応援企画でコラボレーション予定のプロバスケットボールチーム側との打ち合わせ及び実践研究に向けた導入に関する打ち合わせ。一年生段階の知識・技能でも取り組むことができる活動モデルの提案と洗い出し。チームと対象学年とのミートアップイベントの開催。生徒へのアンケート実施と夏休みに実施予定のチーム訪問企画の紹介と参加者の確定。


都道府県 学校 | 東京都 東京都立八王子桑志高等学校 |
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アドバイザー | 岸 磨貴子 明治大学 准教授 |
研究テーマ | 産業高校によるICTを用いた地域の集客促進プロジェクト ~生徒が主体となって考えるこれからの『産業イノベーション』による多角的なアプローチ~ |
目的 |
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現状と課題 | 本校は令和4年度から一人一台端末の導入を開始することになったが、まだ学校として生徒に対し授業内で効果的にICT機器を利用する指導については、教員組織全体で模索・確立していく段階にある。無線LANネットワークは昨年導入済みであり、ハードウェア面では環境整備がなされていることから、今後は指導する教員間でどのような活用を行っていくかの方針・情報共有等のソフトウェア面での充実と一貫した指導体制が課題である。 |
学校情報化の現状 | 各教科等では情報手段や技術を活用した指導が行われているが、全校体制で取り組めている段階には至っていない。校務の情報化などは電子決裁や電子データを用いた会議などが導入され始めており、今後の更なる取り組みが重視される。 |
取り組み内容 | 地域社会への貢献や他分野との連携を重視する観点から、地元プロバスケットボールチームの集客に、チームの運営方法を変えず低予算でチケット販売の促進策の提案、併せて販促ツールの試作を行う。活動グループは分野を跨ぎ、最低4名以上のメンバーで構成。4分野の特色を生かし、端末でイメージを共有しながら主体的かつ協働的にプロジェクトを進める。 |
成果目標 |
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助成金の使途 | プロジェクター、3Dプリンター、360カメラ、モーションキャプチャ、活版印刷機、硬質UVインク、3Dプリンター リフィル式ABS、モーショントラッキングデバイス、活版印刷機 受講料他 |
研究代表者 | 綿田 奈月 |
研究指定期間 | 2022年度~2023年度 |
学校HP | http://www.hachioji-soushi-h.metro.tokyo.jp/site/zen/ |
公開研究会の予定 | 年度末に校内で開催予定。2年間のプロジェクトであることから次学年への引継ぎを兼ねて発表を行う。 |
応援企画でコラボレーション予定のプロバスケットボールチーム側との打ち合わせ及び実践研究に向けた導入に関する打ち合わせ。一年生段階の知識・技能でも取り組むことができる活動モデルの提案と洗い出し。チームと対象学年とのミートアップイベントの開催。生徒へのアンケート実施と夏休みに実施予定のチーム訪問企画の紹介と参加者の確定。
アドバイザーからの助言: 実践として行う活動の設定をする一方で、同時進行で研究としての課題を確立していく。生徒に対して地域への親しみやすさを意識し、課題をどのように提示していくかが重要になってくる。また一年目のプロバスケットボールチーム集客促進プロジェクトの経験を、二年目の産業イノベーションに係る新科目へ反映し、実践研究として生徒の卒業後の繋がりを見据えた発展的な活動を作っていく。
助言への対応: ミートアップイベントでの導入についてはこちらから最初に具体的なものを与えるよりも、生徒が応援したいと思ってもらうために選手やチームに親しみを持ってもらうプレゼンテーションを構成した他、生徒が自発的に考えて生み出したアイデアを重視する観点から、プロジェクトの導入時に生徒同士で話し合い、その考えを発表する時間を確保した。
