学校法人日本福祉大学付属高等学校

第50回特別研究指定校

研究課題

面で取り組む国際探究学習モデルの構築
~つながり・葛藤で育てる国際化、Resilientなグローバル人材の育成~

2025年度04-07月期(最新活動報告)

最新活動報告
昨年度の教員研修では、アドバイザーの岸先生の指導のもと、コラージュを用いた......

アドバイザーコメント

岸 磨貴子 先生
本期間における日本福祉大学附属高校の国際探究も2年目となりました。この期間の......

学校法人日本福祉大学付属高等学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 愛知県 学校法人日本福祉大学付属高等学校
アドバイザー 岸 磨貴子 明治大学 教授
研究テーマ 面で取り組む国際探究学習モデルの構築
~つながり・葛藤で育てる国際化、Resilientなグローバル人材の育成~
目的 過去2年間の実践を基盤に、互恵関係を軸とした協働のためのプログラムを開発する。具体的には、「教え合い」の関係性を通じて共に学び、互恵関係で「相手と関われるようになる」学習環境を作り出す。批判的思考を促進し、「相手の視点から理解する」能力を持つグローバル人材を育成するための交流・授業モデルをデザインし、連携校と共に広く実践する。プログラム全体や生徒の成長過程を質的に評価する。
現状と課題 学びを深化させるための『国際塾』の講師との日程調整、現地教員との交流、授業、そして教材の作成についてのイメージ共有を進めている。今年度からは、横への広がりを意識しつつ、国内3校を加えて連携し、実践を進めていこうと考えているが、生徒主体のアクションプランの共有、教員間の実践の共有をどのようにして展開し、積み上げていくか、ICTプラットフォームの構築に苦慮している。
学校情報化の現状 校内無線LAN、電子黒板、1人1台端末(Chromebook)等、ICT機器のハード面は充実し、教員の活用頻度も増加し、年度を重ねるごとに学校情報化は高まりつつある。しかし、教員のICT スキル格差を要因として、教科指導における活用については低い状況である。また、情報化推進の校内体制も明確に設定されていない状況であり、情報化の推進体制についても低い状況が続いている。
取り組み内容 【①面を創る】「学びを深化させるための『国際塾』の開催」:国際社会での参画を考える上で必要となる知識を深めるため、国内3校の連携を軸に広く呼び掛け、講師として校外の開発教育実践者等を迎え、「国際塾」を設定する。学びをひろげ、「深める学び」と「挑むまなび」を展開する。
【②3校で作る】「現地教員と共に進める教材作り」:カンボジアはプリンターなど学校機器が少なく、宿題は「黒板を写す」こととなっている。半数を超える子は宿題を時間内に写せずそのまま帰宅し「宿題ができない or しない」事態が起き、留年率の増加につながっている。現地の教科書(入手済み)をもとに、日本の文化である「計算ドリル」を提案し、留年率の改善を図るオーセンティックな活動を通じて、生徒の自己効力感を高める。
成果目標 【①先人に学ぶ力】:学校を出て、先人の話を聞き多様なアプローチを知り、責任を持って判断し、カンボジアの考え方に対応ができる教材を示す(Web公開)。
【②グローバル人材の要素】:IT力、自国理解、メタ認知力、プロの国際人材と語る力、摩擦を乗り越える力など、「内向き志向」を打ち破る要素をつかむ。ドキュメント・ビデオ、フォトレポートを3校で共有し相互評価する。
【③生徒国際貢献度を見える化】:カンボジアは、学力不振で留年している子どもは1,2年生で20パーセント近くいる(2023年現在)。対象の小学校では17パーセントを実現したい。
助成金の使途 講師謝金、現地(カンボジア)教室用PC・プリンター・プロジェクター・プリペイドSIM・WiFi等、生徒作成「計算ドリル」の印刷、ICoME国際大会等への参加、ASEP(台湾)訪問他
研究代表者 君塚 麿
研究指定期間 2024年度~2025年度
学校HP https://www.n-fukushi.ac.jp/koukou/
公開研究会の予定 公開研究会「探究学習GFSの生徒発表会」、全日本教育工学研究協議会全国大会、日本教育メディア学会年次大会 等

本期間(4月~7月)の取り組み内容

 本校では、4つのコース(文理コース、グローバル英語コース、総合進学コース、スポーツコース)により学びを展開しています。2021年度より、グローバル英語コースの生徒を対象に、SDGs4(質の高い教育をみんなに)を改善すべく「ICT学習コンテンツの作成」をテーマに、カンボジア現地小学校と連携しながらSDGs国際探究学習に取り組んできました。

 今年度からは、実践に関わる生徒や教員の範囲を広げ、国際探究学習モデルを構築することを目的に、国内外の高等学校等と連携を深めながら、総合進学コース2年生、3年生の探究学習「Global FUKUSHI StudiesⅡ:GFSⅡ(2年生)、Global FUKUSHI StudiesⅢ:GFSⅢ(3年生)」において活動を進めています。

 昨年までの実践を通じて、「自分なりの考えを持つことができない」、「自分の考えを発話できない」こと、また、自分の活動やアクションプランに対して十分にイメージを持てないことが課題でした。ICT学習コンテンツ等を作成しても、「作成することが目的」となってしまい、「自分事としてとらえる」ことや、「現地の様子や状況をイメージしながら作成する」ことに困難さがありました。以上の点を改善するために、1学期(4月~7月)では、講師として校外の開発教育実践者等を迎え開催する「国際塾」を通じて、「課題の発見やアクションプランの立て方」、「活動に対するイメージを膨らませる」ことを行いました。

5月

GFSⅡ(2年生)
国際塾「(身近な)課題の見つけ方、課題に対するアクションプランの立て方」

 総合進学コース2年生の「GFSⅡ」では、6月から地元美浜町と連携した「Project Based Learning:PBL」の取り組みと、特別研究であるカンボジアの教育プロジェクトの活動が始まります。今回は、その導入編として「探究学習とは何かを実践を通して理解しよう!」をテーマに、NPO法人学習創造フォーラム理事長の久保田賢一先生および関西大学の学生さんをお招きし、「(身近な)課題の見つけ方、課題に対するアクションプランの立て方」と題したワークショップを行いました。はじめに久保田先生から、導入として調べ学習と探究学習の違いについてお話をいただきました。その後、関西大学の学生さんから、実際に今回の授業の中で探究の4つの工程「①情報収集」「②課題の発見」「③課題の解決方法の模索」「④実行してみる」のサイクルを回すワークショップを実施していただきました。課題への導入を生徒たちにもわかりやすく工夫していただいたため、生徒たちはスムーズに取り組むことができました。

6月

GFSⅡ(2年生)
国際塾「先輩方のカンボジア小学校への活動(ICT教材・授業実践)より学ぶ」

 5月に実施されたワークショップに引き続き、久保田賢一先生および関西大学のJ-CaJaさんをお招きし、J-CaJaさんがこれまでに行ってきた活動をご紹介いただくと共に、カンボジア小学校で実際に行った授業を基としたワークショップを実施していただきました。高校生たちがカンボジア現地児童の役を担いながら、J-CaJaが現地で行った「買い物ごっこ」を体験し、授業(買い物ごっこ)の良かった点や改善すべき点をグループごとに振り返り、発表を行いました。生徒の感想文には「カンボジアで関西大学の学生の皆さんがどのような授業を行ったのかを自分たちも体験することで、さまざまなことに気づくことができました。グループワークを通じて周りの意見を聞きながら行うことで、良い点や悪い点に気づきやすかった」と記述してあり、自分たちが現地に向けたアクションプランを考えるうえでの参考になる「気づき」につながった様子がうかがえます。

