実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

オモシロ実践訪問記

大阪マルチメディアデイジー研究会 【デイジー版教科書って?】

【研究課題】
特別支援教育におけるマルチメディアデイジー教科書の導入・活用に関する実践的研究
〜読み書き障害のある児童生徒への支援を通して〜


ご存じの通り、この夏は猛暑続きでした。9月に入っても、「教室内温度が37度を超え、子どもたちのやる気が全然ない」という話をお聞きすることも・・・。やはり、学力向上にはICTよりも先にAC(エアコン)でしょうか?(笑)

さて、これまでは、研究助成を受けた"学校"を中心に取材を行ってきましたが、今回は、複数の学校の先生から成る "教育研究グループ"、「大阪マルチメディアデイジー研究会」を取材してきました。

これから紹介するマルチメディアデイジーに関する実践は、支援学校だけではなく、校種を問わず一般校での「特別支援教育」にも大変参考となることですので、最後まで読み進めていただければ幸いです。


法改正で拡がる特別支援教育

最初に、特別支援教育における教科書の著作権に関してです。2008年9月施行の「教科用特定図書普及促進法(教科書バリアフリー法)」と「著作権法第33条の2」の改正により、発達障害や弱視等の視覚障害その他の障害のある児童・生徒のための「拡大教科書」やデジタル化された「マルチメディアDAISY(デイジー)版教科書」等が作成できるようになりました。 文化庁のサイトでも、法律の改正の具体例として、「マルチメディアデイジー図書の作成ができる」といったような記載があります。


デイジー版教科書って?

「マルチメディアデイジー版 教科書」は、一般の本(教科書)を読むことが困難な子どもらを支援する目的で、本文読み上げ機能(読み上げ箇所反転機能を含む)や自動ページめくり機能(スクロール機能)等がついた「デジタル版の図書(教科書)」のことです。

デジタルですので、画面上の文字の大きさや読み上げ速度などもコンピュータ上で変更可能ですし、文字だけでなく、イラスト・図や写真なども文中に挿入できるといった利点もあります。

詳細は、(財)日本障害者リハビリテーション協会(JSRPD) 内DAISY研究センターのサイトをご覧いただければよくわかります。例えば、上記のサイトでは、マルチメディアDAISY版教科書のサンプルとして、「ごんぎつね」を視聴することができます。

ごんぎつね"のサンプル画面
【(財)日本障害者リハビリテーション協会
 (JSRPD) 内DAISY研究センターHPより】

サンプルを見てみますと、心地のよい朗読者の肉声、高画質なイラストが挿入されていました。朗読中は分節箇所が自動的に反転したり、再生速度、表示する文字の大きさや色などを変更することも可能でした。

「百聞は一見に如かず」。ぜひ「再生ソフト(無料)」をインストールして、実際に「デイジー教科書(図書)」を体験してみてください。

これが無償もしくは実費程度(多くは500円で販売されています)で入手でき、こういったデジタル版の図書を必要としている子どもたちに届いて、「これまでできなかったことができるようになる」というのは大変素晴らしい事だと率直に感じると思います。

(余談――-知ったかぶりに書きましたが、実はお恥ずかしながら、今回の取材を行うまではこういった知識も体験もなかったため、今回、非常に勉強になりました・・・―――)


幅広い立場の先生が集う研究会

さて、前置きが長くなりましたが、今回はじめて、学校ではなくて研究団体の取材に行ってきました。去る土曜日の午前中、激しい雨の中でしたが、大学の研究者をはじめ小学校教諭、支援学校教諭、学生、作業療法士など幅広い立場の方々が定例会(勉強会)に集まっていました。

お話を聞いていますと、特別支援教育に携わる先生方にとっては、このデイジー教科書の学習効果を既に実感されているケースが多いということでした。私も特別な学習ニーズのある子どもにとって、このデイジー版教科書が学習効果の高いツールであることは、この会での事例発表や実際に使ってみた先生方からの意見等で確信できました。