校内のみならず、バスケットボールチーム側とのミートアップイベントの詳細を調整していく過程で、対象生徒にチームの想いをどのような活動をどのような方法で紹介するかの企画・打ち合わせに時間を掛けた。イベント当日は実際にチーム広報担当者の仕事内容やチームに掛ける想いをプレゼン頂いたこと、実際に本校の生徒とバスケットボールのプレイを見せる機会があり、半数の百名を越える生徒が興味を持つアンケート結果となった。
生徒の興味・関心についてミートアップイベントの感想や、自身が生かせそうな特技、集客促進に向けてどのようなことができるかについて、Formsのアンケート機能にて回収することができた。チームとの具体的なコラボレーション企画についても生徒から様々な意見が上がり、練習風景や広報業務を訪れて見てみたいという要望に向けて夏休みに訪問予定。
本校四分野の良さを生かしたプロジェクトに応じた規模のグループ編成と、生徒による実現可能な集客促進活動の立案。校内各分野との連携した指導や、チーム担当者との会議(オンライン含む)の設定。参加者の取り組みについて校内での共有。
対象候補者に向けて夏休み中のバスケットボールチーム訪問と取り組みについてのアイデア出し。九月初旬時点でのグループ確定及び、情報機器や分野の独自性を用いた本校の特色を生かした集客促進活動の企画と実践。
スポーツ観戦経験のある生徒が予想以上に少なく、実際に選手のプレイを見て迫力を感じ、興味を持ったという声が多かった。生徒が地元との結びつきを意識する機会となった。
八王子桑志高校では、「産業高校におけるICTを用いた地域集客促進プロジェクト」を事例として、生徒が主体となって考え、新しい価値創造に向けて行動できるカリキュラム開発に取り組んでいる。2023年度に新設される「産業イノベーションプロジェクト」では、生徒一人ひとりが、自分らしく生きていけるように、学校教育において自分の特技や得意技を活かして、実践に参加できるようなカリキュラム開発を目指す。その具体的な実践が、地域のプロバスケットボールチームと連携したICTを用いた地域集客促進プロジェクトである。
八王子桑志高校には、デザイン分野、クラフト分野、システム情報分野、ビジネス情報分野の4つの分野がある。それぞれの分野の教員が1年次の生徒らと活動をはじめ、2年次から、新設する「産業イノベーションプロジェクト」内の授業で取り組む。このプロジェクトに取り組むまでに、生徒らが2年次の活動を見据えて、それぞれ特技や得意技を見つけ発展させ、自分ならどう関われるのか/関わりたいのかをイメージしていくことが1年次の実践の目標である。
本実践研究に関する4-7月の報告書では、最初のステップとして、プロバスケットボールチームと生徒の「出会い」のデザインについて報告されている。八王子桑志高校では、2022年7月7日に、生徒がプロバスケットボールチームと出会う最初の取り組みを行った。それまで教員らはプロバスケットボールチーム側と何度も対面およびICTを活用したやりとりを通して打ち合わせを行ってきた。双方ともに重視していたことは、生徒の「やってみたい」を引き出すことと、同時にそれができる環境を学校側で構築することである。そのために2つのアプローチが検討された。ひとつは、プロバスケットボールチーム側から生徒が参加しやすい活動を10ほど提案し、生徒が参加を通して自分のできること、やりたいことを見つけていくアプローチである。もうひとつは、プロバスケットボールチームを訪問し、生徒自らができそうなこと、やってみたいことを見つけることである。持続の観点から、生徒をプロバスケットチームとどのように出会わせるかを検討し、それが7月7日の実践へとつながっている。報告書から、生徒がプロバスケットボールチームに関心をもったことは示されているため、教師の生徒へのその後の働きかけにも着目していきたい。
今後の動きとして実践的課題となっているのは、アウトプットの質の問題である。プロバスケットボールチームと連携して地域集客促進の活動をするといっても、まだ技術や知識が十分にないと自信が持てない生徒も少なくない。彼らが今自分の持っている特技や得意技を活かしつつ、それを発展させて「できそう」と思える支援や環境が必要となる。そこで、1年次では比較的小さなグループで活動を始め、少しずつ他の生徒を巻き込み、2年次でカリキュラムとして位置付け、全体の取り組みにしていくという案が生まれた。