GFSⅢ(3年生)
国際塾「現地訪問・ボランティア活動を経験した大学生によるカンボジアの概要について」

 GFSⅢ(3年生)では、アクションプランの一環として、8月に開催される国際イベント「World Youth Meeting: WYM(主催:一般社団法人ワールドユースミーティング、日本福祉大学)」で、日本福祉大学の大学生とカンボジア現地教員と協力して実施するワークショップに向けた企画と準備を進めています。今回は準備のひとつとして、日本福祉大学の佐藤慎一先生と、本校の卒業生でもある日本福祉大学の学生により、これまでの現地活動を紹介しながら、「カンボジアに関する概要・基礎情報」についてGoogle Formsを活用したクイズ形式のワークショップを実施していただきました。生徒の感想文には、「カンボジアの情報について、映画などから引用したり、堅い説明もなくわかりやすく理解ができました」、「クイズにすることでわかりやすく楽しくカンボジアについて知ることができました。カンボジアでの学校教材もクイズ形式にするとカンボジアの子どもたちも楽しく学べるだろうなと思いました」、「これからカンボジアが発展して住みやすくするにはどうしたらいいですか?」等と記述されており、大学生たちの上手なワークショップを通じて、カンボジアについての知識を獲得し、関心を高めながら、自分たちの活動をどのように展開していくべきかのイメージを膨らませることにつながりました。

7月

GFSⅢ(3年生)
国際塾「カンボジア現地の教員からの小学校・児童の紹介」

 カンボジア現地とZoomでつながり、国際イベントWYMにおいて協働でワークショップを実践するカンボジア現地の先生から、現地小学校の紹介をしていただきました。前回に引き続き、本校の卒業生でもある日本福祉大学の学生に「翻訳のサポート」をしていただきながら、「母語と英語」を活用してカンボジアの現状について学びました。今回は、現地小学校の都合により、児童たちとの直接の交流は行えませんでしたが、その代わりに、児童たちが英語で自己紹介する動画を準備してくださいました。作成していただいた動画を通じて、「カンボジアの児童がスムーズに英語で自己紹介を行っている」ことや、「小学生ながらも同年代の児童がいる」ことに驚きました。今回のような動画を活用した非同期型の交流も取り入れながら、カンボジア現地と日常的に連携しながら、引き続きプロジェクトを充実させ、WYMにおける協働のワークショップが実り多いものになることを期待しています。

アドバイザーの助言と助言への対応

  1. ①活動(カンボジアの教育プロジェクト)に対する生徒のイメージの変容に関する評価の仕方
    →実践を行う前にアンケート等を実施しておらず、「Before」「After」で生徒の変容を捉えるのは難しいのではないかと考えていましたが、実施方法や項目について具体的な助言をいただきました。いただいた助言に基づき、早速、実施と評価を進めます。
  2. ②1学期(4月~7月)における各活動に対する振り返りと確認
    →各活動の目的、全体の中でどう位置づけられるのか、しっかりと整理しきれていない点があること分かった。今回の活動報告書を機会にしっかりと言語化し、再度、整理を行った。
  3. ③本研究の目標のひとつでもある「相手の立場に立ったアクションプラン・思考力」「当事者意識」を、今後の活動のなかでどう高め、また評価していくべきか助言をいただきました。
    →いただいた助言に基づき、再度、実践計画を見直し、評価を行っていく。

本期間の裏話

 GFSⅡ(2年生)における国際塾「先輩方のカンボジア小学校への活動(ICT教材・授業実践)より学ぶ」では、フィリピン姉妹校の先生方、同じ愛知県内にある瀬戸SOLAN小学校の先生方と3人の6年生の皆さんが授業に参加してくださいました。今回は、大学生、高校生、小学生、そして各学校・国内外の先生方が参加する、異校種間連携による探究学習を偶発的に実施することが出来ました。生徒感想文では「今回の授業は高校生だけではなく、小学生と大学生も一緒に、全員で参加するような形式の授業で、高校生からは出ないような意見がたくさんあっていい刺激になりました」と記述し、生徒たちは充実した「探究」の時間になった様子が伺えます。授業実施後の振り返りでは、こうした異校種間連携を自然と行えるのも「探究学習」ならではの面白味であることを実感し、参加者にとって有意義な学びの機会、面白い結果につながるのではないかと、気づきや期待を持つことが出来ました。

 「国際」という言葉がつくと、教員も参加・実践に関わることに距離を置こうとする傾向があり、これが参加の輪や実践を広げる上での課題の一つとなっています。今回は、校種、国境を超え実践したことが、本校教員の関心につながったようで、授業参観に足を運ぶ姿も見受けられました。今回は偶発的に実施された「異校種間連携による実践・ワークショップ」に、実践に関わる教員の参加の輪を広げるヒントがあると感じました。計画的な「異校種間連携」をプロジェクトに取り入れながら、教員間や学校の枠を越えた「横のつながり」も意識しつつ広げ、比較検証を行っていきたいです。

本期間の成果

  • 国際塾(ワークショップ)を通じて、生徒達は少しずつ自分たちの活動やアクションプランに対してイメージを膨らませつつある。
  • 国際塾(ワークショップ)を中心に様々な人と関わることで、主体性を伴う「参加」の意識が高まりつつある。
  • 偶発的に実施につながった「異校種間連携による実践・ワークショップ」が、教員間の関心度を高めつつあり、教員間の連携につながることが期待できる。

今後の課題

  • プロジェクトには「英語の発話力」が必要なので、授業以外における「英語を活用する機会を増やす」の仕掛けづくり。例えば、カンボジア現地だけに限らず、フィリピン姉妹校・連携校の生徒達とのインフォーマル発信の場(SNS等)の活用の可能性を模索する。
  • 異校種間連携で実施する国際塾(探究)は、教員間の連携等を含め、参加者に対して有意義な学びの機会につながることを実感した。こうした活動をどのようにデザインし、継続につなげていくか。

今後の計画

  • 夏休み期間の8月に開催される国際イベントWYMに向けて、各学年(2年生GFSⅡ、3年生GFSⅢ)が、カンボジア現地やフィリピン高校生と連携して、ワークショップやプレゼンテーションを企画・作成していく。
  • 国際塾を通じて獲得した知識をもとに、カンボジア現地(児童)に向けて、アクションプラン(授業デザイン・教材作成等)を計画し実践する。
  • アクションプラン(授業デザイン・教材作成等)に対する、現地からのフィードバックをもらい、再度、自分たちのアクションプランを振り返る。

気付き・学び

 異校種間連携で活動・実践することで深まる、生徒達の「充実感」、「達成感」、「気づき」。それを可能にする「探究学習」の面白味。また、教員間の連携・参加の輪の高まりと期待。

成果目標

 カンボジア現地(児童)に向けた、生徒達の(第1回)アクションプラン(授業デザイン・教材作成等)に対して、現地からフィードバックをもらい作成物等を振り返り、国内連携校(早稲田摂陵高等学校、立命館守山高等学校等)と共に生徒間相互評価を行い、次のアクションプランにつなげる。

