実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

4年間、研究授業と検討会を積み重ね、全国トップレベルのICT活用校へと大躍進 ―大阪府守口市立橋波小学校

新学習指導要領で育成を重視されている「思考力・判断力・表現力」を伸ばすのに、パソコンやデジタルカメラなどのICT(情報通信技術)が有効なのではないか。そんな仮説をもとに、2009年からパナソニック教育財団の実践研究助成を受け、いまや全国でもトップレベルの「ICT活用校」へと成長した大阪府守口市立橋波小学校。

4年にわたって研究授業に取り組んできた橋波小学校に、具体的な取り組み内容と成果を聞きました。さらに、その取り組みのどういった点が評価できるのか、アドバイザーを務めた兵庫教育大学大学院の永田智子准教授に解説をお願いしました。

(この記事は、2013年8月5日に開催されたICT活用教育フォーラム2013の発表内容を編集しました。)


目標は活用型学力
「思考力・判断力・表現力」の育成

全教員がICT機器と向き合う

守口市立橋波小学校
山中圭輔 教諭

山中 新学習指導要領では児童に生きる力を育み、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で「思考力・判断力・表現力」等の能力を育成することが求められています。

つまり、基礎的・基本的な知識及び技能の修得と同時に、行動に生かせる思考力や判断力、そしてそれを人に伝達する表現力を養うことが大切だというわけです。

橋波小学校では、「思考力・判断力・表現力」といった活用型学力をバランスよく育成するには、従来の授業形態だけに頼らず、ICT機器を活用していくことが有効なのではないかと考え、その前提のもとで研究を進めてきました。

2009年から2年にわたってパナソニック教育財団の実践研究助成(一般)を受けた後、特別研究指定校として2年間の助成をいただき、「多様な教科・領域における活用型学力の育成~電子黒板やタブレットPCなどを用いた活用型学習の実践事例の創造~」というテーマで研究に取り組んできました。

2009年、橋波小学校に初めてのICT機器としてプロジェクターが入ってきたときは、とにかく「全教員がこの機器を使ってみる」という目標を掲げて、研究に取り組みました。

最初の1年間は課題が山積みでした。プロジェクターも学年に1台しかなかったので、授業のたびによそのクラスから借りてきては、接続をやり直さなければいけませんでした。

そこでもう1年、実践研究助成を受け、全クラスに実物投影機を配備した上でデジタルカメラ30台を購入しました。さらに、文部科学省の「学校ICT環境整備事業」を活用したことで1~4年の全クラスに50型デジタルテレビ、高学年の全クラスに電子黒板が整備されました。機器の充実により、2年目の研究は飛躍的に発展しました。

次の2年間は特別研究指定校として助成をいただき、1~4年の全クラスに電子黒板ユニットを購入しました。さらに、総務省の「地域雇用創造ICT絆プロジェクト(教育情報化事業)」に守口市が採択され、その対象校として、お隣の三郷小学校と共に橋波小学校が選ばれました。これによって4~6年生の各クラスにタブレットPCが導入されました。

課題の難易度を徐々にステップアップ

アドバイザー
兵庫教育大学大学院
永田智子 准教授

永田 橋波小学校は外部資金を有効活用して学習環境を整備しつつ、全教員によるICT活用・研修を計画的・段階的に進めていかれました。そのプロセスそのものが、他校がICT環境と活用の充実を目指す際の参考となるはずです。

そして4年間の研究の進め方が、またすばらしいんですよね。「授業力アップのICT活用」から「児童のICT活用」、「教員の活用型学習指導」を経て「児童がICT活用を行った活用型学習」へと、徐々に難易度の高い課題に取り組み、それを実現してこられました。

ICTを使って、わかりやすい授業を実現するところまでは比較的取り組みやすいのですが、子どもたちにICTを活用させ、なおかつ、それが習得型ではなく活用型学習になるよう指導するのは思った以上にハードルが高いんです。

