先導的実践研究助成
光原 弘幸 徳島大学 講師

 本研究は、近年注目されているLocation-based Learning(LBL)を扱うものであり、子供達による協調・競争を指向した防災学習システムを開発し、場所と密接に関連する防災訓練での実践に取り組む。そして、その効果を検証し、ICT 時代における防災学習の一つとして確立する。

  1. 本研究の必要性
     近年、世界各地で大規模地震・津波が発生しており、地震・津波防災が世界共通の課題となっている。地震大国の我が国ではこれまで防災に一際力を入れてきた。例えば、徳島県では、今後30 年以内に60%の確率で南海地震が発生し、死者4,300 名の甚大な被害が想定されており、「死者ゼロ」を目標に様々な対策が講じられている。しかし、自らの命は自身で守るといった防災の基本である"自助"の取り組みを疎かにし、他人事、行政頼みにしている住民は多い。防災意識向上のためには、子供の頃から地震・津波の被害、避難、救命救助などについて興味を持ってリアルに学ぶことのできる防災学習システムが不可欠と言われているが、未だ質、量ともに不十分である。
     本研究の目的は、ICT 技術を駆使した防災学習システムを開発し、将来を担う子供達に防災意識を根付かせることで、多くの命を救う手助けをすることであり、その必要性は高い。
  2. 本研究の特色
     これまでの防災学習システムには、GIS(Geographic Information System)による被害/避難シミュレーションやVR(Virtual Reality)による模擬体験を提供するものが多い。近年では、GPS(Global Positioning System)付き携帯電話で撮影した画像を防災マップに反映させるモバイルシステムもある。これらに対し本研究では、GPS 付きタブレットPC を採用し、子供達が実世界で展開するRPG(Role Playing Game)を通じて防災(特に地震・津波防災)について学ぶことのできるLBL を実現する。このLBL では、

    ・まず、子供達をゲームの主人公になりきらせて防災に興味をもたせ
    ・次に、実際の場所にあるモノや現象を題材にした五感に訴える課題(教材)を与え
    ・学習中、他の子供達と協調させたり競争させたりして、印象深く課題を解決してもらい
    ・学習後、協調・競争した子供達との交流により、継続的な防災学習につなげる

     例えば、「この地域にある津波被害の石碑を探し、刻まれた津波避難の教訓に共通する言葉を見つけよ。 その言葉が宝物を開ける鍵になる」という物語を設定した場合、子供達は手分けして石碑を探し、情報交 換や議論をして協調的に津波被害を学んでいく。また、宝物のある津波避難場所への経路を子供達に選ば せ、誰が最も早く避難場所に辿り着くか(誰が最初に宝物を見つけるか)を競わせて、避難場所までの所 要時間や体の負担(疲労)、避難経路を体験的に学んでもらう。
     本研究の特色は、実世界における場所とゲーム(RPG)と防災学習を融合する点にある。特に、一人で学ぶのではなく、複数人で学ぶことで学習のインタラクティブ性、発展性、意外性を高め、防災意識をより向上させることに重きを置いている。LBLは研究レベルから実用レベルに移行しつつあるが、協調・競争を指向した防災学習用LBL は他に例を見ないことから、開発システムとその実践は大いに注目を集めると期待される。

  3. 本研究の目標
     本研究の第一の目標は、防災訓練での実践に耐えうる防災学習システムの開発とその実践である。開発システムを公開(ダウンロード可能に)するとともに、システム上で動作するLBL の多種多様な教材(ストーリー)を共有する仕組みも用意する。また、地域社会(初等中等学校、防災センター、博物館等)と連携し、積極的に防災訓練での実践に取り組んでいく。さらに、実践を通じて得た種々のデータを分析し、システムや教材の改善に活用するとともに、実際に防災意識が向上したか、地震・津波や防災に関する知識が構築されたかを明らかにする。このように新しいLBLの方向性を示し、研究成果を社会に還元することで、防災学習システムの普及・実用化につなげることは、大きな意義をもつ。