2020年度(第46回)実践研究助成 一般助成表彰

 

 2020年度(第46回)実践研究助成 一般助成の優秀な研究成果報告書を紹介します。
※実践研究助成の助成校は研究計画に即して実践研究に取り組み、その成果を研究成果報告書にまとめます。当財団では、一般助成校の研究成果報告書の内容等を評価し、優れたものを表彰すると同時に、当該学校の実践の特長等を実践研究助成の専門委員が解説しています。一般助成校による実践研究の成果をより多くの方々に、より分かりやすくお伝えいたします。

評価を担当いただいた専門委員

岸 磨貴子 明治大学 准教授

北澤 武 東京学芸大学 准教授

島田 希 大阪市立大学 准教授

瀬戸崎 典夫 長崎大学 准教授

福本 徹 国立教育政策研究所 総括研究官

森田 裕介 早稲田大学 教授

(五十音順)

全体講評

森田裕介 早稲田大学 教授

 2020年は、世界的な感染症の流行によって、多くの教育機関が困難に立ち向かわなければなりませんでした。そのような状況下において、情報通信技術(ICT)は日本中の児童・生徒が学び続けるための一助となりました。各教員が日々研鑽してきたICT活用の実践に関する知見と経験は、さまざまな場面で大いに役に立ったことでしょう。

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 パナソニック教育財団は、これまでに有益な実践事例に助成を行い、その実践知を社会に広く知らしめ、ICT活用の推進と教育課題の改善を支援してきました。2020年度、第46回一般助成を受けた学校(以下、一般助成校)は、71件(小学校28件、中学校10件、義務教育学校・小中一貫校1件、高等学校14件、中等教育学校・中高一貫校3件、特別支援学校6件、在外教育施設1件、教育委員会・教育センター・教育研究所1件、複数校の教員が構成する教育研究グループ7件)でした。この71件分の研究成果報告書を加えますと、合計して約1500件の実践研究の知見が蓄積されたことになります。それぞれの実践について、昨年に引き続き、次の5つの観点から研究成果報告書を総合的に評価しました。

  • 内容面1:研究内容・活動の創意工夫
    取り組みにその学校ならではの工夫を確認できる。
  • 内容面2:研究成果の説得性
    取り組みの成果を量的・質的データで説明している。
  • 内容面3:研究内容の適用可能性
    実践推進上の問題解決の過程を示しており、取り組みを他の学校が参照しやすい(つまづきや悩みにも言及している)。
  • 内容面4:実践の批判的検討
    取り組みを自己点検して、改善のポイントやその具体化を構想している。
  • 形式面:表現の工夫
    分かりやすい文章で記されており、図表や写真が適切に用いられている。

評価委員会における審議の結果、「優秀賞」4件、「奨励賞」7件が選出されました。これら受賞校が評価されたポイントは、次の3点にまとめることができます。

 第一に、新しいテクノロジーを積極的に導入する挑戦的な試みをしている点です。例えば、水上村立岩野小学校は、小学校体育学習におけるSTEAM教育の研究に取り組んだと報告しています。体育学習にプログラミング的思考やe-Sportsの視点を通り入れた試みは、独創性が高く注目に値します。特に、360度カメラを用いたパス成功率の向上やプログラミング学習を取り入れたリズムダンスについては、アイディアだけでなく、その有用性をデータで明確に示している点についても高く評価されました。秋田県立能代支援学校は、特別支援学校において、肢体不自由を有する生徒に対してマイコンボード(Arduino)を用いた支援機器を開発し、その有用性をまとめております。遠隔ロボット(ロボタンク)を操作することによって、生徒が「自立活動」を行うためのプログラミング的思考を働かせたと述べており、今後の成果に期待が持てます。榛東村立榛東中学校は、AIスピーカーと360度カメラを用いて生徒の発話を可視化し、気づきや考えを整理する過程を質的に分析しております。AIを活用して授業実践を改善していく取り組みは、多くの学校の参考事例になることでしょう。

