2022年度(第48回)実践研究助成 一般助成の優秀な研究成果報告書を紹介します。
※実践研究助成の助成校は研究計画に即して実践研究に取り組み、その成果を研究成果報告書にまとめます。当財団では、一般助成校の研究成果報告書の内容等を評価し、優れたものを表彰すると同時に、当該学校の実践の特長等を実践研究助成の専門委員が解説しています。一般助成校による実践研究の成果をより多くの方々に、より分かりやすくお伝えいたします。
2022年度(第48回)実践研究助成 一般助成表彰
評価を担当いただいた専門委員
大﨑 理乃 信州大学 特任講師
北澤 武 東京学芸大学 教授
今野 貴之 明星大学 准教授
佐藤 和紀 信州大学 准教授
瀬戸崎 典夫 長崎大学 准教授
遠山 紗矢香 静岡大学 講師
水内 豊和 島根県立大学 准教授
(五十音順)
全体講評
北澤 武 東京学芸大学 教授
瀬戸崎 典夫 長崎大学 准教授
2022年度はCOVID-19の影響を受けつつも、GIGAスクール構想の実現により提供された児童生徒の1人1台端末を活用した授業実践が全国で見られるようになりました。2022年度(第48回)実践研究助成の研究成果報告書は、児童生徒1人1台端末などを利用して個別最適な学びと協働的な学びを一体化する実践研究や、地域が抱える問題を児童生徒が解決するような研究など、自治体や学校に参考となる情報が数多く掲載されています。
パナソニック教育財団は、これまでに有益な実践事例に助成を行い、その実践知を社会に広く知らしめ、ICT活用の推進と教育課題の改善を支援してきました。2022年度、第48回一般助成を受けた学校(以下、一般助成校)は、72件(小学校29件、中学校14件、義務教育学校・小中一貫校2件、高等学校15件、中等教育学校・中高一貫校4件、特別支援学校2件、教育委員会・教育センター・教育研究所1件、複数校の研究者による教育研究グループ5件)でした。この72件分の研究成果報告書を加えますと、合計して3,342件の実践研究の知見が蓄積されたことになります。
昨年度に引き続き、次の5つの観点から研究成果報告書を総合的に評価しました。
- 内容面1:研究内容・活動の創意工夫
取り組みにその学校ならではの工夫を確認できる。 - 内容面2:研究成果の説得性
取り組みの成果を量的・質的データで説明している。 - 内容面3:研究内容の適用可能性
実践推進上の問題解決の過程を示しており、取り組みを他の学校が参照しやすい(躓きや悩みにも言及している)。 - 内容面4:実践の批判的検討
取り組みを自己点検して、改善のポイントやその具体化を構想している。 - 形式面 :表現の工夫
分かりやすい文章で記されており、図表や写真が適切に用いられている。
評価委員会における審議の結果、「優秀賞」6件、「奨励賞」7件が選出されました。「優秀賞」は、根拠となるデータと評価がなされ、研究成果報告書として参考になるようなまとめ方となっており、社会的に有意義で優れた実践例として評価された研究です。「奨励賞」は、いくつかの観点で特に秀でた工夫が認められた実践研究が選出されました。これら受賞校が評価されたポイントは、次の3点にまとめることができます。
第一に、先導的なICT機器の導入と評価が行われている点です。例えば、国立大学法人三重大学教育学部附属小学校は「対面とオンラインのメリットを生かした360度VR研究授業システムの再構築と実践」のテーマで、360度VR授業映像を用いて、2021年度の課題を発展させながら教員研修の質の向上を試みました。棚倉町立高野小学校は、「主体的に学ぶに向かう力を育てるAIドリルの活用」のテーマで、AIドリルを使った自己マネジメント力の育成を目指して取り組みました。世田谷区立世田谷中学校は、「自閉症・情緒障害特別支援学級におけるVRを活用した体験活動と交流活動」のテーマで、VRを活用した協働的な体験活動や交流活動を実施し、この有効性を評価しました。また、宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校は、「全寮制中等教育学校における健康管理・体力向上について」のテーマで、ウェアラブル端末を用いて得られるデータを生徒にフィードバックし、自己の健康や体力についてより興味関心を持たせるような実践研究をしました。零の会は、「体育授業における個別最適な学びの実現」のテーマで、個人の異なる心拍数の特性が明らかになるハートレートモニター(心拍計)を活用し、自分にとってよりよい持久走の在り方を学ぶ実践研究を行いました。これらの研究報告は、先導的なICT機器を導入する際の参考になるでしょう。
