(1)概況
◯実践・研究の目的
T-baseでは、「遠隔授業が抱える課題「学習の動機づけ」と「生徒の見取り」に対する効果的アプローチの検討」という研究課題のもと、実践・研究を進めてきました。研究の出発点としては、これまで遠隔授業に携わってきた経験から、「生徒の活動の見取り」と「学習の動機づけ」に課題があるのではないかという仮説があり、その改善が結果的に自己調整学習を支える授業づくりにつながる、という見通しを持って、本実践課題を設定しています。より具体的に言えば、遠隔授業では、生徒の活動やつまずきが見えにくく、教師による即時的な支援やフィードバックが難しくなります。そのことが、生徒自身の学習状況の把握や方略の修正を難しくし、生徒の自己調整学習能力の発達にも影響を与えると考えています。また、遠隔授業では、休み時間や放課後などの教師との関係性を作る時間が少ないことや授業中にも教師の存在感を感じづらいことなどから、授業参加の実感が弱まりやすく、結果としてそれらが学習の動機づけの低下にも関わると想定しています。だからこそ、「見取り」と「動機づけ」に焦点を当てて、遠隔授業の実践・研究を進めています。
この4月からの期間は、その仮説をすぐに実践へ移すというよりも、まず過去の実践レポート、授業研究チャット、教員アンケートなどを整理・分析し、研究の前提となる課題認識をエビデンスに基づいて確認する時期として、取り組みを進めてきました。
◯実践・研究に関わるスケジュール
大まかに、以下のようなスケジュールで進めてきました。(2)以降で内容の詳細を、特に研究の目的に応じながら提示させていただきます。
| 前年度 | 研究申請書作成からはじめ、自己調整学習に関わる事前学習や授業公開を実施。 |
|---|---|
| 04/09 | パナソニック教育財団事前訪問・打ち合わせ |
| 04/10 | 遠隔授業における困り感の集約:実践レポートと授業研究チャットの分析 |
| 05/12 | パナソニック委員会メンバー募集 |
| 05/26 | 遠隔授業実態調査アンケートの実施 |
| 05/29 | 助成金贈呈式、スタートアップセミナー |
| 06/01 | 第1回学習会 「ARCSモデル」について |
| 06/08 | 第2回学習会 「期待×価値理論」について |
| 06/17 | 第2回T-baseコンソーシアム |
| 06/22 | 第3回学習会 「自己決定理論」について |
(2)研究計画の見直し、研究の進め方について
以下2つは、研究の計画や進め方の変更に関わる部分になります。事前計画通り進めるのではなく、アドバイザーである北海道大学の重田勝介教授との相談の上、実態や目的に応じながら、研究計画を変更しつつ、実践・研究を進めております。
①パナソニック教育財団事前訪問・打ち合わせ
事前訪問では、研究の出発点として、エビデンスに基づいた課題となっているのか実際に遠隔授業をされる先生方の困り感分析から始めよう、というアドバイスのもと、全体の計画を修正し、どうT-baseの先生方へ波及させながら取り組んでいくか、再度構想を練る時間となっていきました。また北海道における遠隔自己調整学習に関わる先行研究なども紹介していただきました。
②パナソニック教育財団助成金贈呈式・スタートアップセミナー
助成金贈呈式では、昨年度の一般研究助成にて優秀賞をいただいた「遠隔授業における「個別最適な学び」の確立に向けた動画教材作成と反転授業・学習の実施を中心に」についてポスターセッションを実施させていただいた後、スタートアップセミナーにて、複数の研究者、複数の特別研究指定校から、研究を進めるに当たってのアドバイスを頂戴しました。以下は頂戴したアドバイスの一部です。これらに基づきながら、再度実践研究の進め方や研修の計画などを修正し、取り組みに活かしていくことができました。またこの場では多くの先生方や研究者の方々と知り合うことができ、実際に研修の資料をいただくこともあるなど、収穫の多い時間になったと思います。
