国立大学法人香川大学教育学部附属高松中学校

第48回特別研究指定校

研究課題

実社会における生徒の自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を重視した個性化教育カリキュラムの開発
~生徒と教師と大学,地域の教育資源をつなぐICT環境の活用を通して~

2023年度04-07月期(最新活動報告)

最新活動報告
本校は,文部科学省研究開発学校の指定を受け,特別な教育課程を設けている......

アドバイザーコメント

村川 雅弘 先生
2023年6月9日の発表会は対面で参加することができた。発表会及び......

国立大学法人香川大学教育学部 附属高松中学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 香川県 国立大学法人香川大学教育学部 附属高松中学校
アドバイザー 村川 雅弘 甲南女子大学 教授
研究テーマ 実社会における生徒の自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を重視した個性化教育カリキュラムの開発
~生徒と教師と大学,地域の教育資源をつなぐICT環境の活用を通して~
目的 生徒一人ひとりが自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を重視した問題解決型の探究活動を行い,その経験を学校外の人たちと意見交換することで自己の学びを深め,広げる個性化教育カリキュラムの開発を目指す。
現状と課題 本校では,これまで地域や社会と直接関わる体験的な活動をカリキュラムに組み込み,多様な外部団体と交流してきた。
しかし,その活動も教師主体によるものが多く,必ずしも生徒一人一人の興味・関心に寄り添ったものではなく,協働で行うことが多いため,個の力が十分に伸びきらなかった。一方で,主体的に実社会との接点をもつ経験をした生徒は,次々と課題を見つけ解決し,個の力を伸ばすことができた。そのため,生徒一人一人に主体的な活動を保証し,個の力を伸ばす。
学校情報化の現状 特に情報教育に課題が見られるため,学校内外で生徒に ICT 機器に触れる機会を企図し,教育実践を行っていく。
取り組み内容 人間道徳で,生徒主体のプロジェクト(実社会における生徒の自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を重視したプロジェクト:協働)と個を伸ばす個性化教育(生徒の自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を重視した個性化教育:個別)を行う。個性化教育では,プロジェクトを進めていく上で出合う気づきや疑問をもとに,生徒一人一人が課題を設定し,探究を行う。その際,教師や大学,地域の人たちと自分の探究について意見交換する場「ゼミ」を設定し,視点の獲得や学びを深める機会を確保する。最終的には,さまざまな人を招いた発表会で自分の探究の成果を発表する。
成果目標 生徒一人一人が興味・関心をもとに課題を設定し,探究を行うことで,個の力を伸ばし,学び続ける生徒になる。
また,電子データとして記録を蓄積することで,自分の学習記録を俯瞰的に捉え,調整することでよりよい学びを追究できる生徒を目指す。
助成金の使途 ポータブルWi-Fi、校外調査・表現の外部人材派遣費、動画編集ソフト、アドバンスト・メディア、先進校視察、カラープリンタインク、SDカードメモリ、研究報告書印刷・製本費他
研究代表者 赤木 隆宏
研究指定期間 2022年度~2023年度
学校HP https://www.tch.ed.kagawa-u.ac.jp/
公開研究会の予定 10~12月に行われる「ゼミ」

本期間(4月~7月)の取り組み内容

○本校カリキュラムの中で進めていく個性化教育の骨子の作成

 本校は,文部科学省指定教育課程特例校の認定を受け,特別な教育課程を設けている。具体的には,総合的な学習の時間と特別の教科 道徳の性質を併せもった新領域「人間道徳」を実施し,生徒の問題解決に必要な資質・能力と省察性の高まりを目指している(表1)。

表1 令和4年度教育課程表

 さらに人間道徳は,「協働の学び」と「個の学び」が存在している。協働の学びとは,仲間や多様な他者と協働で地域や社会に働きかける生徒主体のプロジェクト型の学習と単元の節目や活動の中で自己の生き方・在り方を問い直し,調整する時間「省察の時間」を編成した学びである。また,個の学びとは,生徒一人ひとりの自由で主体的な課題設定,調査,交流,探究,表現等を重視した学びとその内容を外部の人たちと意見交換する場「ゼミ」を編成した学びである(図1)。

図1 人間道徳の学び

 本期間では,人間道徳で実施する個の学びの内容や方法を定め,生徒にガイダンスを行った。内容及び方法は以下の通りである。

・内容

 生徒は,人間道徳で出合った気づきや疑問から個人で課題を設定し,教科で育んだ知性を土台に実社会の中で自由で主体的な調査,交流,探究,表現等を行う。その際,ICTを有効に利用し,情報の収集や整理,表現等を行う。また,生徒はその活動の中で,自分が掲げた目標を実現するために,自らの学びを深め,広げ,どのような方向で学びを進めていくかを決定する。さらには,定期的に異学年集団と教師,外部の人たち(大学生,地域の人など)で構成された「ゼミ」(以下,ゼミ)をオンライン上で開催し,自分の活動を表現し,意見交換する。この場を設定することで,生徒は教師や外部からの指導をもとに,多面的な思考や視点を身に付けるきっかけとなり,学びを調整していく。最終的には,1年間の研究成果を研究発表会で表現し,ICT機器に残した学びの軌跡をもとに,振り返ることで自らの学びを俯瞰し,高め続けていく姿勢を学ぶ。また,その過程で,自己理解の推進やアイデンティティの確立,将来のキャリアを展望する基盤を形成する。

・方法

  • ○個人で活動を行うこととする。
  • ○ICTを有効に活用して,調査,交流,探究,表現等を行う。
  • ○課題は,人間道徳に関する内容である。
    • ・生徒の興味・関心・キャリア形成の方向性等に応じて,生徒自身が定める。
    • ・課題を設定する期日は,9月とする。
    • ・1年間を通して,学び続けられるものを基本とする。
  • ○実施計画や実施時期などは,個人に委ねられている。
  • ○学校外の時間で,調査,交流,探究を行うことを基本とする。
  • ○定期的にゼミを開催し,異学年の生徒や教師,外部の人たちに,自分の研究を表現する。
  • ○研究発表会で,1年間の研究の成果を表現する。
  • ○課題,課題設定の理由,計画書,成果発表をデータで蓄積する。
  • ○データをもとに,1年間の学びを振り返る。

・ガイダンス資料(図2)

図2 ガイダンス資料の一部

・生徒が提出する電子データの作成

 生徒は,1年間(9月~3月)までの学びを電子データとして蓄積し,最後に自分の学びを振り返る。その際,定期的に残している電子データが重要となる。そのため,本期間では,生徒に記載させるデータを精査し,フォーマットを作成した(図3)。

図3 電子データの一部

アドバイザーの助言と助言への対応

○村川先生からのアドバイス

① 生徒一人ひとりの自己の学びのカリキュラムマネジメントの実現が大切である。
→ 生徒一人ひとりの自己の学びを実現するために個の学びを考えた。最終的には,生徒一人ひとりに自己の学びができる生徒になってもらいたい。

