富山市 活動報告(富山県)

研究課題

富山市立芝園小学校において、授業に1人1台のタブレットPCを活用した場合の教育効果を、富山大学、富山市教育委員会、富山市教育センター、パナソニック教育財団との共同研究で実証し、その成果を学校へ還元する。
実践校 富山市立芝園小学校
アドバイザー 東京学芸大学 教育学部 総合教育科学系 高橋 純 准教授
成果目標
  • One to Oneの未来型授業を設計・開発する。
  • 開発された授業(システム)を実践(研修)し、日常化・普及を図る。
  • 学習効果を調査・分析する。
  • 教育現場への無線LAN環境の導入に関する可能性とその問題点を探る。

2014年度4-12月期の取り組み内容

行政的側面

・教室への無線LAN環境の導入
富山市では基本的に無線LANの使用が制限されているが、やり取りされる情報の質(個人を特定できない)と無線LANの範囲(教室内)を制限した上で、セキュリティの高さを担保し、その導入に至った。

・既存の統合ネットワークへの接続
富山市では、市内全小・中学校をネットワークで結び、情報を統合サーバーで管理しているが、「富山市情報セキュリティポリシー」をクリアし、統合サーバーを介さずインターネットに接続したり、デジタル教科書等の教材を使用したりできるような新たなICT環境(無線LAN)を構築した。

・芝園小学校の4階の各教室や廊下の天井にアクセスポイントを設置し、4階の全フロアでタブレットPC を使用することができるようにした。

研究対象校の側面

●教員研修、校内研究

1)全体研修会~タブレットPCに慣れよう~(8月19日)

・富山大学やパナソニックから講師を招いて研修会を開いた。タブレット操作の仕方を学んだり、タブレットを使うときのルールを考えたりした。各自が考えたルールをタブレットPCに入力し、「eトーキー」に反映するなど、「eトーキー」の機能について教えを受けた。

2)タブレット活用ミニ研修会

・情報主任が中心になって研修会を進め、タブレットの操作の仕方を学んだり、タブレットを活用した授業を紹介してもらったりした。

●授業研究

①5年国語科 ~討論会をしよう~(11月5日)

・自分の話し方で相手に理解してもらうことができるか、声の大きさ、間の取り方、話す速さ等について、タブレットPCの動画機能を使って見直した。

・子どもたちはとても集中して取り組み、ヘッドホンをつけ、意欲的に意見文を話す練習をした。

②5年社会科~情報化した社会とわたしたちの生活~
(12月16日)

・たくさんの情報に囲まれていることを子どもたちに理解させるために、デジタル教科書から写真資料を選びタブレットPCに配信した。子どもたちは、配信された写真を見て情報として伝わるものにタッチペンで印を付けながら学習を進めた。

③5年算数科~面積の求め方を考えよう~(12月16日)

・子どもたちのタブレットPCに平行四辺形を配信し、タッチペンで線を入れながら図形を等積変形できるようにした。一人一人に平行四辺形の面積の求め方を考えさせた後、グループで交流する時間をもち、友達の考えと比べながら理解が深まるようにした。

アドバイザーの助言と助言への対応

①アドバイザーの助言

・タブレットを使うための授業ではなく、まずは授業の質を高めることが大切である。

・よい授業を支えるには、まず学習規律を見直し、整えていかなければならない。

・タブレットを効果的に活用することで、子どもたちの知識が広がり、理解が深まるようにしていく。

①アドバイザーの助言

・授業の質を高めるために、課題の吟味、言語活動の充実、効果的なタブレット活用について留意しながら授業実践に取り組んでいる。

本期間の成果

・富山市の既存の設備や環境の上に新たなICT環境(無線LAN)を構築していくための問題点、解決策が明らかになった。

・教師も子どももタブレット操作に慣れ、タブレットが無理なく授業の中で活用されるようになってきている。

・ねらいを達成するためにタブレットの活用の工夫が見られるようになってきている。

今後の課題

・安定した無線LAN環境、デジタル教科書以外のソフトウエアの充実等、ICT環境をより一層整備していかなければならない。

・ICT支援員の配置等、授業中のタブレットPC の不具合に対応できるような人的支援の在り方も考えていかなければならない。

・グループトークをするときのタブレットPCの置き方、タブレットPCとノートを同時に使うときの机上での並べ方等、細かなルールを明確にし、子どもたちの学びの環境を整えていく。

