実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に関する助成制度)実践研究助成(初等中等教育現場の実践的な研究に対する助成制度)

活動情報/第35回特別研究指定校活動情報/第35回特別研究指定校

横浜市立本荘小学校の活動報告/平成21年度8月〜12月
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セールスポイント

電子黒板・実物投影機等ICT機器の拡充

 既存の視聴覚室スマートインフィル、50インチ電子黒板の7月までの活用状況を踏まえ、電子黒板3台+実物投影機5台の追加導入を実施した。これにより、電子黒板は3〜6年に1台ずつ、実物投影機は全学年に1台の配置となり、活用の可能性が広がり、後述の全国大会での活用へとつながった。
 更に、補正予算による電子黒板への転用が可能な大型ディスプレイ・パソコン等の配当が1月に行われることとなり、1月からのICT機器環境は当初の予定以上のものとなることが決まった。これらのことにより、「人間力育成」というテーマに迫るためのICT活用への下地が整ったといえる。

社会科全国大会研究テーマを受けたICT活用の実践

 11月13日「全国小学校社会科研究協議会神奈川大会」の第2会場として授業公開を行い、当日参加者650名以上を迎えた。本校は、「自分づくり」「ともにかかわり合う」という「人間力」の育成に関わる研究テーマで、社会科・生活科・生活単元学習の授業公開を全学級が行ったが、その中で6学級がICT活用(スマートインフィル1、電子黒板3、大型モニタ2)を含めた提案授業を行った。社会科の全国大会であったため、ICT活用として単独での研究会はもたなかったが、分科会においてICT活用の効果についての意見もあった。

自分づくり→人間力育成のための視点へのICT活用の位置づけ

 社会科において自分づくりをすすめる子を育成するために、「かかわり合う力を育てる働きかけ」という視点を設定した。この働きかけの一つとしてICTの活用を意識した授業実践を試行してきた。これは「コミュニケーション能力を高めるためのICTの活用」とも言い換えることができた。そこでは、大きく2つの活用方法、(1)児童の話し合い活動が活性化するような資料・教材を教師が提示する場面、(2)児童が自分の考えを表現する手段として実物投影機を活用する場面、という方向性が見えてきた。このことにより、社会科の教科研究を深め、児童の学習の質を高めることができた。

実践経過

8月 9月以降の研究の確認・発表会指導案検討
  • 11月全小社大会でのICT活用の可能性について検討
  • 機器操作説明会・購入物品の再検討
  • 学年体制としての機器配当計画の再確認
9月 助成金での購入物品の導入・授業研究会
  • 10月授業研究会と11月研究発表会の指導案検討
  • 電子黒板・実物投影機等の設置設定・試行授業開始
10月 校内授業研究会を通してICT活用の実際について検討
  • 4、5、6年でのICTを活用した社会科授業について研究会(15日)
  • 国語科デジタル教科書の全学年活用開始
  • 算数科少人数学習でのスマートインフィル活用の常時化
11月 全国小学校社会科研究協議会授業公開+ICT活用研究
  • 社会科・生活科・生活単元学習授業でのICT活用の最終検討
  • 発表会当日の使用機器確認と不足物品のレンタル手配
  • 全国小学校社会科研究協議会授業公開で6学級のICT活用公開(13日)
    (外部講師による訪問アドバイス…野中准教授+パナソニック教育財団担当者)
12月 今後の研究体制の確認
  • 推進委員による実践体制の確認。全体会での説明
  • 補正予算による教育委員会配当機材の到着・設定開始
  • 次年度研究を見据えた2月授業研究会の持ち方の検討
 

成果と課題

●成果
  • 研究の第二段階として、11月13日の全国発表会で、「自分づくり」→「人間力の育成」をめざした社会科・生活科・生活単元学習の実践研究の一環としてICT活用ができる場面を検討し、6実践を公開することができた。
  • 650名を超える参会者に社会科研究の中に自然に位置づけられたICT活用の様子を公開することができた。
  • 社会科の研究内容「かかわり合う力を育てる働きかけ」という視点に応じたICTの活用を検討し、(1)児童の話し合い活動が活性化するような資料・教材を教師が提示する場面、(2)児童が自分の考えを表現する手段として実物投影機を活用する場面、という方向性が見えてきた。
  • スクールニューディール計画による機器追加配当が1月に実施されることに伴って、本研究助成金の使途再検討を行った。その結果、本研究の助成金により、電子黒板やパソコン・プリンタの追加購入などを行い、電子黒板活用をこれまでの1階スマートインフィルだけでなく、2〜4階の各教室においても実践できるようにした。
  • 「人間力の育成」の成果として現れる児童の姿について、活発な意見交換の姿とその意見の絡み合いなどが見えてきた。
●課題
  • 実物投影機と大型ディスプレイによるICT活用実践は、機器の拡充に伴って増えてきた。しかし、電子黒板機能を活用した実践は、ハードルが一段高いようで、パソコン操作に堪能な数名の教師による実践に偏ってしまった。これは、台数が増えたとはいえ、いつでも簡単に自分の教室で活用することが困難であることが原因とも考えられる。機器拡充とともに、教職員研修等も進めことが必要となっている。
  • 「人間力の育成」の成果として児童の言動をリスト化することを目指して質問紙調査を行う計画を立てた。しかし、数値では測れない部分が大きいことがわかり、発言分析等の方法へと方針変更した。ただ、今後も「数値・文章化」の可能性について検討していく必要がある。
 

