京都府立南陽高等学校附属中学校

第45回特別研究指定校

研究課題

「学びのアトリエ」と「つなぐ展示」によるSTEAM教育の充実化と国際展開
~学びの表現活動と多様な他者との相互鑑賞による触発の連環に向けて~

2020年度01-03月期(最新活動報告)

最新活動報告
最終報告会(2月19日)において、2年間の活動実績を発表し、参加者から......

アドバイザーコメント

小柳和喜雄先生
完成年度向かえたこの年に、Covid-19の影響を受け、大変な苦労があったことは想像に......

京都府立南陽高等学校附属中学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 京都府 京都府立南陽高等学校附属中学校
アドバイザー 小柳 和喜雄 関西大学 教授
研究テーマ 「学びのアトリエ」と「つなぐ展示」によるSTEAM教育の充実化と国際展開
~学びの表現活動と多様な他者との相互鑑賞による触発の連環に向けて~
目的 展示品への閲覧・コメント可能なWebサイトの構築と海外とのオンライン交流による、STEAM教育の充実化と国際展開を図る。
Web上に作品を企画・展示し、鑑賞及び省察することによる教科の知識の定着と応用力の涵養を図る。
現状と課題
  • 本校にはCALL教室はないが、一人1台のタブレット端末や電子黒板を導入し、Wi-Fi環境を活用して、実践研究を推進している。
  • 一人1台のタブレット端末の貸与により、協働学習、個別学習の両方を推進している。
  • ICTを活用した授業を提案するため、校内に複数教科の教員で構成するプロジェクトが立ち上がった。(2018年度から継続)
  • 2018年に比べ、タブレット端末を活用した授業を展開している教員が増えてきた。
  • 実践研究を附属中学校での取組に留めず、高校での実践に広げる方策が未定である。
学校情報化の現状 教科指導におけるICT活用は、現時点では数値は低いが、推進体制が整いつつあるので、今後充実すると思われる。
取り組み内容
  • 学校設定科目『ダ・ヴィンチ』と各教科の連携授業(昨年度の取組と今年度の実践)
  • 国語:ビブリオバトル開催(言語能力育成)
  • 数学:水道料金の算出(一次関数の応用)
  • 家庭:刺し子を施した風呂敷製作(文化の継承)
  • 音楽:グループ作曲(協働学習、相互評価)
上記の内容を、Skype授業でフィリピンにある英会話学校の講師にプレゼンテーションを行った。2019年度は、各教科で学んだ成果を“作品”と捉え、ウェブサイト上に“展示”し、国内外を問わず公開する。多様な他者との相互鑑賞により、表現力の向上と相手意識の芽生えを促す「対話型鑑賞教育」の実践に取り組む。
成果目標
  • 2019年度の実践計画の柱であるオンライン上の生徒発表に対する国内外のサーバー閲覧者(以下、コメンテーター)とのやり取り を、より実践的なものにする。
  • コメンテーターの所属範囲が広がることで、同質性の視点に異質な観点が加わることを実現する。
  • 上記のやり取りを、多角的な能力開発と学びに対する新たな興味・関心・意欲の喚起をもたらすことにつなげる。
  • 本校でのプロジェクトを社会の変容に対応した教育実践にするため、学校間連携、他校種間連携を実現し、STEAM教育推進のモデル校を目指す。
助成金の使途 iPad 9.7インチ、Apple TV、Apple Pencil、3Dプリンター、3D Scanner for iPad、旅費、製本及び発送費他
研究代表者 杉本 喜孝
研究指定期間 2019年度~2020年度
学校HP http://www.kyoto-be.ne.jp/nannyou-hs/mt/
公開研究会の予定
  • 4月20日 次世代大学教育研究会にて発表
  • 6月21日  The First Ocean Park International STEAM Education Conference 2019 (香港) にて発表

本期間(4月~7月)の取り組み内容

  • ・The First Ocean Park STEAM Education International Conference 2019で実践発表を行った。(6月21日)
  • ・香港の私立小中学校であるGood Hope School(望徳学校)を訪問し、学校間連携の枠組みの確立について話し合った。(6月24日)
  • ・第1回Skypeセッションを実施した(1年)。(7月12日)
  • ・アドバイザーの講演会を実施した。(7月12日)
  • ・数学、社会、英語のコラボ授業(1)を実施した。(7月12日)
  • ・国語と英語のコラボ授業(2)を実施した。(7月18日)

授業報告

授業者:杉本喜孝・前原陽一

 7月18日(木)に、国語と英語のコラボレーション授業を行った。京都工芸繊維大学の坪田康准教授にご助言とタブレットの貸与を受けたことで授業の実施をすることができた。

 今回の授業の目的は「日本語と英語の音声について科学的に分析しよう」というものである。日本語は基本的に子音と母音の組み合わせで発音を行っているが、日常生活においてその点が意識されることはない。また英語は発音記号も明示されているため、日本語に比べれば発音を意識する機会は多いと言えるが、発音に気を取られているためか英語独特の強弱アクセントへの意識はやや弱いということができるのではないだろうか。

 今回は音声レベルで日本語と英語に触れながら科学的に分析することを目標とするが、引いては発音やイントネーション、アクセントといったものについて自覚的になることも狙いとしたい。

 ツールとしてはタブレットの逆再生アプリを使用する。逆再生アプリを使用すれば、音声(子音と母音の組み合わせ)について理解を深めることが可能である。例えば「まえはら」と機器に音声入力し、それを逆再生すると「らはえま」とは聞こえない。一度ローマ字として処理(maehara)し、それを逆再生した音声になる(araheam)のである。よって、アプリには「アラヘアム」と入力すれば、逆再生をした際に「まえはら」と聞こえる音声を獲得できる。

 しかし、いくつかの例外がある。それを以下に列挙していく。

  1. 1.「にゃ(nya)」「にゅ(nyu)」「にょ(nyo)」などの拗音を含む文節の場合、子音の連続のため通常は発音できないが、半母音である「y」を「い」と発音することで逆再生が可能になる。「y」が半母音であることが良くわかる現象であり、同様の現象は「w」にもみられる。
  2. 2.助詞の「は」は、表記通りの「ha」という音声ではなく、「wa」というかたちで録音しなければならない。これはハ行転呼と言われる現象で、平安時代ごろから日本語にあった現象である。
  3. 3.「sokuhou(速報)」を逆再生した場合に「そくふぉう」と聞こえてしまう。これは逆録音する際に「uohukos」と入れるつもりが、中央の「h」を「f」として発音してしまうために起こっている。これを防ぐためには意識的に「f」ではなく「h」の発音をする必要がある。
  4. 4.「shi」の音声のうち「h」の音声は逆再生をした場合に拾い上げることができないため、「h」を含まない「すぃ」のような音になってしまう。この現象は「tsu」にもみられる。この3と4の現象は、ヘボン式のローマ字がいかに発音に忠実かを示す現象であるといえる。

 これらの日本語の特徴を踏まえたうえで、授業の後半では英語の音声を録音し、英語科教員に質問をすることにした。まずは英語でも同じことが可能かという問いかけをし、生徒に考えさせる時間を取った。およそ三分の一の生徒が「できると思う」と答え、三分の二の生徒が「できないと思う」と回答した。それぞれの根拠は、「英語にも発音記号があるし、それ通りに逆の音声を録音したらできるはずだから」「確かに発音記号はあるが、日本語よりも発音が複雑で録音できないと思うから」と説得力のあるものであった。活動を行い、実際に英語科教諭に質問をしたところ、8つの班のうち5つで質問と応答が成り立ち、3つの班では失敗した。応答が成り立った班の質問も「Who are you?」のような単純なものが多く、質問が長くなれば理解しにくいという状態であった。

 その結果を踏まえ、日本語と英語の音声的な違いについて言及した。それが以下の表である。

日本語 英語
音節 基本は開音節(母音で終わる)
ウォーク(woːku)
基本は閉音節(子音で終わる)
walk (wɔːk)
母音の数 約26
子音 子音1+母音1が多い 子音の連続も多い
アクセント 高低 強弱

授業後のアンケート結果も、生徒の学びの深まりや興味関心の高まりを示すものであった。以下アンケートからの抜粋である。尚、( )内は前原による補足である。

  • ・イントネーションやスピードだけで全然違ってくることが分かった。
  • ・子音だけになったときにどう発音するか悩んだ。
  • ・人が音を感じ取って発する仕組みのすごさがわかった。
  • ・日本語の時に子音が変化すること。(h→f、h→w)
  • ・「r」の音や「n」を逆再生したときはどうなるのか知りたい。
  • ・発音記号をもっとうまく使う方法は何か。
  • ・他の言語でも可能なのか。
  • ・強弱の調整や音の高低の調整が難しい。
  • ・英語の方が難しかった。
  • ・発音記号をそのまま読んでもいまいち。(忠実に発音できない)
  • ・聞いた音声のまねをする方がうまくいった。
  • ・「wa」ではなく「ha」を使ったらどうなっていたのか。
  • ・英語で回文はつくることができるのか。(音声レベルで)
  • ・「国宝」の発音が分からなかった。(破裂音kを含むため)

 日本語と英語の違いについて、知識的なものだけではなく音声レベルで実感することができたため、貴重な時間になった。以下は指導案と、実際の活動の場面の写真である。

  1. 1 対象 2年A組40名
  2. 2 日時 令和元年度7月18日(木)
  3. 3 場所 121、122教室
  4. 4 単元名 「国語と英語を科学する!? 逆再生による分析」
  5. 5 単元についての詳細
     ○冒頭で確認したため説明を省く。
  6. 6 目標
     ○日本語の発音が子音と母音の組み合わせであることを確認し、日本語と英語の音声的な違いを理解する。
  7. 7 評価規準
     ○積極的に話し合いを行い、学習活動に取り組めたか。(観察)
     ○日本語の発音、英語の発音について理解を深められたか。(アンケート)
  8. 8 本時の展開
過程 指導内容 学習活動 指導上の留意点 評価規準
【第一時】
導入
10分
・日本語の音声について ・教員のデモンストレーションを聞き、授業の見通しを持つ。 ・日本語が子音と母音の組み合わせであることを確認する。
・教員自身が逆再生アプリを使用して確認していく。
・観察
展開1
25分
・逆再生の音声を用いることで日本語の音声的な理解を深める。 ・逆再生を行いながら、文章の違和感に気付く。 ・お題を提示する。
1.ありがとうございます。
2.醍醐寺は国宝だ。(hとf、ハ行転呼)
3.ニュースをお伝えします。(拗音、shi)
展開2
10分
・逆生成をするとおかしくなってしまう部分をどのように解決したかを発表させ、共有する。 ・お題の文章についておかしくなってしまう部分を修正し、その方法を発表する。 2つめのお題ではhとf、ハ行転呼について、3つめのお題では拗音、shiについて触れる。
・できるだけ生徒から発音の工夫を引き出させる。
・観察
【第二時】
過程 指導内容 学習活動 指導上の留意点 評価規準
導入
5分
・考えた内容を発表させる。 ・英語でも同じことが可能かどうか、発音記号のプリントを参考にしながら考える。 ・質問で使用するであろう単語の発音記号集(プリント)を配布し、英語でも逆再生でコミュニケーションを行うことができるか考えさせる。
・両方の立場からの意見を吸い上げるようにする。
・観察
展開
25分
・第一時と同じく逆再生の活動に取り組ませる。 ・英語の逆再生質問の作成に取り組む。
・完成した質問は保存しておく。
・言語はコミュニケーションツールであることを踏まえ、「人に文章として意味が伝わるかどうか」を判断基準とすることを必ず伝える。 ・観察
まとめ
10分
・日本語の発音が子音と母音の組み合わせであることを確認し、日本語と英語の音声的な違いを理解する。 ・教員の話を聞く。
・振り返りのアンケートを記入する。
・クラス全体の場で、記録した音声を英語教員に聞いてもらう。
・日本語が開音節(母音で終わる言語)であることや、英語が閉音節(子音で終わる言語)であることを説明する。
・アンケート

