多度津町立多度津小学校

第51回特別研究指定校

研究課題

ICTを有効活用した個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実
~認知能力と非認知能力を育成するための教育DXの在り方~

2025年度08-12月期(最新活動報告)

最新活動報告
パナソニック教育財団特別研究指定校の先輩校である葛飾区立東金町小学校より......

アドバイザーコメント

吉崎 静夫 先生
この期間、積極的に研究発表会(関西教育ICT展、全日本教育工学研究協......

多度津町立多度津小学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 香川県 多度津町立多度津小学校
アドバイザー 吉崎 静夫 日本女子大学 名誉教授
研究テーマ ICTを有効活用した個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実
~認知能力と非認知能力を育成するための教育DXの在り方~
目的
  • ・Well-beingの向上
  • ・全ての児童の学習権の保障
現状と課題 本校は通常学級に在籍する特別な支援を要する児童や家庭環境が複雑な児童、外国にルーツをもつ児童が多く、学力が二極化している。昨年度は「個別最適な学び」「協働的な学び」をキーワードに研究に取り組んだ。その結果、授業の中で児童が自己選択・自己決定する場面が増え、学習の個性化が図られ、学習に対する意欲の向上が見られた。
一方で、多様な考え方に触れ、思考を深める等の協働的な場面が少なかったという課題が残った。
学校情報化の現状 本校では、1人1台のタブレット端末が活用可能で、校内のどこからでもWi-Fiに接続できる環境が整備されている。しかし、教職員によってICT活用への意識やスキルに差があり、授業での積極的な活用にはまだ課題が残る。校務の情報化についても、昨年度からDX化を推進しているが、機器やネットワーク環境などのハード面での整備が不十分な部分がある。
今後は、教職員のICTスキル向上を図るとともに、児童の情報活用能力を育成するための系統的な情報教育の体制を整えることが喫緊の課題である。
取り組み内容 昨年度の成果と課題を踏まえ、ICTを効果的に活用して、児童一人一人の理解度や特性に応じた最適な学びの環境を提供するとともに、対話や協働を通じた学びを促進する授業づくりを進める。また、教育DXの視点から、学習データを活用したフィードバックや学習方略の可視化、アンケート結果の活用により、児童の認知能力・非認知能力の向上を図る。さらに、児童が自らの学習を振り返り、課題を発見しながら自己調整していく力を育成する。協働的な学びの土台として、異なる意見や考えを尊重できる文化を育む「安心できる学級づくり」にも重点的に取り組む。
成果目標
  • ・児童の「自己調整力」および「他者と協働する力」についての意識調査を実施し、全体で10%以上の向上を目指す。
  • ・Q-U調査の「学校生活不満足群」の該当者を0にする。
  • ・児童による振り返り活動において、記述量と記述内容の観点数の増加を図る。
助成金の使途 電子黒板、プロジェクター他
研究代表者 大西 孝敬
研究指定期間 2025年度~2026年度
学校HP https://www.tadotsu.jp/tadotsusyo/
公開研究会の予定 1月28日(水)公開研究会(低・中・高学年 各1本ずつ授業公開)

本期間(4月~7月)の取り組み内容

【4月】

  • ・本年度の研究主題「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」について全職員で共有し、研究を推進していくことを確認した。
  • ・今年度は、自己調整学習(単元内自由進度学習・複線型授業)による授業実践を通して、子供たちの非認知能力の育成を目指す。
  • ・本校の研究に対し、日本女子大学名誉教授・吉崎静夫先生よりご指導をいただいた。
  • ・そのご助言を踏まえ、本年度の研究内容を見直すとともに、本校における「探究的な学び」の進め方について職員間で協議した。

【5月】

  • ・子供たちの非認知能力の変容を確かめるため、第1回アンケートを実施した。アンケートは、先進的に実践していた香川大学教育学部附属坂出小学校の様式を参考にしつつ、本校用にFormsで再構成して行った。
  • ・6月・7月に実施予定の校内研究授業に向けた事前研修会を開催した。6月は4年理科「電流のはたらき」を単元内自由進度学習として、7月は5年国語「書き手の意図を考えよう(新聞記事を読み比べよう)」を複線型授業として、いずれも自己調整学習の手法で授業を行った。