しかも、これを1人とか数人のスーパーティーチャーだけで取り組んだのではなく、全教員で実現されている点が非常にすばらしいと思いました。


児童自身の手による機器の活用

ICTがもたらす3つの効果

山中 橋波小学校が特別研究指定校として研究助成を受けた2年の間に取り組んだ具体的な研究内容をご紹介します。

まずは「活用型授業とICT機器の融合」です。ICT活用には「3つの効果」があることがわかってきました。

①小さなものを大きく映してポイントを説明することによって、子どもたちの意欲や集中力を高める「基礎的効果

②試行錯誤や交流を通して子どもの思考力・表現力を引き出す「本質的効果

③子どもたちが自分で学習する「自学自習」のツールとして役立つ「副次的効果

橋波小学校では、新学習指導要領にも掲げられている子どもたちの「思考力・判断力・表現力」を育成するために、②の「本質的効果」に的を絞って研究を進めてきました。

植物の観察記録から絵画の鑑賞まで

山中 教員が児童にわかりやすく説明を行うツールとしてだけではなく、「子どもたち自身がICT機器を使う」ようにすれば、思考力・判断力・表現力はもっと伸びるのではないか。

そう考えた私たちは、さっそく授業で実践しました。

たとえば4年生の音楽では、歌っている様子を子どもたち自身がデジタルカメラで撮影し、タブレットPCを活用して動画を見ながら、もっと上手に歌うにはどうすればよいか改善点を考えました。

同じく4年生の理科の授業では、子どもたち自身がデジタルカメラを手に学年園へと繰り出しました。ヘチマ、ヒョウタン、ゴーヤ、ヒマワリの写真を撮り、成長の様子をタブレットPCの「コラボノート」というソフトを使って記録しました。さらに、気温をエクセルで表にし、気温と植物の成長との間にどんな関係があるのかを検証する授業を行いました。

6年生の図工の時間には、ピカソ作の『ゲルニカ』を鑑賞し、作品の表し方や特徴などをグループで話し合いました。タブレットPCに「Windows Journal」を使って『ゲルニカ』を取り込み、見つけたことや感じたことを直接記入できるようにしました。タブレットPCに記入した内容は電子黒板に映し、グループごとに発表をしてもらいました。「平和」に対する児童一人一人の思いや考えを伝え合う、充実した授業と なりました。

子どもたちの学習に対する意欲が高まったことで授業中の発表も増え、活用型授業を行う上でICT機器は効果的であることがわかりました。

授業前・後の検討を重ね、次の実践へつなげる

永田 研究テーマに迫るために、橋波小学校では教員の皆さんがさまざまな工夫をしてこられました。研究授業の前には、校内研究推進部が中心となって「事前検討会」をしっかり行うことで、研究テーマからはずれない効果のある授業プランを練り、実践することができました。

また、研究授業後の「参加型討議会」はワークショップ形式にすることで、全員が主体的に参加できました。討議会では、児童の使用しているタブレットPCなどのICT機器を教員自身が使いながら、成果と課題を話し合いました。こうすることで教員のICT活用スキルも向上し、授業で実際に使用する際のイメージもつかみやすくなりました。

さらには、全教科・領域での「実践報告会」を学期ごとに実施してこられました。これにより、特別に検討した研究授業だけでなく、普段の授業をするときも研究テーマについて考え、実践するようになりました。ほかの教科・領域・学年の取り組みを知ることは、次の実践へとつながる刺激や参考にもなることでしょう。


過去の検証とまとめ

4年間で199もの事例を蓄積

山中 教員にはそれぞれ得意な教科があると思うのですが、後半の2年間はそれまで取り組んだことのない「違う教科にチャレンジ」してもらいました。その結果、活用型学力向上のために、ICT機器の使用が効果的に働く教科とそうでない教科が整理でき、活用型授業を行う教科の幅が広がりました。

