国立大学法人神戸大学附属小学校

第48回特別研究指定校

研究課題

ICT機器を活用した金融教育カリキュラムの開発と有効性検証
~開発アプリ「学Pay」を用いた異年齢集団による「附小マーケット」の実践を通して~

2022年度08-12月期(最新活動報告)

最新活動報告
本研究のテーマは,「ICT機器を活用した金融教育カリキュラムの開発と有効性検証」......

アドバイザーコメント

豊田 充崇 先生
本研究のテーマは「金融教育カリキュラムの開発」となっていますが、小学校の......

国立大学法人神戸大学 附属小学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 兵庫県 国立大学法人神戸大学 附属小学校
アドバイザー 豊田 充崇 和歌山大学 教授
研究テーマ ICT機器を活用した金融教育カリキュラムの開発と有効性検証
~開発アプリ「学Pay」を用いた異年齢集団による「附小マーケット」の実践を通して~
目的 本研究は,児童会活動として行う本校の全校単元「附小マーケット」の学習において,タブレット端末のアプリにおける電子マネー(本校独自通貨「学Pay」)を用いた金融活動やクラウドファンディングを通したお店の予算獲得の活動を取り入れることにより,情報リテラシーや金融リテラシー,アントレプレナーシップを併せ育むことを意図している。具体的な目的は,以下の通りである。
  1. ①本校の基盤である縦割り班(特別活動における児童会活動)を単位とし,「附小マーケット」の全校単元を行い,6年間の継続的系統的な金融教育カリキュラムを開発する。その際,他教科との関連もカリキュラムに位置付け,教科横断的な学びを実現する。
  2. ②「附小マーケット」に向けた準備を通して,人と協働する楽しさや大変さを味わうことと,その結果としての金銭の授受を電子媒体によって行うということを合わせて経験することで,電子媒体を通した金銭の授受に対してもリアルな実感を伴った金銭感覚を育む。
  3. ③電子決済にアンケート機能を搭載したアプリを開発することで,稼げた金銭の多寡によってのみ自分たちの活動を評価するのではなく,お客側からのフィードバックを適時把握し,それを踏まえて班ごとに成長や改善を目指すという自己評価活動のあり方を確立する。
  4. ④保護者もお客として学習に参加し,アンケートを通して子どもたちの活動にフィードバックを行うことで,学校と保護者が学習の目的を共有した上で全校的な自治的活動に参画し,共に学校すべての子どもを育む教育活動を推進する。
  5. ⑤各班の予算をクラウドファンディングの結果によって追加する活動を行うことで,新しいアイディアを生み出す面白さや主体的挑戦的な姿勢を育む。
現状と課題 ≪ICT環境の現状と課題≫
児童の一人一台のタブレット端末(iPad)および,校内無線lan(一部の教室を除く)が整備されている。ただし,教員用タブレットは数台の共有タブレットを必要に応じて使用しており,全教員分が整備されていない。また,各教室には電子黒板が設置されいる。様々な教科の学習において,積極的にICT機器を使用している他,児童アンケートの実施や児童への資料共有等にもタブレット端末を活用している。また,保護者アンケートや欠席連絡,学校からの情報発信もすべてデジタル化しており,児童,保護者ともにICT機器の活用に積極的である。児童の基本的なICT環境は整っているため,今後はICT機器を活用し,各教科学習のほか,リテラシー教育,生活指導,特別活動,教育家庭と学校の協働にも積極的に取り組んでいく必要があると考えている。

≪特別活動の現状と課題≫
単元「附小マーケット」は,今年度が初めての取組みとなるが,その基盤となる縦割り班には,長年,学校として取り組み,実績を積み上げてきた。そのため,全校的に班長を中心とした班運営を行う教育活動が確立されている。一方で,教育活動のプログラムが定番化していくことによって児童の創造性を発揮する場が減少していることから,より縦割り班の仲間と協働的・創造的に取り組むことができるプログラムを設定し,主体的で挑戦的な姿勢を育んでいく必要があると考えている。

≪金融教育の現状と課題≫
金融に関する学習としては,家庭科や生活科,道徳など,各教科において学習指導要領の学習内容に基づき,個別に行ってきた。しかし,各教科での学びを関連付けながら金融教育としてカリキュラムを体系化することはできていない。今後は,「附小マーケット」を核にしながら,各教科での金融に関わる学習内容を金融教育としてカリキュラム整備を行いたい。
学校情報化の現状 ICT機器の整備については,十分に整っている。また,校務支援システムを中心に,校務の情報化も急速に進めてきた。今後は,情報モラルやプログラミングといった情報教育や,ICT活用による学習支援の推進など,ソフト面の充実に力を注いでいきたい。
取り組み内容 本研究は,1~6年生で構成する縦割り班ごとに各自のアイディアを基に出店し,全校で「附小マーケット」を創り上げるという全校単元において実践する。本校では,年間を通して児童会活動に取り組んでおり,運動会や遠足,日々の清掃活動もすべて縦割り班で行っている。各班の班長は,定期的に班長会議を開いて班運営や学校全体の実態について話し合い,年間を見通した計画的な班づくりに取り組んでいる。また,班長会議を担当する教員の役割は校務分掌に位置づけられており,全教員と班長との橋渡しを行いながら,児童会活動の運営をリードしている。このような緻密で組織的な児童会活動において,先述の現代の諸課題に対応するべく「附小マーケット」の単元を新設したいと考えた。「附小マーケット」は,次のような展開を想定している。
  1. ❶班ごとにお店のアイディアを出し合う。
  2. ❷全校で集まって各班がお店の内容をプレゼンし合い,児童同士が互いにクラウドファンディングを行う。
  3. ➌クラウドファンディングの結果に応じて予算が加算され,その予算の範囲内で具体的な出店の準備を進める。
  4. ❹「附小マーケット」を開催し,お店側とお客側を交代して経験したり,保護者をお客として招待したりする。「附小マーケット」におけるお客側の支払いは,タブレット端末のアプリを通して行う。アプリ内では支払いと同時にアンケートが行える機能をつけることで,お客側が感じた嬉しさや満足感とその理由をお店側に適時フィードバックする。
  5. ❺お客側から受け取ったフィードバックの内容を班の仲間と読み合いお店の運営に反映させたり,「附小マーケット」の準備や当日の自分たちの頑張りを振り返ったりすることを通して,班の仲間と一緒に活動を創り上げたことを喜び合ったり嬉しく感じたりする。
成果目標 本研究の目的の1~5それぞれについて,以下のように成果目標を想定している。
  1. ①児童会活動としての単元「附小マーケット」と他教科における6年間の金融教育カリキュラムを作成する。
  2. ②本研究の事前アンケートにおいて把握した児童の金融リテラシーの実態に合わせた実践を行う。
  3. ③単元を通して用いる学習カードに,お客側からのフィードバックが自分のお店屋さんにどのように生きたのかを記述できる欄を設け,自分たちの成長や改善はどのようなことが要因となっていたのかを自覚できるようにする。
  4. ④「附小マーケット」当日だけでなく,保護者が懇談会や通信等を通して,本研究を理解し学校教育に関わった実感を得る機会を設ける。
  5. ⑤各班のお店のアイディアを互いに知り合う機会を複数回つくり,新たなアイディアを創出することの面白さを感じられるようにする。
助成金の使途 アプリ開発費、iPad64GB Wi-Fiモデル、発話の文字起こしの委託費、先行実践の調査旅費他
研究代表者 田淵 知紗
研究指定期間 2022年度~2023年度
学校HP https://www.edu.kobe-u.ac.jp/hudev-akashie
公開研究会の予定
  • ・1年次 2月…全校単元「附小マーケット」の実践発表および他教科における金融教育の先行実践の公開
  • ・2年次 8月頃…本研究の実践発表もしくは投稿(日本特別活動学会を予定)
  • ・2年次 11月…アプリを活用した金融活動(クラウドファンディング,附小マーケット当日)の実践公開
  • ・2年次 2月…全校単元「附小マーケット」の取組についての成果発表の実施