 第二に、改訂学習指導要領に沿ったエビデンスベースの授業改善を行っている点です。例えば、郡山ザベリオ学園中学校は、自ら主体的に学ぶ生徒を育むため、G-PDCAサイクルモデルを確立し、ルーブリックによる自己評価を行った実践を報告しています。ゴール(G)として「なりたい自分象」を設定した上でPDCAサイクルを回すことによって、主体性や自己分析力が向上したことをデータとして示している点は高く評価されました。また、京都教育大学附属高等学校は、新教科「理数科」の教科内容開発を行い、高校生が成果を動画として発表する実践を行ったと報告しています。特に高く評価された点は、学習成果物をもとに分析検証を行ったり、アンケートを用いて意識調査を実施したりして、その成果を明示した点です。津市立明小学校は、図画工作科において、これからの社会で求められる資質・能力であるコミュニケーション力・プレゼンテーション力・論理的思考力の向上を目的としたプログラミング活動を行ったと報告しています。相楽東部広域連合立和束小学校では、キャリア教育に着目し、ICTを活用したハイブリッド型公開研究発表会を実施した事例を報告しています。これらの実践報告は、研究成果の整理と可視化という点において他校の参考となるまとめが示されています。

 第三に、ICTを活用した課題解決を行っている点です。例えば、魚沼市立宇賀地小学校は、人口減少を背景に地元の活性化を課題とし、オリジナルキャラクター「うかにぎり」を作成したと報告しています。広報活動にICT活用を行うことによって児童の情報活用の実態が1年間で変容したことや、若手教員のICT活用指導力が向上したことなどがまとめられています。また、福井市啓蒙小学校は、通級指導における課題をICT活用で改善する取り組みを行っています。通級担当者と特別支援学級担任の協働によって、アプリを使ったドリル学習やICTを活用した自立的な活動支援などが実現しています。成果を量的・質的に示している点は評価できます。北海道函館水産高等学校は、漁業組合における漁獲量の減少を課題とし、ICTを活用したESD(Education for Sustainable Development)の教材開発を行い、実際に七重浜海岸のアマモ保全として海岸清掃活動を行ったと報告しています。探究的な学習をとおして生徒の課題解決能力の育成を行う実践はこれからの総合的な探究の時間のひとつのモデルになることでしょう。佐賀県高等学校家庭科研究会では、災害時における集団避難を課題とし、防災食に関する体験的な学びを加盟校28校に呼びかけて実施しています。地域を巻き込んだ取り組みにICTを活用している点は、今後、多くの学校の参考になると考えられます。

 以上を総括しますと、全体的に、問題の所在を明確にした上で、実践を行いその効果をデータとして明示した成果報告書が多くみられました。感染症の拡大により、手探りで授業を実施する状況が続いていた中で、多くの先生が工夫をしながら実践研究を進めてくださった点は賞賛に値します。ICTを活用することによって、多くの児童・生徒が学びを継続することができました。しかし、ただ活用するのではなく、より効果的に活用するために、当財団が集積した知見があります。ぜひ、今後ともご活用いただけますよう祈念しております。

 なお、今回の研究成果報告書の評価は、実践研究助成の専門委員の中から、次のメンバーが担当いたしました(五十音順)。

 岸 磨貴子  明治大学 准教授
 北澤 武   東京学芸大学 准教授
 島田 希   大阪市立大学 准教授
 瀬戸崎 典夫 長崎大学 准教授
 福本 徹   国立教育政策研究所 総括研究官
 森田 裕介  早稲田大学 教授

表彰校一覧

優秀賞(4件)

小学校1件、中学校1件、高等学校1件、特別支援学校1件

奨励賞(7件)

小学校3件、小学校(特別支援関連)1件、中学校1件、高等学校1件、教育研究グループ(高等学校)1件

優秀賞(4件)

水上村立岩野小学校(熊本県)
研究課題 評価者 報告書
小学校体育学習におけるSTEAM教育の新たな展開
~プログラミング的思考やe-Sportsの視点を取り入れた体育学習の創造~
大阪市立大学 島田 希 准教授 報告書(PDF)
講評

