国立大学法人香川大学教育学部附属高松中学校

第48回特別研究指定校

研究課題

実社会における生徒の自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を重視した個性化教育カリキュラムの開発
~生徒と教師と大学,地域の教育資源をつなぐICT環境の活用を通して~

2021年度08-12月期(最新活動報告)

最新活動報告
本校カリキュラムの中で進めていく個性化教育の骨子の作成......

アドバイザーコメント

村川 雅弘 先生
現行学習指導要領下で進められているカリキュラム・マネジメントの究極は......

国立大学法人香川大学教育学部 附属高松中学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 香川県 国立大学法人香川大学教育学部 附属高松中学校
アドバイザー 村川 雅弘 甲南女子大学 教授
研究テーマ 実社会における生徒の自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を重視した個性化教育カリキュラムの開発
~生徒と教師と大学,地域の教育資源をつなぐICT環境の活用を通して~
目的 生徒一人ひとりが自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を重視した問題解決型の探究活動を行い,その経験を学校外の人たちと意見交換することで自己の学びを深め,広げる個性化教育カリキュラムの開発を目指す。
現状と課題 本校では,これまで地域や社会と直接関わる体験的な活動をカリキュラムに組み込み,多様な外部団体と交流してきた。
しかし,その活動も教師主体によるものが多く,必ずしも生徒一人一人の興味・関心に寄り添ったものではなく,協働で行うことが多いため,個の力が十分に伸びきらなかった。一方で,主体的に実社会との接点をもつ経験をした生徒は,次々と課題を見つけ解決し,個の力を伸ばすことができた。そのため,生徒一人一人に主体的な活動を保証し,個の力を伸ばす。
学校情報化の現状 特に情報教育に課題が見られるため,学校内外で生徒に ICT 機器に触れる機会を企図し,教育実践を行っていく。
取り組み内容 人間道徳で,生徒主体のプロジェクト(実社会における生徒の自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を重視したプロジェクト:協働)と個を伸ばす個性化教育(生徒の自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を重視した個性化教育:個別)を行う。個性化教育では,プロジェクトを進めていく上で出合う気づきや疑問をもとに,生徒一人一人が課題を設定し,探究を行う。その際,教師や大学,地域の人たちと自分の探究について意見交換する場「ゼミ」を設定し,視点の獲得や学びを深める機会を確保する。最終的には,さまざまな人を招いた発表会で自分の探究の成果を発表する。
成果目標 生徒一人一人が興味・関心をもとに課題を設定し,探究を行うことで,個の力を伸ばし,学び続ける生徒になる。
また,電子データとして記録を蓄積することで,自分の学習記録を俯瞰的に捉え,調整することでよりよい学びを追究できる生徒を目指す。
助成金の使途 ポータブルWi-Fi、校外調査・表現の外部人材派遣費、動画編集ソフト、アドバンスト・メディア、先進校視察、カラープリンタインク、SDカードメモリ、研究報告書印刷・製本費他
研究代表者 赤木 隆宏
研究指定期間 2022年度~2023年度
学校HP https://www.tch.ed.kagawa-u.ac.jp/
公開研究会の予定 10~12月に行われる「ゼミ」

本期間(4月~7月)の取り組み内容

○本校カリキュラムの中で進めていく個性化教育の骨子の作成

 本校は,文部科学省指定教育課程特例校の認定を受け,特別な教育課程を設けている。具体的には,総合的な学習の時間と特別の教科 道徳の性質を併せもった新領域「人間道徳」を実施し,生徒の問題解決に必要な資質・能力と省察性の高まりを目指している(表1)。

表1 令和4年度教育課程表

 さらに人間道徳は,「協働の学び」と「個の学び」が存在している。協働の学びとは,仲間や多様な他者と協働で地域や社会に働きかける生徒主体のプロジェクト型の学習と単元の節目や活動の中で自己の生き方・在り方を問い直し,調整する時間「省察の時間」を編成した学びである。また,個の学びとは,生徒一人ひとりの自由で主体的な課題設定,調査,交流,探究,表現等を重視した学びとその内容を外部の人たちと意見交換する場「ゼミ」を編成した学びである(図1)。

