2024年度(第50回)実践研究助成 一般助成の優秀な研究成果報告書を紹介します。
※実践研究助成の助成校は研究計画に即して実践研究に取り組み、その成果を研究成果報告書にまとめます。当財団では、一般助成校の研究成果報告書の内容等を評価し、優れたものを表彰すると同時に、当該学校の実践の特長等を実践研究助成の専門委員が解説しています。一般助成校による実践研究の成果をより多くの方々に、より分かりやすくお伝えいたします。
2024年度(第50回)実践研究助成 一般助成の優秀な研究成果報告書を紹介します。
※実践研究助成の助成校は研究計画に即して実践研究に取り組み、その成果を研究成果報告書にまとめます。当財団では、一般助成校の研究成果報告書の内容等を評価し、優れたものを表彰すると同時に、当該学校の実践の特長等を実践研究助成の専門委員が解説しています。一般助成校による実践研究の成果をより多くの方々に、より分かりやすくお伝えいたします。
大﨑 理乃 島根大学 特任准教授
小島亜華里 奈良教育大学 特任准教授
坂井 聡 香川大学 教授
佐藤 和紀 信州大学 准教授
瀬戸崎典夫 長崎大学 准教授
泰山 裕 中京大学 教授
遠山紗矢香 静岡大学 准教授
登本 洋子 東京学芸大学 准教授
水内 豊和 島根県立大学 准教授
三井 一希 山梨大学 准教授
脇本 健弘 横浜国立大学 准教授
(五十音順)
瀬戸崎 典夫 長崎大学 准教授
佐藤 和紀 信州大学 准教授
パナソニック教育財団は、これまでに有益な実践事例に助成を行い、その実践知を社会に広く共有することで、ICT活用の推進と教育課題の改善を支援してきました。2024年度、第50回一般助成を受けた学校(以下、一般助成校)は、96件(小学校34件、中学校17件、義務教育学校・小中一貫校3件、高等学校14件、中等教育学校・中高一貫校3件、特別支援学校12件、教育委員会・教育センター3件、複数校の研究者による教育研究グループ10件)でした。この96件分の研究成果報告書を加えますと、合計して3509件の実践研究の知見が蓄積されたことになります。
昨年度に引き続き、次の5つの観点から研究成果報告書を総合的に評価しました。
評価委員会における審議の結果、「優秀賞」5件、「奨励賞」5件が選出されました。「優秀賞」は、根拠となるデータと評価がなされ、研究成果報告書として参考になるようなまとめ方となっており、社会的に有意義で優れた実践例として評価された研究です。「奨励賞」は、いくつかの観点で特に秀でた工夫が認められた実践研究が選出されました。
今回の優秀賞・奨励賞を受賞された各校の実践研究は、多岐にわたる教育課題に対し、ICTや様々なテクノロジーを効果的に活用することで、教育の質向上や教員の働き方改革に貢献する先進的な取り組みを示しています。これらの実践は、「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドライン」の基本方針や、次期学習指導要領の改定に向けた情報活用能力や個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の議論の観点からも、重要な示唆を与えています。ここでは、これらの受賞校に共通する特徴について言及いたします。
【多様な教育課題へのアプローチ】
各校の実践は、学校現場が直面する様々な課題に取り組んでいます。例えば、知的障害特別支援学校における「ひとり一人の児童生徒の実態に合わせた授業の実現」、遠隔授業における「生徒の問いを引き出す協働的な授業モデルの構築と個に応じた指導」、広域に散らばる教員をつなぐ「リアルヴァーチャルな研修コミュニティの形成」、「生活や社会の中の音や音楽と主体的に関わる探究的な題材開発」、「生成 AI のよりよき使い手となる子の育成」、「児童の感情ケアや校務のスリム化による教育力向上」、発達障害児の「コミュニケーションや感情をコントロールする力の向上支援」、「Society 5.0 時代の自らの生き方を創造できる生徒の育成」、「地域情報発信を通じた自己探求と人間力向上」、「GPSテクノロジーを活用した新しい体育科学習の創造」など、具体的な教育課題に対してテクノロジーを活用した解決策を提案しています。
【テクノロジーの効果的な活用】