(頂戴したアドバイス)
◯研究を進めるに当たって
- ①研究の何に焦点化するか、フォーカスを当てるのか。取り組みたい内容が多い現状にあるので、それを精査していくことが必要。実現可能性のある研究を進める。
- ②「こどもたちのこうなりたい」も重要だが、研究をするに当たって「評価」する部分をしっかりと設定すること。
- ③全国のモデル、参考になるような取り組みを進めていくこと。
- ④研究課題に応じて成果は変わる。自分たちの研究に合った成果を提示できるように。
- ⑤生徒の変容だけではなく、教師の変容とノウハウの蓄積も大事な成果である。
- ⑥特別研究指定校は2年間。2年間という期間を有意義に使えるように。
◯教員集団への波及、取り組みに参加をする先生方をどう増やしていくかについて
- ①参加のハードルをどこまで下げるか。研究に必要な要素を絞りつつ、先生方が「自分もそれならできる」という部分を作っていくことが大切。
- ②授業の手応えを同僚の教員へ波及させていく。特に子供の変化を実感してもらうことが先生方の価値観を揺さぶることにつながる。少しずつ仲間を増やすことができるように取り組みを進めていく。
◯研修について
- ①ARCSモデルに関わる研修について
…単に解説をするのではなく、先生方の工夫や子どもが興味をもったという場面を共有するところから始めるのが良い。
(3)遠隔授業の課題を整理する
事前訪問・打ち合わせの中であった通り、根拠のある研究を行っていくためにも、過去の実践を整理し、そこから遠隔授業において先生方が抱えている課題は何か、研究の方向性を定めるために実施をしました。
①実践レポート集・授業研究チャット分析 ※実践レポートはこちら
T-baseでは毎年、次年度の引き継ぎや実践を広く公開していく目的のもと、「実践レポート集」を作成しています。また授業の中での工夫や気づきをchat上にて共有しております。それらのデータについて分析したところ、以下のような課題が遠隔授業にはあると整理することができました。
1:意思疎通と「見取り」の困難さ 2:技術的・設備的トラブル
3:学習意欲の維持 4:合同授業・他校間交流の難しさ
5:実験・実技教科の制約
このような課題が析出され、これまでパナソニック委員会を中心に感じていた課題感とズレがないことが確認されました。前年度パナソニック教育財団一般研究助成活動報告書でも報告した通り、これまでのアンケート結果から映像や音声などのハード面は授業成立における衛生要因であり、授業の動機づけ要員にはならないことを確認しています。そのため1と3の項目を中心に、授業改善へ取り組むことを確認しました。
※授業実践レポートリンクと「授業研究ルーム」チャットの画面
②遠隔授業における実態調査アンケートの実施 →詳細はこちら
遠隔授業における「課題」をエビデンスをもとに明らかにするため実施しています。質問項目は以下の通りです。
| 番号 | 項目 |
|---|---|
| x1 | 生徒が手元のノートやワークシートに書き込んでいる内容や手元の細かな動きをリアルタイムで把握することに困難を感じる。 |
| x2 | 画面越しのため、生徒が「間違えたくない」という心理的障壁を感じているようで、発言や反応が乏しくなりがちである。 |
| x3 | 授業前後や休み時間のちょっとしたやり取り(隙間時間)がなく、個別の生徒へのきめ細かなフォローがしにくい。 |
| x4 | 下位層の生徒のつまずきを見逃しやすく、学力層によって学習意欲や成果の差が広がっていると感じる。 |
| x5 | 対面授業に比べて意思疎通に時間がかかり、予定していた授業進度よりも遅れてしまう。 |
| x6 | ハウリングや音声の途切れ、ノイズによって授業が中断したり、聞き取りにくかったりすることがある。 |
| x7 | ネットワークの不安定さや、使用しているアプリ(zoom, FigJamなど)のフリーズにより、学習が停滞することがある。 |
