活動レポート

第1回有識者会議

各界の有識者が一堂に集まり、21世紀の日本人の「心」のあり方を探る「こころを育む総合フォーラム」の初会合が18日、東京都心のホテルで開かれた。この日はメンバー16人のうち13人が出席、心をめぐるさまざまな問題、課題について意見を交換した。討議は今後月一回、一年かけて行われ、来春に国民への提言として発表される。 午前八時から始まった討議では、発起人で松下教育研究財団理事長の遠山敦子・元文科相があいさつした。「戦後60年が過ぎた日本は豊かになった一方、日本人の心のありようは混迷し、残虐な事件、不祥事が後を絶たない。日本人がかつて持っていた自分を律し、他人を思いやるといった精神はなおざりにされている」と指摘。 「こうした心の問題についての取り組みは政治や官では限界があり、民間の力で進めなければならない。今回は各界でリーダーシップを発揮されている英知に集まっていただき、総合フォーラムとあるようにさまざまな分野から心について論議をしていただくことになった。私たちの提言が各界での努力を促し、国民的な運動の契機になれば、と願っている」と述べた。 座長を務める宗教学者の山折哲雄・国際日本文化研究センター所長は「日本人が『心は大切』と言い続けて千年が過ぎた。その間、何人もの優れた宗教家などが、日本人の心の探究を深めてきた歴史がある。今後、心を育む環境づくりをどう進めたらいいのか、みなさまのお知恵を拝借したい」と語った。 この後、出席者13人がそれぞれ意見を表明。主な意見は次の通りだった。 「最近、家庭や社会での人間関係の温かみというものが薄くなってきている。協力し合って生きていくことが人間の一番基本なところで、それ抜きでは心というものはとらえきれない。その意味でも、親たちが周りの人間関係をもう一度見直すべきだ。人が幼いころ、周囲から受け入れられているという感覚、『肯定感』を得ることは重要なファクターだ」 「人が生きるには前提として依るべきもの、身を寄せるものが必要で、これが心の安定につながる。生活の規律というものをきちんと与えることと、心を育むことは表裏一体だ。今は社会が不安定なものになり、依るべきものがなくなってきている」 「現代では、自分で自分の生活の手段を獲得しながら生きていくことがあいまいになってきており、この数十年で深刻な問題になってきた。つまり社会的な意味での倫理性というべきものをどう持つべきかが、切り口のひとつと思う」 「事件が起きると、いまのジャーナリズムは、その背景や当事者の個人的なヒストリー、心の軌跡については書かない、サポートしていないのが現状だ。だが、女子ゴルフの横峯さくら選手をめぐる報道では、お父さんのことが詳しく紹介されている。宮里藍選手のご家族のこともそうだ。事件についてもジャーナリズムは光を当て、解決策を探らねばならない」 「私は小学校上級から中学校の初めにかけて読んだ本の何冊かをいまだに覚えている。それが自分の人格形成にとても役に立った。今の時代はそれがないので、息子が小学生のときに古本屋でそれらの本を懸命に探し出し、買い求めて息子に読ませた。若いころの物の考え方、倫理といったことを心に染みこませるのに本は非常に大事だ」 「私は案外、子どもたちを信じている。私たちと違い、情報の集め方、考え方にクリエイティビティーがある。今の子どもはそんなに悪くないという感じがしている」 「日本人というのはこういうふうに生きるものだというスタイルみたいなものをもう一回構築してみるというやり方があるのかなと思う。そもそも今の実態自体が何なのかと言うことをしっかり踏まえて議論していきたい」 「企業あるいは経営者としても企業倫理というものについて真剣に考え、行動しなくてはいけない。たとえば、企業はテレビに多額の広告費を出しているが、民放の番組を見ていると、子どもたちの健全な成長につながらない番組が多すぎる。企業の良心の発露として良質な番組を支持していくことが大切だ」 「私の両親や周囲の大人たちは戦後、あなたたちのためだからと言って、よい社会をつくろうと一生懸命だった。そんな人たちの姿を見ながら、小学生だった私は希望を持って育った。そろそろ、私自身がバトンを次の世代に手渡す時期になったが、いっぱい考えねばならないことがあり、これでいいのかとつらい気持ちになる」 「『心』と『いのち』は別々なものなのだろうか。心を考えるときは、いのちのことも考えていただけないものか。現代では、人間は機械のごとく見られている。私たちは生き物である、というところに戻ろう」 「尊敬する方から『生きる』ということには四つの姿があると聞いた。ひたすら生きる、巧みに生きる、わきまえて生きる、よく生きるの四つだ。私たちは『わきまえて生きる』『よく生きる』ということを忘れがちだ」 「最近の若者たちに『ハングリー精神』と言っても納得しない。変化するものでなく、普遍的なものを論議したい。企業の経営者として社員の安全を考える上で、問題があるのは一人職場だ。コミュニケーションはそれほど大事なことであり、人と人の距離が遠いことは問題がある。人と人の距離を縮める努力が必要だろう」