アドバイザーコメント
岸 磨貴子 先生
明治大学
教授 岸 磨貴子 先生

 日本福祉大学付属高等学校では、国際探究に取り組んでいます。本報告書における国際探究とは、高校の総合的な探究の時間を国際的なフィールドで実施することを意味しています。日本福祉大学付属高等学校では、カンボジアの教育機関と連携し、高校生がカンボジアの小学校で活用できる教材開発に取り組んでいます。教材開発を進めていく上で、新学期がはじまる4月-7月は、主に課題を見つけ、課題に対するアクションプランを立てることを目的とした活動が展開されました。

 日本福祉大学付属高等学校は、2021年から国際探究に取り組んでいます。国際探究において毎年生徒が直面する課題として、「何をすればいいのかイメージできないこと」と「自分の言葉を紡ぐことができないこと」を挙げられていました。これらの課題解決のため、本研究では2つの工夫が行われています。以下に課題と、その具体的な2つのアクションを示しています。

<課題設定における取り組むべき課題>

 本実践研究に着手する上で課題となっていたのは、課題設定時に、生徒が「何をすればいいのかイメージできないこと」でした。実際に現地にいった経験がない生徒たちは、カンボジアのこと、カンボジアの小学校の現状、そこに生きる人々、子どもたちについて想像することができません。また教材開発についても、学習者として教材を使うことはあっても、開発する側に立つ経験がこれまでないため、どのように進めればいいかわからないという状態とのことでした。結果、生徒は、プロジェクトでの目的である「教材を作成すること」に注力し、教材を制作する意味や意義を自分なりの考えを持って、発言することができずにいました。

<上記に対する具体的なアクション>

その課題解決に向け、教師らは、次の2つの工夫を行っています。

1.モデルを見せる

 生徒が制作した具体的な制作物を一部見せることで、イメージを持たせるようにしました。ただし、完成したものを見せすぎないように注意しています。なぜなら、生徒が完成品のイメージを強く持つほど、同じような成果物をめざしてしまうからです。毎年、生徒たち自身が自分たちの強みや才能、関心をいかしながら、自由に、創造的に考えることができるように、成功した具体物だけでなく、うまくいかなかった具体物も見せて、意見交換を通じて、生徒自身が何をしたいかを考え、取り組めるように促しています。

2.演劇手法の活用

 カンボジアの小学校で国際教育の活動を展開する学生団体J-Cajaに、現地の経験をシミュレーションしてもらう場を設けています。これにより、生徒が、現地の小学校でどのような活動ができるのか具体的にイメージできるようになりました。このシュミレーションに、愛知県の小学生も参加し、小学生がどのように学ぶのかを観察できたことも、生徒が小学生に対する教材づくりに対するイメージに寄与できたといえます。また、このように生徒が共通体験を持つことで集合的に想像/創造していく基礎づくりになるでしょう。生徒一人ひとりが持つイメージが多様であれば、集合的に取り組む際、齟齬がでてしまいますが、共通体験と共通言語があることで集合的に取り組みやすくなるでしょう。

<今後の展開についてのアドバイス>

1.研究の視点とそのためのデータ収集、分析について

 4−7月の取り組みでは、国際探究における「課題設定」において、生徒が何をしたいのか、何ができそうなのか、何に挑戦したいのかのイメージを持たせることを研究の問いとして実施されてきました。その変化を捉える方法として、アクションに対する効果や成果を図るPre-Postのアンケートを通した調査も可能ですが、Preの段階で生徒はアンケートの意図を読み取るのが難しいという問題があります。そこで、生徒自身に自分の変化を過去に遡って捉え直すナラティブアプローチによる評価も有用でしょう。そのためにも、日々の活動などをポートフォリオなどに記録し、その記録をもとに凝縮ポートフォリオやグラフを使って振り返り、物語化したものを評価する方法も良いでしょう。

2.相手の目線にたった教材開発にむけて

 本実践研究に関する議論の中で、カンボジアの教員や子どもの視点にたった教材開発の必要性について相談がありました。これまでの実践では、日本人である生徒の目線から「これが必要だろう」というイメージで教材開発を進めてきたとのことですが、内容、方法など、現地(カンボジア)の子どもたちや教師にとって意味があり、使いやすいものである必要があります。このように他者の目線から物事を考えられるようになるためには、「視点移動」のワークが有用です。他国の教育に私たちが介入する際には、注意すべきこと、配慮すべきことも多くありますが、視点移動によって、それが何かについて探究することも、国際探究において意義のある実践であるといえます。

本期間(8月~12月)の取り組み内容

 1学期(4月~7月)には、校外の開発・教育実践者などを講師として招き、「国際塾」を開催しました。この活動を通じて、生徒たちは「課題の発見やアクションプランの立て方」を学び、「活動への具体的なイメージを膨らませる」ことができました。2学期(8月~12月)には、これまでの学びを基に、カンボジアの現地小学校に向けてアクションプランを具体化し、取り組みを進めてきました。

【国際交流イベント「World Youth Meeting 2024」におけるワークショップの実施(8月)】

 夏休み期間の8月には、World Youth Meeting 2024(WYM2024)に参加するため、これまでオンラインで交流を深めてきたカンボジアの小学校の現地教員2名が来日しました。滞在中には、日本文化に触れる京都観光を通じて、生徒たちとのチームビルディングを深めました。また、3年生探究学習(GFSⅢ)の代表生徒と共に「カンボジア算数授業」を体験することをテーマに、WYM2024に参加した国内外の教員、学生、生徒を対象としたワークショップを実施しました。

 ワークショップを実施した生徒感想文では、「今まで英語が苦手で、海外の人と話すことや自分を表現してみんなの前で発表することは避けてきた。しかし、今回の活動を通じて、自分を表現することや海外の人と関わることが楽しいと思うことができました」、「ワークショップを受けてくれた参加者の発言力やテンションが高く、そうした状況に自分も引っ張られて、間違っても大丈夫と思い、英語で話すことができた。英語をこんなにも話した一日はなかなかなく、とても良い経験になり、自分の成長にも大きく繋がった」等語られており、ワークショップを通じた達成感、英語に対する苦手意識を克服しながら、人との関りや協働で取り組むことの楽しみにつながりました。

【本校主催の国際交流イベント「Global Meetup 2024」の開催(11月)】

 11月初旬、本校主催で「Global Meetup 2024」をハイフレックス型で開催しました。この国際イベントには、台湾、フィリピン、カンボジアから生徒、学生、教員が参加し、SDGsをテーマにしたワークショップや意見交換が行われました。3年生探究学習(GFSⅢ)の代表生徒は、WYM2024に続き、前回の実践をさらにブラッシュアップしたワークショップを実施しました。ワークショップでは、「体を使って覚えるクメール語の数の数え方」を取り入れ、参加者が楽しみながら数の数え方を習得できる内容を展開しました。また、国内の連携校からは、カンボジア現地向けに作成した学習コンテンツの紹介があり、生徒同士で意見交換や相互評価が行われました。生徒たちは、他校の活動内容やカンボジア現地からのフィードバックを通じて、自分たちが気づかなかった現地目線や新たなアイディアを体感し、次回の教材づくりに活かせる学びを得ました。

【2年生探究学習(GFSⅡ)「算数学習コンテンツの作成」(10月~12月)】

 2年生探究学習(Global Fukushi StudiesⅡ:GFSⅡ)では、国際塾を通じて、PowerPointを活用した教材作成の留意点を学び、カンボジアの現地児童を対象とした算数教材(一桁同士の足し算を題材とした筆算)をグループごとに作成しました。作成した教材は現地の授業で実際に活用され、その様子を動画で報告して頂きました。また、現地の児童や教員からフィードバックを受けることができました。