地域連携を実際にやりながら形にしていくアクションリサーチ型の実践研究である。今後、研究の問いを絞りながらデータ収集と分析、その結果をもとにしたアクションのサイクルを行うことになる。第2回目のアドバイザー会議では、研究の問いの設定について意見交換を行った。同席した教員6名からは以下のような問いの例が示された。
これらの問いは暫定的なものではあるが、実践を通して問いを絞り、その問いに答えていけるような形で実践研究をしていくことになる。今後の展開も楽しみである。
本校では、対象学年である1年生が主体となり、地元八王子の企業や地域活性化のために応援プロジェクトを企画・立案し、実践を試みる活動を研究課題としている。今年度はその一環として地元プロバスケットボールチーム「東京八王子ビートレインズ」の集客促進に取り組んでいる。4~7月の期間では本校生徒にまずはチームのことを知ってもらうため、チーム紹介の場としてスタッフや選手の方々と交流を図るミートアップイベントの設定や、生徒の意識調査アンケートを実施した。その上でプロジェクトの性質や指導体制等を鑑み、1年生全員の活動は困難であるとの判断から、今年度は有志生徒グループによる活動に留めることとした。このため有志の参加者が確保出来るよう、どうしたら生徒がプロジェクトに関心を持ちポジティブに捉えられるか、チーム関係者と夏休み期間中に協議を行ったところ、2学期においても早急にメンバー選出をするよりも、もう少しチームを知ってもらう必要があるのではないかとの意見が出された。これにより1年生全員に向けて9月中旬にチームの本拠地である八王子エスフォルタアリーナを訪問し、広報担当者から試合当日の会場内のスタッフ業務について、説明をうけるアリーナツアーの実施や、続く10月23日(日)においてはホームゲーム観戦を行った。またこの日のためにチームロゴをあしらったオリジナル「うちわ」を製作し、これを基にして生徒全員が装飾やメッセージを書くなどのアレンジを施した上で、持参して当日の応援に臨んだ。 複数回のアンケート調査を経て、ホームゲーム振り返り会後に有志メンバーを正式募集し、最終的に学年全体から30余名の参加者を集めることが出来た。これらの生徒をそれぞれ[①SNS・広報 ②チケット・グッズ ③ブース・イベント]の3グループに分け、各々にチームのスタッフ1名が付きアドバイザーを務める構成にて、応援プロジェクトの企画・立案を進めていくこととなった。11月には実際にこれらグループメンバーを決定し、週一回の活動報告会に加え、教室を開放して各グループの生徒同士が今後の企画や予定を話し合う場を平日放課後中心に設けた。またチーム側から本校生徒がより主導的に活動を具体化させる場として、生徒プロデュースによるホームゲームの実施の提案があり、2000人動員という目標も頂いた。これを達成するため12月初旬時点で各グループが具体的な活動計画を相互に発表した。今後、3月に予定されている同試合に向けて各グループでより詳細な計画を立て、目標動員数を念頭にプロジェクトメンバー全体で主体的かつ協働的に活動を行っていく。
アドバイザーからの助言:
本研究実践の有志募集に際して、生徒が自身の考えや提案を表現する際に、手がなかなか挙がらないことや、自己効力感が低く自分にそんなことができるのかと躊躇してしまうなどの現状が見られる。これら生徒のプロジェクトに向かう動機付けでは、地域と連携したPBL(問題解決型学習)のデザインが重要であり、生徒とチームを出会わせて、同じイメージをシェアすることにより、「自分ゴト」(自分たちに関わりのある事)にする経験が必要である。そしてアンケート実施などで生徒の変容を現状把握しながら、どういったことで社会貢献できるかを提示してはどうか。また生徒のやってみたいことや、やってきたことを聞きとり、これから自分が出来そうなことに手を挙げさせることで、気恥ずかしさや心的ハードルを取り除くことができるのではないか。
