実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第39回特別研究指定校(活動期間:平成25~26年)

奈良県立奈良養護学校/平成26年度1~3月

前へ
 

活動報告メニュー活動報告メニュー

ご覧になりたいメニューボタンをクリックしてください。

研究課題と成果目標
研究課題と成果目標

取組内容
取組内容

裏話
裏話

成果と課題
成果


2年間の成果
2年間の成果

2年間の実践を終えた感想
2年間の実践を終えた感想

取組内容 今後の展望

アドバイザーコメント
必見! アドバイザーコメント

 

研究課題と成果目標

 

[研究課題]

「個々の発達課題に対応する教材データベースの構築とネットワーク化」
サブ課題「インクルーシブ教育システムと学校のセンター的機能を踏まえて」

1.教材データベースについて

  • 教材データベースの充実と活用システムを構築する。

2.ICT教材について

  • ICT機器やデジタル教材を確かな学びを育む授業に生かしていく。

3.地域支援ネットワークについて

  • 実用的な地域支援ネットワークシステムを構築する。

今回の報告では、これまでの研究内容に加えて2月7日の公開研究発表会に向けた取組と、その発表会の中で得られた反省や課題からの取組についてまとめます。

本期間の取り組み内容/アドバイザーの助言と助言への対応

 

◆本期間の取り組みと内容

1. 教材データベースについて

奈良県立奈良養護学校活動報告イメージ1

プリント教材のデータメニュー画面

教材共有ネットワークの会員のページにお役立ち情報として姿勢作りやかかわり方のポイント等について掲載しました。これは、進路先や就学前の施設からの問い合わせに対応したもので、これからも増やしていきたいと思います。教材データについては、プリント教材集として新たに28種類200ページを越えるデータをアップロードしました。これは東大阪大学短期大学部鴨谷先生のご尽力によるものです。サイトの利用状況やアクセスログを見るとプリント教材の活用が一番多く、検索のワードとしては「シール貼り」が圧倒的です。即利用できる物に対するニーズが大きいことがよく分かります。そうしたニーズへの配慮も踏まえて、さらに教材を開発しアップロードしていきます。

  • 1月 新たにプリント教材集28種類、200ページをアップロードしました。また、東大阪大学において、教材デーベースのデザインを一部変更いたしました。
  • 2月7日研究発表会において教材データベースの活用方法について分科会の中で紹介しました。
  • 3月アセスメントチェックリストの表記の見直しとチェック項目の解説書の作成に着手しました。

2.ICT教材について

奈良県立奈良養護学校活動報告イメージ1

畿央大学とのフラッシュ教材の共同開発

これまでに畿央大学との共同研究で開発してきたフラッシュ教材約30個と本校の教員が開発したフラッシュ教材17個を発達や課題の流れの中で整理していくことができました。その代表的なものについて解説を交えて研究報告集に記載させていただき、TMSNの中でも紹介しています。フラッシュ教材の場合、どんな教材なのか使ってみないと分からないので、目的に応じて簡単に使い分けていくためのサムネイルを使用したインデックスページを作成していきたいと思っています。発達水準や目的などから必要なソフトをすぐに選択でき、活用していけるように工夫していきたいと思います。
実践研究を続ける中で、自作のフラッシュ教材をいかにiPad等のアプリにつないでいくかという視点にも気づかされました。タブレットへの導入部分では、対象児の興味や操作性に合わせて教材を開発することの重要性を痛感してきましたが、いつまでも作り続ける訳にはいきません。一般のアプリにつながっていくことによって導入部分の意味が出てくると思いますし、将来につながる確かな力としての位置づけになっていくと気づくことができました。

