多度津町立多度津小学校

第51回特別研究指定校

研究課題

ICTを有効活用した個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実
~認知能力と非認知能力を育成するための教育DXの在り方~

2025年度04-07月期(最新活動報告)

最新活動報告
本年度の研究主題「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」について......

アドバイザーコメント

吉崎 静夫 先生
本校は、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」という全国......

多度津町立多度津小学校の研究課題に関する内容

都道府県 学校 香川県 多度津町立多度津小学校
アドバイザー 吉崎 静夫 日本女子大学 名誉教授
研究テーマ ICTを有効活用した個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実
~認知能力と非認知能力を育成するための教育DXの在り方~
目的
  • ・Well-beingの向上
  • ・全ての児童の学習権の保障
現状と課題 本校は通常学級に在籍する特別な支援を要する児童や家庭環境が複雑な児童、外国にルーツをもつ児童が多く、学力が二極化している。昨年度は「個別最適な学び」「協働的な学び」をキーワードに研究に取り組んだ。その結果、授業の中で児童が自己選択・自己決定する場面が増え、学習の個性化が図られ、学習に対する意欲の向上が見られた。
一方で、多様な考え方に触れ、思考を深める等の協働的な場面が少なかったという課題が残った。
学校情報化の現状 本校では、1人1台のタブレット端末が活用可能で、校内のどこからでもWi-Fiに接続できる環境が整備されている。しかし、教職員によってICT活用への意識やスキルに差があり、授業での積極的な活用にはまだ課題が残る。校務の情報化についても、昨年度からDX化を推進しているが、機器やネットワーク環境などのハード面での整備が不十分な部分がある。
今後は、教職員のICTスキル向上を図るとともに、児童の情報活用能力を育成するための系統的な情報教育の体制を整えることが喫緊の課題である。
取り組み内容 昨年度の成果と課題を踏まえ、ICTを効果的に活用して、児童一人一人の理解度や特性に応じた最適な学びの環境を提供するとともに、対話や協働を通じた学びを促進する授業づくりを進める。また、教育DXの視点から、学習データを活用したフィードバックや学習方略の可視化、アンケート結果の活用により、児童の認知能力・非認知能力の向上を図る。さらに、児童が自らの学習を振り返り、課題を発見しながら自己調整していく力を育成する。協働的な学びの土台として、異なる意見や考えを尊重できる文化を育む「安心できる学級づくり」にも重点的に取り組む。
成果目標
  • ・児童の「自己調整力」および「他者と協働する力」についての意識調査を実施し、全体で10%以上の向上を目指す。
  • ・Q-U調査の「学校生活不満足群」の該当者を0にする。
  • ・児童による振り返り活動において、記述量と記述内容の観点数の増加を図る。
助成金の使途 電子黒板、プロジェクター他
研究代表者 大西 孝敬
研究指定期間 2025年度~2026年度
学校HP https://www.tadotsu.jp/tadotsusyo/
公開研究会の予定 1月28日(水)公開研究会(低・中・高学年 各1本ずつ授業公開)

本期間(4月~7月)の取り組み内容

【4月】

  • ・本年度の研究主題「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」について全職員で共有し、研究を推進していくことを確認した。
  • ・今年度は、自己調整学習(単元内自由進度学習・複線型授業)による授業実践を通して、子供たちの非認知能力の育成を目指す。
  • ・本校の研究に対し、日本女子大学名誉教授・吉崎静夫先生よりご指導をいただいた。
  • ・そのご助言を踏まえ、本年度の研究内容を見直すとともに、本校における「探究的な学び」の進め方について職員間で協議した。

【5月】

  • ・子供たちの非認知能力の変容を確かめるため、第1回アンケートを実施した。アンケートは、先進的に実践していた香川大学教育学部附属坂出小学校の様式を参考にしつつ、本校用にFormsで再構成して行った。
  • ・6月・7月に実施予定の校内研究授業に向けた事前研修会を開催した。6月は4年理科「電流のはたらき」を単元内自由進度学習として、7月は5年国語「書き手の意図を考えよう(新聞記事を読み比べよう)」を複線型授業として、いずれも自己調整学習の手法で授業を行った。

【6月】

  • ・6月11日(水)、研究アドバイザーである吉崎静夫先生をお招きし、研究授業を実施した。4年理科「電流のはたらき」において、児童が自ら学習計画を立て、主体的に取り組む自己調整学習の授業を公開した。
  • ・授業後には、本校教員のほか、県教育センターや他校の先生方と協議を行い、今後の授業づくりの方向性について校内で検討を重ねた。
  • ・研究討議後、当日の授業及び本校の研究の方向性について吉崎先生よりご指導をいただいた。
〇授業実践
4年:理科「電流のはたらき」(自己調整学習)

 本単元では、児童が自ら学習計画を立て、自分のペースで学習を進める「単元内自由進度学習」に取り組んだ。ねらいは、児童の主体的な学びを引き出すとともに、非認知能力や課題解決力を育むことであった。導入時には、単元全体の見通しを提示し、課題一覧表や進度チェックカードを活用することで、児童一人ひとりが自分で学習の進め方を考えられるような仕組みを整えた。また、一人一人実験ができることで、体感的に電流の働きを感じられる機会を増やした。