第二に、児童生徒1人1台端末を活用して情報活用能力の育成や個別最適化された学び、協働的な学びの一体化に繋がるような実践と評価が行われている点です。横浜市立南吉田小学校は、「外国人児童の日本語教育と多文化共生を志向した教育実践の可能性を探る」のテーマで、GIGAスクール構想で整備された情報端末や、デジタル教材を活用することの成果と課題を検証し、外国人児童の学びの質を向上させる取り組みをしました。柏市立手賀東小学校は、「1人1台端末による創造性を育む学びの実現」のテーマで、縦割りグループでの活動や、地域の方との交流などで端末を利活用する研究について報告しました。長与町立高田中学校は、「根拠を明確にして納得解にせまる集団の育成」のテーマで、総合的な学習の時間における起業体験学習を軸に、根拠を明確に表現し、主体的・協働的に課題解決に向かう生徒の育成を目指したGoogle for Educationの活用の在り方について追究しました。学校法人日本福祉大学付属高等学校は、「GIGAと”ふくし”で開くカンボジアの教室」のテーマで、カンボジアの現地小学校とのICTを使った継続的な連携の中で、国際的探究授業に取り組みました。村上体育の会は、「体育における協働的なe-assessmentツールの開発と効果の検証」のテーマで、小学校体育のボール運動領域を対象に、Jamboardによる「リアルタイム分析シート」を活用した協働的な学びに関する実践研究を行いました。これらの実践研究は、NEXT GIGAに向けた児童生徒1人1台端末の活用の在り方に示唆を与え、全ての学校に役立つ取り組みです。
第三に、STEAM教育に着目し、教科横断的な学習に関する実践と評価が行われている点です。浜松市立雄踏小学校は、「STEAM教育での問題解決におけるルーブリックを作成し、児童の変容と教師の支援の在り方」のテーマで、2021年度の研究を発展させながら、STEAM教育の実践と学習ログの分析から評価を行ってきました。帯広市立大空学園義務教育学校は、「3Dプリンタを利用したSTEAM教育と教科横断的実践の構築」の研究テーマで、学校外の機関と連携したSTEAM教育の実践と評価を行いました。愛知県立一色高等学校(定時制)は、「外国にルーツをもつ生徒の学びを深めるICTの効果的な活用方法の検討~STEAM教育の新たな展望を考える~」のテーマで、芸術科書道において外国にルーツをもつ生徒や学習につまずきがある生徒の学習を支援するための効果的なICTの活用方法について明らかにすることを目的に、『映像視聴による「漢字仮名交じりの書」の効果的な学習モデル』を構築しました。今後、STEAM教育に取り組む全国の学校の参考になる取り組みです。
以上を総括しますと、どの実践研究も取り組むべき課題と目標が明確であり、児童生徒、教員のどのような能力を高めたいのかがはっきりしていました。そして、児童生徒1人1台端末などのICT機器を活用しながら、この課題解決に向けてどのように研究を進めていくか、どのように評価をしていくかがしっかりと練られていました。そして、時には予定を変更しながら確実にこれらの実践がなされていました。本務に追われる毎日と思いますが、本実践研究に取り組んでいただいた皆様に心から敬意を表します。本財団の助成による成果が、より多くの教育現場に広がることを期待しております。
なお、今回の研究成果報告書の評価は、実践研究助成の専門委員の中から、次のメンバーが担当いたしました(五十音順)。
大﨑 理乃 信州大学
北澤 武 東京学芸大学
今野 貴之 明星大学
佐藤 和紀 信州大学
瀬戸崎 典夫 長崎大学
遠山 紗矢香 静岡大学
水内 豊和 島根県立大学
表彰校一覧
優秀賞(6件)
棚倉町立高野小学校(福島県)
講評
本実践研究では,AIドリルを使った自己マネジメント力の育成を試みており,とても興味深い実践であると思われます.また,実践校の特色や課題を明示した上で,少人数教育であることを強みとした「個別最適な学び」を実践しており,現状の課題に対するICT活用による課題解決という観点から,研究背景と研究目的とが適切に設定された実践であることが読み取れました.