② 生徒の蓄積データのアプリの紹介「コラボミュージアムCity」このアプリを用いれば,アドレスだけで自分の資料を共有でき,専門家の先生と意見交換ができる。また,生徒同士も簡単に意見共有ができ,他のグループの進捗状況も把握するこができる。
→ 現在,本校ではskymenu cloud を採用しているため,このアプリでの可能なことと難しいことを精査し,運用しようと考えている。今年度は,skymenu cloud を用いて行っていく。

③ 1人1台端末を活用し,世界の情報を取り込んでいくとともに,バーチャルとリアルをつなげていくことが大切である。
→ 生徒にICTを積極的に活用させ,迫力ある探究を実現してもらいたい。ただし,調べ学習で終わるのではなく,自分の主張まで発表できる研究および探究を実施してもらいたい。

④ 端末の使用ルールを生徒自身が決定し,運用していくことが大切である。
→ 現在,生徒会役員を中心に端末の使用ルールを決めている。どこにラインを引くかが難しいと教員及び生徒会役員は悩んでいる。

本期間の裏話

  • ・1人1台端末を有効に使用するために,どのような学習内容や学習方法にすることが大切であるかを考えることが難しかった。さまざまな人からアドバイスを頂き,私たちがPCを使用するように,生徒に使わせることが大切であるとご助言を頂いた。生徒は,必要であれば友達や先生にその使い方を聞いたり,自らの力で解決したり,学んだりすることができる。そのため,細かい部分は生徒に委ねることが大切であると教えられた。
  • ・zoomやskymenuの管理が大学の情報センターで行われているため,ウェブ上にゼミを作成する際,思ったよりも時間や手間がかかった。また,学校側が思ったような設定ができないところにもストレスを感じている。

本期間の成果

    • ・2年間の研究の骨子がある程度であるが作成でき,方向性が見えた。
    • ・生徒にとってより良い教育とは何かを全教員で議論することで,同じ方向を向いて研究を 進めていくことができた。

今後の課題

  • ・生徒が個の学びを実施していくため,そこでぶつかる壁や課題などをどのように吸い上 げ,整理し,指導に生かしていくか,ということである。

今後の計画

  • ・ゼミの開催(9月,11 月)

成果目標

 生徒一人一人が人間道徳で出合った気づきや疑問をもとに,自分の興味・関心をいかして 課題を設定し,探究を行う。そうすることで,自己の学びを実現し,学び続けることができ る生徒を目指す。また,電子データとして記録を蓄積することで,自分の学習記録を俯瞰的 に捉え,調整することでよりよい学びを追究できる生徒を目指す。

アドバイザーコメント
村川 雅弘 先生
甲南女子大学
教授 村川 雅弘 先生

 現行学習指導要領下で進められているカリキュラム・マネジメントの究極は「子ども一人ひとりの学びのカリキュラム・マネジメント」1)と考えている。子ども自身が自己の目標や夢の実現に向けてPDCAサイクルを廻し続ける中で、特に振り返りが重要である。授業や単元あるいは年間を通してどのような力がどのような学びを通して身に付いたか、これからどのように学んでいくのかを、「育成を目指す資質・能力の3つの視点」を踏まえて振り返り、新たな課題や学習の見通しを持つことを提唱している。本校の新領域「人間道徳」はそれに合致するものと理解している。

 「人間道徳」には2つの学びがある。「協働の学び」は、仲間や多様な他者と協働で地域や社会に働きかける生徒主体のプロジェクトではあるが、その過程で個々に自己の生き方・在り方を問い直す。また、「個の学び」においても、生徒一人ひとりの自由で主体的な課題設定、調査、交流、表現等を重視した学びであるが、その過程で外部の人たちとの意見交換を積極的に行っている。「協働的な学び」と「個の学び」が相互に連動している。

 GIGAスクール構想の推進による1人1台端末の活用が、2つの学びをより深めている。ICT活用による、必要な情報の収集や整理、オンラインによる他者との意見交換、多様な学びの蓄積と関連付けが、多面的な思考や視点を身に付けることに役立っている。今年度はコロナの影響で十分に行うことのできなかった体験によるリアルな情報とICT活用による多くのバーチャルな情報を今後どのように関連・融合させていくのか、迫力のある探究が期待される。

 ZoomやSkymenuの管理が大学の情報センターで行われているために、思ったよりも時間や手間がかかった、という課題を残したが、無料のZoomや特定のソフトやアプリを必要としない協働学習支援ツール「コラボノート」を活用することで、生徒自身が必要な時に必要とする外部人材と連絡を取り合い「ゼミ」を運用していくことを願う。

 カリキュラム・マネジメントの3側面の1つ目の「教科等横断的な学び」の実現、2つ目の「PDCAサイクルの確立」に加え、3つ目の「校内外の人的・物的資源の活用」を生徒自身が行っていくことが期待される。「子ども一人ひとりの学びのカリキュラム・マネジメント」が「人間道徳」の中でさらに推進していくことを願っている。今後の展開が楽しみである。

 1)村川雅弘「新学習指導要領がめざすものーカリキュラム・マネジメントの役割」、『カリマネ100の処方』教育開発研究所、pp.12-18、2018年

本期間(8月~12月)の取り組み内容

○第1回ゼミ(9月2日)学校にて対面形式で開催

・内容:個の学びの課題設定の発表および意見交換を行った。ゼミは普段,各学年2名ずつの6名で1グループを構成しているが,今回は3グループ合同(18名)で,教員1名とアドバイザーに実習生5名程度を加え,対面形式で行った(図1,2)。表1は,生徒が設定した個の学びの課題一覧(抜粋)である。1学期の「人間道徳 協働の学び(同学年の仲間や多様な他者と協働で地域や社会に働きかける生徒主体のプロジェクト型の学習と単元の節目や活動の中で自己の生き方・在り方を問い直し,調整する時間「省察の時間」を編成した学び)」(以下 「協働の学び」)を通して気づいた疑問や問題をもとに生徒一人ひとりが設定した。

図1 第1回ゼミについてのガイダンス資料

図2 第1回ゼミのようす

表1 生徒の課題一覧(抜粋)

・生徒が事前に電子データで提出した個の学びワークシート

図3 課題設定シート

図4 探究計画書

・活動のようすおよび考察内容

 本校としては,学校行事などを除いて異学年集団で活動することは初めての試みであったが,生徒一人ひとりが自分の考えをもとに自ら定めた課題および設定理由を発表し,活発な意見交換を行うことができた。特に3年生が積極的な質問やアドバイスを同級生や下級生に行い,建設的な意見交換の場になった。また,教育実習に来ていた大学生や大学院生も自分の経験や体験をもとにアドバイスを行い,生徒にとっては新しい視点や気づきを得る機会となった。その一方で,生徒の個の学びの探究方法がインターネットや書籍で調べて終わるような課題が多く設定されていた。今後は,生徒一人ひとりに迫力のある探究を実現できるよう,課題設定に関することやゼミの方向性を検討していく必要がある。