【6月】

  • ・6月11日(水)、研究アドバイザーである吉崎静夫先生をお招きし、研究授業を実施した。4年理科「電流のはたらき」において、児童が自ら学習計画を立て、主体的に取り組む自己調整学習の授業を公開した。
  • ・授業後には、本校教員のほか、県教育センターや他校の先生方と協議を行い、今後の授業づくりの方向性について校内で検討を重ねた。
  • ・研究討議後、当日の授業及び本校の研究の方向性について吉崎先生よりご指導をいただいた。
〇授業実践
4年:理科「電流のはたらき」(自己調整学習)

 本単元では、児童が自ら学習計画を立て、自分のペースで学習を進める「単元内自由進度学習」に取り組んだ。ねらいは、児童の主体的な学びを引き出すとともに、非認知能力や課題解決力を育むことであった。導入時には、単元全体の見通しを提示し、課題一覧表や進度チェックカードを活用することで、児童一人ひとりが自分で学習の進め方を考えられるような仕組みを整えた。また、一人一人実験ができることで、体感的に電流の働きを感じられる機会を増やした。

【7月】

〇授業実践 5年国語「書き手の意図を考えよう(新聞記事を読み比べよう)」

 本単元では、単元のゴールを定め、そこに至るまで自己選択の場面を多く取り入れた「複線型授業」の形態をとった。自分たちが取材を受けた新聞記事の見出しを考えるという単元を貫く問いを設定することで、児童が主体的に教材と関わることを目指した。

 また、児童が興味をもった記事を自由に読み比べたり調べたりし、その内容を共有する活動を繰り返すことで、新聞への理解を深めながら、読み取る力を高められるようにした。さらに、学習アプリ上に複数のワークシートを用意し、児童が自分の興味や能力に応じて取り組む課題を選べるようにした。

 自分たちが考えた見出しが実際に四国新聞に掲載されることを伝えることで、児童の学習意欲を高め、継続的な学びにつなげるようにした。

アドバイザーの助言と助言への対応

【4年理科】

  • ・コース選択型学習として、児童のの興味関心に対応していた。
  • ・自己選択して進めているので子供が主体的に取り組んでいる姿が多く見られた
  • ・環境面での支援があり、困っている子も、進んでいる子も学習できる場面があった。
  • ・全てを子供に委ねてしまうと、認知能力が正しく付いているのかが疑問である。(知識理解の面は1番に考える必要がある。)
    →部分的に委ねられる(どこを何時間については単元による)自由進度学習の在り方の検討
①研究計画(カリキュラムの作成)について
  • ・個別最適な学びと協働的な学びのバランスを考えた、いくつかのパターンを考えてみてはどうか。
    →個別最適と協働を一体的に行うことを目指し、どこまで委ねるのか、何を環境面で整備するのかを検討していく。
  • ・他校が今後参考にしていけるようなカリキュラムづくりをしてほしい。
  • ・総合的な学習の時間で探究的な学びを深化していく。
②先進校の実践について
  • ・瀬戸SOLAN学園、越ヶ谷市立越ヶ谷小学校等のカリキュラムの紹介。
    →夏休みに瀬戸SOLAN学園への視察
  • ・明確なカリキュラムをもつ事で学校全体に広がっていく。
    →全職員でのカリキュラムの見直し

本期間の裏話

〇多度津小学校で何ができる?

 本校は、日本一小さな県の小さな町にある公立小学校である。特別研究指定校に選ばれたと聞いたとき、これまでの実践校の様子を拝見させていただくと、「果たして自校にこのような研究ができるのだろうか」「何から始めればよいのだろうか」という不安が先立った。昨年度までは「子供が主語になる授業」を目指し、自己選択の場を増やす研究に取り組んできたため、それを発展させていこうと考えてはいたものの、4月には研究の対象を広げすぎてしまい、方向性が定まらないまま迷走してしまった。

 加えて、学校行事等による多忙さもあり、教職員間での共通理解が十分でないまま1学期が過ぎてしまい、研究としての成果が見えにくいものとなってしまったことは否めない。

 そうした中で、県教育センター、県教育委員会、町教育委員会など、多くの方々と連携する中で、「多度津小学校として本当に取り組むべきことは何か」を見つめ直す機会を得ることができた。計画を再構築し、研究内容を整理したことで、教職員の共通理解も進み、全員でカリキュラムの見直しから着手しようと始動した。ようやく研究がチームとして一体感を持って動き出したと実感している。