・子どもたちの知識が広がり、理解が深まるように、効果的なタブレット活用を今後も工夫していく。

・タブレットPCに触れる機会を増やしていくことで、キーボード操作を上達させ、子どもたちの検索能力やPCを使ってまとめる力(プレゼン力)を高めていく。

今後の計画

・ICT環境の整備と教員研修が一体となり、1人1台のタブレットの活用に向けての取り組みを進めていく。その中で見えてきた課題をクリアしながら本研究の成果を明らかにしていく。

アドバイザーコメント
東京学芸大学 教育学部 総合教育科学系 高橋純 准教授

1人1台の情報端末の活用について、一般的な公立小学校にとって何から取り組むべきかを、現実的かつ丁寧に研究を行っているのが、芝園小学校の取組である。

 

芝園小学校をはじめとした富山市内の全ての小学校では、全ての普通教室にプロジェクタや実物投影機、指導者用デジタル教科書などが常設されており、既に5年以上が経過している。また教育センターによる研修も活発に行われている。このような環境に、1人1台の情報端末の活用が導入された。

 

最初の環境構築では、懸念された無線LANなどのトラブルはほとんど起こらなかった。他での取組などと比較すると、断定はできないものの、高品質の情報端末の導入が大きかったのではないかと思われる。しかし、最も多くの時間が費やされたのは、「富山市情報セキュリティポリシー」のクリアに向けた調整であった。最終的に無線LAN接続は認められたものの、活用方法が限定されており、富山市が整備しているコンテンツを充分に活用するためには、さらなる調整が必要となっている。

 

9月に導入作業が完了し、その後、12月までの間、45回の情報端末を活用した授業が行われた。これらの経験から、1人1台の情報端末を授業でスムーズに活用するための前提が明らかとなった。
1)学習ルールの明確化と徹底、 2)教員によるICT活用の日常化、である。児童が情報端末を活用すれば、活用しないときよりも、気が散ってしまったり、机上が狭くなり整理が難しくなったりする。それでも、従来と同等以上の授業を行うためには、まず情報端末を扱う際の学習ルールを明確化し、それを徹底することが重要となる。また、児童が情報端末で活動をする前段階には,教員によるプロジェクタ等を用いての学習課題の提示が行われる。まとめの段階でも同様に教員や児童による提示がある。こういった教員によるICT活用が日常化していることが1人1台の実践の前提となるといえる。

 

アンケート調査によれば、児童のみならず保護者も好意的にとらえていると聞いている。これは大きな目標を見据えながらも、足下から丁寧に準備や実践を積み重ねている富山市教育委員会や芝園小学校の取組の大きな成果といえるだろう。