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・7月12日に実施した講演会で、特別研究指定校の意義を話していただき、以下の点を研究組織の教員で共有した。
  1. ①目標の明確化
  2. ②実践スケジュールの確認
  3. ③現状を見つめる機会の設定
  4. ④評価計画の設定
  5. ⑤取り組みの成果を見つめるために
    1)成果に関する行動変容に関する評価(成果の直接評価)
    2)成果に関する意識の変容に関する評価(成果の間接評価)
    3)取組に関する評価

本期間の裏話

  • ・実践開始以降、研究スタッフと外部専門家とのつながりが増えてきたこと。
  • ・研究スタッフから実践に対する自発的な提案が生まれてきたこと。
  • ・組織的取組により、教員の専門性が今まで以上に生かされる実践が生まれてきたこと。

本期間の成果

  • ・1学期に、昨年度とは異なる内容の2つのコラボ授業が実施できた。

今後の課題

  • ・本来の授業計画に支障のない範囲で、教科間のコラボ授業を実践すること。
  • ・PDCAサイクルのうち、研究計画とその実施に対するCheck体制を疎かにせず、改善が積み重なるようにすること。

今後の計画

  • ・11月22日(金)1,2年のSkypeセッション及びアドバイザーの第2回訪問アドバイス。
  • ・同日に外部講師を招いて、外国語によるコミュニケーションの効果的な進め方についての講演を依頼している。その直後に行われるSkypeセッションを参観してもらい、今後の活動でさらに表現力が増すようにしたい。

気付き・学び

さまざまな取組内容を校内に周知(本校ではチームコミュニケーションツールのSlackを利用)することで、新たな枠組みが生まれてきた。このことが、アドバイザーの助言にもあった、スタッフ同士の互恵的な関係構築を進めることに繋がると期待している。

成果目標

  1. ・他教科との連携を一層促進し、全校体制の充実を図る。
  2. ・11月のSkypeセッションに向けて、ダ・ヴィンチでの2年生の個人研究を充実させる。
  3. ・個人研究の発表をビデオ撮影し、Web上の仮想ミュージアムに順次アップロードする。
アドバイザーコメント
小柳和喜雄先生
関西大学 総合情報学部・大学院総合情報学研究科
教授 小柳 和喜雄 先生

1.研究テーマ・取り組みについて


 「京都府立南陽高等学校附属中学校」は、京都府立南陽高等学校の敷地に併設された緑豊かな市街地にある中学校である。2018年4月に開校され、京都府内5校目の公立高校附属の中学校であり、各学年1クラス、現在1,2年生80名が学んでいる新しい学校である。

 生徒の探究的な学びを大切にしている姿が印象的であり、現在在籍している隣通しの教室関係にある1,2年生が非常に快活で、意欲と自信を持って何事にも取り組んでいる様子が初回の出会いから感じられた。教室の後ろに掲示されている「行動規範」(右図)は、自立的自主的な姿を物語っていた。生徒たち自らが投票を通じて明確にしたもので、選ばれている表現もユーモアがあり、具体的な姿をイメージできる説得性を持つものであった。1)時間(とき)を待とう、2)授業は、つくるー騒は喪、静は生ー、3)360°―  =0°―美しさとは―、4)心にも制服をー一人一人が南陽ブランドー、5)行動に責任をーグレーは白ではないー、6)みんなのhappy!! 大切に。

 ICTに関しては、STEAM教育の充実とその国際展開と関わって、その活用を位置づけている。STEAM教育の基盤となる教科横断型授業を、教職員チーム、学外関係者とともに実践研究を進め、その推進のコアとなる時間を設定し、学習の成果の発表と交流(展示、コメント可能なWWWの構築、それらの展示品をトピックとした国際交流)を通して、生徒および参加者の対話的・主体的な学びを豊かなものにしようとしている姿が見られた。

 本校の話によれば、これから2年の研究期間に、積極的に様々な場で成果の発表を行うとともに、教科横断のコラボ授業の推進し(STEAM教育と関わって)、「対話的・主体的な学びに対する学習目標の変容と新しい評価方法を確立」していきたいとのことであった。

 さらに、次の3つの点に、取り組むことも目標していると言うことであった。

 1)Web上の展示と、国内外からの鑑賞による生徒の理解の活性化
 2)Visual Thinking Strategy(対話型鑑賞)の導入により言語化による理解の深化
 3)教員のファシリテーション技術と授業デザイン技術の向上

2.本期間の取り組み・成果の評価

 4月に最初に訪問をした後、7月に訪問を行い、今後の取り組みに関する打ち合わせを行った。その際、skypeを活用した遠隔支援による英語コミュニケーションの授業を見る機会に遭遇した。

 そこでは、先に述べた、Web上に展示された作品や研究成果と関わって国内外からの鑑賞に応えていくVisual Thinking Strategy(対話型鑑賞)と関わる取り組みの姿が見られた。

 右の写真にあるように、skypeを用いて、順番に一人一人が話す機会を作り、グループでそれを支え、またその姿をモニターし互いに活かしていこうとしている姿が見られた。

 この授業参観後、本時の授業から共通に学べた点の整理、今後の学びの方針についての確認に関わって、意見交換が行われた。

 Skypeを用いた英語コミュニケーションの姿から、これまで試みてきた実践の蓄積が感じられ、学校全体の取り組みとして、研究計画に即して、取り組みを振り返り、その改善につなげていく意気込みが感じられた。

3.今後の期待

 京都府立南陽高等学校附属中学校の取り組みは、他の学校にはなかなかまだ見られないSTEAMへの挑戦とそれに至るための理論的裏付け、具体的な手続きを進めてきた歩みがある。学校創設2年目の取り組みであるが、作り出していく雰囲気が感じられる。これを継続的に進め、それらを学校全体の財産としていくためには、今後、実践の成果をエビデンスに基づきながら、保護者、他校、地域に語っていく取り組みが求められる。それらを語る取り組みを積み重ねることにより、学校自体でも取り組みをより整理できると思われるからである。実践の成果の評価に基づきながらも、その成果を導いた各取り組みの評価を生徒、教員間、学外関係者と丁寧に見つめ、より目指している姿に近づいていって欲しい。

(奈良教育大学 小柳和喜雄)

本期間(8月~12月)の取り組み内容

  • ・国語、体育のコラボ授業の実施*1(10月15日) *1:報告書の最後に指導案他を掲載▼
  • ・暗号作成と豆電球によるメッセージ送信競技大会の実施(ダ・ヴィンチ)(11月12日)
  • ・学会(国際・国内)、研究会での実践発表(国語、理科、地歴科、数学科、英語科教員)
  • ・第2回Skypeセッションを実施した(11月22日)
  • ・アドバイザーの講演会を実施した(11月22日)
  • ・iPadを活用したプレゼンテーションの実施(理科)(12月13日)
  • ・数学・英語のコラボ授業の実施(12月19日)

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・目標の明確化
    ⇒ コラボ授業計画の段階で指導案を作成し、授業目標を明確にした。
  • ・教員同士の互恵的な関係の構築
    ⇒ 同一教科のみならず、他教科の授業を参観することで、教授法のヒントを得ることができ、同僚性の向上につながっている。
  • ・教員の専門性に灯をともす
    ⇒ 外部研究会に参加することにより、実践発表の機会が得られ、授業のデザイン力向上につながっている。
  • ・目標の明確化
    ⇒ 多重知能の伸長に向けて、学校設定科目ダ・ヴィンチにおいて、生徒が自主的に研究テーマを設定するための助言を多くの教員が共有し、多角的な側面からの支援ができた。
  • ・取り組みの成果を見つめる
    ⇒ 成果発表のプレゼンテーションでは、教員が生徒評価を行い(成果の直接評価)、今後の研究内容の充実化につながるよう、生徒には振り返りシートにより自己評価(成果の間接評価)をさせることができた。

本期間の裏話

  • ・研究組織の複数の教員が校外の研究会に参加し、本校のSTEAM教育の取り組み内容を伝える役割を果たしたこと。

本期間の成果

  • ・1学期とは異なる教科間のコラボ授業を実施することできた。
  • ・2年生がさまざまな研究テーマを設定し、外国語を使用してコミュニケーションを図ろうとする今まで以上に積極的な姿勢を示したことは、1年生にとって良い刺激になった。

今後の課題

  • ・研究大会実施に向けた構想の仕上げと準備

今後の計画

  • ・2020年2月21日(金)に本校を会場として、STEAM教育実践研究大会を実施する。
  • ・生徒の学習活動をWeb上にアップし、国内外の視聴者とのやり取りを実現する。

成果目標

  1. ・2月のSkypeセッションに向けて、生徒(2年生)の自主研究のサポートを充実させる。
  2. ・研究成果のWeb上(Dropbox等)へのアップロード実現に向けて、校内の体制を及びアドバイザーとの打ち合わせを進捗させる。
  3. ・国内外の研究・教育機関との連携事業(Web上でのやり取り等)を計画する。

体育科・国語科 教科横断型授業 指導案

京都府立南陽高校附属中学校
教諭 小谷 栄二(体育科)
長谷川 孝(体育科)
前原 陽一(国語科)

1 対象  附属中学校1年A組(40名)

2 日時  令和元年度10月15日(火)4限目

3 場所  格技場

4 単元名 「身体表現と言語表現の関わりに関する試み」

5 単元について

 人間は情報を処理する際に、これまでの自分の経験を基にしたスキーマ(枠組み)を用いている。例えば何も知らずに次のような文章に目を通してみてほしい。新聞の方が雑誌よりいい。街中より海岸の方が場所としていい。最初は歩くより走る方がいい。何度もトライしなくてはならないだろう。ちょっとしたコツがいるが、つかむのは易しい。小さな子どもでも楽しめる。一度成功すると面倒は少ない。鳥が近づきすぎることはめったにない。ただ、雨はすぐしみ込む。多すぎる人がこれをいっせいにやると面倒がおきうる。ひとつについてかなりのスペースがいる。面倒がなければ、のどかなものである。石はアンカーがわりに使える。ゆるんでものがとれたりすると、それで終わりである。

(西林克彦(2006)「わかったつもり:読解力がつかない本当の原因」光文社新書)

 一見すると意味の分からない文章だが、これは「凧あげ」について書かれた文章である。それを知った状態で再び文章を読んでみると、非常に理解度が上がるだろう。

 日々人間はこのスキーマを用いて情報処理を行っているわけであるが、その中でも特に顕著なのが身体運動である。分かり切っているはずのラジオ体操の冒頭を引用してみたい。

 腕を前から上にあげてのびのびと背伸びの運動から

はい! 1、2、3、4、5、6、7
手足の運動
1、2、3、4、5、6、7、8
1、2、3、4、5、6、7、8
腕を回します
外回し 内回し 5、6、7、8 1、2、3、4、5、6
胸の運動
脚を開いて横ふり
斜め上
5、6、7、8
1、2、3、4、5、6
体を横に曲げる運動…(大久保三郎&柳川英麿Ver.)