本期間の成果

〇6月11日 自己調整学習(単元内自由進度学習)

■ 学習への取り組みの変化
  • ・自分なりの目標を立て、振り返りながら学習に取り組む姿が見られるようになった。
  • ・学習に対する意欲や態度に、肯定的な変容が見られた。
■ アンケート結果の変化
  • ・「目標を立てて、それを目指して頑張っている」と回答した児童:38% → 71%
  • ・「人から言われなくても、自分から進んで学習している」と回答した児童:42% → 71%

今後の課題

〇6月11日 自己調整学習(単元内自由進度学習)

■ 課題の現状
  • ・自分で計画を立てたり、学習に向かうきっかけを見つけたりすることが難しい児童がいた。
  • ・何から手をつければよいかわからず、1時間を手つかずで終えてしまう児童の姿が見られた。
  • ・児童間の進度の差が広がり、互いに学び合う機会が減少。
  • ・協働的な学びの効果が十分に発揮されなかった。
■ 課題への対応策・工夫
  • ・児童が自分で学習を進めることを前提としつつ、学習のスタートを支援する工夫が必要。
  • ・その日の学習の「めあて」と「最初の行動」を全体で共有する。
  • ・自由進度であっても、学習内容を段階的に提示することで、自分の位置を把握しやすくする。
  • ・毎時間の終わりに学び方や工夫をふり返る時間を設け、ペアやグループで共有する。
  • ・他者の姿から刺激を受け、新たな学びにつなげる機会をつくる。

〇総合的な学習の時間のカリキュラムの見直し

今後の計画

  • ・夏休み中に全教職員でのカリキュラムづくり
  • ・瀬戸SOLAN学園、葛飾区立東金町小学校、関西ICT展への視察
  • ・非認知能力を育成する自己調整学習の実践・研究授業(2年・4年・6年)

気付き・学び

  • ・自己調整学習をどこで取り得れられるのか、カリキュラムを見直し、単元化を進める必要があると感じた。

成果目標

  • ・全学年の国語・算数・社会・理科(生活科)における、自己調整学習を活用できる場面の抽出と、それに基づく単元計画の立案(カリキュラムの作成)
アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生

 本校は、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」という全国すべての学校にとっても必須の研究課題に挑戦している。そして、本校は、香川県の普通の公立小学校であるだけに、その研究成果は多くの学校でも大いに参考にできるものであり、その影響は大きいと期待される。

●本期間の研究成果

(1)2025年6月11日に本校を訪問した際に、4年理科「電流のはたらき」の授業を見学した。本単元では、児童が学習方略を獲得し、自ら学びに向かう力を育成することねらいとして、「単元内自由進度学習」が取り入れられていた。単元の導入では、モーターカーが坂道を登る様子や、直進のみでバック走行ができない様子などが提示されていた。さらに、「エンジニアコース」(制作から原理追究するコース)と「研究者コース」(原理追究から制作へ向かうコース)という2つのコースが設定され、「必修の内容・方法(かならずやり終える学習)」と「選択の内容・方法(自分で決めて行う学習)」という学習ガイドブックが用意されていた。実によく考えられた授業デザイン(単元構成)であった。そのため、児童も意欲的、主体的に学習に取り組んでいた。

 ただし、次のような課題も見られた。「自分で学習計画を立てることが難しい児童がいた」「何から手をつければよいかがわからず、1時間手つかずで終えてしまう児童がいた」「実験よりも教科書に書かれている原理で結果をまとめている児童がいた」「協働的な学びの効果があまり見られなかった」などであった。このような課題がみられた主な原因は、「単元全体を自由進度学習で展開しているため、直列回路や並列回路についての共通理解の時間が十分には確保されていなかった」ためではないかと思われる。単元全体が7時間で構成されているなら、せめて前半の3時間は「共通学習」にして、後半の4時間を「自由進度学習」にするといった、「共通と自由選択のバランス」が必要だったのではないかと思われる。