本期間(4月~7月)の取り組み内容

1.ICT機器の積極的活用
…デジタルポートフォリオ,ICTを活用した取組みの保護者向け発信

【デジタルポートフォリオ】

 本校では,一人一台のiPadを整備している。iPadは,これまでも各学年様々な学習で使用してきたが,今年度はより積極的に活用していくことにした。その取組みの一つとして,全校で行っている「デジタルポートフォリオ」がある。

 小・中学校においても,キャリア教育の他,総合的な学習の時間を中心に,ポートフォリオが様々な教育活動で取り入れられるようになってきている。また,最終的な結果だけではなく,学習のプロセスを蓄積することで自分の学びを総体的に捉えられるという点で,評価活動にポートフォリオを導入することの意義は大きい。しかし,紙媒体でポートフォリオを作成するには,児童にとっても教師にとっても負担がかかる面があった。

 そこで,ICT機器を活用することで,特に低年齢の児童や発達に困難を抱える児童にとって,従来のポートフォリオ作成では大きな負担となっていた,ワークシートや資料等の整理への苦労を軽減したいと考えた。また,ICTを活用することによって児童の負担が軽減されることは,教育活動を支援する教員にとっての負担が軽減されることにも繋がる。作成作業自体への負担感を軽減することで,ポートフォリオの内容に対する支援の質を高めていきたいと考え,ICTを活用した新たなポートフォリオの作成と運用に取り組むこととした。

【ICTを活用した取組みの保護者向け発信】

 各教科の学習でも,ICTを積極的に取り入れて授業を行った。デジタルポートフォリオや各教科での様子を各学年が「学年通信」にまとめることで,学校が積極的にICTを活用して授業を行っていること,また,どのように活用しているかの具体を保護者に向けて発信した。

2.ICTを効果的に活用する授業づくりの工夫と実践公開による効果検証

 ICT機器の積極的な活用を全学年で推進してきたが,具体的にどのように活用することが効果的なのかを検証する必要があると考えた。そこで,ICTを活用した授業の参観およびその事後検討を校内の授業研究として行った。

  • ・日時:2022年6月16日(木)14:45-15:30
  • ・学年:第3学年
  • ・教科・単元:音楽科「映像から生まれる音を楽しもう」
<実践授業の概要>

 前時は,映像と音楽の関わり合いに興味を持ち,曲に当てはまる映像を予想したり,映像にあてはまる曲を予想したりする活動に取り組んだ。曲だけを聞いて頭の中でイメージをもつ鑑賞の授業とは異なり,映像を見ながら曲を聞いたり,曲を聞きながら映像を選んだりすることで,映像から音色や大きさ,タイミングをより具体的に捉えて聞くことができた。

 本時では,なかでも音色に着目し,自分が選んだ映像に合う音が出る楽器を選ぶという活動を行った。様々な種類の楽器を鳴らしている動画をiPadで配信し,子どもたちが自分のiPadで一つひとつの楽器の音を聞きながら,映像に合った音色の楽器を選ぶことができるようにした。

<事後検討で挙げられたICT機器の効果>
  • ・映像によって子どもたちの思考内容が焦点化されていたが,それがまさに音を出すタイミングや音色といった本時で着目させたいポイントとなっていた。その要因は,授業の発問と映像の切り取り方や提示の仕方がしっかりと繋がっていたことにあった。
  • ・どのような音色がいいのかを考えながら,映像を何度も繰り返し見ている子どもたちがいた。自分のペースで必要に応じて繰り返しみることができるのはICT機器を活用することの良さだった。
  • ・iPadから出る音の大きさが程よく,一人ひとりが音をじっくり聞いて吟味することができていた。
  • ・映像を見ながら音色を選ぶ際に,自分の選んだ映像には合っていないと判断した音色と,合っていると判断した音色の動画を区分してロイロノート上で整理することができるので,視覚的に自分がどの音色を候補にしているのかが分かりやすくなっていた。
  • ・次時以降も,必要に応じて映像や音色の動画を繰り返し見たり,振り返って見返したりすることができる。学習をいつでも振り返ることができるという点がICT機器の良さである。
  • ・曲を聞いて頭の中でその情景を想像するということが鑑賞の授業のイメージであり,鑑賞の授業=分かりにくいという印象があったが,映像が入ることで何を考えるとよいのかが可視化され,非常に分かりやすくなっていた。

3.金融教育の学習効果を測るアンケートの開発過程

 本研究のテーマは,「ICT機器を活用した金融教育カリキュラムの開発と有効性検証」であるため,金融教育の有効性を測ることができる調査の開発を行う必要があると考えた。そこで,金融教育の事前と事後でどのように金銭感覚やお金の仕組みに対する興味関心が変化しているのかを測るアンケートを作成した。