さらに,それぞれの実践に対しても丁寧に記述されており,他校にとっても具体的で参考にしやすい報告書であると感じました.特に,家庭でのAIドリルに学習を定着させるための工夫が示されており,AIドリルというテクノロジーに頼るだけではなく,「自己マネシート」による自己管理を併用するなど,デジタルとアナログの融合という観点からも大変参考になります.また,「自己マネシート」に対する児童の立場を踏まえた個へのフィードバックについても明示されており,児童の成長を目的とした具体的な手立てであることが読み取れました.さらに,複式学級における「わたり」と「ずらし」へのAIドリルの活用や,児童がメタな視点で自己分析をするための支援ツールとして,AIドリルが位置付けられている点に工夫を感じました.
研究の成果として,児童を対象としたアンケート評価や学力テストによる客観評価にとどまらず,担任の見取りによる児童の成長や,AIドリルを活用した所感についても記述されており,本実践を通した児童の学ぶ姿をイメージすることができました.さらに,システムの管理画面から児童の学習ログを確認して,フィードバックを返すことによって,児童の学びを価値づけるなど,ICT活用による学びの可能性を感じることができました.
今後の課題や展望についても丁寧にまとめられていることから,さらなる研究の推進や他校への波及が大いに期待されます.
横浜市立南吉田小学校(神奈川県)
講評
本校は,在籍児童56%が外国籍および日本国籍を有するが両親のどちらかが外国籍である児童であり,つながる国と地域は 22 に及んでいます。
また,日常会話はできたとしても,学年相当の学習言語が不足している児童も多く,約150人が日本語指導を受けている状況にあり,日本生まれ日本育ちの外国籍等児童は,日常会話には困らないが,家庭内言語が母語というケースが多く,学習言語の習得が大きな課題として,問題提起されていました。こうした課題に対して,日本語指導に GIGAスクール構想で整備された情報端末や,デジタル教材を活用することの成果と課題を検証し,外国人児童の学びの質を向上させることを目的とされ,外国人児童が特に多い学校でのICTを用いた教育活動について,無理なく取り組めており,普及が期待できる貴重な実践研究です。
代表的な実践として,デジタル教科書の活用においては,児童は教科書のQRコードを情報端末で読み取り,繰り返し動画を視聴することで学習内容を理解していきました。教科書の機能を十分に理解し,学校の課題と向き合って活用する点が優れた取り組みであると言えます。日本語を母語としない児童も動画による説明で理解が深まったと考えられます。また,各実践では,単元終了後にアンケート調査を実施しており,ほとんどの児童が「動画を見て生き物が隠れる様子がわかった」と回答していますし,研究としてのデザインや,エビデンスに基づいて実践に取り組む姿勢も評価できます。
このように,GIGAスクール構想で整備された情報端末をきちんと活用することで学習への理解が進み,協働的な学習が促進され,学習言語の習得に困難を抱える外国籍等児童の学習が深まっただけでなく児童の自己肯定感も高まったと考えられ,その実践とその成果は,他の学校が参考にできるところが大きいと思われます。
世田谷区立世田谷中学校(東京都)
講評
世田谷区立世田谷中学校の実践研究では,自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍する16名を対象に,自立活動における対面でのソーシャルスキルトレーニングのストレスを軽減したり,「環境の構造化」を構築したりするために,VRを活用した協働的な体験活動や交流活動を実施してきました.このような取り組みはあまり例がなく,新規性が高く評価されました.