 フィードバックでは、「コンテンツを通じて学習をすることで、児童は算数をもっと学びたくなる」、「実際に、作り手・生徒たちもスライドに登場することで、より児童は教材に関心を持つ」といった学習意欲の向上が見られた一方で、改善すべき点もいくつか指摘されました。たとえば、カンボジアではクッキーの図が何か分からない児童も多いため、教材に使用する図は現地の児童にとって身近なものを選ぶべきであることが挙げられました。また、演算に合わせてアニメーションの順序を工夫する必要性や、一部の数字表示に誤りがあった点も指摘されました。これらのフィードバックを通じて、教材作成における正確性や質をさらに向上させるための課題が明らかになりました。

【3年生探究学習(GFSⅢ)「児童向けオンラインワークショップの計画」(10月~12月)】

 3年生探究学習(Global Fukushi StudiesⅢ:GFSⅢ)では、グループごとに現地児童を対象としたオンラインワークショップの計画と準備を進めました。この過程では、国際塾での学びを活かし、「やさしい数字の足し算を応用した“お買い物”ごっこ」や「月の英単語を学びながら日本の文化を紹介する活動」をテーマに、学習教材(スライド)の作成に取り組みました。さらに、ワークショップ当日に現地教員が活動内容を具体的にイメージできるよう、児童向けの予習動画を事前に作成するなど、入念な準備を進めました。これらの計画と準備を通じて、生徒たちは交流学習や活動そのものをファシリテートするスキルを磨きながら、現地児童との円滑なコミュニケーションを目指しました。今後は、2学期末から3学期にかけて、各グループが計画したワークショップを順次実践していきます。

アドバイザーの助言と助言への対応

アクションに対する効果や成果を図るPre-Postのアンケートを通した調査も可能ですが、Preの段階で生徒はアンケートの意図を読み取るのが難しいという問題があります。そこで、生徒自身に自分の変化を過去に遡って捉え直すナラティブアプローチによる評価も有用である。
→本期間からは、少しずつではありますが、アートベースの活動を取り入れ始めています。3学期には、各生徒がコラージュを用いて1年間の活動を振り返るなど、アートを活用したナラティブアプローチを取り入れ、生徒の内省と自己理解を深める試みを行っていきたいと考えています。このような取り組みを通じて、生徒一人ひとりの学びのプロセスや変容をより豊かに捉えることを目指していきたい。

 作成する教材については、現地(カンボジア)の子どもたちや教師にとって意味があり、使いやすいものである必要があります。このように他者の目線から物事を考えられるようになるためには、「視点移動」のワークが有用です。他国の教育に私たちが介入する際には、注意すべきこと、配慮すべきことも多くありますが、視点移動によって、それが何かについて探究することも、国際探究において意義のある実践であるといえます。
→現地教員が作成した英単語教材(パワーポイント)に英単語音声を吹き込む活動を通じて、「現地教材の見取り」や、「自分たちが作成したワークショップ」を実施するなど、できる限り視点を変えた活動を取り入れました。このような活動を通じて、現地視点や教える立場を理解し、物事を多角的に考えながら実践することにつながるよう留意しました。

本期間の裏話

 本実践研究では、生徒たちの変容(成長や学びのプロセス)を捉え、評価することを目的として、指導担当の岸先生のアドバイスを受けながら、今回よりアートベースの活動を徐々に取り入れ始めました。例えば、WYMでワークショップを実施した3年生探究学習(GFSⅢ)の代表生徒に対し、これまでの活動や自身の変容について振り返ることを目的とした「1文字漢字」や「具体的な物」を用いた「語り」の活動を、12月初旬の公開授業で実施しました。この活動では、生徒たちが自らの経験を深く考察し、成長を言語化する機会を提供しました。発表を聞いたある先生からは、「生徒たちが活動を通じて何を行い、どのように変化してきたのかがしっかり語られていて、理解しやすかった」との感想が寄せられました。また、この公開授業では、生徒だけでなく、授業観察をアートベースで記録する先生もおり、少しずつではありますが、アートベースの取り組みが教員にも影響を与え始めています。

 今後は、多様な手段を通じて生徒たちの変容や実践の様子を豊かに捉え、評価し、さらに充実した学びの環境を提供するために、アートベースの手法を積極的に取り入れていきたいと考えています。

本期間の成果

  • カンボジア現地教員との協働ワークショップを通じて、生徒たちは英語に対する苦手意識を克服し、「国境を越えたコミュニケーション」や「協働で活動する」ことの充実感を高めました。この活動により、生徒たちは言語の壁を越えて他者とつながる楽しさを実感し、国際的な協働の大切さの気づきにつながりました。
  • 教材を作成し、実際に現地で活用されている様子をビデオ報告で確認することを通じて、生徒たちの当事者意識が高まり、教材作成に対する真摯な取り組みが促進されました。
  • 作成した教材に対する現地児童や教員からのフィードバックを通じて、教材作成においてどの点に留意すべきかを理解し、現地とのギャップを体感することができました。このプロセスを通じて、多様な視点や現地視点を取り入れることの重要性を実感し、教材作成に関する経験知を深めることができました。

今後の課題

ナラティブアプローチ(アートベースな表現)を用いて、1年間の活動を振り返り、生徒の内省と実践の評価に活用したいと考えています。より具体的には、生徒にどのような方法で表現させるか、またその表現を通じて実践のどの側面を評価するのかについて、具体的なイメージを持つ必要があります。

今後の計画

  • 3年生探究学習(GFSⅢ)では、グループごとに計画・準備を進めてきた現地児童向けオンラインワークショップを実施していく。
  • 2年生探究学習(GFSⅡ)では、現地からのフィードバックを反映させ形で、再度、算数教材(2桁+1桁のひっ算)を作成する。
  • アートベース活動による、1年間の活動の振り返りと、生徒相互評価を行う。

気付き・学び

 聞き手も語り手も楽しめる「アートベースな表現」を取り入れることで、参加型の学びの環境が生まれます。日常の授業の中で、重要な場面にアートベースな活動を取り入れることで、主体性の高い学びの環境を作り出したいと考えています。

成果目標

 オーセンティックな活動を通じて、多面的かつ現地視点で物事を考え、実践できる当事者意識とスキルを育成する。また、生徒が作成した教材は交流時に活用されるだけでなく、普段の授業でも日常的に活用されるよう現地の要望を反映させながら工夫施す。

アドバイザーコメント
岸 磨貴子 先生
明治大学
教授 岸 磨貴子 先生

 日本福祉大学付属高等学校における国際探究の取り組みは、計画通り進んでいる。本研究のテーマである「面で取り組む国際探究学習モデルの構築—つながり・葛藤で育てる国際化、Resilientなグローバル人材の育成」の観点から、この3か月の実践および研究を以下のとおりコメントする。

1.研究テーマを軸とした本研究実践へのコメント

「面で取り組む国際探究学習モデルの構築」に関して、ワークショップや教材作成など、複数の活動を「面」で展開し、生徒が他者とのつながりを実感できる場が豊富に設けられていた。特に、カンボジアの教員や児童との交流を通じて、生徒らは多様な視点を取り入れながら活動を展開していた。