・アンケート結果(全校生302名 N=300)
「ゼミの時間は,自分にとって充実した時間となった」を肯定的に返答した生徒の理由

【3年生】

  • ・ほかの人の研究を見せてもらい,刺激になったし,自分の研究を進めるうえでのヒントが得られたから。
  • ・自分の考えとは違う意見等を聞き,新たな見方を発見したり,考えを深めたりできたから。
  • ・学年の異なる人たちのいろいろな意見を聞き,自分の発表に足りないことを知れた。
  • ・今後のことや未来について,学習面,環境面から見直すことができたから。

【2年生】

  • ・お互いに,それぞれの準備して来た問いに対して質問の時間に意見を言い合えたから。また,休み時間に考えていることが共有された状態で,先生も交えてそれぞれの課題について意味のある雑談ができたから(休み時間だったのでちょっと気も緩んで本音で話せていた気がする)。他にも,三年生は「さすが!」というような深い課題で,価値観とかものの考え方,捉え方とか,自分よりも深いものに触れられて,とても興味深いと思った。
  • ・ゼミでほかの人の発表を聞いたり,意見やアドバイスをもらうことによって,今まで見えていなかったことに気づいたりすることができたから。
  • ・また,自分への質問を聞き,自分が問いについて,何を問うべきか明確になっていないことが分かった。

【1年生】

  • ・これまで考えていたこと以外にも調べると面白そうなことを教えてもらえ,研究の幅が広がったから。
  • ・いろんな人の意見をもらうことで,自分の考える視野が広がったから。
  • ・特に3年生の発表はなんかすごい説得力があって納得でき,面白かったから。
  • ・同じ「協働の学び」の活動をした人達と課題が違っていておもしろいと思った。また,そんな課題もあるんだと納得できたから。
「ゼミの時間は,自分にとって充実した時間となった」を否定的に返答した生徒の理由

【3年生】

  • ・受験への勉強時間が欲しい
  • ・ほかの人に質問することができなかった。
  • ・皆同じような課題を立てていて,同じような発表ばっかりだったから。

【2年生】

  • ・みんな課題が似ていて正直同じ答えが出てくるのではないかと思うから
  • ・質問の時間があっても質問する内容がなかったり,恥ずかしくてしゃべらない人が多かったり,無言の時間が多かったから。
  • ・やはり他人とは何を調べるかがちがうため調べ方など以外は,あまり真似できるものがなかった。

【1年生】

  • ・発表で詰まってしまったり,緊張してしまったりして,せっかく質問してくれた人にも上手く答えることができなかったから。

○第2回ゼミ(11月9日,16日)オンラインにて開催

・内容:個の学びの中間報告会および意見交換をzoomミーティングを活用して実施した(図5)。教員1名につき3グループを担当するため,日時を3回に分けて開催した。また,ゼミに参加しない時間は,調査・探究の時間に充てさせた(図4)。

図4 第2回ガイダンス資料

図5 第2回ゼミ(オンライン)のようす

図6 生徒が作成した中間報告発表資料

図7 個の学びで活用した教科の見方・考え方

・活動のようすおよび考察

 オンラインで初めてゼミを開催したが,大きなトラブルもなく,ほとんどの生徒が参加し,中間報告を行うことができた。ゼミでは,初めてのオンラインでの意見交換の場であったためか,最初はなかなか発言できず,教員や大学生の発言が目立っていたが,時間が経つにつれ意見交換が活発になった。また,中間報告の発表についても,図6のように資料を分かりやすくスライドにまとめている生徒や図や写真だけを画面共有し,自分の言葉で説明している生徒がいるなど,多種多様であった。その一方で,生徒一人ひとりの個の学びの深まりや広がりに差が見られた。これは,探究に適した課題となっているかどうかといった課題設定での問題や,生徒自身が興味・関心をもって取り組めているかといった情意的な側面が関係していると考えられる。また,インターネットや身近な人へのアンケートなどの調べ学習だけで進んでいる生徒が多かった。そのため,今後はその調べ学習をもとに「自らの主張」を提言するように指導していく必要があると考える。

・アンケート結果(N=275)
「個の学びは,自分の成長につながると感じる」を肯定的に返答した生徒の理由

【3年生】

  • ・授業で習うこと,習わないこと含めて,自分から進んで課題を見つけ,解決するためにはどうしたらよいかを考えることは大事なことだと思うから。
  • ・学校生活では得られない探究をすることができるから。
  • ・探究することで新しい発見をし,それが自分の成長につながると思うから。
  • ・教科を学ぶだけでは身につかない資料を手に入れる力が付いた。
  • ・人に自分の考えを伝えられる力をつけられる。

【2年生】

  • ・大人になったらこのようなことをする機会がたくさんあると思うから。
  • ・自分が考えたことのないような事を考えたり,調べたりして深められるから。
  • ・自分の苦手な部分を問いにしたので,今後の生活に活かせそうだから
  • ・答えがないような問題を考えることによって今まで自分になかった考えが身につくと思うから。
  • ・自分が社会人になったら個の学びのような発表のようなことがあると思うからこういう機会があるのは良いと思う。

【1年生】

  • ・難しい課題に対して,真剣に考え,発表することは将来にも役立つことだと思うから。
  • ・何かについて自分なりに調べて自分の納得する答えを出すという力は,これから人生に必要になってくると思うから。
  • ・物事を多面・多角的に見ることができ,結果をまとめたり,考察を考えたりする力が高まると思ったからです。
  • ・これから社会人になったときに自分で課題を立ててその答えを見つけるということはレポートを書いたりなどさまざま使えると思ったから。
「個の学びは,自分の成長につながると感じる」を否定的に返答した生徒の理由

【3年生】

  • ・受験勉強に専念したかったから。でも,自分の知りたいことについて調べたり聞いたりすることで自分の研究に筋道立ててする力が育まれました。
  • ・こんなことをやる時期ではない。最後の一年くらいは受験に専念した方が絶対良い
  • ・自分の選んだテーマの問題もあるのだろうが,このテーマを調べても別に私は成長はしなさそうだなと思ったから。
  • ・ゼミに時間を取られることで通常の学習を行う時間が減るから。
  • ・やらされてる感がある。建設的な学びだと思えなかった。

【2年生】

  • ・「協働の学び」は個人で考える→グループで考えるという順序なので「協働の学び」で個の学びの様な事をすでにしていると思うから。
  • ・個の学びで育つ力が分からないから

【1年生】

  • ・自分の気になることだけのことを調べるだけだから。

アドバイザーの助言と助言への対応

○課題設定に時間をかけることが大切である。
→課題設定には,1学期の「協働の学び」の体験をもとに夏休みに考え,2学期の最初に設定するよう指示した。今年度は,個の学びの骨子をつくるのに時間がかかってしまったため,6月にガイダンスを行った。そのため,課題設定にかける時間は,少なかったと考えられる。来年度は,4月にガイダンスを行い,1学期の時間を有効に使って課題設定のためのゼミを開催しようと計画している。