 しかし、この実践の成果と課題は、本校がカリキュラム構成と授業デザインを改善するうえで、とても貴重なものであった。

(2)県教育委員会、県教育センター、町教育委員会などとの連携のもとで、本校の研究体制が整備されたため、教職員の共通理解が進み、実践研究に意欲的に取り組むことができている。とりわけ、パナソニック教育財団の特研校の先輩にあたる瀬戸SOLAN学園初等中等部や葛飾区立東金町小学校を視察して、探究学習のためのカリキュラム構成や授業デザインについて意欲的に学ぶ姿勢は高く評価できる。

●今後の課題と期待

(1)総合的な学習の時間を中核として「探究学習のためのカリキュラム」を構成してほしい。その際、3学年から5学年は、環境、食糧、国際、地域などを共通テーマに協働で探究学習を行い、6学年は「総合的な学習の時間の卒業研究」として個々の児童の興味関心にもとづく個人探究学習を行ってほしい。前者は「協働的な学び」にウエイトがあり、後者は「個別最適な学び」にウエイトがある。

(2)授業デザインにあたっては、「つながり」と「組み合わせ(バランス)」を考慮してほしい。

 前者は、「日常生活と教室での学習とのつながり」と「教科間のつながり」である。例えば、4学年算数「垂直と平行、四角形」において、学区の地図を利用して、道の交わり方や土地の形について考えさせる。このように、身の回りのものから、垂直と平行、四角形を考えさせるわけである。まさに、日常生活と図形学習とのつながりを授業デザインする。さらに、6学年算数において、児童が立体の重要な側面(辺、面、頂点)に着目する「立体当て伝達ゲーム」を教師が構想すれば、児童は国語などで培った「言語能力」を算数で活用することができる。

 後者は、「共通と選択の組み合わせ」と「リアルとデジタルの往還」である。例えば、単元の前半はクラスみんなで「共通学習(協働的な学び)」を行い、単元の後半で「診断テスト」を行い、その結果にもとづいて、「復習(補充)コース」と「発展(応用)コース」に分かれて「習熟度別学習(個別最適な学び)」を行う。あるいは、単元の前半はクラスみんなで「共通学習(協働的な学び)」を行い、単元の後半で児童の興味・関心や学習タイプに対応するためのコース選択学習(自由進度学習、複線型授業などの自己調整学習)を行う。このように、大事なことは「共通と選択のバランス」である。さらに、リアルな活動をデジタルで支える授業デザインである。例えば、前述した「立体当て伝達ゲーム」ののち、「AIドリルでの立体学習」や「NHK for School教材での立体学習」を行うのである。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

【7・8月】

〇葛飾区立東金町小学校 校長 河村麻里 先生・日本体育大学 助教 豊田大登 先生を招聘しての研修「東金町小学校の取組について」

 パナソニック教育財団特別研究指定校の先輩校である葛飾区立東金町小学校より、河村校長先生および豊田先生をお招きし、特別研究指定校としての具体的な取組についてご講話いただいた。カリキュラムの作成過程や、研究の方向性の明確化、校内での共通理解の深め方など、今後の本校の研究推進に向けて参考となる内容ばかりであり、職員が抱えていた多くの不安や疑問を解消する貴重な機会となった。

〇自己調整学習を推進する単元計画の作成

 自己調整学習の授業実践を推進するため、各学年において学期に1回、自由進度型や複線型などを位置付けた単元計画を作成した。対象教科は、高学年で国語・算数・社会・理科、低学年では国語・算数・生活とし、それぞれ1単元分を選定している。これらの単元計画を基に、自己調整学習の実践を含む年間指導計画の構築を進めているところである。

〇「NEXT GIGAスタートダッシュセミナー」での実践報告

 本年度、本校は香川県の「令和7年度NEXT GIGA研究委託事業」の重点校に指定され、香川県教育センターで開催された「NEXT GIGAスタートダッシュセミナー」において実践報告を行った。セミナーには校種や立場の異なる約200名の教育関係者が参加しており、本校の取組を県内に広く発信することができた。