 この歌詞も、言ってしまえば大変いい加減である。「腕を前から上にあげてのびのびと背伸びの運動から」という指示はともかく、続く「手足の運動」では何が何やら分からない。手足をどのように動かしたら良いか全く指示が含まれていないからである。余談ではあるが、さすがにこれでは不親切だという話になったのか、2018年3月30日、YOUTUBEにNHK公式チャンネルから追加された「ラジオ体操第1」では「腕を振ってあしをまげのばす運動」という呼称がなされている。

 このラジオ体操の例のみならず、身体運動を伴う表現、例えば絵描き歌でさえも、完成した形を知らなければ忠実に身体運動を再現することは困難である。

 しかし、身体運動を説明するために言語表現は不可欠である。写真や図といった視覚的な表現のサポートとして働くだけでなく、小説では登場人物の行動を精緻に描写する手段として用いられていることからも明らかであろう。

 今回の授業では身体運動と言語表現の結びつきを考えるために、導入として三浦しをん『風が強く吹いている』(2006年 新潮社)の一部を引用する。その一部を引用することで、「身体運動」と「言語表現」が強く結びついていることを確認する。続いて言語表現のみで身体運動を伝達することを通してその不完全さを感じていく。授業の最後には生徒に新たな視点を提供することで、「身体運動」における「言語表現」の可能性について考えさせたい。

6 目標

  1. ・身体運動と言語表現の結びつきについて考えを深める。

7 評価規準

  1. ・身体表現と言語表現の結びつきについて考えを深められたか。(感想記入)

8 本時の展開

過程 指導内容 学習活動 指導上の留意点 評価規準
導入
10分
  • ・身体表現と言語表現の結びつきについて説明する。
  • ・ホワイトボートにあらかじめ書いておき、時間のロスをなくす。
  • ・複数の意見を聞く。
  • ・生徒にプリントを配布し、一つずつ丁寧に読み上げ確実に行う。
展開1
25分
  • ・次に行うジェスチャーゲームのルール説明をする。
  • ・4つの班に分け、格技場の外で先頭の生徒に動きを伝える。
  • ・他のメンバーを四隅へ移動させる。
  • ・先頭の生徒は動きを覚える
  • ・他の生徒は格技場の四隅へ移動し待機する。
  • ・動きを覚えたら格技場内へ。教員の合図を待ち、情報伝達を行う。
  • ・ジェスチャーゲームの間は各班を巡回、動作によって情報伝達をしていないか確認する。
  • ・卓球台で四隅を囲むように配置し、他の班の動きが視覚情報として伝わらないようにする。
展開2
10分
  • ・前に出るように指示する。
  • ・最後の生徒はグループを代表して全員の前で動きを見せる。
  • ・ストップウォッチを用いて時間計測を行う。
  • ・卓球台の仕切りを4つ立て、生徒を4人、中央に見本の動きをする教員が入れるスペースを作る。
    生徒 | 生徒 | 教員 | 生徒 | 生徒
まとめ
5分
  • ・身体運動と言語表現について話をする。
  • ・最も効果的に動きを伝える方法は何か考えさせる。
  • ・身体表現に限らず、言語化できない予測不可能な未来の広がりについて言及しても良い。
  • ・最も効果的に動きを伝える方法を考える。
  • ・教員のまとめを聞き、考えたことをアンケートに記入する。
  • ・「視覚的なサポートが望ましいが、視覚に障害があればどうか」など、生徒を揺さぶる発問を行う。
  • ・また、視覚に問題がなくても技術の向上に伴って見本の動きが見られない可能性もある。

○ホワイトボードに書く内容

藤岡(ライバル校の主将)は強い。走りのスピードも並ではないが、それを支える精神力がすごい。俺がただがむしゃらに走っているときに、きっと藤岡はめまぐるしく脳内で自分を分析し、もっと深く高い次元で走りを追求していたのだろう。走はうちひしがれると同時に奮い立つという、奇妙な興奮を味わった。

俺にかけていたのは、□だ。もやもやを、もやもやしたまま放っておくばかりだった。でもこれからはそれじゃあだめだ。

三浦しをん『風が強く吹いている』P255(新潮社 2006年)

発問1「□の中にはどのような言葉が入ると思うか」(正解は“言葉”)

○ジェスチャーの内容

一つ目の動き 大の字→左手の先を右のつま先へ→大の字→左右逆転して同様の動き

二つ目の動き 大の字→手を地面と平行にしたまま右ひざを曲げ、伸脚のような姿勢→手を胸の前で合わせる(「いただきます」のようなポーズ)→上半身を左へひねり、後ろを向く→前を向き、手を地面と平行に戻し、大の字へ復帰→左右逆転して同様の動き

○ジェスチャー伝言ゲームのルール

  1. ・10人一組で行う。より正確にジェスチャー(身体運動)を伝えられたグループを勝利とする。
  2. ・ジェスチャーを伝えるのは言葉だけである。実際に動きをするのは禁止する。
  3. ・制限時間は一人2分とし、その制限時間以内に動きを言語で伝達する。

○具体的な流れ

  • 10人グループのうち先頭の生徒は長谷川先生と共に格技場の外へ移動し、動きを伝えてもらいます。
  • 残りの9人は格技場の四隅へ移動します。
  • 先頭の生徒が戻れば、教員の合図でスタートです。ジェスチャーを伝える人は隅に立ち、体育館中央を向きます。伝えられる人は隅に立っている生徒から2メートルほど離れ、隅に立っている人を見ます。これは、他のグループの動きを見ないためです。待機している人たちは目隠しをし、どのような動きを伝えているか見ないようにしてください。
  • ジェスチャーを伝える人は口だけで情報を伝えます。体を動かして動きを伝えるのは失格です。
  • ジェスチャーを伝えてもらう人は体を動かして構いません。ジェスチャーを伝える人はその動きを確認しながら情報の修正を行ってください。
  • 2分の制限時間が過ぎれば、教えてもらった人は隅に移動します。そして、次の人が教えてもらう位置に移動します。これを全員分繰り返します。
  • 最後は再び集合してください。ジェスチャーを最後に伝えてもらった人が全体の前でその動きをします。

【授業報告】

 国語と体育の教科横断型授業は、本校として、また、授業者としても初めての試みであった。しかし、生徒の反応は良好で、「楽しみながら身体運動と言語表現の関わりについて」考えるきっかけになった。 感想用紙の1.「ジェスチャー伝言ゲームは難しかったですか」という項目に対して、「難しい」と回答した生徒が30名、「簡単だった」と答えた生徒が9名、無回答1名という結果であった。代表的な感想を示す。

〈難しかったと答えた生徒〉

A:自分でこれなら伝わると思って考えて出した言葉でも、なかなか伝わらなかった。

B:自分の考えていることと相手が想像するものが違うこと。

C:個人個人の言葉の意味の違いが少しずつあって難しかった。

〈簡単だったと答えた生徒〉

D:言ったことをしっかりやってくれたから簡単だった。

E:イメージをして行動に表すのは簡単だった。

F:普通の生活の中でつかうことを例にすればよい。

〈どうすれば伝わりやすくなるか〉

H:細かいことをしっかりと教えてあげる。

I:擬音語をできるだけ使わないようにする。

J:語彙力を増やす。

〈自由記述〉

K:無意識に言葉+ジェスチャーを使って話していることがこのジェスチャー伝言ゲームで思いました。だから、言葉だけで伝えるためには“語彙力”が大切だと思います。

L:自分が通じた言葉も人にとって通じなかったので、人それぞれなんだなあと思いました。

M:はじめから目の見えない人はどうやって言葉を覚えたのか不思議に思った。

 〈難しかった〉と答えた生徒の回答は類似したもので、A~Cまたは、〈自由記述〉のLは、自分が言語化する動きと相手の受け取り方との差異について言及したものであるが、ここには「認識のずれ」に関する視点が含まれている。この点については、哲学・心理・自我といった方向に波及させるだけでなく、言語の恣意性、外国語母語話者との関わりと言った視点からも深めていくことが可能と考える。実際、この授業を見学していた英語科教諭の杉本は、「英語のコミュニケーションにとっても本質的な部分を含み、生徒に話したくなることが多い」として、授業のまとめの時間に、英語表現の側面から生徒に教示を行った。例えば、言い換え(paraphrase)の大切さに気付くことで外国語のコミュニケーション力が磨かれること、外国での不安の低減、異文化への理解である。

 また、感覚的な言葉だから個人の解釈が含まれているということを示唆している点で、〈どうすれば伝わりやすくなるか〉のIの回答も興味深い。今後、国語や英語の教科指導において、一考の余地があるかもしれない。この他にも、普段のコミュニケーションの中で身体表現が多く使われていることに気づいた生徒や、「語彙力」について「ことばが(で)伝える」という意味に限定して語彙力という言葉を使用している生徒もいた。こうした生徒には、身振り手振りに留まらない非言語的コミュニケーション(表情、声のトーンや調子)がコミュニケーションに占める割合は一定程度あることを指導したい。それにより、異文化理解教育につながることが期待できる。また、生徒アンケートを通して、今回の試みがさまざまな教科や分野に広がる可能性がみられたことは、教科横断型授業の特長を示していると考えられるのではないだろうか。今後は、他のコラボ授業も含め、ICT機器で録画した動画にコメントを載せてWebに掲載し、校内外及び国内外の閲覧者とのやり取りが実現できるよう、実践研究2年目にかけて計画を進めたい。

【当日の様子】

【三浦しをん『風が強く吹いている』の指導】

【体育教員によるルールの説明】

【代表生徒へのジェスチャー伝達】

【伝達された動作をジェスチャーで表現する様子】

【体育教員と最後の生徒が全員の前で答え合わせ】

【ホワイトボードに書かれたルール】

アドバイザーコメント
小柳和喜雄先生
関西大学 総合情報学部・大学院総合情報学研究科
教授 小柳 和喜雄 先生

1.研究テーマ・取り組みについて

 7月の訪問時に、昨年1年を通した取組を通じて、生徒の姿などから本取り組みの手応えは感じているが、以下の 3つが検討課題として明らかになったことが確認されていた。

1)色々なアイディアを試す意図から実践を構想するが、それぞれの取組の関係づけが容易でないこと

2)学習課題設定及と対になるパフォーマンス評価の検討に悩んでいること

3)単元レベル、各単元を貫く継続的な見通しを持った、学習課題の系列の吟味が意識化されにくいこと

 11月の訪問時において、上記1)に関わって、STEAM 教育の基盤となる教科横断型授業の内容と探究の時間として設定している推進のコアとなる時間(ダ・ビンチ)の中で取り 扱う学習活動の関係が一覧できる表が作成されていた。これを通じて、各学年で年間どのような活動が互いに行われているかを、それぞれの取組の関係づけを省察できる道具が整ってきている姿が見られた。