人工知能は、特に多様に活用されています。知的障害特別支援学校では、GPTsを用いた独自の「授業作成支援 AI」と「振り返り支援 AI」が教員の授業準備・振り返り支援、個別最適な指導の実現、教材作成時間の削減による業務改善に貢献しています。高等学校の遠隔授業においては、生徒の問いを引き出す工夫に活用され、中学校では総合的な学習の時間での生徒の課題解決、プログラミング学習への活用、AIに関わる情報活用能力(倫理的な利用方法や技術の限界)の育成に用いられています。小学校では、倫理的な理解を含めた「よりよき使い手」の育成を目指した実践やワークショップ(親子生成 AI 教室)が行われています。
また、広域に散らばる教員をつなぐ研修プラットフォームの開発において、360度カメラとメタバースを活用した公開授業研究会が、「臨場感」や「自由さ」、「つながり」「効能感」を提供し、地域的な制約を超える教員研修の解決策を提案しています。
さらに、個別最適な学びの支援のための児童の感情や人間関係を可視化するシステム、発達障害児の情緒安定やコミュニケーション支援を目的としたロボット、運動能力を分析・評価し自己の成長を実感できるGPSテクノロジーと1人1台端末の活用、音楽科での楽譜共同編集ツールや評価フォームの活用などが用いられています。
加えて、探究・表現活動では、ドキュメンタリー映像制作を通じた地域情報発信と自己探求の試みや、音楽科での探究的な題材開発とICT活用による創作・省察の支援が行われています。
【学習者中心の学びと個別最適な学びの追求】
多くの実践で、学習者一人ひとりの興味関心を活かした教材開発、活動状況の見取り、感情や心理状態の把握、運動の分析・評価と改善思考、探究サイクルを通じた学びの深化、主体的な課題解決、自己探求など、生徒を中心とした個別最適な学びを実現するための工夫が見られます。
特に、運動に苦手意識を持つ児童への配慮や、発達障害のある児童へのコミュニケーション支援など、すべての児童生徒にとって意義のある学びを保障しようとする強い意図が伝わってきます。協働的な学びの促進や、他者への感謝や称賛の可視化による人間関係の構築支援といった、社会性や他者との関わりを重視する視点も含まれています。
【研究・報告書の質の高さと実践への貢献】
これらの実践は、単に新しい技術や方法を導入するだけでなく、その効果を多角的かつ客観的に検証しようと多様な評価手法が用いられ、研究の質が担保されています。また、実践を推進する上でのつまずきや、得られた知見に基づくハードルや留意点にも言及されており、報告書の読者が実践を具体的に理解し、参考にしやすい工夫がなされています。
大学機関との連携を通じて研究の信頼性や発展性を高めている実践もあります。地域的な条件に関わらず質の高い学びを提供しようとする強い使命感や、学校・家庭・地域との連携、他校との情報交換といった、教育活動を推進するための組織的・社会的な視点も重要な要素となっています。
【今後の展望と示唆】
これらの受賞実践は、教員の働き方改革の実現、個別最適な学びの実現、地域における教育格差の解消、特別支援教育における新たな支援方法の開拓、生成AIに関わる情報活用能力の育成など、今後の学校教育が目指すべき方向性に対し、具体的な方法論と重要な示唆を与えています。
ツールの公開による改良や汎用的な展開、保護者との情報共有の可能性、他者との関わりにおける長期的な影響の検証、さらなる実践事例の蓄積と成果の普及など、今後の研究や実践の進展が期待されます。これらの受賞実践が、全国の学校現場における教育DXをさらに加速させる一助となることを期待しています。
なお、今回の研究成果報告書の評価は、実践研究助成の専門委員の中から次のメンバーが担当いたしました。(五十音順)
大﨑 理乃 島根大学
小島 亜華里 奈良教育大学
坂井 聡 香川大学
佐藤 和紀 信州大学
瀬戸崎 典夫 長崎大学
泰山 裕 中京大学
遠山 紗矢香 静岡大学
登本 洋子 東京学芸大学
水内 豊和 島根県立大学
三井 一希 山梨大学
脇本 健弘 横浜国立大学
札幌市立中央小学校は、生成AIを積極的に教育に取り入れ、児童がその「よりよき使い手」となることを目指して実践研究を行いました。これは、単にAIの技術を理解させるだけでなく、倫理を踏まえた上で使いこなし、主体的に思考する力を養うことを重視したものです。