〇関西教育ICT展への参加

 8月7・8日に大阪府で開催された「関西教育ICT展」に、校長・教頭・教員2名が参加した。第49回特別研究指定校である葛飾区立東金町小学校や瀬戸SOLAN学園初等・中等部をはじめ、先進実践校の研究発表を聴き、本校の研究の方向性を確認するとともに、今後の計画や目標を考える大きなきっかけとなった。

〇瀬戸SOLAN学園初等・中等部視察報告・「多小っ子プロジェクト(協働探究)」「多小っ子ラボ(個人探究)」のカリキュラムの作成

 本校から瀬戸SOLAN学園初等・中等部の「SOLANまなリンク」に参加した教員による視察報告会を行った。報告会を通して、本校の課題であったカリキュラム作成において、何をどのように体系化していくのかという指針を全職員で共有することができた。この成果を基に、本校独自の「多小っ子プロジェクト(協働探究)」「多小っ子ラボ(個人探究)」の年間カリキュラムの原型を作成した。

【9月~10月】

〇アドバイザーによる授業視察(10月10日)

<研究授業実施一覧>

学年 教科 単元名
生活科 せかいでひとつ わたしのおもちゃ
算数科 面積
算数科 面積
〈2年 生活科〉

 1年生を招いて「おもちゃまつり」を開くためにおもちゃを改良する学習を行った。児童は「性能」「外見」「遊び方」の3つの観点から工夫を加え、おもちゃをよりよくしていった。似たおもちゃを選択した児童でグループを作ることで、自然と交流が生まれ、友達の意見を取り入れながら試行錯誤する姿が見られた。

〈4年 算数科〉

 多度津町内の小学校の校舎や運動場の面積を図形化し、既習の方法を活用して面積を求める授業を行った。複雑な形の図形でも、長方形や正方形に分けることで面積を求められることを基に、児童が自ら図形を選択し、友達と協力しながら考えを深めた。話し合いの中では、分け方の工夫を比べ合ったり、より簡単に計算できる方法を提案したりする姿が見られ、互いの考えを参考にしながら学びを広げていった。

〈5年 算数科〉

 三角形や平行四辺形の面積の求め方を学習した後、等積変形や倍積変形の考え方を活用して台形やひし形の面積の求め方を考えた。自由進度型の学習形態を取り入れ、学ぶ順番や場所、学ぶ相手を児童が自己選択できるように環境を整えたことで、主体的に学習に取り組む姿が見られた。

【11月】

〇第51回全日本教育工学研究協議会全国大会への参加

 本大会では、自己調整学習と対話的な学習デザインに基づく公開授業や研究発表が行われ、児童が自ら学びを語る文化や形成的評価、付箋による振り返りなど学習過程を可視化する取組が印象的であった。特に生成AIは、思考整理やルーブリック作成、振り返り支援など「学びの伴走者」としての活用が提案され、児童は自ら評価基準を作成し思考を深めていた。一方、成果の最終判断は教師が担う重要性が示され、AI活用と教育専門性の役割分担が求められる。本校でも探究的な学びの質を高める観点から、AI活用の在り方について研修を深め、効果的な実用につなげたいと考えている。

【12月】

〇「香川の教育づくり発表会」への登壇

 12月末開催のため、次回報告書に詳細を記載予定。

アドバイザーの助言と助言への対応

【2年授業】

  • ・「1年生を招いておもちゃ祭りをする」という明確なゴールが設定されていたことで、児童が共通の目的をもって意欲的に学習に取り組んでいた。
  • ・おもちゃのバリエーションが豊富であり、それぞれに工夫を凝らす姿が見られた。また、うまくいかない場面でも粘り強く試行錯誤するなど、自己調整の姿が見られた。
  • ・おもちゃ作りの観点を常に提示しておくことで、「面白さ」に偏ることなく、目的意識をもって活動を進めていた。
  • ・自己調整学習の視点から見ると、「誰と行うのか」「別の方法はないのか」といった学習方略を意識させることが今後の課題である。うまく動かないときにどのように改善する かの手立てを児童自身がもてるようにしたい。また、「うまくいっていないな」と気付けるメタ認知を育てる必要がある。
  • →今後は、児童の学習方略の幅を広げ、より深い学びへとつなげていくための学び方を獲得させたい。そのために、学習の途中段階で形成的評価を取り入れ、児童が自らの学びを振り返りながら改善できるよう支援していく。