  • 新たなフラッシュ教材を5種類開発。3学期になり学生さんも対象の生徒も担当教員も今回の取り組みに慣れてきたようでとてもスムーズに開発が進みました。特に学生さんの遊び心もソフトの中に反映されるようになって、楽しい音や動きが効果的に使われ、楽しみながら学習が進められるようになりました。
  • 公開研究発表会では、ICT教材の分科会を開催し、30名の定員がすぐにいっぱいになり、関心高さを感じました。畿央大学の西端先生からはタブレットの特性やフラッシュの可能性についての話があり、学生さんからはコンテンツ開発の裏話もあり、フラッシュ教材を身近に感じられる充実した分科会となりました。
  • 年度当初からプログラムエンジニアの申し出もあり、これまで開発してきたフラッシュ教材をiPadで使えるようにするための技術開発をお願いしていましたが、3月にほぼ仕上がりを見せ、これからのフラッシュ教材の位置づけも大きく変わってくるのではないかと期待しています。
奈良県立奈良養護学校活動報告イメージ3
  • フラッシュ教材をiPadアプリにつなぐ取り組みについては、お弁当を作るという題材の教材を作り、iPadのお弁当づくりのアプリへつないでいきました。大好きなおにぎりを食べるところから始まり、それをお弁当に詰め込んで家族に食べてもらうというストーリーでしたが、対象児が大好きな「おにぎり」という題材と「食べる」という身近なストーリーであったためとても意欲的に取り組むことができました。まだiPadのアプリではお弁当を詰める部分しか遊べていませんが、これからイメージが育つことにより、次への展開を予想させるものとなっています。

3.地域支援ネットワークについて

奈良県立奈良養護学校活動報告イメージ4

具体的地域支援と教材共有ネットワークの紹介のために特別支援学校、支援学級、進路先、就学前施設などを対象とした地域支援研修会を実施しました。また、モデル校やモデル施設を訪問し、ケース検討会や研修会を実施しました。その中でそれぞれの学校や施設にどのような課題やニーズがあるのかについて話を聞くことができました。そうしたニーズに関わる情報についてもTMSNで発信するとともに、今後も提供していけるように整理していきたいと思います。  
まだまだ、他校や他の施設からの情報発信が少ないです。夏の地域支援研修会の後にアクセス数も増えてきましたが、年が明けてからは少なくなってきました。公開研究発表会後に増加したこともあり、伝達の機会の必要性を感じています。

  • 1月、2月とモデル校を訪問し、理学療法士の助言もいただきながら、身体に対するアプローチ方法について共に研修することができました。そこでの情報を教材共有ネットワークの会員ページに掲載しています。
  • 地域支援ネットワークの取り組みについても公開研究発表会の報告の中で紹介させていただきました。学校の組織としては、進路支援部と地域支援部がそれぞれの担当に分かれて推進していった形になります。初めての取り組みであり、目指す姿を探りながらの取り組みであったため、悩むこと行き詰まることも多かったのですが、課題が見えてくるに従い、何ができるのかも見えてきました。ニーズにすべて対応できるわけではありませんが、TMSNに掲載することにより、参考としていただけるような情報を提供していくことができればと考えています。

4. 公開研究発表会について

  • 2月7日(土)に公開研究発表会を行いました。関東11名、北陸甲信越10名、近畿116名、中国四国13名、九州沖縄11名と日本の各地から総勢161名の参加申し込みがありました。21の公開授業と7つの分科会、講演、研究発表と盛りだくさんの内容でしたが、分科会の中では活発な意見交換が行われ、時間が足りなかったというアンケートでの意見もありました。
  • 研究発表会の来賓として、県教育委員会から2名、パナソニック教育財団の特別指定研究アドバイザーとして園田女子大学より堀田博史先生、国立特別支援教育総合研究所から金森克浩先生、畿央大学から西端律子先生、東大阪大学短期大学部より太田和志先生、鴨谷真知子先生、大阪電気通信大学から森石峰一先生が参加されました。他にもこの研究に関わって下さった方々がたくさんいます。いかに多くの方々に支えられたものであったかを痛感いたしました。

◆アドバイザーの助言と助言への対応

アドバイザーの堀田先生は本校でICTを活用した授業をご覧になり、たくさんのアドバイスを残して下さいました。特に知的代替課程の生活等では特別支援学級での取り組みが参考になるとのアドバイスをいただきました。