2014年度1-3月期の取り組み内容

授業実践

5年算数科 「三角形の面積の求め方」

・授業の導入時に、分数の約分問題に取り組ませた。子どもたちのタブレットPCに電子黒板と同じ問題を配信し、タブレット上で練習問題を解かせ、復習させた。

・子どもたちは、タッチペンを使い、配信された問題に取り組んだ。

・「三角形の面積の求め方」の導入場面である。既習事項である平行四辺形の面積の求め方を使って三角形の面積を求めるよう子どもたちに提示した。

・問題の解決の仕方を絞って提示したことによって、解決の見通しをもつことができ、どの子どももスムースに問題に取り組むことができた。

・一人一人がタブレットPCに配信された三角形の図を基に平行四辺形を作成し、平行四辺形の面積の求め方を基にしながら、課題を解決することができた。

・タブレットPCを活用したことで、容易に図や式をかき込むことができ、三角形の面積の求め方を分かりやすく説明することにつながった。

・三角形の面積の求め方をペアで紹介し合う場をもったことによって、自分の考えを見直したり、相手の説明のよさを自分に取り入れたりすることができた。

5年社会科「森林とわたしたちのくらし」

・導入場面で、電子黒板に森林の絵を大きく映し、課題意識をもたせた。

・子どもたちは、タブレットPCに配信された資料を見ながら、森林の働きを意欲的に見つけていた。

・見つけたことをノートに書き、考えを整理した。

・配信されたグラフ「人工林と天然林の面積の変化」から分かることをノートにまとめた。

・社会科の授業では、タブレットに配信された絵やグラフを見て考えることが日常的に行われ、資料を読み取る力が高まってきた。

6年社会科「日本の役割と世界の未来」

・電子黒板に映された写真をみて、人々の様子から何をしているのかを想像し、青年海外協力隊についてのイメージを膨らませた。

・電子黒板に映された資料から、青年海外協力隊員が多く派遣されている国について読み取り、それらの国々はどのような国なのか確認した。

・海外でどのような活動をしているのか資料集を基に話し合い、なぜこんなに多くの人々が海外協力隊員として活躍しているのか予想した。

・青年海外協力隊の人々がどのような思いで活動しているか、学習を通して思ったことや考えたことをタブレットPCに書き込んだ。

・世界で困っている人を助け、力になりたいと書き込んだ子どもの画面を電子黒板に大きく映し、自分の考えと比較させた。

5年社会科「情報を生かすわたしたち」

・電子黒板に映された写真が何を映したものか想像させたことによって、子どもたちの集中力が増し、効果的な提示となった。

・救急車の中だということが分かった子どもたちは、情報がどのように生かされているか実際の使われ方を想起しながら意欲的に発言していった。

アドバイザーの助言と助言への対応

①アドバイザーの助言

・子どもが主体的に学習に取り組めるような課題をよく吟味し、タブレットを効果的に活用しながら学習内容の習得を図っていく。

・子どもたちにどんな力をつけたいのか、そのためにはどのような学習活動を行えばよいのかをよく考え、タブレット活用、ノートに書く活動等、子どもにとって適切な学習活動を取り入れていく。

②助言への対応

・課題を十分に吟味し、いつどこでどのようにタブレットを活用するのか明確にして、無理のない活用を心がけている。

本期間の成果

芝園小学校

タブレットを日常的に授業の中で活用したことによって、社会科では資料を読み取る力が高まってきた。
算数科では、タブレットを活用して、操作活動やペア学習・グループ学習を行ったことで、学習内容の理解に役立てることができた。

教育センター

3学期に入ると、無線LANに関する要望が一切なくなり、授業に集中できる環境が整ったようである。それぞれの授業で、「この時間は書画カメラ、次の時間はタブレット」と、授業内容に合わせてICT機器の使い方に工夫が見られるようになり、子どもが機器を使った移動や先生方の機器の使い方も慣れてきたと感じられた。

今後の課題

芝園小学校

グループトークをするときのタブレットPCの置き方、タブレットPCとノートを同時に使うときの机上での並べ方等、細かなルールを明確にし、子どもたちの学びの環境を整えていく。
子どもたちの知識が活性化し、理解が深まるように、効果的なタブレット活用を今後も工夫していく。
タブレットPCに触れる機会を増やしていくことで、キーボード操作を上達させ、子どもたちの検索能力やPCを使ってまとめる力(プレゼン力)を高めていく。

教育センター

年度末に65型の電子黒板が増備され2台配備になり、2クラス同時に充実した授業が可能になったことで、各クラスの授業もスムースに進行するようになった。
今後は、整ったICT環境の中で子どもにとってより効果的な教材提示や課題提示等を探りながら、授業を進めることが目標となる。

1年間の取り組みの成果

・無線LAN環境構築の問題点とその対応が分かり、今後、タブレットPCを導入する際に役立つものと考えられる。

・芝園小学校の教員が、タブレットPCや電子黒板の基本的操作を身につけた。

・アドバイザーの高橋先生が運営する研修会に、芝園小学校の教員、市教員委員会及び市教育センターの指導主事が参加することで、見せる授業ではなく、本当に効果的な機器の利用方法について学ぶことができた。