【4年授業】

  • ・地域の学校という生活に根ざした課題について考えることで、生活と学びが結びつき、学びの有用性が感じられた。
  • ・基礎的な学習を一斉に行い、応用的な課題を個別に取り組ませるという単元構成が効果的であった。
  • ・課題選択学習や自己調整学習が展開され、児童一人一人が成功体験を積むことができていた。
  • ・一方で、グループごとに学校を選択し、一律の方法で面積を求めていたため、学力の高い児童が確認作業に多く関わる場面が見られた。これらの児童が自分の力をさらに発揮できるよう、発展的な課題設定や支援の工夫が求められる。
  • →今後は、学力の高い児童も主体的に学びを深められるような学習環境を構成するとともに、他の方法でも面積を求められないかを探究する個人学習の時間を設けるなどして、より個別最適な学びの深化を目指していく。

【5年授業】

  • ・導入の「国取り合戦ゲーム」で興味・意欲を高め、学びへの動機づけができていた。
  • ・共通の基礎学習後に自由進度・選択学習を展開し、応用課題も豊富で、個別最適な学びが実現していた。
  • ・習熟度差があっても、個々のペースで進められる構成となっていた。
  • ・ICTを効果的に活用し、ヒントや振り返りが整理されていた。
  • ・ペアの組み合わせや学び方(個人・ペア、紙・タブレット)の選択理由を児童自身に意識させたい。
  • ・協働的な学びの場面を意図的に位置付け、他者援助の仕方を考える時間を設けたい。
  • ・振り返り内容の分析(頻出語など)を通して授業改善の手がかりを得ることも有効。
  • ・ヴィゴツキーの発達の最近接領域の視点から、誰がどのように支援(足場かけ)を行うのかを明確にしたい。
  • →協働的な学びをより効果的にするため、学習前に「誰と・どのように学ぶか」を意識してペアを組む時間を設ける。仲の良さだけでなく、得意分野や学習方略の違いを踏まえて組み合わせることで、互いの強みを生かした学びが期待できる。活動後にはペアの関わりを振り返り、どのような組み方が自分の学びを深めたかを考える機会を設定し、次の学習に生かせるよう支援する。

本期間の裏話

◎横のつながり

 本期間は夏季休業中であったこともあり、多くの学校と積極的に情報共有を行うことができた。取組内容にも記載したとおり、瀬戸SOLAN学園初等・中等部および葛飾区立東金町小学校への視察を実施するとともに、東金町小学校の先生方を本校にお招きし、講演を行っていただいた。また、オンライン上では、香川県立観音寺第一高等学校や八王子市立高嶺小学校との情報交換会も行った。さらに、県内においても「NEXT GIGAスタートダッシュセミナー」以降、複数の先生方からご連絡をいただき、キックオフ会でつながった先生方とも継続的に情報交換を行うことができた。

 これらの交流を通して、本校がこれまで抱えていた課題がより明確になるとともに、本校の研究の取組を他校に発信する機会ともなった。校種や地域を超えて、「子供の学びのために」という共通の目的のもと、率直かつ前向きな議論ができたことを大変うれしく感じている。今後も本校から積極的に情報を発信するとともに、他校の実践や知見を柔軟に取り入れながら、研究をさらに深めていきたい。

本期間の成果

  • ・自己調整学習の授業実践の蓄積
  • ・探究的な学習のカリキュラムの原型作成
  • ・県内外での授業視察

今後の課題

  • ・自己調整学習・探究的な学習のルーブリックの作成
  • ・協働探究・個人探究の実践

今後の計画

  • ・自己調整学習・協働探究の授業実践
  • ・本年度の研究のまとめ
  • ・県内外への成果の普及

気付き・学び

 本期間の取組を通して、自己調整学習の実現には、授業形態や活動構成を変えるだけでは不十分であり、児童自身が「どのように学びを進めるのか」を言語化し、振り返る機会を意図的に設ける必要があることを改めて実感した。また、先行実践校との交流は、本校の課題を明確にし、研究の方向性と共通言語を職員で共有するうえで大きな手がかりとなった。今後は、形成的評価や協働の在り方を丁寧に位置付けながら、日々の授業改善へ確実に落とし込んでいく。