 水上村立岩野小学校は、小学校体育学習におけるSTEAM教育の新たな展開を実現するための研究に取り組んでこられました。より具体的には、体育の学習にプログラミング的思考やe-Sportsの視点を取り入れた実践を展開してきました。同校が、どうしてこうした研究課題に取り組もうとしたのか、報告書では、その背景が丁寧に説明されています。そのため、読者は当該校の研究の意義や必要性を理解した上で、報告書を読み進めることができるでしょう。

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 そして、報告書では、同校の代表的な実践について、写真も適切に用いながら、わかりやすくまとめられています。それにより、読者は、サッカーの基本操作習得のためにVRを活用している様子、サッカーにおける動き方についての理解を深めるためにゲームアプリを活用している様子、リズムダンスの基本ステップを習得するためにタブレット端末を用いて映像視聴している様子、創作ダンスにプログラミングを取り入れている様子を具体的に知ることができます。さらに、上記の実践において、ゲームアプリを活用したり、プログラミング活動を行ったりする際の工夫についても説明されているため、同じような実践を展開したいと考える読者の参考にもなるものと思われます。

 また、こうした研究の成果について、児童の意識調査、サッカーのゲームの分析など、多様な結果をもとに、検証がなされています。加えて、本研究課題は体育学習を対象としたものではありますが、体育の授業における成果だけではなく、児童の情報活用能力についても、その変化の有無が検証されています。つまり、体育科には限定されない成果についても多面的に検討がなされていると言えます。

以上のように、同校の報告書は、研究内容そのものに独自性が認められるだけではなく、その具体的な様子や工夫が整理されており、他校等にとっての適用可能性が高いこと、また、実践の自己評価が丁寧になされているという点が高く評価されました。

郡山ザベリオ学園中学校(福島県)
研究課題 評価者 報告書
G-PDCAサイクルを活用できる中学生の育成
~タブレット端末におけるMy Consulの作成を通して~
東京学芸大学 北澤 武 准教授 報告書(PDF)
講評

 郡山ザベリオ学園中学校の実践研究では,これまでの研究から学力差と学習意欲には相関関係があり,学ぶ目的や生徒自身の目指す目的を設定することで,「何のために発表したり振り返りを行ったりするのか」などの目標設定を行うことが重要であることを明らかにしました.

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そこで,「G:目的やゴール(目的設定)⇒P:計画(意識・行動・目標などの決定)→D:行動 (計画に基づく実践)→C:評価(過程と成果のふり返り)→A:改善(次に向けた見直し) 」のG-PDCAサイクルのモデルを確立し,ICTを活用した授業実践と評価を行いました.G-PDCAサイクルを獲得するための授業実践として,成長プレゼン・インタビュー(なりたい自分像」(G:目的やゴール)を定め,行事や授業ごとに「達成のための計画」(P:意識・行動・目標)を立て,「行事や授業などでの取り組み」(D:計画に基づく実践)を紙媒体 とClassi(ICT活用を支援するクラウドサービス)を用いて「振り返り」(C:過程と成果の振り返り)を行い,次の活動につなげるための「改善」(A:次に向けた見直し)に取り組む)が報告されました.さらにClassiのアンケート機能を用いて全校生徒による回答,全教員が回答を確認するシステムを導入しました.

 授業実践を評価するために,ルーブリック表を用いた自己評価アンケートを用いて,生徒自身が振り返りを行ったり,動機づけの尺度を用いた質問紙評価を行ったりしました.これに加えて,保護者アンケートも実施しました.得られた回答結果は,円グラフや帯グラフ,自由記述の一覧表としてまとめ,今後の課題と展望において,次の実践研究に繋げる内容が述べられています.

 先行研究の分析結果からモデルを構築し,これに基づいた授業実践と評価を丁寧にまとめられた本報告書は,他校のお手本となる素晴らしい報告書として高く評価されました.今後,本報告書の課題や展望で述べられていることを踏まえながら,本実践研究が発展し,広がっていくことを期待しています.