 そして教科横断型授業の内容も参加教科が増え、さらに豊かにになってきており、取組のパフォーマンス評価に関しても授業研究を通じて検討していく姿が形作られてきていた。

2.本期間の取り組み・成果の評価

 この間、多くの取組が行われていたが、訪問時に参観できたSkypeを用いた英語コミュニケーションの成果を考えてみる。

 左の写真にあるように、7月に初めてskypeを用いた英語コミュニケーションに臨んだ1年生は、順番に一人一人が話す機会を作り、グループでそれを支え、またその姿をモニターし互いに活かしていこうとしている姿が見られた。

 この授業参観後、本時の授業から共通に学べた点の整理、今後の学びの方針についての確認に関わって、生徒間で意見交換が行われていた。

 11月の訪問時には、左下図にあるように、伝えたい内容をどのようにしたら相手にわかりやすく伝えることができるかについて、検討してきた姿が見られた。例えば、テレビ会議の機能を生かし、話の内容をより説得的に相手に伝えるために媒介物(話の内容とともにそれを通じて相互に質疑応答や深堀できるように)を用いてコミュニケーションを楽しんでいる姿が散見された。

 また先輩の姿を見る、アドバイスを得る取り組みも組み込んでおり、1年生と昨年から経験している2年生が、一緒に取り組む時間を設定している工夫も見られた。

 このような異学年による共通ツールを活用した学習活動は、一歩先の姿や自身の経験をしたの学年に語るメタ認知の学びを推進する効果も見られ、パフォーマンス評価や取り組みの評価をしていくうえでも意味ある取り組みと感じられた。

3.今後の期待

 前回も述べたが、京都府立南陽高等学校附属中学校の取り組みは、他の学校にはなかなかまだ見られないSTEAMへの挑戦とそれに至るための理論的裏付け、具体的な手続きを進めてきた歩みがある。学校創設2年目の取り組みであるが、生徒と教員が一緒に作り出していく雰囲気が感じられる。これを継続的に進め、それらを学校全体の文化,財産としていくために、実践の成果の視覚化し、その成果を導いた各取り組みの評価を生徒、教員間、学外関係者とひとつずつ見つめ、積み上げ,より目指している姿に近づいていって欲しい。

(奈良教育大学 小柳和喜雄)

本期間(1月~3月)の取り組み内容

  • ・1年生第3回のSkypeセッションの実施(2月19日)
  • ・全国研究発表大会の実施(2月21日)
  • ・数学教育ソフト(geogebra)を活用した数学の授業の実施(2月21日)
  • ・国語、理科のコラボ授業の実施(2月21日)
  • ・2年生第2回のSkypeセッションの実施(2月21日)
  • ・ダ・ヴィンチ代表生徒による成果発表の実施(2月21日)

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・STEAM教育の枠組みの中に、学校設定科目や教科間連携授業がどのように位置づけられているかを視覚化すること。
    ⇒今後、実践発表の機会を通じて外部の人が理解しやすいように工夫に務める。
  • ・ダ・ヴィンチの研究では、実験結果の発表に加え、結果に対する生徒自身の考えや感想を、そこに至る思考プロセスと共にストーリー化すること。
    ⇒研究課題を立てたきっかけや実験経過の報告をまじえて、より聞き手に伝わりやすい工夫をするような指導を心がける。

本期間の裏話

  • ・2年生のダ・ヴィンチでの成果発表を公開したところ、多くの教育関係者から高い評価を得ることができた。

本期間の成果

  • ・ダ・ヴィンチにおける研究に個性的な視点、新規性が見られるようになってきたことで、下級生に好影響を及ぼしている。
  • ・『学びのアトリエ』の時間を活用し、個別的に研究に取り組む生徒が増えてきた。

今後の課題

  • ・研究助成最終年度を迎え、これまでに取り組んできた研究の成果と課題に向き合い、新たな教科間連携授業の開拓や、STEAM教育を実践する他校との連携を模索する。

今後の計画

  • ・2020年後半から2021年初頭にかけて、最終報告会(全国大会)を実施する。
  • ・助成期間終了後の研究体制の継続的に刷新する。

1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い

 本校は、開校当初から、日本国内での実践例が少ないSTEAM教育を柱とし、「新しい価値を創造する人材育成に取り組む学校」として、中学校関係者に留まらず、高等教育機関の専門家からも注目されてきた。一例として、2019年6月に、香港で開催されたアジア初のSTEAM教育の国際学会に招かれ、数学科と英語科教員が協力して実践発表を行う機会を得ることができた。(香港国内の暴動が先鋭化する直前だったことは幸いであった)

 このことは、参加した教員だけでなく、教職員、生徒、保護者にとって本校の教育の方向性を明確なものとする点において、重要な位置づけとなった。

 それと前後する形で、奈良県、京都府、福井県、石川県、愛媛県、長崎県の各地で開催された研究会や学会で、国語科、地歴・公民科、数学科、理科、保健体育科、英語科教員が実践発表を行った。また、本府教育委員会や地元中学校、府外の教育関係者に授業を公開し、多くのフィードバックを得ることができた。

成果・感想

 ICT環境が先進化するにつれて学校教育の枠組みが変化し、生徒に対する学習機会の提供方法が個別最適化を迎える時代である。グローバル、サイエンス、フィロソフィーの3つを柱とした、「新しい価値観を創造する人材育成」という本校が掲げる教育理念は、そうした時代を先取りするものと言える。その3本柱を包含するのがSTEAM教育という位置づけで教育活動を展開し、開校から2年目を終えようとしている。生徒の知的好奇心の高さに触れることで、附属中学校の教育に携わる教職員間に、高校の授業を再構築しようとする機運が生まれ始めていることは、附属中学校が併設された相乗効果と考える。

次年度への思い

 2018年度の一般の部における研究助成から通算して、来年度は3年間の集大成の年となる。私たちは研究の裾野を広げるため、1年目から研究組織の増員と刷新を行ってきた。

 2020年度は附属中学校の完成年度となるが、1期生が高校課程に進学する2021年度からは、中高一貫教育の6年間を見通したSTEAM教育を、高校から入学する生徒に対して、3年間という時間の中でどのように位置づけていくかが問われる。中高一貫教育を理念先行、総論賛成という形に終わらせないためには、全教職員の理解と協力が必要不可欠である。今後は教職員の同僚性をいかに高めるかが課題である。

 また、世界情勢の変革スピードが加速する時代においては、教職員集団が高い教育理念を持ち、時代の変化を的確に捉え、学力の再定義が議論できる環境整備が必要となる。その議論の足がかりとなるよう、附属中学校での教育実践をまとめたい。そして、高校さらには大学卒業後の人生設計に資するよう、STEAM教育実践が、科学リテラシーや哲学を学ぶ機会の提供と、多民族・多言語社会における共生と共感を生み出す推進力の役割を担う活動となることを目指す。

〔2020年2月21日(金)に実施した研究発表大会から〕

国語・理科連携授業【生物を「仲間」で分けるグループ活動(左)、抽象化の説明(右)】

 この日の授業は、抽象化が個々人の生活体験や文化の違いによって変化することを理解し、自分自身の言語生活を振り返るとともに、「やばい」という言葉について考えを深めることを目標に行った。当日は、いくつかの語を「やばい」に置き換えたスイミーの冒頭を読むことで、「やばい」の便利さと曖昧さを実感させた。具体や抽象といったことばの理解ができたことや自分自身の言語生活について振り返りができた点は評価できる。その一方で、参加者のアンケートにも見られるように、理科の要素が薄まってしまったという印象は拭えない。2時間連続であれば、具体化・抽象化ということばをもう一度理科に戻って確認することもできたと考える。今回の反省を踏まえ、次回の実践を計画したい。

スイミー冒頭

広い海のどこかに、小さな魚のきょうだいたちが、たのしくくらしていた。みんな赤いのに、一ぴきだけは、からす貝よりもまっくろ。およぐのは、だれよりもやばかった(はやかった)。名前は、スイミー。ある日、やばい(おそろしい)まぐろが、おなかをすかせて、やばい(すごい)はやさでミサイルみたいにつっこんできた。一口で、まぐろは、小さな赤い魚たちを、一ぴきのこらずのみこんだ。にげたのはスイミーだけ。

『スイミー小さなかしこいさかなのはなし』(レオ・レオニ昨 谷川俊太郎 訳、好学社)

ICTを活用した数学の授業【電子黒板で空間図形を確認している様子】

 この日の授業は、空間図形,特に立体の切断の問題は、そのイメージのしづらさから苦手とする生徒が多いため、ICTを活用することで視覚的に問題を捉えさせることである。また、切断を考えるポイントを理解することで、ICTを使わずに立体の切断を考えられることを目標として行った。

ダ・ヴィンチ【2年生代表生徒による発表(左)、1年生数学班の作品(右)】

 自由研究に取り組んだ2年生の中から、4組の代表が発表を行った。

 それぞれのテーマは、『2092年のオリンピック100m走のタイムを予想する』、『指紋について』、『聴覚障害の方に音楽を楽しんでもらう方法』、『プラスティックから海を守る』というものであった。ダ・ヴィンチではそれぞれの探究活動に対し、発表・評価をさせることで、発信力を身につけさせ、学習内容の深化と思考の整理をさせている。また、意見交流を活性化させることで、批判的思考力(critical thinking)の育成を目指している。今回の発表会でも、生徒の間で活発な質疑応答が行われた。

Skypeセッション【各自が研究テーマを発表している様子】

 「自分の英語(My English)で話すこと」―附属中学校の英語教育が目指しているのは、文法と語彙を獲得しながら、自分の考えや意見を「工夫した」表現で相手に伝えることである。この日の授業でも、各自がテーマを設定し、1人5分間でフィリピンの英会話講師とやり取りを行った。昨年実施した3回のセッションの後、外国語不安に関するアンケートを行った。第2回目で数値が上昇した項目もあるものの、第3回目では、概ねどの項目でも数値が改善(=数値が下降)した。このことから、Skypeセッションを体験することで、「伝えたい内容」に「伝わる工夫」をプラスすれば、コミュニケーションを図れることを実感した生徒が多いのではないかと言える。また、日本語メモをもとにその場で英語を考えながら発表している生徒や、写真を見せながら話す生徒が増えてきたことは、少しずつではあるが、英語を使ったやり取りの力がついてきたものと考える。

〔ダ・ヴィンチ最終講義『先人に学ぶ』より〕

【校長による講義の様子(左)、AETは毎時間参加している(右)】

【最も人気が高かった作品】

 1年間のダ・ヴィンチの最終講義では、校長が登壇。今回は、スティーブジョブズを取り上げて、文字フォントが人に与える印象の違いについて講義を行った。ジョブズがなぜコンピュータで使用されるフォントに興味を持ったかを紹介し、マトリックスを使って、さまざまな企業の社名やロゴに使われているフォントが与える印象の違いを分類した。講義の後、学んだことをもとに、生徒はグループ別に『上を向いて歩こう』のCDジャケットを作成した。フォントの組み合わせや文字の配置を工夫して、個性的なジャケットが仕上がった。

