プロジェクトの開始にあたって

公益財団法人パナソニック教育財団では、設立40周年を記念する「ワンダースクール支援プロジェクト」を平成26年度から開始しました。子ども1人1台のタブレット端末を活用した授業実践を行い、その学習効果を検証するもので、1人1台環境に対応した授業のあり方や校内体制づくりのポイントなども探り、学習効果のエビデンスと合わせて広く情報発信する計画です。 取り組みの意義と成果への期待を、プロジェクト主査の清水康敬・東京工業大学名誉教授にお聞きしました。

1人1台環境に適した授業・学習スタイル提案も

"One to One"の効果 エビデンスとして明示

財団
私たちパナソニック教育財団では、設立当初から行っている実践研究助成を通じて学校での授業づくりをサポートしてきました。設立40周年を記念して、従来の助成制度とは異なる共同研究型の取り組みとして企画したのが、平成26年度から2年計画で実施する「ワンダースクール支援プロジェクト」です。
小中学校に、先生と子ども1人1台のタブレットPCと、電子黒板、無線LANや授業支援ソフトなどと研究費を助成し、授業で活用していただきます。今回のプロジェクトでは、1人1台="One to One" の新しい学習環境がもたらす効果を、明確なエビデンスとして示すことを目指します。先生と子どもたちへの調査を複数回実施し、子どもの変容や先生方の授業設計の工夫などを明らかにする計画です。
清水先生にはプロジェクト主査として、調査方法の検討から今後の結果分析まで、取り組みの全般に関わっていただいています。
清水
効果測定の調査方法は、教員向け、児童生徒向けともに決定しています。
教員対象の調査では、総務省のフューチャースクール実証実験の分析結果なども踏まえて、機器使用における負担感や機能の評価、活用の効果などを調べます。
児童生徒向けとしては、同じ内容の授業を、1人1台環境を活用した場合としない場合の2回1セットで実施し、授業後にアンケート調査を行います。各校で年間10セットの授業を行ってもらう予定で、複数校の結果をまとめて分析することにより、学習効果についての明確なエビデンスが出せるものと考えています。
一方で、学習効果が上がることを期待してICTを活用しても、思ったほどの結果が出ない場合もあります。例えばICTなら情報提示が素早くできるからといって、コンテンツの量を2倍に増やすと、学習者側の思考が追いつかないために効果が上がらない。イギリスでは"should not use" という言い方をしますが、効果的ではない場面や使用方法も、一つの「エビデンス」と捉えることができます。どの部分が"should not use"で、どう改善すればよいかという提案も含めて、参考になる実証の結果を公表したいと思っています。

デジタルネイティブの力 学習に生かす方法探る

財団
財団としては、学習効果のエビデンスだけでなく、新しい授業スタイルを普及させていくためのヒントも実践の中から見出し、情報発信したいと考えています。
今回のプロジェクトでも、実践研究助成の特別研究指定校と同じように授業公開をしていただきますし、各校の取り組みを財団Webサイトでリポートする予定です。学会でのセッションなど、実践者、管理職、アドバイザーとなる研究者の方々が得た知見をわかりやすく提供する場もつくりたいですね。
ICTの活用でこれだけの学習効果が上がったという事実だけでなく、それを実現するための授業デザイン上の工夫や、校内体制づくりのポイントなども、多くの先生たちが共有できるようにしたい。私たちの財団はこの部分を40年間ずっと応援してきましたし、その実績の上に今回のプロジェクトがあるということです。

子どもたちの持っているデジタルへの適応能力を学習に生かす

清水
学習スタイルという点では、昔の子どもと今の子どもでは根本的に変わっています。デジタルネイティブという言葉があるように、今の子どもたちは反応の速さや情報を的確に捉える能力が非常に高い。今の時代に即した能力を持っています。
現代の子どもたちが持っているこうした能力を、いかにして学習に生かすかというのが、これからの学校教育の一つの目標になると思います。そのためにはどんな授業デザインや学習スタイルが適していて、教員の役割はどう変わるのかといった点を探ることも、このプロジェクトのねらいに含まれています。子どもの学習効果検証では、思考力や問題解決力などこれからの時代に求められる力を重点的に調査します。現代の子どもたちが持っている能力と"One to One" の学習環境が、21世紀型の学力育成に効果的に結びつくのではないかと私自身も期待しています。
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★本対談は、平成26年1月13日の日本教育新聞に掲載された記事を転載したものです。