LCAグループ 学校法人SOLAN学園 瀬戸SOLAN小学校

第49回特別研究指定校

研究課題

習得ー活用ー探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラムの提案
~学習環境デザインの視点から~

2025年度01-03月期(最新活動報告)

最新活動報告
1月25日の研究発表会へ向けて指導案や分科会の内容の検討に取り組んだ......

アドバイザーコメント

吉崎 静夫 先生
この期間に、本校には次のような成果や行事があった。1つ目は、4年間の......

LCAグループ 学校法人SOLAN学園 瀬戸SOLAN小学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 愛知県 LCAグループ 学校法人SOLAN学園 瀬戸SOLAN小学校
アドバイザー 吉崎 静夫 日本女子大学 名誉教授
研究テーマ 習得ー活用ー探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラムの提案
~学習環境デザインの視点から~
目的 本研究テーマは、「習得―活用―探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラムの提案」である。2年間取り組んできた授業実践を元にカリキュラムの有用性及び課題を精査し、授業マニュアルを作成する。それを元に授業を実施し、カリキュラムの効果を検証することを目的とする。
現状と課題 (現状)
「習得―活用―探究」の3つの学びの場の授業を実践しながら、授業ガイド作成へ向けて、記録の蓄積をしている。また、カリキュラムの有用性及び課題の精査のために、3つの学びに対して子どもがどのように認識しているかアンケートを実施し、その分析に取りかかろうとしている。
(課題)
・カリキュラムの効果検証にあたっては,ポートフォリオに記録された児童の学びの姿から「習得―活用―探究」のカリキュラムの相互作用について明らかにするための具体的な方法について
・子どものアンケート分析から抽出児を選択し、インタビューを実施しようと考えているが、その選択の視点やインタビューの内容について
学校情報化の現状 先生たちの意識も高く、情報活用能力の育成へ向けて、中学校までの体系化を考案中である。
取り組み内容 教科指導では、iPad を学習用具の一つとして自然に活用できている。基礎的なタイピングやプレゼン等、校内でのコンテストを開催し、子どものスキル上達を目指している。ペーパレスを目指し、会議等では、全員がPC画面及びモニターを閲覧しながら話し合いを進めている。中学校設置へ向けて、情報と探究担当者メンバーで、どのような体制作りをするか検討している。
成果目標 (成果目標)
・「習得―活用―探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラム」授業ガイド作成へ向けて、3つの学びのそれぞれの単元計画、指導案、成果と今後の課題などの記録を蓄積し、次年度、その実践を修正し授業実践し、ガイドブック完成を目指す。
(取り組み後の状況)
・だれもが授業ガイドを活用して授業の質を高めていくだけではなく、他校への情報提活動にも取り組む。
助成金の使途 Meeting Owl Pro MTW200、16インチMacBook Pro、全日本教育工学協議会等参加費、研究者招聘、授業マニュアル完成版の印刷等
研究代表者 三宅 貴久子
研究指定期間 2023年度~2024年度
学校HP https://www.seto-solan.ed.jp/
公開研究会の予定 2023年8月2日(水)教員対象研修会を実施。その際、1~5年までの探究学習の授業公開を予定。
2024年1月27日(土)第3回研究発表会を実施。

本期間(4月~7月)の取り組み内容

(4月)

  • ・研究の方向性について、研究推進委員会(月1回第1木曜日)を開催し、担当を明確にし、2年間の研究の流れについて詳細を検討。その後、研究全体会議を実施し、目的・内容・ゴールについて共通理解した。研究日は毎週木曜日に設定。
  • ・各学年で、習得部会、活用部会、探究部会に分かれていただき、部会でメンバーの確認と部会で取り組む内容について確認。
  • ・開校当初から関わっていただいている鳴門教育大学の研究者を招聘し、2年間取り組んできた授業実践を元にカリキュラムの有用性及び課題を精査することについて、具体的な内容を検討。
  • ・子どもの成績データや成果物等を e-ポートフォリオと関連できる仕組みを設計する。(主に習得・活用学習において)
  • ・本校独自のe-ポートフォリオシステムの活用について、昨年度の反省をもとに活用の改善を検討した。話し合った結果、次の時間までには個々の子どもへのフィードバックが確実にできるように共通理解を図る。

(5月)

  • ・5月10日(水)、2年間関わっていただいている鳴門教育大学の泰山先生に来ていただき授業研究会を実施。1年の国語、3年の国語、2年の探究の授業の研究授業を実施し、指導・助言をいただいた。1、3年の国語は新採用2年目の若手教師が挑戦をした。授業は習得と活用の授業である。両教師の授業とも、教師が子どもと対話を重ねて授業を展開しているところは評価できた。しかし、授業参観者から、授業のねらいとルーブリックが子どもの実態とずれていたのではないかという指摘もあり、習得と活用の授業のねらいの設定について議論し、共通理解した。

(1年の国語「はなのみち」の授業風景)

(6月)

  • ・6月7日研究のアドバイザーである吉崎先生をお招きして授業研究を実施。
    5年情報、4年プロジェクト、3・4・5年の探究を公開し、指導・助言をいただいた。
    授業公開後、放課後に全体研究を実施し、吉崎先生の本校の研究に対するご意見をお聞きした。研究構想図について、カリキュラムの特色、学習環境の視点、授業の特長、評価の特長などを整理していただき、21世紀型スキルについてのお話を伺い、全教員で学習した。

(5年の情報の授業風景)

  • ・全体研究の場で、習得―活用―探究の3つの学びの往還をどのようにみとっていくか、全体で協議後、部会に分かれて話し合った。また、探究における子どもたちのまなポートの記述について、どのように蓄積されているかを昨年度のものを閲覧し、整理した。

(7月)

  • ・各部会に分かれて、研究授業の計画や実施された研究授業の振り返りを実施。
  • ・探究部では8月2日の教員研修会について授業内容の検討。また、今回は、参加者の先生方に対して、探究の授業支援に参加したい方は意思表明をしていただいた。その先生方とのオンラインミーティングについて計画

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・6月の訪問時に、「①研究のグランドデザインを作成すること」、「②習得、活用、探究の3つの学びに対する児童の認識を調査すること」、③「指導案の書き方」についての3点について指導・助言をいただいた。①については、ある学校の研究のグランドデザインを参考にしながら現在作成中である。②については2−5年の児童にアンケートを実施し、3つの学びの違いについて子どもはそれぞれの学びの質について概ね理解はできていた。そして、探究活動の質の高い児童ほどその関連に自分なりの意味づけをしていることが明らかになった。今後、探究に対する学びの特長のある子どもに対してインタビューを実施する。③については、現在部会で検討中である。吉崎先生からは、本校が考えている5つの学習様式、例えばモジュールの習得学習とか、プロジェクトとしての活用の学習などについて、それぞれの学習時間、学習環境等がよくわかるように指導案に明記した方が良いのではないかと言う助言であった。

本期間の裏話

  • ・研究アドバイザーである吉崎先生が探究の 授業を参観されている時、3年生のある子どもが先生のところへ行き、話しかけたようである。その子どもは、ずっと吉崎先生に自分の探究のテーマ「戦争はどうしたら終わるのか」について語っていた。話終わった後、その子どもはとても満足した表情であった。聞いてみると、「ちがう視点で話が聞けたし、話をして自分の考えが整理できた」と話していた。「探究は自分で創る学習」と日々子どもたちと共通理解をしてきた。そのことが、行動としても表れていることがうれしかった。

本期間の成果

  • ・全教職員が研究の方向性を理解し、実践研究に取り組むことができた。また、吉崎先生のお話が大変勉強になり、全教職員が授業実践に力を入れていることが一番よかったと考えている。研究部だけの研究ではなく、学校全体の教職員が個々の目的意識を持って、全体で目指す方向へ取り組んでいけたらと考える。

今後の課題

  • ・研究のグランドデザインの完成
  • ・授業ガイド作成へ向けて素案作り
  • ・指導案の形式についての検討

今後の計画

  • ・研究者を招聘し、各部会で精査してわかったことの情報交換をし、授業ガイドの素案を検討する。
  • ・8月2日の教員研修会へ向けて準備を進め、当日は他校の先生方と探究学習を支える教員の資質・能力について議論する。
  • ・一人一回の公開授業の準備。その際、事前の指導案検討、模擬授業及び授業後の振り返りの会を実施する。
  • ・10月27・28日の第49回全日本教育工学研究協議会全国大会で発表するための原稿作成。
  • ・11月4・5日の日本教育メディア学会第30回年次大会で発表のためのテーマ設定。

気付き・学び

  • ・8月2日のパネリストの打ち合わせのミーティングの中で、吉崎先生から総合的な学習が導入されたときに関わっていた研究開発校での子どもや教師の意識について研究の視点からお話を伺った。子どもも教師も全員が探究を得意とするわけではなく、苦手な子どもも得意な子どももいる。その前提において、なぜSOLANは探究学習を軸としたカリキュラムを推進しているのかについて、今一度考案した当時のことを思い起こした。「グローバルシチズンシップの育成」という教育理念のもと、「自立・自律」した子ども像を目指している本校にとって、探究学習は目指す子ども像に子ども自らが変容していく学びの場であることを再確認した。一方で、他校の先生方に対してきちんとした説明ができるように、言語化していく必要性も感じた。

成果目標

  • ・「習得―活用―探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラム」を授業ガイドという成果物と共に提案することで、他校の実践の手がかりを提供できることを目標としている。その実現へ向けて、これまでの実践を振り返り、成果と課題を整理する。本校のカリキュラムを実践してきた教員の経験や子どもの実態をこれまでの成果物をもとに振り返りながら、有用性や課題を洗い出し、授業ガイド作成のための視点として整理する。
アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生

