実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

第37回特別研究指定校(活動期間:平成23〜24年)

鹿児島市立山下小学校の活動報告/平成23年度4月〜7月
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セールスポイント

「思考の錬磨」とは何か
 研究を進めていく上で,「思考が錬磨される。」ということが,具体的にどのような思考がどのような思考へと変化していくことなのかを明らかにしておくことが大切だと考えた。このことにより,研究を行う職員全員の「思考の錬磨」に対するイメージに対する偏差をなるべく少なくすることで,効率的で効果的な研究・実践ができるものと考えた。  
ICTを活用した職員研修
多様な教科・領域での実践
 思考の錬磨を図るために,ICT活用を図っていく上で,様々な可能性や特性について研究し,検証していくために,国語・算数といった用具系教科や,理科・社会のような内容教科,また,体育のような技能教科,道徳教育や特別支援教育に至るまで,多様な教科・領域において検証授業を行った。  
特別支援教育におけるICT活用

実践経過

4月 研究計画の確認
研究テーマについての共通理解と今後の研究の進め方について,全職員で話し合った。
 
   
5月
デジタルペンを活用した話合い活動
第1回検証授業
4年生の社会科「ゴミの処理と利用」
鹿児島市のごみ分別方法について,リサイクル率を高めるために,より細かにすべきか,否かについて,個人からグループへ,グループからクラス全員へと話し合いを深めていく過程において,デジタルペンを活用して,他のグループの考えや話し合いの過程をリアルタイムに電子黒板上に表示させることを通して,子どもたちにより多面的な視点から考えさせる授業実践を行った。
また,授業後,宮崎大学 新地辰朗先生から,今後の研究の方向性,思考に関わるICT活用についてのご指導をいただいた。
   
  第2回検証授業(国語・社会・算数・理科・体育・道徳・特別支援教育)
7教科・領域における検証授業を同日に一斉に行い,教科・領域の特性を考慮した授業実践を行い,その後,授業研究を行った。
   
6月 第3回〜第7回検証授業を実施
(この他,各教科・領域班ごとに1〜2回の検証授業を実施)
   
7月 第8回検証授業
6年 道徳 
主題「みんなのために責任を果たす喜び(役割と責任の自覚)」

この授業においては,子どもたちが,自分自身の責任を果たせているかを問い,それを個人端末機器(※「DS教室」利用)によるアンケート結果を円グラフで一覧表示することで,クラス全員の正直な気持ちを子どもたちが抵抗なく表現できるようにした。また,読み物資料については,挿絵,音声,BGMを統合させたプレゼンテーションを使って提示することで,子どもたちが一読して,読み物資料の内容について理解することができるようにした。これにより,授業後段に計画していた子ども一人一人が十分に,自分自身と向き合いながら熟考する時間を確保することができた。
 

成果と課題

 平成23年度〜平成24年度の二年間に渡る研究と実践のスタートとなった。
 「『思考の錬磨』とは何か」,「思考を見えるようにできるのか」,取り組み甲斐のある大きな研究課題である。それ故,テーマに対する全職員の共通理解が必要であった。しかしながら,この点においてもう少し,基本的な考え方の擦り合わせを行う必要があったことは否めない。どんな思考をどのように高めていくのか。そのために,ICT機器のどのような機能が,どんな場面で活用できるのかという視点をもちながら授業設計を行っていくことが,これからの課題となっている。

 その一方で,1学期において,全職員,一回ずつの検証授業(計18回)を行いながら,「思考の錬磨」に関わる部分を含めて,本校に整備されているICT機器の多様な活用の仕方について,様々な学習場面を通して確かめることができた。そして電子黒板活用を中心に,本校におけるICT活用は,既に日常化していることも確認できた。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

学校長自らが模擬授業!

 本年度,第1回の検証授業前に,学校長が自ら,職員研修の場で,職員を子どもに見立てた理科の模擬授業を行った。授業の冒頭で投げかけた問いを解決するために,ウェブ検索,静止画や動画の活用を通して,追究を進めていく授業であった。これにより,その後の検証授業に対するイメージを共有化する上でも,たいへん効果的であった。

新地先生によるご指導・ご助言による全体研修の活性化

 KJ法を活用して職員の多様な発想を引き出し,それを整理,集約する。校内におけるICT活用を支援するICG(ICT consulting group)の創設,実際にICT機器を使いながらの全職員での授業設計等,新地先生からのご助言,ご指導によって校内研修の在り方も変わりつつある。これにより,本テーマ研究だけでなく,全ての校内研修が,ワークショップを取り入れたり,演習を取り入れたりするなど,担当職員による工夫がそれぞれに見られるようになってきた。校内研修が,研修内容に関する「伝達」の場ではなく,共に考え,話し合う「協議」の場へと確かに高まりつつある。

解説と講評

コメント:宮崎大学 教授 新地辰朗 先生

教室での情報コミュニケーション技術(ICT)の活用に対して,多くを期待しがちですが,有効なICT活用とするには,教師に相応の力量が求められます。子どもたちの実態を捉えた授業構想力,児童の反応や理解状況に応じる柔軟な授業実践力が,ICT活用の効果を高めます。ICT活用をうまく実践している学校では,ベテラン教師を中心に,授業を語り合いながら,全員で授業力を向上させてゆく雰囲気がみられるのはうなずけます。

さて,山下小学校ですが,比較的若くて,しかも力量に優れた先生方が集まっておられるように感じています。2年間取り組まれる「思考の練磨」において,授業づくりや学習活動の工夫を通して,先生方が何を発見されてゆくのか楽しみです。校内研修の在り方や進め方に変化がみられつつあるのは,教育の専門家集団としての熱意と上林房校長のリーダーシップによるものだと察しています。先生方のICT活用を支援するコンサルテーショングループの設置もユニークだと思います。

次に,2年間に及ぶ研究指定であることに留意して,研究の方向性を考えてみたいと思います。“教授”“学習”に関わる多くの研究者や先生方により,永く探求されてきたテーマの一つが「思考」でしょう。「思考」については,様々な観点から語り得るため,視座を定めることなく取り組むと,研究の一貫性確保や評価が難しくなります。現代社会でたくましく生きてゆく力に機能するような思考なのか?,教科の内容理解を深めたり発展させたりする思考なのか?,両者を相乗させる思考なのか?・・・明確に定めることも,教師の力量と言えるでしょう。その後,山下小学校のレポートにあるような可視化を目指すなら,可視化する内容やその利用法が定まり,結果を全教員で議論できることになります。「思考」・「思考の練磨」;とっても魅力的なキーワードが,“山下の教育”活動に,しっかり結びつき,保護者からも共感を得る研究となることを願います。

歴史ある“山下の教育”が,さらに深まる2年間にご一緒できる機会に感謝します。

 
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