ただ、このデイジー教科書を使った指導の壁として、真っ先に、教育現場における情報設備環境があがりました。このデイジー版教科書(図書)は、それを使う子どものニーズに合わせる必要があるために、やはり一人一台体制が基本です。台数確保はコンピュータ室を使えばなんとかなるのですが、もう一方で、メンテナンス契約の問題があるそうです。契約上、こういったフリーソフト(例えば、デイジー図書の再生ソフトウェアである"AMIS")を小学校のPCに自由にインストールできないのです。

つまり、「このデイジー教科書をどう効果的に指導に活かすか」といった議論の前に、まずはどうやって校内で実行するか、子どもらの元に届けることができるかといったそもそものところが普及の妨げになっているようなのです。

話がいきなり大きくなりますが、京都市の議会答弁で、このデイジー教科書が話題になったことがあったそうなのです。学校への啓発活動をおこなうと同時に、行政を動かすための模索・アピールも続ける必要もあり、大きな役割を担っている活動であると改めて感じました。


デイジー教科書の制作現場では

当然ではありますが、デイジー教科書は、全体として出版されている数と比較すると、圧倒的に数が少ないのです。また、出版社も利益の上がらないこういったデジタル化の作業や流通・販売に本格的に乗り出すことはまずないと考えられます。そこで、当会では、この「デジタル教科書・絵本」などを作成する試みもおこなわれていました。

今回の勉強会で紹介されていたのが、一般のワープロソフトで作るという方法です。音声については、コンピュータによる合成音を使用していましたが、これが非常に明瞭であり、肉声とまではいかなくても「聞きとるには十分」でした。

最も驚いたのは、挿絵を自ら描いていたことでした。得意な先生や学生ボランティアによって新たに書き直されたイラストは、一見するとプロが描いたのかと思うほどのものでした。但し、こういった一連の制作作業には、コンピュータスキルもさることながら、莫大な時間と労力を必要とすることは容易に想像でき、制作者の方々のモチベーションの高さには本当に感銘を受けました。


「デジタル教科書」の議論に際して

現在、いわゆる「原口ビジョン」によって、「2015年までにデジタル教科書を全ての小中学校全生徒に配備」といった計画が出されてから様々な議論が錯綜しています。8月には田原 総一朗氏の「デジタル教育は日本を滅ぼす」が出版され、デジタル教科書の不要論が展開されていますし、つい最近 田中眞紀子氏による「頭脳の散歩 デジタル教科書はいらない」といった本も出版されました。教育書ではなくて、著名人の一般書として売られるあたりも、社会的関心の高さが伺えます。

よく、「教科書がデジタル化される?・・・本はやっぱり紙媒体で手にとって読まないと」といった意見が聞かれますが、一方で、それを必要とする子どもたち、もっというとそれでないと学べない子どもたちもいるということも少し念頭に置いてもらいたいと感じました。デジタル教科書の議論が沸騰している今こそ、その必要性がある子どもたちがいるんだということも併せて盛り上がらないかと願う次第です・・・。


子どもたちの学びを充実させるために

今回、「大阪マルチメディアデイジー研究会」を訪問させていただいて、皆様の熱心に学ぶ姿、献身的な活動の様子がとても印象的でした。まずは、目の前の子どもらの学びを少しでも充実させたいという気持ち、そしてデイジー教科書を必要としている子どもたちを指導する立場の先生方へ、この効果を理解・実感してもらいたいという思いがヒシヒシと伝わってきました。子どもらを全体のひとまとまりで捉えてしまうのではなく、一人ひとりのニーズをきちんと見据えることの大切さを改めて感じた取材だったように思います。

私自身も、今後ICTがらみの会で、このデイジー教科書の話題を取り入れ、少しでも普及啓発に関わりたいと考えています。取材に応じていただいた「大阪マルチメディアデイジー研究会」の皆様、本当にありがとうございました。 。

(和歌山大学 豊田 充崇)