 本校は、開校3年目の新しい学校で、1年生から5年生が在籍している。そして、e-ポートフォリオを中核とする実践研究で、パナソニック教育財団の一般研究助成を2年間にわたって受けた。今回は、その研究成果をふまえて、「習得―活用―探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラムの提案~学習環境デザインの視点から~」という研究課題に挑戦している。

 本校は、「グローバルシチズンシップの育成(世界の抱える問題を自分の問題として捉え直し、他者と協働的によりよく解決するための方策を考え、持続可能な社会を創るために自ら行動する世界のリーダーとしての志をもつ人間の育成)」という建学の精神にもとで、「探究学習」「英語教育」「ICT教育」という3つの軸を学校教育の基本としている。

●本期間の研究成果

(1)「習得―活用―探究」にもとづく5つの学びの様式が次第に確立されつつある。それらは、①個別の知識の習得(スキル・リテラシー学習)、②活動を通した概念的・手続き的知識の習得(教科学習1)、③各教科の見方・考え方の活用(教科学習2)、④協働での問題解決学習(プロジェクト学習)、⑤個々の興味・関心にもとづく課題発見・解決学習(探究学習)である。そして、これらの5つの学びの様式が本校の目指すカリキュラムの中核であり、①と②が「習得」、③と④が「活用」、⑤が「探究」にそれぞれ位置づけられる。

(2)本校の研究体制(研究推進委員会と部会)が整備されたために、全教職員が研究の方向性を理解し、実践研究に意欲的に取り組むことができている。

(3)学習環境デザインのための視点が次第に明確になっている。それらは、①ひと(仲間、教職員、保護者、外部人材)、②もの(実物、ICT、図書)、③場所(教室、ラーニングコモンズ、学外施設・機関)、④時間(モジュール制にもとづく時間割)などである。

 2023年6月7日に本校を訪問した際に、3年生から5年生全員が参加する「探究学習(SOLAN学習)」の授業を見学した。そこには、3年生以上を担当する教員、10数名の保護者、数名の大学教員と大学生が参加していた。特に印象に残ったのは、保護者が学習サポーターとして一人一人の児童(必ずしも自分の子どもではない)に寄り添っている姿である。まさに、子どもと一緒に悩みながら、共に学んでいる姿勢である。

●今後の課題と期待

 基本的には、本校の活動報告書に記述されている「今後の課題(①研究のグランドデザインの完成、②授業ガイド作成に向けての素案づくり、③指導案の形式についての検討)」の通りである。さらに加えるとすると、「学習評価の枠組みづくり」を行ってほしいということである。例えば、ルーブリックやe-ポートフォリオのような「日常のカリキュラムに埋め込まれた評価」と、アンケート調査や学力調査のような「オンデマンド評価」を組み合わせた「評価の枠組み」を考えてほしい。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

8月2日(水)

 教育向けの研修会を実施した。全国から52名の教育関係者が参加。今回は、探究学習に絞って公開し、授業に支援者として参加する形式も導入した。新しい試みではあったが、多くの先生方から授業を実感できてよかったという評価を得た。

9月

 保護者への探究学習に対する情報提供のために探究の支援サイトを立ち上げた。探究学習の保護者サポーターミーティングの際に保護者サポーターに紹介し、意見をもらった。探究学習を支援する際の情報として、探究学習の時の子どもの様子等を書き込むことで、参加できない保護者にも探究の様子がより伝わるようになると考えている。学習環境デザインの一つである。今後、保護者サポーターとさらに意見交換を重ね、より機能するサイトに改善していく。

10月28日(土)

 第49回全日本教育工学研究協議会全国大会(青森)で、4本の実践研究発表をした。研究課題との関連では、「習得―活用―探究の3つの学びの相互作用をめざしたカリキュラムの開発と評価-児童の意識調査の結果よりー」のテーマで発表。習得―活用―探究の3つの学びによるカリキュラムの評価を行うことを目的とした。このカリキュラムを児童はどのような認識で捉えているのかについて明らかにした。アンケートやインタビュー調査の結果,児童はそれぞれの学びの質の特徴を概ね理解はできていた。そして,3つの学びの関連については,児童の約7割が「関連がある」と回答し,使用するツールなどの共通点を見出していた。一方で,つながりを見出せない児童は,活動内容,学習形態等の差異が判断基準になっていることがわかった。

11月2日(木)

 研究アドバイザーの吉崎先生に訪問していただき、授業を参観後、ご指導いただいた。今回は、探究学習に加えて、2年生の国語の物語文の教材を使って、活用型の教科学習を公開した。授業担当者は、国語部会で指導案検討を重ね、子どもたちの課題解決的な物語文の授業を構想し実施した。その結果、子どもたち自ら学びに向かう様子が印象的な授業であった。全体研究会では、吉崎先生より、習得で学んだ知識・技能を活用して課題解決する授業デザインについて指導・助言をいただいた。

12月

 1月27日(土)に授業を公開する先生方が授業を実施した。研究者にも加わっていただき、全教員で①スキル・リテラシー学習、②教科、③教科型プロジェクト、④教科横断型プロジェクト、⑤探究学習の5つのパターンの授業についてディスカッションをした。それぞれ何が違うのか、どのような視点で区別できるのかなど熱心に議論した。今後、ここでの話し合いをもとに、5つの授業パターンの定義を明確にする。

アドバイザーの助言と助言への対応

 研究アドバイザーの吉崎先生からは以下のような助言をいただいた。

 探究学習は、①スキル・リテラシー学習、②教科、③教科型プロジェクト、④教科横断型プロジェクトの4つの学びに支えられている。探究での子どもの学びをみとる中で、基礎の習得の何が足りないかわかる。その際は、基礎に戻って学び直す。子どもは基礎を学ぶことの必要性がわかって学び直しをするので、以前とは違う。このように、行きつ戻りつしながら学ぶことに価値がある。

 上記の助言を受けて、構想図の修正を試みた。

本期間の裏話

 8月の教員向け研修会では、52名の先生方が全国から参加。その際、探究学習に支援希望を募り、共に支援者として活動に参加した。その後、ディスカッションをしたが、子どもたちの情報収集能力や説明力の高さを評価してくださったことは、とてもうれしかった。加えて、「初対面でもSOLANの子どもは自然体で話しかけてくるのでとても支援がしやすかった」と言っていただき、普段から様々な立場の方々と学び合っている体験が生きていると実感した。

本期間の成果

 習得、活用、探究のそれぞれの部会で、研究授業の授業検討が活発に行われるようになった。その際、先生方の意識が①スキル・リテラシー学習、②教科、③教科型プロジェクト、④教科横断型プロジェクト、⑤探究学習の5つのどの授業パターンの授業をデザインするかを考えるようになったことが研究の前進につながったと思う。研究の輪が学校全体に広がっていることを感じている。

今後の課題

 授業の5つのパターンの中の教科と教科型プロジェクト、教科型プロジェクトと教科横断型プロジェクトについて、資質・能力や課題の設定の仕方など、どのような視点で整理するか検討していく。

今後の計画

  • ・2024年1月27日(土)の第3回研究発表会へ向けて、研究紀要の作成、公開授業の指導案検討
  • ・探究ガイドブックの解説編の作成
  • ・習得、活用の授業マニュアルの作成

気付き・学び

 探究学習については、子どもの意思を中心に活動を展開した結果、ワークショップや発表交流などの自ら協働的に学ぼうとする姿が見られるようになってきた。

成果目標

「習得―活用―探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラム」を授業ガイドという成果物と共に提案することで、他校の実践の手がかりを提供できることを目標としている。その実現へ向けて、今年度の研究授業でみえてきた5つの授業パターンのデザインを何で差別化を図るのか多面的に考え整理する。それをもとに、授業ガイドの原案を作成する。

アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生

 本校は、日本教育工学協会(JAET)の学校情報化認定制度において、2023年度「教科指導におけるICT活用先進校」の認定を受けた。今年度は、20数校の優良校の中から、4校だけが先進校の認定を受けた。まさに快挙である。また、2023~2026年のApple Distinguished Schoolに認定された。このように、探究学習、英語教育、ICT活用を柱にしてグローバルな人材を育成しようとする本校の教育が内外から高く評価されている。

●本期間の研究成果

(1)習得―活用―探究の3つの学びの相互作用をめざした「カリキュラムの形成的評価」が多様な視点から行われた。

 1つ目は、8月に行われた「全国の教員向けの研修会(授業公開)」において、授業に支援者として参加した「学外教員」が本校の探究学習についての評価を行った。2つ目は、保護者向けの「探究学習支援サイト」を立ち上げて、保護者サポーターばかりでなく、参加できない保護者からも探究学習についての意見をもらえるようにした。3つ目は、児童が「習得―活用―探究のカリキュラム」をどのようにとらえているのかをアンケート調査やインタビュー調査で明らかにした。4つ目は、2024年1月下旬に実施される研究発表会で授業公開を行う教員が授業を実施し、5つのパターンの授業についてディスカッションを行った。そして、それぞれがどう違うのか、どのような視点で区別できるのかを熱心に議論した。

 このように、「学外教員」「保護者」「児童」「本校教員」といった異なる立場から、多様な視点で本校のカリキュラムの形成的評価が行われている。

(2)研究アドバイザー(吉崎)の指摘をふまえて、「習得―活用―探究」のカリキュラム構想図がより充実したものとなっている。

 そこでは、「習得―活用―探究」は、スパイラルのように「いきつ、もどりつ」することが示されている。まさに、子どもたちは、探究学習やプロジェクト学習を行うなかで、自らの基礎(スキル・リテラシー、教科)の不十分なところに気づき、新たな視点から基礎学習を行うことが示されている。

