広島県立福山特別支援学校

第52回特別研究指定校

研究課題

肢体不自由教育におけるデジタル教材を用いた学習効果向上の可能性
~「没入型体験活動学習システム」の構築に向けて~

2026年度04-07月期(最新活動報告)

最新活動報告
アドバイザーの初回訪問では、第1セグメント「みる」、第2セグメント......

アドバイザーコメント

新谷 洋介 先生
肢体不自由や重度重複障害のある児童生徒は、身体の動きの困難さや医療的ケアの......

広島県立福山特別支援学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 広島県 広島県立福山特別支援学校
アドバイザー 新谷 洋介 金沢星稜大学 教授
研究テーマ 肢体不自由教育におけるデジタル教材を用いた学習効果向上の可能性
~「没入型体験活動学習システム」の構築に向けて~
目的 本校は肢体不自由教育特別支援学校であり、身体障害と知的障害を併せ有する重度重複障害のある児童生徒が多く在籍している。児童生徒は身体を自由に動かすことができず、日常生活のほとんどを教員等の手を借りて学校生活を送っている。身体的な理由から、自ずと経験の幅が狭まってしまう。そのため、ICT機器を活用した体験的な学習環境を提供することで、より学習効果が高まるものと考える。刺激情報が除去できる簡易的で移動可能な部屋の設置、その中で様々な学習コンテンツを全方位投影できる設備、タッチ操作できる学習コンテンツなどを用いる。つまり、学習対象の世界観に没入でき、学習効果を高めていくための、「没入型体験活動学習システム」を構築することが目的である。
現状と課題 肢体不自由を有する児童生徒は、身体の動きに困難さがあることから、体験や経験が不足しており、そのような学習機会が限定されてしまう傾向にある。そのため、本校では、児童生徒の体験や経験の幅を広げることができるよう、校外学習や体験学習を取り入れながら学習機会を増やしていけるよう、日々検討を重ねているところである。一方で、年々高度な医療的ケア(経管栄養、気管切開、高頻度の吸引、常時呼吸器装用等)を必要とする児童生徒の在籍が増加しており、今までより一層、環境変化による体調不良、骨折等の突発的な事故による治療など、健やかな生活を脅かすリスクに対する対策が必要であり、おのずと学習機会の幅が狭まってしまうのが現状である。また、重度重複障害の特性として、視覚、聴覚、触覚などの刺激情報を処理することが難しく、様々な刺激情報に左右されやすい児童生徒にとっては、本当に学習したい事柄のみに集中することが難しい。
学校情報化の現状 現状として、広島県から貸し出しを受けているiPad86台(児童生徒用一人一台端末)、モニター30台、校務用ノートパソコン32台、授業用ノートパソコン・授業用iPad17台、授業配信用カメラ3台、授業配信用スイッチャー4台を保管している。
日々の教育活動において、一人一台iPadを用いたり、パソコンを用いたりしている。さらに、学校行事や研究授業、研究会において、カメラやスイッチャーを用いている。
取り組み内容 本校の教育課程は、児童生徒の実態に合わせてⅠ類型からⅣ類型まである。通常学校に準ずるⅠ類型、知的障害特別支援学校に準じたⅡ類型、自立活動の学習を中心としたⅢ類型、そして訪問教育のⅣ類型に分かれており、実態は様々である。「没入型体験活動学習システム」を構築する目的は、学習効果を上げることである。そこで、児童生徒の発達段階に応じた、3つの発展的な学習コンテンツを提案したい。世界観に没入できる環境設定や児童生徒が魅力を感じる内容を提供することを前提とし、主体的な参加・活動を促せるよう工夫していく。例えば、追視や注視能力の向上を目標とする場合、ペーパードーム内に水族館や動物園の360°映像を投影することで、視覚刺激を限定した環境下において主体的な視覚認知学習2026年度(第52回)実践研究助成が期待できる。また、上肢のリーチやタッチ動作の向上を目標とする場合、ペーパードーム内にタッチ操作型コンテンツを投影することで、動作に集中できる環境下において積極的な上肢動作・操作学習が期待できる。ここでは、指尖への感覚フィードバックを取り入れ、因果関係の学習も促進する。さらに、他者とのコミュニケーション能力の向上を目標とする場合、VR装置を用いた仮想現実空間での生活においても、高度なコミュニケーション能力の向上が見込まれる。
児童生徒全員が取り組んでもらうために、第1セグメントから第3セグメントを設定し、各々の実態に合うように内容を調整することとする。第1セグメントは、「みる」の区分である。360°プロジェクターを用いて、水族館や動物園など校外活動の疑似体験できるようにしたい。第2セグメントは、「ふれる」の区分である。デジリハが提供している手や足、眼球の動きでタッチ操作できる学習コンテンツを提供したい。第3セグメントは、「けいけん」の区分である。VR装置を用いた仮想空間でのスポーツ競技ができるようにしたい。
成果目標 1.成果目標
肢体不自由教育におけるデジタル教材を用いた学習効果向上
2.評価手法
実践前、実践後の結果における肯定的評価の増加。
実践中の児童生徒の変容
3.期待される波及効果
この取組みの実践が校内で確立できた際には、広島県で行われている肢体不自由教育研究会で実践報告を行い、本校だけではなく、県全域の肢体不自由教育の学習効果向上につながることが期待できる。
助成金の使途 マルチモニター出力グラフィックボード、プロジェクター・スタンド、metaquest3、Insta360 X3、ペーパードーム、デジリハ 教育コンテンツ、JAET全国大会旅費、タッチディスプレイ他
研究代表者 三堀 正貴
研究指定期間 2026年度~2027年度
学校HP https://www.fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp/
公開研究会の予定 広島県肢体不自由教育研究会、日本教育工学協会にて報告予定