生徒がそれらやりたいこと、できることを見つけられたら、問いを持たせ自分の言葉で語れるようになると共に、少し先の自分のイメージを持てることに繋がってくる。このように生徒ができそうと思える働きかけは最初に教員側が見本を作り、アレンジを行うなどの簡単なタスクから始めてもよい。生徒がその経験を足掛かりとして自身の感情や思いを言葉にすることでプロジェクト自体への動機が生まれ、様々な案が出てくるであろうし、自然に後の発展的な活動に結びついてくる。
これを見据え教員側は実践のデザインモデル構築と、何をこのプログラムで育み、評価し、実践的・教育的にゴールとするのか考えていく必要がある。
助言への対応:
教員プロジェクトメンバー内でもかねてから、生徒の参加したいという意欲をどのように涵養していくかを議論してきたが、アドバイザーからの助言を受け、応援する対象であるトレインズにもっと触れ合う機会を持たせ、本プロジェクトを「自分ゴト」として認識させるとともに、実際に応援活動を簡易的に体験する機会としてオリジナルのうちわ製作をすることとした。うちわを選択した理由は、グッズとして面積が広く、ベースとなるデザインの上から生徒によるアレンジが可能であり、これを手に持ち生徒が応援する際に動きを付けることで、集団としての一体感を共有できる効果を考えてのことであった。このうちわ制作を通して、活動の中で生徒が ①我が町のチームであり、応援した対象であることを意識付けること、 ②応援している自分をイメージしながら能動的に理想のうちわを制作することで、プロジェクトに前向きに取り組む姿勢を喚起させること、の2点を意図したものであった。この時期から1年生の応援に対する取り組みが前向きになったように感じられたが事実、意識の変化はアンケート結果や生徒の様子からも見て取られた。
7月のミートアップイベント後のアンケートでは強い興味・関心を持つ生徒が多く見られた。そこで夏休み中にアリーナツアーを該当生徒対象に予定していたが、当時の感染症流行の背景もあり、予定を後ろ倒しにするなど、想定通り計画を進めることが困難となってしまった。それに伴い、次回活動まで時間が空いてしまい、この間に生徒のモチベーション低下があったように伺えた。そこで生徒たちがより応援活動を展開していくイメージをどうしたら持ってもらえるか等について教員プロジェクトチームで時間をかけて議論することとなった。有志生徒の人数確保をするためにも、定期アンケートによる生徒の意識調査を踏まえ計画を調整し、学年教員団の協力を得ながら1年生全員でのアリーナツアーや試合観戦を実施した結果、30名余りの有志生徒の立候補が叶い、教員一同安堵したものであった。同時に、ツアーを企画する際に生徒にどうすれば「自分ゴト」となるか、を意識付けるためにもトレインズ側との共通認識を持つ必要があった。そこでチーム側に対して、生徒へアプローチしていく過程において、本校としてどのような目的で、どのような生徒を育てて行きたいかを、しっかりと共有するための連携を念入りに行った。このような打ち合わせを行ったことで、チーム側の理解を得て課題や広報の業務を分かりやすくしたプレゼンテーションを提供頂き、良い結果へと繋げられることができた。この一連の活動において我々もプロチームを支えるマネジメントサイドの底力を感じ取ることが出来、また学校として地域との開かれた教育課程の編成を意識する貴重な機会となった。
各月での継続的な活動とアンケート集計を行えたことが主な成果ではあるが、中でも応援うちわ制作では本校各分野の特色を発揮し、装飾などのアレンジをすることで、生徒がトレインズに親しみを抱くきっかけとし、試合当日に気持ちを高めて観戦に臨む雰囲気を作ることが出来た。また試合後に生徒からは、「初めて試合を観て迫力を感じた」「練習の時とは異なり、試合中の選手のプレイをみてプロとしての覚悟と誇りを感じた」「見るだけではなく、応援することでファンも楽しめるように工夫されていた」などの感想も聞かれた。立候補した有志生徒たちも非常に意識が高く、何度か行った会議では積極的な姿勢を持ち、時間を過ぎても活発な意見交換が続くようになった。ICT機器活用の観点からもTeamsアカウントを利用した関係者間連絡が定着した他に、マイクロソフトのWhite Boardを活用し、ブレインストーミングとしてグループ内で共有出来るボード(掲示板)に取り組みたい活動やイメージを付箋として貼るなど、一人1台端末体制の利点を大いに活かすことが出来た。加えて発表活動時のパワーポイント制作や、SNS・広報グループの動画や写真の撮影など、タブレット端末ならではの使用方法を生徒が工夫して活用する様子が多く見られた。