(3)10月28日に青森県三沢市で行われた「第49回全日本教育工学研究協議会全国大会」で、本校の教員が4本の実践研究を発表した。

 このことは、全国の教員に本校のカリキュラムと授業実践を知ってもらうばかりでなく、本校の教員にとっても自らの実践研究に対するフィードバックをえることができる点で大きな意味がある。

●今後の課題と期待

(1)「習得―活用―探究」の相互作用を、5つの授業パターンの実践を通して、一段と深く追究してほしい。

 特に、子どもにとって基礎(スキル・リテラシーや教科)を学ぶことの意味が、探究学習やプロジェクト学習を経験するからこそ実感できることを明らかにしてほしい。まさに、「基礎を学ぶことの大切さ」である。

 ところで、2023年に逝去された著名な教育評論家で僧侶の無着成恭氏は、次のようなことを言っている。

 基礎をしっかりと身に付けて新しいことにチャレンジする人は「型破りの人」であり、基礎を身に付けないでただ自由勝手にする人は「形無しの人」である。

 まさに、習得(基礎)と探究(創造)との関係もそうである。だからこそ、習得(基礎)―活用(応用)―探究(創造)の関係は、「行ったり来たり」である。

(2)習得、活用の授業マニュアルをわかりやすい形で作ってほしい。

 本校はすでに「保護者・教師のための探究サポートガイドブック」を作成している。このノウハウを活かして、わかりやすいマニュアルを作ってほしい。そこでは、教育方法に対する広義の考え方が求められる。つまり、教育方法を「課題提示」「説明」「指示」「発問」「指名」「板書」などの教授スキルのレベルだけでとらえるのではなく、「学習形態」「学習活動」「教授組織(外部サポーターを含む)」「ICTなどの教育メディア」「学習時間(モジュール制を含む)」「学習スペース」「学習施設・設備」といったさまざまな学習環境レベルでとらえることである。

本期間(1月~3月)の取り組み内容

○1月・2月

(「考える技」授業公開)

(「探究学習」授業公開)

(パネルディスカッションの様子)

  • ・1月27日(土)の第3回研究発表会を実施した。今回は、探究学習だけでなく、習得の考える技、情報、英語、活用の教科型プロジェクト及び教科横断型のプロジェクトと、5つの学習パターンの授業を公開した。約150人ほどの参加者が熱心に授業を参観し、その後、習得、活用、探究の3つの分科会に分かれて、子どもの学びのみとりについて協議した。分科会では、公開した授業をもとに、授業のデザインや学習評価について議論した。参加者は、学習評価に対する関心が高く、活発に意見交換がなされた。
     午後のパネルディスカッションでは、各部会の報告の後、鳴門教育大学の泰山先生、東北学院大学の稲垣先生、芝浦工業大附属中高等学校の金森先生の3名がパネリストとなり、話題提供をしていただいた。一方的な話し合いだけでなく、ICTを活用して、参加者の意見を拾って、その話題に対する議論を展開したり、参加者と本校教師で編成したグループごとで話し合ったりして、会場が一体となって、テーマ「子どもの探究的な学びをどうみとるか」について熱い議論を展開した。
  • ・校内研究の全体会や各部会で1年間、各自が取り組んだ授業をもとに振り返り、授業マニュアルの作成に向けて話し合いを実施した。

○3月

  • ・習得―活用―探究のそれぞれの部会から授業マニュアルの作成担当者を選出し、内容の検討を実施した。
  • ・授業マニュアル案を作成し、印刷をする。
  • ・1年次の研究報告書の作成・提出をする。

アドバイザーの助言と助言への対応

 研究発表会の授業参観を通して、5つの学習パターンにおいて一定の評価はいただけた。

 一方で、子どもの探究学習に取り組む姿から、習得や活用の授業デザインを見直し、子どもにつけたい資質・能力の何が身について、何が身についていないかを明確にしなければならないことがわかった。まずは、本校独自のe-Portfolioであるまなポートの子どもの記述のみとりについて明確にしていきたい。今後、分析方法については、吉崎先生の助言をいただきながら取り組んでいきたい。また、探究学習については、今後、中学校までのカリキュラムを視野に入れながら、「子どもが学びを創る」本校の個人探究についての考え方を全ての教師が共有し、保護者サポーターとの協働的な取り組みを推進していきたい。さらに、授業公開で1年生の算数、2年生の国語の教科型プロジェクトを公開したが、吉崎先生からは、算数については図形領域で他領域の学習内容と関連づけた授業デザインが開発できるのではないかという助言をいただいた。今年度末の校内研究会で、各学年のプロジェクトの取り組みについて振り返り、まずは、全学年の国語と算数のプロジェクト学習の授業デザインを考案し、実践研究に取り組んでいく。

本期間の裏話

 うれしかったこととして、若手が研究授業を実施し、吉崎先生からお褒めの言葉をいただいたことがとても嬉しく、今後の自分の実践への励みになったと話してくれたことである。加えて、公開へ向けて、部会で指導案を検討したり、模擬授業をしたりして部員みんなで支える体制に対しても、このような研究がやりたかったと話してくれた。一方で、個人探究について、保護者サポーターとのリフレクション会議において教師間の支援の差、体験の充実など様々な課題があがってきており今後の進め方が難しい局面に入ってきている。

本期間の成果

 研究発表会を実施したことで、全教師の実践研究に取り組む意識が高まってきたことである。本校のカリキュラムと現在の自分の授業とを関連づけて振り返り、今後の課題を明確にできたと考える。また、研究会後の校内研究では、本年度の実践を振り返る会議を重ねている。会議での教師の積極的な発言も見られ、自ら実践研究に取り組んでいるという姿が多く見られたことは成果であると考える。さらに、子どもも多くの先生方に来ていただき、その場で自分たちの授業をみていただいたことは、よい刺激になっている。自立・自律した学習者を育成していくための場となった。

今後の課題

 子どもは、習得、活用、探究の3つの学びの特徴については概ね捉えているが、つながりまでは十分に認識できていない。これは、教師側の5つの学習様式のデザインのつながりを意識して実践できていないところにあるのではないかと考えられる。

(1)【活用】単元の再構築

 探究プロセスで必要な資質・能力を活用の授業で獲得できるように、教科型のプロジェクト、教科横断型のプロジェクトで育てる資質・能力について吟味し、単元を再構築する。特に、教科型プロジェクトについては、国語と算数について、各クォーターに1つの単元を構想し、実施する。

(2)学習評価と指導のための資質・能力の明確化

 教科横断型プロジェクトの評価のあり方について検討が必要である。学習活動に紐づけられた教科のどの資質・能力が、どの評価材料で評価されているか、それを教科の評価に戻す手続きが十分に機能していない。教科横断型では教科で習得した知識及び技能を子どもが意識して活用するように支援しなければならない。子どもはともすれば活動に没頭し、活動することが目的化する。教師は、その活動を通してどの教科のどのような資質・能力を活用するのかを子どもに意識づけるとともに、活用できたかどうかをみとることが重要である。

 そのためには、単元構想の際、学習活動に紐づけた資質・能力を再検討するとともに、何でみとるのか評価材料を明確にし、それを蓄積する方法を教師間で共通理解しておく必要がある。

今後の計画

 今年度の実践研究をもとに、作成した「『習得―活用―探究』の授業マニュアル」をもとに実践し、精査した結果を活かした改善案を作成・検討し、授業のマニュアルを完成する。内容としては、授業の目標、学習内容、教材、評価のあり方をまとめる予定である。

○4月

  • ・前年度作成した授業マニュアルに沿って授業を展開していくことを校内の全体研究会議で確認する。
  • ・研究のゴールが、「カリキュラムの効果を検証し、従来から重要とされている『習得-活用-探究」の関係性を授業レベルでより具体化し、他校へ提案性のある実践研究にしていく」ものであることを共通理解するとともに、2年次目の研究計画について提案し、検討する。
  • ・研究者を招聘し、どのようなデータを収集し、どのように分析していくのかなどの効果検証の方法について学ぶ。
  • ・カリキュラム部の各部会で授業計画を立案する。

○5月・6月

  • ・各自が授業マニュアルに沿って、指導案作成や教材の準備に取り組むとともに公開授業の計画を立てる。
  • ・1本の公開授業をもとに、データの収集や授業の分析などの演習をやってみて、今後の授業分析に活かすようにする。その際、アドバイザーの吉崎先生に来校いただき、指導・助言をいただく。

○7月・8月

  • ・一人1回の公開授業をスタートさせる。その際、事前の指導案検討、模擬授業及び授業後の振り返りの会を実施する。授業後は、授業を分析し、データを全体で検討し、まとめる。

○9月・10月・11月・12月

  • ・7月24日に本校を会場にした夏の教員向け研修会を実施するとともに、日本教育工学会(9月7、8日)、全日本教育工学研究協議会全国大会(10月25、26日)、日本教育メディア学会年次大会(10月5、6日)で発表する。
  • ・アドバイザーの吉崎先生に来校いただき、2年目の研究状況について説明し、指導・助言をいただく。
  • ・1月の研究発表会へ向けて、研究紀要および授業案を検討する。
  • ・研究発表会へ向けての準備と授業マニュアルの修正に取り組み、完成へ向けて作業をする。

○1月・2月

  • ・第4回研究発表会(1月24日)を開催し、その成果と課題をもとに、各部会で授業マニュアルの修正に取り組み、完成をめざす。

○3月

  • ・授業マニュアルの製本をするとともに、2年次の研究報告書を作成し、提出する。
  • ・吉崎先生に来校いただき、2年間の研究について振り返りをする。

1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い

 教師一人ひとりが、カリキュラムを理解し、授業をデザインしようとする意識が高まってきており、特に若手教師の成長は著しかった。それは、アドバイザーである吉崎先生が3回に渡って本校を訪問し、適切なアドバイスをいただけたからだ。先生が長年学校現場に関わって教師と共に構築された実践研究と関連づけながら、本校のカリキュラムの具現化へ向けてご意見をいただけたことに感謝している。