図1 人間道徳の学び

 本期間では,人間道徳で実施する個の学びの内容や方法を定め,生徒にガイダンスを行った。内容及び方法は以下の通りである。

・内容

 生徒は,人間道徳で出合った気づきや疑問から個人で課題を設定し,教科で育んだ知性を土台に実社会の中で自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を行う。その際,ICTを有効に利用し,情報の収集や整理,表現等を行う。また,生徒はその活動の中で,自分が掲げた目標を実現するために,自らの学びを深め,広げ,どのような方向で学びを進めていくかを決定する。さらには,定期的に異学年集団と教師,外部の人たち(大学生,地域の人など)で構成された「ゼミ」(以下,ゼミ)をオンライン上で開催し,自分の活動を表現し,意見交換する。この場を設定することで,生徒は教師や外部からの指導をもとに,多面的な思考や視点を身に付けるきっかけとなり,学びを調整していく。最終的には,1年間の研究成果を研究発表会で表現し,ICT機器に残した学びの軌跡をもとに,振り返ることで自らの学びを俯瞰し,高め続けていく姿勢を学ぶ。また,その過程で,自己理解の推進やアイデンティティの確立,将来のキャリアを展望する基盤を形成する。

・方法

  • ○個人で活動を行うこととする。
  • ○ICTを有効に活用して,調査,交流,探究,表現等を行う。
  • ○課題は,人間道徳に関する内容である。
    • ・生徒の興味・関心・キャリア形成の方向性等に応じて,生徒自身が定める。
    • ・課題を設定する期日は,9月とする。
    • ・1年間を通して,学び続けられるものを基本とする。
  • ○実施計画や実施時期などは,個人に委ねられている。
  • ○学校外の時間で,調査,交流,探究を行うことを基本とする。
  • ○定期的にゼミを開催し,異学年の生徒や教師,外部の人たちに,自分の研究を表現する。
  • ○研究発表会で,1年間の研究の成果を表現する。
  • ○課題,課題設定の理由,計画書,成果発表をデータで蓄積する。
  • ○データをもとに,1年間の学びを振り返る。

・ガイダンス資料(図2)

図2 ガイダンス資料の一部

・生徒が提出する電子データの作成

 生徒は,1年間(9月~3月)までの学びを電子データとして蓄積し,最後に自分の学びを振り返る。その際,定期的に残している電子データが重要となる。そのため,本期間では,生徒に記載させるデータを精査し,フォーマットを作成した(図3)。

図3 電子データの一部

アドバイザーの助言と助言への対応

○村川先生からのアドバイス

① 生徒一人ひとりの自己の学びのカリキュラムマネジメントの実現が大切である。
→ 生徒一人ひとりの自己の学びを実現するために個の学びを考えた。最終的には,生徒一人ひとりに自己の学びができる生徒になってもらいたい。

② 生徒の蓄積データのアプリの紹介「コラボミュージアムCity」このアプリを用いれば,アドレスだけで自分の資料を共有でき,専門家の先生と意見交換ができる。また,生徒同士も簡単に意見共有ができ,他のグループの進捗状況も把握するこができる。
→ 現在,本校ではskymenu cloud を採用しているため,このアプリでの可能なことと難しいことを精査し,運用しようと考えている。今年度は,skymenu cloud を用いて行っていく。

③ 1人1台端末を活用し,世界の情報を取り込んでいくとともに,バーチャルとリアルをつなげていくことが大切である。
→ 生徒にICTを積極的に活用させ,迫力ある探究を実現してもらいたい。ただし,調べ学習で終わるのではなく,自分の主張まで発表できる研究および探究を実施してもらいたい。

④ 端末の使用ルールを生徒自身が決定し,運用していくことが大切である。
→ 現在,生徒会役員を中心に端末の使用ルールを決めている。どこにラインを引くかが難しいと教員及び生徒会役員は悩んでいる。