「つながり・葛藤で育てる国際化」に関して、生徒がICTを活用した異文化交流を通じて英語への苦手意識を克服し、葛藤を乗り越えながら成長している様子を、授業観察および報告書で確認することができた。また、現地の教師のフィードバックや児童の学習の様子をもとに、現地の視点を取り入れながら、つながりを深めるだけでなく、文化的な違いへの気づきが促されていた。例えば、制作した教材に対する振り返りの際、「クッキーなどのイラストは現地の児童にとって馴染みがなく、児童は意味を理解できなかった」と現地教師からフィードバックを受け、現地にはどのような食べ物やものがあるのかについて生徒は関心を持ち、調査を始めた。このようなプロセスを通して、生徒たちはグローバルな社会に関して単に知識を習得するだけでなく、関わりによる相互理解を通した深い学びになっていた。

「Resilientなグローバル人材の育成」に関して、生徒が自ら考え、行動し、フィードバックを受けて改善する経験を積むことは、生徒の柔軟性(Resilience)と問題解決能力を育む場になっていた。特に、現地での実践を踏まえた教材作成やワークショップの企画、実施は、生徒の適応力や主体性を伸ばす良い機会となっていた。

2.今後に向けて

 国際探究を通して生徒の変化は明らかであるが、その変化とは何か、また、そのような変化(学習発達)をどのように教師らが支援していけるかが問題となっている。こうした問いへのアプローチとして、12月の公開授業では、アートベース・リサーチの手法を用いて、生徒の省察的探究を試みることとなった。

 省察的探究(reflective inquiry)は、省察を基盤にしたより広がりのある学習プロセスで、単なる振り返りにとどまらず、新たな問いを立て、知識を生成することである。単に振り返るだけでなく、「なぜそうなったのか」「他の方法ではどうなるのか」といった探究的な質問を生み出す。経験を出発点としながら問いを見出し、問いについて深めていく。こうしたプロセスには、個人の省察(振り返り)だけでなく、他者との対話を通じて視点を広げていくことが重要であり、対話や協働を含むこととなる。また、過去の経験を振り返るだけでなく、その学びを未来の行動や思考に活かす未来志向であることが特徴である。

 生徒の省察的探究を通して、教師は生徒の変化(学習・発達)を評価できるだけでなく、生徒自身も自らの経験を通していかなる知を生成し、実践を作り/作り変えたか、それを未来にどう繋げたいかを物語化することができる。

 12月の公開授業では、国際探究に取り組んだ生徒5名の協力を得て、コラージュを用いた省察的探究を行った。5名の生徒の協力を得て、コラージュを通して省察的探究の有用性が確認できれば、より広い生徒に参加を促していけるとよいだろう。

図1:省察と省察的探求の違い(著者作成)

項目 省察(reflection) 省察的探究(Reflective Inquiry)
焦点 過去の経験や感情の振り返り 省察を元にした問いの生成と新たな知識の構築
目的 自己理解や行動の改善 知識生成や実践のデザイン/Reデザイン、次の探究への橋渡し
方法 主に個人的、省察的 対話や共同を含む、未来志向のプロセス
時間軸 主に過去に焦点をあてる 過去―現在―未来をつなげながら探究

本期間(1月~3月)の取り組み内容

 1~2学期を通じて、これまでの学びを基に、カンボジア現地小学校に向けたアクションプランを具体化し、活動を進めてきました。本期間では、現地からのフィードバックを基にしたICT学習コンテンツの修正・ブラッシュアップ(2年生 GFSⅡ)やオンラインワークショップの実施(3年生 GFSⅢ)を行い、その後、これまでの活動を振り返りながら、自らの成長の過程をまとめて発表し、相互評価を行いました。

【2年生探究学習(GFSⅡ)「ICT学習コンテンツの修正・ブラッシュアップ」の実施】

 2年生のGFSⅡでは、カンボジア現地小学校からフィードバックを通じた、以下の気づきを基に、ICT学習コンテンツの修正・ブラッシュアップを行いました。

  1. 演算に合わせてアニメーションの順序を工夫する必要がある。
  2. 一部の数字表示に誤りがあることも指摘されたので、学習コンテンツだからこそ正確性には細心の注意を払い、教材として活用できるよう質を高める。
  3. カンボジア教員からの授業の様子に関するフィードバックでは、「児童がクッキーの図を見たとき、『あれは何か?』という質問が出た」と報告された。その為、図等を活用する場合は、現地の児童にとって身近なものを選ぶべきである。
  4. カンボジア教員から、「実際の作り手の顔(写真)が使用されていることで、児童は教材に対して関心を持ち、喜んでいた」と報告された。誰が学習コンテンツを作成しているのかを明示するために、写真などを組み入れることで、作り手(生徒)に対する親近感が育まれ、学習教材に対する関心が高まる。

【3年生探究学習(GFSⅢ)「オンラインワークショップ」の実施】

 3年生のGFSⅢでは、学習教材の作成にとどまらず、グループごとに現地の児童を対象としたオンラインワークショップの計画と準備を進めました。約20分という限られた時間を有効に活用するため、事前学習用の動画を作成し、それを活用しながらワークショップを実施しました。特に、「カンボジアの現地教室が単に自分たちの探究学習の場とならないように」、現地の児童にとっても有意義で実りの多い時間となることを重視し、当日の進行方法を慎重に計画しました。

【1年間の活動の振り返りと相互評価】

 GFSⅡ(2年生)およびGFSⅢ(3年生)において、これまでの活動を通じた「学び」や「自らの変容」について、アートベース・リサーチの手法(漢字一文字、コラージュ等)を取り入れながら、以下の項目で振り返りと相互評価を実施しました。

  1. 何をしたのか?(※具体的なものを使って表現)
  2. 自分がどのように変容したのか?(※漢字1文字)
  3. これから何をしたいのか?(※自由形式なんでもOK)

 振り返り・相互評価では、生徒たちは次のように語っていました。

「オンラインで数学を行った際には、相手が問題の答えを出してくれたり、リピートを動きをつけながらしてくれました。相手も理解しながら取り組めていることが分かり、とても嬉しかったです。」「NFUガール(チーム名)は、教えてもらったクメール語を使いながら教えていました。リモートだったので、なかなか上手く連携することが難しく、予定どおりには進みませんでしたが、私たちのチームは英語が多かったため、もっとクメール語を使って分かりやすく教えた方が良かったと感じました。」

アドバイザーの助言と助言への対応

 1年間の活動の振り返りでは、不慣れながらも、12月の公開授業でご指導・アドバイスを頂きましたアートベース・リサーチの手法を少しずつ取り入れながら、相互評価を実施しました。生徒たちの語りや表現の中には、「単に振り返るだけでなく、『なぜそうなったのか』『他の方法ではどうなるのか』といった探究的な質問を生み出す」(アドバイザー岸教授より引用)様子が見られ、実りの多い充実した機会となりました。また、生徒の変容を捉える上で、アートベース・リサーチの手法の有効性を実感する機会ともなりました。

本期間の裏話

 1年間の活動を振り返り、次年度に向けた打ち合わせを行うため、2月に本実践のパートナーであるカンボジア現地小学校を訪問しました。生徒たちが作成した学習コンテンツがどのように活用されているのかを確認するため、実際の授業の様子を現地で参観しました。今回の訪問を通じて、生徒たちが作成した算数教材には改善すべき点がまだ多くあるものの、現地の児童が計算練習(ドリル学習)を行う際に有効に活用されていることを確認できました。さらに、現地教員との懇談を通じて、次のような波及効果が生まれていることも分かりました。