 アンケートの作成にあたっては,校内の特別活動部の教員を中心として,繰り返し検討を重ねた。電子マネーやスマホ決済の使用経験の度合いによって経験群を分け,それぞれの場合において,お金の使い方やお金に対する意識,また,お金の流通の仕組みや電子マネー・スマホ決済の仕組みに対する興味関心を問うアンケートを作成した。

 本アンケートは,金融教育の事前調査として,7-8月の期間に児童と保護者を対象に実施をする。そして,本校の金融教育の根幹である全校単元『附小マーケット』を終えた後の12月に,事後調査として同じアンケートを実施することを予定している。事前調査と事後調査を比較することで一年間のなかでの金融教育の効果を測ることができると考えている。さらに,本アンケートを来年度も同時期に行うことで,一年次と二年次の経年変化を捉えるとともに,一年次の効果の持続程度も測定していきたいと考えている。

 また,保護者にも同じ内容のアンケートに協力いただくことで,金融教育の効果がご家庭にどの程度影響を与えているのかをも明らかにしていきたいと考えている。

4.本校の金融教育の根幹となる全校単元『附小マーケット』で用いるアプリ「学Pay」の開発過程

 アプリ「学Pay」は,以下のような手順で使用することをイメージし,開発をしている。

  1. 1.教員が管理画面からチャージ用のQRコードを作成する
  2. 2.児童が自分の端末でチャージ用QRコードを読み取り,お金をチャージする
  3. 3.お客側の児童がお店に行き,サービスや商品の金額を入力し,その情報が含まれたQRコードを作成する
  4. 4.お店側の児童が3で作成したお客側の児童のQRコードをお店側の端末で読み取り,売り上げ金とアンケートの回答を受信し,情報をお店側の端末に蓄積する
  5. 5.商品の受け渡し後,「売買成立」ボタンを押すことでお客側の児童の残金を減らす

 4-7月期において,特に検討したのは,「4」における「お客さんからのアンケート」機能の具体的な内容であった。特にアンケート内容の抽象度について,繰り返し検討を行った。アンケートの内容の具体性において,精度が上がると,お店側の改善に直接的に繋がるフィードバックが期待できるが,その一方で,本アプリの活用場面が限定的になるという問題があった。検討を行った結果,今後,アプリを広く公開した際の汎用性を高く維持するためにも,アンケート項目の内容を規定せず,番号だけの設定に留めることとした。また,アンケートには,自由記述ができるコメント欄も設けることにした。さらに,お店側の端末では,各項目について「全くそう思わない,あまりそう思わない,そう思う,とてもそう思う」が各々どれくらい回答されているのかの数が分かる(集約できる)機能を搭載していくこととなった。

アドバイザーの助言と助言への対応

1.金融教育の学習効果を測るアンケートの開発過程について

 研究開始当初,アンケート調査を行うことは予定していたものの,どのようなアンケートを作成するかの具体は決まっていなかった。しかし,アドバイザー訪問の際,電子マネーやスマホ決済の利用経験群ごとに調査をしてはどうかというご助言をいただいた。そのご助言を受け,実際のアンケートは,経験群を区分するアンケートを含めた二部構成とした。

2.先行研究の探し方について

 小学校での金融教育の事例は非常に少なく,先行研究の見つけ方に苦労した。アドバイザー訪問では,豊田教授のご紹介により,先行研究として二校の実践取組みを知ることができた。これらの学校での取組みの具体を調べることを通して,クラウドファンディングを教育活動に取り入れることの利点を再確認することができた。

3.マーケティングリサーチ「消費者の声」のデータ集計方法について

 本研究では,メインとなる活動として,『附小マーケット』という全校単元を開発している。『附小マーケット』では,各お店の会計時にお客さんからアンケートに答えてもらうことで,その後のお店の改善に活かしていくという活動場面を設定している。お客さんからのフィードバックは,基本的には開発中のアプリ「学Pay」にアンケート機能を搭載することで実現していこうと考えている。アドバイザー訪問では,独自開発のアプリの他にも,手軽にフィードバックを行うことができる既成のアプリを紹介いただいたため,金融教育の活動内容に合わせて,搭載された機能によって,より適切なアプリを組み合わせて活用していきたいと考えている。

本期間の裏話

 5月。入学して間もない一年生が初めて学習でiPadを使用した。初めてiPadを使用したのは,特別活動の時間であった。タブレット端末使用への慣れ・不慣れの実態は,特に一年生においてはこれまでの生活経験によって幅があるが,iPadを学習で使うことに大きな期待感を抱き,楽しみにしていることは全員の表情から見取れた。その後も,学習でiPadを使うことを心待ちにし,一番最初にiPadを使う機会となった「特別活動」の時間になる度に,「今日もiPad使うの?」と嬉しそうに聞きにくる一年生の姿がたくさん見られる。

本期間の成果

  • ・ICT機器の活用が一層推進された。一年生の子どもたちを含め,iPadやロイロノートといったICT機器を使いこなす姿が日常的に見られるようになっている。学習場面に限らず,全校行事や特別活動,給食や生徒指導に関する啓発などにおいても,ロイロノートのアンケート機能や配信機能などを積極的に活用している。
  • ・金融教育の効果を測る調査アンケートが完成した。また,本アンケートを実際にロイロノート上で配信し,アンケート調査の実施を進めていくことができた。
  • ・アプリ「学Pay」の内容が決定し,試作段階へと進むことができた。現在,プロトタイプのアプリ作成段階となっている。

今後の課題

  • ・金融教育アンケートを回収し,その結果から,金融教育前段階における電子マネーやスマホ決済の経験群ごとのお金の使い方やお金に対する意識,また,お金の流通の仕組みや電子マネー・スマホ決済の仕組みに対する興味関心の実態を分析していく。
  • ・アプリ「学Pay」について,今後はプロトタイプの形でアプリの内容詳細を検証していく。
  • ・今回は保護者への取組み発信として,学年通信を通したICT機器の活用の様子を紹介したが,さらに広く研究成果を発信していく場として,HP上における本研究の取組ページを開設していく必要があると考えている。

今後の計画

8-9月

  • ・児童/保護者事前調査アンケートの結果を分析する。
  • ・10月からのアプリの運用に向け,さらにアプリの内容詳細を検討していく。
  • ・『附小マーケット』の実施計画について,内容詳細を検討していく。