本実践研究の代表的な取り組みとして,VR機器になれるための「VR朝学習」の実践がありました.操作チュートリアルゲーム,リズムゲーム,英会話に取り組んだ結果,生徒から「やったことなかったからワクワクした」などの感想が認められました.さらに,「時間通りの登校が難しかったが,毎日30分ほど早く登校するようになった」「大好きなキャラクターにVR空間で会えることがエネルギー充電になると話し,毎日元気に過ごすようになった」など,生徒の行動変容が認められました.また,お客様への挨拶,注文,商品の提供,片付けに限定したジョブトレーニングをVRで行う「職場体験」の実践がありました.VRにより,音声,速度,目線などを自動判定したり,即時フィードバックがなされたりするだけでなく,失敗を他者から見られないため,生徒は安心して失敗できるメリットが明らかになりました.
本実践研究の評価は,先行研究に基づく質問紙調査と生徒へのインタビュー調査でした.具体的には,質問紙調査を実施した後,ポジティブ回答とネガティブに回答を分析し,その両者にインタビューを実施しました.その結果,前者は「VRでの練習が飲食店の業務内容のイメージをつかむのに役立った」などの回答が得られ,後者は「現実の実習がより役立つと感じた」などの回答が得られました.本実践研究では,ポジティブな回答をした生徒だけではなく,ネガティブに回答した生徒に対してもインタビューを実施し,批判的な側面についても検討がなされたため,高く評価されました.
帯広市立大空学園義務教育学校(北海道)
講評
本研究は,技術・家庭(技術分野),美術,総合的な学習の時間の横断的な教育実践として,福祉用具の開発に取り組みました.報告書の審査では,学校外の機関と連携したSTEAM教育の事例としてだけでなく,カリキュラムマネジメントの事例としての有用性や,実践で取り組んだ工夫の具体的な記述が高く評価されました.
本研究の目標は,①価値創造の経験を通した,児童生徒の課題解決能力や応用力・発想力の育成,②教科横断型の探究的な学びについての方法確立の2点でした.この目標達成に向け,総合的な学習の時間での話し合いや製作・発表の基盤として,技術・家庭(技術分野)と美術の2教科の授業を位置付けたカリキュラム「総合福祉デザイン」を提案しています.さらに,このカリキュラムに基づいて,福祉用具を実際に利用する学校外のユーザーのために,子どもたちがユニバーサルデザインや福祉用具について学習する機会や,実際に製品を作る上で創意工夫する機会を設定しています.このように,カリキュラムの中に教科を位置付けた上で授業を設計するという授業デザインの考え方は,ほかの学校のカリキュラムマネジメントの参考にもなると考えられます.
授業のデザインについては,①教科・科目を超えた共通認識の重要性,②教科横断型の取り組みとすることでの学習時間の充実,③教科間の橋渡し役としての教材・教具の有用性の3点も,ほかの教科間での連携の可能性とともに報告されています.これらもまた,今後の発展が期待できると感じました.
なお,本研究では,授業後のアンケートと児童生徒が作製した福祉用具の2視点から成果を評価されました.アンケートの自由記述のテキストマイニング分析からは,子どもたちがユーザーの使いやすさを考えていたこと,製作した福祉用具からは,ユーザーが抱える問題に対応した解決方法を提案できていたことが報告されています.学びの評価として,学習者本人の認識という主観的視点と,実際に社会に役立つものを製作できたかという客観的視点の両面から評価されたという点で,今後のSTEAM教育の評価の参考になると思われます.