京都教育大学附属高等学校(京都府)
研究課題 評価者 報告書
数学を基軸とした新教科「理数科」の教育内容開発と高校生による学習成果の動画発信 長崎大学 瀬戸崎 典夫 准教授 報告書(PDF)
講評

 本実践研究では,新設された「理数科」における課題を挙げつつ,数学の取り組みに着目するなど,研究の位置付けが明確に示されていました.さらに,生徒たちが自ら問いを立てる実験検証を通した課題研究を実践するだけではなく,ICT活用の一環として,他者に向けた動画制作を通した「伝える力」を育む点も非常に興味深いと思われます.先行研究に関しても,研究の位置付けを明確にするだけではなく,評価の基準等にも参考にしており,客観性の高い研究になっていると思われます.

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 また,代表的な実践について具体的に記述されており,実践の手続きを示すだけはなく,批判的に検討した上で課題点を挙げるなど,読者にとって有益な情報を示すことができています.研究成果に関する評価においても,最終的な発表会のみの評価ではなく,中間発表からの到達度や伸び代の評価を試みており,生徒たちの学びのプロセスについても言及することができています.

 研究の取組成果をまとめた動画を視聴させていただきましたが,報告書だけでは伝わりづらい詳細な実践の様子や,生徒たちの学ぶ姿が表現されており,他校にとっても大変参考になる実践事例であることが伝わりました.1年間を通した取り組みの中での,苦労した点や改善の必要な点においても丁寧に説明されているため,成功事例の紹介にとどまっていない点が素晴らしいと思います.

 なお,生徒たちが製作した動画を「誰に伝えるのか」や,「なぜ伝えるのか」などの宛先や目的を明確に示すことで,より生徒らの制作活動を充実させることができると思われます.具体的には,2年生が1年生に向けて,数学における問いの立て方や,課題解決のプロセスに加えて,新たな気づき等を分かりやすく伝えることをねらいとすることが考えられます.

 総合的な評価として,研究の位置付けや意義を示しつつ,研究の目的が明確に述べられており,他校に対しても大変参考になる実践事例であるとともに,報告書としての全体的な完成度の高さを感じました.

秋田県立能代支援学校(秋田県)
研究課題 評価者 報告書
特別支援学校におけるプログラミングの手法によって児童生徒の可能性を拓く支援機器の開発と実践に関する研究
~コミュニケーションや活動を支援する遠隔ロボットと支援方法の最適化を目指す教材教具の事例を通じて~
国立教育政策研究所 福本 徹 総括研究官 報告書(PDF)
講評

 肢体不自由がある児童生徒は、人や物などの身近な周りの環境を認識していても、身体の動きに制限があるため、自ら周りの環境に働きかけたり、他者とコミュニケーションをすることが難しいという特徴があります。そこで、支援機器を身体の一部として作業を遂行したり、支援機器を通して身近な環境に働き掛ける手段として活用したりできるという仮説の下、マイコンボード(Arduino)にプログラミングした支援機器の開発と実践に取り組みました。

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この実践研究は、肢体不自由と知的障害を併せ有する児童生徒に既存の機器を適合させるのではなく、児童生徒の実態と教育ニーズに合った支援機器を活用し、教育的ニーズに基づいた支援を実現させることを目指したものです。外部専門家と連携して支援機器を開発し、各生徒の学習において支援機器を活用しつつ評価・改善を行って、個々の生徒の実態への最適化を図っています。

 まず、対象となる生徒の実態、教育的ニーズ、支援機器の特徴や操作方法などが、大変わかりやすく一覧でまとめられています。代表的な実践では、対象となる生徒の実態が詳しく述べられており、また、開発した支援機器の詳細な仕様と使用方法が解説されています。そして、実際に支援機器を使用する過程において、支援機器をどのように導入し活用したかについて、フェーズを追って説明されています。それぞれのフェーズでの生徒の反応や動き、活用の度合いや変容について観察した結果と、変容を自立活動の各区分・項目に合わせて整理し、実際に身に付けた力について検証を行っています。あわせて、この実践では、支援機器と達成すべき目標設定によって、自立活動の目標と同時に、目標達成のために試行錯誤することを通してプログラミング的思考を働かせたと推察されています。他の生徒についても、学習活動の中でプログラミング的思考を働かせたり、因果関係の理解が進んだようです。