  1. 国際交流学習を通じて、ICTリテラシーの向上につながっている。
  2. 生徒たちが作成した学習コンテンツをはじめ、ICT教材を活用して授業を試みる教員が増えた。
  3. 本実践である国際交流学習に関心を持つカンボジアの現地教員がおり、交流学習を進めていくうえで必要な英語に対して、(生徒のみならず教員の)モチベーションの向上にもつながっている。

 また、授業参観後の懇談では、教材や授業の進め方について率直な意見交換を行うことができました。その中で、本実践である国際交流学習を通じて、現地とのピアや互恵的なつながりが深まっていることを実感しました。今後もこの互恵性を大切にしながら、交流学習の意義をさらに高めていきたいと考えています。

本期間の成果

  • アートベース・リサーチの手法を用いることで、生徒たちの変容や成長のプロセスを、教員・生徒ともに充実した形で振り返ることができた。
  • カンボジア現地を訪問することで、オンラインだけでは見えにくい波及効果に気づくことができた。
  • 本実践である交流学習にとどまらず、お互いの授業や教育的な活動について率直な意見を交わすことができるピア関係や互恵的なつながりが深まっている。

今後の課題

  • 年度当初は、Google Workspace 等を活用し、各校の日々の活動を随時共有しながら連携を深め、実践を進めていくことを目指していた。しかし、今年度は、本校主催の国際イベント Global Meetup における交流(各校の取り組みの紹介および意見交換・フィードバック)のみにとどまってしまった。今後は、非同期型の活動などを工夫し、交流の機会を増やすことで、より強固な連携を図る必要がある。
  • 今年度は、校内研修で取り組んだアートベース・リサーチの手法を活用し、生徒が1年間の活動を振り返った。生徒たちの振り返り(発表・表現等)を通じて、内省や成長のプロセスを捉える上で、有効な手段のひとつであることを実感した。次年度の報告を見据えながら、活動の評価方法を具体的にイメージしつつ、アートベース・リサーチの手法をどのように取り入れていくかを検討し、具体化する必要がある。

今後の計画

  • 今年度の実践全体を振り返りつつ、カンボジア現地や国内連携校とも密に連絡をとりながら、次年度の具体的な活動日程や進め方を確認していく。
  • 参加者同士のピアの構築、英語での発信力向上、活動を身近に感じることを目的に、授業以外のインフォーマルな時間における生徒・児童の交流も促進したいと考えている。そのため、インフォーマルな交流の場をどのように構築していくか検討する必要がある。

1年間を振り返って、成果・感想・次年度への思い

 昨年度までは、比較的英語力の高いグローバル英語コースの生徒を対象に実践を進めてきました。今年度からは、実践に関わる生徒や教員の範囲を広げ、総合進学コースの生徒も対象としたため、年度当初は英語を中心としたコミュニケーションに不安を抱いていました。しかし、実践を進める中で、相手を思いやる気持ちや活動への当事者意識が高まることで、不慣れな英語であっても苦手意識を克服し、より良い学習コンテンツを作成しようと努力する姿が見られました。SDGsをテーマとした国際課題をどのように生徒の学びへと落とし込み、オーセンティックな活動へと発展させていく中で、モチベーションを高めながら有意義な学びの機会が生まれることを改めて実感しました。生徒を対象とした探求学習の枠を超え、教員やパートナー(カンボジア現地)など、さまざまな参加者にとっても意義のある実践へと広がっていくことを目指し、互恵性を意識しながら次年度も継続していきたいと考えています。

成果目標

  1. 国際協働探求学習のパートナーであるカンボジア現地小学校における教育状況(課題)について「自分事としてとらえる」ことのできる当事者意識の高まり。
  2. 「国際塾」を通じて、活動の具体的なイメージを膨らませ、課題を発見し、アクションプランを立てることができる。
  3. ICT学習コンテンツ等の作成において、「作成することが目的」とならず、「現地の様子や状況をイメージしながら作成する」ことができる。
    特に、各学年の探求学習(GFS)において、具体的には、以下の点を達成目標したい。
  4. 2年生探究学習(GFSⅡ)では、現地の様子や児童・使い手の視点に立ち、正確で使いやすいICT学習コンテンツを作成することができる。
  5. 3年生探究学習(GFSⅢ)では、「現地の視点でICT学習コンテンツを作成することができる」だけでなく、作成した学習コンテンツを活用したワークショップなどの活動自体をデザインし、実践することができる。
アドバイザーコメント
岸 磨貴子 先生
明治大学
教授 岸 磨貴子 先生

 日本福祉大学付属高等学校の国際探究における実践は、単なる国際交流ではなく、「つながり・葛藤で育てる」というテーマのもと、生徒が異文化との出会いを通じて内省し、学びを深める過程を重視している点に大きな意義があります。カンボジアの児童への教材制作を通して、言語や文化、ニーズの違いによる葛藤と向き合い、それを乗り越えるプロセスが、単なる知識習得を超えた本質的な学びとなっていることが、本探究の重要なポイントといえます。

 特に注目すべき点は、「省察的探究」を重視している点です。探究活動において「何を経験したのか」を振り返ることは重要ですが、それにとどまらず、「なぜそのように感じ、考えたのか」をさらに掘り下げることで、より深い学びへとつなげることができます。このメタ的な省察が、単なる経験の記録ではなく、自己理解や価値観の形成、さらには社会的な視点の獲得へと発展することが期待できます。

 アートベース・リサーチ(Arts-Based Research)の活用は、この省察的探究をさらに豊かにする可能性があります。今回の実践では、生徒が漢字一文字やコラージュを通じて自らの体験を表現し、それを手がかりに物語化(ナラティブ化)することで、より深い省察につなげようとしています。この手法は、言語だけでは捉えきれない経験の感覚や情動を可視化し、他者との対話を促す効果が期待できます。

 今後の展開として、今に示す3点が考えられます。

(1)省察的探究のためのABR実践

 2024年度では、生徒らは、漢字一文字やコラージュを作成し、その表現を通して自らの経験を振り返りましたが、さらに対話の中で自らの経験を深めことができるでしょう。つまり、生徒同士(または教師がそこに入ることで)が互いの作品を鑑賞し、フィードバックし合うプロセスを取り入れることで、自らの経験を多層的に、多角的に捉えることが期待できます。

(2)探究のプロセスを可視化し、記録として蓄積

 生徒の省察をデジタルポートフォリオとして保管して最後に凝縮ポートフォリオを作成したり、展示を通して他の生徒と深めるような機会を持ったりすることもできるでしょう。そうすることにより、生徒らは、自分の経験をどのように表現(可視化)できるかを意識し、どのような経験をしているか、により目を向けることができるかもしれません。

(3)一般の人々に届きやすいかたちで本国際探究の事例を発信

 今回の実践が示しているように、国際探究において「異文化理解」とは単なる知識の獲得ではなく、違いと向き合いながら自己と世界を問い直す過程そのものです。こうした生徒の変化や取り組みのダイナミックな様相を、一般の人にもわかりやすく伝えることができるとよいでしょう。ドキュメンタリ映像、小説、詩、絵本など、一般の人々に届きやすいかたちで発信することもできるかもしれません。その際に、生成AIなどの技術を使うこともできるでしょう。