本期間(4月~7月)の取り組み内容

【4月】

 アドバイザーの初回訪問では、第1セグメント「みる」、第2セグメント「ふれる」、第3セグメント「けいけん」、各セグメントについて助言を受けた。

◎第1セグメント「みる」のアドバイス

 映像を注視しているかどうかだけでなく、児童生徒が映像に向かって手を伸ばすリーチの様子にも着目することで、「見ている」ことの評価がしやすくなるのではないか。また、触れることで映像に変化が生じるように、因果関係の理解につなげられる可能性もある。さらに、「見る力」がどの程度備わっているのかを把握するために、「視る力」と「認知」を分けて捉え、映像をシンプルにすることで評価しやすくなるのではないか。

第1セグメントのイメージ

◎第2セグメント「ふれる」のアドバイス

 児童生徒が没入しやすい取組となるよう、実施に向けて検討を行った。プロジェクターを天吊りにすることで影が入りにくくするなど、提示環境を工夫する必要がある。情報を与えすぎると注意が散漫になり、目標の達成を妨げる可能性があるため、集中しやすい環境を整えることが重要であるとのアドバイスを受けた。

第2セグメントのイメージ

◎第3セグメント「けいけん」のアドバイス

 VRを活用したデジタル機器の使用についての検討を行った。VRは首の動きにより見たい方向を確認しやすく、児童生徒の反応を教師が評価しやすいという利点がある。VRによる仮想現実空間の体験は、実体験があってこそ意味をもつものであり、教科学習においてⅠ・Ⅱ類型の児童生徒に対して適切な目標設定を行うことで、より主体的な姿を引き出せるのではないかとのアドバイスを受けた。

第3セグメントのイメージ

 第1セグメントについては、誰でも自由に活動できる環境作りを目的に、パブリックスペースにおいて常時設置するための、設置場所を選定した。登下校や移動教室の際にも必ず目に触れる児童生徒玄関に設置することとした。その後、テスト上映を実施し、明るさや投影範囲についても検討を重ねた上で、プロジェクターを設置した。

【5月】

◎第3セグメント「けいけん」

 MetaQuestの研究、Metaアカウントの作成、360度カメラのコンテンツ研究をした。

【6月】

◎第1セグメント「みる」

 研究授業を実施した。授業は、知的障害と肢体不自由を併せ有する児童の中でも、知的障害特別支援学校の学習を主としたクラス(小学部1年生)と、自立活動の学習を主としたクラス(小学部4年生)の児童を対象として行った。授業後には、アドバイザー、授業者、研究チームによる協議を行い、今後の授業の方向性について意識統一を行った。

小学部1年生
  • 国語、「どうぶつたち」の単元で研究授業を実施した。導入で動物を題材にした絵本を読んだ後、実物大の動物を見る活動において、簡易的な暗室である「没入型体験活動学習空間」で活動した。児童の主体的な動作を引き出せるよう、マットを準備して動作を制限しないように配慮した。その結果、自ら手を伸ばして巨大なサメに触ろうとしたり、ライオンの鳴きまねをしたり、積極的に対象に関わろうとする姿が見られた。