12月初めに立案した3グループ[①SNS・広報 ②チケット・グッズ ③ブース・イベント]それぞれの企画を生徒が本校4分野の強みを発揮して、実際にかたちにするまでのスケジュール管理と、トレインズスタッフ、校内各分野との実現に向けた指導体制の確立。研究実践課題に沿った生徒の意識調査や活動観察の評価方法の設定。有志生徒グループの取り組みについて校内での共有。
3月の試合プロデュースに向けて場所と指導者を確保しつつ、日常的な生徒の課題解決に向けた実践をトレインズ側も交え、注視・助言していく。情報機器や分野の独自性を用いた本校の特色を生かせるよう、ITの利活用を推進し、有志生徒のPCスキルや撮影等機器の利用体制を拡充していく。
本校では専門性の異なる4分野の生徒が協働し、一つのプロジェクトに取り組む機会がほとんどなかったために、当初はグループを組んだ際にどのような化学反応が起こるか推測しかねており、懸念するところでもあった。実際に活動を観察したところ我々が思っていたよりも活発であり、互いに忌憚なき意見を交わしながら、建設的な議論を展開していた場面は、正に分野間での垣根が取り払われているように感じられた。特に発表の場では他のグループが自分たちの活動をどう考えるのか問う場面が見られたことも、分野を跨ぎ、横の繋がりを意識し始めた変化として印象深い。上記にも述べた通りであるが、このように普段は見られないような、積極的な姿勢と行動力を伴った雰囲気が有志グループからは感じられ、本取り組みを展開できただけでも、本研究実践の成果の一端を見ることが出来たように思う。生徒においては自身の意見を言語化し、グループ内での協議によって、相手に伝える姿勢を育んだことやプレゼンテーション能力の習得に結びついたこと、集客において思考すべき企業人としての視点や姿勢を共通認識として持つことができた。
八王子桑志高校では、「産業高校におけるICTを用いた地域集客促進プロジェクト」を事例として、生徒が主体となって考え、新しい価値創造に向けて行動できるカリキュラム開発に取り組んでいる。4月から7月では、その具体的なアプローチを模索する段階であった。具体的には、地元プロバスケットボールチーム「東京八王子ビートレインズ」と連携し、如何に地域と連携していけるかについて関係者と意見交換を重ね、活動を具体化していくために教師が中心となって動いていた(詳細は、4-7月の報告書を参照)。
8月から12月の取り組みでは、本プロジェクトに関心のある生徒たちを募り、具体的な活動につなげていった。有志の参加者を確保する上で、生徒らが現地を訪問するなど「実際につながる」ことを中心に活動をはじめた。生徒らは「東京八王子ビートレインズ」と実際につながることで、彼らと何をやりたいのか、自分達はなにができそうなのか、少しずつイメージを持つようになっていることが報告された。
以上の東京都立八王子桑志高等学校の活動から見えてきた知見は少なくとも次の2点があるだろう。
第2回目の会議では、4-7月の報告で示したように教師からいくつかの研究の問いが示された(4-7月のアドバイザーコメントを参照)。その後の8-12月の活動では、その中でも生徒の当事者性に着目し、活動が行われた。今後も引き続き、具体的な問いを持ち、その問いに答えていく形で実践研究をしていくことを応援したい。問いを持たないまま実践を進めてしまうと、活動報告になってしまう。実践研究のためには常に研究の問いを意識し、その問いの視点からデータを集め、それに答えていく必要がある。
問いの観点でいうと、第3回目のアドバイザーとの会議では、このプロジェクトを通して、生徒にどのような力を育てたいのか、が議論された。そこで出てきたことが次の4点である。
今後は、これらの観点を再度検討しつつ、これらの観点からデータを収集、分析することで生徒の変化をとらえていくことになる。今後の活動も期待している。