アドバイザーコメント
小柳和喜雄先生
関西大学 総合情報学部・大学院総合情報学研究科
教授 小柳 和喜雄 先生

1.研究テーマ・取り組みについて

 2月21日に、1年目の研究成果の発表が行われた。その際、日本全国からSTEAM教育やICT活用の探究的な学習に関心を持つ人々が参加し、その発表から学び合う姿が見られ た。そこでは、STEAM教育に取り組む背景、それをどのように進めているかの詳細な説明 が学校からなされていた。STEAM教育の基盤となる教科横断型授業の内容と探究の時間 のコアとなる時間(ダ・ビンチ)の中で取り扱う学習活動が整ってきている姿が見られた。

2.本期間の取り組み・成果の評価

 この間も、多くの取組が行われ ていた。まず教科学習における ICTを活用した探究的な学習が、様々な場面で工夫されていることが公開授業を通じて示されていた。右の写真に見られるように、たとえば数学では、立体の断面の形状を考える授業の中で、立体を2次元で表現した図でまず考えさせる。そして各自、各グループの予想を、ICTを用いた3次元表現の図の中で確認する。その理由や見方を学んだ(見当を付けた)後、あらためて、2次元で表現された別の立体について考えるといった思考の往復活動が行われていた。そこでのICTの活用は「思考を深める」使い方であり、本校が目指しているSTEAM教育にもつながる、生徒が探究する時間の確保(テクノロジを活かして考える経験の積み重ね)が授業の中で保証されていた。

 次に探究の時間のコアとなる時間(ダ・ビンチ)の実践と関わって、これまでの取組について、展示コーナーが用意されていた。生徒が問いを持ち、それを探究していくプロセスの支援の様子がよくわかる内容であった(右図)。

 公開されたダ・ビンチの実践では、現今の環境問題に切り込むテーマに挑むグループや、中学生の柔軟な発想によって選ばれた興味深いテーマに基づく研究成果発表がICT を用いながらわかりやすく行われていた。興味深いのは質疑応答の活発さであり、とくに生徒による質問の質の高さには目を引くものがあった。生徒に探究の基盤となる、問いや探究プロセスが論理的に文脈的に妥当であるのかを見つめる目が育ってきているのが感じられた。

 また、STEAM 教育の実践も授業公開されていた。具体的な物事の共通性をとらえていくために分類を行うが、その際、カテゴリー化、命名、抽象化が行われる。しかしそれは個々人の生活体験や文化の違いによって変化する。そのことの実感を伴う理解に迫るために、自分自身の言語生活を振り返ることを経験させる実践であった。当日は、「やばい」という言葉に着目し、その多義性を、誰もが 小学校で出会ってきたスイミーの冒頭にあてはめ、この「やばい」という言葉の便利さと、一方で曖昧さを実感させる取り組みであった。生物と国語の学びをつなげ考えるSTEAM教育の実践の興味深いアイディアが出されていた。またこの授業 を通じて、STEAM教育の実践研究をどのような視点でとらえていくかのヒントも与えてくれていた。

 最後に、7月と11月の訪問時に参観できたSkypeを用いた英語コミュニケーションの取組もさらに充実、洗練化されていることが感じられた。

写真にあるように、各自の英語コミュニケーションの様子を、タブレットを用いて映像で撮影し、それをグループで振りかえる時間が授業の中に組み込まれていた。そして、この授業参観後、本時の授業から共通に学べた点の整理、今後の学びの方針についての確認に関わって、生徒間で意見交換が行われていた。

このようにICTを学習活動におけるコミュニケーションツールとして活用することに加えて、省察のツールとして、自身の姿を見て互いにそれを振り返り、一歩先の姿を語り合うメタ認知の学びを推進する取組も見られた。パフォーマンス評価や取り組みの評価をしていくうえでも意味ある取り組みと感じられた。

3.今後の期待

 前回も述べたが、京都府立南陽高等学校附属中学校の取り組みは、他の学校にはなかなか

 まだ見られない STEAM 教育への挑戦とそれに至るための理論的裏付け、具体的な手続きを進めてきた歩みがある。学校創設2年目の取り組みであるが、生徒と教員が一緒に作り出していく文化づくりの雰囲気が感じられる。STEAM教育の基盤となる教科横断型授業の内容と探究の時間のコアとなる時間(ダ・ビンチ)の中で取り扱う学習活動の関係がリスト化された表は2019年11月時点ですでに作成されていた。これを通じて、各学年で年間どのような活動が互いに行われているかを、それぞれの取組の関係づけを省察できる道具が整ってきている姿が見られた。

 しかしその後、本研究発表で見られたが、教科横断型授業の内容も参加教科が増え、さらに豊かにになってきており、また学校裁量の時間を用いた、探究的な学習のコアとなる時間(ダ・ビンチ)とそれと関連する取組の関係が、より明確になってくるに従って、各取組の関係が一目でわかる取組の概念図の作成などが必要ではないかという声きも出てきていた。次年度の取組に、それが反映されてくることが期待される。

(関西大学 小柳和喜雄)

本期間(4月~7月)の取り組み内容

  • ・ダ・ヴィンチ(1年):
    オリエンテーション、光についての学習①、分光器の作成、万華鏡製作
  • ・ダ・ヴィンチ(2年):
    統計基礎①(グラフの種類)、②(ヒストグラム作成)、③(箱ひげ図作成)
  • ・ダ・ヴィンチ(3年)
    自由研究打ち合わせ、研究内容決定、研究計画の相談

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・STEAM教育の枠組みの中に、学校設定科目や教科間連携授業がどのように位置づけられているかを視覚化すること。
    ⇒今後、アドバイザーと相談の上、進めていく。
  • ・最終報告会の実施形態について、オンライン開催を検討すること。
    ⇒助成金を活用したZoomのアカウント購入により、全大会、分科会などの構成で実施を検討する。

本期間の裏話

  • ・3年生のダ・ヴィンチで、個性的な研究に取り組む生徒が増えてきたこと。

本期間の成果

  • ・ダ・ヴィンチにおける研究に個性的な視点、新規性が見られるようになってきたことで、下級生に好影響を及ぼしている。
  • ・『学びのアトリエ』の時間を活用し、個別的に研究に取り組む3年生が増えてきた。

今後の課題

  • ・研究助成最終年度を迎え、これまでに取り組んできた研究の成果と課題に向き合い、新たな教科間連携授業の開拓や、研究成果の全国への発信を進めること。
  • ・附属中学生が高校課程に進学する際に、3年間の取り組みをどのように活かしていくか。

今後の計画

  • ・ウェブ上での研究発表のための準備(資料や映像の製作)を加速する。
  • ・2021年に、最終報告会を実施する。

ダ・ヴィンチ学習指導案

指導者:秋田 薫、松本 夏樹、小松 彩、塚田 礼子、Kelly Jackson

1 対象 1年A組40名

2 日時 令和2年7月2日(木)第5、6校時

3 場所 111教室、112教室

4 学習内容

光をテーマとした体験学習:1)簡易分光器の作成、2)立体万華鏡の作成(本時)

5 内容について

 中学1年生を対象としたダ・ヴィンチ-1の授業では、様々な科学分野の体験を通じて、主体的な学習意欲を育ませることを目指している。本取り組みでは、工作活動を行いながら、光の性質について学ぶ。工作の説明はAETが英語で行う。なお、コロナウイルス感染拡大予防の観点から、授業は2つの教室(20名/教室)で行い、教員による作業説明をApple TVを利用して双方の教室にて共有する。

6 目標

 波の性質、可視光、光の3原色、鏡による反射について体験・理解させる。中学1年の理科には「光による現象」の単元があることを踏まえ、本授業における実体験を通じて、教科における学習の深化を図る。また、英語での作業説明を体験させることによって、コミュニケーション手段としての英語の必要性を感じさせる。

7 評価規準

(1) 光の性質について、理解できたか。

(2) 図面や説明を頼りに、主体的に行動できたか。

(3) 英語での作業説明を理解しようとする姿勢が見受けられたか。

8 本時の展開

授業後、生徒に以下の4項目について、アンケートを実施した。

  1. (1)Ms. Jacksonの英語はどの程度聞き取れましたか。
  2. (2)「光」について、①新たに学んだこと、②興味を持ったことはありますか。
  3. (3)万華鏡製作は難しかったですか。
  4. (4)その他

生徒アンケートより代表的な声を紹介する。( )内の数字は人数。

(1)

  • ・ほとんど聞き取れなかった(8)
  • ・だいたいわかった(4)
  • ・裏面が青ではなく白というのは聞き取れた(1)
  • ・スライドがあったおかげで、聞き取れない部分も理解はできた(10)
  • ・黒と透明のテープの指示のところがわからなかった(5)

(2)

  • ①・光は波の性質を持っているということ(15)
  •  ・光はさまざまな色が混ざっているということ(5)
  •  ・光にはさまざまにお世話になっているということ
  •  ・光の波の大きさの違いで人が感じる明るさが異なること
  • ②・光の波の性質を使って何か作ってみたい
  •  ・違う模様を作ってみたい(4)
  •  ・鏡の裏に切り込みをいれて1/4の円の模様になったこと
  •  ・人に見えない光はどんなところにあるのか

(3)

  • ・簡単だった(15)
  • ・ナイフで切り込みを入れるのが難しかった(10)
  • ・スライドが無ければとても難しいと思った(3)
  • ・周りの人と教え合いをして、英語を聞き取れた

(4)

  • ・オンライン教材を積極的に使って、聞き取りの力を伸ばしたい
  • ・カメラが内側なので、画面に映った説明図が左右逆で難しかった
  • ・知っている単語を組み合わせたら、先生の英語の内容がイメージできた

授業の振り返り(アンケート結果を踏まえて)

<英語での説明について>

  • ・英語での説明を十分に聞き取れた生徒はわずかであったと思われるが、説明用のスライドなどを活用しつつ、想像力を高めながら取り組めたのではないかと思う。

<理科的な内容について>

  • ・作図や工作作業(簡易分光器と3D万華鏡の作成)を行わせることによって、作品(もの)を作る楽しさを味わってもらえたと思う。
  • ・授業のまとめとして、光について学習を深める上でのキーワード(専門用語)をいくつか示したが、これらの用語について、さらに自主的に学習を行った生徒がどの程度いるのか、について確認してみたい。

<全体を通して>

  • ・今回、Apple TV等を利用して、作業説明を行う主担当教員の画像・音声を2教室で共有するかたちで授業を実施した。主担当教員が不在の教室では、音声が聞き取りづらい、画像が不鮮明など、今後に向けての改善点も見いだすことができた。

【作業中の様子】光を遮断するための黒色のテープを貼っている様子

【隣の教室の指示をApple TVでライブ中継】TVの左右逆を解消するため、電子黒板にPCの画面を投影

【指示を出しているAET】Apple TVでは音声が届かないため、ワイヤレスマイクを使用

アドバイザーコメント
小柳和喜雄先生
関西大学 総合情報学部・大学院総合情報学研究科
教授 小柳 和喜雄 先生

1.研究テーマ・取り組みについて

 多くの学校が似た状況にあったように、コロナ禍の中で、対面の授業は6月まで制限され、そこではSTEAM教育に関する取り組みも通常とは異なる対面的な学びの環境は制限された中で行われてきたということであった。そのような中で、「3年生のダ・ヴィンチで、個性的な研究に取り組む生徒が増えてきたこと」「ダ・ヴィンチにおける研究に個性的な視点、新規性が見られるようになってきたことで、下級生に好影響を及ぼしている」「『学びのアトリエ』の時間を活用し、個別的に研究に取り組む3年生が増えてきた」というのは、良いことと思われた。本研究は、最初の研究デザインから、教室環境と自習環境の両方において、オンラインの活用を積極的に取り入れたものであった。そのことが、すでに学習経験を積み上げてきた3年生に功を奏しているのかもしれない。