10-11月

  • ・『附小マーケット』を実践する。
  • ・子どもたちの準備プロセスと当日のアプリ活用の様子についても,ICT機器を活用して記録する。

12月

  • ・児童/保護者を対象に,金融教育事後調査アンケートを実施する。
  • ・ICT機器を活用した他教科における金融教育カリキュラムを作成する。

1月

  • ・児童/保護者事後調査アンケートの結果を分析する。

2月

  • ・全校単元『附小マーケット』の実践発表および他教科における金融教育の先行実践を公開する。

気付き・学び

  • ・校内で実践公開した音楽科の学習において,従来は曲を聞いて頭の中で曲想を思い浮かべることが一般的だった鑑賞の授業展開とは異なり,映像と動画を用いた視覚的な情報と音色や音の大きさ,タイミングといった聴覚的な情報を融合させる新たな授業展開が行われた。このことから,どのような場面でICT機器を有効に活用するのかを考え,実現していくことは,教師自身がこれまでのスタンダードイメージに縛られることなく,学習の場面を創造的に再構成していくことに繋がるということに気付かされた。

成果目標

  1. ①本校の基盤である縦割り班(特別活動における児童会活動)を単位とし,『附小マーケット』の全校単元を行い,6年間の継続的系統的な金融教育カリキュラムを開発する。その際,他教科との関連もカリキュラムに位置付け,教科横断的な学びを実現する。
    児童会活動としての単元『附小マーケット』と他教科における6年間の金融教育カリキュラムを作成する。
  2. ②『附小マーケット』に向けた準備を通して,人と協働する楽しさや大変さを味わうことと,その結果としての金銭の授受を電子媒体によって行うということを合わせて経験することで,電子媒体を通した金銭の授受に対してもリアルな実感を伴った金銭感覚を育む。
    本研究の事前アンケートにおいて把握した児童の金融リテラシーの実態に合わせた実践を行う。
  3. ③電子決済にアンケート機能を搭載したアプリを開発することで,稼げた金銭の多寡によってのみ自分たちの活動を評価するのではなく,お客側からのフィードバックを適時把握し,それを踏まえて班ごとに成長や改善を目指すという自己評価活動のあり方を確立する。
    単元を通して用いる学習カードに,お客側からのフィードバックが自分のお店屋さんにどのように生きたのかを記述できる欄を設け,自分たちの成長や改善はどのようなことが要因となっていたのかを自覚できるようにする。
  4. ④保護者もお客として学習に参加し,アンケートを通して子どもたちの活動にフィードバックを行うことで,学校と保護者が学習の目的を共有した上で全校的な自治的活動に参画し,共に学校すべての子どもを育む教育活動を推進する。
    →『附小マーケット』当日だけでなく,保護者が懇談会や通信等を通して,本研究を理解し学校教育に関わった実感を得る機会を設ける。
  5. ⑤各班の予算をクラウドファンディングの結果によって追加する活動を行うことで,新しいアイディアを生み出す面白さや主体的挑戦的な姿勢を育む。
    各班のお店のアイディアを互いに知り合う機会を複数回つくり,新たなアイディアを創出することの面白さを感じられるようにする。
アドバイザーコメント
豊田 充崇 先生
和歌山大学
教授 豊田 充崇 先生

【研究のオリジナリティと重要性】

 まずは、本件の研究内容のオリジナリティについてですが、当財団の3000件を超える実践研究助成データベース(https://www.pef.or.jp/db/)においては、金融教育・金銭教育に加えて消費者教育の取り組みも見つかりません。また、電子マネーをキーワードにした研究もありません。よって、今回の「小学校で校内通貨ともいうべき仮想の電子マネーを活用した取り組みの実践的研究」というその着想自体に新規性を感じます。

 金融教育については、本年度から高等学校の家庭科にて実施されることが教育系ニュースで度々報道されてきましたが、国内の小学校では、まだまだ実践的な研究の蓄積が少ないといえます。その金融教育に関して、小学生でも活用できる仮想電子マネーの専用アプリ開発・検証も込みでの実践的な研究となると大きな期待がかかるのは当然かと思います。

 そもそも、「金融教育」自体が、まだ教育分野でも共通認識されていないかと思いますので、まずは、1つのまとまった資料として、金融広報中央委員会による「学校における金融教育の年齢層別目標」【改訂版】をぜひ一度ご参照いただければと思います。

https://www.shiruporuto.jp/education/about/container/program/mokuhyo/

 例えば、上記資料の「生活設計・家計管理に関する分野」の小学校中学年では、

  • ○欲しいものと必要なものの区別ができる
  • ○お金の適切な使い方を知ることを通じて節度ある生活の大切さに気付き、実践する。
  • ○こづかいとしてもらったお金や使ったお金の記録をつけることなどを通じて、お金を管理する。

 といった目標が並びます。なんとなく大人が読んでも自戒の念がよぎるフレーズです。また、下記のように教科との関連も示され、他の項目からは特に社会科・特別活動との関連性も強いことがわかります。

  • ○お金の使い方について見直しながら、自ら節度を守り節制に心掛ける(道徳)
  • ○プリペイドカードなどは金銭同様に大切に扱う必要があることを理解する(家庭科)
  • ○必要性を考えて、計画を立て、それに沿って買い物ができる(家庭科)

 金融教育の目標を俯瞰していると、キャリア教育との関連性も強く、消費者教育や防災教育、統計教育そして情報教育とクロスオーバーする部分も多いことが分かります。金融教育というと、なんとなくその字面から、「銀行の仕組み・投資・資産形成」といったイメージが強いのですが、上記のサイトでは、「自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育」とあり、目標リストを参照すると、なるほどと納得できるかとおもいます。よく考えてみれば、「お金を使わない日は無い」わけで、意識すればするほど、身近なテーマであることが分かります。

 しかしながら、現在の小学生には、社会全体の金銭のやり取りが見えづらくなっていることも確かです。給料袋を見たり、集金に来る人もほとんどいなくなっていますし、ネットショッピングでモノが届くけども、支払いの場面を見ていないと、それがいくらなのかも知らないと思います。駄菓子屋で100円を握りしめて、何が買えるかを店先で考えて支払うといった経験のある児童のほうが少ないのではないでしょうか。思い起こせば、お札を自分の判断で初めて使ったのは、ボードゲーム「人生ゲーム」においてだったと思います。「人生を楽しく過ごす」ためには、やはり、お金がかかるということを実感し、学んだ瞬間だったかもしれません(笑)。

 今や、児童らもお菓子の支払いは交通系ICカードによる電子マネーが多くなっており、最近は塾の入校カード、通学定期にも電子マネー機能が搭載されています。使用履歴をスマートフォンで管理している児童もいるくらいです。加えて、オンラインゲームへの課金も考えると、児童によっては、リアルマネーよりも電子マネーの方が金額的には使用している可能性もあります。