特に注目すべきは、「親子生成AI教室」という、児童と保護者が共に生成AIについて学ぶ機会を提供している点です。夏休みと冬休みに開催されたこのワークショップでは、体験的な学習を通して、生成AIの仕組みや特徴への理解を深めることを目指したものになっています。学校と家庭が連携し、子供の学びを支える新しい形を示しており、素晴らしい取組です。また、ワークショップの最後に、感じたことや「よりよき使い手」として大切なことを親子で話し合う時間が設けられたことも、学びを深め、家庭での対話を促すことにつながっています。
研究成果報告書においては、実践の成果を質問紙調査を用いて統計的に分析しており、丁寧な考察とあわせて研究の質が担保されていました。また、児童が作成したプロンプトの過程を事実に基づき分析しており、児童が生成AIとどのような対話を行っていたのかを分かりやすく示しています。今後の生成AIの活用を考える上で重要な示唆を与えてくれるものになっています。
札幌市立中央小学校の実践研究は、生成AIを単なる便利なツールとしてではなく、その特性や限界を理解させ、適切に活用するための指導を進める上で、大いに参考になるものです。また、AIから生成された画像やテキストにおける偏り(AIバイアス)にも触れ、生成AIとの付き合い方について考えさせる実践は、全国の多くの学校に広がってほしいものでした。今後の継続した実践に期待します。
本実践研究は、可視化された児童の感情に関わるデータをもとに、児童一人ひとりの心の状態や学級の人間関係を捉えること、またそれを教員間で共有することに対する教員の負担を軽減することで、児童理解をはじめとする教育力の向上を目指したものです。
本実践では、FEELBOTというシステムを用いて、児童がタブレット端末から自身の感情や他の児童に対する感謝や称賛の意思を入力し、そのデータをもとに教員が児童の心理状態を捉えています。得られるデータを具体的にどのように活用して日頃の指導や支援に繋げていくのか、丁寧な実践と評価を繰り返すことで課題にアプローチしています。
報告書では、表出されていない児童の感情を見取ることで、学校外も含めた教員が認識していない児童の人間関係の変化に気づいたり、児童理解に繋がることを明らかにしています。
また、そうして得られた具体的なデータをもとに、児童の感情ケアのために必要な手立てについて教員間で議論することの重要性についても明らかにしています。
さらに、他の児童に対する感謝や称賛を表明する取り組みは、入力されたデータから教員が学級内の人間関係を把握するだけでなく、児童自身が他の児童の「よい行い」に着目するようになるといった成果が報告されています。そうした成果に繋がった手立てとして、感謝や称賛を表明することについての共通理解を図る実践内容についても報告されています。
教育現場における今日的な課題解決のために、児童に心理状態を表明させ可視化されるという機能をどのように活用できるのか、教員と学習者の双方の立場から明らかにした本実践は、他校においても大変参考になると思われます。
今後の展望として、児童の心理状態を保護者と共有することや学級全体の様子を児童にも「見える化」することの可能性についても言及されており、児童の健全な発育を支援するための情報技術の活用のあり方として、今後の発展が期待されます。
本実践研究は、生活や社会の中にある音や音楽と主体的に関わる視点から、音楽科における探究的な題材を開発し、授業実践を行っています。代表的な実践として紹介されている「学校紹介のCM音楽づくり」では、音楽が社会や生活の中でどんな役割を果たしているのかを生徒自身で考え、実際に音楽を創り出すことを通して学んでいます。音楽の機能や印象を捉える鑑賞活動から、個人創作、グループによる共同創作、さらに相互評価を踏まえた再創作へと至る一連のプロセスは、探究サイクルを体現したものであり、音楽的な見方・考え方を深める構造として大変参考になります。また、CMでの言葉づくりにおいて国語科の学びを活かしており教科横断型の学びも試みています。ICT活用では、Flat for Educationによる楽譜の共同編集や、フォームを用いたSD法による評価の導入により、生徒の創作活動と省察のために効果的に用いられています。