○情報収集をできるだけ一次資料にすることが重要である。
→コロナでフィールドワークがやりにくい状態になっているが,一次資料を生徒が作成し,提案することが大切である。もし一次資料が難しい場合でも正しい情報を活用させることが重要である。ネット上にある資料が,信頼できるのかを見極める視点を養っていくことも大切である。

○研究を参考とした手続きを学ぶことが大切である。
→研究(探究)の手続き(インタビューの問いの仕方やアンケート項目の選定など)を生徒が学び,実践していくことは大切であると考える。その一方で,生徒にとっては自由な探究を目指してもらいたい。その線引き(どこまでを教えるのか)を吟味していく必要がある。

○各教科の知識・技能,思考力を意識的に活用させることが大切である。
→現在,各教科の知識・技能,思考力を活用した場面をワークシートに記録させているものの(図7)無意識に活用している生徒が多く,記録としてとれていない場合が多い。今後は,各担当教員が価値付けしていくとともに,生徒に意識させ,記録させることが大切である。

○ゼミのコーディネータを生徒に行わせる。
→ゼミをなるべく生徒主体で運営させ,生徒が活躍する場面をつくる。

○ゼミをジャンル分けにする。
→今年度は,ゼミを出席番号順に編成したが,来年度はジャンル分けをすることでどのような効果があるかを検証していく。

○ゼミの外部の人を専門性のある人にする。
→外部の人を専門性のある人にしたいところであるが,生徒の課題が多種多様であるため,実現が難しいところがある。そのため,来年度も大学生と軸にして研究を進めていく予定である。

○個の学びに生徒の個人差があることは,当たり前であり,あまり進んでいない生徒に対しての手立てが大切である。
→今年度は,個の学びを生徒に委ねて研究を進めている。現在のところ私たちの予想を越えて探究を深めている生徒もいれば,そうでいない生徒もいる。そうでない生徒にとっては,よりよい探究をとは,どういうものかというモデルをイメージできるように指導していく必要がある。

本期間の裏話

 アドバイザーとして大学生を募集したが,なかなか集まらず,学部長をはじめ大学教員にお願いして集まるようにした。また,県教育センターにも声をかけたところ現職教員も参加して頂くことができた。

 ゼミに体調不良等で参加できなかった生徒は,別日に担当教員に個別にプレゼンを行うのだが,担当教員ではない先生にも意見を言われ,生徒も負けずに熱のこもった議論になった。

 Zoomでゼミを開催したことで,普段は関わりのない生徒にも関わることができるとともに,関わっていた生徒も新たな一面(積極性,リーダーシップなど)を見ることができた。

本期間の成果

〔第1回ゼミ〕

    • ○異学年集団でゼミを構成したことで,各学年の生徒にとってプラスに働くことが多々あった。最上級学年では,責任感をもって下級生を引っ張るとともに,全体を見て建設的な話し合いを行うことができた。下級生にとっては,上級生からのアドバイスをもらうことで視点や思考方法などを学ぶ機会となった。
    • ○外部の人として教育実習に来ていた大学生をゼミに入れて開催したところ,卒業論文などを経験しているため,研究という視点でアドバイスを頂けた。
    • ○個の学びの課題設定を「協働の学び」に関することという縛りしか設定しなかったため,多種多様になり,生徒の興味・関心とつながるようなユニークな課題も見られた。また,それを通して「協働の学び」でどのようなことを考えているかなども教員が知る機会となった。
    • ○個の学びのゼミの時間が充実したと感じる生徒が多数いた。普段関わりがない生徒と関われる機会や自分の考えを言ったり,相手の意見を聞けたりする機会がその結果につながったのではないかと考えられる。

〔第2回ゼミ〕

    • ○オンラインでゼミを開催したため,時間的・空間的制約を減らして行うことが可能となり,ゼミに参加していない生徒は,実社会での探究の時間に充てることができた。
    • ○電子データの個の学びワークシートに活用した教科の見方・考え方を記入させることで,自分の個の学びを振り返る機会を保障するとともに,自己の特性を理解するためにも有効であると感じた。
    • ○個の学びを行うことが,将来必要となる資質・能力の育成につながると実感している生徒が多い。

今後の課題

  • ○個の学び発表会のために,ゴールイメージをもたせるとともに,自らの主張を発表できるように指導する。
  • ○生徒に一次資料のメリットを理解させ,調べ学習の幅をもたせる。
  • ○個の学びが進んだ生徒と進んでいない生徒の違いを調べることで,来年度の個の学びにつなげる。
  • ○3年生の受験を考え,よりよい個の学びの日程や方法,終わり方を考える。

今後の計画

  • ・第3回ゼミ(1月11日)
  • ・3年個の学び発表会(2月8日  1,2年:3月17日)
  • ・1,2年個の学び発表会(3月17日)公開授業研究会

気付き・学び

  • ・GIGA端末の充電器を保管庫から取り出し,持ち帰ることが大変である。持ち帰ることや生徒の文具として使用させるのであれば,個人PCにするか,各家庭1個充電器を確保する必要がある。

成果目標

 生徒一人一人が「協働の学び」で出合った気づきや疑問をもとに,自分の興味・関心をいかして課題を設定し,探究を行う。そうすることで,自己の学びを実現し,学び続けることができる生徒を目指す。また,電子データとして記録を蓄積することで,自分の学習記録を俯瞰的に捉え,調整することでよりよい学びを追究できる生徒を目指す。

アドバイザーコメント
村川 雅弘 先生
甲南女子大学
教授 村川 雅弘 先生

 2022年度は、6月3日に直接訪問させていただき、第2回ゼミに関しては11月9日にオンライン参観を行った。ゼミの様子や活動報告書のアンケート結果を踏まえ、「アドバイザーの助言」を補足する形で述べる。アンケートによると、特に「ゼミに対する満足度」「発表への手ごたえ」「中間発表会のまとめへの満足度」等が必ずしも高くない。これらの数値が結果的に上がっていくための具体策を研究協議でも述べた。学校の取組や対策は活動報告書の中で示されているが、一般論も含め、改めて述べたい。

○課題設定に時間をかけることが大切である

 生徒の掲げた課題の中には探究に値しないものが散見される。書籍やインターネットで調べれば解決できること、逆にあまりにも抽象的なものは探究的な学びの課題にはそぐわない。「課題設定」自体も探究である。いったん掲げた課題も「ちょこっと調べ」を繰り返す中で、探究に値する課題に昇華していく。課題についても他の生徒と協議し、その課題は1年をかけて取り組むに値するかについて協議を行ってみるのもよい。

○情報収集の際に、できるだけ一次資料に当たることが重要である

 新型コロナの影響で、フィールドワークがやりにくかったことは理解できるが、書籍やインターネットだけに頼っている場合が散見される。そのためどうしても感想文的になってしまう。コロナ禍においても、電話やメール、Zoom等でインタビューを行ったり、Google Form等でアンケートを行ったり、感染対策を行えばフィールドワークも可能である。実際にそのような事例もある。一次資料にあたり、それを自分の言葉でまとめ発信していく経験を多くの生徒にさせたい。