奈良県立奈良養護学校活動報告イメージ5

ICTを活用した生活の学習

地域と特別支援学級と特別支援学校の交流や情報交換がまだまだ少なく、学級ではどのような学習がなされているかについてもほとんど知らないことに気づかされました。特別支援学級担当者の研究会が各地にあり、そうした研究会とのつながりの中で学ぶ機会を作っていきたいと思います。現在、奈良養護学校では奈良市の学級の先生方と協力して夏には合同研修会を開催しています。そういう機会も利用してお互いの情報交換がもっと活発にできるようになればと思っています。

ページトップへ

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 
  • 全国規模の公開研究発表会は、一昨年に続いて2回目になります。前回もすべての授業を公開する形を取りましたが、見ていただくだけで授業について意見交換をする時間がなかったと反省があり、今回は分科会という形で学部単位の授業検討会を実施しました。難しかったのはその進め方です。学部によっては公開した授業が7つあったため、1時間程度の時間ではすべての授業の検討は難しくなります。そんなときアドバイザーの堀田先生より、それぞれの授業単位で時間を短くして検討会を持ち、そこに参観者が参加する形で、時間がくれば次の検討会へ行くというものです。このプランは授業数の多かった3つの分科会で実施することができました。計画の段階では、授業検討会を授業者が進めないといけないことで不安になる先生もありましたが、実際やってみるとざっくばらんに話ができ、楽しそうに検討会が進行していました。ただ、この方式で分科会を進めるアナウンスが不十分であったため、戸惑いの見られた分科会もありました。
  • 公開授業への意見を集める方法として、今年の全国肢体不自由教育研究協議会の公開授業で実施されていた付箋に意見を記入してボードに貼り付けるというものを採用しました。これはとても好評で、参加者の方も貼られている意見を見たり、ボードごと写真に撮られたりする様子も見られました。授業者にとっても参考となる意見がいっぱいありました。段ボールを使った手作りボードでしたが、アンケートの中には「ボードの手作り感がよかった」というものもありました。
奈良県立奈良養護学校活動報告イメージ6

職員総出の会場作り

  • 公開研究発表会を実施して感じたことですが、奈良養護学校では以前行っていた体育大会や文化祭がなくなってしまいました。そういう行事の時には教員が一致団結して対応するという状況がありましたが、行事そのものがなくなったため、そういうこともなくなりました。その中で今回の発表会はまさに一致団結しなければ実現しなかったもので、みんなの中にやり遂げた感があり、いい経験となりました。すごかったのは後片付けの早さです。何日もかけて準備してきましたが、30分もかからずに後片付けは終了しました。
  • 研究発表で使う資料が研究報告集の原稿締め切りに間に合わなかったことで、当日使うパワーポイントの資料を渡せずに報告が行われました。その資料を教材共有ネットワークの中に入れることで後から確認ができました。効果的な活用方法でした。
  • 公開授業の指導案を参加者の方にはホームページ上で事前に見られるようにしました。参加者のアンケートの中には事前に確認できたため、授業がとても分かりやすかったというが意見がありました。こういう使い方の有効性を確認することができました。

ページトップへ

 

成果

 

1.教材データベースについて

プリント教材をたくさんアップロードすることができました。ただ、他の教材については研究発表会があったこともあり、時間的余裕がなくアップできませんでした。まだまだアップロードできていないものがたくさんありますので、この活動報告書を済ませてからゆっくりアップロードしていきたいと思います。教材のアップロードは少なかったですが、お役立ち情報を会員ページにたくさんアップすることができました。その作業を東大阪大学短期大学部にて太田先生、鴨谷先生の指導を受けながらすることができ、自分たちでアップロードの作業ができるようになったことも大きな成果です。

2.ICT教材について

授業に参加しながらの共同開発にも慣れ、この期間が一番スムーズに展開しました。対象児も学習に意欲的に取り組むことができるようになり、苦手だった絵合わせのような細部知覚課題も少しずつクリアできるようになっています。短期間であったにもかかわらず、充実した教材を5つ完成させることができました。

奈良県立奈良養護学校活動報告イメージ7

これまで作成してきた教材をまだ使いやすい形で整理できていなかったため、メニュー画面から選択できる形でフラッシュ教材をまとめました。もちろん一つずつバラバラに使うこともできますが、まとめて整理しておくことで、その場での対応が容易になりました。  
本校には指導用にタブレット端末が5台ありますが、ほとんど出払っていることが多くなりました。そのような折にオージス総研より4台のタブレットを寄付いただきありがたかったです。その端末も含めてすべての端末にフラッシュ教材を入れて自由に活用できるようにしています。

