実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)
行事:成果報告会
講演/第32回(平成18年度)
『定着と普及の決め手はこれだ!』(講演要旨)
講師:メディア教育開発センター 中川 一史 教授
学校や地域の様々な事情があって、なかなか人が動かない、物が選べない、そういうことでぶち当たっているのは共通項だと思います。課題って結局何だったのか、それが本当に皆さんの課題なのか、どんなところが壁なのか、その見極めが大事です。どこなのか、“すぐ出来るように”とは何なのか。いずれにしても、すぐに出来ることの内容のおさらいをしてほしいということです。
さて、普及策はこれだという決定版があるわけではもちろんありません。昨年度この成果報告会へ参加された方々に対して実施した意識調査《学校内でICT活用を推進するときの課題として何があるか》と、成功している学校の調査結果について報告します。
昨年は15チームあり、その時のお題は「校内への普及の決め手はこれだ!」でした。それを模造紙に書いて、最後の10項目になったとき、ほとんどのグループが、「研修」・「リーダーの働きかけ」・「カリキュラム」の3つのキーワードを挙げておられました。そこでこの3点について、参加した方々に後日、電子メールで追跡調査を依頼しました。つまり、課題についてもう少し詳しく教えてほしいという調査をWebサイドでアンケートしました。その結果の一部をご紹介します。
キーワードは、<研修>・<リーダー>・<カリキュラム>
研修の頻度は、学期に1回か、年に1回というのが多い。内容については、機器操作に関する研修が多く、それから授業設計を考える。また、事前・事後の授業内容検討会までもカッチリとやっているのが、これも少ないですが学期に1回か年に1回位でした。
研修を行う際の課題として、校内教員にICT活用スキルの差が大きいこと。時間確保の難しさ。色々な行事が詰まっているので、年に1回しかできない。解決策を訊いたわけではないのですが、フォーマルな研修会だけではなくて職員室で休み時間にミニ研修会を常にやっている等、幾つかのアイディアもいただきました。新しい機器が入ってきた時に、すかさず必要性を訴え、新しいプロジェクターの使い方について研修をする等、そういう工夫をされているのが見てとれました。
カリキュラムについては、学校におけるICT活用に関する調査では、どちらかと言えば活用しているという回答以外に、環境の未整備があってカリキュラムが作れない。うまく応用できない。教師の力量がICTを活用する力量の実態と出来上がったカリキュラムとの中身にズレがあるといった例がありました。
リーダーの働きかけについては、大きく2つに分けることができます。ひとつは機器の整理・管理とネットワークの整備・管理です。ここにかなりのパワーをかけていることがよくわかります。もうひとつは、授業に関するサポートや、活用を促す呼びかけ、コンテンツを提供すること等、どのように使うかといったことに苦慮されていることです。
この調査の中では、機器管理・整備というところに集中していて、ほかのことにも時間を当てたいのだが、その時間が無いといった回答が結構ありました。しかし、なんとかICTを活用して授業の質の向上を図りたいとの希望も多くの方々が持っておられました。
課題としては、まず〈ヒト〉、〈モノ〉、〈コト〉に分けられます。情報担当リーダーの働きかけ。物の問題での環境整備。それからコトでは研修、ニーズの把握、時間の確保、内容の工夫といったところです。
カリキュラムについては、教科目標や学力問題とどのように結びつけるかということ、教員スキルへの対応等が課題として挙げられていました。このようなことが去年の助成を受けた方々の実態で、それらと今年のグループでの話し合いを重ねて参考にして下さい。
成功に導くための8ポイント
もうひとつ参考資料を提示します。それは課題ではなく、成功例です。すなわち、日常的かつ継続的に、校内で多くの先生がICTを積極的に活用している全国の小学校10校をピックアップして、なぜそうなっているのか尋ねたものです。その中で、情報担当リーダーの役割が非常に大きいと分かりましたので、情報担当リーダーが何をしているのか、校内の先生と担当リーダーの方を別々にインタビューしました。そして、双方から同じような言質がとれたものを整理したところ、上手く行っている学校での実践として、8点24項目にまとめることができました。