 社会生活上、見えなくなっているお金の動きですが、だからこそ、それを意識させて、お金の価値を実感する機会がより一層必要となってきたともいえるのではないかと思います。

【第一期報告より】

 さて、神戸大学附属小学校の第一期報告からは、タブレット一人一台体制におけるICT活用授業の環境が充分に整備されていること、そして、その日常使いが既になされており、慣れる段階を経て、はっきりとした学習効果を見出だせる程になってきたことが報告されました。特に、デジタルポートフォリオなどの取り組みは、これだけでも1つの研究になるのではないかと思います。これらの一連の活動は、これからはじまるタブレットの電子マネーアプリを活用した実践的な研究の基盤となることがうかがえます。また、事前アンケートでは児童・保護者ともに実施し、実践の成果以外に、金融教育に関する意識調査・電子マネー等の利用実態把握も兼ねた調査にもなるため、その結果には注目が集まるのではないかと予想されます。

 そして、開発中の電子マネーアプリの動作画面やその機能なども見えてきました。目標達成のために機能を絞り込み、ユーザーフレンドリーなインターフェイスであるように思います。実践的検証を経て、このアプリが全国の学校でも使えるようになるといったことを想像するだけで、期待に胸が膨らみます。

 加えて、このアプリ画面を見て1点気づいたのですが、買い手の視点だけではなくて、売り手の視点も意識しているところにあります。売り手が買い手から商品のフィードバックを受けとる機能がついている点です。確かに、モノを買う以前にモノを作り出して売るという側が時系列的に前にあるのを忘れていました。「消費者立場で賢い買い物の仕方を学ぶ」という視点でみていたのですが、「より良い製品をつくるためには」といった、日本のものづくりの精神につながるような取り組みにも発展するのではないかと考えられます。マーケティングの学習や起業家教育にもつながる今回の取り組みにより期待が高まったといえます。二学期からの本格的な取り組みについて、続報が待ち遠しいです!

本期間(8月~12月)の取り組み内容

1.金融教育の学習効果を測る事前アンケートの実施

 本研究のテーマは,「ICT機器を活用した金融教育カリキュラムの開発と有効性検証」であるため,金融教育の有効性を測ることができる調査の開発を行い,その調査を実施した。具体的には,金融教育の事前と事後でどのように金銭感覚やお金の仕組みに対する興味関心が変化しているのかを測るアンケートを保護者,児童それぞれを対象に行った。本アンケートは,金融教育カリキュラム実施前の「事前アンケート」であり,11月実施の『附小マーケット』(全校で行う金融教育カリキュラム)後に「事後アンケート」を行う。

 なお,保護者向け事前アンケートはGoogleフォームを使用し,児童向け事前アンケートはロイロノートのアンケート機能を使用した。

≪保護者向け事前アンケートの結果≫
≪低学年の児童向け事前アンケートの結果≫
≪中・高学年の児童向け事前アンケートの結果≫

 今後は,事後アンケートと比較しながら,アンケート分析を行っていくことを予定している。

2.本校の金融教育の根幹となる全校単元『附小マーケット』で用いるアプリ「学Pay」の完成

 本校の金融教育の根幹となる全校単元『附小マーケット』で用いるアプリ「学Pay」が完成した。アプリ開発過程で計画予定していた通り,以下の手順で用いることができるアプリとなった。

  1. 1.教員が管理画面からチャージ用のQRコードを作成する
  2. 2.児童が自分の端末でチャージ用QRコードを読み取り,お金をチャージする
  3. 3.お客側の児童がお店に行き,サービスや商品の金額を入力し,その情報が含まれたQRコードを作成する
  4. 4.お店側の児童が3で作成したお客側の児童のQRコードをお店側の端末で読み取り,売り上げ金とアンケートの回答を受信し,情報をお店側の端末に蓄積する
  5. 5.商品の受け渡し後,「売買成立」ボタンを押すことでお客側の児童の残金を減らす
≪お客さん側の画面の一部≫
≪お店屋さん側の画面の一部≫

 開発したアプリ「学Pay」は,App Storeで公開しており,様々な学校等で利用していただくことができるようになっている。

3.全校単元『附小マーケット』の実施

 11月26日(土)に,全校単元『附小マーケット』を実施した。『附小マーケット』は,今年度が初めての実施であった。『附小マーケット』では,次のような展開を計画した。

  1. ❶班ごとにお店のアイディアを出し合う
  2. ❷全校で集まって各班がお店の内容をプレゼンし合い,児童同士が互いにクラウドファンディングを行う
  3. ❸クラウドファンディングの結果に応じて予算が加算され,その予算の範囲内で具体的な出店の準備を進める
  4. ❹『附小マーケット』を開催し,お店側とお客側を交代して経験したり,保護者をお客として招待したりする。『附小マーケット』におけるお客側の支払いは,タブレット端末のアプリ「学Pay」を通して行う。アプリ「学Pay」には,支払いと同時にアンケートができる機能をつけることで,お客側が感じた嬉しさや満足感とその理由をお店側に適時フィードバックする
  5. ❺お客側から受け取ったフィードバックの内容を班の仲間と読み合いお店の運営に反映させたり,『附小マーケット』の準備や当日の自分たちの頑張りを振り返ったりする

 以上の活動により,班の仲間と一緒に活動を創り上げたことを喜び合ったり嬉しく感じたりする経験を通して,自らの仕事がどのような価値を生み出しているのか,誰のどのような役に立っているのかを捉え,そしてその対価としての適切な金銭感覚を養っていきたいと考えた。『附小マーケット』の概要は以下の通りである。