本期間(4月~7月)の取り組み内容

① ABR(アートベース・リサーチ)を取り入れた生徒の変容・成長の捉え方の試み

 昨年度の教員研修では、アドバイザーの岸先生の指導のもと、コラージュを用いた振り返りのワークショップを実施しました。この学びを踏まえ、2024年度のカンボジア実践では「生徒がどのように気づきを得て成長したのか」を捉えるため、コラージュを活用した振り返りを行いました。具体的には、活動に積極的に参加した生徒に自身の変化や成長をコラージュで表現させ、その後、生徒同士でインタラクティブなインタビューを実施しました(図1)。このコラージュを基にしたインタビューでは、生徒たちが活動を振り返る中で、今回の学習経験が一時的なものにとどまらず、将来の目標や夢の形成へとつながっている様子がうかがえました。

生徒同士のインタビューの一部分の要約

【真ん中に配置された英語】:他の国と交流するために、難しい英語は必ずしも必要ないかなとずっと思っていました。A,B,Cのような誰でも覚えられる基本的な英語くらいは、ちゃんと勉強しないといけないなと思っていて、それが大切だと感じています。

【靴下と靴だけ履かせている】:教材を作ったじゃないですか。ああいうことも、やっぱり全部、まずは行動から始めないといけないなって思いました。行動するっていう意味、つまり“アクション”。まずはアクション、考える前に動くっていうことです。

図1 生徒Aの作成したコラージュとインタビューの一部の要約

② 言語の壁を低減するICTツールの利活用

図2 UDトークを活用した現地交流

図3 UDトーク活用した交流における内容の理解

 国際交流学習では、英語に振り回されてしまい、現地での質問や意見交換の場面で、生徒によっては学習の本質から外れた質問をしてしまうことがあります。本校のカンボジア実践に参加している生徒も同様で、これまで英語を中心とした交流の機会が少なかったため、今年度初めて行ったカンボジアとのオンライン交流では、「What time is it now in Cambodia?」や「What Japanese food do you like?」といった、期待される質問とは異なる内容になってしまいました。

 こうした英語への不慣れや、それに伴う質問内容のずれを改善し、生徒が本来捉えるべき内容を理解した上で適切に質問できるようにするため、オンライン交流においてUDトークを導入しました(図2)。

 実践後の生徒アンケートでは、「UDトークを活用して交流を進めましたが、前回(UDトークなし)と比べて内容はよくわかりましたか?」という質問に対し、回答者27名のうち9割以上の生徒が「はい」と答えました(図3)。また、記述式回答では以下のような意見が寄せられました。

  • 「本日はUDトークを活用することで、前回に比べて内容がとてもよくわかりました。発言の聞き取りにくい部分や早口のところも文字で確認できたため、理解が深まりました。相手の話を正確に把握でき、交流もスムーズに進めることができたと感じます。」
  • 「前回は相手が言っていることがあまりわからないまま授業が進んでいく感じでしたが、今回は相手の話がだいたい理解でき、自分の思っていることも日本語で伝えられたので、聞きたいことがそのまま聞けてやりやすかったです。」
  • 「聞き取りが難しい単語もUDトークを通して理解できました。少し不自然な日本語訳があった部分も、『これはこういう意味だな』と自分で汲み取ることができました。」

これらの結果から、UDトークの活用に一定の効果があったことが示唆されます。

③ 隙間の時間を活用した国内交流の試み

図4 ミニ交流会(第1回目 国際塾)の様子

 昨年度は、国内連携が十分に進まなかった。通常授業時間の配置が異なる中で、非同期型の交流を併用しつつ、どのように同期型の交流を実施すべきかという実施上の課題があった。こうした課題を改善し、日常的なつながりや国内連携校の生徒同士による顔の見える交流を充実させることを目的として、隙間時間(昼休み)を活用した国内連携校3校同時参加によるミニ交流会を開始した。

 第1回目のミニ交流会では、外部講師として日本福祉大学の影戸誠先生を招き、「国際塾」と題した講話を実施した。講話では、カンボジアの現状や小学校・教育の様子、高校生が考えられるアクションプランについて説明が行われた(図4)。

アドバイザーの助言と助言への対応

① モデル構築における活動評価の視点

モデル構築における「課題の見つけ方、アクションプランにつなげる」の視点から活動を評価する必要がある(「何をしたのか」「何が活かせたのか」「何が活かせなかったのか」)。
→ 上記の具体的な指摘を踏まえ、最終的な報告書の作成も視野に入れながら、今後は個々の活動を丁寧に汲み取り、評価を進めていきたい。

② 生徒の聞く姿勢と意識づくり

現地教員による講話などにおいて、生徒の聞く姿勢については、今後さらに意識を高めていく必要がある。オンラインの場面でも、相手に安心感を与えられるような態度づくりが求められる場面があった。
→ これは英語に対する不慣れから生じる要因だけでなく、今回の実践に限らず、日常的な意識づくりをどのように進めていくかという課題も浮き彫りになった。ご紹介いただいた参考文献等も参照しながら、生徒が相手の立場(話し手の視点)を感じ取れるような活動を取り入れ、意識の醸成と改善を進めていきたい。

③ 支援する/される関係に陥らないための問いかけ

支援する/される関係に陥らないよう、以下のような問いかけを行ってはどうだろうか。

【視点を揺さぶる問い(自分たちの前提を相対化する)】
  • 「カンボジアの子どもたちに届けたいと思った“教材”は、なぜその形になったのでしょうか。」
  • 「もし逆に、カンボジアの生徒たちが“日本の子どもたちのために教材を作る”としたら、どのような教材になるでしょうか。」
  • 「『支援する』とはどのような関係だと思いますか。『支え合う』とはどう違うのでしょうか。」
【対等な関係性の想像を促す問い】
  • 「おたがいに学び合う国際協力には、どのようなあり方が考えられるでしょうか。」
  • 「“カンボジアの人たちが伝えたいこと”とはどのようなことだと思いますか。それを聞くための方法はあるでしょうか。」
    → 今後は、生徒が考えたアクションを具体化して実行に移すとともに、フィールドワークも行う予定である。この一連の活動(第1巡回目)を活用し、いただいた具体的なご指摘を参考にしながら、生徒同士で相互評価を行い、現地向けの教材や交流学習の質をさらに高めていきたい。

本期間の裏話

① カンボジア国内小学校同士のオンライン交流の芽生え

図5 カンボジア小学校間における新たな交流の芽

 国際交流における課題の一つとして、先進国の教育機関が海外のパートナー(コミュニティ)を、あたかも自国の学生の「教室」として捉え、学生の学習成果や利益のみに焦点を当てがちであることが、先行研究等で指摘されています。これまでのカンボジアの小学校との交流も、「本校」対「現地小学校1校」という一対一の関係が中心でした。

 しかし昨年度以降、これまでに築いてきた現地との信頼関係を基盤に、オンライン交流に複数の現地小学校が参加するようになりました。その結果、カンボジアの小学校間でも新たなつながりが生まれ、学校同士が交流を始める小さな芽が育ちつつあります(図5)。

② 打ち合わせを起点とした学び合いの萌芽

図6 現地教員と協働の学習会の一コマ

 現地教員との打ち合わせの中で、「カンボジアでは日本の学校との交流を希望しているものの、現地教員がICTや英語に不慣れなため、交流の実践に躊躇してしまうことがある」と語られました。このような状況を踏まえ、日本の学校との交流を実現するために、まずはICT(ZoomやUDトーク等)の活用方法に慣れることを目的とした現地教員との協働学習会が始まりました(図6)。