○研究の手続き・手順を経験的に学ぶことも大切である

 先行研究の分析・整理、インタビューの質問の準備、実施、整理・分析、アンケートの依頼や項目の作成、データの分析など、探究的な活動を行う上でのスキルを経験的に習得させていきたい。どのような課題に取り組んだとしても、これらのスキルは基本的なことであり、生徒の独自性を阻害することにはならない。むしろ、生徒一人一人の探究を助け、その質を高めることになる。また、将来どのような道に進もうと役立つものである。

○各教科の知識・技能を意識的に活用させることが大切である。

 自己の取組に対する満足度は、探究に値する課題を設定し、多面的な方法でできるだけ一次情報を得て、それらを読み解き、整理・分析し、効果的な方法でまとめ、しっかりと自分の言葉で他者に伝えることができたどうかに起因する。その過程の中で、各教科等で身に付けた知識・技能を生徒自身が意識的につなげて活用することが、それぞれの活動の質を高めることに繋がる。ワークシートの活用を充実させていきたい。

○ゼミをジャンル分けにする。

 今年度はゼミを出席番号順に編成していたが、同じような課題に取り組んでいる生徒同士で行わせたい。そうすることで、質疑も活発になり、新たな課題も見えてくる。また、司会進行を教師が行っていたが、生徒自身に任せることによって、そのようなスキルも身に付いていく。生徒の多面的な資質・能力を引き出し伸ばしていく上で、これまで教師が行ってきたことを生徒に何をどこまで移譲していくかがポイントとなる。

 このような学びにおいて個人差が生じるのは当然であるが、高みでの個人差を期待したい。「人間道徳」の時間が、全ての生徒にとり、自己及び他者の新たなよさの発見、自己の生き方・考え方のターニングポイントとなることを祈念している。

本期間(1月~3月)の取り組み内容

○第3回ゼミ(1月11日)オンラインにて開催

・内容

 個の学びの中間報告会および意見交換をWeb会議システムを活用して実施した(図1)。ゼミは,1~3年の生徒が各2名ずついることを基本としているが,今回は日程の関係上,3年生を除いた1,2年生と教師,大学生で開催した(図2)。

図1 第3回ゼミのようす(A:教師,B:大学生)

図2 第3回ゼミ ガイダンス資料

・活動のようすおよび考察

 3年生が不在のため,2年生が司会を行い,ゼミを開催した。第2回と比べると,1次データを活用して発表する生徒が多く,自らの学びを広げたり,深めたりしながら進めているようすがうかがえた。質疑応答の時間も中間報告の内容や発表の仕方等,さまざまな意見が出て,充実した時間となった。また,発表するためにプレゼンテーションソフトを活用したり,聴衆に問いかけたりしながら発表する生徒もおり,さまざまな表現方法を駆使していた。ゼミに参加した大学生も積極的に質問や意見を述べており,生徒の個の学びを進めていくためには重要な要素になっている。

 その結果,図3のようなアンケートの変容が見られた。特に第2回(11月)と比べて大きな変化としては,表現に関するアンケート項目の結果である。11月では,自分の個の学びを上手く表現できずにいたが,個の学びを進めていくうちに,探究内容が整理され,自分の言葉として表現できるようになったからではないかと考えられる。その一方で,個の学びに教科で学んだ内容を活用することができていると感じる生徒が減少した(図3)。これは,個の学びが教科と直接的な関係でないため,実感しにくいのではないかと考えられる。実際,生徒の中間報告を聞いていると,さまざまな教科で学んでいることを活用しながら進めている生徒が多い。しかし,それを整理,表出できていない可能性があると考えられる。今後は,その方法を検討していく必要がある。

・アンケート結果(全校生302名 N=300)

図3 第3回ゼミを終えてのアンケート結果
(1年:11月N=97 1月N=99,2年:11月N=94 1月N=95)

○3年 個の学び発表会(2月7日)

・内容

 3年生の1年間の個の学びの成果を発表する発表会を開催した(図4,5,8,9)。それにあたり,生徒一人ひとりに個の学び発表会の発表資料を作成させ,提出させた(図6)。1,2年生は,自分の個の学びを進めていくための参考になると思い,参観させるとともに,印象に残った先輩の発表を記録させた(図7)。

図4 3年 個の学び発表会 ガイダンス資料

図5 3年 個の学び発表会のようす

図6 発表会資料

図7 3年生の発表を聞いてよかった点,参考にすること(1,2年生徒2名分)

図8 生徒の個の学び発表会のプレゼン資料(一部抜粋)

図9 生徒の個の学び発表会のプレゼン資料(一部抜粋)

・活動のようすおよび考察

 3年生は,自らの個の学びの内容を整理してまとめ,聴衆にわかりやすく伝えたり,疑問を投げかけるように発表したりすることができた。また,1,2年生もその発表を聞き,疑問に思ったことは質問し,活発に議論する場面が見られた。3年生の保護者も参加していたため,保護者からの質問や意見もあり,生徒にとっては多面的・多角的な見方や考え方に触れる機会となった。

 図10のアンケート結果を見ても個の学びに関して肯定的に考える生徒が多い。特に「個の学びは,自分の成長につながると感じる」や「個の学びは,将来に必要な力を身に付けるのに有効である」と考える生徒が約85%おり,個の学びを実施してよかったと感じる。その意味を生徒に聞いてみると,「自分の調べたいことをインターネットで調べたり,自分のペースで探究を進めたりしていくスタイルは,将来に必要な力をつけていくにも有効だと思うから」や「相手に伝わりやすいように説明できるようになり,自分の考えの広がりを感じられたから」という内容があった。個の学びを進めていくに当たり,生徒は大変さを感じながらも楽しみながら活動するようすが見られ,以前の教育活動では見られなかった前向きな姿を多く見られることができた。その一方で,「個の学びを意欲的に活動することができた」や「個の学びで,実社会とつながりながら調査,交流,探究等ができた」という質問項目では思ったような成果が得られなかった。これは,個の学びの調査,探究の時間を教育課程の中に位置づけられなかったことが大きな要因だと考えられる。生徒は,学校外の時間(放課後や休日,長期休業日)に活動を行っていた。そのため,「個の学びを広げたり,深めたりする時間がなかった」という意見があった。来年度は,その課題を解決するために教育課程を編成していく必要があると感じた。

 また,個の学び発表会を参観した保護者にもアンケートを依頼した(図11)。その結果,個の学びに対して肯定的に捉えている保護者が多く,図12のような意見や感想があった。

図10 個の学びに関するアンケート結果(2月実施)

図11 個の学びに関する保護者アンケート結果(N=25,2月実施)

