実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第42回特別研究指定校(活動期間:平成28~29年)

古河市立上大野小学校 /平成28年度4-7月期

 

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研究課題と成果目標
研究課題と成果目標

取組内容
取組内容

裏話
裏話

成果
成果

今後の課題
今後の課題

今後の計画
今後の計画

 気づき・学び
気づき・学び

アドバイザーコメント
必見! アドバイザーコメント

 

研究課題と成果目標

 

[研究課題]

プレゼンテーション力の向上で21世紀型学力を身に付ける学習活動に関する研究
~ICT活用で伝える力,思考力・判断力・表現力を育む教育活動~

[成果目標]

1 児童がICTを利用して自分の考えを人に伝えることができるようになること。また,その過程において思考力・判断力・表現力が身に付くこと。

2 プレゼンテーション型授業のモデルケースとして広く利用される。
 このことの評価は4回行う公開授業での参加者アンケートや2年目の夏休み中に行う公開セミナーの協議記録やアンケートでも実施する。また,ホームページで紹介した資料のダウンロード件数なども確認し利用数をチェックする。
 教育関連の学会において本校の取組を発表し,教育業界への周知を図るとともに,各方面からの意見をもらい,その後の研究に反映させる。

3 職員のプレゼンテーションスキルが向上する。
 職員自身も研修や授業中でプレゼンテーションのノウハウを学び,以後の授業や研究会等でその力を発揮することが期待できる。

本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応

 

[取り組み内容]

1.研究推進委員会の実施

①「プレゼンテーション力」の語義について

児童が自分の考えを資料等を用いて論理的に示すことに限らず,授業中の自分の意思表示をしたり,教員の問いかけに答えたりする活動全般を本校のプレゼンテーションの語義とする。

「プレゼンテーション力」=自分の考えを分かりやすく聞き手に伝える力

「プレゼンテーション力」の育成により,様々な形での自分の意思表示のあり方を検討したいと考えた。

②「プレゼンテーション型授業」を行う教科・領域について

研究1年目

「プレゼンテーション力」の育成と「プレゼンテーション」の実践として相応しい授業実践について検討することをねらいとして,特定の教科・領域にとらわれずに実践を行っていく。実践を重ねていく中で職員で,プレゼンテーションを行うに有効な場面を絞っていく。
意見を交流しあう「話し合い」活動と自分の考えを練り上げる「熟考」の場面,考えを述べる発表の場面や他者と自分との考えの比較や検討をする場面を多く取り入れていく。

研究2年目

教科・領域を絞り,プレゼンテーション型授業を実践する。

③「共同学習」の在り方について

本校のone to oneの環境でタブレット端末を使用することは,個人の活動が増えてしまう傾向が強くなってしまう懸念がある。そこで,ペアやグループなどで意見交流を行う活動を軸とした共同学習の充実を図りたい。
そのための施策として,「シンキングツール」を活用し,思考の可視化させることが有効ではないかと考えた。また,タブレット端末のアプリケーションを用いた思考の可視化の方法についても随時検討していきたい。
シンキングツールの活用方法の場面については,職員で共通理解をする必要がある。

④本研究における本校の「オリジナリティ」について

本研究を推進する上で,児童のプレゼンテーションを学校外に発信することを第一に考えた。発信する対象は保護者を想定し,児童のプレゼンテーション活動を保護者が閲覧し,かつリアクションするという仕組みを導入したいと検討している。保護者のリアクションを児童自身へのフィードバックへと繋げることで,学校と保護者との間に双方向性の意見交流が生まれるのではないかと期待している。
意見交流を行う場面として,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下SNS)の利用を検討している。候補としては「Facebook」と「ednity」の2つのSNSに絞られた。

2.朝の会での「係からのお知らせ」と「スピーチタイム」での活用(5・6年生)

自分の考えを分かりやすく聞き手に伝える場面として,朝の会の「係からのお知らせ」と「スピーチタイム」において,タブレット端末を用いたプレゼンテーションの形式の発表を行っている。