 上記のような学びの姿が3年生に現れた理由、この間の指導の仕掛けなどが明らかにされると、探究的な学びや表現的な活動に、何が必要か、通常下では見えなかったことも見えてくる気がする。たとえば、学習活動へのオンラインの活用と関わる情報活用能力として効果的なコミュニケーションの取り方が理解できていること、これまでの学びの経験や知識を関連づけ、論理的・批判的な思考を機能させるためにはある程度まとまった考え振り返る時間の確保が必要であること、学習者の興味関心を引き出し、探求していく姿勢やデザイン思考を機能させていくために、情報の収集と整理の時間を確保すること、それらを促していくために、個別最適な対応として意味や意義を持つ指導や取組が存在すること、なども明らかにされてくるかもしれないと思われた。

2.本期間の取り組み・成果の評価

 コロナ禍で、授業の公開などが難しい中、7月2日に、中学1年生を対象としたダ・ヴィンチ-1の授業を参観する機会を得た。

 内容としては、中学1年の理科には「光による現象」の単元があり、そこでの「波の性質」「可視光」「光の3原色」「鏡による反射」の学びをものづくりの体験を通して、教科における学習の深化を図る内容であった。また、4月から対面授業の機会が制限されていたこともあり、通例では経験できてきた、本STEAM教育で重要な位置を占める、コミュニケーション手段としての英語と触れる機会を保証した内容であった。

 写真にもあるように、2つの教室に分かれ(20名/教室)、教員による説明をApple TVを利用して双方の教室にて共有する方法で行われていた。

 様々な幾何学的な光の模様が見える立体万華鏡(完成品)を例示しながら、なぜこのように見えるのか、実際に作成を通じてそのメカニズムを既習の知識なども活用しながら考えること伝え、授業がスタートされた。

 直線を利用して曲線が描けることの体験(今後中等教育後期で遭遇する数学の微分の学習の前体験)、描いた模様が鏡面に反射した時の像の予想(既習の光による現象で学んだことの想起)。英語で作業説明を理解しながら(聴覚からの情報と画面提示による視覚情報をつないで理解)、6枚のミラーシートを正しく組み合わせ、正6面体を完成させる(ものづくり)。作成した立体万華鏡を通して、光の性質を原体験させる(自分ごとの学び)。偏光板、簡易分光器を例示して説明し、幾何学模様が立体的な像として現れる理由を、各自で考察させ、理解を深めていく機会を作る、などが展開された。

 このようにICTをリアルタイムオンライン授業のように使い、通常であれば4月から経験してきたSTEAM教育の一連の取り組みとしての英語コミュニケーションについて,その入り口の機会として英語による作業説明の理解体験をさせる。そして、ある程度螺旋的に積み上げていく理数の学びを,モノづくりと連動させ、日常経験ともつなげさせながら理解を深める指導方法(深堀り螺旋的な指導)の工夫などが行われていた。このような環境下だからこそ行われた授業を通じて、今後様々な場面で生かしていける様々なアイディアを、STEAM教育の実践的知見として積み上げている姿も垣間見られた。

3.今後の期待

 最初にも述べたが、STEAM教育として、生徒の自主的、探究的な学びを促していく上で、これまでの対面での学びの機会に補助的に用いられてきたオンラインの活用のうち、どのようなオンラインの学習経験が意味や意義を持っているのか、3年生などに経験を尋ねながら有効な学習経験の内容や指導内容などを明らかにすること。

 前回も述べたが、京都府立南陽高等学校附属中学校の取り組みは、他の学校にはなかなかまだ見られないSTEAM教育への挑戦とそれに至るための理論的裏付け、具体的な手続きを進めてきた歩みがある。教科横断型授業の内容も参加教科が増え、さらに豊かになってきており、また学校裁量の時間を用いた、探究的な学習のコアとなる時間(ダ・ヴィンチ)とそれと関連する取組の関係が、より明確になってくるに従って、各取組の関係が一目でわかる取組の概念図の作成などが期待される。

(関西大学 小柳和喜雄)

成果目標

  • ・学外の教育機関(インターナショナルスクール等)との連携事業を実施するため、連携先との打ち合わせをスタートさせる。
    ⇒まずは、ESSの活動に組み込んだLanguage Exchangeの形で進める予定である。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

  • ・『ダ・ヴィンチ』(1年):
     エッグドロップ大会(1、2年対抗戦)、Skype交流に向けての研究活動開始
  • ・『ダ・ヴィンチ』(2年):
     エッグドロップ大会(選抜チームのみ出場)、2・3年生合同研究活動開始
  • ・『ダ・ヴィンチ』(3年)
     自由研究活動開始、発表会(in English)に向けての準備を開始
  • ・『学びのアトリエ』において、俳句教室、プログラミング教室、プレゼンテーション大会(「南陽中生の叫び」)、などの新企画が始まった
  • ・国語と音楽のコラボ授業(2年)
  • ・ESSとインターナショナルスクール(神戸市)との交流が始まった

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・STEAM教育の枠組みの中に、学校設定科目や教科間連携授業がどのように位置づけられているかを視覚化すること
    ⇒ 現在製作中であり、2月の研究発表会(オンライン開催)での実践発表及び報告書の中で記載できるように進捗させる
  • ・最終報告会の実施形態について、オンライン開催が決定
    ⇒助成金を活用したZoomのアカウント購入により、実施に向けて校内体制の役割分担を始め、各担当が発表準備を開始した

本期間の裏話

  • ・3年生との合同研究がスタートしたことで、2年生の研究マインドが刺激されていること

本期間の成果

  • ・『学びのアトリエ』で開催される新企画に、1年生が積極的に参加していること
  • ・国語と音楽のコラボ授業において、短歌に旋律をつける取組が始まったと同時に、英語の授業では、短歌の英訳を行っている。短歌、英語短歌、旋律全てがオリジナル作品であり、これらを「作品」として扱いオンライン展示を実現する準備が整いつつある

今後の課題

  • ・研究助成最終年度を迎え、これまでに取り組んできた研究の成果と課題に向き合い、新たな教科間連携授業の開拓や、研究成果の全国への発信を進めること
  • ・附属中学校の完成年度となり、『ダ・ヴィンチ』や『学びのアトリエ』の取り組みに関する成果と課題を整理し、高校との接続、新たな3年間を見通した授業計画を行うこと

今後の計画

  • ・ウェブ上での研究発表のための準備(申し込みサイト開設、映像の製作)が始まった
  • ・2021年2月12日(金)に、最終報告会をウェブ開催する

音楽学習指導案

1 指導者 岡本 一生(音楽科)、河合 奈穂、角田 早希(共に国語科)

2 対象 2年A組40名

3 日時 令和2年11月26日(木)第6校時

4 場所 音楽教室

5 学習内容 創作 自作の詩(短歌)に旋律をつけてみよう

6 題材について

<学習指導要領との関わり>

第2学年

A 表現 (3)イ 表現したいイメージをもち、音素材の特長を生かし、反復、変化、

 対象などの構成や全体のまとまりを工夫しながら音楽を作ること。

〔共通事項〕 ア リズム、構成、テクスチュア

7 題材観

 音楽科における創作活動では、生徒自身が感じ取る対象や思考・判断していく過程を明確にして、〔共通事項〕とのかかわりの中で、学習内容を厳選し指導と評価の一体化を図ることが重要である。

 本題材では、感じ取る対象を言葉のもつリズムとする。これを手掛かりにしながら反復、変化、対照などの構成を生かし、全体のまとまりを工夫した旋律を創作し、表現力を高めることを目指している。さらに、主体的に創作したり協力して工夫したりしながら、「考える→試す→考える→…」といった思考・判断する学習の充実を図っていく。

 生徒たちが日頃何気なく使っている言葉からも、工夫次第で様々な音楽をつくることができる。自分が作った詩を活用することで、身構えることなく創作活動に取り組むことができると考える。また、創作のルールの中で様々な音楽表現を工夫することにより、生徒たちは新たな音楽を生み出す楽しさや喜びを見出すと考える。

 学習を進めるにあたっては、音や音楽を媒体とした生徒同士のかかわりが重要であると考える。学校教育における音楽学習活動では、自分とかかわった音や音楽に対する思いや考え、自分にとっての音楽的価値を言葉や音によるコミュニケーションを通して他者に伝えたり、共有したりすることが重要である。音によるコミュニケーションとは、自分の思いや意図を音で他者に伝えること、他者の思いや意図を、音を通して感じ取ることである。それらを支えるものとして言語活動があるととらえている。コミュニケーションの視点からも、言語活動を支えとしながら思いや意図を、音楽を通して相互に伝え合う場面を積極的に設定したい。

8 題材の目標

 詩や言葉がもつリズムやイントネーションを生かし、反復、変化などの構成や全体のまとまりを工夫しながら旋律を創作する。

9 題材の評価規準

音楽への関心・意欲・態度 音楽表現の創意工夫 音楽表現の技能
言葉のもつリズムの特徴、反復、変化などの構成や全体のまとまりに関心をもち、それらを生かして音楽表現を工夫しながら旋律をつくる学習に主体的に取り組もうとしている。 言葉のもつリズムを知覚し、その働きが生み出す特質や雰囲気を感受しながら、音楽で表現したいイメージをもち、音素材の特徴を生かし、反復、変化などの構成や全体のまとまりを工夫し、どのように音楽を創るかについて思いや意図をもっている。 言葉のもつリズム、反復、変化などの構成や全体のまとまりを生かした音楽表現をするために必要なリズムの組み合わせ方を身に付けて、音楽表現を披露することができる。

10 本時の学習(全4時間中3時限目)

(1)目標:詩や言葉のリズムを着目し旋律を創作する。

(2)展開

学習内容と学習活動 ○教師のかかわり◆評価規準<評価方法>
  1. 1 本時の学習の見通しをもつ。
    • ・学習課題を理解する。
    • ・「コアのメロディ」を発展させてゆく。
    • ・リコーダーを用いて創作した旋律を確認、修正を加えてゆく。
  2. 2 複数の作品を聴いて考える。
    • ・互いの作品を聴き合い、共通点や異なる点等について話し合う。
  3. 3 自分の作品について振り返りをする。
    • ・イメージあった工夫をしているか。
    • ・意図を持って創作できているか。
  4. 4 学習の振り返りをする。
    〔リズム、テクスチュア、構成〕
  • ○個々の「コアのメロディ」確認し、構成や全体のまとまりを工夫した旋律をつくることを伝える。
  • ○旋律の形の例を提示し、音楽の構造を的確にとらえられるようにする。
  • ○リコーダーで創作した旋律を確認し試しながら考えるよう助言する。
  • ○机間指導をし、イメージとかかわらせて反復や変化などの構成について考えられているか確認させる。
  • ○イメージから重ね方を考えることが難しい生徒は、掲示した例の中から自分のイメージに近いものを選ぶように助言する。
  • ○2~3人の生徒の作品を発表する。
  • ○構成について、イメージを根拠に説明するよう助言する。
  • ○自分の作品について、課題や改善の見通しを持てるよう助言する。
  • ○視点を絞って友達の作品を聴き、意見を交換し合うよう助言する。

