を理解する力 自分が意図する動きや意味を的確に表現する力

 このように捉えることで活動の中で児童がどんな資質・能力を発揮しているかが見とりやすくなる。さらに,単元において,これらの資質・能力を発揮した児童の姿を考え,その姿を見とり,資質・能力がどのように育まれたかを評価していく。

○授業実践
【第6学年】

場面設定

宝を守るセキュリテイシステムを想定

盗み出そうとする侵入者とそれを防ぐためにセキュリティシステムが周回している

動き

ルパンカーは緑のラインから真ん中にある宝物を目指し,銭形カーに見つからないように進む。(順次処理)

銭形カーはルパンカーを探しコースを周回する。ルパンカーを見つけたら音を鳴らす。(順次処理・条件処理・繰り返し処理・分岐処理)

アドバイザーの助言と助言への対応

○小中連携カリキュラムについて具体化すること

  • ・現在の中学1年生は岐阜大学教育学部附属小学校においてプログラミング学習に取り組んできた。しかし,中学2年生以上は小学校においてプログラミング学習に取り組んでおらず,現在の中学校技術科カリキュラムは中学2年生にプログラミングが位置付いており,小学校での学びをつなげ,さらに発展させていくという学びがまだ実現できずにいる。今回の授業実践により,小学校のカリキュラムはこれで決定し,中学校カリキュラムをどうつくっていくのかを明確にしていく必要がある。中学校での指導内容をより発展させ,小学校での指導内容とのつながりを整理していく。

○プログラミング学習により育てる資質・能力

  • ・引き続き総合的な学習の時間におけるプログラミング学習の評価規準を明らかにしていく必要がある。「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」について,各学年における目指す姿を具体的な姿で決め出した。

本期間の裏話

 12月1日(日)に(公益財団法人)岐阜市教育文化振興事業団 青少年ルームの冬季講座において,「プログラミングに挑戦!」と題してレゴ・マインドストームを用いたプログラミングの講座を行った。プログラミングを経験したことがある児童も経験したことがない児童も参加していたが,本校での「課題を設定するときの条件」などを生かして,活動を仕組むことで,どの児童も楽しくプログラミングを学ぶことができた。

 コースを2種類用意することで,1つのコースができた児童は次のコースに挑戦することができた。また,「繰り返し処理」や「条件処理」を使うとプログラムが簡潔になるようにコースを工夫した。そうすることで,児童に新たな気付きが生まれ,参加している児童はプログラミングを通して考える楽しさを感じることができた。

 このことから,本校の学習活動には,どんな子どもにとっても学びがあるものと分かり,励みになった。

本期間の成果

○授業実践

  • ・第6学年では,分岐処理を必要とするプログラムを考える。機器の扱いや,仲間との活動に自律的に取り組むことができるようになるという発達の段階から,「対戦型」の活動を取り入れた。「対戦型」ということで児童の意欲は高まり,よりよいプログラムを考える姿に繋がった。
  • ・「対戦型」として,プログラムをつくる時間に制限を設けることで「より簡潔なプログラム」が必要になり,これまでに学んだ処理を活用する姿に繋がった。

○プログラミング学習において育みたい資質・能力

  • ・プログラミング的思考を「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」の3つの力を軸に捉え直したことで,単位時間の中で資質・能力を発揮した姿を捉えやすくなった。

今後の課題

●小中学校(義務教育学校)としてのカリキュラムを明らかにすること

  • ・令和2年度より本校は義務教育学校となる。これまでよりもさらに小中の接続を円滑にすることができ,より効率的・効果的に資質・能力を育むことができるようになると考える。それが実現できるカリキュラムについても考えていきたい。

●プログラミング学習により育てる資質・能力

  • ・6年間のプログラミング学習において「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」をどのように育んでいくのかを明確に示す必要がある。特に,それぞれの学年の指導計画の中にそれを位置付けて整理することが必要である。さらに,中学校においても3つの力をどのように育んでいくのかを整理していく。そして児童や生徒の変容をまとめていく。