成果についての自己評価・感想(気づき)/次年度への思い

・他の3地区と比較して無線LAN使用までに時間がかかり、授業実践を行う期間が短い印象を受けるが、制度的な問題を一つ一つ解決していくことができ、今後の機器導入に役立つものと思われる。

・先進的実践校の取り組みを多く知ることで、日常的な機器利用のあり方について学ぶことができた。

・来年度は、JAETの全国大会が予定されているため、更に研究を深めていきたいと考えている。

アドバイザーコメント
東京学芸大学 教育学部 総合教育科学系 高橋純 准教授

初年度の芝園小学校の取組から学ぶこと

 

初年度のワンダースクール応援プロジェクトが終了した.今後,全国各地においても,1校に1クラス分にあたる40台程度のタブレット端末を整備する自治体も多いと思われる.そういった自治体にとって,この初年度の様々な出来事は参考になることも多いであろう.

 

現機器が動き始めたのは,9月以降であった.機器整備のみならず,市の制度や規則への対応など,準備にはかなりの時間がかかった.それでも,価格だけで判断せず,安定性に定評のある機器が整備されたため,整備終了後,ただちにトラブルなく実践に取り組めた.筆者は他のプロジェクトにも参加しているが,ここまで初期トラブルがなかったことは例がない.今後の機器選定では,安定性に定評のある機器を導入することに強く配慮すべきであろう.

 

また,実践後に新たに整備が必要と判断された機器は,ファイル共有サーバとプリンタであった.加えて,電子黒板と無線LANの増設であった.現在,ファイル共有サーバ以外は整備が完了しているが,一度,整備が完了してしまうと,新しい機器を導入するのは一筋縄ではない.今回は研究プロジェクトの性格もあったため,追加の整備が可能となったが,それでも多くの苦労があった.必要とされた機器は,従来のコンピュータ室での整備とあまり変わらない.それが普通教室に広がっていくというイメージであろう.

 

実践については,以前から本校で日常的に行われているICT活用を少しずつ拡張していく方針が採られた.本校に限らないが富山市内の小学校では,教科書等をプロジェクタで拡大提示しながらの学習指導が日常的に行われている(平成25年度は市内全65小学校の総計で約18万授業時間).その際に,学習目標や学習課題から考えて,適切な教科書等の一部分をよく吟味して拡大している.不要部分を映さない,極端に拡大することで興味関心を高めるといった手法が日常的に行われている.結局,電子黒板が重要なのではなく,その画面に何を映すかのコンテンツが重要であり,さらにそれをどう切り取って提示するかが重要であるといったことが,共通認識されている.

 

そこで,同様に,児童が持つタブレットの画面に何を映したら,児童の興味関心を高められるか,分かりやすくなるか,何のデータを読み取ることができるかといったことが大切にされた.こういった活用法において,タブレット画面に提示すべき内容は,教員が電子黒板等に提示する内容と大差はない.ただし,児童の手元で,拡大したり縮小したりしてじっくり見られることが,前方の電子黒板だけに提示することと異なる効果といえる.結果,気楽に実践できるだけではなく効果も得られることから,本校では,毎日のようにタブレット端末が使われることになった.実践を重ねるにつれて教員も児童も,タブレットに慣れるだけではなく,学習に欠かせない大事なツールであると認識することができた.

 

2年目に何をすべきかである.過去に全国で行われたタブレット端末活用の実践を整理すると,1)情報の入手,2)情報の整理,3)情報の伝達といった,調べて・まとめて・伝える段階で活用されることが多い(高橋ら 2014).本校の初年度では,これまでにも述べたように,主に1)に着目して実践を行ってきた.そこで,今後は,2)や3)にも取り組んでいくことになろう.その際に,1)にじっくりと取り組んだことが大きな意味を持つ.2年目は,日常的にタブレット端末を活用できるようになった自信と技能が活かされることが期待される.