■『附小マーケット』の趣旨

 なかよし班ごとに,お客さん側にとってもお店屋さん側にとっても,嬉しさや楽しさに繋がるお店を開くこと

■『附小マーケット』の条件
店側の条件
(準備段階)
  1. ・食品は扱わないこと
  2. ・一人のお客さんが5分程度で行える活動であること
  3. ・使用物品は予算額内で工面すること
  4. ・ポスター,看板等は,当日の各活動場所内のみとすること
  5. (全てのお店,各チラシ1枚のみをロビーに掲示できるようにする)
  6. ・片付けのことも考え,無駄なゴミをたくさん出さないようにすること
  7. ・当日のお店側を担う人数として,班の3分の2でまかなえる役割分担を行うこと
  8. ・すべてのお店が同じ金額(250円)の価値がある商品・体験等を考えること
店側の条件
(当日)
  1. ・お客さんの呼び込みは各活動場所の出入り口付近のみとすること
  2. ・グループを3つに分け,グループの全員がお店屋さん側を経験できるようにすること
  3. ・お店側の担当を交代する際には,お店側として次の人に引き継いだりアドバイスをしたりしてお店の質を当日の活動の中でも高めていくこと
  4. ・各活動場所のみでお店を開くこと
  5. ・活動場所の前には机を出さないこと
  6. ・お店での滞在時間が5分程度となるように計画すること
客側の条件
  1. ・小グループの仲間と一緒にお店を回ること
  2. ・できるだけたくさんのお店を回れるようにすること
  3. ・自分のお店には必ず一度はお客さんとして行くこと
  4. ・子どもが使うためのチャージ金額は,全班一律1,000円とする
■ ファンディングの目的

 全校生に向けて自分の班のお店のPRをすることで,活動するための資金を得たり,新しいアイディアを生み出す面白さや主体的挑戦的な姿勢を育んだりする。

■ ファンディングに向けた準備の詳細
  • ・お店のPRポイントを考える。(2分以内)
  • ・発表方法や役割分担を考える。(マーケットPJは不可)
    →使用したい場合は,パワーポイントやロイロノートを使用してもよい。
■ ファンディング当日のそれぞれの役割詳細

(※今年度はコロナ禍のため,Zoomを通して実施)

各班
  • ・各活動場所で発表準備をする。
  • ・事前のくじ引きで決まった順番で,カメラに向かって発表する。
  • →順番が来たらマイクをオンにして,各活動場所で発表する。
  • ・全班の発表が終わり次第,投票する。
本部PJ
  • ・音楽室にiPadと資料をもって行く。
  • ・Zoomの画面を通して,ファンディングの説明をする。
  • ・発表班を呼ぶ。
  • ・すべての班が終わったら,投票の指示をする。
  • ・自分も投票する。
教師
  • ・自分の班の教室のテレビに, Zoomの画面をつなぐ(マイクミュート)。
  • ・発表の番が来たら,マイクとカメラをオンにして,発表している児童を映す。
  • ・投票のサポートをする。
担当者
  • ・ZoomのURLを事前に送っておく。
  • ・ロイロノートで全校生参加の「『附小マーケット』」をつくる。
  • ・投票アンケートを作成し配布する。
  • ・Zoomを接続し,児童を映す
■ ファンディングによる配当金額
  • ・基本金1,000円(すべての班に配当)
  • ・1票20円で計算し,100の位で四捨五入する。
    (例)18票獲得 → 400円加配  計1,400円
       46票獲得 → 900円加配  計1,900円
■ ファンディングによる獲得金の用途

お店を準備していく中で必要になる準備物を買う。
(例)看板用模造紙,画用紙,折り紙,飾りつけの装飾品など

■ 当日の流れ
■『附小マーケット』に向けた準備の様子

高学年の班長・副班長がリードして話し合いを進めました

異学年集団だからこその協力がたくさん見られました

作りたいものの制作方法を調べ,動画を見ながら協力して作る姿もありました

細やかな飾りつけや場の雰囲気作りにも創意工夫を凝らしました

■『附小マーケット』当日の様子

出店の雰囲気をつくるための工夫を考えました

射的の景品を天井にぶら下げたり,的を二段仕立てにしたり,工夫をしました

看板を作って,どんなお店をしているのかお客さんから見やすくしました

お客さんが使いやすく,見やすいような配置をしています

iPadを使い,「学Pay」で支払いやアンケート入力をしています

どんなお店を出店するかを考え,多様なアイディアのお店が生まれました

予算の範囲内に収まるよう考えながら,素敵な手作り商品を作りました

班の中で役割分担をうまくすることで,商品や看板などを丁寧に仕上げました

アドバイザーの助言と助言への対応

1.金融教育について

  • ・「ファンディング」の話から,単なる金融教育ではもったいないように思う。活動や取組に対する対価をいただくという考えは,「お金の価値理解」以上のものがある。
  • ・また,電子マネーアプリを使用するということは,子どもたちの未来を見据えた取組である。
  • ・子供たちは将来,電子マネーを使って会計していくことになるが,金銭感覚が急に身につくわけではない。リアルマネーの価値理解と同時に,電子マネーの価値理解も両輪で深めていく必要がある。
  • ・このように,電子マネーの価値についての教育を進めることは,ネット依存防止にも繋がるのではないか。例えば,何も考えずに課金して,気付いたら大変なことに!となる子どもも少なくない。しかし,『附小マーケット』を通して,大変な思いをしてお店を開いて,お金を獲得して,それでもそんな大金は得られなくて,大変だということを理解していく。また,アプリのお金も減るのだと言う認識ができるのではないか
  • →以上のご助言を踏まえ,今後も引き続き『附小マーケット』で金融教育を行うと同時に,子どもたちのアンケート調査やワークシートへの記述,単元の過程で生まれる姿などから,「お金の価値理解」以上の価値としてどのような価値創出がなされているのかを丁寧に見取っていく。

2.『附小マーケット』における活動記録の方法について

  • ・これまで,パナソニック教育財団の研究において,既存のアプリを使用した研究は行われていた。しかし,学習のためにアプリを開発した取組は初めてであるため,本取組は注目を集める取組みである。
  • ・上述の点を鑑み,以下の方法での記録をご提案いただいた。
    • ▶抽出児童のiPadを当日録画モードにする〔どのように使用・操作したのか分かるようにするため〕
    • ▶現在の方法で,抽出学級の取組を継続して撮影し続ける
      ※ウェアラブルカメラを使用しての記録も有り
    • ▶ふりかえりは必ず実施する〔その際,何か困ったことやもっとこうしたらいい!という活動に対する意見も子供から取り上げると良い〕
  • →抽出班(全16班中2班)を対象に,『附小マーケット』の単元を通して,継続的に活動の様子の録画を行った。『附小マーケット』当日も,一日の様子を継続して録画した。
  • →当日のふりかえりと,単元のふりかえり(一年間の縦割り班活動における本単元の位置づけを意識したふりかえり)を行った。そうすることにより,当日のホットな思いを文字に記録するとともに,本単元における自分の成長や本単元の意味を客観的に捉え記録することの両面を実現しようと考えた。