図1:第3回目の会議の全体像
本校有志生徒からなるプロジェクトメンバーによる、地元八王子バスケットボールチーム「東京八王子ビートレインズ」3月18日のホームゲームに向けての継続的な集客促進活動の実施。[ 1. SNS・広報 / 2.チケット・グッズ / 3.ブース・イベント]の3グループに分かれ活動を行っているが、その中でもそれぞれ2班に分かれて作業を進めている(以下グループ毎に①/②で表記する)。主な活動内容は以下の通り。
グループ毎に打合せや制作・広報を順次活動すると共に、二学期に引き続き毎週火曜日を基本としてトレインズ関係者を招いて全体会を開き、情報交換や共有する機会を持った。またトレインズのスタッフの方々は各グループに1人ずつアドバイザーとして生徒と直接的な指導の他に、Microsoft Teamsを介して頻繁に情報交換をして頂いた。各グループ共に具体的な企画やそれに伴う作業が進んできている一方で、プロデュース試合直前では担当教員・生徒共々、納期や作業に追われる日々となった。試合当日(土曜日午後)は雨であったものの、前日(金曜日夕方)の試合における観客動員数370名を大きく超える、707名の集客を実現することが出来た。また本校関係者の姿も多く目にしたことで、生徒も本プロジェクトである程度の達成感を得ている様子であった。一方で目標の2000名にはまだまだ届いておらず、今回の反省を踏まえて、次回は効率的かつ効果的な集客を目指していくとの決意を共有した。
当日の様子(於八王子エスフォルタアリーナ)
アドバイザーからの助言:
来年度以降、本校でカリキュラム化することを念頭に置いていることから教育目標の設定、その具体的な方法とそのための評価を見据えて今後進めるようにする。本プロジェクトを通して生徒が何を到達できるのか/できたのかを明らかにするために評価についての設定をできるだけ早く行っていく。例としては、本学の授業で学んだ知識・スキルを活用、応用しているか、アプリを活用しチームでの情報共有を円滑に進めることができた、画像・イラストの作成ができるようになった、などが考えられる。そのために根拠となるデータ収集が必要となるが、まずは目標の設定とそれをどのデータで評価するかを検討する。またこれら目標、方法、評価に加えて、ICT教育環境のデザイン/教師の介入(支援)/リソース/外部連携の際の考慮点についても整理していく必要がある。
助言への対応:
本校では今年度の活動をモデルとし、引き続き本プロジェクトを継続すると共に発展させていくためにも、アドバイザーの言われる評価基準とそのための方法を具体化するべきと再認識をした。実際、教員メンバー間で本プロジェクトの教育目標をこれまでの活動から再検討してみたが、本研究テーマである「生徒が主体となって考えるこれからの『産業イノベーション』による多角的なアプローチ」が、やはり生徒へ身につけさせたい資質・能力と結びついているとの意見で一致した。これはトレインズスタッフの方々と関わる中で彼らが自身のアイデアを発展させ、またそれを実現するために試行錯誤をしながらアプリ活用や制作活動のノウハウを蓄積させていること、加えて地域店舗を含めた外部の方との新たな関わりを自ら探求している姿を、我々教員が目の当たりに出来ているということでもある。一方で実際にプロジェクトを進める中では課題点や改善点はまだ多くみられたため、3月18日のプロデュース試合後の反省会で洗い出しと具体化をできるように記録をこまめに行った。これまで同様Mirosoft Formsを使用することで、生徒の達成度及び改善に向けた考えを収集できたので、今後の実践研究の評価基準やその為のデータ収集方法などを検討するために活用をしていきたい。