3.地域支援ネットワークについて

インクルーシブ教育や特別支援学校のセンター的機能にあたる部分ですが、その支援をインターネットを活用して行おうとしたのが今回の研究ということになります。特別支援学校に人的、時間的余裕があればいつでも出向いていって特別支援学級など支援を必要とする所で支援していくことができるのですが、現実にはそのような余裕はあまりありません。出向くことができなくても、参考となるような情報が得られるというシステムがあれば、それが一つの支援の形になるのではと考えました。

どんな情報をどのような形で提供していけば良いのかもわからない所からのスタートで戸惑いや悩みもたくさんありました。実際に取り組みを進めて、情報提供だけではなかなか活用していくのは難しく、やはり実際に出向き膝をつき合わせて話をする中で支援が見えてくるんだと感じることも多かったです。とはいえ十分な支援を続けるような余裕はないわけで、求められるのは、この経験をどのようにサイトの情報発信の中に活かしていけるかだと思っています。今回の期間での成果ではありませんが、これまでの振り返りの中でこれからの課題がまた見えてきました。

4.公開研究発表会について

交通も決して便利な地ではありませんが、遠い所からもたくさんの参加者があり充実した研究発表会でした。休みに自分のお金で時間をかけて参加してくださった方々のおかげでなりたった研究発表会だと思います。前回よりは40名ほど少なくなりましたが、今回は前回よりもずっと幅広い地域からの参加がありました。ここでは参加者を集めるためにどのような取り組みをしてきたのかについて紹介したいと思います。  
一番力を入れたのが広報活動です。奈良養護での取り組みのこと、公開研究発表会のことを伝えていくために、次のような研修会や学会で実践報告や研究報告を行いました。

  • 淑徳大学発達臨床研究セミナー(このセミナーは感覚と運動の高次化理論を中心としたもので、この理論をどのように学校で活用するかについて発表しました。)
  • 近畿肢体不自由教育研究協議会大会(近畿地区の肢体不自由特別支援学校の研究会です。ここでは、教材の整理方法と活用方法について話題提供しました。)
  • 全国肢体不自由教育研究協議会大会(全国レベルの研究会です。ここでは「教材データベースの構築と活用」という内容の話題提供と地域支援、教材共有ネットワーク、授業づくりの3つの観点でのポスター発表をしました。)
  • 日本特殊教育学会全国大会(特別支援教育全体を対象とする大きな学会です。ここでは「教材データベースとネットワーク化について」のポスター発表と「自立活動での感覚と運動の高次化理論の活用」について自主シンポジウムを開催しました。)
  • 全日本教育工学研究協議会全国大会(学校教育の中で学習支援機器をどのように活用していけるのかをテーマとする会。教材共有ネットワークの活用について発表しました。)
  • 他にも、発表や報告は行っていませんが、いろいろな研修会に参加した折に公開研究発表会の案内と教材共有ネットワークの紹介リーフレットを配布しました。

その他、参加された方へのお土産としてフラッシュやパワーポイントで作った教材を集めたデジタル教材ディスクを作成し参加者に配布することとしました。
それと一番の要因としては、土曜日に実施したことだと思います。土曜日は勤務がないので平日は動けない人も参加しやすくなったと思います。土曜日に実施するにあたっては、保護者の方々の協力が必要です。PTAとの協力があって実現するものです。

ページトップへ

 

2年間の取り組みの成果

 

1. 教材データベースについて

教材データベースに関する取り組みは、3年前のパナソニック教育財団一般研究指定を受けた時に始まります。それまで教材を整理し、教材室を充実させることに取り組んできていましたが、それを学校のホームページ上にデータベースの形でアップロードしたことから始まります。当初は本校の教員が家でも仕事ができるようにと作ったものでしたが、多くの反響を呼び、学校以外の施設や家庭からの問い合わせもありました。教材データベースにこれほどのニーズがあり、様々な可能性につながっていくことを感じました。さらに踏み込んで誰もが教材に関するデータを自由にアップロードでき、それを共有できるようになればもっと有用なサイトができると思い、今回の教材ネットワークへと発展していきました。