 

【参考文献】
高橋純,稲場恵美,堀田龍也(2014)小学校におけるタブレット端末を活用した実践事例の分析,日本教育工学会第30回全国大会講演論文集,pp.357-358

2015年度4-7月期の取り組み内容

5年社会科 低い土地のくらし ‐岐阜県海津市‐

富山市内を流れる松川周辺の様子(プロジェクター)と岐阜県海津市の様子(電子黒板)を比べた。子どもたちのタブレットPCに海津市の資料を配信し、気づいたことをタッチペンで記入させた。

書き込んだことを提出させ、発表する子どものデータを電子黒板に映しながら説明させた。

交流場面で、自分の考えを発表するときに、タブレットPCに記入したことを「ぼうけん君」で撮影し、すぐに電子黒板に映した。「ぼうけん君」を活用することで、子どもたちの考えをタイムリーに映し出すことができ、子どもたちは分かりやすく考えを伝えることができた。

5年算数科 小数のわり算を考えよう

前時に問題の求め方を一人一人に提出させ、本時では、友達の考えと自分の考えとを比べながら聞き、自分の考えを筋道立てて説明できるようにしたり、他の考えとの違いに気づいたりできるようにした。

グループ活動では、自分の求め方を説明し合った。タブレットPCをグループのみんなに見せながら、自分の求め方を分かりやすく説明した。

子どもたちは和やかな雰囲気の中で、グループの友達に自分の考えを伝えていた。

6年社会科 3人の武将 -織田信長-

左の写真は、安土城下の様子と鎌倉の様子を比べ、安土の様子について気づいたことを発表しているものである。安土は鎌倉に比べ、にぎやかで明るいと発言していた。その発表の後、子どもたちは、安土城下では誰がどんなことをしているかタブレットPCに配信された資料の中から見つける活動を行った。

子どもたちは、タブレットPCから安土城下の特徴を見いだし、安土城下ならではの様子を丸で囲んだ。

電子黒板に映された安土城下町の様子から、子どもたちが見つけたことを紹介し合った。

6年算数科 分数のわり算を考えよう

0.5÷3/5の計算の仕方を考え、タブレットPCに求め方を入力した。

友達の求め方を聞き、タブレットPCに入力してある自分の求め方を見直した。

かけ算の形に直して求めることに気をつけて、新しい計算問題に取り組んだ。

アドバイザーの助言と助言への対応

①アドバイザーの助言

・タブレットを使うための授業ではなく、まずは授業の質を高めることが大切である。

・いつ、どこで、何を分からせたいのか、授業者は明確な意図をもち、タブレットPCを効果的に活用していく。

・調べ学習において、分かったことを整理するノート指導を行い、タブレットを効果的に活用しながら考えを交流するようにする。今後、交流場面でタブレットを効果的に活用し、子どもたちの言語活動の活性化につなげていく。

②助言への対応

授業の質を高めるために、課題の吟味、言語活動の充実、効果的なタブレット活用について留意しながら授業実践に取り組んでいる。

本期間の成果

芝園小学校

・5学年では、教師も子どもも初めてタブレットPCを使ったが、操作に慣れ、タブレットが無理なく授業の中で活用されるようになってきている。

・何を考えさせるためにタブレットを活用するのかなど、授業者はタブレット活用の目的を明確にして授業に取り入れるようになってきている。

教育委員会

・導入段階が完全に終わり、本格的な運用の段階を迎え、効果的な授業展開に関する研究を進めることができた。

今後の課題

芝園小学校

・初めてタブレットPCを使う学年は、グループトークをするときのタブレットPCの置き方、タブレットPCとノートを同時に使うときの机上での並べ方など、細かなルールを明確にし、子どもたちの学びの環境を整えていく。

・子どもたちの理解が深まるように、効果的なタブレット活用を今後も工夫していく。特に、子どもたちの言語活動がより活性化していくタブレットPCの効果的な活用を工夫していく。

教育委員会

・授業へのタブレットPC利用に関して、学習面へのプラス面とマイナス面を明らかにし、一般化していく。

今後の計画

夏休み・JAET全国大会の指導案完成

   ・高橋先生を迎えての研修会

   ・環境整備

2学期 ・JAET全国大会に向けての事前研を行う。(9月~10月5日(月)にかけて)

   ・10月9日 JAET全国大会

3学期 ・タブレットを用いた授業の2年間のまとめを行う。(1月~2月)