上記の通りプロジェクトメンバーは3グループに分かれて作業を行っていたが、大枠は区切っているものの、それぞれ具体的な集客活動が他グループと重なってしまうことがしばしばあった。例えば広報グループではないが、チラシ制作をしたり、グッズ班ではないが販促グッズ制作をする場合などであるが、生徒間で他グループと連携や情報共有を頻繫に行うことが少なかったため、この事に気づかず重複した集客促進活動を進めていたことはプロジェクト全体で考えると効率を欠く結果となった。これを避けるには生徒のみならず担当する教員間でのコミュニケーションが重要になるが、試合直前では年度末の業務や時間的制約などから全体像を把握するのが困難な状況があったため、今後は活動時期や指導体制について改善が必要である。Teams上で全員が共有するスケジュールシートなどの活用を促していたが、作業も佳境に差し掛かり生徒も教員も余裕がないことが多かった。一方でトレインズスタッフの方々が日々行っておられる業務の大変さを痛感する貴重な機会となった。
本校、校長先生も手伝っての追い込み作業 (チケット・グッズグループ)
3月18日のホームゲームに向けた[ 1. SNS・広報 / 2.チケット・グッズ / 3.ブース・イベント]の3グループによる具体的な制作物・地域へのチラシ・ポスター配布など集客活動。地域店舗や本校生徒出身中学へのイベント呼びかけや、新聞・ラジオ・Web媒体による宣伝。前日の試合からほぼ倍の観客数動員(707名)と、その過程に至るまでの生徒同士の連携及び、地域との関わり合いの中で主体的な姿勢を培うことができた。
プロジェクトチーム全体会の様子
今年度の活動をモデルとし、引き続き本プロジェクトを継続すると共に発展的な活動のための評価基準とそのための方法の具体化。本研究テーマでもある「生徒が主体となって考えるこれからの『産業イノベーション』による多角的なアプローチ」に向けた生徒へ身につけさせたい資質・能力を涵養するためのキャリアデザインⅠ・Ⅱのカリキュラムマネジメントの確立。
今年度、集客プロジェクトを体験した2年生がメンターとなり、1年生と共に集客プロジェクトに関わる分野・学年の枠を超えた主体的な学習活動の充実。本校(デザイン・クラフト・システム情報・デザイン情報)の4分野の強みを生かした『産業イノベーション』を見据えた「新しい価値」を創造する姿勢の涵養。
今年度の反省を踏まえた、生徒のアイデアを実現するためのアプリ活用や制作活動のノウハウを生かした効率的な集客活動の洗い出し。加えて外部の方との新たな関わりを意識して生徒自らが地域社会と繋がりを深めていく過程 - 主体性を持って取り組んでいく変容を可視化できるかたちで記録。今年度実現出来なかった集客2000人を目標とした生徒の取り組みを支援するための指導体制の充実。
上記にも書いた通りであるが、実際に実践研究を行ってみて、生徒の様々な資質・能力を発展させる新たな活動を設けることが出来たと感じている。しかしながらやはり初年度ということもあり、初めての試みばかりで手探りの1年であったという印象である。
3月18日の試合を終えて、プロジェクトメンバー指導者(教員&ビートレインズスタッフ)による、各グループの取り組みについての成果や感想は以下の通りである。
スタンプラリーブース(ブース班)
生徒司会による部活動の公演(イベント班)
缶バッジは選手やロゴをデザイン(グッズ班)
手作業によるチケット作成(チケット班)
うちわ作成ブースは盛況であった(グッズ/ブース班)
ステッカー/チケットデザイン(グッズ班)
特に直前では、なかなか集まることが出来ない中で余裕をもって活動できたらよかったと感じる。トレインズ側と教員側で次年度以降に生かせる経験を持てたので、主な今年のスケジュールを来年度も踏襲していく方向で合意が取れた。
Formsアンケートにてプロジェクトメンバーの多くが、来年度も関わりたいとの回答をしてくれたことからも、今年度の経験を生かし、引き続き本校4分野の強みを生かした生徒による地域の集客促進活動を継続していきたい。
プロジェクトメンバー(学校関係者&トレインズ)全体で記念撮影
今回のプロジェクトではグループ内やトレインズ関係者との連絡は主にMicrosoftのteamsを使用し、生徒が持っている1人1台端末であるサーフェスにて制作物のイメージや動画をアップロードしたり、各グループのスケジュールを共有カレンダー(excelファイル)に書き込むなど多くの場面で活用することができた。生徒も最初は端末の操作方法に慣れていなかったものの、次第にファイルのアップロードや、URLリンクのシェアなどでイメージを共有したり、アプリケーションを使用して作業を行うなどICT端末ならではのメリットを生かしていた。