| x8 | 学校によって端末のスペックやOS(iPad、Chromebookなど)が異なり、一斉の操作指導が難しい。 |
| x9 | 遠隔授業のためのデジタル教材や動画の準備、事前の接続確認などに、対面授業以上の多大な時間と労力を要している。 |
| x10 | 教科の特性(国語や書道の「縦書き・手書き」など)をデジタルツール上で再現することに限界や不便さを感じる。 |
| x11 | 理科の実験などを遠隔で行う際、現場に専門教員がいないことによる安全管理の保証に不安を感じる。 |
| x12 | 複数校を同時につなぐ合同授業において、学校間の学力差や温度差、行事予定のズレが運営の妨げになっている。 |
| x13 | 現在の授業で特に困っていることを選択してください(複数選択可) |
| x14 | 具体的な状況やエピソードがあればご記入ください。 |
| x15 | ご自身の教科の内容に関して、遠隔授業特有の困り感があればご記入ください。 |
| x16 | 今後必要だと感じる支援を選択してください。 |
↓主として今回の研究に関わる結果部分はこちら。
科目ごと等、今後夏休みなどの時間を使いながら、より詳細な分析を実施していく予定ですが、「見取り」、「学習の動機づけ」について、遠隔授業を実施している教員が課題感を持っていることが明らかとなりました。これらの結果は、北海道において過去実践された、遠隔授業における自己調整学習の研究や実践の蓄積と矛盾するものではなく、よりエビデンスに基づく形で、実践・研究が進めていける結果が出たと考えております。
(4)理論を実践へ繋げる、実践・研究の成果報告、進捗状況
①定期的な学習会の開催
生徒の学習への「動機づけ」を高める実践を進めていくため、6月は、生徒の学習への「動機づけ」を高めるために、T-base全体の基盤となる考え方について共有しました。
第1回 ARCSモデルについて 資料はこちら ① ②
第2回 期待x価値理論について 資料はこちら ① ② ③
第3回 自己決定理論について 資料はこちら ① ②
第4回 (予定)達成目標理論について
まずは7月までを目途に学習会を継続し、基本となる考え方を共有していきます。そして授業実践や授業公開へと繋げていくことができるように進めていく予定です。
②T-baseコンソーシアムの実施
T-baseでは、月に1回程度、北海道大学の重田勝介先生をお招きし、T-baseコンソーシアムを開催しています。今回は、パナソニック教育財団のアドバイザー訪問に併せて開催しました。これまで学習を進めてきた理論を実践へと繋げていく場として、佐藤崇力教諭と後田教諭の自己調整学習に関わる授業公開や、実践の進捗状況に関する報告を実施しました。
※T-baseコンソーシアムの様子
◯公開した授業の内容
【授業実践①】
①科 目:数学Ⅰ(合同授業)
②内 容:命題と条件(単元の最初)
③ポイント
- ・導入で価値付け。
- ・Kahoot!で時間短縮を図ります。
- ・目標と方略を設定し、FigJam上で遂行していきます。(福島はペンあり)
- ・足場かけをたくさん用意しているので解説はほぼなしですが、確認しながら進める予定です。
- ・課題ごとにプチ振り返りで自己調整学習のサイクルを意識。
- ・最後、振り返りからポートフォリオ化ですが、時間足りずに次回に持ち越しそうです。
※生徒が個別に進めていくfigjamワークシートの中身
【授業実践②】
①科 目:物理
②内 容:円運動
③ポイント:
(1)日頃実践している自己調整学習型の実践です。
(2)普段の授業の公開になりますのでご容赦願います!
※生徒の方略使用や学習の見通しを見取るためのワークシートの一部
③自己調整学習に関わる授業公開の実施
T-baseでは、日々授業公開を実施しています。徐々に自己調整学習や、ARCSモデルに基づく授業公開が増えていることから、徐々に学習会まで学んだ理論が広がっていっている、という実感を持っています。