成果目標

  • ・自己調整学習・協働探究の授業実践
  • ・協働探究・個人探究のルーブリックの作成
  • ・非認知能力アンケート結果分析
アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生

 この期間、積極的に研究発表会(関西教育ICT展、全日本教育工学研究協議会全国大会)に参加して先進校の実践研究を学ぶとともに、県内の研究会(NEXT GIGAスタートダッシュセミナー、香川の教育づくり発表会)で、実践報告を行っている。着実に、特別研究指定校として、実践研究を積み重ねている。

●本期間の研究成果

(1)自己調整学習(自由進度型や複線型の学習)の単元計画を作成し、実践している。各学年において学期に1回程度の計画であり、教職員にあまり無理をさせない取り組みである。

(2)先進校(瀬戸SOLAN学園初等中等部)の「探究学習のカリキュラムと実践」を参考にしながら、本校独自の「多小っ子プロジェクト(協働探究)」と「多小っ子ラボ(個人探究)」のカリキュラム作成に取り組み、年間計画を作り上げている。

(3)10月10日(金)にアドバイザー訪問を行った。その際、2年生活科「せかいでひとつ わたしのおもちゃ」、4年算数科「面積」、5年算数科「面積」の授業を見学し、授業者にアドバイスを行った。学校の活動報告書にあるように、2年生活科の授業において、①「1 年生を招いておもちゃ祭りをする」という明確なゴールが設定されていたことで、児童が共通の目的をもって意欲的に学習に取り組んでいた。②おもちゃのバリエーションが豊富であり、それぞれに工夫を凝らす姿が見られた。③おもちゃ作りの観点を常に提示しておくことで、「面白さ」に偏ることなく、目的意識をもって活動を進めていた。なお、自己調整学習の視点から見ると、「誰と行うのか」「別の方法はないのか」といった学習方略を意識させることが今後の課題である。そして、4年算数科の授業において、①「市内の学校の施設等の面積比較」という生活に根ざした課題について考えることで、生活と教科学習が結びつき、学びの有用性が感じられた。②基礎的な学習内容を一斉授業で行い、応用的な課題を個別に取り組ませるという単元構成が効果的であった。ただし、グループごとに面積比較を行う学校を選択し、グループ内では一律の方法で面積を求めていたため、学力の高い児童が計算結果の確認作業に多く関わる場面が見られた。これらの児童が自分の力をさらに発揮できるよう、発展的な課題設定や支援の工夫が求められる。さらに、5年算数科の授業において、①単元の導入の「国取り合戦ゲーム」で興味・意欲を高め、学びへの動機づけができていた。②共通の基礎学習後に自由進度・選択学習を展開し、応用課題も豊富で、個別最適な学びが実現していた。ただし、ペアの組み合わせや学び方(個人・ペア、紙・タブレット)の選択理由を児童自身に意識させることが必要である。

 このように、1学期に訪問した際にアドバイスしたことが、単元計画や授業実践に的確に取り入れられていた。

●今後の課題と期待

(1)本校独自の「多小っ子プロジェクト(協働探究)」と「多小っ子ラボ(個人探究)」のカリキュラム(年間計画)にもとづいて、授業実践をできるだけ早く行う必要がある。そして、それらの実践を評価し、カリキュラムの改善を行うことが求められる。

(2)自己調整学習の単元計画は、今回のアドバイザー訪問の際に見せていただいたように、「共通と選択の組み合わせ」を基本としてほしい。例えば、単元の前半はクラスみんなで「共通学習」を行い、単元の後半で「診断テスト」を行い、その結果にもとづいて、「補充(復習)コース」と「発展(応用)コース」に分かれて「習熟度別学習(個別最適な学び)」を行う。あるいは、単元の前半はクラスみんなで「共通学習」を行い、単元の後半で児童の興味・関心や学習タイプに対応するための自己調整学習(自由進度型の学習、複線型の学習など)を行う。このように、大事なことは「共通と選択のバランス」である。

(3)教科学習や探究学習(協働探究、個人探究)において、児童が自分の考えを広げ、深めるための一方策として「生成AI」を活用することを検討してほしい。