実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

平成23年度 先導的実践研究助成贈呈式レポート
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助成先に選ばれた全77件の団体から、代表の先生方が参加

5月20日(金)に東京都荒川区のホテルラングウッドにて、平成23年度(第37回)実践研究助成の助成金贈呈式が行われました。贈呈式は、今年度の助成先に選ばれました全77件の団体から、代表の先生方にご参集頂き、奨励状の授与等を行う式典です。
平成23年度実践研究助成贈呈式
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当日は、助成先の先生方の他、文部科学省や日本視聴覚教育協会のご来賓の方々、当財団の評議員・理事、本助成の専門委員、報道関係者など、合計120名を超える方々にご参加頂きました。

■助成金贈呈式

遠山理事長遠山敦子理事長から開会の挨拶が行われました。37年目を迎えた財団活動や助成制度について紹介され、学習指導要領の改訂や文部科学省の学びのイノベーションといった現況を話されました。また、助成校への視察を踏まえ、ICT活用によって、子どもたちが社会に生きるための力を身に付けることに期待していること、さらに、学校全体の波及、学校の外への波及を期待していることなどを話されました。最後に、被災地の学校へのメッセージと、子供たちの学校、地域のための学校を望んでいるとして、挨拶を終えられました。

坂東久美子局長続いて、来賓の紹介が行われ、来賓代表として、文部科学省生涯学習政策局の坂東久美子局長より、ご挨拶を頂きました。文部科学省の「教育の情報化ビジョン」についてご紹介され、一人一人に対応した学び、協働の学び、地域を超えた学びをつくり、生きる力を身に付けることを期待していることなどを話されました。

次に、当財団の評議員・理事の紹介が行われ、当財団の下田昌嗣事務局長より、選考経過の報告が行われました。今回からWEB申請を導入したことや、本年度の特別研究指定校6校の内2校が、一般助成を2年連続で採択された学校であることを紹介し、助成申請の継続的な活動を提案しました。本年度の申請数が330校あり、46都道府県から、及び海外から4件を含むことや、その研究課題の内容を分類すると、新学習指導要領にある思考力・判断力・表現力の育成や、文部科学省の「教育の情報化ビジョン」にある協働学習の観点からのものが多いことなど、申請書の傾向を話しました。さらに、助成校には、総務省の「絆プロジェクト」の採択校や、文科省の「電子黒板利用教育研究」実施校、総務省のフューチャースクール実証校などがあり、本助成制度が他のプロジェクトと連携している例を示しました。また、審査基準について、7つの選考項目(テーマ設定、継続性、計画性、具体性、独自性、助成金の有効性、還元性・普及性)で判定していること等を説明しました。最後に、今後のスケジュール概要と昨年100万ページビューを超えた当財団のホームページを紹介して、報告を終えました。

そして、いよいよ第37回実践研究助成の贈呈が行われました。助成先の代表の先生方全員にご登壇頂き、遠山理事長から1人1人に奨励状を授与しました。

贈呈式 贈呈式
奨励状 奨励状
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くるま座ディスカッション

くるま座ディスカッション助成校を3名から6名のグループに分け、グループディスカッションによる情報や意見の交換を行いました。また、グループ毎に、財団の専門委員(教育を専門とする大学教授等)に入っていただき、研究活動に対する助言等を行いました。全国からご参集頂いた先生方に、地域を超えた学校間交流の機会をつくり、より深い研究活動を期待するものです。

昨年は校種別にグループを分けましたが、今年は地域別に分け、加えて最大6つまでの助成校とする構成にしました。各助成校から、研究課題の概要を説明し、他の助成校からの質問や自校の事例といった情報交換が行われました。また、専門委員の先生から、実践にあたってのポイント等の助言を頂きました。また、各グループは、比較的近い地域で構成されているため、研究授業等を互いに見学するといった、助成校同士の交流の機会ともなりました。

くるま座ディスカッション 地域別



生田孝至理事グループ別のディスカッションが終わり、最後の締めくくりとして、生田孝至理事(新潟大学副学長)より、総括を頂きました。日本を代表する学校が1か所に集まり、まさに日本が抱える現実課題に対して取り組まれている、日本を引っ張る学校として頑張って下さいといったメッセージなどをお話しくださいました。


■特別研究指定校にフィーチャー

今回は、特別研究指定校に着目し、2グループのくるま座をご紹介します。

特別研究指定校T
専門委員:
新地教授(宮崎大学)、後藤准教授(新潟大学)、高橋准教授(富山大学)
助成校:
酒田市立飛鳥中学校、勝山市立村岡小学校、鹿児島市立山下小学校

特別研究指定校T 後藤先生主導のもと、それぞれが自己紹介し、各校20分が割り当てられ、最後の10分は全員でディスカッションを行うという形で、進行されました。

まずは、飛鳥中学校から研究課題について説明がはじまりました。内容は、授業そのもののICT活用ではなく、学習評価システムにICTを使うことがメインであり、定期的に評価したものを生徒に閲覧させ、学習意欲を高め、学習計画を充実させるのが目的だということ。それに対して専門委員の先生方からは「学びの質が高まった状態をどう判断するか?」と質問がありました。「前回覚えたことを次回に応用できる、学び方・理解の仕方で判断していく」との答えが飛鳥中学校からありましたが、「もっと効果的にデータを取ることにより、授業改善につなげることができるのでは?」と助言がありました。

村岡小学校のある福井県勝山市は「Forbes.com 世界でもっとも綺麗な都市トップ25」で9位に選ばれた、自然豊かで美しい街だそうです。研究課題にもある「楽しく なるほど 良く分かる」を、実際に行なった授業をもとに説明されました。
高橋先生からは「分かるのレベルを整理し、測り、レベルごとの指導が必要」だと助言がありました。