愛知県立一色高等学校(定時制)(愛知県)
講評
愛知県立一色高等学校(定時制)では、芸術科書道において外国にルーツをもつ生徒や学習につまずきがある生徒の学習を支援するための効果的なICTの活用方法について明らかにすることを研究目的として取り組んでこられました。ICTをもちいてわかりやすく芸術科書道を教えることはもちろん、生徒のリフレクションを踏まえたメディアリテラシーの育成も行われていました。それらの研究の成果として『映像視聴による「漢字仮名交じりの書」の効果的な学習モデル』として整理されていることが、ほかの学校の実践の参考になると高く評価されました。
具体的には、3つの点が優れているといえます。まず、生徒のニーズや先行研究の分析をふまえて実践が計画されている点です。外国にルーツをもつ生徒や学習につまずきがある生徒に対して、先行研究や先行実践を踏まえ、芸術科書道における書き手と受け手の共感を目指した実践が計画されていました。そのなかで映像の内容理解は正しいのか、作品の背景や作者の心情を正しく理解できているかなど、メディアリテラシーに関するリフレクションもとりいれた表現活動に繋げていました。
次に、生徒の成果物や質的・量的データから学習成果を考察している点です。生徒全員にロイロノートのアンケート機能を用いて量的データを取得したり、回答に対する理由を記述させた質的データを用いたりして、授業で取り上げた学習内容の言葉の奥にある含意や情緒を踏まえた内包的意味を示そうとしていた「生徒の意識の変容」を丁寧に記述していました。
最後に、実践データと考察をふまえた研究成果を『映像視聴による「漢字仮名交じりの書」の効果的な学習モデル』として整理されている点です。1年間取り組んできた実践をモデル化することで、全体の流れや実践のポイントを抽象的に理解しやすく示しております。
以上のように、同校の報告書は、芸術科書道の分野においてICTを活用した取り組みであることのみならず、授業改善や多面的に授業分析がされている実践報告であることが高く評価されました。
零の会(新潟県)
講評
「零の会」のみなさんによる実践は,ハートレートモニター(心拍計)を活用した,先進的な取り組みです.ハートレートモニターでは,個人の異なる心拍数の特性が明らかになります.そのことを踏まえて,自分にとってよりよい持久走の在り方を学ぶ授業となっていました.学びの個性化を志向し,協働的な学習が効果的に位置づけられていたと考えられます.
本実践では,子ども達一人ひとりにハートレートモニターが配布されました.子ども達は,「自分の『持続する力』を伸ばすためにはどんな運動が必要か?」という課題について,ハートレートモニターによる可視化の支援を得ながら学習を深めていきました.実践では,子ども達の初期の仮説は,持久力を高めるためには「苦しければ苦しいほどよい」というものであったことが示されています.これに対して授業は,最大心拍数の70%程度の有酸素運動が効果的であることを知識として伝えるだけでなく,子ども達自身にどのような運動で,どのように心拍数が変化するかを体験させることで,子ども達が自分で持久力を高めるための方法を考えることを促しています.
また,2つの学校での実践的な検討を通じて,子ども達同士でペアを組み,1人がハートレートモニターを装着して運動し,もう1人がその計測結果を見ながら声かけを行う「マネージャー」方式が有効であったことが示されています.この取り組みを通じて子ども達は,「最大心拍数の70%程度の有酸素運動」の内容は人によって異なること,持久力を高める運動は苦しいものではなく気持ちが良いものであること,心拍数が上がりすぎないように調整するにはマネージャーによる助言が有効であること,などを楽しく学習できたことが示されています.
目に見えづらい特徴を可視化するICTと,それを科学的に活用するための協働学習とが有機的に連携した,大変参考になる実践だと考えられます.
奨励賞(7件)
柏市立手賀東小学校(千葉県)
講評
縦割りグループでの活動や,地域の方との交流など,多様な他者と関わり合いながらICTを自然に活用している様子が大変印象的な実践です.地域の特産品であるトウモロコシ・ジャンボカボチャ・落花生のそれぞれのグループに分かれて,子ども達が栽培や販売を行うため,明確なゴールがありながらも,子ども達が創造性を発揮することができます.
ICTは様々な場面で活用されていました.子ども達同士での意見出しとその整理,地域の方に向けたチラシの作成,作物もぎとり体験の当選者を決めるための抽選プログラム,レシピの検索,作物の特徴を伝えるプレゼンテーションなどです.栽培というアナログにも見える活動の中であっても,ICTを活用することで,子ども達同士や地域の方との交流が活発になっていたことが感じられます.