3.アンケートについて

  • ・アプリは,改訂版として次年度に向けて修正を加えていくのであれば,「アプリの操作について」という項目で児童・保護者・教員三者にアンケートを取る方がよい。例えば,会計をしたときにチャリーンって音が鳴ってほしい」など,出た意見をもとに,採用する意見を教員が検討し,アプリを修正していくという流れがあれば良いのではないか。
  • →アプリの修正がどの程度可能なのか,アプリ開発業者の方と検討しながら,可能な範囲で児童・保護者・教員からの意見を幅広く受け,修正をしていく。

本期間の裏話

 『附小マーケット』は,本校にとって初めての試みであった。また,コロナ禍により長らく保護者参加の全校生単元の実施が難しい状況にあった中で,久々に実施することができた保護者参加型の全校単元であった。そのため,保護者の方には,どのような学習が行われているのか,新しい全校単元がどのような価値を有するものであるのか,期待と同時に不安も大きかったと思われる。しかし,実際に参加をしていただくことで,「想像をしていた以上に子どもたちが楽しそうに,一生懸命工夫して取り組んでいる姿を見ることができた」というお声や,「低学年の児童も活動に主体的に参加することができていて,縦割り班が有効に働いていると感じた」というお声を多くいただいた。保護者の方が『附小マーケット』を支える支援者として,共に子どもたちの学びを見取り,価値付けてくださったおかげで,新しく始まった『附小マーケット』の単元を学校文化として根付かせ,発展させていくことができそうだという希望を持つことができた。

本期間の成果

  • ・長い時間をかけて少しずつ検討を進めてきたアプリ「学Pay」がついに完成し,子どもたちの金融教育を支える大きな礎が出来上がった。また,「『附小マーケット』」では,「学Pay」を保護者や児童が実際にインストールを使用したことで,修正すべき点も明確に見えてきた。
  • ・全校単元「『附小マーケット』」を初めて実施した。ファンディングをしたり,予算を考えながらお店の計画を考えたり準備をしたりすることに初挑戦できたことで,実際の活動を伴いながら金融教育を行うことができた。また,初めての取組みを終えた子どもたちからは,さっそく来年度に向けて「次はこんなお店をしてみたい」という声が聞かれた。

今後の課題

  • ・本年度の『附小マーケット』の取組みを基に成果と課題を整理し,来年度の実施に向けてよりよい『附小マーケット』を再構築していく。
  • ・『附小マーケット』で実際に運用したことで見つかったアプリ「学Pay」の修正点を改善する。
  • ・金融教育事後アンケートを実施し,事前アンケートと比較しながら,金融教育の効果についての分析を行う。
  • ・『附小マーケット』の他にも,金融教育のプログラムを計画し,実施する。そうすることで,6年間を通した金融教育カリキュラムを作成する。

今後の計画

12月

  • ・児童/保護者を対象に,金融教育事後調査アンケートを実施する。
  • ・ICT機器を活用した他教科における金融教育カリキュラムを作成する。

1月

  • ・児童/保護者調査アンケートの結果を分析する。

2月

  • ・全校単元『『附小マーケット』』の実践発表および他教科における金融教育の先行実践を公開する。

成果目標

  1. ①本校の基盤である縦割り班(特別活動における児童会活動)を単位とし,『附小マーケット』の全校単元を行い,6年間の継続的系統的な金融教育カリキュラムを開発する。その際,他教科との関連もカリキュラムに位置付け,教科横断的な学びを実現する。
    児童会活動としての単元『附小マーケット』と他教科における6年間の金融教育カリキュラムを作成する。
  2. ②『附小マーケット』に向けた準備を通して,人と協働する楽しさや大変さを味わうことと,その結果としての金銭の授受を電子媒体によって行うということを合わせて経験することで,電子媒体を通した金銭の授受に対してもリアルな実感を伴った金銭感覚を育む。
    本研究の事前アンケートにおいて把握した児童の金融リテラシーの実態に合わせた実践を行う。
  3. ③電子決済にアンケート機能を搭載したアプリを開発することで,稼げた金銭の多寡によってのみ自分たちの活動を評価するのではなく,お客側からのフィードバックを適時把握し,それを踏まえて班ごとに成長や改善を目指すという自己評価活動のあり方を確立する。
    単元を通して用いる学習カードに,お客側からのフィードバックが自分のお店屋さんにどのように生きたのかを記述できる欄を設け,自分たちの成長や改善はどのようなことが要因となっていたのかを自覚できるようにする。
  4. ④保護者もお客として学習に参加し,アンケートを通して子どもたちの活動にフィードバックを行うことで,学校と保護者が学習の目的を共有した上で全校的な自治的活動に参画し,共に学校すべての子どもを育む教育活動を推進する。
    『附小マーケット』当日だけでなく,保護者が懇談会や通信等を通して,本研究を理解し学校教育に関わった実感を得る機会を設ける。
  5. ⑤各班の予算をクラウドファンディングの結果によって追加する活動を行うことで,新しいアイディアを生み出す面白さや主体的挑戦的な姿勢を育む。
    各班のお店のアイディアを互いに知り合う機会を複数回つくり,新たなアイディアを創出することの面白さを感じられるようにする。
アドバイザーコメント
豊田 充崇 先生
和歌山大学
教授 豊田 充崇 先生

◯“金融教育”の名称を再認識

 本研究のテーマは「金融教育カリキュラムの開発」となっていますが、小学校の学習指導要領には「金融・金銭」という言葉はまだ掲載されていません。ただ、下記の文部科学省による学習指導要領の解説リーフレットをよく見ると、「新たに取り組むこと、これからも重視すること」として、「消費者教育」をはじめ、「金融教育」や「起業に関する教育」が記載されています。

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/
chukyo3/004/siryo/__icsFiles/afieldfile/2019/01/23/1412892_7.pdf

 当初、小学校で研究する場合は「”金銭”教育」のほうが適合するのではないかと考えたのですが、今回の研究では、校内での仮想電子マネーのやり取りだけではなくて、「校内ファンディング」による資金調達や、売上管理や顧客の満足度評価なども活動に取り入れており、金銭教育ではなくて、金融・起業に関する教育活動も含まれていました。そのため、今回は小学校での取り組みではありますが、「金融教育」が相応しいことがわかってきました。