実践の評価については、質問紙調査や作品の分析、SD法による生徒の相互評価を用いて、複数の観点から評価を試みています。具体的には、質問紙調査(量的調査)によって授業ごとの生徒の意識の変容を明らかにし、Flat for Educationによる生徒の創作履歴や、SD法による相互評価の結果をもとに、創作のプロセスを明らかにしています。これらの手法は、表現活動の評価の方法としても参考になります。
音楽表現における「伝えたい意図」と「受け手の受け取り」のズレを対話的に乗り越えていくこの実践は、音楽科における表現・省察・修正を具体的に提示し、授業づくりに多くの示唆を与えるものです。題材の工夫、ICTの活用、評価において本研究は、優秀賞にふさわしい実践であると言えます。また、本報告書には、指導案のダウンロードやYouTubeで実際に生徒が作成した動画を確認できる工夫があり、報告書の読者がより具体的に実践を理解できるようになっている点も評価できます。
文部科学省は2024年12月に「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」を公表し、学校現場における人間中心の利活用を重視しつつ、生成AIを踏まえた情報活用能力の育成強化を目指すことを基本方針としました。しかし、特別支援教育分野においては、教職員の校務や児童生徒の学習活動における導入が、小・中・高等学校と比較して遅れています。特に知的障害特別支援学校では、具体的な活用事例がまだ少なく、知的障害児の特性を踏まえた指導方法への生成AI活用についての研究も発展途上にあります。本研究は、知的障害特別支援学校における生成AIの効果的な活用を通じて、個に応じた指導の質を向上させる実践的な方法とその可能性を探究したところに意義があります。
本研究では、研究校にてOpenAI社のGPTs を用いて独自に開発した「授業作成支援AI」と「振り返り支援AI」という2種類の生成AI対話システムを、知的障害特別支援学校の教員が活用し、個別最適な指導の実現と教員の業務改善の両面に寄与したことが、多角的かつ客観的に示されています。特に、2つの生成AIツールの導入によって生徒の興味関心を活かした教材開発が促進され、個別指導計画の振り返りと修正の頻度が向上した点は重要な成果だと考えます。また、「教材作成」にかかる時間の大幅な削減が確認され、教員の負担軽減にも貢献が見られました。
評者は特に「授業作成支援AI」が提供するアイデアが教員に新たな視点を与える点を興味深いと感じました。これからの時代、指導案の作成などにAIを活用し、教員は子どもと直接関わる場面でオリジナリティを発揮するという使い方により、教員の働き方が変わっていく未来を予感させられました。
ただ一方で、このようなツールを活用する上で、教員の資質や教育観も問われることになるため、今後はその側面についても検証を進めることが望まれます。さらに、本ツールの公開による改良や汎用的な展開にも期待したいと思います。
北海道高等学校遠隔授業配信センターは、地域的な問題と組織の機能の両方を踏まえて設定された「遠隔授業における生徒の問いを引き出す協働的な授業モデルの構築とクラウドを活用した個に応じた指導の実践」というテーマで、遠隔授業における質の向上を目指したICTの活用に取り組みました。遠隔教育や協調学習へのICT活用という取り組みと報告書の完成度の高さから、本報告書は多くの学校の参考になるとして、優秀賞の授与が決定されました。
本実践は、同時双方向型の遠隔授業において、生徒のつぶやきや成果物など、詳細な活動状況が見取りにくいという点を具体的な問題点として挙げています。その上で、受信側と配信側のシステム構成やメタバース空間、生成AIといったテクノロジーを使った工夫と、DOUBLE-DOUBLE法や知識構成型ジグソー法といった授業方法の工夫の両視点から、問題解決に取り組みました。その結果として、本実践の工夫を盛り込んだ授業では成績が向上した高校が多かったことなどが報告されています。報告書には、利用したツールの名前や使い方が具体的に示されており、遠隔授業に取り組む学校だけでなく、テクノロジーを利用した協調学習の質向上にも有益な知見となると考えられます。