・実践例
6年生は,毎日2名ずつスピーチを行い,5月から7月にかけて,1人あたり4回のスピーチを行った。

【スピーチタイムの流れ】

①スピーチのテーマを決める。
②発表者がスピーチの内容を考え,資料を用意する。
③スピーチを行う。
④質疑応答を行う。

6年生が今年度からスピーチを行うにあたり,発表への抵抗感を無くし,かつ聞き手が質問の視点を持つことができるように,1回目と2回目はスピーチのテーマを全員統一とした。3回目以降は複数のテーマの中から発表者が選択して行った。
発表と質疑応答の様子は動画で記録をしつつ,スピーチ後には担任から発表者に対してレビューを行い,レビューについても記録している。
4回目のスピーチの際には,発表後にアンケートを実施した。発表者には表現力についてふり返りを行う「伝えるアンケート」を実施。聞き手の児童には発表を聞く力についてふり返る「伝わるアンケート」を実施した。

スピーチテーマ 備考
1 自分の好きな食べものについて 全員共通
2 自分の宝物について 全員共通
3 ・運動会の思い出について
・陸上記録会の思い出について
各自がテーマを選択
4 ・未来の日本はどうなっているか
・あったらいいな!こんな道具
・もしも魔法が使えたら…
各自がテーマを選択
古河市立上大野小学校イメージ1

写真 1 朝のスピーチタイム

古河市立上大野小学校イメージ2

写真 2 係からのお知らせ

アドバイザーの助言と助言への対応

【4月11日事前訪問】

アドバイザーからの助言 助言への対応
「プレゼンテーション」の語義を整理し職員で共有してほしい。 研究推進委員会にて語義の検討を行い,その後職員研修において,決定。
「プレゼンテーション力」=自分の考えを分かりやすく聞き手に伝える力
これまでにないオリジナルな発信内容を作り上げてほしい。 SNSを利用して,保護者に児童のプレゼンテーションの様子を随時発信する方法を検討中。
プロセスを記録し公開していくことが大切である 6年生の朝のスピーチを動画で記録している。さらに児童への助言についても記録している。
公開する方法を検討中。
課題に対して実践内容を検証していくことが必要である。 実践をするために,職員研修や指導案の検討,教材研究を常時行う。
学年によって求めるレベルが当然違うので,最低ラインを決めるとよい。 6年生児童が朝のスピーチの際に心がけていたことをまとめている。
MP制度は子どもたちも参画して基準がつくれるとよい。 朝のスピーチで心がけていることをもとに作成を検討中。

【6月27日:アドバイザー訪問より】

考えを伝え,学びを深めるタブレット活用のために

①課題の設定

課題を明確にし,伝える相手意識や目的意識をもたせないと,児童の「伝える意欲・切実感」が無くなり,自分の考えを伝えても伝わらなくなってしまう。
児童が「本当に解決したい」,「取り組みたい」と思うような課題や明確なゴールを設定することで,児童の主体的な活動を促すことが大切である。

【対応】

授業つくりを行う際には,児童が学習の目的を達成したゴールの姿をはっきりとイメージさせてから,課題を設定し,その課題を解決するための手立てを考えていくことを心がける。

②発表に対する即時フィードバックについて

児童が発表を行った際に,うまく伝わらないことがある。その原因は,発表者の表現方法にあるのか,それとも聞き手の理解力にあるのかを把握し,その都度適切な指導や全体への確認をすることが必要である。
また,発表に対して,うまく聞き取っている子と,聞き取ることができなかった子の意見を聞きながら,共同学習を行うことが大切である。発表者にとっても,うまく聞き取ることができなかった児童にとっても,「他者から学ぶ」ことができるため,共同学習の意義に繋がる。

【対応】

発表者の児童が自身の発表についてふり返るだけでなく,聞き手の児童も発表内容を理解できたからどうかについてふり返ることができるようにアンケートを作成する。
また,発表を評価する基準を定める。発表の視点を児童に与えることで,発表者にとっても聞き手の児童にとっても,相互評価ができるようにしたい。

③シンキングツールの使用について

シンキングツールは思考を可視化でき,自己の考えを深めたり,伝えたりする際に有効である。しかし,シンキングツールの使用の目的や使用方法を理解し,使い慣れていかないと良いアイデアを出すことができない。児童だけでなく,職員もシンキングツールを使って「アクティブ・ラーニング」を経験したほうが良い。