裏話(嬉しかったこと、苦心談、失敗談 など)

 11月13日の研究発表会は、「社会科」の全国大会となっていた。社会科研究としての本質を損なうことなく、ICT活用の効果によって「人間力を高める」ことが求められたが、最初から2つが揃った実践を目指すことは得策ではない。まずは、社会科を中心として「授業」を高めることをめざし、国語科や算数科を中心とした日常的に「ICT活用」を行う環境を構築することを続けた。
 社会科の指導案もほぼ完成した9月。ようやくICT活用を予定している学級を調査したところ、すでに7学級が予定したので、電子黒板1台をレンタル手配することとなった。それでも機器の関係から1学級にはあきらめてもらわなければならず、正にうれしい悲鳴であった。
 発表会は社会科の全国大会であったため、ICTの分科会をもつことができず、苦肉の策として、昼食時間帯の体育館で、ICT活用の様子を紹介するプレゼンテーションを行った。視聴された方は全参会者650名中の300名程度であろうが、かなりのPRはできたものと自負している。
 発表会が終わり、次年度計画を検討し始めた12月上旬。止まっていたスクールニューディールによるICT機器配当が動き出した。12〜1月にかけて、パソコン60台、50インチディスプレイ26台、実物投影機9台、電子黒板1台・・・今まで「使用簿」や「予約表」で機器のやり繰りをしていたのが嘘のような環境が構築される。しかし、それらの配当計画や学校独自設定などは誰がやるのだろうか・・・これもうれしい悲鳴・・・当たり前のICTがあってこその「人間力育成研究」がスタートする。
 

解説と講評

コメント:横浜国立大学 准教授 野中陽一 先生

 立野小学校では、学校教育目標を達成するために、「ともにかかわり合いながら自分づくりをすすめる子の育成」という研究テーマを設定し、「かかわり合う力を育てる働きかけ」の1つの手段として、ICT活用に取り組んでいる。
 このアプローチは、先にすべての普通教室のICT環境整備を行い、ICT活用の日常化を実現するという方法とは異なっている。社会科の研究を通して、「かかわり合う力を育てる働きかけ」にICTを活用することを試み、有効に活用できる以下の2つの場面を見いだすという過程を経ているからである。

    1. 児童の話し合い活動が活性化するような資料・教材を教師が提示する場面
    2. 児童が自分の考えを表現する手段として実物投影機を活用する場面

 最初は研究授業レベルでの活用が中心であったが、徐々に活用する教師が増え、活用の機会が増えていった。校内で頻繁に行われている授業研究の場で、ICT活用の実際を見て学び、活用場面での子どもたちの様子からその効果を実感することができた結果であろう。
 「全国小学校社会科研究協議会神奈川大会」で公開された授業では、教師の発問や子どもたちの発言、それらを構造的にまとめた板書や、教室内のこれまでの学びに関するに掲示物、教材、資料が目立ち、ICTは脇役であった。しかし、それで良いのである。文部科学省「教育の情報化の手引」3章に、「ICTそのものが児童生徒の学力を向上させるのではなく,ICT活用が教員の指導力に組み込まれることによって児童生徒の学力向上につながる」という一節がある。授業研究を通して培われた授業力に徐々にICTの活用が組み込まれていく過程を参観者に見ていただくことができたのではないかと思っている。
 向上目標である『自分づくり→人間力育成』は、一時間、一単元、一教科の取り組みで実現できるものではない。学校におけるすべての教育活動において、常に意識して指導することが必要である。社会科での研究成果を活かし、教育活動全般において、補正予算によって導入される大型デジタルテレビや実物投影機、電子黒板の活用が浸透していくことになる。
 そして、ICT活用が日常化していく過程で、1、2の場面だけでなく、さらに活用場面は広がっていくに違いない。このような立野小学校の取り組みは、多くの学校で行われている教科指導の研究にICT活用を結びつけるアプローチとして参考になるだろう。
 課題としてあげられている「人間力の育成」の成果をどのように示すかについては、計画段階から客観的な評価は難しいことが懸念されていた。発言分析や行動分析から事例を積み上げるという方向で考えたい。
 電子黒板の機能については、「かかわり合う力を育てる働きかけ」に特定の機能が有効であるという実感を教師がもてなければ、無理に活用する必要はない。電子黒板を、大型ディスプレイとして活用しすることを定着させることが先であろう。
 
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