今後の計画

【1月】29日(水)プログラミング教育公表会

  • ①本校の取組が分かるプレゼン資料の作成
  • ②第1学年〜第6年生の指導計画の作成
  • ①②を公表会当日に参加者に配布する

【2,3月】研究のまとめ

成果目標

○小中連携した指導計画案の検討・改善

 1年次では,プログラミング学習において,児童生徒に身に付けさせたい3つの力(「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」)が発揮される学習活動を,学年発達に応じた手立てを位置付けた指導計画案を作成した。2年次では,実践を行いながら,3つの力をより効果的・効率的に児童生徒が身に付けられるように検討・改善をする。その際,本校で総合的な学習の時間で行っている内容と,教科の時間で行っている内容の関わりを明らかにする。

○児童生徒の実態把握と評価計画の作成

 2年次の授業実践を行い,児童生徒の実態把握をする。また,設定した学習活動が児童生徒にとって適切なものかどうか,身に付けたい力が発揮されるものになっているかどうかを振り返り,評価計画を作成する。

○他校での活用可能性を検討

 本校で作成した指導計画,学習プリント等が他校でも活用可能かどうかを検討する。他校の先生と意見交流する場をもち,レゴ・マインドストームに頼らなくても指導が行えるような汎用性のある指導計画等を作成する。

アドバイザーコメント
高橋 純 先生
東京学芸大学 教育学部 准教授 高橋 純 先生

 いつ参観しても子供が楽しくプログラミングを学んでいる.テーマを決める際,「場面に合ったプログラム」の学習活動を大切にしているとのこと.これが効いているのであろう.

 今回,新しく小学6年生の学習活動のテーマを「セキュリティロボット」に定めた.これも「場面に合ったプログラム」に基づいて定められたといえる.そして,その詳細化に役立つのは,5つの「課題を設定するときの条件」である.「アクティビティ図に表したときに動作の数は適当か(第4学年では10,第5学年では15,第6学年では20くらいが適当である)」といった5つの条件は,新たなテーマを学習活動に落とし込む際に重要となる.「銭形カー」が「ルパンカー」を探すといった魅力的なテーマは,ややもすれば難易度が高くなりすぎてしまったり,単なる遊びになってしまったりするかもしれない.だからこそ「課題を設定するときの条件」が重要な指針となる.本条件は,テーマを考えるたびに参照し,修正してきた積み重ねという裏付けもある.

 また,よきプログラムとは,場面の条件に合う動きを考えながら,1)より簡潔であること,2)より汎用性のあること,と定めている.こうした学年を貫いて鍛え育む「見方・考え方」があることで,学年が変わりテーマが変わっても,一貫して児童に身につくことがある.これもまた積み重ねである.

 いよいよ小学4年生から6年生のみならず,低学年や中学校へとカリキュラム開発が広がってきている.生活科や総合,技術科などにおいて,プログラミングそのもの楽しさも学べるよきカリキュラムが完成しつつある.ゴールが楽しみである.

本期間(1月~3月)の取り組み内容

○授業実践

第5学年「正多角形と円」

 次期学習指導要領では,「数量や図形についての感覚を豊かにしたり,表やグラフを用いて表現する力を高めたりするなどのため,必要な場面においてコンピュータなどを適切に活用すること」とある。本単元では,図形についての感覚を豊かにするために,正多角形の作図を行う学習に関連して,正確な繰り返し作業を行う必要があり,更に一部を変えることでいろいろな正多角形を同様に考えることができる場面などで取り扱うことが求められている。

 そこで,これまでの生活科や総合的な学習の時間でのプログラミング学習をもとに本校では本単元をどのように指導していくかを考え,実践した。本実践では,スクラッチを用いた学習活動を行った。

 児童は,これまでにスクラッチJrやレゴ・マインドストームを用いたプログラミング学習に取り組んだ経験がある。そこで,「スタートのプログラムはフラッグをクリックする」「プログラムの最初にペンをおろすを位置付ける」の2点のみを説明し,「正三角形をかく」プログラムをつくっていった。