 本報告書では、代表的な実践の中で詳細に抽出児の事例について分析されているとともに、各段階における取り組みが明確に示されていてわかりやすく、順を追った段階的な指導という点で参考にしていただける実践報告であることが高く評価されました。

奨励賞(7件)

魚沼市立宇賀地小学校(新潟県)
研究課題 評価者 報告書
情報活用能力を育み、探究・発信活動の充実を図るためのICT活用
~連続した探究・発信とマスコットキャラクター「うかにぎり」を効果的に活用して~
明治大学 岸 磨貴子 准教授 報告書(PDF)
講評

 本報告書は、地域を素材として、「うかにぎり」のキャラクターをつくり、地域についてのさまざまな活動を、ICTを活用しながら生み出し、そのプロセスにおいて、児童の情報活用力を育成する点に、特に独創性があり、奨励賞として選ばれました。申請校のオリジナルキャラクターである「うかにぎり」と共に、児童はポスター、CM動画、アンケートの実施、スライドを使った提案活動など、ICTを活用したさまざまな探究・発信活動を生み出していることが報告されています。ICT活用が目的ではなく、手段となっているところが重要な点です。

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たとえば、「動画制作において「うかにぎり」が登場する場面で、児童は興味を惹くためにどのような効果音や画像を使うかについて話し合い、実践しています。また、その活用プロセスの中で著作権について学んでいます。このように、情報活用力育成が実践に「埋め込まれた」興味深い研究であるといえます。児童の知りたい、できるようになりたい、やってみたいという情動的発達を引き出すと同時に、それができるICT環境が整えられています。そのための工夫も示されていました。さらに、教師もまた、児童とこれらの活動に取り組む中でICTを活用し、情報活用力を高めたことが報告されています。本研究は、ICT活用を、「習得→活用」の流れだけではなく、「活用の中での習得」モデルとしても注目に値します。ICT活用が児童および教師にとって必然となる活動や環境について紹介している実践で、参考になる報告でした。

津市立明小学校(三重県)
研究課題 評価者 報告書
図画工作科におけるICTを活用したコミュニケーション力・プレゼンテーション力・論理的思考力の向上
~言語活動とプログラミング教育の充実を通して~
大阪市立大学 島田 希 准教授 報告書(PDF)
講評

 津市立明小学校は、図画工作科においてICTを活用し、コミュニケーション力、プレゼンテーション力、論理的思考力を向上させようとする実践研究に取り組んできました。報告書では、こうした実践が求められる背景として、小学校学習指導要領を紐解きながら説明するとともに、同校ならではの状況にも言及しています。それにより、読者は同校の実践研究の必要性を文脈に即して理解することができるでしょう。

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 また、報告書では、図画工作科においてICTを活用した授業の実践例について、丁寧に説明がなされており、その意図についても知ることができます。あわせて、代表的な実践については、写真も掲載されており、図画工作科においてICTを活用しながら学ぶ児童の様子を知ることができます。

 さらに、同校の報告書に関して特筆すべき点は、代表的な実践ごとに、その成果検証がなされていることです。そして、そこでは、児童のふりかえりの記述といった質的なデータが示されているだけではなく、教職員研修でのふりかえりの内容についても記述されているなど、多面的な検討がなされています。そのほかにも、授業の参観者のアンケートへの言及もみられ、同校が実践の成果を検証するために多様なデータを収集しながら、取り組みをすすめてきた様子を垣間見ることができます。加えて、このような丁寧な自己評価をふまえた上で、さらなる検討の余地についても言及がなされており、「成果のアピール」だけにはとどまらない報告書に仕上がっていると考えられます。

相楽東部広域連合立和束小学校(京都府)
研究課題 評価者 報告書
つながる力、挑戦する心を育むキャリア教育
~ICTのチカラを「借り」て、新時代を生き抜くキャリア形成を促す~
大阪市立大学 島田 希 准教授 報告書(PDF)
講評