本期間の成果

① 生徒の内面の変容と学びの深化

 ABR(アートベース・リサーチ)の手法を取り入れたことで、生徒は活動を振り返りながら、自らの成長や気づきを可視化することができました。特に、コラージュ作成とインタラクティブなインタビューを組み合わせることで、生徒同士が互いの経験を言語化・共有し、自己認識を深めるとともに、他者理解の視野を広げることができました。

② ICTツールの活用による言語的課題の克服

 オンライン交流では、英語に対する不安やスキル不足が原因で、質問内容が浅くなったり、会話が停滞したりする場面が見られました。しかし、UDトークを活用することで、生徒は言語の壁を感じることなく交流に参加できるようになり、内容理解や質問の質が向上しました。アンケート結果からも、多くの生徒が「相手の発言内容を正確に把握できた」「聞きたいことをスムーズに伝えられた」と肯定的に評価しており、ICTを適切に活用することが交流学習の質の向上につながることが示されました。

③ 国内連携の活性化と持続可能な交流の基盤形成

 授業時間の制約などにより国内連携が停滞する状況の中で、昼休みなどの隙間時間を活用したミニ交流会を実施しました。これにより、国内連携校3校の生徒が同時に参加し、外部講師による講話を通じて多様な視点を得る機会が生まれました。この取り組みは、日常的なつながりを生み出すとともに、生徒同士が互いに刺激を受けながら学び合う環境づくりの一歩となりました。

今後の課題

 交流学習のモデル構築に向けて、「課題の見つけ方、アクションプランにつなげる」の視点から評価を行う必要性が明らかになりました。個々の活動については、「何をしたのか」「何が活かせたのか」「何が活かせなかったのか」といった点を丁寧に汲み取りながら、評価を進めていくことが求められます。

今後の計画

夏休み期間を中心に、生徒たちのアクションプランの具現化を進めていきます。

  1. ①2年生の探究学習(GFSⅡ)では、カンボジア実践に向けて必要となる英語力を中心に、オンライン交流の経験を養うことを目的としています。その為、8月に開催される国際イベントでの協働発表・プレゼンテーションを一つの到達目標とし、フィリピンの姉妹校および連携校と共に準備を進めるなかで、英語によるオンライン交流の経験知を育んでいきます。
  2. ②3年生の探究学習(GFSⅢ)では、現地児童に向けて実施するオンライン・ワークショップのプレ実践として、8月に開催される国際イベントにおいてカンボジア現地教員との対面による協働ワークショップの開催を計画しています。そのため、生徒は計画の立案および実践に向けた準備・練習を進めていきます。

成果目標

  1. ①交流学習のモデル構築に向けて、個々の活動について「何をしたのか」「何が活かせたのか」「何が活かせなかったのか」といった点を丁寧に評価し、その積み重ねを行う。
  2. ②現地の要望をより反映したICT学習コンテンツを作成するとともに、その実現に必要となる生徒のスキル(相手の立場で考える力、当事者意識、英語でのコミュニケーション力など)について、アートベース・リサーチの手法も活用しながら示唆を得る。
アドバイザーコメント
岸 磨貴子 先生
明治大学
教授 岸 磨貴子 先生

本期間における日本福祉大学附属高校の国際探究も2年目となりました。この期間の特徴的な活動として、以下の3点が挙げられます。

(1)生徒が自らの学びを探究するためのアートベース・リサーチ(ABR)の導入

探究における生徒の「気づき」や「変容」は、従来の知識テストでは捉えにくい内面的な学びです。今回、コラージュという表現手法を用いることで、生徒たちの経験をナラティブに引き出す実践が行われました。たとえば、靴下と靴を履かせたコラージュ作品から「まずは、行動から始めないといけないなって思いました。行動するっていう意味、つまりアクション。まずはアクション、考える前に動くってことです」といった語りが生まれたように、アート表現と言語表現がちょうどよく違いを刺激し、内省と意味の生成を促している点が特徴的です。

こうした実践は、従来の評価基準では捉えにくかった「内面的変容」や「感情」「意味づけ」のプロセスを可視化しようとするABRの基本的理念とつながっています。ABRでは、表現された作品自体がデータとして扱われるだけでなく、そこから生まれる語りや対話もまた重要な生成的プロセスとして位置づけられます。教師にとっての問いは、生徒の経験の言語化をいかに豊かに促すか、という点でしたが、今回の実践は、まさにこの問いに対して有効なアプローチを提示していたといえるでしょう。

(2) 道具とちょうどよく付き合う実践

国際探究においては、「英語を使う・英語で学ぶ」という視点が重要である一方で、交流相手であるカンボジアの教員や児童生徒を生徒の英語練習の相手として位置づけるのは、本実践の意図とは異なります。両者は「教える/教えられる」といった一方向の関係ではなく、教材制作という共通の目的をもった対等なパートナーであり、その協働のなかで言語を含む多様な表現が用いられます。

そうした協働的な実践の中で、UDトークのような翻訳・通訳ツールを適切に導入していた点は高く評価できます。もちろん、テクノロジーに依存しすぎることは、生徒が英語で伝える力を培う機会を奪うおそれもありますが、活動における重要な場面ではツールを使って確実に意味を伝え、日常的なやりとりや雑談の中では英語で挑戦してみるなど、生徒自身が目的や状況に応じて道具を選択し、使い分けられるようになることは重要です。

このような道具との関係は、イヴァン・イリイチ(2015)が提唱したコンヴィヴィアルな道具という概念とも重なります。イリイチは著書『コンヴィヴィアリティのための道具(2015)』の中で、自律的に使える道具の必要性を説きました。コンヴィヴィアルな道具とは、人々が自分の目的のために、自分たちのペースで、他者と協働しながら使えるような道具であり、道具の使用によって人間のエージェンシー(自律性・主体性)が促進されるような関係性を指します。

今回の実践において、生徒たちが翻訳ツールを単なる英語を訳してくれる道具として受け身で使うのではなく、状況や活動にあわせて導入されていました。今回は、教師がその判断をしたかと思いますが、こうしたちょうどよく道具をつかえるようになること、使いこなすことは、重要な情報リテラシーであるといえます。

(3) 国内外のネットワークを活かした多層的な経験

国際探究において、予定どおりに進まないという事態は珍しいことではありません。むしろ、こうした不確実性を柔軟に受けとめ、生まれた余白の時間を活かして学びを継続していく力こそが、真に開かれた探究の力といえるでしょう。今回の実践では、たとえば昼休みのミニ交流会や、校内での即興的な協働活動など、隙間時間を用いた国内連携の工夫が随所に見られました。これらは、カンボジアとの交流が単なる特別なイベントではなく、生徒たちにとって日常の延長線上にある探究のひとつの場であることを実感させる貴重な実践となったと思います。

また、こうした国内連携での対話や表現の経験は、結果的にカンボジアの現地教員や児童生徒とのやりとりにおいても活かされる側面は多いと思います。オンラインでの交流、関わり方、問いの立て方、相手の意見や考えの受け止めなど、活動全体が多層的に接続されていくかと思います。国内外のネットワークはそれぞれ独立して存在するのではなく、互いに関連していることから、生徒がこうした多層的な経験をどのように結びつけ、国際探究に取り組んでいくようになるかを明らかにしていくことも、本実践の独創的な点になるでしょう。