本期間の裏話

  • ・1人1台端末を有効に使用するために,どのような学習内容や学習方法にすることが大切であるかを考えることが難しかった。さまざまな人からアドバイスを頂き,私たちがPCを使用するように,生徒に使わせることが大切であるとご助言を頂いた。生徒は,必要であれば友達や先生にその使い方を聞いたり,自らの力で解決したり,学んだりすることができる。そのため,細かい部分は生徒に委ねることが大切であると教えられた。
  • ・zoomやskymenuの管理が大学の情報センターで行われているため,ウェブ上にゼミを作成する際,思ったよりも時間や手間がかかった。また,学校側が思ったような設定ができないところにもストレスを感じている。

本期間の成果

    • ・2年間の研究の骨子がある程度であるが作成でき,方向性が見えた。
    • ・生徒にとってより良い教育とは何かを全教員で議論することで,同じ方向を向いて研究を 進めていくことができた。

今後の課題

  • ・生徒が個の学びを実施していくため,そこでぶつかる壁や課題などをどのように吸い上 げ,整理し,指導に生かしていくか,ということである。

今後の計画

  • ・ゼミの開催(9月,11 月)

成果目標

 生徒一人一人が人間道徳で出合った気づきや疑問をもとに,自分の興味・関心をいかして 課題を設定し,探究を行う。そうすることで,自己の学びを実現し,学び続けることができ る生徒を目指す。また,電子データとして記録を蓄積することで,自分の学習記録を俯瞰的 に捉え,調整することでよりよい学びを追究できる生徒を目指す。

アドバイザーコメント
村川 雅弘 先生
甲南女子大学
教授 村川 雅弘 先生

 現行学習指導要領下で進められているカリキュラム・マネジメントの究極は「子ども一人ひとりの学びのカリキュラム・マネジメント」1)と考えている。子ども自身が自己の目標や夢の実現に向けてPDCAサイクルを廻し続ける中で、特に振り返りが重要である。授業や単元あるいは年間を通してどのような力がどのような学びを通して身に付いたか、これからどのように学んでいくのかを、「育成を目指す資質・能力の3つの視点」を踏まえて振り返り、新たな課題や学習の見通しを持つことを提唱している。本校の新領域「人間道徳」はそれに合致するものと理解している。

 「人間道徳」には2つの学びがある。「協働の学び」は、仲間や多様な他者と協働で地域や社会に働きかける生徒主体のプロジェクトではあるが、その過程で個々に自己の生き方・在り方を問い直す。また、「個の学び」においても、生徒一人ひとりの自由で主体的な課題設定、調査、交流、表現等を重視した学びであるが、その過程で外部の人たちとの意見交換を積極的に行っている。「協働的な学び」と「個の学び」が相互に連動している。

 GIGAスクール構想の推進による1人1台端末の活用が、2つの学びをより深めている。ICT活用による、必要な情報の収集や整理、オンラインによる他者との意見交換、多様な学びの蓄積と関連付けが、多面的な思考や視点を身に付けることに役立っている。今年度はコロナの影響で十分に行うことのできなかった体験によるリアルな情報とICT活用による多くのバーチャルな情報を今後どのように関連・融合させていくのか、迫力のある探究が期待される。

 ZoomやSkymenuの管理が大学の情報センターで行われているために、思ったよりも時間や手間がかかった、という課題を残したが、無料のZoomや特定のソフトやアプリを必要としない協働学習支援ツール「コラボノート」を活用することで、生徒自身が必要な時に必要とする外部人材と連絡を取り合い「ゼミ」を運用していくことを願う。

 カリキュラム・マネジメントの3側面の1つ目の「教科等横断的な学び」の実現、2つ目の「PDCAサイクルの確立」に加え、3つ目の「校内外の人的・物的資源の活用」を生徒自身が行っていくことが期待される。「子ども一人ひとりの学びのカリキュラム・マネジメント」が「人間道徳」の中でさらに推進していくことを願っている。今後の展開が楽しみである。

 1)村川雅弘「新学習指導要領がめざすものーカリキュラム・マネジメントの役割」、『カリマネ100の処方』教育開発研究所、pp.12-18、2018年