個の学び発表会に参加してのご意見やご感想

  • ・プレゼンテーションソフトを使ってのプレゼンテーション。私の中学時代では,考えもしなかった能力の育成です。今の中学生の情報収集能力や,集めた情報を基に,実生活で検証していき,その経験から発表できる能力には,本当に感心しました。下級生の質問内容も,良い質問が多く,実りある時間だったと思います。楽しく拝見出来ました。ありがとうございました。
  • ・それぞれ個性のでる発表で,見るのを楽しませてもらいました。
  • 自分で調べること,まとめること,伝えることをICTを活用しながら行うことは,大学や社会にでたときにたちまち役に立つと思うので,こどもたちにとっていい経験だと思いました。ありがとうございます。見ている側も質疑応答を活発にしていて,生徒たちが何を見るのか聞くのかをよく考え能動的に参加しているのがすてきでした。
  • ・受験生,皆,大変な時期だと思いますが,各々の見つけた課題に対し,真剣に取り組んでいる姿を見る事が出来ました。私事にはなりますが,ここまで自分で作成する事が出来るようになった事,正直驚かされ,感動しました。
  • ・授業での学び,PCの操作,自分の考えを人前で話すなど,学校で習得したことを総合的に見ることが出来て良かったです。深める事には個人差があるかもしれませんが,先生が強制することなく,肯定的にサポート下さっていて,発表では出ていなかったところ(個人で調べていた内容など)も知れて理解が深まりました。

図12 保護者アンケートの自由記述(2月実施)

○3年 個の学びの振り返り(2月中旬)

・内容

 PCにある個の学びの軌跡やプレゼンテーション資料,発表会のようすをもとに,1年間の個の学びの振り返りを生徒に行わせた(図13)。

図13 生徒の個の学びの振り返りシート(4名分)

・活動のようすおよび考察

 どの生徒も自らの個の学びについて俯瞰的に振り返り,個の学びを通して,できたことと改善したいことをまとめることができた。3年生の記述内容を整理してみると,自分の良さを再認識したり,これからの生活で必要なことを見いだしたりする内容が多くあった。これは,本校の教育目標にある「自ら立ちつつ」を実現するために,重要な要素となる。自己理解の推進やアイデンティティの確立,将来のキャリアを展望する基盤にもつながる。特に3年生は,個の学びが今年度で最後になるため,この経験をぜひとも今後の学び(高校生活)にいかして欲しい。

本期間の裏話

 3年生の個の学び発表会では,教師の創造を超えるようなプレゼン資料を作成していた生徒もいた。個の学びは,生徒の進捗状況を随時確認しているわけでもなく,担当教員も毎回変わるため,生徒の新たな一面を知る機会が多い。

 3年生にとっては,学校行事以外で中学になって初めての保護者参観となった。そのため,学校生活での生徒のようすを伝える機会となり,保護者からすると新たな面や成長した面を見る機会となった。

本期間の成果(○)と課題(●)

〔第3回ゼミ〕

    • ○第2回ゼミと比べると,探究内容がよりよくなった中間発表が多くなった。特にインターネットで調べた結果ではなく,自らの1次データ(街にインタビュー,現地調査等)を活用して発表する生徒が多かった。
    • ○ゼミに対して肯定的な意見や考えが高い値で維持できている。第2回は,生徒にとって初めてのことであるため,高い値を示すことは予想していたが,第3回も高い値で維持するとともに,いくつかの項目では上昇するのもあった(図3)。
    • ●3年生の受験と重なり,急遽1,2年生のみでの開催となった。そのため,3年生の進捗状況を把握することができなかった。

〔個の学び発表会および振り返り〕

    • ○どの生徒も個の学びに主体的に取り組むとともに,責任をもって活動できたようすを個の学び発表会で見ることができた。また,課題についても固定するのではなく,新たな疑問や課題が見つかると今の課題とつなげながら,広げ,深める生徒が多くいた。
    • ○保護者に本校の教育内容や生徒の成長の姿を見ていただく機会となった。
    • ○個の学びの振り返りでは,自らの学びを俯瞰的に振り返り,自分の良さや改善点を整理することで,今後の学びにつなげようとする意思をうかがうことができた。
    • ●生徒一人ひとりの個の学びの発表時間を10分と設定していたが,時間が足らなかった生徒が多くいた。
    • ●生徒一人ひとりを見てみると,個の学びの広がりや深まりには差があった。
    • ●3年生の個の学び発表会の時期が入試と重なる可能性があるため,発表時期を検討する必要がある。
    • ●個の学びを通して育成したい資質・能力を整理する。

次年度の方向性

    • ・個の学びの骨子の修正および検討
    • ・個の学びの実施

〔令和5年度の個の学びのスケジュール(案)〕

日程 内容
7月12日(水) 第1回ゼミ(対面)
9月13日(水)
  14日(木)
第2回ゼミ(オンライン)
11月17日(金) 3年個の学び発表会
12月13日(水) 第3回ゼミ(オンライン,1・2年生)
3月18日(月) 1・2年個の学び発表会

成果目標

 生徒一人ひとりが協働の学びで出合った気づきや疑問をもとに,自分の興味・関心をいかして課題を設定し,探究を行う。そうすることで,自己の学びを実現し,学び続けることができる生徒を目指す。また,電子データとして記録を蓄積することで,自らの探究記録を俯瞰的に捉え,調整し,よりよい学びを追究できる生徒を目指す。

アドバイザーコメント
村川 雅弘 先生
甲南女子大学
教授 村川 雅弘 先生

 2023年3月17日の1・2年生の「個の学び発表会」は公務の関係で直接に参観することは叶わなかったが、3月27日の附属高松中学校研究部とパナソニック教育財団とのオンライン会議を通して概ね理解することができた。会議の中で、研究部の報告と生徒の発表動画及び研究協議を踏まえてコメントしたことに加筆している。

○「人間道徳」のメリットとデメリットを明確に示す

 「人間道徳」の価値を明確にしていく上で、以下のことが求められてくる。一つは、現行学習指導要領の総合的な学習の時間や「特別の教科 道徳」及びその横断的学習によって可能な学びとの違いである。内容においても形態に関しても、現行の総合的な学習の時間においても十分に実施可能な部分もある。現行学習指導要領では何が課題で、「人間道徳」はそれをどう改善するものかを示す必要がある。その際に、「人間道徳」のメリットだけに目を向けるのではなくデメリットにも気を配ることが求められる。例えば、「特別の教科 道徳」においてはよりよく生きるための基盤となる道徳的諸価値を共通に学習するが、その点に関しての保障についての検討が求められる。一つは、総合的な学習の時間や道徳教育の改善にかかわる実践研究は、文部科学省の研究開発学校を中心にこれまでも行われてきた。先行事例を収集・整理・分析し、自校の取組と比較することで、自ずと「人間道徳」の特長や位置づけが明確になってくる。

○ゼミにかかわった大学生にとっての意義を明確にする

 「人間道徳」には、香川大学の学生が各ゼミの中で重要な役割を果たしている。実際、生徒の課題設定や情報収集、情報の整理分析、考察等において的確な助言や情報提供を行っている。附属高松中学校の生徒へのメリットは大きい。一方で、かかわった大学生にとってのメリットを明らかにしていきたい。大学生の多くは将来において中学校や高等学校の教職に就いたり、大学教員として大学生を指導したりする可能性がある。教育実習のように4週間という限られた経験ではなく、おおよそ1年間にわたり生徒の学習支援にかかわることによる学びは大きいと考えられる。体験にとどめることなく学びとするためには「言語化」が重要である。何らかの方法でアンケートを兼ねたレポートの作成を求めたい。