没入型体験活動学習空間内の様子

サメに触れようとしている

小学部4年生
  • 教科を合わせた指導の生活活動、「きせつをかんじよう」の単元で研究授業を実施した。梅雨の季節をテーマとして、雨が降る映像を見る視覚刺激、雨音を聞く聴覚刺激、水に触れる触覚刺激など、複数の感覚を同時に入力することで、天気の雨を感覚として体験することがねらいである。見る、聞く、触れるに集中できるよう「没入型体験活動学習空間」で活動した。その結果、雨の動画に注意を向け集中している様子がうかがえた。

雨の映像を凝視している

水に触れようとしている

アドバイザーの助言と助言への対応

【アドバイザーの助言】

小学部1年生
  • 小さい絵本で動かしながら読み聞かせをしていたので、児童の視界から絵本がなくなることが多々あった。映像と絵本の関連性をもたせるために、動きをゆっくり小さくすることや、使用する絵本を大きくしてみてはどうか。
  • 児童が「没入型体験活動学習空間」において主体的に活動できるよう、1人で過ごす環境を整え、教師は不必要な介入を避けながら見守ってみてはどうか。
  • 動物が隠れていて突然現れたり、一匹の動物が走ってきたりする等、ねらいに応じたシンプルな動画を流すことで、映像を注視する姿を引き出せるのではないか。また、教師が適切な評価ができるのではないか。
小学部4年生
  • 映像が前方に投影され音が後方から流れているため、映像と音が離れていることで、視聴覚統合が難しいのではないか。そのため、音を前から出すことで、児童の認知が促され、違った反応が見られるのではないか。

【助言への対応】

小学部1年生
  • 児童の見やすい大きさの絵本を選択し、実践する。
  • 児童の主体性を引き出すため、車椅子乗車時及びエアレックスマット上において、一人でも安全に活動できる「没入型体験活動学習空間」を整える。さらに、映像を壁面だけでなく天井にも投影することで、児童がより自由な姿勢で映像に触れられる環境を設定し、映像への注視や反応の様子を観察したい。また、教師は不必要な介入を避けながら見守る。
  • 動物が隠れていて突然出現する映像や、1匹の動物が走ってくる映像など、単純で視覚的に分かりやすい動画を提示することで、映像への注視を促す。
小学部4年生
  • 映像と音を近づけることで、児童の視聴覚統合を促す。

本期間の裏話

 本校に在籍する肢体不自由のある児童生徒は、日常生活において経験の幅が限られ、さまざまな観点での経験不足が課題として挙げられる。そこで、刺激を拡散させない環境下で「没入型体験活動学習空間」を通して多様な体験を積ませるとともに、因果関係の理解や感覚発達の促進を図ることを目的として研究を開始した。

 当初は、デジタル機器を活用することで、児童生徒に多様な体験を提供できるのではないかと期待していた。しかし、教員自身もデジタル機器を用いた没入空間を活用したアプローチの経験が少なく、「没入」とは何かを理解するところからのスタートとなった。そこで、児童生徒への指導に先立ち、まず教員自身が体験することが重要であると考え、空き教室の一角を活用してドリームシアターを設置した。

 教員が実際に「没入」を体験したことで、「このような映像を流してみてはどうか」「空間づくりには、さらに改善できる点があるのではないか」といった意見が生まれ、自身が担当する児童生徒の反応を思い浮かべながら改良を重ねることができた。

 その後、改良を重ねたうえで児童生徒がドリームシアターを用いて活動を行ったところ、普段の教室では見られないような大きく目を見開いて驚く姿や、興味を示して映像に近づこうとする姿、周囲を見回しながら笑顔を見せる姿など、普段見られないような反応が見られた。こうした児童生徒の新たな表出は、教員にとって大きな手応えとなった。

自由に使えるドリームシアター

本期間の成果

 機材の導入および環境設定を行い、授業において「没入型体験活動学習空間」を活用することができた。また、新谷先生からご助言をいただき、今後さらなる有効活用を進められるよう、児童生徒の表出を促していくための、具体的な方策について検討することができた。

今後の課題

 第2セグメント「ふれる」を、どのように授業へ落とし込むのか。

今後の計画

第1セグメント:没入型体験活動学習システムを活用した授業を行い、好事例を収集する。

第2セグメント:拡大提示装置、センサー等の機器を導入する。

第3セグメント:VR機器の選定、導入、360°コンテンツを開発する。

気付き・学び

 日常では見られない、児童生徒の表情や反応を見ることができた。

成果目標

 デジタル教材を継続して使用した取り組みを行い、児童生徒の実態に応じた指標に基づく評価を行うことで、児童生徒の学習効果の向上に貢献できるものと確信している。また、重度重複障害の特性として、刺激情報を同時処理することが難しく、様々な刺激情報に左右され学習内容に集中することが難しい。そのため、刺激情報が除去できる部屋の設置、その中で学習コンテンツを全方位投影できる設備、タッチ操作できる活動方法など、総合的に考慮した結果、世界観に没入でき、学習効果を高めていくための「没入型体験活動学習システム」を取り入れた学習活動を展開する。