またプロジェクトチームでは、振り返りとして同じくMicrosoftのformsアンケート機能を使用し、生徒の自己評価や、作業進捗状況を把握することができた。最終アンケートでは今回参加した生徒の多くが次回もプロジェクトに関わりたいとの結果が得られた。
アンケートにも見られるが、普段は関わりの少ない各分野の生徒が、プロジェクトを通して協働的に活動に取り組むようになったと感じられる。生徒によっては最初、人と話すのが苦手であったにも関わらず、制作物を周りから褒められたり、改善策などを話し合う内に、作業にも人との関わりにも積極的になり、班の中心として活躍する生徒もいた。本研究実践における成果目標1. 「自分らしい生き方」を主体的に「判断・実行」できる力を育成し「未来の産業人」を育てる、という視点からも、今年度の活動は一定の成果を得られたと感じる。
来年度はこのような成長をより多くの生徒が持てる機会としていきたい。
八王子桑志高校では、「産業高校におけるICTを用いた地域集客促進プロジェクト」を事例として、生徒が主体となって考え、新しい価値創造に向けて行動できるカリキュラム開発に取り組んでいる。1月から3月の取り組みでは、本プロジェクト型教育の最終アウトプットとなる地元八王子バスケットボールチーム「東京八王子ビートレインズ」に向けた集客促進活動に取り組んだ。
2023年1−3月の活動報告書からは、本実践がどれほど充実したものかよくわかる。筆者も、この日のために取り組んでいた生徒の様子を見ていたため、試合当日の様子がどうだったのかとても気になっていた。東京都立八王子桑志高等学校の報告書では、完成したプロダクトや企画、そしてそれに至るプロセスが詳述されており、本プロジェクトの成果を明確に確認できた。
本実践研究には、学術的および実践的意義として少なくとも次の2点がある。
ひとつは、生徒の多様な才能や強みが引き出される教育環境デザインになっている点である。報告書にも示されていたように、普段は目立たない生徒がこのプロジェクトでその才能や強みを発揮し自信を持つことができていた。筆者による実際の授業視察でも、生徒らのアイデアや作品に対して、教師だけでなく、生徒同士やビートレインズのスタッフも評価し合う場面が多くあった。経験したことがない、いつもと違うやりかたでの活動だからこそ、生徒らは多様な意見や経験を出し合う(ギブする)必要があった。そしてその結果、生徒ひとり一人の多様性が発揮しやすく、またそれが認められる学習コミュニティになっていったと考えられる。
もうひとつは、生徒らはICTを目的達成のために柔軟に活用していた点である。本プロジェクトでは、生徒自らが、どのツールを使うのか、それをどう使うのかを決めながら活動を進めていた。教師らは適宜必要に応じてアドバイスや支援をするが、ツールの選択は生徒に委ねられている。生徒らはノート、タブレット、パソコン、スマフォなど多様なツールを使っていた。全体で話し合う際にはノートにラフスケッチをしながら進め、議事録はタブレットで、検索はスマフォで、写真の背景削除はスマフォで行いデザインや編集は自宅のパソコンを使うなどである。生徒一人ひとりが自分たちの活動しやすいように自らの学習環境をデザインしていた。
これらの2つの点はプロジェクト型学習のデザインを考える上で参考になるだろう。
一方で、アドバイザーの助言にも示したように、これらの「教育成果」をいかに可視化するかが課題となる。本プロジェクトでは、生徒一人ひとりの学びの様相やそのプロセスは多様である。そのため、特定の評価基準だけではその多様性をとらえることができない。
そこで、2年目は、本実践の成果をどのように評価し、他校に参照可能な形で発信していくかを検討していく必要があるだろう。ICTスキルや知識など量的に測れるものについては従来の定量的な方法を使い、生徒一人ひとりの多様な学びの様相やそのプロセスを捉えるためには、定性的(質的)な方法やアートの技を活用した方法などが考えられるだろう。
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