審査では、①「地理的な条件に関わらず質の高い学びを生徒に提供する」という組織のミッションと取り組みの対応がとれている点、②質と量の両方から、目的に対応付けられた検討がなされている点について、特に評価されました。さらに、報告書の書き方についても、①実践を推進する上でのつまずきにも言及しており、ほかの学校が取り組みを参照しやすいこと、②結果について、課題を●で、成果を○で示すなど、視覚的にも分かりやすいかたちで、批判的に実践を検討していることが、特に評価されました。
本実践の適用可能性として、離島や山間部といった教育格差の生じやすい地域、通信制課程などが報告書には挙げられています。本研究の発展や、本研究の知見をもとにした新たな実践研究など、さまざまな展開が期待されます。
本実践研究は、GPSテクノロジーを活用することで、児童が自身の運動を分析・評価し、課題を発見・解決していく新たな体育科学習の在り方として、大変興味深い研究でした。1人1台端末が整備された学習環境にGPSテクノロジーを取り入れることにより、新たな学びの形を創造しようとする試みとしても注目に値します。また、本実践研究は前年度から継続して進められている取り組みであり、大学機関との連携を通じて実施されていることから、研究の信頼性や将来的な発展性も感じられます。
本実践では、児童が自らの運動を多面的に捉える工夫がなされています。例えば、数値データだけでなく、自身の運動映像とアスリートモデルとの比較を行い、主観的な振り返りを通して課題を明確化するなど、多様な視点から自己の動きを理解する姿勢が促されています。こうした過程を通じて、児童が改善に向けて思考し、実践を重ねていく姿は、個別最適な学びを支援する取り組みとしても高く評価できます。
また、運動に対して苦手意識を持つ児童にも目を向けており、その学習過程や行動の変容を捉えようとする姿勢からは、すべての児童にとって意義のある学びを保障しようとする意図が伝わってきます。他校との情報交換を通じて学びを深めようとする協働的な姿勢や、専門用語に注釈を加えるなど、読者への細やかな配慮も見られ、報告書全体の完成度の高さもうかがえました。さらに、本実践から得られた知見に基づき、初等教育現場への導入に際してのハードルの高さや、共同研究を進める上での留意点についても批判的に省察されており、他校にとっても参考となる有意義な示唆が数多く含まれております。
本研究は、丁寧な日々の記録をもとに、発達障害児に対するコミュニケーション支援としてのNICOBOの効果を探究しています。発達障害のある児童は、コミュニケーションや対人関係において多くの困難を抱えており、これが社会生活に影響を及ぼします。
NICOBOは感情的な反応を示さないため、児童にとって安心できる存在となり、情緒的安定やコミュニケーションのきっかけを提供する可能性が示唆されています。特に、NICOBOとの関わりが児童の情緒に与える影響は興味深く、NICOBOと関わることで気分が落ち着く様子が観察されたことは、ロボットのセラピー的効果を示唆するものです。柴田(2017)の研究と同様に、NICOBOが心理的不安や孤独感の軽減に寄与する可能性は、重要なテーマとなるでしょう。また、熊谷(2012)の指摘にあるように、発達障害児が新たな依存先を持つことは自立に向けた重要なステップであり、NICOBOがその存在となれば、社会的スキルの向上も期待されます。一方で、NICOBOへの愛着やコミュニケーション意欲が他者との関係性に与える影響については、さらなるデータが必要だと考えます。今後の研究では、NICOBOの利用状況や、他の児童との関わりについての長期的な観察とデータ収集が不可欠です。また、NICOBOが通常学級の児童とのコミュニケーションの橋渡しとなる可能性についても検討する必要があるでしょう。本研究は、発達障害児の支援におけるロボット技術の有用性を示す重要な一歩であり、今後の研究の進展が期待されます。
新潟市立小新中学校は、Society 5.0時代の教育として、自らの生き方を創造できる生徒の育成を目指し、「総合的な学習の時間」のテーマとして「ロボット・AI」を設定しました。一人一台端末の整備によって学習が深まるにつれ、生徒が入力する情報量が増加し、教職員が十分に評価・分析することが難しくなっていることを課題と捉え、生成AIをどのように利活用すればよいかについても取り組みを行った研究です。