 途中,児童はプログラムに必要な角度は内角ではなく,外角であることに気付きながら追究し,正三角形をかくプログラムをつくることができた。できた児童は,さらに条件を変えて考え始め,「正方形や正五角形はどんなプログラムなのか」「どんな正多角形でもかけるようなプログラムはつくれないのか」と追究していった。正三角形,正方形,正五角形と追究を進めていく中で外角の和は360°になるのではないかと類推した児童がいた。その考えが広がり,プログラムに取り入れる児童が増えていった。正何角形をかくのかを尋ね,入力した答えの多角形をかくプログラムができた。さらに,かく大きさも調節できるように,辺の長さも計算して調節できるようにした児童も見られた。

 もちろん,児童は正多角形の外角の和が360°であることを文字を使った式を用いて数学的に説明はできない。しかし,トライ&エラーで取り組めるプログラミングを用いた学習だからこそ,その1つ1つの結果から類推して考えていくことができた。

 これまでのプログラミング学習で学んできたことが教科の学びでもたしかに生きていることが分かった。

アドバイザーの助言と助言への対応

○小中連携カリキュラムについて具体化すること

  • ・現在の中学1年生は岐阜大学教育学部附属小学校においてプログラミング学習に取り組んできた。しかし,中学2年生以上は小学校においてプログラミング学習に取り組んでおらず,現在の中学校技術科カリキュラムは中学2年生にプログラミングが位置付いており,小学校での学びをつなげ,さらに発展させていくという学びがまだ実現できずにいる。今回の授業実践により,小学校のカリキュラムはこれで決定した。そのことを踏まえ,中学校カリキュラムを今後も検討してく。小学校での実践の成果と課題から中学校では以下のことを考えている。

中学校カリキュラムの検討する方向

 中学校技術・家庭科において双方向のコンテンツのプログラミングおよび統合的な問題解決のプログラミングに取り組む際,順次処理,条件処理,反復処理,分岐処理については,既習事項として確認していくものとして扱い,それらを活用した授業展開を構築していくものとする。

「論理的に考える力」をより育むために

 グループで学習する機会を多く設けているが,その前に自分の考えをじっくり分析し,失敗した場合は特に安易にグループ活動をさせず,自身で原因追求できるように時間を設けたい。

「読み解く力」をより育むために

 自他のプログラムを読み取る力を生かして,特に技術・家庭科技術分野において,製作品や設計図から,製作の目的や意図を汲み取る学習に取り組ませたい。

「言語能力」をより育むために

 仲間と考えを伝え合いながら完成させる力を生かして,各教科等の様々な議論の場で課題に対する結論を導いていくような授業展開を設定する。

本期間の裏話

 1月29日に「プログラミング教育公表会」として,授業公開,授業研究会を行った。県内だけではなく県外からも多くの方に参観していただき,たくさんのご意見をいただくことができた。授業研究会では,全体を8グループに分けて質疑応答や研究討議を行った。各グループでは本校職員が司会を務めた。

 本校はこれまで全職員で実践を行い,研究を重ねてきた。授業者は担任の先生なので,全員が実践者である。その経験があるからこそ,どの先生でも本校のプログラミング教育について説明することができ,公表会でもグループの司会を務めることができたのだと考える。はじめは本取組に抵抗感をもつ教師もみえたが,「体験」を重ねるにつれて理解が深まっていった。新しい形や視点が入ってきたときには,頭で考えるよりもまず「やってみる」ことが必要であることを改めて感じた。大人でもそうであれば,子どもはなおさらである。今後もまず教師が「体験」し,その楽しさを感じたり可能性を考えたりして,子どもに伝えていきたい。

本期間の成果

○授業実践

  • ・ICTに触れる「体験」を継続して行ってきたため,操作スキルについてつまずく児童がいなかった。また,実施した第5学年の児童は,2年前の第3学年のときからプログラミング学習に取り組んでおり,スクラッチの使い方に慣れており,プログラミング的思考ももっている。だからこそ,本実践で児童は「算数の内容」について学びを深めていくことができたと考える。このことからICTを活用して学んでいくためにはICTの知識や操作スキルを高める時間,それを活用した考え方を学ぶ時間が必要であり,本校のカリキュラムが有効であることが分かった。