 4月から2年目の研究に取り組むことになるが、この1年の各自の授業デザインを振り返り、課題を明確にして次年度への研究に精力的に取り組んでいきたいと思う。

成果目標

(図1 本校におけるカリキュラム図)

「習得―活用―探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラム」を授業ガイドという成果物と共に提案することで、他校の実践の手がかりを提供できることを目標としている。その実現へ向けて、これまでの実践を振り返り、成果と課題を整理する。本校のカリキュラムを実践してきた教員の経験や子どもの実態をこれまでの成果物をもとに振り返りながら、有用性や課題を洗い出し、授業ガイド作成のための視点として整理する。

アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生

 1月27日(土)に、北は北海道、南は九州まで全国各地から約150名の教育関係者が集い、「第三回瀬戸SOLAN小学校研究発表会」が行われた。開校3年目の本校が毎年研究発表会を行っていることは、大いに評価できる。今回の研究発表会では、5つの学習パターン(スキル・リテラシー学習、教科学習、教科型プロジェクト、教科横断型プロジェクト、探究学習)の授業がすべて公開された。とりわけ、若手教員や外国人教員が積極的に授業公開したことが印象的であった。

本期間の研究成果

(1)「習得―活用―探究のカリキュラム」についての教職員の問題意識が深まり、それぞれの学習において「どのような資質・能力を育てるのか」「どのように子どもの学びを評価するのか」という議論が活発化した。特に、研究発表会での授業公開に向けて、3つの部会(習得部会、活用部会、探究部会)で学習指導案を検討したり、模擬授業をしたりして、部員みんなで授業公開者を支える体制が整ったことが評価できる。

(2)「教科型プロジェクト」において、ある領域で学んだ見方・考え方を同一教科内の他領域で活用するような授業デザイン・実践が行われた。例えば、1年算数科において、100までの数の計算の仕方(考え方)を活用し、それぞれに10の位の値段がついている三角形、四角形、円形を組み合わせて、100円以内で自分の好きな図形(車、飛行機、花など)を作るような学習活動が行われた。その図形作成には、子ども一人一台のタブレット端末が使われていた。そこでは、算数科における「数領域」と「図形領域」のつながりが見られた。このように、同一教科内での領域間のつながりや、日常生活とのつながりを意識した授業デザインが構想されるようになってきた。

(3)校内研究の全体会や各部会において、各教職員が1年間取り組んだ授業を振り返り、「授業マニュアル」作成にとりかかっている。本校はすでに「保護者・教師のための探究サポートガイドブック(入門編、解説編)」を作成している。これら2冊は、「探究学習」を実にわかりやすく説明しているため、他校の教職員にも大いに参考になる。「授業マニュアル」もそのようなものになってほしい。

今後の課題と期待

(1)5つの学習パターンの実践によって、子どもたちに育成したい資質・能力を明確にすること

 わが国の学校教育が直面している主要な教育課題の1つが「探究学習」である。そこでは、「探究学習を通して、子どもたちに育成したい資質・能力は何か」「子どもたちの探究学習をどのように支援したらよいのか」「子どもたちの探究学習のプロセスや成果をどのように評価したらよいのか」などが課題となっている。本校では、「集団探究(教科横断型プロジェクト)」と「個人探究(探究学習)」の二通りの探究学習を、小1から週2コマ(45分×2)実践している。前者は「協働的な学び」に対応し、後者は「個別最適な学び」に対応している。そこで、本校が取り組んでいる二通りの「探究学習で育成したい資質・能力は何なのか」を明確に示してもらいたい。さらに、その他の3つの学習(スキル・リテラシー学習、教科学習、教科型プロジェクト)で育成したい資質・能力を明記してほしい。

(2)「探究学習での子どもの学び」を評価する方法を考えること

 その際、日常の学習の様子をみとる「カリキュラムに組み込まれた評価」と、定期的に学習の成果をみとる「オンデマンド評価」の両側面から考える必要がある。

 前者のためには、本校が開発した「まなポート(e-ポートフォリオ)」の内容分析を行う必要がある。データマイニングの技法を取り入れてみることも有効である。

 後者のためには、子ども一人一台端末を活用して「アンケート調査(好き・きらい、得意・苦手、学んだこと、教科学習との関係など)」を行ったり、「インタビュー調査(探究が大好きな子、やや苦手な子など、特徴的な子を対象として)」を試みてほしい。

本期間(4月~7月)の取り組み内容

○4月

  • ・今年度は研究2年目でまとめの年になる。全体研究を開催し、2年間の研究のゴールとして授業ガイドを作成することを共有した。そのため、研究組織での部会は、カリキュラムの5つの学習様式のグループと英語の6つに編成し、それぞれのグループで授業ガイドブックの作成へ向けて、実践を積み重ねると共に、実践から導き出された理論をまとめることを共有した。
  • ・2023年度と同様、毎週木曜日は校内研究の日に設定した。その中で研究推進委員会も必要に応じて開催することとした。
  • ・Googleクラスルームを積極的に活用するため、新しく赴任されてきた先生方への講習も含め情報の学習会を実施した。

○5月

  • ・5月21日(火)、本校の研究アドバイザーである吉崎先生をお招きして授業研究会を実施。3年の算数、4年のプロジェクト学習、2・3年の探究学習を公開し、指導・助言をいただいた。3年の算数(習得②)は、コースごとに行う計算領域の授業を公開した。コース上位の子どもは学年相当の内容にとどまらず、該当学年を超えて問題を解き進められることについて、新規性と提案性のある授業であると評価していただいた。今後、習熟度別と習熟度が混在した状態で指導するべき単元の精査が必要とご指導いただいた。4年プロジェクト学習(活用④)では、調べる問いをグループで話し合って計画を立てる、課題設定段階の授業を公開した。子ども達の興味関心から単元が構想され継続されていることについて評価をしていただいた。ただし、プロジェクト学習における協働的な学びについて、協働する良さを子どもが感じられる工夫が必要であるとご指導いただいた。2・3年の探究学習(⑤)は、教師や保護者サポーターとの面談を通して、フィールドワークの目的や活動内容を具体的にしたり、図書資料やインターネットなどを使って調べたりすることを目標にして活動した。保護者サポーターの支援や子どもの主体的な活動については評価をいただいた。今後は、低学年における個人探究の支援のあり方についてさらに検討していかなければならないとご指導をいただいた。授業公開後、放課後に全体研究を実施し、吉崎先生の本校の研究に対するご意見をお聞きした。本校のカリキュラムと5つの授業の型をもとに、学習意欲を喚起する授業デザインやICTの利活用について実践例を紹介いただき、教科横断的な視点に立った授業デザインと評価について全教職員で学習した。

(3年の算数「足し算と引き算」の習熟度別の授業風景)

(4年のプロジェクト学習「ビオトーププロジェクト」の授業風景)

(放課後の全体研究での研修風景)

  • ・5月22日(水)、開校当初より研究に関わっていただいている中京大学(前鳴門教育大学)の泰山先生に来ていただき授業研究会を実施。6年の理科の授業を公開し、指導・助言をいただいた。6年の理科は、全10時間の人体のつくりと働きについて学ぶ教科型プロジェクトを計画し、その2時間目の習得段階の授業を公開した。当日は、必要な器具を使いながらトリの解剖を行い、写真や動画で記録する学習活動を行った。子どもの興味関心を引き出す単元計画について評価していただき、「なぜ学ぶのか」子どもが必要性を見出し、個別最適な指導を実現するための工夫が必要であると指導いただいた。放課後に全体研修で、泰山先生より教科型プロジェクトを位置付ける意味について講義をいただき、今後学校として構築する教科型プロジェクトの単元構想について議論を行った。

(6年の理科「人の体のつくりと働き」の授業風景)

○7月

  • ・7月24日(水)に開催される夏の研究発表会へ向けて、掲示物の整理、授業準備等に取り組んだ。掲示物については、各学年の教科横断型のプロジェクトの過程がよくわかるように工夫するように確認した。
  • ・公開する情報の授業では、今年度体系的なシラバス作成に取り組んでいるため、そのシラバスと情報のカリキュラムとの整合性について検討した。また、5・6年はデータ活用で扱うデータについて情報収集を実施した。
  • ・探究部では、公開する1年、2・3年のグループに分かれて、当日予想される子どもの活用やそれに対する支援のあり方について検討した。なお、教師の支援のやりやすさから、1年生も分野別に分かれることにし、情報収集する際の情報源について検討した。