 相楽東部広域連合立和束小学校は、ICTを活用しながら児童のキャリア形成を促そうとする実践研究に取り組んできました。同校では、「人間関係形成能力」と「キャリアプランニング力」に重点を置いた取り組みをすすめようとしていましたが、緊急事態宣言等の影響で、実践の変更を余儀なくされたようです。実践研究は当初計画通りにすすまないこともたびたびありますが、同校の報告書では、そうした軌跡についても言及されており、読者にとっても共感できる内容に仕上がっていると思われます。例えば、これまで他校児童との交流については対面で行っていたようですが、それを「リモート交流学習」に切り替えたこと、その理由やそこでの取り組みが、報告書では具体的に記述されています。

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 また、こうした取り組みの成果について、児童へのアンケートや教員のICT活用のスキルのみならず、教職員の日常の様子にも言及しながら、マインドセットの変化として捉えて自己評価している点も特筆すべきであると考えます。児童の様子やそこから捉えられる成果についても上述したアンケートだけではなく、児童の感想なども紹介されており、量的、質的なデータを活用しながら、実践の自己評価を丁寧に行い、報告書にまとめている点が評価されます。あわせて、今後の展望として、今回の実践研究をさらに発展させるための視点やその構想が具体的に示されており、さらなる実践研究の蓄積が期待されます。

福井市啓蒙小学校(福井県)
研究課題 評価者 報告書
支援を要する児童の主体的な活動を促すICTの活用
~ 通級指導でICTを活用することで、通常学級での主体的な活動に繋げる ~
国立教育政策研究所 福本 徹 総括研究官 報告書(PDF)
講評

 福井市啓蒙小学校では、何らかの支援を要する児童に対して、普段の学びや行事などに対して主体的に取り組めるよう、ICT機器を活用した学習や活動に取り組んできました。その内容としては、通級指導においてICT機器を活用して教科の内容を取り扱いながら自立活動に取り組むことで、通常学級での学習の支援を行うことと、特別支援学級の授業においてICT機器を活用して様々な活動の支援を行うことがあります。

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 具体的な実践としては以下のようなものです。通級指導において、通常学級の授業の板書を撮影したものを用いて復習を行ったり、アプリを用いて知識の定着を図ったり、板書や資料を拡大したりして自分に適したスタイルで学習を進めたりしています。また、特別支援学級において、朝の会などでタブレットを用いて視覚的な支援を行い、その日1日の流れや目標、個々の時間割などを視覚的にイメージしたり、自分の行動がわからなくなった時にいつでも朝の会の画面を見直す環境を整え、自律的な学校生活を送ることをめざしました。そして、授業中にも、動きや視覚化によって、課題場面の理解や説明に活用しています。

 また、単にICT機器を活用して指導を行うだけではなく、支援を要する児童に対する専門的な見地からの研修を学校全体で行って、児童理解に努めています。

以上のように、特別支援を必要とする生徒が学校教育でいきいき学べるようなICT環境をデザインし、それを活用できるように支援している点において参考になり、報告書に掲載された事例も具体的でわかりやすく、奨励賞にふさわしいものと判断しました。

榛東村立榛東中学校(群馬県)
研究課題 評価者 報告書
生徒同士の学び合いによる協働的な問題解決力の育成
~AI音声認識スピーカーを活用した対話を可視化する授業研究~
東京学芸大学 北澤 武 准教授 報告書(PDF)
講評

 榛東村立榛東中学校の実践研究では,目指す学力の中核を「協働的な問題解決」と定め,「主体的・対話的で深い学び」の授業の実現に向けて授業研究の視点を次の5つに整理しました.

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①生徒たちは,授業のめあてを関心や期待,必要感をもって理解したか.

②生徒たちは,見通しをもって活動に取り組んでいるか.

③生徒たちは,みんなで課題解決をしようとしているか.

④生徒たちは,めあてを達成したか.

⑤生徒たちは,この時間の学びが自分にとって、意味や価値があったかを自覚しているか.