ベースは奈良養護の教材データベースを移行させて、そこに新たに加えていく計画でした。ただ、奈良養護学校の教材データベースの書式が複雑であるため、他の方が参加しやすくするためにも簡潔な書式に変更しました。そのため移行作業が手作業の作業となってしまい、未だにすべての移行作業が終わっていません。これからも作業を続けていきたいと思います。

また新作教材も増えてきているので、それらについてもアップロードしていきたいと思います。 教材共有ネットワークの大きなメリットは多様な検索機能です。発達水準からの検索、自立活動の6区分からの検索、キーワードによる検索などができます。情報が多くなればなるほどこの検索機能の働きが効果的で便利なものになってきます。また新たな検索方法についても検討していきたいと思います。

教材のデータベースの取り組みを進める中で、課題として出てきたことの一つにどのように使うのかの紹介です。現在は、教材の説明の所に記載してある程度ですが、実際に活用しようと思うといろいろな工夫ができますし、その工夫が必要になることも多いです。すべての教材で深い解説をつけることは無理ですが、いくつかケースを紹介して、子どもに実態に合わせて使っていく様子がイメージできるようなものが必要ではないかと考えています。これについては、今後の検討課題として取り組んでいきたいと思います。

2. ICT教材について

特にフラッシュ教材の開発については、畿央大学の協力がなければ実現しなかった部分です。来年度で5年目に入りますが、今後も続けていきたいと思っています。

ICTの活用という観点では、iPad等の選択も考えられましたが、Windowsを選択でいたのは畿央大学との協力関係がすでに存在していたことが大きいと思います。子どもの力や興味に応じてコンテンツを開発していくことができるメリットは大きかったです。もちろん、iPadから始められる児童生徒も多いのですが、iPadのアプリではまだ難しいケースもよくあります。ケースに合わせて開発していくためには、役割分担のはっきりした共同研究の形がとても有効だったと思います。開発担当の学生さんに授業に入ってもらい、様子や課題を担任と確認しながら具体的教材作りに反映させていくことができました。最初の頃にはぎこちなさもあり、製作にも時間がかかっていましたが、年数を重ねるに従い、どんどん展開していけるようになりました。学生さんは2年ぐらいで卒業していきますが、教員が慣れていくことによって、学生さんとの関係作りもスムーズになってくるように感じています。毎年うまく引き継ぎながら続けていけるようになればと思います。

ここで製作したICT教材は、教材共有ネットワークのサイトにてダウンロードできるようになっていますので、ご利用いただければと思います。

3. 地域支援ネットワークについて

今回の取り組みは、学校のセンター的機能やインクルーシブ教育に役立てるツールの一つとして、教材共有ネットワークを位置づけていくことをねらったものでした。地域の中にどのようなニーズがあり、どのような方法で支援していくことができるのかも分からないままのスタートであったために、いろいろ試しながら手探りで進めてきた印象です。

地域支援の対象として今回取り上げたのは、卒業生の進路先施設、特別支援学級、就学前施設で、それぞれにモデルを設定しました。

進路先のニーズとしては、身体のケアの方法やかかわり方、日常の活動の進め方などです。進路担当者と共に訪問していく中で現状を把握し、その情報をサイトの中にお役立ち情報としてアップロードしています。特別支援学級では、アセスメントチェックリストを活用し、課題設定から教材選択につながる一連のプロセスを踏まえた学習の進め方の検討ができました。頻繁に訪問することができなかったため、十分対応できなかった面もありますが、アセスメントチェックリストと組み合わせて教材データベースの利用方法を考えていくというスタイルが、具体的活用方法として分かりやすいと感じました。

就学前施設では、アセスメントチェックリストに基づく教材設定についても取り組みましたが、保護者の方から質問に答える研修会を開催することができ、就学前としてのニーズがわかってきました。そのほとんどが生活の具体的場面での対応方法に関するものでした。これについては、個々の状況により違いがあるため一概には言えませんが、参考となる対応方法をお役立ち情報のQ&Aとしてサイトに掲載することができました。