すなわち、(1) 個々の教員の活用を支援していること。具体的には、迅速な対応、ニーズの把握、必要な情報収集の3つ。(2) 校内のキーパーソンへのアプローチをしていること。キーパーソンというのは管理職と消極的な先生方と、少しは積極的な先生。これら10校で共通に見られたのは、かなり特殊な使い方、あるいは機器のエキスパート的な扱い方をされていて、他の先生がついてこなくて困るという意味での対応の問題があります。その意味で、(3) 役割の分散化と体制づくりが必要です。それから(4)  校内ICTの環境促進をするということ。さらには(5) 何か強制力を働かせるような仕組みを構築する。(6) ICTを活用する授業の学習効果を共通理解すること。(7) 校内研修を実施する。(8)  情報教育推進の明確なビジョンを作ること。(24項目の詳細は、配布資料「情報担当リーダー虎の巻」7ページをご覧ください)
大小さまざまな問題がありますが、結局上手く行っている10校を見ると、これら8点のことを共通して行っていることが分かりました。
トップダウンか、ボトムアップか
では、攻め方としてトップダウンか、ボトムアップか。例えばボトムアップだと、とにかく大きく映写できるので、プロジェクターを使ってくださいと。でも、トップダウンで行くと市の指定を受けて全員授業になるので、とにかく全員授業に使わなければならないというところに落とすといった具合です。
この調査でもうひとつ分かったのは、ICT活用に積極的な学校と言っても、発展途上期の学校と成熟期の学校があるということ。それによっても攻め方は違います。発展途上期の学校では、とにかく使ってもらうということで、或る学校では使っていないクラスの先生のところにプロジェクターを常備するところもある。成熟期の学校では皆さんが使うので、逆にいかに上手く回っていくのかというルール作りに苦心されている。成熟期の学校と発展途上期の学校は、やることもかなり違うということです。
分科会でもありましたが、デジタルの良さを広げるには、やはりアナログの良さをきっちりと押さえなくてはいけない。例えば、プロジェクターに大きく映すという良さと、板書でやるべきこと、その切り分けをいかにするか。大きく映すことで、インパクトのあるものを一瞬に見せることができる。一方、板書では蓄積・整理をして45分間、子どもたちにきっちり押さえてもらうところを見せるということですね。子どもたちも慣れてくると、大きく映すものと、板書や紙に書いていくような切り分けを見せることも大切です。
また、頑張れることと、頑張れないことがあるということです。学校にすると、“天才”と“人才”ですね。天吊りでプロジェクターが各教室にあるのは、“天才”ですが、すぐに出来ることではない。だけど“人才”、つまり人間の才覚で出来ることがあります。この人才部分をどうやって実践するかということもある。
ひとりで抱え込まず、成功を共有する
最後に、今日の分科会での発表と私が紹介したふたつの調査から、最も大事なところを経験値として結びにします。
ひとりで抱え込んでいるうちは堪らないものです。いま紹介した調査の学校や、昨年また今年の皆さん方の発表を聞いて、よく出てきたのは校内の役割をどうやって分散化するのか、外部との人的ネットワークをいかに構築しているのか、それがひとつ。
予算は減ることはあっても、増えることはないと思います。私たちは知恵を使うしかない。内部で出来る工夫は何か、今日たくさんアイディアが出ていたと思います。外部へのリアクションとしてマスコミに訴えるという手もありました。いろいろなやり方があり、助成を受けるのもそのひとつです。やることをやって、私の学校はこういうことを実践しています。だから助成を受けさせてくださいと。それもひとつだと思います。
また、内部で出来ることとしてよく話題にするのですが、神奈川の或る学校ではギンナンを拾い、それを売ったお金で機器を買うという例があります。自給自足で、新しい学校の姿かと思いました。やることは、それぞれの学校や地域によって違うと思います。
これだけは外せないということを提言します。普及と定着です。難しいことで、簡単に行くものではありません。だけど、成功から学び、成功を共有するということ、それから失敗例の原因を探る、課題をきちんと提出していく。こうしたことを地道にスモールステップでやっていくしかない。決め手があるのだったら、どこの学校もやっているわけです。今日の成果発表会で出たことを、それぞれの学校、研究会に持ち帰っていただければ幸いです。