○ゼミや発表会における生徒同士の学び合いの有効性を明確に示す

 私が見た限りにおいては、各発表に対する生徒同士の質疑応答はあまり活発ではなかった。教員と大学生が主に行っていた。前回のコメントでも指摘したが、同様のテーマに取り組んでいる生徒でゼミや発表会を編成したい。一方で、テーマが異なっても生徒同士の学び合いは起こっている。オンライン会議で教員に確認したところ、「ゼミ内での3年生の助言が大きい」「3年生が1・2年の生徒に質問をしている」「3年生の発表を見て、プレゼンテーションを工夫している」など、縦割りによるゼミや学年を越えた発表会の実施の効果が大きい。個人追究の過程において、どのような問題が起き、どのような課題を設定し、その解決のためにどのような情報をどのように収集し、収集した情報をどう整理・分析し、どう解決したのか、そして最終的にどうまとめ、どのように発信・表現したのか、その一連の過程において校内外の誰の何を参考にしたのか等の記録を残すようにしていきたい。生徒一人一人の探究過程、そのPDCAサイクルを活性化し、記録するワークシートの開発と活用は重要である。

○情報活用能力を活かしICTを普通に使いこなしていることも発信する

 オンライン会議で「ICT活用は?」と訊いた。「文房具のように普通に使っている」との回答を得た。全国の小中学校において、ICT活用の学校間格差や教員格差は決して小さくない。学校全体として生徒が各教育活動において「普通に使っている」ということは重要なことである。今後、本実践を発表する際において、個の追及や協働的な学びにおいて、ICTの各機能がどう生かされているのかも報告してほしい。特に、上で述べた、生徒一人一人の探究過程、そのPDCAサイクルを活性化し、記録し、そしてそれを踏まえて振り返る上で、ICTをどう活用しているのかに大変興味を持っている。

 来年度のさらなる工夫・改善に期待している。

本期間(4月~7月)の取り組み内容

○本校カリキュラムについて

 本校は,文部科学省研究開発学校の指定を受け,特別な教育課程を設けている。「自らを高め続け,新たな時代に向けて責任をもち行動する人間を育成すること」を目指し,知性と省察性に軸を置いたカリキュラムを開発,実践している。具体的には,「協働の学び」と「個の学び」を編成した新領域「MIRAI」を設置し,その中で知性を発揮し伸ばすとともに,省察性を育んでいる(表1)。

表1 令和5年度教育課程表

 本年度は,文部科学省研究開発学校に指定されたため,年間24時間の個の学びを確保することができた。24時間の運用としては,毎月どこかの週の水曜日を午前授業とし,午後の2時間を調査,交流,探究やゼミの時間に充てる。本期間(4月~7月)では,個の学びを含めたMIRAI全体のガイダンスを行ったほか,学校での個の学びの時間として自分の興味・関心をもとに自らの課題を設定する時間を3時間,その内容を意見交換する時間として1時間,課題設定を発表する時間としてゼミを2時間行った。

○MIRAIで実施する個の学びのガイダンスについて

 ガイダンスでは,昨年度からの変更点を大きく4つに整理し,生徒に個の学びの目的やスケジュール等を伝え,本年度の個の学びの全体像を共有した。具体的には,①個の学びを通して目指したい理想像を生徒に設定させること,②課題のテーマは「答えのない問い」であればどのようなものでもよいこと,③似ている課題をもとにゼミを編成すること,④個の学び発表会での発表方法について,パワーポイントを用いたプレゼンだけではなく,パフォーマンスも含めたプレゼンも可能としたことである。これらの変更点について,昨年度の課題を踏まえて以下に示す。

①個の学びを通して目指したい理想像を生徒に設定させること

 個の学びが探究学習だけで終わることのないように,個の学びを通してなりたい自分の理想像を設定させ,学ぶ意義や目的を明確にさせた。

②課題のテーマは「答えのない問い」としたこと

 昨年度の課題のテーマは「協働の学びに関する内容」であった。そのため,生徒が設定した課題は抽象度が高く,価値や哲学に関するものが多いなど,本当に生徒自身が探究したい課題ではないものも見受けられた。そのため,本年度は生徒自身の興味・関心のある事柄から課題を設定し,1年間かけて探究できるよう「答えのない問い」とした。

③似ている課題をもとにゼミを編成したこと

 昨年度の課題として,ゼミのメンバーを機械的に割り振ったため,自分の課題のテーマとは全くかけ離れた生徒にアドバイスをしなければならず,各発表に対する生徒同士の質疑応答があまり活発に行われなかった。そのため,本年度は同様のテーマに取り組んでいる生徒同士でゼミを編成し,より深い意見交換ができるようにした。

④個の学び発表会での発表方法にパフォーマンスを加えたこと

 課題のテーマが「答えのない問い」と広がったため,実際に製作や実技を行う生徒が出てくることが予想されるため,発表会ではパフォーマンスも可とした。

 これらの変更点を含め,本年度は以下のような資料をもとにガイダンスを行った(図1)。

図1 ガイダンス資料の一部

○ワークシート(電子データ)の改良について

 はじめに,個の学びを通してなりたい自分の理想像を設定するための大問を設けた。次に,自分の興味・関心を書き出した上で,その興味・関心に対する疑問や知りたいことを分析できるようにし,これら2つの内容から「答えのない問い」を導き出した上で探究方法をまとめることができるようにワークシートを構造化した。このことにより,なりたい自分の理想像と課題や探究方法のつながりが一目で分かるようになった(図2)。

図2 課題設定シートの記入例

○第1回ゼミ(7月12日)について

 個の学びの課題設定の発表および意見交換を学校にて対面形式で行った。この段階では課題設定についてのゼミであるため,1グループのゼミのメンバーは,各学年6名ずつの計18名と教師1名に加え,アドバイザーとしてボランティアの大学生2~3名で構成した(図3)。表2は,生徒が設定した個の学びの課題一覧(抜粋)である。

図3 第1回ゼミについてのガイダンス資料

図4 第1回ゼミの様子

表2 生徒の課題一覧(抜粋)

 なお,第1回ゼミのアンケートについては,7月中を回答期限としているため,次回の活動報告書に記載する。

アドバイザーの助言と助言への対応

○村川先生からのアドバイス

① 課題の内容が大切。本当に価値のある課題なのか,世の中の問題解決をするというテーマ設定がなければならない。

→ 世の中の問題解決に関しては,「協働の学び」でプロジェクトを通して問題解決をしている。個の学びでは,生徒の個性の伸長に重点を置くため,本当に自分が興味・関心のあるものは何か,自分の強みは何なのかを模索する時間とした。そのため,なりたい自分の理想像に向けて,自分にとって価値のある問いを立てられるようにした。