特筆すべきは,児童による端末の利用頻度の向上です.本研究が開始された当初は,全国平均と同等程度だった利用頻度ですが,本研究が終わるころには大幅な向上が見られました.具体的には,自分で調べる場面,友達と意見交換をする場面,考えをまとめて発表する場面のいずれにおいても,「端末をほぼ毎日活用する」という回答が,当初の10%前後から70%前後まで伸びました(6年生児童に対する調査).子ども達がICTを活用して創造性を発揮したくなるような指導計画となっていたのだと考えられます.
浜松市立雄踏小学校(静岡県)
講評
前年度に引き続いての助成を受け発展させた取り組みです。助成を受けた年度のみ一時的に研究活動が活発になるというのではなく、前年度の成果と課題を活かして、きちんと学校全体で取り組んだことが評価できます。
今年度の取り組みも、報告書からは学校としての研究の位置付け、そして具体的実践の記述から取り組みとその成果がよく伝わってきました。本報告書に挙げている「ミニハードル」の実践は、児童が自ら主体的、意欲的にICTを学習ツールの一つとして自然に使っている様子がわかりますし、児童たち自身の学習ログからも成果を伺うことができます。
この実践事例に代表されるように、本財団による助成を受けたことにより可能となる実践研究という点でとても有意義なものとなっており、全国の多くの学校の参考に資するところが大きいと思います。また本実践で培ったICT環境やルーブリックなど、本実践の枠組みは次年度以降においても、学校の有形無形の資産であり、持続可能なものとして有効に機能することが期待されます。
国立大学法人三重大学教育学部附属小学校(三重県)
講評
本実践研究では,360度VR授業映像を用いて,教員研修の質の向上を試みています.また,2021年度の課題を発展させた研究であり,継続的な取り組みとして位置付けられています.VR技術等の先端的なテクノロジーを活用した研究事例は,単発的な事例で終始することが比較的多いことを考えると,実践的な知見を得る上でも非常に価値の高い実践研究だと思われます.
さらに,対面とオンラインの利点を整理しつつ,丁寧に分析結果を考察している点についても高く評価されました.対面授業においては,360度VR授業映像を振り返りのツールとして用いることで,児童を主語とした見取りを促すことが記述されています.また,自由記述の回答をKH Coderによる共起ネットワーク分析を行うなど,分析の観点からも質の高い実践報告であると評価されました.
オンライン公開研究会では,遠隔から参加できるというメリットを活かして,1049名が参加する大規模な実践を実現しており,ICT活用の利点を示すことができていると考えられます.また,参会者による児童の発話分析という,研修そのものの興味深さに加えて,そこから得られた参会者の授業分析の視点までも示されており,教員研修における360度VR授業映像の可能性を読み取ることができました.さらに,360度VR授業映像による授業映像の視聴が,参会者や従業者の視点の変化を促したことに言及するなど,教師の変容にも考察されている点が,実践研究としての高い価値を示していると思われます.
長与町立高田中学校(長崎県)
講評
本実践研究は,根拠を明確に表現し,主体的・協働的に課題解決に向かえる生徒の育成を目指しており,総合的な学習の時間における起業体験学習を軸とした興味深い研究でした.また,起業体験をテーマに,学習者に求められる資質・能力を挙げた上で,実社会における課題解決が意識されている点も高く評価されました.さらに,総合的な学習の時間を軸として,ICT活用を通した他教科との接続が意識されており,他校にとっても非常に参考になる具体的な実践事例であると思われます.
また,代表的な実践事例として,Google for Educationの活用が示されており,特殊なICT活用というわけではなく,「普段使い」という観点から,教育現場に比較的取り入れやすい点についても,他校への波及という意味での参考になる実践事例でした.さらに,定期的に教職員のICT活用スキルの向上を図るための研修会の実施について記述されており,学校全体での取り組みであることが読み取れます.加えて,定期的に実施されたアンケート結果から得られた知見に対して,次の実践に活かそうとする課題解決も試みられており,より良い実践とするための継続的な実践研究として大いに期待されます.また,研究の成果として,生徒や教職員を対象としたアンケートの結果から,ICT活用の効果について言及するとともに,本実践における課題を整理することで批判的に検討しており,今後の発展的な実践となり得ることが期待されます.
宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校(宮崎県)
講評
宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校の実践は,ウェアラブル端末を用いて得られるデータを生徒にフィードバックし,自己の健康や体力についてより興味関心を持ち,主体的に健康を増進したり,体力を向上したりできるようにすることで,教育データ利活用や,授業をより客観的に分析し,生徒の評価改善に生かす点において優れていました。
代表的な実践として,長距離走の取り組みがあります。本校では後期生にあたる 4・5 年生(高校 1・2 年生)は合同で体育の授業を行っており,新体力テストの20mシャトルランの結果を参考に,ウェアラブル端末を着用している5年生と,着用していない4年生とでペアをつくって走りました。ウェアラブル端末で得られたデータが共有されたことで,身体が慣れるまでの苦しい時間帯のデッドポイントをどのように乗り越えればいいか,苦しい時間帯を乗り越えた後のセカンドウィンドをどのようなペースで走ればいいか,などエビデンスを元にして判断して取り組んでいることが素晴らしいと言えます。この取り組みによって,体育の授業が嫌いだった生徒がゼロになり,運動やスポーツをする習慣についても,全くしない児童が減少しました。科学的な取り組みで,評価できます。また,体育のICT活用についての提案性もあり,体育における教育データの利活用において,大変参考になる取り組みです。
学校法人日本福祉大学付属高等学校(愛知県)
講評
本実践研究は,カンボジアの現地小学校とのICTを使った継続的な連携の中で,国際的探究授業に取り組みました.本研究での実践の特徴は,イベントのような一時的な国際交流ではなく継続的に交流するという点と, ICTだけでなく手紙を活用した点にあります.報告書では,研究目的の明確さのほか,感想文や振り返りの自由記述とアンケート調査結果といった,多様なデータを用いた評価が,特に高く評価されました.
本研究では,「表情の見える無理のない交流の中で,生徒の意識がどのように変わるのか」を明らかにするため,成長のプロセスを質的に評価することに取り組みました.成果の評価では,活動終盤で実施したアンケート調査と振り返りの分析を,主に利用しています.例えば,アンケート調査で「本活動に対して達成感を持つことができた」に最も肯定的な回答である「5」を選んだ生徒の,振り返りでの記述の特徴として「自分」「手紙」「分かる」といったキーワードが確認されたことが報告されています.そして,これらの分析結果から,本研究の特徴でもある手紙の利用が達成感に関係していることを議論されています.このように,多様なデータの分析とその分析に基づく議論の例として,今後の取り組みの参考になると考えられます.
村上体育の会(新潟県)
講評
村上体育の会の実践研究では,小学校体育のボール運動領域を対象に,①多様な情報を活用して協働的に学ぶこと,②異なる視点から考え協働的に学ぶこと,③力を合わせたり交流したりして協働的に学ぶことを柱に,協働的なe-assessmentツールの開発と評価を行いました.GoogleのJamboardによる「リアルタイム分析シート」を活用した体育の授業に独自性があり,他の学校への適用可能性が高いと評価されました.
「リアルタイム分析シート」を取り入れた授業実践は,「簡易型ハンドボール シューター(ゴール型)」,「ファーストカムベースボール(ベースボール型)」,「キャッチビーチボール(ネット型)」の3つが紹介され,それぞれの取り組みについて子供の記述内容が丁寧に報告されています.ゴール型の取り組みでは,「リアルタイム分析シート」に自分たちの動きを記述した結果,パスに時間がかかり,相手にボールを奪われてしまうことに気づいたため,できる限りパスを少なくしてシュートをするようになりました.ベースボール型の取り組みでは,学習課題を「できるだけ少ない得点で相手の攻撃を終わらせるにはどのような守り方がよいのか」とした結果,e-assessmentシートで振り返りながら,打者がよく打つ方向を発見し,守り方を変えるようになりました.ネット型では,「相手の位置の記録」を見てオープンスペースを見つけるようになり,そこを利用した動きがなされるようになりました.
本実践研究は,授業に関する形成的評価が行われ,その結果も丁寧になされており,とても参考になる報告書です.