研究成果報告書では、「総合的な学習の時間」を中心とし、他教科やほかの場面においても、生徒たちが主体的に生成AIを用いて課題の解決に取り組んでいる様子が確認されました。例えば、「技術」科では、マイクロビット(micro:bit)やマックイーン(Maqueen)といったデジタルツールを活用したロボット制御プログラムの作成等に生成AIを活用しています。
また、2040年に地域で起きうるかもしれない課題を想定した「総合的な学習の時間」の取り組みは、生徒が社会の未来像を具体的に描きながら、現在の学びが将来にどのようにつながるかを実感できる学習展開となっています。生成AIの倫理的な利用方法や技術の限界についても生徒が考察できるように構成されており、単なるツールの習得ではなく、AIリテラシーの育成を図っている点も評価できます。
さらに、教員の働き方改革も考慮しながら取り組みが進められていて、職員アンケートの結果から、生成AI活用が教育効果をもたらす利点が明確に示された点も評価できます。
これらのことから、未来を見据えた研究課題とその成果は、奨励賞にふさわしいと判断しました。さらなる実践事例の蓄積と成果の普及を期待します。
東京都立大島高等学校で行われた「人」をテーマにしたドキュメンタリー映像制作プロジェクトは、離島ならではの良さを生徒たちが再発見するとともに、生徒自身が地域住民への取材や撮影・編集まで一貫して手がける、意欲的な学習実践でした。研究成果報告書では、学習活動を設計する際のポイントが一般化して示されているため、同じように映像制作に取り組もうとする方にはぜひ参考にしていただきたいと思います。
生徒たちは、取材のための交渉や撮影計画の立案などの多様な作業を分担し、全員で協力し合いながら作品を完成させていました。その過程では、生徒たちが自主性や創造性を伸ばすことができたと考えられます。また、映像編集の段階では、尺に収める作業を先に、テロップ等の付加情報をつけるという作業を後に行うというファシリテーションが機能しており、生徒が全体の見通しを持つこともできたと思われます。こうした活動は、「情報Ⅰ」の内容であるメディアを適切に活用することや情報デザインを工夫することの実践的な学習にもなっていたといえます。さらに、完成作品を地域の方々や学校外へ公開することで視聴者からフィードバックが得られることも、学習活動の一層の改善につながると考えられます。
デジタルネイティブである現代の高校生にとって、ショート動画などの映像制作は身近である一方、伝えたい情報量が多いときに的確な表現と構成を行うための知識・技術を学ぶ本プロジェクトは、日常生活との連続性も考慮されていると感じました。今後は、撮影ノウハウや機材を次年度以降も生かし、特色ある学習活動としてさらに発展させていただけることを願っています。
「道南情報教育研究会ネットワーク」では、広域に散らばる教員をつなぐ研修プラットフォームの開発を目指した実践研究に取り組みました。この取り組みは、単純にテレビ会議でオンライン会議を行うということだけでなく、360度カメラとメタバースを活用し、公開授業研究会を実施しています。それらを「臨場感」や「自由さ」、「つながり」「効能感」という視点から評価することで、距離的な制約を超えつつ、より効果的な研修コミュニティの形成に取り組んでいます。
公開授業研究会では、360度カメラによる授業映像を参加者が自由に操作し、授業を参観し、また事後研究協議もメタバース上で行うなど,遠隔による参加でも「臨場感」や「自由さ」、「つながり」「効能感」を感じられるような工夫が行われています。参加者からの評価では、このような工夫によって参加者が「臨場感」や「自由さ」、「つながり」「効能感」を感じていたことが明らかにされ、地域的な制約があっても、教員同士がつながり、切磋琢磨しながら研修を進めるコミュニティの形成について重要な提案がなされています。
「道南情報教育研究会ネットワーク」の取り組みは、これから統廃合によって学校の数が少なくなっていくことが想定される地域における教員研修への一つの解決策を提案するものであり、この仕組みが広がることは日本全国どの地域でも価値のあることだと思います。これらを参考に各地での研修の工夫が広がっていくことが期待されます。
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