【7月】

〇授業実践 5年国語「書き手の意図を考えよう(新聞記事を読み比べよう)」

 本単元では、単元のゴールを定め、そこに至るまで自己選択の場面を多く取り入れた「複線型授業」の形態をとった。自分たちが取材を受けた新聞記事の見出しを考えるという単元を貫く問いを設定することで、児童が主体的に教材と関わることを目指した。

 また、児童が興味をもった記事を自由に読み比べたり調べたりし、その内容を共有する活動を繰り返すことで、新聞への理解を深めながら、読み取る力を高められるようにした。さらに、学習アプリ上に複数のワークシートを用意し、児童が自分の興味や能力に応じて取り組む課題を選べるようにした。

 自分たちが考えた見出しが実際に四国新聞に掲載されることを伝えることで、児童の学習意欲を高め、継続的な学びにつなげるようにした。

アドバイザーの助言と助言への対応

【4年理科】

  • ・コース選択型学習として、児童のの興味関心に対応していた。
  • ・自己選択して進めているので子供が主体的に取り組んでいる姿が多く見られた
  • ・環境面での支援があり、困っている子も、進んでいる子も学習できる場面があった。
  • ・全てを子供に委ねてしまうと、認知能力が正しく付いているのかが疑問である。(知識理解の面は1番に考える必要がある。)
    →部分的に委ねられる(どこを何時間については単元による)自由進度学習の在り方の検討
①研究計画(カリキュラムの作成)について
  • ・個別最適な学びと協働的な学びのバランスを考えた、いくつかのパターンを考えてみてはどうか。
    →個別最適と協働を一体的に行うことを目指し、どこまで委ねるのか、何を環境面で整備するのかを検討していく。
  • ・他校が今後参考にしていけるようなカリキュラムづくりをしてほしい。
  • ・総合的な学習の時間で探究的な学びを深化していく。
②先進校の実践について
  • ・瀬戸SOLAN学園、越ヶ谷市立越ヶ谷小学校等のカリキュラムの紹介。
    →夏休みに瀬戸SOLAN学園への視察
  • ・明確なカリキュラムをもつ事で学校全体に広がっていく。
    →全職員でのカリキュラムの見直し

本期間の裏話

〇多度津小学校で何ができる?

 本校は、日本一小さな県の小さな町にある公立小学校である。特別研究指定校に選ばれたと聞いたとき、これまでの実践校の様子を拝見させていただくと、「果たして自校にこのような研究ができるのだろうか」「何から始めればよいのだろうか」という不安が先立った。昨年度までは「子供が主語になる授業」を目指し、自己選択の場を増やす研究に取り組んできたため、それを発展させていこうと考えてはいたものの、4月には研究の対象を広げすぎてしまい、方向性が定まらないまま迷走してしまった。

 加えて、学校行事等による多忙さもあり、教職員間での共通理解が十分でないまま1学期が過ぎてしまい、研究としての成果が見えにくいものとなってしまったことは否めない。

 そうした中で、県教育センター、県教育委員会、町教育委員会など、多くの方々と連携する中で、「多度津小学校として本当に取り組むべきことは何か」を見つめ直す機会を得ることができた。計画を再構築し、研究内容を整理したことで、教職員の共通理解も進み、全員でカリキュラムの見直しから着手しようと始動した。ようやく研究がチームとして一体感を持って動き出したと実感している。

本期間の成果

〇6月11日 自己調整学習(単元内自由進度学習)

■ 学習への取り組みの変化
  • ・自分なりの目標を立て、振り返りながら学習に取り組む姿が見られるようになった。
  • ・学習に対する意欲や態度に、肯定的な変容が見られた。
■ アンケート結果の変化
  • ・「目標を立てて、それを目指して頑張っている」と回答した児童:38% → 71%
  • ・「人から言われなくても、自分から進んで学習している」と回答した児童:42% → 71%

今後の課題

〇6月11日 自己調整学習(単元内自由進度学習)

■ 課題の現状
  • ・自分で計画を立てたり、学習に向かうきっかけを見つけたりすることが難しい児童がいた。
  • ・何から手をつければよいかわからず、1時間を手つかずで終えてしまう児童の姿が見られた。
  • ・児童間の進度の差が広がり、互いに学び合う機会が減少。
  • ・協働的な学びの効果が十分に発揮されなかった。
■ 課題への対応策・工夫
  • ・児童が自分で学習を進めることを前提としつつ、学習のスタートを支援する工夫が必要。
  • ・その日の学習の「めあて」と「最初の行動」を全体で共有する。
  • ・自由進度であっても、学習内容を段階的に提示することで、自分の位置を把握しやすくする。
  • ・毎時間の終わりに学び方や工夫をふり返る時間を設け、ペアやグループで共有する。
  • ・他者の姿から刺激を受け、新たな学びにつなげる機会をつくる。