【対応】

職員研修において,シンキングツールの使い方の研修を行う。また,シンキングツールを用いた課題解決型のワークショップを行う。

④「共同注視」を意識する

スライドを用いた発表では,学習の参加者全員がスライドを注視していることが大切である。そのためには,発表者は,スライドを映すスクリーンの位置を考慮した位置に立つ必要がある。立ち位置の理想はスクリーンの横であり,そうすることで聞き手の目線の移動が少なくなり,見る場所を焦点化することができる。
また,発表するスライドの作成の際には,見せるための表現方法を定着させなければならない。例えば用紙のかき方として,字の太さや字の濃さ,色などを工夫することで聞き手に伝わる効果を高めることができる。高学年は,発表の際に指を指すことまで意識したスライド作りができることが理想である。
さらに発表で使用する写真や動画に関しても,「何を伝えたいか」,「何を伝えるべきか」を考えさせて,聞き手を意識した撮影ができるようにしてほしい。その際に,撮影技術を学習の目標としないように留意しなければならない。

【対応】

児童がスクリーンやTVモニターの前に立って発表する経験を低学年のころから積み重ねていき,聞き手を意識した発表の経験を増やしていきたい。また,その実践の様子を教員が記録したり,分析したりすることで,発達段階に応じて身につけるべき「プレゼンテーション力」を設定する。

⑤実践を記録すること

「プレゼンテーション力」を高めるための手立てやその授業の様子など,成功例だけでなく失敗例も教員同士で実践を共有する。

 

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裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 

1.体育的行事の多さ

5月から6月にかけて体育的な行事が多く,職員研修を十分に行う時間が確保できなかった。今回は停滞してしまったが,今後の学校の繁忙期には「ミニ研修」という形で,簡単な意見交流を行う場を設定したい。

2.朝の会での活用によって負担なく高まるリテラシーと表現力

one to oneの環境を活かし,朝から常時活用してスピーチを行うことで,タブレット端末を容易に操作できる児童が増えている。また,常時自分の考えを表現する活動時間を確保できたことで,児童が抱いていた発表への消極性がなくなってきている。さらに,毎日スピーチを行っているため,聞き手側の児童の「聞く視点」が生まれ,発表者に対して質問や意見を述べることが活発となっている。

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成果

 

6年生児童が,朝の会のスピーチを行うにあたって,話の構成や話し方,資料の用意をする際に心がけていることを書き出し,それをグルーピングして見出しをつけた。

古河市立上大野小学校イメージ3

6年生が「スピーチをする時に心がけていること」(記入例)

見出し 記載内容例
目線 ・タブレットの画面を見ずに聞き手を見る。
・聞き手の方をしっかりと見る。
ジェスチャー ・ジェスチャーを入れると分かりやすい。
文字数 ・文字は少なめにする。
・多くても1〜2行程度。
質問の予想 ・質問を予想して,答えを用意しておく。
・全てを話さず,「質問させる」ことも大切。

以上のようなまとめをもとに他学年でも活用できるようなプレゼンテーションの評価基準を作成したい。

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今後の課題

 

「プレゼンテーション型授業」に適した教科,領域を検討する。そのために,発達段階に応じたプレゼンテーションの在り方を明確にする必要がある。プレゼンテーションの在り方を常に念頭に置いて,その実現に有効な教科や領域をピックアップして授業を実践していく。実践を重ねる中で,さらにプレゼンテーションの型や授業のスタイルを改善していきたい

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今後の計画

 

【職員研修】(2016年7月〜8月)

(1)教員がアクティブ・ラーニングを体験するワークショップ型研修の実施をする。
その際にシンキングツールを活用する。

(2)「プレゼンテーション型授業」に適した教科及び単元の検討を行う。
①プレゼンテーション型授業が有効と思われる教科及び単元,領域のピックアップ
②プレゼンテーションを行うために必要な時間と形式(個人・グループ)の検討
③時間や形式を考慮して授業にA・B・Cの3段階のランク付けを行う。

(3)教員によるプレゼンテーションの実施
夏休みの思い出について教員がタブレット端末を用いたプレゼンテーションを行う。

(4)9月26日(月)の授業公開に向けた指導案の検討

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気づき・学び

 