<発表を聴く視点>
①どのような構成の工夫をしているか
②自分にはない工夫は何か。

授業後、生徒に以下の項目について、アンケートを実施した。

(1)自分の詩に合わせて音楽を作ることは

① 1 やさしかった  2 難しかった
② 1 おもしろかった  2 おもしろくなかった

(2)自分の詩に合わせた曲をイメージすることは

① 1 やさしかった  2 難しかった
② 1 おもしろかった  2 おもしろくなかった

(3)自分の詩に合わせた曲が

① 1 ある程度作ることができている  2 納得できるものは作れていない

(4)(3)の問で②を選んだ人は、どうすれば良いと思いますか。記述してください。

(5)今後、どんなものに曲をつけてみるとおもしろいと思いますか。記述してください。

(6)その他、活動を通じて感じたことを自由に記述してください。

生徒アンケートより代表的な声を紹介する。(1)~(3)の( )内の数字は人数。

(1)①1(4) 2(35) ②1(35)2(4)

(2)①1(8) 2(31) ②1(36)2(3)

(3) 1(14)2(25)

(4)

  • ・先生や友だちとの協働があれば良いのではないか
  • ・自分の詩の雰囲気を想像する
  • ・言葉のイントネーションや抑揚を考えること
  • ・ルールにとらわれすぎない

(5)

  • ・景色や写真
  • ・自分の好きな本の文章(昔話など)
  • ・数学の公式 ⇒ 覚えやすくなるかも
  • ・生活の中で感じる音(水の音、ハイヒールの音など)や作業音、日記
  • ・名言 ⇒ 名言を発した人の気持ちや自分がどう感じたかを曲にすれば良い
          「君死にたまふことなかれ」など
  • ・自分で作ったキャラクターのイメージソング
  • ・ダンス曲 ⇒ 曲に合わせてダンスではなく、その逆だとおもしろいのでは?
  • ・歴史上の人物の気持ち(自分がこの人だったら…)

(6)

  • ・今まで、国語と英語、数学と英語などのコラボ授業を体験して、何ごとにも必ず共通点があることを改めて感じた。コラボ授業は新たなことを発見する大切な時間だと思う。
  • ・ひとりでは難しかったので、グループで取り組んでみたい。
  • ・自分だけの曲を作っている感覚はとてもおもしろかった。
  • ・詩に曲を合わせるのではなく、その反対をするのもアリかもしれない。
  • ・作曲家さんを尊敬します。
  • ・イメージに合ったような核が作れると楽しみが見えてきた。
  • ・言葉の持つ力を再認識した。
  • ・短歌に曲をつけるとどうしても演歌みたいになってしまう。5・7・5のリズムを崩すのが難しい。
  • ・始まった時はさっさと終われと思っていたが、作り始めるとしっくりくるものができるまでは終わりたくないという気持ちになった。

授業の振り返り(アンケート結果を踏まえて)

  • ・国語の授業で詠まれ、書写の時間に短冊に墨書された短歌のうち、いくつかの作品が図書館前の廊下に展示された。日常の風景や、日ごろの思いが伝わる作品が多く目を引くものが多数展示された。日本語の短歌や俳句の持つリズムとTanka poemでは作り方や基本的な作成法に違いがあり、生徒は日本語で表現したかった感情を英語で表現することの難しさを実感していたが、言語の違いは感情表現の相違に直結することから、日本語を母語としない人とのコミュニケーションの取り方を学ぶ良い機会になったと考える。
  • ・短歌に曲をつけるというコラボ授業を計画してみたが、アンケート結果から、楽しいと感じる一方で、型から抜け出すことの難しさを感じている生徒がいた。これは、これまでの日本の教育の枠組みがそのような思考にさせてきたのかもしれない。海外とのつながりを身近に感じる時代であるがゆえに、中学生のうちから「発想の転換点」を生徒自身が感じるような授業を数多く体験することで、「型から抜け出す楽しさ」を味わい、知的好奇心の向上につながるのではないかと考える。
  • ・短歌の作成のねらいは、学習指導要領 B 書くこと (2)ウ 短歌や俳句、物語を捜索するなど、感じたことや想像したことを書く活動に分類される。歌を創作する際には、題材をどう捉えるか、どのような言葉を使って描写するかなどに、書き手のものの見方や感性が表れるものである。限られた音数の中でどのように描写するかを考え、様々な言葉や工夫得することが必要となる。創作の際には「短歌を楽しむ」という単元を参考にさせた。
  • ・授業の時期
    一回目:6月上旬に課題として提出したものを共有した。その中でよくできているものを教員がまとめ、全体で共有し、どのようなところがよかったか説明した。
    二回目:11月中旬に短歌作成を課題に出す。音やリズムをつけて曲にする旨を説明し、前回の学びを生かして作成するよう指示した。

《活動の様子》

【エッグドロップコンテストより:卵が壊れていないことを喜ぶ1年生】

【エッグドロップコンテストより:3階から作品を落下させた瞬間】

【国語・音楽コラボ授業より:曲作りの講義】

【国語・音楽コラボ授業より:友人同士で音を確認し合う】

【国語・音楽コラボ授業より:楽譜に音符を書き入れているところ】

アドバイザーコメント
小柳和喜雄先生
関西大学 総合情報学部・大学院総合情報学研究科
教授 小柳 和喜雄 先生

1.はじめに

 最初の1期生が卒業するこの年に、Covid-19の影響を受け、私たちの想像を越える大変な苦労があったことは想像に難くない。しかし、南陽高等学校附属中学校の生徒たちも教員もそのコロナ禍にあっても、学校生活を楽しみ、自分たちで創り出していこうとしている雰囲気は、以前と何ら変わりはない。学校の報告に見られるように、感染予防に対して注意深い対策をとりながらも、当初目指していたことに向けて、できる取り組みを工夫して行っていることが感じられる。むしろこのような稀にみる環境下だからこそ、協力して工夫して取り組もう、自分たちで今何ができるか、一人一人が考え行動しているようにも見える。11月に学校を訪問した際上記のようなことがまず感じられた。

2.研究テーマ・取り組みについて

 本研究でユニークな取り組みである問題解決プロジェクトを組んで探究していく『ダ・ヴィンチ』時間では、探究の仕方を経験を通して学んでいく時間ととらえられる。そこにおいて、異学年で学び合っていく機会(エッグドロップ大会など)が組み込まれているため、1、2年生にとっては相互に異なる立場からの刺激し合う学びを経験できる機会となっている。1年生にとっては、先輩方の姿を見て、「なるほど」と感じ、そこで学び、目的へまた先輩へ挑んでいく。一方で2年生は、先輩としての学びの経験と誇りをもって、1年生に接していく。同じ課題を螺旋的に学ぶ経験を経る(1年生にとってはスパイラルアップ(積み上げ螺旋)、2年生にとってはスパイラルダウン(深堀螺旋))ことで、その学びに個々人、協働の学びの深まりを出していく機会となっている。また2年生と3年生の合同研究では、3年生で行う自由研究活動の基盤形成の場が用意されており、2年生にとっては3年生と一緒に研究を進める機会を得ることになり、3年生は自身の自由研究のアイディアを磨いていく場となっている。

 昨年訪問した時に、Skypeをもちいた英語の学びにおいて、経験のある2年生が1年生にアドバイスをしながら学んでいる姿に遭遇した。南陽高等学校附属中学校では、生徒たちの学びを自分事にし、探究の姿勢を他者から感じ取り、行為主体性(agency)を発揮させる仕掛けが随所に組み込まれているのが感じられる。

 また学んできたことを表現し交流する機会となっている『学びのアトリエ』においても、コロナ禍ではあったが、「俳句教室」「プログラミング教室」「プレゼンテーション大会(「南陽中生の叫び」)」、などの企画がおこなわれている。プロジェクトベースの探究の学びと各教科横断による探究の学びの成果を生かす場として、『学びのアトリエ』は位置づけられていると思われる。「俳句教室」での学びは、日本文化を学び、決まったルールのもと、意識化したこと感情として湧いてきたことを、言葉で表現することの難しさを原体験させている。ここでの学びを国語、音楽、英語の教科横断の学びと関連付け、そこから見えてくること、関連付けをして初めて実感できることを学ばせている工夫が見られる。南陽高等学校附属中学校では、ある種、表現、コミュニケーションの経験を、「関連付け」を通して「ずれ」を感じさせる中で、人間主義(ヒューマニズム)、相手に寄り添ったデザイン思考に触れさせ、研究テーマであるSTEAM教育の発想に迫ろうとしているように感じられる。

3.授業研究

 コロナ禍で、授業の公開などが難しい中、11月26日に、中学2年生を対象とした国語と音楽のコラボ授業を参観する機会を得た。詳細は、学校からの報告に学習指導案も掲載されているので、そちらに譲りたいが、詩に曲を付けていくことの面白さや難しさを生徒たちが感じ学んでいる姿から、次のようなことをあらためて考えさせられた。

 1つは、生徒の学びの姿のユニークさである。ある生徒は、一人で音を鳴らすこともなく譜面に向かってもくもくと作曲している(頭の中で作曲)。ある生徒は、音を鳴らしながらイメージを形作り、それを後から譜面に落としている。ある生徒は友達に詩を見せ、いったん書いた譜面を見せながら、談笑しながら曲を付けている。ある生徒たちは、最初から楽器で音を鳴らしながら感じたことを確かめ合いながら作曲をしている。学びのスタイルや知覚のスタイルの多様な姿はこのような少しハードルがあり、行為しながら学んでいける課題が設定されると発現し、学びに誘い(生徒は学びの世界に入っている)、その生徒の学びの姿を把握するのに有効と感じられた。

 もう1つは授業の進め方の工夫である。教員は、作曲に関してイメージを与え、語って聞かせ、やらせて見せて、それをいくつかのユニットに分けて、少しずつ導いていた。心地よいテンポで生徒もちょうどよいところで指導が入り、先に進むことができていた。このような教科横断で複合的な学びをする場合は、授業の進め方について、生徒にも見通しを持たせ、一緒にテンポよく作っていくことの教育方法的な意味を、生徒の姿を通して学ばせてもらった気がした。

4.今後の期待

 学校からの報告でも記載されているが、教科横断型授業の内容も参加教科が増え、さらに豊かになってきており、また学校裁量の時間を用いた、探究的な学習のコアとなる時間『ダ・ヴィンチ』、表現コミュニケーションと関わる『学びのアトリエ』とそれと関連する取組などが複雑に関連している。各取組の関係が一目でわかる取組の概念図の作成などが期待される。

(関西大学 小柳和喜雄)

成果目標

  • ・最終報告会(2月19日)において、2年間の活動実績を発表し、参加者からのコメントを通して、中高一貫校のカリキュラムデザイン(6ヵ年)の策定に活かす。

本期間(1月~3月)の取り組み内容

  • ・『ダ・ヴィンチ』(1年)
    英語話者に対する研究内容のプレゼンテーションの準備
  • ・『ダ・ヴィンチ』(2年)
    2・3年生合同研究活動の継続
  • ・『ダ・ヴィンチ』(3年)
    2月19日の研究発表会での発表代表者の選出、論文作成の開始
  • ・『学びのアトリエ』
    俳句教室、プログラミング教室、プレゼンテーション大会等が継続開催された。
    新企画(フォトコンテスト)がスタートした。

