実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第37回特別研究指定校(活動期間:平成23〜24年)

鹿児島市立山下小学校の活動報告/平成23年度8月〜12月
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セールスポイント

「思考の錬磨を図るための多様なICT機器活用と授業設計」
 4月〜7月の研究と実践に関する成果と課題を基にして,思考の錬磨を図るために,どのような機能が必要か,あるいは効果的かという視点から,活用するICT及びICT機器を検討し,授業設計の段階から位置づけるようにした。
 一例として,思考の錬磨を図るために,短時間に一人でも多くの友だちの考えを知ることで,自他の考えの比較を行ったり,他者の考えを参考にしたりしながら,自分の考えを多面的,客観的なものへと高めることができるような授業実践を行った。
「公開研究会の実施」

 公益財団法人パナソニック教育財団の特別研究指定校として,その研究指定初年度の研究内容と実践について,全国から約850名の参加者のもと,公開研究会を開催した。7教科・領域(国語・社会・算数・理科・体育・道徳・特別支援教育)において18本の公開授業とその授業研究会を実施するとともに,パナソニック教育財団理事長遠山敦子先生のご講演,ICT活用に関するシンポジウム等を行った。

実践経過

8月 「思考の錬磨を図るICT活用」授業プラン検討会の実施

 11月の公開研究会に向けて,7教科・領域の各研究班において,思考の錬磨を図る授業プランを作成し,それに基づいて授業のねらいやICT活用の意図やその方法について,プレゼンテーションを行った。ここでは共通の授業プランシートを使用することで,どのような思考をどのような高次の思考へと高めるのかを明確にした授業設計ができるようにした。

 
   
9月〜
10月
 思考の錬磨を図る多様な教科・領域における検証授業の実施
 〜18本の事前授業〜

公開研究会で行う18本の公開授業の全てについて,作成した学習指導案に沿って,隣接の学級等で事前授業を行った。特に9月,10月の事前授業においては,宮崎大学教授新地辰朗先生のご助言をいただきながら,以下のような新たなICT活用の授業にも取り組んだ。

○ 電子模造紙(「コラボノート」)を活用した授業
 道徳では,「役割の責任と自覚」という価値項目に対して,自分の考えを一人一台ずつの児童用PC端末から書き込むようにした。書き込んだ内容は,共有の電子模造紙上に貼付されていく。子どもたちは目の前のコンピュータ画面に次々と貼り付けられていく友だちの考えと自分の考えを比べながら,新たに考えたことを追加したり,貼り付けた自分の考えを修正したりしていきながら,考えを深めていった。

○ ゲーム機端末(「DS教室」)を活用した授業
 社会科では「自動車をつくる工業」の単元における終末段階において,これまでの学習を振り返りながら,「これからの環境を大切にする社会において有効なのは,ハイブリッド車か電気自動車か」について話し合う活動を行った。ここでは,ゲーム機端末を使って,一時間の授業の中で計5回,どちらかを判断する場を設けた。ゲーム機端末から入力した結果はリアルタイムで教室の電子黒板上に学級全員の子どもたちの考えが表示される。このことは,それぞれの子どもが一時間の中でどのように考えが変化していったのかを授業過程を追って確認することができる。また,授業中の区切りごとに,その都度,どのぐらいの子どもたちが,環境を大切にする社会に有効な自動車がハイブリットまたは電気自動車だと考えているのかを即座に把握することができるという効果を検証した。

   
11月  平成23年度公開研究会の開催

 18日(金)今年度の公開研究会を開催した。公開授業では,バスケットボールの単元で,撮影したゲームの様子をモニターで確認したり,画面に書き込んだり,印を付けたりしながら,作戦を成功させるための動きやポイントについて考え,話し合う活動を取り入れた体育の授業,図形描画ソフトウェアを活用して,辺の長さを変化させながら,構成要素に着目させることで,三角形を理解することができるようにした算数の授業,デジタルペンを利用して,それぞれのグループで話し合ったことをワークシートに書き込ませ,それを電子黒板上に一覧表示させたり,書いた内容を順序立てて再生させたりすることで,効果的にまとめることができるようにした理科の授業など,それぞれの授業において,思考の錬磨を図るためのICT活用を取り入れた授業が展開された。

 また,講演ではパナソニック教育財団理事長遠山敦子先生に「『考える子ども』を育てるために〜これからの日本の教育の行方〜」と題したご講演をいただいた。
   
12月 「思考の可視化」に関する研究

 本研究における研究課題として掲げた「思考の可視化」について,今年度のこれまでの研究を基にしながら,その意義と具体的な方法について,研究部会を4回行い,協議を重ねた。また,冬休み期間における全体研修では,電子模造紙を活用して,全職員が,「思考の可視化」に関する課題とその解決策について,話し合いを行った。

 

成果と課題

 公開の参加者アンケートから見る成果と課題

 本年度は2年間の研究における初年度であるが,これまでの研究と実践の成果を公開研究会という形で発表することができた。特に,4月〜7月期における課題であった授業のねらいと思考の錬磨の関係や,それを促進させるICT活用の在り方についても,それぞれの公開授業を通して明確にすることができた。