アドバイザーの助言と助言への対応

 吉崎先生からは、今年度の実践研究に期待する3つのテーマを提案していただいた。

 一つ目は、「教科および教科型プロジェクトにおける授業デザイン」である。「概念的・手続き的知識の習得」と「教科の見方・考え方の活用」を両全させる授業デザインのあり方について検討するようにご指導をいただいた。デザインのあり方として、教科の面白さを知るために概念的知識や手続的知識を習得するということが重要であると考える。知識は、単に何かを覚えるようなものだけではなく、どのような方法で解を導き出せば良いか、その手続き的知識も含まれる。まず、そこをきちんと理解した上で単元を構想することを教師間で共有し、教科部会を開き、単元のデザインについて話し合い、今後教科型プロジェクトの授業公開を実施していく予定である。二つ目は、「5つの学習様式がめざす資質・能力を明確化させること」である。吉崎先生にご提案いただいた資質・能力も参考にしながら、さらに検討を重ねていく。特に探究学習の資質・能力について、先生からはレジリエンスをご提案いただいた。子どもの実態から、探究に粘り強く取り組めている子どもとそうではない子どもが見られる。テーマ設定段階での対話のあり方、追究段階での子どものみとりなど、子どもへの支援のあり方を検討していかなければならないことを担当教師間で共有した。また、保護者サポーター会議でも話題にし、支援体制を工夫していきたいと考えている。三つ目は「それぞれの資質・能力を評価する方法を具体化させること」である。これについては、事前の評価計画、まなポートの活用などさまざまな視点で取り組んでいかなければならない。特に点数で評価できない学習活動での評価が課題である。国語部会では、作文ルーブリックを作成し、それに照らして自己評価、相互評価、教師評価を実施していく。そのために、単元構想の中にもルーブリックを子どもも参加して作成する時間を設定する単元を構想するなど、子ども自らが何を目指して学ぶのかを意識できる授業デザインをすることが子どもの主体的な学びへつながると考える。特に書く活動は、探究学習で発揮される知識・スキルである。今後も実践を重ねながら評価のあり方を検討していきたい。

本期間の裏話

 研究アドバイザーである吉崎先生は、授業を参観されると毎回子どもとの関わりを大切にされる。今回も3年生の算数の授業である子どもが先生のところへ行き、一緒に算数の課題を解いている様子があった。子どもは、初対面の先生なのに自然に話をしている。探究学習ではよく見られる光景であるが、子どもがわからないと思ったら、周りにいる大人に自ら聞きにいけるのは、このような雰囲気を大事にしている担当教師の授業作りに対する思いの表れであると考える。若手も中堅も、子どもの目線を大事に、子ども自らが学びたい!わかりたい!授業をデザインすることを大事にしようとしている。それがSOLANの文化として根付いてきているのがとてもうれしい。

本期間の成果

  • ・全教職員が研究の方向性を理解し、実践研究に取り組むことができた。習得②の計算領域の授業公開を実施したことで、指導法について教員の授業デザインの共有化を図れた。今後6年間の体系化へ向けて構想をまとめていく。
  • ・1本の教科型プロジェクトの授業公開を機に、今後全員が公開授業を実施していくための見通しが持てた。
  • ・吉崎先生のご助言がとても参考になり、一人ひとりの教師が何をすれば良いのか自ら考え実践に取り組むようになった。

今後の課題

  • ・授業ガイド作成へ向けて実践研究の質を向上させていくこと
  • ・教科との関連を意識した教科型プロジェクトとの開発
  • ・5つの学習様式のめざす資質・能力の具体化及び評価のあり方

今後の計画

  • ・7月24日の夏の教員研修会へ向けて準備を進め、当日は他校の先生方と低学年の探究学習の公開を踏まえて、探究との出会いの段階での教師の支援について議論する。加えて、探究学習を支える情報の学習のあり方についても意見交換をする。
  • ・一人一回の公開授業の準備。その際、事前の指導案検討、模擬授業及び授業後の振り返りの会を実施する。
  • ・10月25・26日の第50回全日本教育工学研究協議会全国大会で発表するための原稿作成。

気付き・学び

 SOLANで大切にしたい子どもの主体的・創造的な学びの確立へ向けて、今年度から初任者研修も実施している。授業を公開していただき、その授業をもとにディスカッションする。会を重ねるにしたがって、授業を参観する視点も明確になってきており、SOLANで大事にしている授業理念が伝わってきていると感じている。この会には研究者に関わっていただき、毎回ご指導をいただいている。授業力を向上していくために、校内の教師間の学び合いはもちろんのこと、研究者を加えることで授業作りに対する新たな視点を得ることができる。さらに、探究学習については保護者サポーターの活動をみる視点も重要である。

 このように、SOLANの教育は、様々な立場の方々と創り上げている教育だと思う。多様な人々との教育に対する意見交換をするコミュニティー構築は、今後も大切にしていきたい。

成果目標

  • ・「習得―活用―探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラム」を授業ガイドという成果物と共に提案することで、他校の実践の手がかりを提供できることを目標としている。その実現へ向けて、これまでの実践を振り返り、成果と課題を整理する。本校のカリキュラムを実践してきた教員の経験や子どもの実態をこれまでの成果物をもとに振り返りながら、有用性や課題を洗い出し、授業ガイド作成のための視点として整理する。
アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生

 本校は、今年度で開校4年目となり、1年生から6年生が在籍している。そして、来年度からは中等部(中学校)が新設される予定である。それにともなって、瀬戸SOLAN小学校は、瀬戸SOLAN学園初等部となる。「探究学習」「英語教育」「ICT教育」という3つの軸を学校教育の基本とする義務教育学校として、県内外からますます注目されることになる。

 本校は、「グローバルシチズンシップの育成(世界の抱える問題を自分の問題として捉え直し、他者と協働的によりよく解決するための方策を考え、持続可能な社会を創るために自ら行動する世界のリーダーとしての志をもつ人間の育成)」をめざして、既存の学校教育の常識(当たり前)にとらわれない時間割(クオーター制やモジュール制)、日本人教員と外国人教員によるダブル担任制、ラーニングコモンズなどの学習スペース、そして1年生からの週2コマ(45分×2回分)の「個人探究」、児童全員が活用する「まなポート(e-ポートフォリオ)」などを導入している。その中で、次の2つの「SOLANの学びの姿」が明確になってきたように感じる。

 1つは、「子ども一人一人が学習材に真摯に向き合い、学ぶことの価値を自ら意味づけようとする姿」である。このことは、「個人探究」で期待される「子どもが学習活動に没頭し、自ら学習を創ろうとする姿」に具現化されている。

 もう1つは、「子ども、教師、保護者、外部支援者」がそれぞれの立場から相互協力・連携して「共に学ぶ姿」である。まさに、「個人探究」や「教科横断型プロジェクト」では、子どもだけでなく、関わるすべての人がそれぞれの学びを楽しんでいる。

●本期間の研究成果

(1)特研校指定の2年間の研究成果のゴールを教職員間で共有している。それは、「授業ガイドブックを作成すること」である。そのために、5つの学習様式(①スキル・リテラシー、②教科、③教科型プロジェクト、④教科横断型プロジェクト、⑤個人探究)のグループと、英語のグループの6つを編成して、それぞれのグループでガイドブックの作成に向けて、実践を積み重ねている。

(2)研究アドバイザー(吉崎)が訪問した5月21日(火)に、3学年の「算数」、4学年の「教科横断型プロジェクト」、2・3学年の「個人探究」の授業が公開された。「算数」では、計算領域に「習熟度別学習」が取り入れられていた。そこでは、「習熟度の水準」と「学習方法の好み(自分のペースでの学び、教師のガイドを得ながらの学び)」の2軸で児童を6つのタイプに分け、習熟度別学習が行われた。まさに、「個別最適な学び」であった。「プロジェクト」では、グループで話し合いながら、グループの課題を追究するための学習計画を立てていた。まさに、「協働的な学び」であった。

(3)本校は、7月24日に開催される「夏の研究発表会」、来年1月下旬に予定されている「冬の研究発表会」、そして10月下旬に予定されている「第50回全日本教育工学研究協議会全国大会での研究発表」と、積極的に実践内容や実践成果を公開して、学外の教育関係者からの評価や助言を得ようとしている。これらのことを通じて、本校の実践研究の成果を普及させることができるだけでなく、本校の教職員の力量向上につながる「専門的学習共同体( Professional Learning Community )」の構築を図ることができる。

●今後の課題

 本校の活動報告書に記載されている3つの課題の通りである。

  1. 授業ガイドブック作成に向けて実践研究の質を向上させていくこと
  2. 教科との関連を意識した教科型プロジェクトの開発
  3. 5つの学習様式がめざす資質・能力の具体化および評価のあり方

本期間(8月~12月)の取り組み内容

○8月

 夏の研究発表会(7/24)には約140人の教育関係者の方に来ていただき、4−6年の情報と1−3年の探究の授業を参観していただいた。パネルディスカッションでは、探究をテーマに子ども代表者や保護者サポーターも参加し、フロアも巻き込みながら議論を展開した。探究に対する考えを多面的・多角的に捉えて話し合い、子どもが探究に取り組むことの価値について確認することができた。研究発表会での成果と課題を整理し、今後の個人探究について探究部を中心に話し合ったり、授業研究や公開授業について検討したりした。

○9月-10月

 9月27日から10月6日まで理事長と教師代表者でアメリカの学校のプロジェクト学習の視察にいった。訪問した学校は以下の通りである。One Stone(ボイジー)、Nueva School・New School・Brightworks School・Millenium School(サンフランシスコ)、High Tech High(サンディエゴ)。特にOne Stoneでは、まさに生徒が主体的に学ぶ姿を間近にみた。学校運営にも生徒が3分の2も関わり、学校をどのように運営していくかと自分ごととして考えているところが素晴らしいと感じ、このような感覚は今の日本では持ちにくい状況にあるのではないかと思った。そもそも「学校は誰のためにあるのか?」と再度考えさせられた。

 他校のPBLを参観したが、SOLANも同じ方向を向いて実践できていると確認できた。帰国後、視察内容を共有し、SOLANの実践研究の方向性の確認をした。

 第50回全日本教育工学研究協議会全国大会(東京)で、9本の実践研究発表をした。研究課題との関連では、「個人探究で必要となる対話力を育成するための教科型プロジェクトの実践と評価―第6学年の実践―」のテーマで発表。個人探究で必要となる対話力を育成するための教科型プロジェクトの単元を構想し、実践・評価することを目的とした実践である。個人探究を取り組んで4年目に入り、子どもの姿から活用学習に着目する必要性を実感し、授業研究に取り組み発表した。アンケートやインタビュー調査の結果、議論と対話の違いについて、目的、アプローチや意見の扱い方などで異なることを認識していることが確認できた。また、対話の活用場面では、リラックスできる場と捉えており、実践した教科型プロジェクト(ブッククラブをしよう)の活動が子どもの様子からも教師にコントロールされていない、自分たちに自由な学びの場が保証されているという認識だったからだと考える。