② 生徒同士の質問力を高め,ゼミの意見交換が活発になるような環境づくりや教師の働きかけが大切。そのためによく似た課題を設定している生徒同士でゼミを構成するのはよい。最後の発表会では,ゼミを解体するのもよい。

→ 本年度は同様のテーマに取り組んでいる生徒同士でゼミを編成し,より深い意見交換ができるようにしたい。最後の発表会では,ゼミを解体する方向も視野に入れて計画していく。

③ 昨年度の発表会は,生徒によって個人差はあったがおもしろかった。ただ,望ましくない個人差が生まれているのはなぜか原因を考える必要がある。テーマ設定なのか,個人の意欲の差なのか,発表の仕方の差なのか,ゼミの差なのか,教師の指導や支援の差なのかについて分析が必要。

→ アンケートや生徒の変容を見ながら分析をしていく。生徒個々が設定した個の学びを通して目指したい理想像に自分がどれだけ近づけたかについて,個の学び全体を通して振り返らせる。

本期間の裏話

    • ・生徒から,昨年度の個の学びと比較し,自分の興味・関心をもとに課題を設定できるようになったことで,課題設定に広がりができたことが嬉しいといった声が聞けた。
    • ・本年度より「個の学び部会」を組織し,部会で昨年度の取組をベースによりよいものになるよう改良を加えているが,変更点や新たに提案する内容に対する先生方の意見のすり合わせに多くの時間がかかり,会議の進行に支障が出ている。また,部会の教師4名で何度も意見をすり合わせていく内に視野が狭くなり,提案内容に偏りが出ている。

本期間の成果

    • ・ガイダンスを行い,生徒に個の学びの目的やスケジュール等を伝え,本年度の個の学びの全体像を共有することができた。
    • ・文部科学省研究開発学校の指定を受け,本年度は個の学びを24時間であるが教育課程に入れることができた。そのため,課題設定のための時間を3時間確保し,生徒自身の興味・関心のある課題は何かを模索する時間を確保することができた。
    • ・1学期に課題設定のゼミを終えたことで,夏休みを調査,交流,探究の期間に充てることができた。

今後の課題

    • ・ゼミの編成において,同様のテーマの捉え方に関して,似ている課題を設定している生徒で編成するか,文系,理系などの学問で課題を分類して編成するかについて,検討が必要である。

今後の計画

    • ・ゼミの開催(9月,12月)
    • ・第3学年個の学び発表会の開催(11月)
    • ・第1・2学年個の学び発表会の開催(3月)

成果目標

 生徒一人ひとりが興味・関心をもとに課題を設定し,探究を行うことで,個の力を伸ばし,学び続けることができる生徒を目指す。また,電子データとして記録を蓄積することで,自分の学習記録を俯瞰的に捉え,調整することでよりよい学びを追究できる生徒を目指す。

アドバイザーコメント
村川 雅弘 先生
甲南女子大学
教授 村川 雅弘 先生

 2023年6月9日の発表会は対面で参加することができた。発表会及び6月16日の附属高松中学校研究部とパナソニック教育財団とのオンライン会議で協議したことを元に、以下、成果と課題をまとめる。

探究に値する課題設定を

 生徒の興味・関心に基づいて課題を設定しているが、やはり課題の格差が大きい。ある男子生徒は中学生とは思えないレベルの高さで、幅広く情報を集めて整理し、自分の言葉で効果的に発表できていた。一方、別な男子生徒は課題も調査方法、発表の仕方にもかなり課題が残った。確かに始めから探究に値する課題を設定することは困難で、少し調べればわかるような課題を一つ一つ解決していく過程で、その事実間のずれや矛盾などを見つけ、真に探究に値する課題に出会うことも少なくないが、最終段階の課題として中学生としては「幼い」ものが散見された。一部の情報源や簡単なアンケート等で済ませている事例も少なくない。3年間で3回のチャンスがあるので、個々の生徒の中での成長を見ていきたい。

 「人間道徳」が目指している価値を理解し、踏まえた上での課題設定が求められる。「一年かけて追及するのに価値あるものか」を念頭において課題設定を行いたい。課題設定のための時間が少ないのか、課題設定における生徒同士の相互評価の有無や質なのか、この学びに対する生徒自身の元々の意識の差なのか、生徒同士の切磋琢磨の差なのか、教員の指導・支援の差なのかを明確にし、かかわった大学生の助言の差なのかを吟味し、次年度以降の取組に生かしていくことが重要である。特に、研究開発学校として、新教科・領域等として教育課程に位置付けることを目指すのであれば、この取組を充実させるための課題の設定や情報収集等の在り方や教員の指導・支援の在り方を具体化・明文化していくことが求められる。

ゼミ編成に関して

 参観した発表会場では、生徒からの質問はあまり出なかった。異なる分野の課題に関する発表に対して、理解した上で質問することは容易なことではないが、日頃から「質問力」を鍛えておくことも必要である。

 ゼミ編成に関しては、同じような課題の生徒同士で編成する方が、お互いに情報交換を行ったり、必要に応じて協働的に調査したり、助言を行ったりができやすいので、個々の探究が深まるのではないかと、これまでも述べてきた。内容が近いゼミの中でしっかりと質問し合う・助言し合うスキルを伸ばし、文化を醸成していくことが重要である。

 「質問力」を日常的に鍛え、「気軽に質問し合える文化」を醸成した上で、最後の発表会は異なる分野の生徒で行いたい。それまではゼミの中で近い課題の者同士での評価や助言、協議であるが、最終発表会では、それまでの経験や学びを生かして、異なる分野の発表に関して理解し、その上で質問や助言ができるようにしたい。取り組んできた分野は異なっても、探究的な学びを経験してきた中で培ってきた力を発揮することで様々な課題に対応できるという実感や自信を持たせたい。また、異なる分野の研究成果と自己の課題の研究成果を結びつけて新たな提案や課題を見つけることも経験させたい。

ゼミに関わる大学生にとっての意義

 前回も述べたが、大学生がゼミに関わることで、彼ら自身も成長する。例えば、京都市立堀川高等学校は「探究科」で結果的には進学実績を劇的に伸ばした。高校生の探究的な学びを支援したのが京都大学の大学院生である。将来、大学教員になる可能性のある大学院生にとっても、4週間で終わる教育実習以上の学びがあったと考えられる。附中の取組においても大学生が多くかかわってくれている。このような取組は、Win-Winでないと続かない。大学生にとっても、学びを言語化しないと消えていく。就職活動で自己PRにも使える。経験を言語化することは大学生にとっても大きなメリットとなる。レポートではなく「振返り」として依頼するのが賢明だろう。振り返りの柱を2~3つ(ゼミを通して学んだこと、成長したこと、今後に生かしたいことなど)設けるとよい。

「サイコロトーク」

 生徒3名(2年生と3年生)による「サイコロトーク」が実に面白かった。サイコロを振って出た目の課題について熱く語ってくれた。私や他の参観者が矢継ぎ早に質問をしても嫌な顔一つせず、真摯に応えてくれた。生徒自らが実践の意義や成果を伝えることは極めて有効である。今後も大いに取り入れて欲しい。