○他校での活用可能性

  • ・1月29日に行った公表会では参観者から多くの質問や意見をいただいた。その中で最も多かったのは「機械は無いがどうしたらよいか」という質問であった。上にあるように,本校では,各教科・領域等でもプログラミング的思考を働かせながら取り組む学習活動をまとめてあり,それを紹介した。参観者からは「参考になった」という感想の声を多くいただき,他校での活用可能性を感じることができた。しかし,レゴ・マインドストームは高価であるため,それを用いた実践は難しいと改めて感じた。

2年間の成果

●小中学校(義務教育学校)としてのカリキュラムを明らかにすること

 2年間の研究を通して,示された目的の達成や自分たちで見出した課題解決のために,これまでに得た知識を活用する姿に加え,考えやその根拠等を仲間と検討し合う姿が多く見られるようになった。これは「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」の3つの資質・能力が発揮された姿であると考えている。

 研究2年次の末に児童の意識を調査するため,アンケートを行った。そのアンケートの中の「プログラミング学習は楽しいですか」という設問に対して98%の児童が「とても楽しい」「楽しい」と感じていることがわかった。さらにその理由を問う設問に対しては,以下のような記述が見られた。

  • ・「ここを改善すればこう動く」と考えて想像しながらやるのが楽しい。
  • ・何度も試して微調整を繰り返すと目標が達成されるからうれしい。
  • ・プログラミングは難しいけれど,仲間と相談しながらがんばるから楽しい。
  • ・自分たちが分からないことを自分から調べるので色んな知識が身に付く。

 これからの記述から児童は「論理的に考える力」「読み解く力」「言語能力」の3つの資質・能力を駆使しながら取り組むことに楽しさを見出していることが分かる。

 さらに「プログラミング学習を通してできるようになったことは何ですか」という複数選択式の設問に対しては次の表のような結果が得られた。

(1)(2)(6)を選択した児童の割合が大きいことから「論理的に考える力」「読み解く力」の高まりを児童も実感していることが分かる。特に(2)に関しては,「図をかく」ことを継続的にやってきたからこそ自分がどう考えたのかが自覚できたのだと考える。

また,本校教師を対象としたアンケートにおいて,児童の成長について以下のような記述が見られた。

  • ・「できた」と思っても,もっと簡単に,より日常生活に通用するようにさらに工夫しようとチャレンジできるようになってきた。
  • ・日常生活や教科の授業で「トライ&エラーを何度も繰り返すことが大切」と伝えても実感がわかないことが,プログラミング教育であれば,そのよさを実感しながらすることができるようになってきたと思う。
  • ・課題解決型の学習において,主体的に考える姿が増えました。子ども自身が課題を見つけ,その課題に向かっていくことで,その課題を何とかしたいなあ,と行動する姿が印象的です。
  • ・生徒指導(対人関係)にも生かすことができ,特に感情をコントロールすることが難しい子には有効でした。

 これらの記述から,教師も児童の高まりを実感していることが分かる。プログラミング教育において児童と教師が同じことを大切にして取り組んできたからこそ,同じことに高まりを感じることができたと考える。

今後の課題(計画)

●小中学校(義務教育学校)としてのカリキュラムを明らかにすること

  • ・令和2年度より本校は義務教育学校となる。義務教育9年間を見通したカリキュラムを作成することにより,各教科・領域等において学習内容の削減や統合等を行うことができる。現段階では,技術・家庭科を第1学年からはじめることを計画している。そうすることで,技術科としてプログラミングの素地を養うことができ,我々が大切にしていた「体験する」時間を十分に確保できる。第1学年から第9学年まで系統立てて学びをつないでいくことで,資質・能力をより効率的・効果的に育むことができるようになると考える。
  • ・第1学年からICTに触れながら学びをしていくことで他教科・領域の学びも変わってくる。教科や領域で育みたい資質・能力をより効率的・効果的に育むことができるように全体カリキュラムを考えていく。