 また,一部の生徒を中心に話合いが展開されるなど,「対話」に課題があったり,課題解決に向かう姿勢に差があったりする課題が認められていたことから,生徒の発話記録をAIスピーカーと360度カメラで録音し,発話記録を文字起こししてマイクロソフト社のTeamsで共有し,この記録を授業研究会で用いる取り組みを行いました.この取り組みについて,実践1から実践4までの報告がなされていますが,対話分析によって,ある生徒が自身を持つことができた背景には他者の様子に着目する中で気づき,考えを整理することが影響することに,教員が気づいたことが報告されています.また,テキストのみならず,生徒の表情も確認することで,生徒の考えが深まる様子も捉えやすいことを明らかにしました.

 以上により,本報告書は生徒の対話を分析する必要性と手続きが丁寧に述べられており,かつ,主体的・対話的で深い学びを実現する授業の「対話」を質的に分析する研究として大変参考になることから,高く評価されました.

北海道函館水産高等学校(北海道)
研究課題 評価者 報告書
ICTを活用したESD教材開発の実践研究
~地域の自然環境を活用した環境教育~
長崎大学 瀬戸崎 典夫 准教授 報告書(PDF)
講評

 本実践研究では漁獲量減少という地域特有の課題に着目しており,水産高校としての役割にも言及していることから,実践の必然性を感じることができました.さらに,ICTを導入したESD活動として,「探究・ESD」活動を位置付けており,近年求められている探究的な学習の実践事例として,他校にも参考になる取り組みだと思われます.また,生徒たちは自分たちにできる地域貢献活動について,調査・研究活動を実践しており,自ら課題発見することを試みています.

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 代表的な実践では,生徒たちが調査をしながら課題を発見していくプロセスが示されており,与えられた課題を解決するだけではなく,自ら問いを設定することの重要性を再認識させていただきました.「漂着ゴミを含む海洋ゴミを減らすことが,地域の課題解決につながる」という考えそのものは,必ずしも新規性の高い取り組みとは言えないかもしれませんが,その着想に至るまでのプロセスが重要であり,報告書に丁寧に記述されている点が,本報告書の高い評価につながりました.また,ICT活用の観点としては,調べ学習や発表資料の作成に加えて,オンライン発表でのタブレットPCの利用について言及されており,必ずしもICTの活用が主役ではないと思われます.しかしながら,「探究・ESD」活動を通した学びにおける,普段使いとしてのICT活用が実現しており,他校にも参考となる実践事例だと思われます.

佐賀県高等学校家庭科研究会「家庭科大好き」(佐賀県立佐賀商業高等学校)(佐賀県)
研究課題 評価者 報告書
災害発生時の学校での避難を想定した、ICTの効果的活用
~すべての生徒が安心して過ごす体制づくりと防災食への備え~
長崎大学 瀬戸崎 典夫 准教授 報告書(PDF)
講評

 本実践研究は,急増する自然災害による被害に着目し,生徒たちにとっても自分ごととして捉えやすいテーマを設定しています.生徒たちにとっては,大雨による甚大な被害を経験していることからも,現実的な課題解決という意味で,より身近なテーマを選定できていると思います.また,「家庭基礎」における年間を通したカリキュラムに「防災」の視点を取り入れることを試みており,教材研究・開発の観点からも参考になる実践研究だと思われます.

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 コロナ禍の影響に関して,「自分や家族とじっくり向き合い,生活を見つめ直したり,家族のために貢献したりする良い機会になった.」と記述されており,研究推進に向けてポジティブな姿勢で取り組んでいる様子が読み取れました.また,コロナ禍によって,いくつかの企画が中止する中にあっても,代替する活動を取り入れるなどして,真摯に研究に取り組む姿勢が好印象でした.研究の経過に関する記述では,学習を進める上で生徒たちの学習意欲が高まり,主体的な学びにつながっている様子が読み取れ,読者にとって「ワクワク」するような実践だと思われます.また,メディアにも取り上げられ,多くの反響を呼んでおり,波及効果としても大きな可能性を感じることができました.本実践に関しても,ICTの活用が主役ではなく,生徒たちの学習活動を支援する上での補助的な役割として,ICTを効果的に用いている様子が報告されているため,広く参考になる実践研究であると思われます.