【朝のスピーチを通して】

  • 学級経営として担任と児童,児童と児童の相互理解と信頼関係の構築が基盤となっている。学級経営として,一人一人の考えを認め,励ましていくことで児童が自己有用感をもてるようにしている。学級での生活や学校行事を通して培ってきた児童の自己有用感からスピーチへの抵抗感がなくなっていると強く感じる。またスピーチをして学級全体で話を聞いている雰囲気の中でさらに自己有用感を高めるという相互作用が見られた。スピーチを通して,学級が落ち着いてきている。児童たちはスピーチを楽しんでいる。
  • スピーチに対して,聞き手の児童が質問などのリアクションがある。児童にとってはそれが嬉しいようでスピーチを楽しんでいる。また,担任からスピーチの良い点をあげてレビューを行うことも効果的であった。その後,今後の改善点を伝えた際に素直に受け止める児童が多いことが嬉しい。聞き手の児童もスピーチとその後のレビューを聞いているため,自分がスピーチを行う際に留意点を意識できるようになっている。
  • スライドのテキストの文字数や画像の有効活用,体の向きなど担任からの指導の傾向を掴んだ児童が,自分のスピーチ内で応用するようになった。また,上手なスピーチを見た児童が真似るようになった。
  • 前年度の6年生がまとめた「プレゼンのコツ」や昨年度のプレゼンの動画を見て,スピーチやプレゼンテーションの意味を理解した児童が多い。継続的な活動を記録することが,指導に役立つことを実感した。

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アドバイザーコメント

 

武蔵大学 社会学部メディア社会学科 教授 中橋 雄 先生

 
中川先生

本校の研究テーマは、「ICTを活用したプレゼンテーション能力の育成」であり、その教育方法を検討していくことである。本校の特色のひとつは、LTEでインターネット接続できるタブレットを1人1台環境で使用できることである。今後、全国の学校でタブレットを用いた教育が普及していくにあたり、どのような場面でどのような指導を行っていくことが効果的なのか研究することには大きな意義がある。

本校では、まず「プレゼンテーション力」の範囲を明確にして校内の全教員で考えを共有するところからはじめた。そして、どのような教科・単元でその指導を行う機会があるのか、指導の工夫にはどのようなことが考えられるか検討した。その過程を経て校内研究会での授業を参観させていただいた。

2年生の国語では、発表者が絵について言葉で説明し、聴衆が説明に従ってその絵を描く実践が行われた。児童がタブレットにペンで絵を描いたあと、クラス全員分の画面が前面のデジタルテレビに一覧表示された。絵が再現できている人もいれば、そうでない人もいる。自分が思ったように相手が解釈してくれるとは限らないということ、うまく伝えるためには、どのように表現する必要があるのかということについて学んでいた。

4年生の理科では、空気でっぽうの玉を遠くに飛ばすにはどうしたらよいか、体育館でグループごとに条件を変えて実験し、その実験の様子をタブレットで動画撮影した上で、それを見せながら結果を伝え合う実践が行われた。どのように撮影すると実験の様子を他のグループにわかりやすく伝えることができるのか考えながら撮影を行っていた。

6年生の総合的な学習の時間では、校区のよいところを調べてPRする方法・住みやすい街にするための改善方法を考える実践が行われた。タブレットでインターネット検索をして地域について調べ、グループで話し合いながらホワイトボードにまとめる。他のグループに思考の過程を伝える活動では、その内容をタブレットで撮影してプロジェクタで大きく映し出し、必要に応じて拡大するといったICT活用の工夫が見られた。

いずれの実践もよく練られた実践であるとともに、教師が様々な指導の工夫をしている様子を確認することができた。学校教育の現場では、学習者が自分の考えを他の人に伝える場面が数多くある。外部の聴衆に対する発表、学級内の全員に対して発表する機会、グループやペアで話し合う機会など、それぞれの場面に応じた伝え方、そのためのまとめ方がある。今後は、そのための教育方法・指導の工夫について体系的に整理するとともに、その指導方法を暗黙知のままにするのではなく、他の教師が参考にできるよう明文化されることを期待している。

 

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