アドバイザーコメント
東京学芸大学 教育学部 総合教育科学系 高橋純 准教授

本校のタブレット端末の活用は、自然で当たり前になっている。その証拠の一つとして、教員によるタブレット活用に関する指示や説明が、ほぼ無くなっていることがあげられるだろう。説明がなくてもソフトを使えるようになっているし、指示がなくとも子供が集中する学習集団となっている。ここに至るまでには、単にタブレット活用に慣れさせるだけでは難しく、しっかりとルールや基準を定め、それに基づいて徐々に慣れさせていったことが大きいといえる。「ルール+慣れ」の重要性は、後に続く学校への大きな示唆になる。

 

こういった慣れていく段階におけるタブレット活用の方法は、子供が学習課題をつかむためにタブレットや電子黒板で資料の一斉提示をすることが多かった。最初から難しい活用をと肩肘をはらずに、一斉指導場面での活用を中心にすることで、活用回数を増やし、教員にとっても子供にとっても「ルール+慣れ」を浸透させていくことができた。

 

そして、本校は、この慣れの段階を過ぎて、ある意味で本格的なタブレット活用が始まっている。例えば、子供が自分の考えを持つために資料作成をタブレットで行ったり、それらをお互いに提示し合い、子供同士で意見や考えの交流を行ったりする活用が飛躍的に増加している。もちろん、教員による資料の一斉提示も同じように多くの回数で行われていることから、タブレットが授業のあらゆる場面で活用されるようになっているともいえるだろう。こういったタブレット活用は望ましいものの、より学習時間が必要となる。したがって、いかに不必要な指示や説をなくし、本質的な学習をできるようにしていくかがポイントになる。その際に、徐々にタブレット活用を進めてきた本校の強みが出る。

 

全日本教育工学研究協議会全国大会富山大会(JAET富山大会)において、本校は授業公開を行った。約300名の参観者を集めたが、自然で当たり前にタブレットを活用する姿の一端を実際にお示しできたのではと思っている。

2015年度8-12月期の取り組み内容

6年算数科 「速さの表し方を考えよう」

Aさんは40mを8秒、Bさんは40mを9秒、Cさんは50mを9秒でそれぞれ進むという条件で、3人の速さを比べる方法について考えさせた。一人一人が、ノートに求め方を書いた後、タブレットPCで再整理を行った。
タブレットPCでまとめた後、グループで自分の求め方を伝え合った。

72秒間あたりに進む距離で速さを比べていた子どもの求め方を電子黒板で大きく映し、説明させた。自分の求め方との違いや、友達の考え方やまとめ方のよさを見つけるなど、多様な解決方法を共有することができた。

6年算数科 「拡大図と縮図」

タブレットPCで、図形を拡大したり縮小したりして、2つの図形が重なることを体験できるようにした。タブレットPCの操作を通して、拡大することや縮小することを感覚的にとらえられるようにした。

タブレットPCで図形を操作して、気づいたことをワークシートに書き込みながら一人学習を進めた。タブレットPCでは図形を重ねて確かめるという操作、ワークシートでは自分の考えをまとめて書く活動など、タブレットPCを使う目的を明確にして活用した。

5年総合的な学習の時間 「発信!芝園の魅力」

自分が調べてきた芝園の魅力についてタブレットPCを使って4枚の画面でまとめさせた。グループごとに発表させ、キャッチコピーと写真資料が合っているか、自分の見つけた芝園の魅力がしっかり伝わるかなど、グループでプレゼンテーション資料の見直しを行った。

電子黒板に資料を大きく映しながら発表させた後、プレゼンテーション資料のよい点や改善点について全体で話し合い、自分たちの資料づくりに生かした。

5年理科 「もののとけかた」

ミョウバンと食塩の溶けた水溶液の温度を下げていき、水溶液の変化する様子をタブレットPCで録画し、考察場面で活用できるようにした。

一定温度で溶けたミョウバンと食塩の量を班ごとにグラフで表しておき、各グループのタブレットPCに配信した。子どもたちは、グループで、このグラフを画面に出し、実験結果とグラフから読み取れることを結びつけて考察することができた。写真は、グループで話し合い、考えたことについてグラフを指し示しながら説明している場面である。