山下小学校は、昨年度鹿児島市のICT機器活用モデル校で、全教室に電子黒板と実物投影機等が配備されており、実践事例集も作られていました。電子黒板で授業が分かりやすくなった生徒は9割、成績については全ての教科で上がったとのこと。今回の研究課題は「ICTで思考力を高めたいが、可視化させるのが難しく、具体的にはこれから考えていきたい」との説明がありました。それに対して専門委員の先生方から「ICTだけでは、思考力を高めるのは難しい」と厳しい意見も。「始発点を決めることによって思考力の目標が明確化でき、思考スキルを上げるという方向にしたほうが良いのでは」との助言もありました。

特別研究指定校U
専門委員:
黒上教授(関西大学)、豊田准教授(和歌山大学)、永田准教授(兵庫教育大学)
助成校:
京都府立乙訓高等学校、守口市立橋波小学校、西宮市立北六甲台小学校

特別研究指定校U乙訓(おとくに)高等学校の研究課題の説明から始まりました。高校が研究指定校となることは、希少な事例とし、文化の違う高校と小学校の教員間で、質問や意見の交流が行われました。
「生徒指導とICTとの相関は?」「わかりやすい授業により、授業がわかり、学校がおちつき、身だしなみなどが改善してきた」「高校では実習が少ない。また教科によっても違う。PowerPointで教材を作りこんでしまうことが多い。反面、教材つくりに時間がかかりすぎる課題もある」といった意見がありました。また、専門委員の黒上先生から「高校と小学校は違うが、大学でも同様のことがいえる。シンプルな情報をわかりやすく教えることに使うとよい」や、豊田先生から「教材作りに時間がかかる課題があり、生徒にプレゼンを推進するのであれば、何頁はAさんといった、生徒に課題を担当させ、教師はそれを指導するという方法も考えられる」といった助言がありました。

続いて、橋波(はしば)小学校の研究課題の説明がありました。一般助成を2年連続で採択し、特別研究指定校となったことなど、段階的に取り組まれてきた経緯を説明されました。
質疑では、「1人1台のタブレットPCの管理は?」「持ち帰りはない。充電が必要なため学校で保管」「漢字ドリルの自習にも使うが、グループ学習でも活用している」「守口市からICTの支援員が週に1度常駐している」といった意見がありました。また、専門委員の永田先生から「なぜタブレットPCが必要なのか、なくても効果がだせることはないかという観点がほしい」や、黒上先生から「活用できただけで終らず、レベルアップしたことを実感できるような目標設定が大切」、豊田先生から「小小連携の中で、コンテンツの連携も考えたい」といった助言がありました。

次に、北六甲台小学校の研究課題の説明がありました。創設以来、西宮市の研究指定校を続けている風土を活かし、学力調査の結果を踏まえた課題選定の経緯などの説明がありました。質疑では、専門委員の方も交えた応答となりました。「どこまでICTを授業の中に取り入れればいいのか悩む。授業で使う方法は、担当教師の流れに介入することになる」「若手教員が多く、授業の質を高める狙いもある」「デジタル教科書の効果が見えにくい。〜が書けた、〜がいえた、といった目に見えるチェック項目が要る(黒上先生)」「ICTによる効率化をうたいたい。例えば、デジタル教科書の導入により、本文そのものを考える時間が増えた(豊田先生)」などがありました。

最後に、本日のディスカッションを機会に、学び合いを継続していこうと意気投合し、互いの研究授業を見学し合うといった提案がありました。また、高校では一般的に研究発表会が少ない中、乙訓高校では既に実施していることや、高校生を小学校に派遣した学習の場づくりに取り組まれていることから、校種・地域を超えた関係づくりの機会となりました。
また、専門委員の黒上先生から「報告はICT活用がメインとなるが、やはり自分の学校の実態が大事。ICTの長短所を見極めながら進めてほしい」、永田先生から「これまでの授業スタイルを否定することはない。ICTにより付加的な効果を検証してほしい」といった助言があり、時間となりました。

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情報交流会
参加者同士の自由で、活発な情報交流

赤堀侃司常務理事(白鴎大学教授)より、挨拶を頂きました。これだけの有識者が一同に会する場は他にないとして、当財団の活動意義を唱え、この場での情報交換にはお金がかからないと、出席者同士の気さくな交流を促されました。挨拶のあと、立食式の歓談となり、参加者同士の自由で活発な情報交流の場となりました。

赤堀常務理事 情報交流会
情報交流会 情報交流会

■参加者インタビュー

今回は、東日本大震災で被災された地域からの先生お二人と、専門委員の先生に、お話を伺いました。

坂内教諭・古田教諭 こどもの未来をつくる会
坂内教諭・古田教諭

Q.研究助成制度に期待していることについてご意見をお願いします
「(助成金の使途に)規制がなく、必要なところにお金をあてることができる。被災地の学校は孤立していますが、ICTで遅れを取り戻し、地域を超えたつながりをしていきたい。」


遠藤教務主任 宮城県栗原市立岩ケ崎小学校
遠藤教務主任

Q.贈呈式に来ていただいた率直な感想をお願いします
「日常に戻りました。教育は日進月歩していることを再確認する場となりました。震災のフォローはまだありますが、日本全体の流れを意識して取り組んでいきたい。」



浅井専門委員 浅井専門委員(京都教育大学教授)
Q.審査の時に印象に残ったことはありますか?
「今回の審査では、地域別に判定することになりました。地域情報を付加できるため、審査課題が、学校内のどこまで広がり、学校外のどこまで広がるかを、より精度よく評価ができたと思います。助成後のフォローを含めて、より深いICT活用につながる取組みだと思います。」

引き続き、当財団は、ICT活用を通じた学びの場の提供を行っていきます。