地域支援については、情報だけを提供して済むものではないと思いますが、せめて役に立ちそうな情報だけでも確認できるような環境も必要かと思いますので今後も取り組みを続けていきたいと思います。

4.公開研究発表会について

大規模な研究発表会となったために、準備段階から綿密に計画を立てて進めてきましたが、難しい点や混乱した部分も随分あったかなと思います。そんな中で学校全体が協力し合って実現できた研究発表会でした。その日のすべての授業を公開するということで、ほとんどの先生が公開授業に入ることになり、受付や案内の手が足りないという事態にも陥りました。機材の準備、イスやスリッパも足りなくて近くの学校から借りてきての対応でした。

公開授業と教材共有ネットワーク、ICTの活用に関する事項が発表の中心になりました。その中で、教材共有ネットワークに協力したいという学校が数校名乗り出てくれました。本当にありがたいことでここから先は他校との連携が大きな課題となってきます。早速連携を取り合ってネットワークを発展させていきたいと思います。

教材室の整備やアセスメントチェックリストについても共に取り組んでいきたいという意見が参加者からあり、それぞれの学校において取り組みをスタートさせていくようです。学校の中で進めていくのは決して容易ではありませんが、同じ思いを持つもの同士が情報交換をしながら、励まし合いながら取り組んでいけるとすれば大きな力になると思います。奈良養護のその輪の中でいっしょに取り組んでいければと考えています。

ページトップへ

 

2年間の取り組みと成果についての自己評価・感想

 

パナソニック教育財団の助成を受け、教材データベースから教材共有ネットワークへ、そして学校内から地域へとその取り組みは広がっていきました。特別指定研究の2年間はICTの活用だけでなく、その成果をいかに地域へ広げていくかという大きな命題と取り組んだ期間となりました。その必要性は理解しながらも具体的にどう進めていくかについてはまさに試行錯誤の連続でした。その中で多くの協力者と出会い支援を受けながら続けてこられたことが今回の成果として表れています。

当時、パナソニック特別指定研究アドバイザーの堀田博史先生をはじめ、文部科学省の特別支援教育調査官をされていた下山直人先生、現在調査官をされている分藤賢之先生、特別支援教育総合研究所の金森克浩先生、畿央大学の西端律子先生、東大阪大学短期大学部の太田和志先生、鴨谷真知子先生、大阪電気通信大学の森石峰一先生など、本当に支えとなって下さりました。教材共有ネットワークのようなものを作れたことも大きな成果だと思いますが、今回の取り組みを通して、これほど多くの方々と出会い、関係の輪を広げることができたこともかけがえのない成果だと思います。

結果を出して終わる研修ではありません。この2年間をかけてようやくスタートラインに立てたような研究です。これから一つずつ積み上げていくような活動が必要となります。それをいっしょに支えていってくれる仲間と出会えたこと、共に歩もうとしてくれる先生方と出会えたこと、これらがこれからの財産になります。

インターネット上に教材を中心とした発達支援のネットワークをつくろうと取り組んできました。その取り組みを支えているのは人と人のつながりであり、ネットワークです。2年間の取り組みを振り返ったとき、自分たちだけではできないこと、人とのつながりが不可能を可能にしていくことを体験の中から感じ取ることができました。これからもみんなで作り上げていく視点だけは見失わないように発展させていきたいと思います。

ページトップへ

 

今後の展開

 
すでに次のステップが始まっています。研究発表会に参加された先生方の何名かと学校単位での協力関係を築いていく話が進んでいます。具体的には、現在教材共有ネットワークは奈良養護学校が運営しているような表記となっていますが、その表記の中に協力校として学校名が増えていくことになります。
奈良県立奈良養護学校活動報告イメージ6

現在の表記はこのサイトが奈良養護学校のものというイメージを強く与えてしまうため、他の学校の先生が介入しにくい雰囲気があります。そこにいくつもの学校の名前が入っていくことにより、幅広く活用できるみんなものもというイメージに変わってくるのではないかと思っています。実際に各校の教材がアップされるようになり、情報交換が盛んになされるようになってくれば、敷居の高さも随分低くなっていくのではないかと思います。