そう考えた私たちは、さっそく授業で実践しました。

研究授業はただ行うだけでなく、実践報告会で振り返りの時間を設けました。そのために、タブレットPCの「コラボノート」を使って「検証ワークシート」を作成しました。授業スタイル(習得型・活用型・探求型)やICTの利用目的、効果などを一覧にしたもので、これを使って、研究授業が本当に活用型授業になっていたのか、ICT機器が効果的に活用されたのか、本質的効果が表れていたのかといった点をグループで協議しながら検証しました。

4年の間に、合計すると199もの授業実践に取り組むことができました。その内容は1年ごとに研究冊子『実践事例集』としてまとめました。これは単元の流れ、目標(ねらい)、授業の様子(写真)、ICT活用のポイントなどを載せた「場面集」で、橋波小学校の教員だけでなく市内の小中学校にも配布しました。

実践事例は報告に終わらせず形に残す

永田 1年間に取り組んだ実践を年度末に事例集としてまとめるというのは、いい考えですね。1年間に数回行われる研究授業に加え、学期ごとに報告してもらった実践事例を単なる報告だけで終わらせてしまうのは、もったいない話です。

研究授業をするとなると、とかく新しいことをしなければと思うあまり、本質からずれた授業をしてしまうことがあります。それよりは過去の実践の真似でもかまわないので、本質的な授業をしたほうが子どもたちのためになります。

冊子にまとめておけば、これまでの取り組みを参考にして次の実践を考えることが容易になります。それに、紙面に残るとなれば、実践や事例報告をいい加減なものにはできないという、いい意味でのプレッシャーにもなるかもしれません。


今後の課題と展望

教員が入れ替わる中での継続と発展

山中 橋波小学校の全児童に、ICT機器の活用についてアンケートを実施したところ、8割近くの児童が「考える活動や表現する活動をする上でICTを活用したほうがよい」と答えています。

同時に、4年間の研究助成を通して課題も見えてきました。環境面でいえば、子どもたちの学年が上がり、教室配置も変わる中でタブレットPCの保管庫を移動させたり、無線LANの設定をし直したりしなければならないというハード面の問題が浮上してきました。また指導面では、教員が入れ替わる中で、どのように指導力を向上させていくかが課題となっています。

特に教員の入れ替わりが激しかった本年度は、ここまで取り組んできた研究をいかに継続・発展させていくかが問われています。4月には、新転任の先生や初めてPCタブレットを使う先生、もう1度おさらいしたい先生を対象に「基本的なICT機器の使い方」研修を実施しました。

そして5月には、活用型授業にICT機器をどのように採り入れたらいいかを提案する模擬授業を行いました。2学期以降は数多くの授業を実践し、今年も研究を大いに発展させていけたらと思っています。

できることから少しずつ導入する

永田 橋波小学校が4年の間に取り組んだ事前検討会、参加型討議会、実践報告会、『実践事例集』という4つの工夫はそれぞれが独立したものではなく、有機的にからみ合うことで、より高い効果を発揮したものと考えられます。これらは橋波小学校でなければできないものではありませんが、簡単に真似できることでもありません。

これからICTの活用をお考えの皆さんは、無理して1度にすべてを導入するのではなく、自分たちの学校の実情に応じて、できるところから少しずつ採り入れてみてはいかがでしょうか。

関連情報

▽[特別研究指定校]守口市立橋波小学校の活動報告

http://www.pef.or.jp/01_jissen/07_katudou/a07_report_h23_2.html

▽成果報告会「ICT活用教育フォーラム2013」での成果発表

http://www.pef.or.jp/25_forum/report/part_1/1_hashiba.html

▽動画 成果報告会「ICT活用教育フォーラム2013」での成果発表

https://www.youtube.com/watch?v=f19erjByFac&feature=youtu.be

▽研究成果報告書「多様な教科・領域における活用型学力の育成 ~電子黒板やタブレットPCなどを用いた活用型学習の実践事例の創造~」

http://www.pef.or.jp/db/pdf/2011/2011_75.pdf

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