 探究の時間、子どもがよく活用する議論と対話の違いを認識し、教科型プロジェクトの学習を通して、対話力は相手の意見を受けいれ、新たな知を生み出すことであると理解したようである。

○11月

課題の確認(2年算数)

計測活動(2年算数)

 11月7日(木)、本校の研究アドバイザーである吉崎先生をお招きして授業研究会を実施。2年の算数及び4年の国語の教科型プロジェクト学習、4年から6年の探究学習を公開し、指導・助言をいただいた。2年の算数(習得③)は、「長さ」だけでなく「時間」も絡めた 実生活に関連する題材を用いることを通して量感を育み、生活に活かそうとする意欲を向上させたいという意図で構想された授業である。単元名「100cmをこえる長さ」の5/7時間目にあたる自分が5秒間歩いたときの長さを3つのパターンで計測する学習活動を公開した。この単元は、学校の行事である30kmを歩く強歩会のイベントで単に歩くのではなく、算数の活動を通して、実際どれくらいの長さをどのぐらいの時間で歩けるのか見当をつけるための感覚を身につけることを重視している。子どもたちは、5秒間でどのぐらい歩けたか、その歩き方を考えながら長さを測っていた。その際の計算は、エクセルのシートを使って自動的に計算をする方法であった。吉崎先生からは、構想自体は新規性と提案性はある一方で、エクセルシートで自動的に計算するという方法等、やや難易度の高い授業であったので、2年生の子どもの実態にあった工夫が必要であったとの指導を受けた。

 4年の国語プロジェクト学習(活用③)では、単元名「作家になろう〜ごんぎつね〜」の「ごんぎつね」の読解をもとに第7場面を構想するという内容の授業を公開した。どのような設定にするかを考え、ノートにストーリーをまとめていった。単元構想は、子どもの興味・関心を掻き立てるものになっているが、本時の導入で前時までの読解を想起させる手立てが十分ではなかったのではないかという指摘を受けた。6場面までの物語の展開を受けて、7場面はどのような展開が想像できるかをもう少し子どもと対話した上で、創作活動に取り組ませた方が良かったのではないかというご助言をいただいた。

ルーブリック設定(4年国語)

全体研究での吉崎先生の指導・助言

 4年から6年の探究学習(⑤)は、「情報交流の活動を通して、互いの活動を知り、意見や助言を出し合い、今後の自分の活動に対して見通しをもつことができる」ことが目標であった。違うテーマの子どもたちと情報交流する目的は、「発表に対して積極的に意見や助言を出し合うことで、一人一人が新たな気づきを得ること」である。子どもたちがリラックスした雰囲気の中、お互いの活動を報告しあっている様子から子どもが主体的に活動していることや保護者サポーターの同じ学習者としての立ち位置で話し合いに参加している様子について評価をいただいた。今後は、来年度開校する中等部の個人探究との連結について検討していかなければならないとご指導をいただいた。

 授業公開後、放課後に全体研究会を実施し、吉崎先生の本校の研究に対するご意見をお聞きした。本校のカリキュラムと5つの授業の型をもとに、教科及び教科型プロジェクトについて、先進校の実践例を紹介いただき、個人探究につながる教科や教科型プロジェクトの

 授業デザインについて全教職員で学習した。

学習課題の共有(5年国語)

意見交流(5年国語)

学習課題の共有(5年算数)

問いの選択(5年算数)

 11月19日(火)、開校当初より研究に関わっていただいている中京大学の泰山先生に来ていただき授業研究会を実施。5年の国語と算数及び6年の社会科の教科型プロジェクトの授業を公開し、指導・助言をいただいた。

 5年の国語は、宮沢賢治の注文の多い料理店を読み深めて、本のCM作りをゴールに設定した「『推し』の素晴らしさを言語化しよう!〜宮沢賢治プロジェクト」の単元の9時間目の公開である。本時までに「どんぐりと山猫」を読み、宮沢賢治の作品の特徴を捉えたり、それを新聞にまとめたりして宮沢賢治の作品に対する興味・関心を高めていった展開について評価していただいた。本時は子どもが問いを選択し、それについて考えを交流する場面で、しっかりと作品を読み込んでおかないとどの場面のどの言葉に着目したのか全員が把握しきれない時もあり、意見交流の手立てが課題となった。

 5年生の算数は、これまで学習してきた平均・単位量あたりの大きさ・割合等を活用し、子ども自身が問いを決めて調査等を行なった上で、レポートを作成する単元の1時間目で、問いを解決するために、平均・単位あたりの大きさ・割合などをどう使うといいのか考える授業を公開した。希望の多い少ない委員会の特徴、好きなお弁当の違い、図書館の利用者数と使用目的の3つの問いを例に、平均・単位量あたりの大きさ・割合等がどのように使われているかを考えた。また探究や以前のプロジェクトの内容を関連させて導入することで、学習してきた内容をどのように活かすことができるのかを子ども自身がイメージすることができた。

 6年の社会では、「江戸幕府が権力をもち続けた強さの秘密を発見せよ」の単元の最終の授業である、5時間目を公開した。1〜4時間でまとめた 情報(事実)をもとに、江戸幕府が権力をもち続けた強さの秘密について文章化することを目標に取り組んだ。教科型プロジェクトとして授業を行ってきたが、単元の知識・技能をまとめるような活動で、教科の見方・考え方を活かした教科型プロジェクトの単元になっていないのではないかというという点が課題となった。

 放課後に全体研修で、泰山先生より教科型プロジェクトを位置付ける意味について講義をいただき、今後学校として構築する教科型プロジェクトの単元構想について議論を行った。

前時の振り返り(6年社会)

自力解決活動(6年社会)

アドバイザーの助言と助言への対応

 吉崎先生からは、5つの学習様式の特徴を以下の通り表にまとめたことを評価していただいた。

 またカリキュラムの②教科学習において子どもたちの学力を向上させるための複数の方策を先進校の実践例をもとに紹介いただいた。子どもが何につまずいているのかを把握する方法や、習熟度別学習においての単元の後半で診断テストを行い、その結果にもとづいてコースに分かれて学習することで学力の向上に繋げていく方策は、現在本校が行なっている習熟度別学習とは異なる方法であった。今後、本校の取り組みを見直す検討材料にしていきたい。

 更には③教科型プロジェクト学習の参考となる先進校の実践例を紹介いただいたため、研究発表会での公開に向けて②教科学習との違いをさらに明確にしながら単元のデザインを校内の教員で検討していく予定である。

吉崎先生のプレゼン資料より

本期間の裏話

 研究アドバイザーである吉崎先生は、授業を参観されるたびに、実践のよさをしっかりと賞賛してくださる。それが私たち教師の一番の励みとなっている。

また課題を明確に説明し、どのように変更すれば更に良くなるのか具体的にアドバイスをくださる。それによる授業を公開した教師は次の実践に活かすことができる。

 全体への研修の際には、先進校の実践例を幅広く紹介しながら、どういった点がその事例の良さなのか、本校であればどういった点を活かすことができるのかを説明くださるため、取り入れ方を具体的にイメージすることができる。

 特に若い先生方がアドバイザーの吉崎先生の指導・助言を受けたいと、積極的に授業公開に手を挙げてくれることはSOLANの実践研究の向上にとって望ましい文化が構築されつつあると考えている。

 また、個人探究での教師や保護者サポーターが支援の限界を感じるほど、子どもたちが専門的な知識を欲していることから、子どもたちの成長を実感している。

 さらに、個人探究を豊かにするために教科や教科型プロジェクトの位置付けについて、全教職員で議論を重ねている。その際、自分ごととして実践を捉えようという姿勢を感じ、自身の実践を磨き鍛えたいという意思が感じられてきたことは大変嬉しい。

本期間の成果

 教科と教科型プロジェクトの違いの明確化に向けて、公開した授業をもとに、また教科別に分かれてディスカッションをすることで、共通理解を持てた点や悩んでいる点を明らかにすることができた。5つの学習様式の特徴の表を更にアップデートし、授業デザインの視点から5つの違いを明確化できる着眼点をはっきりさせていく。

今後の課題

  • 教科と教科型プロジェクトの違いの明確化
  • 教科との関連を意識した教科型プロジェクトとの開発
  • 5つの学習様式のめざす資質・能力の具体化及び評価のあり方

今後の計画

  • 2025年1月25日(土)の第4回研究発表会へ向けて公開授業の指導案検討
  • SOLANの学びをまとめた書籍の執筆、出版準備。第4回研究発表会で出版予定。

気付き・学び

 4月から続けてきた初任者研修では、初任者が授業を公開するだけでなく、中堅の教員に授業を公開してもらい、事後研修の中で授業デザインの意図を授業者に説明し、参加者全員がPMIの観点で評価しあっている。様々な学年、また教科の授業を見合う中で、授業を見る視点が向上するだけでなく、「めあてとルーブリックの設定の仕方」が共通した課題として挙がるようになり、校内全体の意識が高まる結果となっている。

成果目標

「習得―活用―探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラム」を授業ガイドという成果物と共に提案することで、他校の実践の手がかりを提供できることを目標としている。その実現へ向けて、これまでの実践を振り返り、成果と課題を整理する。本校のカリキュラムを実践してきた教員の経験や子どもの実態をこれまでの成果物をもとに振り返りながら、有用性や課題を洗い出し、授業ガイド作成のための視点として整理する。

アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生

この期間に、本校には次の3つの快挙があった。

1つ目は、日本教育工学協会(JAET)の学校情報化認定制度において、2024年「校務の情報化先進校」の認定を受け、本年度の全国大会で表彰された。これは、昨年度「教科指導におけるICT活用先進校」の認定に続くもので、同一校の先進校の連続認定はきわめて稀なことである。

2つ目は、6年生の女子児童が、第5回松下幸之助杯スピーチコンテストで最優秀賞「松下幸之助杯」を受賞した。私も、YouTubeで彼女のスピーチと審査員とのやり取りを見た。まさに、それらは「瀬戸SOLANの探究学習」が鮮やかに具現化されたものであった。

3つ目は、4年間の瀬戸SOLANの実践研究の成果をまとめる単行本『自立・自律した学習者を育てる学校―資質・能力を高める瀬戸SOLANメソッド(仮称)』さくら社の出版の準備が始まった。まさに、教育関係者が待っていたものである。

●本期間の研究成果

(1)10月下旬に東京で開催された「第50回全日本教育工学研究協議会全国大会」で、本校から9件の実践研究が発表された。

私が座長を務めた部会において、榊原央・三宅貴久子ら「個人探究を支援する人材バンクの構築と評価」の発表が行われた。本発表の主な内容と私の感想は、次の通りである。

本研究の目的は、個人探究を支援する手段として人材バンクを構築し、その効果を評価することである。本校は、小学校1年生から週2コマの個人探究を実践している。そして、学年が上がるにつれて、より専門的なテーマを探究する児童が増えたり、多種多様なテーマが設定されるようになる。そのため、どうしても教師だけでは支援が難しくなる。そこで、本校は、児童が安心して外部の専門家と連絡が取れるようにするために、WEBページを活用した「探究人材バンク」を構築した。その結果、約86%の児童がこのシステムを必要であると回答した。探究学習が小・中・高とも注目されている今日、本研究で提案されたシステムは、全国の学校にとっても大いに参考になる。なお、今後の課題は、現在42名いる専門家の登録者数を増やす方策を見出すことである。

(2)研究アドバイザーである私が訪問した11月7日(木)に、2学年の「算数の教科型プロジェクト」、4学年の「国語の教科型プロジェクト」、4~6学年の「個人探究」の授業が公開された。

算数は、「100㎝をこえる長さ」という単元名で、間近に控えた「強歩会(学校のある瀬戸市から名古屋市の中心街までの20㎞を団体で歩く学校行事)」をめざして、「5秒を何mのペースで歩けば、20000m歩けるかを考えるために、100㎝をこえる長さを巻き尺を使って、調べるという課題」である。もちろん、エクセルシートを使って自動的に計算する方法が採用されていた。実際の学校行事に関連させて、100㎝をこえる長さをmを使って表すことができることを実感させる単元構成であった。とても、斬新なアイデアにもとづく授業デザインであった。しかし、20000mという長さ(距離)は、2年生には少し難易度が高すぎるように感じた。

国語は、単元名「作家になろう~ごんぎつね~」であり、第6場面までの「ごんぎつね」の読解をふまえて、物語にはない第7場面のアフターストーリーを創作する活動であった。実に興味深い活動であり、本校がめざす教科型プロジェクトにふさわしい単元構成(授業デザイン)であると思った。ただし、アフターストーリーを創作させるにあたって、第6場面をもう少し丁寧に振り返る活動があってもよかったのではないか思った。また、最後に、生成AI(チャットGPT)は、どのようなアフターストーリーを作ったのかを紹介して、児童の感想を聞いてみるのもおもしろい。

(3)活動報告書に記載されているように、4月から続けてきた初任者研修では、初任者が授業を公開するだけでなく、中堅教員にも授業を公開してもらい、事後研修会の中で授業デザインの意図を授業者が説明し、参加者全員がPMI(課題、成果、改善)の観点で評価しあっている。さまざまな学年や教科の授業を見合う中で、授業を見る目が向上しただけでなく、「めあてとルーブリックの設定の仕方」が共通の課題として認識されるようになった。

これらのことを通じて、本校の教職員の力量向上につながる「専門的学習共同体( Professional Learning Community )」が構築されつつある。

●今後の課題

今回の活動報告書に記載されている3つの課題の通りである。

  1. 教科と教科型プロジェクトの違いの明確化
    本校が「5つの学習様式」に示しているように、教科型プロジェクトは「教科の文脈で、教科の見方・考え方を働かせて、問題解決型学習をおこなうこと」である。したがって、どのような「教科の見方・考え方」を働かせるのかがポイントとなる。
  2. 教科との関連を意識した教科型プロジェクトの開発
    高学年の理科を対象とした教科型プロジェクト「空気とは何か?」を考えてみよう。児童は、理科の授業で「空気鉄砲(物理領域)」「ものの燃え方(化学領域)」「呼吸、光合成(生物領域)」「地表の温まり方(地学領域)」などを学んでいる。これら4つの領域(物化生地)が「多面的な見方・考え方」である。そして、「力」「熱」「生存」「成長」「気候」などが「多角的な見方・考え方」である。そこで、理科プロジェクト「空気」では、児童がいくつかのグループに分かれて、多面的・多角的な見方・考え方から「空気とは何か?」にアプローチする。まさに「協働的な問題解決型の学び」である。「水」や「お金(貨幣)」なども興味深いテーマとなる。
  3. 5つの学習様式がめざす資質・能力の具体化および評価のあり方

本期間(1月~3月)の取り組み内容

○1月

「6年プロジェクト」授業公開

分科会の様子

パネルディスカッションの様子

 1月25日(土)の研究発表会へ向けて指導案や分科会の内容の検討に取り組んだ。今回は、5つの学習様式を全て公開すること、公開授業ではなくとも、自由にどの学級の授業も参観できることとした。そのため、5つの学習様式を教員全員が共通理解し授業をデザインすることが必須となり、各学習様式の違い、育成する資質・能力は何かなど、教員間での話し合いを深め、共有することを重視した。並行して本の出版へ向けての最終原稿の確認にも取り組んだ。

 1月25日の研究発表会には、全国から136名の教育関係者の方々にご参加いただき、本校教員とともに分科会やパネルディスカッションの場でグループディスカッションを実施した。全国的に探究学習が注目される中、取り組んでいく学校も徐々に増えてきたが、それに伴って悩みや課題も浮き彫りになり、課題を共有し合あうとともに、解決策を考えることができた。特にパネルディスカッションでは、東北学院大学の稲垣教授と中京大学の泰山教授のお二人が、SOLANの実践をもとに、次期学習指導要領の改定の方向性を関連づけてわかりやすく話題提供をしてくださった。今後、私たちが何に取り組んでいかなければならないか示唆に富んだお話だった。2年間の研究の成果物として研究発表会の参加者に「挑戦し続ける学校SOLAN 自立・自律した学習者のための教育をつくる」の書籍をお渡しできた。2年間の研究の成果物としての授業ガイドの作成であったが、この取り組みが他校の先生方への情報提供の一助となったと考える。また、書籍にまとめることで、本校の教職員にもSOLANのカリキュラムを共有できた。

 研究発表会後、公開授業や分科会、研究会の運営等について全体で振り返りを実施した。

○2月

One Stoneの教員や生徒の皆さんから5/6年児童への発表の様子

2月25日(火)26日(水)は、昨年度の10月に訪問したアメリカのOne Stoneから生徒・教員が来校し、SOLANの教員・児童と交流した。

One Stoneは、良いリーダーを作ること、また世界を良くすることを目指した学校である。そのため、学校の理事会の3分の2は生徒であるように、生徒に自治を任せ、運営する機会を与えている。授業後は、SOLANの教員と、教師の役割とは、教師は生徒をどう見取り評価しているのか、大切にされているデザイン思考とは何か等をディスカッションした。

4年理科の研究授業

2年英語の研究授業

6年社会の研究授業

吉崎先生による全体研修の様子

 2月27日(木)に、アドバイザー吉崎先生をお迎えして、研究授業3本(4年理科、2年英語、6年社会)と全体研修を実施した。

 理科、社会科は教科型プロジェクトを公開した。理科の単元「空気と水のふしぎハンターズ!〜4つの目で見えない世界を形にしよう〜」では、物理、化学、生物、地学の 4分野の視点から空気と水を総合的に捉え、実験や観察を通して見つけた空気や水の性質を発表する授業であった。

 探究課題としては、子どもにとって魅力ある課題ではあったが、4年生の子どもたちに対して、もう少し細やかな支援が必要であったという指導・助言をいただいた。また、社会科では単元「『人はなぜ争うのか』について自分の考えを伝えよう」の1時間の授業を公開した。子どもたちに学習への動機づけと見通しを持たせるために単元のゴールをイメージさせようと絵本などの読み聞かせを実施した。ただし、2時間目以降とのつながりを考えると、現在のロシアとウクライナとの戦争について紹介するだけではなく、子どもたちと対話を深め、争いについての問題意識をもたせた方が良かったのではないかと指導・助言をいただいた。

 全体研修では、教科型プロジェクトの単元デザインのあり方について指導・助言及び先進校の事例を紹介していただいた。具体的には、教科型プロジェクトは、どのような「教科の見方・考え方」を働かせるのかがポイントとなるため、「教科の見方・考え方」を明らかにし、イメージマップ等を使って単元を構想する方法を取り入れる。また、「バラバラな知識ではなく、個々の知識のつながり、構造化を志向する学び」をめざすことを意識する。例えば、今回の理科の場合で考えると「空気」というものを物理、化学、生物、地学という領域から多面的な見方で捉えたり、概念から生存・成長、熱・エネルギー、力、天候などの視点で多角的な見方で捉えたりして単元をデザインしていくということである。