〇総合的な学習の時間のカリキュラムの見直し

今後の計画

  • ・夏休み中に全教職員でのカリキュラムづくり
  • ・瀬戸SOLAN学園、葛飾区立東金町小学校、関西ICT展への視察
  • ・非認知能力を育成する自己調整学習の実践・研究授業(2年・4年・6年)

気付き・学び

  • ・自己調整学習をどこで取り得れられるのか、カリキュラムを見直し、単元化を進める必要があると感じた。

成果目標

  • ・全学年の国語・算数・社会・理科(生活科)における、自己調整学習を活用できる場面の抽出と、それに基づく単元計画の立案(カリキュラムの作成)
アドバイザーコメント
吉崎 静夫 先生
日本女子大学
名誉教授 吉崎 静夫 先生

 本校は、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」という全国すべての学校にとっても必須の研究課題に挑戦している。そして、本校は、香川県の普通の公立小学校であるだけに、その研究成果は多くの学校でも大いに参考にできるものであり、その影響は大きいと期待される。

●本期間の研究成果

(1)2025年6月11日に本校を訪問した際に、4年理科「電流のはたらき」の授業を見学した。本単元では、児童が学習方略を獲得し、自ら学びに向かう力を育成することねらいとして、「単元内自由進度学習」が取り入れられていた。単元の導入では、モーターカーが坂道を登る様子や、直進のみでバック走行ができない様子などが提示されていた。さらに、「エンジニアコース」(制作から原理追究するコース)と「研究者コース」(原理追究から制作へ向かうコース)という2つのコースが設定され、「必修の内容・方法(かならずやり終える学習)」と「選択の内容・方法(自分で決めて行う学習)」という学習ガイドブックが用意されていた。実によく考えられた授業デザイン(単元構成)であった。そのため、児童も意欲的、主体的に学習に取り組んでいた。

 ただし、次のような課題も見られた。「自分で学習計画を立てることが難しい児童がいた」「何から手をつければよいかがわからず、1時間手つかずで終えてしまう児童がいた」「実験よりも教科書に書かれている原理で結果をまとめている児童がいた」「協働的な学びの効果があまり見られなかった」などであった。このような課題がみられた主な原因は、「単元全体を自由進度学習で展開しているため、直列回路や並列回路についての共通理解の時間が十分には確保されていなかった」ためではないかと思われる。単元全体が7時間で構成されているなら、せめて前半の3時間は「共通学習」にして、後半の4時間を「自由進度学習」にするといった、「共通と自由選択のバランス」が必要だったのではないかと思われる。

 しかし、この実践の成果と課題は、本校がカリキュラム構成と授業デザインを改善するうえで、とても貴重なものであった。

(2)県教育委員会、県教育センター、町教育委員会などとの連携のもとで、本校の研究体制が整備されたため、教職員の共通理解が進み、実践研究に意欲的に取り組むことができている。とりわけ、パナソニック教育財団の特研校の先輩にあたる瀬戸SOLAN学園初等中等部や葛飾区立東金町小学校を視察して、探究学習のためのカリキュラム構成や授業デザインについて意欲的に学ぶ姿勢は高く評価できる。

●今後の課題と期待

(1)総合的な学習の時間を中核として「探究学習のためのカリキュラム」を構成してほしい。その際、3学年から5学年は、環境、食糧、国際、地域などを共通テーマに協働で探究学習を行い、6学年は「総合的な学習の時間の卒業研究」として個々の児童の興味関心にもとづく個人探究学習を行ってほしい。前者は「協働的な学び」にウエイトがあり、後者は「個別最適な学び」にウエイトがある。

(2)授業デザインにあたっては、「つながり」と「組み合わせ(バランス)」を考慮してほしい。

 前者は、「日常生活と教室での学習とのつながり」と「教科間のつながり」である。例えば、4学年算数「垂直と平行、四角形」において、学区の地図を利用して、道の交わり方や土地の形について考えさせる。このように、身の回りのものから、垂直と平行、四角形を考えさせるわけである。まさに、日常生活と図形学習とのつながりを授業デザインする。さらに、6学年算数において、児童が立体の重要な側面(辺、面、頂点)に着目する「立体当て伝達ゲーム」を教師が構想すれば、児童は国語などで培った「言語能力」を算数で活用することができる。

 後者は、「共通と選択の組み合わせ」と「リアルとデジタルの往還」である。例えば、単元の前半はクラスみんなで「共通学習(協働的な学び)」を行い、単元の後半で「診断テスト」を行い、その結果にもとづいて、「復習(補充)コース」と「発展(応用)コース」に分かれて「習熟度別学習(個別最適な学び)」を行う。あるいは、単元の前半はクラスみんなで「共通学習(協働的な学び)」を行い、単元の後半で児童の興味・関心や学習タイプに対応するためのコース選択学習(自由進度学習、複線型授業などの自己調整学習)を行う。このように、大事なことは「共通と選択のバランス」である。さらに、リアルな活動をデジタルで支える授業デザインである。例えば、前述した「立体当て伝達ゲーム」ののち、「AIドリルでの立体学習」や「NHK for School教材での立体学習」を行うのである。