2年間を振り返って

 近年,〇〇教育という言葉が増えている。〇〇教育といわれると,「〇〇を教えるもの」と捉えてしまうことが多く,正直「やることが増える」と感じてしまっていた。しかし,本研究の取組を通して,常に「〇〇教育を通して児童生徒にどんな力を育みたいのか」という本質を考えることが大切であることに気付くことができた。また,その力を育んでいくためには,知識・技能などの他の力も必要となってくる。教科や領域の本質も大切にしながら,児童生徒にこれからの社会で必要となる力を育んでいくためには,本研究のように大胆なカリキュラム・マネジメントを試みることも必要だと学ぶことができた。

 また,これまでの学びは「単位時間のねらい」を明確にするあまり,児童生徒に「これをできるようにさせたい」という思いが強くなり,教師が主導していまうことが多くあった。今回の研究でのキーワードである「トライ&エラー」は,我々が願いながら実現できなかった学びである。教材や問題の魅力さえあれば,児童生徒はこれまで学びを生かし,主体的に問題解決に取り組む。教材や問題を考えることは難しいことだが,児童生徒の主体的・協働的な学びを生み出す大きな要因であることが分かった。

本研究を広げ,児童生徒の義務教育9年間の学びをデザインしていきたいと考える。

アドバイザーコメント
高橋 純 先生
東京学芸大学 教育学部 准教授 高橋 純 先生

 2年にわたる研究の最後の3ヶ月の活動として,5年算数「正多角形と円」におけるプログラミング実践が報告されている.これは,新学習指導要領に示されており,すべての教科書会社の教科書に掲載され,すべての児童が学ぶことになる.本単元で期待されるのは,プログラミングを通して,算数の目標を達成するという,手段としてのプログラミングだ.その前提として,校内のICT環境の充実はもちろんのこと,児童には,1)基本的なPCの操作技能,2)プログラミングに対する基礎的な知識・技能,3)基礎的なプログラミング的思考,が必要である.つまりは,こうした「慣れ」が基盤となる.もしPCを活用した学習をほとんど行っていなかったり,プログラミングが初出であったりすれば,教員の指示通りに児童が操作することすら難しいことは,多くの先行実践で明らかとなっている.

 この算数の授業では「フラッグをクリックする」など,2点のわずかな説明のみで実施できた.児童が様々なトライ&エラーを通して,正多角形に対する感覚を豊かにしたり,プログラミングの良さを学んだりした様子が示されている.算数の学習として成立していることはもちろんのこと,アクティビティ図から検討したり,入力に応じた正多角形を描いたりもするなど,基礎から応用までのプログラミング学習が行われている.児童が主体的に取り組んでいる様子が見られることも特筆に値するであろう.本校が取り組んできた系統的なプログラミング学習のカリキュラムが有効に機能している証拠である.

 小学校でのプログラミング教育は,主に手段として位置づけられる.だからといって,何もプログラミングを学ぶことなしに,突然,教科学習の手段にはならない.プログラミングを目的的に学ぶことも必要である.

 本校では生活科や総合的な学習の時間でコンピテンシーベースの学習を進める中で,プログラミングそのものの学習を上手に位置づけるカリキュラムを開発した.すべての教師が指導でき,すべての子供が興味を持って取り組める課題を設定した.レゴ・マインドストームの選択は報告書にも高価であると示され,多くの学校への普及を考えれば課題となるが,それでもパイロット研究であるから本質的な部分に取り組むための選択であったといえる.高学年においてどのような学習課題で車をプログラムで動かすか,そうした学習の前段階に低学年ではスクラッチJr.を体験すること,学年進行で徐々に課題の難易度があがり,子供が夢中になって試行錯誤する学習課題を設定したりした.そして,アクティビティ図を用いて設計し,実際にプログラムを試行錯誤して組み立てて,再び設計を見直す学習パターンをくり返すなど,カリキュラムのみならず,多くのプログラミングにおける学習指導のノウハウが明らかとなった.こうした成果により,先に述べたように算数の正多角形の学習でも見通しをもって主体的に学習できたと考えられる.

 中学校でのカリキュラムは,まだ計画の域をでていないようではあるが,こうした学習をした児童たちが中学校でさらに深めるカリキュラムが実現していくことを期待したい.