3月末には、京都、大阪、滋賀、福井で「感覚と運動の高次化理論」の研修会が開催されます。そちらでも教材ネットワークやアセスメントチェックリストの使い方などを説明し活用していただけいるように進めていきたいと思っています。引き続き和歌山、三重、兵庫、岡山、鳥取などでの開催が決まっています。他にも今回の研究発表会に参加された先生のいる学校や地域から積極的にサイトの紹介と協力要請を続けていきたいと思っています。

フラッシュ教材については、iPadで使えるようにするための取り組みも始まっています。 3月末にはそのテスト使用が始まる予定で、その成果についても関係する学会の中で報告していく予定です。奈良養護学校の児童生徒の家庭でもiPadを使っている家が増えてきており学校で使っている教材を家でも使って楽しむことができるようになれば、さらに世界が広がっていくのではないかと思っています。

来年度の畿央大学との共同開発は、iPadのアプリケーションにつないでいくことを前庭に進めていく予定です。生活の中でタブレット端末を使うことにより広がる世界が存在するわけで、楽しみの中での選択肢の一つとして大きな役割を果たしていくことができると思います。今回取り組んだケースの生徒は、最初タブレット端末そのものを払いのけるように拒否していたのですが、大好きな人の写真が出てきたり、大好きなおにぎりの絵を使って遊んだりすることで、使って楽しむことができるようになりました。遊びたい意欲があれば操作は使っている内に覚えてきましたし、自分なりに工夫して動かしにくいものも動かせるようになりました。そういう部分に対応しようとするとWindowsベースの方がやりやすいかなと思います。

教材の共有という点では同じ奈良県の明日香養護学校との連携が進んできています。書式を揃えてデータベースとしてアップロードするための準備が始まっています。

これから先は、他校の先生や利用者の方の意見も取り入れながら、より使い安いものへと発展させていくことになると思います。来年の秋には、学苑社より教材共有ネットワークについての本が出版される予定です。特殊教育学会では、教材共有ネットワークの自主シンポジウムも開かれ、他のシンポジウムでも発表を依頼されています。ネットワークの広がりと共に人と人とのつながりも広がってきています。これからも多くの方々からの支援を受けながら、障害のある子どもたちの発達支援や生活支援に役立つネットワークサイト作りに取り組んでいきたいと思います。

ページトップへ

 
 

アドバイザーコメント

園田学園女子大学 教授 堀田 博史 先生

 

奈良県立奈良養護学校さんの2年間の特別研究指定校として活動が終わりました。研究課題「個々の発達課題に対応する教材データベースの構築とネットワーク化」に,サブ課題「インクルーシブ教育システムと学校のセンター的機能を踏まえて」を掲げ,具体的に以下の3つの目標を設定されました。

  • ① 教材データベースの充実と活用システムを構築する
  • ② ICT機器やデジタル教材を確かな学びを育む授業に生かしていく
  • ③ 実用的な地域支援ネットワークシステムを構築する

①教材データベースについては,プリント教材の活用が多いと分析されています。本期間(1~3月)にも,新たに28種類200ページを越えるデータをアップロードしたと報告があるように,ニーズに適した対応がなされているのが分かります。②ICT機器やデジタル教材については,自作のフラッシュ教材をiPad等のアプリとどのように繋げていくかの検討があります。授業設計の段階で,どのようなアプリが授業のねらい達成に役立つかをさらに明確にされると良いでしょう。③実用的な地域支援ネットワークについては,他校や他の施設からの情報発信が少ないことを課題にあげられています。2月7日(土)に開催された公開研究発表会で,参加者から教材共有ネットワークに協力したいと名乗りがあったように,最初は取り組みを広報できる研究会などへの参加機会を多く持つことが大切です。

研究課題「個々の発達課題に対応する教材データベースの構築とネットワーク化」は,奈良養護学校さんの校内では,当初の目的を達成され,教職員間の共通理解と協働が行われています。今後は,地域・他校との関係性をさらに強化され,研究が深まることを願っています。

ページトップへ

 
前へ
川崎市立平小学校の基本情報へ