 公開参加者に対して行ったアンケートには以下のように書かれていた。

  • ICT活用については,とても参考になった。様々な活用があると思った。うまく使うことで,教育効果の向上に役立つだろうと感じた。
  • バスケットボールの試合の様子をビデオで見せていた。指導するところでは,器械運動などの個の動きを見せるのと違い,動きを捉えさせるが難しいが,難しいところをよく捉えていた。
  • 子どもも先生方も使いこなしていて,授業に生かされていたことがすごいと思った。算数では,つかむ・練り合う過程で活用していたが,終末での習熟を図る過程でも活用できると思った。

 これらの主として肯定的に評価する意見がある反面,以下のような意見も書かれていた。

  • ICT活用で資料の提示は良いと思うが,パソコンで自分づくりカードを作る時,電子模造紙を使っていたが,便利すぎて怖いと感じた。パソコンを使えば,クラス全体ですぐ意見を共有できるが,友だち同士の交流がない。話すのを聞く方が温かい雰囲気になると思った。せっかく同じクラスになった者同士,直接話す,聞く方が私は好きだなと感じた。
  • 活用の効果としては,素晴らしいと思った。しかし,1時間当たりの授業に必要な準備は,どのくらいかかるのだろうか。自分が行うことをイメージしたときに,現実的な難しさを感じた。
  • 時間に余裕がなかった。ICTを取り入れることにより,逆に時間がかかることになっていないか。

 上記のような参加者アンケートが示す今後の課題を分析して明らかにしながら,今年度から来年度にかけての授業実践に生かしていきたい。

 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

参加者850人の対応に大わらわ

 公開研究会の総参加者は850人。昭和59年頃から,毎年公開研究を行ってきた本校の歴史の中でも最も多い参加者数となった。しかしながら,人数が多すぎて,参加者が肝心の授業が見られないのではないかという心配がでてきた。そこで急遽,カメラを設置し,電子黒板に接続,隣接する教室でモニターできるようにした。また,分科会も本校の教室では入りきらないことが判明し,一週間前に,慌てて近くの信用金庫の多目的ホールを借りるなど,運営の面では大わらわ。それでも,北は北海道から南は沖縄・宮古島からご参加いただき,ご意見をいただいたことは,職員一同本当にうれしく思っている。また,当日ご講演いただいた財団理事長の遠山敦子先生には,公開授業や研究分科会をご参観いただいた。遠山先生の目に本校の研究がどのように映ったのかたいへん気になるところではあったが,お誉めの言葉をいただき,胸をなで下ろした。  

準備万端が災いして

 ICTを活用して授業を行う上で最も気になるのは機器トラブル。故に,公開に向けて各授業者や本校ICTコンサルティンググループは,何度も確認とテストを怠らずに本番に臨んだ。もし,トラブルが起きたら授業が進められないということがないように,二の手,三の手も講じておいた。しかしながら,ある学級では,公開本番,機器トラブルに備えて準備しておいた別の機器が災いして,本来使うべき機器が動作しなくなるというトラブルが発生。ICT機器に頼らない従来の教具もきちんと準備していたため,授業は問題なく進み,事なきを得たが,授業を終えた教師の背中には,11月にもかかわらず,冷や汗の地図が広がっていた。

解説と講評

コメント:宮崎大学 教授 新地辰朗 先生

 学校関係者にとって,「教育の情報化」は,最近,耳慣れてきた表現の一つだと思います。この「教育の情報化」を目指す上で,ポイントとなるのが,教育の質を高めようとする組織的な取組です。11月18日(金)の研究公開では,山下小学校の先生方はもちろんのこと,鹿児島市教育委員会,鹿児島県教育委員会の先生方が,連携し合いながら協議を深める場面が印象的でした。授業のねらいを達成する方法,主体的に学ばせる工夫など,“教え”“学び”の充実の観点から,ICT活用を評価するためには,教科指導などの専門家の参画が不可欠です。山下小学校でICT活用の先進的実践研究が展開される意義をあらためて感じました。

 11月18日(金)の研究公開では,ICTを活用した「思考の練磨」について,半年間,検討されてきた結果が,授業の中で披露されました。DSを利用した社会科「自動車をつくる工業」では,準備されたワークシートが,うまく機能していたように思えます。確かに,DSからの児童それぞれの入力が,教師用のコンピュータに表示され,電子黒板を通して共有・比較できる“しかけ”には,これまでの授業では実現し得なかった魅力を感じます。この授業は,テクノロジー活用への挑戦に留まることなく,これまでに培われてきた指導方法とテクノロジー活用とを融合させた点が高く評価できます。ICTとワークシートとを併用した指導により,教室全体での学びを受けとめさせながら,自分の考え(分析・意見)の変化をワークシート上に記録・表現させることで,授業のねらいを達成させていました。

 漠然と「ICT活用で,“教え”“学び”の何が変わるのか?」と考えるのではなく,「ICT活用と教師による力量・工夫との組み合わせにより,どのような学びを創り出すことができるのか?」と考える契機となる提案が複数見られた研究公開であったと振り返ります。

 
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