アドバイザーの助言と助言への対応

  • ・STEAM教育の枠組みの中に、学校設定科目や教科間連携授業がどのように位置づけられているかを視覚化すること。
    ⇒ 2月の研究会及び報告書の中で、ダ・ヴィンチと教科との関連性を視覚化した『ダ・ヴィンチキューブ』を紹介することができた。

本期間の裏話

  • ・『学びのアトリエ』で開催される新企画に、3学年とも積極的に参加していること。
  • ・校内のICTプロジェクトチームとの連携が深まり、本研究の対象授業のみならず、高校の授業でも積極的にICT教材を作成し、活用する教員が増えたこと。

本期間の成果

  • ・2月の実践発表に向けて、各担当者が積極的に準備に関わったこと。
  • ・本校として初めてのオンラインによる研究発表会が開催できたこと。
  • ・学校情報化診断システムの数値が2019年4月と比較して、格段に上昇したこと。

2年間の成果

  • ・1期生(現3年生)が3年間取り組んできた『ダ・ヴィンチ』での研究が学年進行と共に個性的かつ魅力あるものとなり、論文にまとめられたこと。
  • ・附属中学校の完成年度を迎え、中学校の運営に関わる高校教員の数が増えたこと、教科間連携授業の頻度と連携する教科の種類が増えたことが、中学生の指導に留まらず、高校生への指導法の改善(特にICT活用について)にもつながったこと。

今後の課題

  • ・2018年度の一般助成と2019年度の特別研究助成という公立校としては恵まれた環境(3年間)で構築してきたSTEAM教育の在り方を発展的に拡充し、中高一貫クラスだけでなく、高校全体のクラスにおける実践へと引き継ぐこと。
  • ・次世代の教員に「研究マインド」を引き継ぎ、公教育の発展に活かすこと。

2年間を振り返って

  • ・学校設定科目『ダ・ヴィンチ』、課外活動『学びのアトリエ』をSTEAM教育推進の柱に位置づけたことで、各教科の学習内容を有機的に結びつけることができた。
  • ・各学年とも、ダ・ヴィンチの研究内容を英語で発表する機会を設定したことで、他者に伝えることに対する意識が高まり、母語の段階から表現の工夫が見られた。
  • ・理系、文系という学問体系の区別から出発して学習を進めるのではなく、生徒・教員双方が助言や討論を重ねる中で、文理融合型学習を無意識的に推進することができた。

ダ・ヴィンチ指導案

1 指導者 秋田 薫、北山 博基、横田 美恵野、中西 紘希(理科)、矢野 兼司、本田 一真(数学)、重村 ひろみ(英語)、塩谷 浩史(地歴)

2 対象 3年A組40名

3 日時 令和2年1~3学期(授業時間:36時間)

4 場所 視聴覚室、理科実験室、図書室、プレゼンテーションルーム他

5 学習内容

  • ・2年次の夏休みの課題として、「社会に役立つ取り組み」との条件のもと、一人ひとりに研究テーマを考えさせた。その後、2〜3学期を利用して、グループでの研究活動および報告会を行った。
  • ・3年次では、2年次の活動状況を踏まえ、テーマやグループの変更なども行いながら、研究活動を継続させた。最終的に、3年次の3学期において研究成果を英語でプレゼンテーション(研究発表会)させた。
  • ・以下は、各研究グループが最終の研究発表会(令和3年2月2日実施)で発表した演題名である。

The tiles of oral presentation in Davinci-3 class

  1. 1) Escape from COVID-19 recession
  2. 2) The approach to eradicate poverty in the city
  3. 3) Protect our skin from UV-C
  4. 4) Think about the future of town popolarity*
  5. 5) Differential
  6. 6) Good design for a city to living
  7. 7) Study of mosquitos
  8. 8) How to prevent rice spoilage
  9. 9) Making environmentally friendly plastics
  10. 10) Make the most harmless pool with vinegar
  11. 11) Vibration power generation*
  12. 12) An alarm app that will definitely wake you up
  13. 13) Development of curtains*
    1. *印は、優秀発表として選ばれたグループ

      6 学習目標

      1. ① 研究内容を英語で発表すること
      2. ② 効果的な視覚資料を準備すること
      3. ③ 同学年・異学年からの質疑応答を英語で行うこと
      4. ④ 高校におけるサイエンス研究(課題研究)への基礎とすること
      5. ⑤ 研究活動の基礎的知識・技術を身につけること
      6. ⑥ 研究内容の深化を目指すこと

      7 発表内容

      1. ① 暮らしたい町の将来像の考察
      2. ② 振動発電を用いた簡易発電機の開発
      3. ③ 遮光性と通気性を兼ね備えたカーテンの開発

      8 評価基準

      1. ① 研究活動の流れ(テーマ設定、研究計画の立案、結果の解析・考察プレゼンテーション)を体験し、今後の課題を見出すことができたか。
      2. ② 活動期間中、班のメンバーと協力し合い積極的に活動に取り組めたか。
      3. ③ 実験結果の発表や質疑応答を英語で意欲的に行うことができたか。
      1. ・初年度は、各活動(高吸水性樹脂を使った製品開発、エッグドロップコンテスト、暗号解読コンテスト、万華鏡製作、統計基礎、タンポポに関する自由研究等)に対する生徒自身の評価分析のみを行った。2〜3年目にかけて、取り組み状況を教員が評価し、次年度以降の新たな活動を策定することを目的に、評価ルーブリックを作成した。(表1)
      2. 9 本時の展開(研究発表代表講評会 in English)

        10 指導の振り返り

        <評価>

        • ・研究活動の一連の流れ(テーマ立案、研究計画、データ解析、プレゼンテーション)を体験できた。
        • ・英語での研究発表・質疑応答に物怖じせず、取り組む姿勢を育むことができた。

        <身についた力>

        • ・研究を行う上での基礎技術・知識、仲間との協調性、質疑応答およびプレゼンテーション能力

        <生徒の感想>

        • ・英語でプレゼンテーションするための語彙力が不足していることがよくわかった。
        • ・研究テーマを設定するのに、良いアイデアがなかなか見つけられなかった。
        • ・研究を深めるために、もっと時間がほしい。
        • ・相手に伝わりやすい英語の表現を選択するのが難しかった。
アドバイザーコメント
小柳和喜雄先生
関西大学 総合情報学部・大学院総合情報学研究科
教授 小柳 和喜雄 先生

1.はじめに

 完成年度向かえたこの年に、Covid-19の影響を受け、大変な苦労があったことは想像に難くない。しかし、「1 期生(現 3 年生)が 3 年間取り組んできた『ダ・ヴィンチ』での研究が学年進行と共に個性的かつ魅力あるものとなり、論文にまとめられたこと」「附属中学校の完成年度を迎え、中学校の運営に関わる高校教員の数が増えたこと」「教科間連携授業の頻度と連携する教科の種類が増えたこと」「高校生への指導法の改善(特に ICT 活用について)にもつながったこと」など、学校からの報告に見られるように、この間、今までの取り組みの成果が結実されてきたことが伝わってくる。

2.研究テーマ・取り組みについて

 南陽高等学校附属中学校のSTEAM教育を柱とした学習活動は、教科学習で考えてきたことを日常とつなげ、現時の課題や未来に求められる事象に向けて自身の問いを意識化させる(「社会に役立つ取り組み」の意識化)。そして様々な人とのコミュニケーションや学びの経験の「関連付け、探究、練り上げ」(2〜3学期を利用して、グループでの研究活動および報告会の設定)を通して、研究テーマであるSTEAM教育の発想にせまる。また自身の発表をより表現・コミュニケーションの視点から見つめる工夫として、英語による発表を位置づける工夫がなされている(研究成果を英語でプレゼンテーション)。

 この1月から3月の報告に成果は結実されているが、STEAM教育の学習活動をPBLでこれまでどのようにすすめてきたかに目を向けると、次のような工夫が見られる。

 まず図1でいえば、教科横断的な学習と『ダ・ヴィンチ』『学びのアトリエ』を関係づける取り組みが積み上げられてきたこと(Ⅲ・ⅣとⅠ・Ⅱの関係づけ)。これは探究関心の喚起を行う工夫として意味を持ってきたと考えられる。次に教科の学習を『ダ・ヴィンチ』とつなげる工夫により、学習の理解面、つまり深い理解の下支え(ⅠとⅣの関係づけ)が進められてきたこと。さらに、「社会に役立つ取り組み」の設定から(ⅡとⅢの関係づけ)、教科横断的な学びと『ダ・ヴィンチ』を連動させ、探究スキルを螺旋的ルーティン的に育成するように努めてきた工夫が読み取れる。そして各教科の学びと教科を越えた探究的な表現のおもしろさの往復運動(ⅡとⅣの関係づけ)を、英語でのプレゼンテーションを組み込むことで促進していると読み取れる。またPBLによる探究的な学びをSTEAM教育で進めていく際にICTの活用を随所に組み込み、情報活用能力を探究的な学びに活かしている工夫も読み取れた。

図1 STEAM実践の分析枠

 以上のような取り組みの工夫は、繰り返すと、1)生徒が自分の身の回りで意識していないこと、2)生活やその後の生き方に影響を与える喜び、希望、実行する能力、意志を育てようとしていること。そして3)問いを通じて、周りの世界に対して探究的な研究アプローチを個人又チームで追体験しながら積極的に関わっていくことを重要な点としておさえようとしていることが読み取れる。生徒が責任ある決定と選択を自ら行い、行動することに関心を向ける取り組みも入れ込み、自身でテーマを決めて進める個人研究、チーム研究の経験をさせているといえる。

 カリキュラム編成の視点で言えば、あるテーマの選択により教科横断的な内容の関連性から進める学習活動のデザイン(Cross- or multidisciplinary )、探究的に学ぶ方法、そして自己調整をしながら学ぶスキルを身につける機会を作って行くことと関わって教科横断的な学習活動のデザインする(Interdisciplinary)、さらに学際的に各教科の学びをつなげていかないと解決できない大きな問いへの誘い(Transdisciplinary)等が、垣間見られた。

3.成果を振り返って

 2月の成果発表会の姿から、研究主任、そして研究を進めてきたチームは、各教員がこれまでの取り組みを振り返り、教科横断の学習活動のデザイン、コアとなる時間(『ダ・ヴィンチ』『学びのアトリエ』)の学習活動のデザインを通して、その実践のイメージやコンセプトを共有しようとしてきたことが読み取れた。その成果の1つが、キューブモデルと思われた。また、探究的な学びの学習の成果、身につけた力を振りかえるため、ルーブリックの開発(ダ・ヴィンチ 評価ルーブリック)も行われ、その運用が行われたことは、今年で完成年度である点からも意味を持っていると思われた。これらが今までの取り組みの成果を受けたこの期間の成果と読み取れた。

4.今後の期待

 今期間の成果のまとめを見ると、後期課程の高校での探究的な学びにつながるデザインの手がかりが垣間見られる。中高一貫校のカリキュラムデザイン(6ヵ年)の策定に活かしていかれることが期待される。

(関西大学 小柳和喜雄)