アドバイザーコメント
新谷 洋介 先生
金沢星稜大学
教授 新谷 洋介 先生

1. 実践の意義と初期段階における成果

 肢体不自由や重度重複障害のある児童生徒は、身体の動きの困難さや医療的ケアの必要性などから、日常における体験や学習機会の幅が限定されやすいという課題を抱えています。これに対し、意図した刺激を設定できる部屋を設け、コンテンツを全方位投影して世界観に没入できる「没入型体験活動学習システム」を導入し、多様な感覚統合や因果関係の理解を促す本研究は、児童生徒の学びの世界を大きく広げる上で極めて先駆的かつ意義深いアプローチです。

 4月から7月の本期間において、登下校や教室移動の際など誰もが必ず目にする「児童生徒玄関」にいち早くプロジェクターを設置してテスト上映を行い、日常的にデジタル映像に触れる提示環境を整えたスピード感は非常に高く評価できます。

 6月に実施された研究授業では、児童生徒の変容が見られました。小学部1年生の国語「どうぶつたち」では、大画面の動物の動画を見る環境を整えたことで、児童が自ら動物に触ろうと手を伸ばしたり、体全体で動物の模倣をしたりする主体的・身体的な反応を引き出すきっかけとなっていました。また、小学部4年生の生活活動「きせつをかんじよう」でも、雨の映像(視覚)、雨音(聴覚)、手足が濡れる感覚(触覚)といった複数感覚を同時に体験させ、生活上の雨を感覚的に捉えさせる授業が展開されました。加えて、初めは水に触れるのを嫌がっていた状況を捉え、少しずつのアプローチや見守ることを通して、結果的に児童自ら水に触れてみようとする様子もみられました。

2. 組織的な実践体制の構築と教員の意識改革

 本研究のもう一つの大きな成果は、教員集団の主体的かつ組織的な参画体制が構築されている点です。授業において最低限の準備で使用できるよう、玄関や教室に常設する形で「没入型体験活動学習システム」などを設置し、教員のやってみようや、児童生徒のやってみたいを、すぐに実現できる環境を整えたことを高く評価します。また、研究授業後においても、様々な役割の先生方が集まり、担当する児童生徒の具体的な反応を思い浮かべながら「どのような映像が有効か」「空間づくりをどう改善するか」といった建設的な議論を重ねる様子も見られました。児童生徒の新たな表出を引き出せたことが教員自身の大きな「手応え」となり、その後の研究授業や研究チームでの意識統一に結びついたプロセスは、校内研究の推進としてのモデルケースと言えます。

3. 今後のさらなる発展に向けた具体的な提言

 今後の計画に向けて、実践をさらに洗練させるためのポイントを3点提示します。

第1セグメント「みる」

 児童が没入空間において主体的に活動できるよう、1人で過ごし安全に活動できる環境を整え、教師は不必要な介入を避けながら見守る姿勢を継続してください。映像を壁面だけでなく天井にも投影する工夫や、動物が突然出現するような単純で視覚的に分かりやすい動画の選定も、児童の注視や反応をより一層引き出しやすくする上で有効です。また、4年生の実践で指摘された「前方への投影映像に対し、音が後方から流れる」という視聴覚のズレを解消し、映像と音を近づけることで、児童の視聴覚統合と認知獲得をより促しやすくなることが期待できます。

第2セグメント「ふれる」

「ふれる」活動の授業展開に向けて、各種センサーや拡大提示装置の導入が計画されています。ただ映像を見るだけでなく、「触れることで映像に変化が生じる」といった因果関係の理解に焦点を当てた活動デザインの具体化を進めていきましょう。また、車いすを使用していることや身体の動きに制限があることを踏まえた設置を検討しましょう。

第3セグメント「けいけん」

「VRによる仮想空間の体験は、実体験があってこそ真の意味を持つ」ことを念頭に置き、児童生徒の実態に応じた適切な教科学習上の目標を設定し、能動的な学習姿勢を引き出していきましょう。

 2年間の特別研究指定期間の中で、教職員が一丸となって蓄積されるこの成果が、全国の特別支援教育の優れたモデルとして発信されていくことを強く期待しております。