 そして、他校の実践研究から、アンケート調査を実施し子どもの学びの様相である独立達成傾向と従属達成傾向をみとることで、個々に応じた支援を工夫することなどを助言していただいた。加えて、最近話題の生成AIの活用についても、具体的にどのような場面で活用できるかご指導をいただいた。

○3月

 1月から3月の活動報告書の作成と研究報告書を作成する。

 今年度の5つの学習様式の振り返りを実施し、次年度の方向性を検討する。

アドバイザーの助言と助言への対応

  • 教科型プロジェクトの単元デザインについて、多面的・多角的な見方で題材を捉える教材研究のあり方を実行するために、まず、今年度の実践の振り返りを実施し、ご助言の視点を加えて今年度の単元を修正する。
  • 子どもの探究的な学びの様相を捉えるためのインタビュー調査とアンケート調査を年内に実施し、大まかな子どもの学びの実態を捉える。

本期間の裏話

さくら社より出版した本

「挑戦し続ける学校SOLAN 自立・自律した学習者のための教育をつくる」というテーマで書籍にまとめ出版できたことが最高に嬉しいことであった。作成にあたっては、5つの学習様式の各担当者を中心に内容を検討し、実践をまとめた。年度当初から計画はしていたものの、日々の実践に追われ、結果的に 12 月からお正月休みに渡って、校正を重ねる大変な作業となってしまった。しかし、この苦しさを乗り越えたことによって一冊の本として実践を形にしたことは、若手教師を含め全教職員にとって自分の実践への自信となっただけではなく、これか らも挑戦し続けるための力となった。

本期間の成果

 5つの学習様式の実践・検証を通して、個人探究を充実させるためには習得、活用の学びの質を向上させることが重要であることが再認識できた。また、子どもたち自身が学びに対してどのような力をつけるのかを意識して学ぶ姿も多く見られるようになった。これは、教員自身が授業をデザインする中で、いかに学びを自分ごととして捉えさせるかを重視したからこそである。さらに、個人探究では、より自分の活動にこだわりをもち、探究に没頭する子どもの姿や友だちと協働的に探究の学びを創る子どもの姿も見られるようになってきた。加えて、保護者サポーターと教師とのリフレクションを重ねる中で、保護者サポーター自身も個人探究の意味や価値を実感できていることが確認できた。「学ぶとは何か?」について、教員も子どもも保護者も、それぞれの立場で学習活動を通して考え続け、充実した実践研究に取り組めた。

2年間の成果

「習得-活用-探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラム」授業ガイドとして、「挑戦し続ける学校 SOLAN 自立・自律した学習者のための教育をつくる」というテーマで書籍にまとめ出版した。

 第4回の研究発表会の参加者の皆さんに配布したことで、他校への情報提供もできた。また、校内の教職員に対して、SOLAN の教育の方向性を再確認することができた。

 これらのことから、成果目標は達成できたと考える。

今後の課題

 2025年に中等部が開校する。今後は、9年間のカリキュラムを構想し、実践を通して検証していく。また、本校が重視している個人探究については、どのような力が向上しているのかをみとる方法を模索し、特に非認知能力の伸びについて可視化できる方法を確立したい。

2年間を振り返って

 開校4年目の本校であるが、この2年間の実践研究は3つの点でとても充実していたと思う。

 まず、SOLANのカリキュラムに対する意思統一ができたこと、それを具現化するための個々の努力が見られたことが大きい。具体的には、「自立し、自律した学習者を育てる」ために、個人探究を軸とした「習得-活用-探究の3つの学びの相互作用を意識した授業」をデザインし、実践し、振り返り、さらに実践を練り上げていくということである。

 次に、若手教師の育成として初任者研修を導入したことで、研修や公開授業数も増え、全教職員で授業をもとに議論する場が多く設定できたことである。

 最後に、他校や海外への視察を通して、教育を広い視野で捉え、自分たちの実践と比較関連付けて自分なりの教育観を確立していけたことである。

 このように教員の意識改革ができたのは、研究アドバイザーの吉崎先生の存在が大きかった。長年の研究をもとに語られる知見は、私たち教員にとって過去から現在への教育の動向を踏まえた上で未来の教育を描く貴重なものであった。

 最後に、2年間の特別研究指定校に採択し、資金等を応援してくださったパナソニック教育財団に心から感謝の意を表したい。

成果目標

「習得-活用-探究の3つの学びの場の相互作用を目指したカリキュラム」授業ガイド作成へ向けて、3つの学びのそれぞれの単元計画、指導案、成果と今後の課題などの記録を蓄積し、次年度、その実践を修正し授業実践し、ガイドブック完成を目指す。

アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生

 この期間に、本校には次のような成果や行事があった。

 1つ目は、4年間の本校の実践研究の成果をまとめた単行本『挑戦し続ける学校SOLAN―自立・自律した学習者のための教育をつくる』(さくら社)が出版された。探究学習(特に、個人探究)で全国の教育関係者が注目している本校の教育実践が単行本にまとめられたことは、実にすばらしいことであった。

 2つ目は、1月25日(土)に研究発表会が行われた。全国から136名の教育関係者が参加して、授業見学とグループディスカッションが行われた。今回は、5つの学習様式をすべて公開するとともに、自由にどの学級の授業も参観できるようにした。

 3つ目は、2月25日(火)・26日(水)の両日、昨年の10月に本校の教職員代表者が訪問した米国アイダホ州にあるOne Stone高校の生徒と教職員が来校して、本校の児童や教職員と交流した。この高校は、よきリーダーを育成するために、生徒に自治運営の機会を与え、学校理事会の理事の3分の2が生徒代表である。このような学校の生徒や教職員との交流は、本校の児童にとって貴重な体験となった。

●本期間の研究成果

(1)前述した単行本が、厳しい日程の中で刊行された。活動報告書にもあるように、「この苦しさを乗り越え、1冊の本として実践を形にしたことは、若手教師を含め全教職員にとって自分の実践への自信となっただけでなく、これからも挑戦し続けるための力となった」ということである。まさに、開設4年目の学校の快挙である。

(2)研究アドバイザーである私が訪問した2月27日(木)に、2学年の「英語」、4学年の「理科の教科型プロジェクト」、6学年の「社会科の教科型プロジェクト」の授業が公開された。

「英語」の授業は、二人の外国人教師(一人が主に授業を担当し、もう一人が個別指導を担当)による、教室の中にある事物(机、イス、白板、ペン、消しゴム、物差しなど)や特別教室(理科室、音楽室、調理室、体育館など)にある事物について「読み、書き、話す、聞く」の4つの英語活動をフルに展開するものであった。授業は、テンポやリズムがあり、すばらしいものであった。このような授業が積み重なれば、児童の英語力は確実に進歩すると思われた。

「理科の教科型プロジェクト」の授業は、「空気と水のふしぎハンターズ!―4つの目で見えない世界を形にしよう―」という単元名の探究型の理科授業であった。そこでは、4つの理科の見方(「はかる目(物理的見方)」「みえる目(化学的見方)」「つなぐ目(生物的見方)」「めぐる目(地学的見方)」)を働かせながら、グループで実験結果や探究の成果をもとに空気や水の性質をモデル化し、その過程や結果をわかりやすく発表することがねらいであった。とても興味深い授業デザインであった。ただし、4年生には少し難しい課題のようであった。6年生あたりにふさわしいのではないかと思った。

「社会科の教科型プロジェクト」の授業は、「『人はなぜ争うのか』について自分の考えを伝えよう」という単元名の探究型の社会科授業であった。本時は、この単元の最初の授業であり、単元の見通しをもたせるために、絵本(『六人の男たち』)の読み聞かせや、児童が「争い」について調べてきたものを紹介するなど、様々な工夫がなされていた。ただし、現在の「ロシアとウクライナの戦争」を取り上げた際に、子どもたちと対話を深めて、争いが生じる見方・考え方(歴史、地理、経済、国際関係など)についての問題意識をもたせることが必要だったと思われる。

●今後の課題

1.6年間の「個人探究」で育つ児童の縦断的な姿

本校では、小1から「個人探究」がスタートする。それは、まさに「自分が創る探究の物語」の始まりである。では、個々の児童は、個人探究を通して、どのように育ち、あるいはどのように躓くのだろうか。まずは、6年間の学びの姿を個々にそって記述してもらいたい。特に、探究学習が好きで好きでたまらない児童の姿、最初は苦手意識が強かったのに、何かをキッカケに積極的になった児童の姿を、6年間(将来は9年間)の縦断的なアプローチで描写してもらいたい。

2.「教科の見方・考え方」を意識した教科型プロジェクトの開発

今回の訪問で見学させていただいた「理科の教科型プロジェクト」のテーマである「空気と水のふしぎ」は、教科型プロジェクトにふさわしいものである。というのも、空気も水も、多面的な見方・考え方(物化生地の領域)と多角的な見方・考え方(生存、成長、熱、力、気候などの視点)といった教科の見方・考え方を生かすことができるテーマだからである。課題は、個々の知識をバラバラなものでなく、教科の見方・考え方を生かした「知識の構造化」をどうしたら児童が図るようになるかである。そして、そのための教師の手だてはどうあるべきかである。それは、「深い学び」そのものにつながる。

3.5つの学習様式がめざす資質・能力の評価

活動報告書に示されている「5つの学習様式の特長」は、実によく整理されたものである。課題は、そこに示されている個々の学習様式で「育成したい資質・能力」をどのように評価するのかということである。一度、「日常のカリキュラムに組み込まれた評価(まなポートでの児童の自己評価と教師による評価など)」と「オンデマンド評価(学力調査、質問紙調査、インタビュー調査など)」に分けて、整理してみる必要がある。