実践成果の発表

・JAET富山大会にて、他の3地区と共に、ワンダースクール応援プロジェクトの成果を発表した。発表にあたっては、アドバイザーの高橋先生より助言をいただいた。

・「教育の情報化」実践セミナー 2015 in 佐賀にて、ワンダースクール応援プロジェクトの成果を発表した。

アドバイザーの助言と助言への対応

①アドバイザーの助言

・課題提示場面、交流場面等、いつ、どこで、どのようにタブレットPCを活用するのか、授業者は明確な意図をもち、効果的に活用していく。

・探究型の学習における、課題設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現の過程で、タブレットPCを活用し、子どもたちの言語活動の活性化につなげていく。

②助言への対応

芝園小学校の研究主題「分かる喜びを感じ、学び合う子どもの育成~言語活動の充実とICTの効果的な活用~」の具現化を目指す過程で、タブレットPCのよりよい活用の仕方を日々の授業実践の中で見いだしていく。

本期間の成果

芝園小学校

・調べ学習を通して分かったことを再整理するためにタブレットPCを活用したり、タブレットPCでまとめた資料を交流場面で活用したりするなど、タブレットPCの活用場面に広がりが生まれ、言語活動を促進することができた。

・グループ学習でタブレットPCを活用し、考えを交流したことで、教え合い学び合う協働的な学習を展開することができた。

教育委員会

・JAET富山大会において、芝園小学校がタブレットPCを利用したOne to Oneの授業を公開した。その授業を、全国から来校された方々に見ていただき、貴重な意見や感想を伺うことができた。意見・感想は、以後の活動の参考とした。

今後の課題

芝園小学校

・タブレットPCをいつでも誰でも活用できるように研修の機会を確保し、これまでの2年間で得た学びを継承・発展させていく。

教育委員会

・ワンダースクール応援プロジェクトが本年度で終了するため、H28年度以降、芝園小学校を含む市内の小・中学校におけるICT機器の整備及び保守、研修のあり方について検討が必要である。

今後の計画

(1月~2月)芝園小学校

・タブレットPCを活用した授業の公開(5学年)を行う。

・タブレットPCを用いた授業の2年間のまとめを行う。

教育委員会

・財団への報告と合わせて、2年間の取り組みの成果をまとめる。学習の効果については、財団からの結果を参考としていく。

公開授業・公開研究会の計画

・タブレットPCを活用した授業の公開(5学年)

アドバイザーコメント
東京学芸大学 教育学部 総合教育科学系 高橋純 准教授

ワンダースクール応援プロジェクトも終わりが近づいてきた。そこで、今後につなげるための検討を行いたいと思う。

 

1人1台の情報端末を効果的に活用するにあたっての前提は、1)トラブルのないICT環境があること、2)教員自身が普段からICTを活用して指導していること、3)児童が基本的な学習スキルを習得していること(学習規律、タブレット端末の操作スキル、調べたり、まとめたり、伝えたりするための基本的な学習スキルなど)となるであろう。

 

ワンダースクール応援プロジェクトによって整えられたICT環境は、当初からトラブルがほとんどなかった。また、教員自身のICT活用は、本プロジェクト参加以前から日常のことであった。前述のような学習スキルは、タブレット操作を除けば、おおよそ身についている児童たちであった。

 

短時間で、本報告にあるような充実した、そして効果的な活用が定着できた。これは、そもそも児童がノート等でも充分に活動できていた証でもある。情報端末は何でもできるが故に、教員にとっても児童にとっても誘惑が大きい。だからこそ焦点化した学習活動を段階的に進めていく必要がある。タブレット端末を活用しさえすれば即座に能力が高まることはない。積み重ねが大事なのである。その結果、本校は、従来以上に充実した発表活動などにつながった。

 

本校のタブレット端末を活用した学習活動は、多くの学校のお手本になる。その際、ワンダースクール応援プロジェクトの期間はもちろんのこと、それ以前にどのような状態であったのか、そういったことも含めて振り返っていくことが、後に続く学校への貴重な情報となるだろう。