◯「附小マーケット」

 さて、今期は「附小マーケット」の企画をおこなう日と実際の開催日に訪問しました。まず、お店の具体的な計画を立案する日の訪問ですが、この日は、「校内ファンディング」でどの程度の資金が調達されたのかが先生から発表され、「元手」の金額が確定しました。校内ファンディングは、各班の代表者が全体にプレゼンすることによって、全児童の投票数によって金額が変わります。これによって、当然ながら各グループで、元手資金に差が生じます。通常の学習活動における公平性からすると「思い切った取り組みだ」と感じましたが、「企画の良さや対外的アピールの仕方」によって資金調達に差が生じるという「厳しい社会の現実」を感じる機会になったのかもしれません。このあと、一定の条件の下で、児童らがアイディアを出し合い、役割を分担して当日に挑むこととなります。

 それから約2週間後、「附小マーケット」の開催日にも訪問しました。この日は、大勢の保護者が、スマートフォンに「学pay」をインストールして来訪していました。私も「学Pay」を自分のスマホにインストールして、保護者に混じって体験しました。

◯仮想電子マネーの決済の様子

 附小マーケットが開始されて、電子マネーの支払い(決済)で盛り上がるシーンを期待して各会場を回ったのですが、各会場ともに至って「当たり前のこと」として実行されていました。つまり、もはや児童らにとっては、電子マネーでの支払いは特別なことではなく「日常の風景」ということです。児童らには、最新のアプリを使い国内でも先駆的な授業実践を担っているという意識は全くありません。それもそのはずで、児童らのほとんどは既に電子マネーでの生活が普通になっていることが保護者アンケートの結果からも分かってきました。また、保護者の方々も、事前に「学Pay」をスマホに入れてから参加しており、非常にシンプルな操作感覚も相まって、説明不要で使えていました。

 現在の大人は、現金支払いが基本として育ってきて、この時代になって、電子決済の便利さを享受しています。しかし、今の児童らは、電子マネーを基本とした生活になり、モノやサービスへの対価の支払いが「紙幣・硬貨といった実態のあるもの」ではなくて、「画面上での数値」でおこなわれるようになってきています。

 だからこそ、支払った・受け取った感覚の薄い電子マネーについて、その価値を考える機会の重要性が増しているようにも思います。

◯「学Pay」の集計機能の成果

 「附小マーケット」は各班の児童らの3分の1がお客さんとなり、残りの3分の2が運営側として働きます。よって、お店周りの時間は3つに分かれていたのですが、休憩が間に2回入るということになります。但し、ここは休憩時間というよりは、次の時間のための「作戦タイム」として使われます。「学Pay」にて即売上を集計して、アンケート結果をみながら、お店の改善をしていきます。アンケート結果はグラフ化されているし、売上高も積算されていますので、それらの結果をみながら、次の展望を立てていきます。自由記述内容なども受け止めながら、イベント会場内の順路の目印を変更したり、イベントの難易度を調整したり、接客の方法を変更したりと、すぐに対応できることをおこなっていました。

 このスピーディな展開に役立つのが「学Pay」の集計機能であり、児童らの顧客満足度を上げたいといった意欲と相乗することによって、効果的に活用されるように思います。

 「附小マーケット」のイベントが終わったあとも、この最終のアンケート結果を表示しながら、反省会が実施されました。「学Pay」のアプリ解説画面には、「アンケート結果をもとに、よりよい店の運営を目指す」とありますので、反省会での利用は、まさにアプリの趣旨に叶ったものと言えます。

 客観的なデータを「結果」として捉え、それを根拠にして、話し合いが進められました。特に、カラフルなグラフで示される満足度の割合は、低学年児童にもひと目で分かります。数値であらわすよりも、分かりやすいために、結果を捉えやすかったのではないかと思います。

 但し、小学校1年生から6年生までが1つのテーマで落ち着いて協議できるのは、もちろん「学Pay」の集計機能だけが理由ではありません。縦割り集団活動に慣れた児童たち、特に高学年のリーダーシップによる進行ができていることが最大の要因だといえます。きちんと反省点が列挙され、良かった点や改善点がまとめあげられていきます。

 この6学年に渡る縦割り活動で話し合いがスムーズにいくのは、普段から校内掃除や校内行事等で、この異学年での集団活動に慣れているためであると聞きました。下の学年の児童らは、上の学年の児童らの進行・対応方法をみて、自分たちにしてくれたことを、次は自分たちがやっていくのだという意識付けができていくのだと感じましたし、こういった学校全体で取り組むイベントを、児童らが主体的に継承していくためにも、この異学年集団の体制の重要性が実感できたといえます。

◯児童によるICT活用の工夫

 研究の主軸ではありませんが、児童らのICT活用が「発揮」されている場面も随所にみられました。タブレットの中の「タイマー機能」はもちろんのこと、クイズイベントでの正誤のサウンドの再生といった小技から、イベントの解説映像を自作して流したり、手順の説明ツールとするなど、大人顔負けの表現・創作ツールとしての活用もなされていました。材料や道具の値段を調べる検索ツールとしての利用、記録ツールとしての活用も随所でみられ、児童らのアイディアとICTスキルがその目的に応じて活かされていたといえます。

 本研究のキーワードにはなっていませんが、「個別最適な学び」における『学習の個性化』にあてはまる事例として、児童らの情報活用能力の実態やICT活用の状況についても検討したいものです。

◯課題と展望

 さて、この第二期を終えて、研究の主軸である「学Pay」の開発とその導入及び「附小マーケット」の立ち上げとそこでの「学Pay活用の成果」を見出すことができました。もちろん、両者ともに初の取り組みであり、運用面・イベント環境面、材料等の物資の調達等でのいくつかの課題はありますが、本年度の手探りの状況から、次年度に向けての展望が拓けたと思います。特に、「マーケット」は、本来は「市場」の意味ですが、今回の「附小マーケット」は、サービス・エンターテインメントを提供する市場という意味合いが強かったといえます。「コト」ではなくて「モノ」の流通がもっとできないだろうかとお話させていただきました。例えば、「輪ゴム鉄砲づくり体験」として完成品を持って帰ることができるとか、ペーパークラフト組み立て教室、松ぼっくりをクリスマスデコレーションする・・・等々です。

 安価な材料でも、そこに職人の技と手間をかけることで商品が生まれ、そしてその体験教室や利用法のレクチャー等のサービスが加わることで付加価値を高め、対価を得られるという発想を得ることができる可能性もあります。金融教育というよりは、起業教育に近いかもしれませんが、「学Pay」の趣旨にもありましたので、敢えて無理難題として伝えさせてもらいました。

 さて、この第二期を終えて、すでに大きな成果を挙げてきたのですが、3学期には新たな「金融教育カリキュラム」の全体像が示され、具体的な教科の実践事例も出てくる予定ですので、今後の展開にも期待がかかります。